No.562137

真・恋姫†無双 想伝 ~魏†残想~ 其ノ九


特に語ることはありません。
少し冒頭部分があっさりな気もしますが、これは仕方が無いかな、と。

軍と軍の戦いではなく、さらに一刀達には追撃できるだけの余力はありませんからねー。そんな感じで、どうぞ。

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2013-04-03 02:15:25 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:11141   閲覧ユーザー数:7668

 

 

 

 

 

「なんとかなった、か」

 

 

皆に続き街に帰還し、生き残った仲間全員が街に入ったのを確認して、今日初めて安堵の息を吐く。

 

怪我人、死人。どちらも少なくは無い。だが、勝った。

 

 

逃げた黄巾党の追撃戦を、結果的に義勇軍に任せる形になってしまったのが少しだけ心苦しかった。

 

しかし現実的な問題として、今の自分達にはそこまでの力は無い。

 

俺達というか、率いていた皆は正規軍ではない。ましてや義勇軍ですらないのだ。

 

心苦しいとはいえ、撤退の命令を出したのを間違った判断とは思わない。思ってはならない。

 

 

目先の勝利に囚われて、当初の目的を忘れてはいけない。

俺達の目的はあくまで“黄巾党から街を護ること”。敵を殲滅することではない。

 

もっとも、殲滅できればそれに越したことはないのだが。

 

 

 

怪我人の手当てが始まった街の中を一人進んでいく。

周囲を見れば、初めてこの街に来た時と同じような光景。

 

しかし、決定的に違うのが、皆の表情だった。

勝利を実感しているのか、街の民の表情は晴れやかにすら見える。

 

もちろん仲間や友、家族を亡くして悲しみに暮れている者もいる。

だが、その表情の中には悲しみだけがあるってわけじゃない。それが少し、救いだった。

 

 

「一刀おにいちゃーん!!」

 

 

「ん?おおっと!」

 

 

突然、突撃してきた小さい身体を受け止める。

まあ、いつも通りというか、そんなアクションを起こすのは璃々しかいない。

 

血塗れの外套を脱いで置いて良かった、と人知れず嘆息した。

同時に“単純な話、制服を脱げばよかったんじゃね?”と今更ながらに思ったが。

 

 

「一刀おにいちゃん、ケガしてない?」

 

「ああ、大丈夫だよ。ちょっと切り傷とかはあるかもだけど」

 

「あ、ホントだ!お顔にちっちゃい傷がある!」

 

「ん?でもこんなの掠り傷だからな。できれば他の人の手当てとかしてくれると有り難い」

 

「う~ん……わかった!」

 

「ああ、頼むよ。良い子だな、璃々は」

 

「えへへ……じゃあ一刀おにいちゃんには――」

 

 

突然、頬に柔らかな感触が触れた。

 

視界に入る紫の髪。すぐに紫の髪は離れていったが、頬に何かの柔らかな感触だけは残った。

 

 

「たぶんこれで治るよ!いつも璃々がケガするとね、お母さんがしてくれるんだ!」

 

「……」

 

 

何と言うか、言葉が出てこなかった。

 

 

そのまま離れ、駆けて行く璃々。

 

 

「あらあら、あの子ったら」

 

 

その背を眼で追う俺の耳に、少しだけ愉快そうな声が届いた。

 

振り返ると、案の定そこには黄忠が。戦の後だというのに、いつもと変わらず優雅に歩き来るその姿には感銘すら覚えた。

 

やはり、戦場に立った経験がそうさせているのだろうか。

 

 

「お帰りなさい、一刀さん。無事で何よりです」

 

「……ん、ああ。黄忠もな」

 

「さすがに無傷、といったわけではないみたいですね」

 

「まあな、先陣に立って戦に臨んだのはこれが初めてだし、特別強いわけでもない。死ななかっただけ御の字だよ」

 

「もしよろしければ、私も璃々と同じことをしても?」

 

「あー……はは。そいつはさすがに勘弁してくれ」

 

 

璃々の唇が頬に触れたのは驚いただけで済んだが、さすがに黄忠相手は洒落にならないだろう。

 

その端正な顔立ちもそうだが、そこまで密着されるとあの大きい二つの塊が否が応にも触れるだろう。

 

そうなってしまえば正直、自分を抑えきれる自信が無い。なんというか、情けない話だが。

 

 

「……初めてでしたか?」

 

「え?」

 

 

何を聞かれているのかはなんとなく分かった。

冷静に考えることが出来る今、それをあまり考えていたくないことも。

 

 

「人を、殺めるのは」

 

 

それを思考の片隅にやってしまうのは簡単だ。

でも、受け止めなければならない。その機会を、黄忠は作ってくれた。

 

 

「……直接は、ね。でもまあ」

 

 

今までとは違い、間接的ではなくなった。人を殺めるという、本来は忌むべき罪。

 

 

未だ、手に残る感触。

それは残さなきゃいけない感触。消してはいけない、忘れてはいけない感触だ。

 

だからこそ今は

 

 

 

「――俺は大丈夫だからさ」

 

 

 

笑って、虚勢を張った。

 

それをいつか、真実に変えることの出来るように。

 

 

 

「だから、ありがとうな、黄忠」

 

 

 

黄忠の、少し痛ましさの混じった笑い顔。

悟られていてもいい。それでも俺の心は変わらない。変わることは出来ない。変わってはいけない。

 

 

「あの……お取り込み中のところ申し訳ありません。明らかに水を刺しているのは分かっているのですが、少々お時間を頂けますでしょうか?」

 

 

唐突に、背後から声が掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

振り返ると、そこには黒髪の青年が立っていた。

歳は……俺と同じくらいだろうか。黒い髪を適当な長さまで伸ばしている。

 

 

着ている服が黒を基調としている所為か、物腰と相まって不思議と執事のように見えてしまう始末だった。

 

 

しかし腰には不思議な形状をした剣。あれは多分、双刃剣とか言う武器だ。

それだけを見ても、街の人間では無いことが分かる。極めつけはその黒い服。

 

そこまで考えて、彼の素性に思い当たった。

 

 

「もしかして、義勇軍の人?」

 

「はい。察していただけたようで何よりです」

 

 

笑顔でそう切り返す青年に、頭を下げた。

 

 

「ありがとう。貴方達が黄巾党を相手取っていなかったら俺達も出陣の決断が出来なかった。しかし、それでも出陣が遅れたことは事実だ。ここに、謝罪と感謝を申し上げる」

 

「……」

 

 

顔を上げると、何故か呆気に取られている青年。

 

それを凝視してしまったからだろうか、青年は自分が少しの間停止していたことに気付いて、申し訳なさそうな表情をした。

 

 

「あ、いえ……申し訳ありません。今までも同じように、街を助けたことはあったのですが、その殆どで慇懃無礼な対応をされましたので。実際、このような丁寧な感謝をされたのはこれが初めてです。なので少々驚いたというか……」

 

「そりゃ酷い話だな。せめて、それぐらいは最低限の礼儀だろうに」

 

「ええ、まったく。大きな街ほどその傾向が強いようで。それにこの街の太守殿は噂で、些か性格に難有り、と聞いていましたので。正直驚きました」

 

「ん?」

 

 

よく分からない台詞に疑問の声を上げてしまう。しかし青年は気付かず続ける。

 

 

「まさかここまで礼儀正しく、しっかりとした価値観をお持ちの方だとは。噂など、当てにならないものですね」

 

「えーと……」

 

 

青年の言っている事を徐々に理解する。なるほど、つまりは

 

 

「もしかして……一刀さんを太守と勘違いなさっているのでは?」

 

 

耳打ちしてきた黄忠の言う通りだろう。

なんかガッカリさせるのは気が引けるなあ……良い人っぽいだけに、尚更。

 

 

「あ」

 

 

ふと、耳元の黄忠が声を上げた。

吐息が耳に当たる。色々とまずい気がするのだが、これは。主に理性が。

 

 

「一刀さん、実は――」

 

 

耳打ちされるひとつの事柄。

言い難そうに、しかし声を潜めて教えてくれた黄忠の配慮は有り難かった。

 

しかしまあ、これは流石に

 

 

 

「太守が逃げただぁ!?」

 

 

 

こればっかりはどうしようもなかった。

 

「本当に街捨てて逃げやがったのかよ、あのクソ太守……」

 

 

怒りを通り越して呆れるしかなかった。手で顔を覆う。

あの野郎……もう二、三発殴っとけばよかったか、失敗した。

 

 

「あの、失礼ですが」

 

 

どこか遠慮がちに、青年が話し掛けてきた。

青年に向き直り、頬を掻きながら口を開く。うん、とても言い辛い。

 

 

「ああ、悪い。聞いた通りだ。俺はここの太守じゃない。んで、噂が正しかったってことだよ。残念ながら太守は逃げやがった」

 

 

肩を竦め、そう告げる。

 

 

「そうですか……しかし解せません。では貴方は?先ほどの戦では先陣を切っていたように見受けられましたが」

 

「俺は……なんだろうな?」

 

 

今はもう警備隊長では無い。もちろん『数え役満姉妹』のマネージャーでも無い。

 

だからと言って天の御遣いでも無い。言うなれば俺はただの北郷一刀だ。

 

 

――と、そこまで考えてふと、名乗っていなかったことと名乗られていなかったことに気付いた。

 

 

青年もほぼ同時に同じ考えに至ったのか、小さく声を上げる。

そして俺と彼、気付いた事柄を口にしたのは彼の方が速かった。

 

 

「すみません。尋ねるのならばまずこちらから、ですね。それが礼儀と言うものです。私は李通、と申します。この義勇軍にて副官を務めている者です」

 

 

青年――李通は礼儀正しく、正に執事のように胸に手を当て軽く一礼をした。

 

しかし、それを聞いて二つの疑問が浮かぶ。

 

 

「李通……?さっき戦場で聞こえた時は“吉利”って名乗ってなかったか?それと副官ってことは大将は――」

 

 

質問を口にし、その自分が口にした内容に引っ掛かりを覚えた。

“吉利”その名をどこかで、眼にしたような気がする。確かあれは現代で――

 

 

途中で止まった質問に困惑の表情を浮かべる李通だったが、取り敢えずは聞かれたことに答えよう、と口を開く。

 

 

「あれは私の名ではありません。この義勇軍を率いる、我が主――お嬢様の名です。お嬢様は敵の将を討ち取っても名乗りを上げませんので、代わりに私がそれを口にして周りに知らしめているわけでして。それと、もうひとつ。私のような凡俗な人間にこの規模の軍は扱いきれませんよ」

 

 

そんなことを笑顔で語る李通。

なんかもの凄く自己評価の低い人だな、と思考の片隅で思った。

 

 

と、同時に自分が名乗っていないことも思い出した。

自己紹介なんて、そんな日常的することじゃないしな。危ない危ない。

 

 

「すまない、自己紹介が遅れた。俺の名は北郷。一応、逃げた太守から街の全権を任されてた」

 

 

街の全権とは言っても、太守にとってはただの雑用係にしか過ぎなかっただろう。

とはいえ俺自身、そう思われていることを自覚していたので特に問題は無かった。

 

しかし

 

 

「ほん……ごう?」

 

「ああ、ちょっと変わった名前だろ?つっても――」

 

「ほんごう……かずと?」

 

「――は?」

 

 

李通の呟きに、耳を疑った。

俺は今、所謂名字しか教えなかった筈だ。なのに何故?なんで俺の名前を知ってる?

 

 

「……貴方の名は、北郷一刀殿というのですか?」

 

「あ、ああ」

 

 

聞き間違いではない。

李通は、はっきりと俺の姓名を口にし、問い掛けてきた。

 

困惑しているような、それでいて未だ何かを量り兼ねているかのような表情。

しばらくそのままで俺の顔を凝視していた李通。ふいにその表情がふっ、と緩んだ。

 

 

「――話に聞いていた通りの御方のようだ。では、お嬢様はやっと巡り会えたと……そういうことなのですね」

 

 

感慨深げに呟く、李通の背後。

なぜだろう。その背後から、誰かが近付いてくる気配を感じた。

 

俺みたいな俄かが気配なんてものを日常的に感じ取れるわけがない。

もし感じ取れたとしても、それは異常なほど周囲に向けて気を張っている時ぐらいだ。

 

だが、今この時だけは分かった。上手くは言い表せないが、分かったのだ。

 

 

 

 

 

 

静寂。民の話声が少しと、風の音しか聞こえない中、ひとつの足音だけが響く。

 

 

――今の自分に胸を張り、少しの不安も胸に歩を進める。

 

 

徐々に近付いてくる足音と気配。

 

 

――明確には言い表せないけれど分かる気配。待ち望んでいた人、待ち続けた存在の気配。

 

 

自信に満ち溢れたその迷いの無い足音は、ただ懐かしく、頼もしく、愛おしい。

 

 

――視線の先には、李通。私の副官であり家族でもある者の黒い背中。

 

 

足音が近付いてくるのは、李通の向こう側から。

計ったようにその身体が壁になり、背後は窺がい知れない。

 

 

――最後の障害。李通が横へと身を引く。

 

 

俺と音との間を遮っていた李通が、横に身を引いた。

 

 

お互いを視界に捉え――瞬間、二人は呼吸を忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ――」

 

 

 

一人の少女が、立っていた。

 

 

 

しかしその姿は、記憶にあるものと違った。

 

 

美しい金髪の代わりに、艶やかな黒髪。

紺と紫を基調とした服の代わりに、白と黒が使われ、特に黒を基調とした服。

そして何より、その眼。透き通るような碧い瞳が、美しい緋色へと変わっていた。

 

 

だが、それでも彼女は彼女だった。それだけは自信を持って言える。

理屈では無い。変な言い方になるかもしれないし、論理性など皆無だ。

 

 

言うなれば、ただ『魂』で感じた。

俺の知っている彼女だと。俺が愛した彼女だと。俺が会いたかった彼女だと。

 

 

目の前に立つ少女は紛れも無く俺の知っている曹孟徳――華琳という少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――え?」

 

 

喜びに沸く暇も無く、彼女が取った行動を見て、呆気にとられる。

 

あの華琳が、俺の前に跪いていた。片膝を地面に突き、頭を垂れていた。同時に李通も跪く。

 

 

「義勇軍が大将、吉利と申します」

 

 

他人行儀な喋りと声。

頭を下げられている以上、彼女の表情を窺がい知ることは出来ない。

 

 

「先ずは感謝を。共に黄巾党を打ち破れたこと、嬉しく思います」

 

 

ここは合わせておいた方がいいのだろうか。

出来ればすぐにでもこの場で抱きしめたいぐらいなのだが。あれなのか?お預けですか?

 

少しだけ余裕を取り戻した思考で冗談を考えるも、流石に口にする勇気は無い。

 

ということで、今は自分の立場を優先しよう。

 

――ああ、そうか。華琳も自分の立場を優先しているのかもしれない。

 

 

「……いや、感謝するのはこっちの方だ。貴女の率いる義勇軍の活躍が無ければ、今以上に犠牲が出ていた筈だ。その働きに釣り合うかどうか、その恩に対して充分な返しかは分からないけど、出来るだけ物資や糧食は提供したいと思う。狼藉を働かないということさえ約束出来るなら、街に滞在してもらっても構わない。もし、その他に出来ることがあれば言ってくれ」

 

「……それではひとつ。聞き届けて頂きたいことがございます」

 

「構わない。言ってくれ」

 

「私を含め、この義勇軍を――貴方の旗下に加えることをお許し頂きたいのです」

 

 

少しだけ余裕を取り戻したと言うのに、またも驚きの連続。

 

最早、混乱を通り越して頭が変に冷静になっていた。一周回って、というやつだろうか。

 

何故?なんで自分が率いる義勇軍を、よりによって俺の旗下に?

 

いや、というよりも――

 

 

「……そちらの申し出は正直嬉しい。でも、旗下と言っても俺はただの一般人だ。太守でもない、刺史でもない、州牧でもない――ましてや『王』でもない。正直な話、質問の意図が理解できない」

 

 

そう。少なくとも俺はただの一般人だ。

敢えて『王』という言葉を使って華琳の反応を見るも、彼女は微動だにしていなかった。

 

隣に同じく跪く李通が、華琳に何かを耳打ちする。少し間があって、華琳は口を開いた。

 

 

「……分かりました。取り敢えず、今はこの件を保留に。しかし我が義勇軍の副官、李通から聞きました。太守から街の全権を任されているのは貴方だと。その太守が逃げ出した今、この街における最大の責任者は貴方ですね?」

 

「……うん、そういうことになる」

 

「ならば差しあたって一晩、この街に常駐することをお許しください。もちろん、我が軍規の元、狼藉を働かせないことをお約束します」

 

「もちろん、それは構わない。さっきも言ったけど、何かあったら遠慮なく言ってくれ。出来る範囲で出来るだけの事をさせてもらう」

 

「感謝します。李通、皆に休息を。あとは貴方が差配なさい」

 

 

立ち上がり、背後に跪く李通へと指示をする華琳。

 

 

「は。畏まりました」

 

 

李通は華琳に臣下の礼を取った後、その場から踵を返し歩いて行った。

 

おそらく街の外に待たせている部隊に指示を出しに行ったのだろう。

 

華琳はそのまま、俺へ背を向け続ける。やはり、何を考えているのかは分からない。

 

 

「黄忠」

 

「はい」

 

 

華琳と同じように、背後にいた黄忠を呼ぶ。

このよく分からない状況にも関わらず、彼女の声は冷静だった。

 

 

「かり……いや、吉利さんに着いて、必要に応じてその頼みを聞いてあげてくれ」

 

「分かりました。一刀さんは?」

 

「取り敢えず城に行って使えそうなもんがないか探して来る。経験上、あの手の権力者は溜め込んでることが多いからな。逃げる時も金品持ち出そうとしてたし」

 

 

華琳は意味のない行動はしない。なら、この行動にも意味があるのだろう。

 

少なくとも、この場で我を表に出さない程の理由が。

 

 

顎に手を当て、少し考える黄忠。

 

 

「出来れば、蓄えがあるといいのですけれど」

 

「ホントにな。ま、食料も水もそれなりにある。見つけた金品は商人との取引材料に使える。何も無用の長物ってわけじゃない。どちらにしても、ちょっと漁って見るよ」

 

「お願いします」

 

 

ん、と黄忠に返事を返し振り向く。

華琳が、こちらに歩いて来ていた。目の前で止まる。

 

記憶と変わらないままだった髪形――所謂ツインドリルが、ふわりと風に靡いた。

 

抱きしめたいのを、グッと堪えた。その他の色々な衝動も、まあ多数。

 

 

「吉利さん、何かあったらこの黄忠に言ってくれ。出来るだけのことをしてくれる筈だ」

 

「黄漢升と申します」

 

「義勇軍大将、吉利よ」

 

 

黄忠と華琳の視線が交錯する。

少しだけ変わる華琳の表情。その眼には複雑そうな色を湛えていた。

 

魏の人間にとっては複雑な名前。俺は歴史も相まって、だったが。

 

夏候淵という弓将の死に深く関係する武将、黄忠。

幸いにも、あの外史では未然に防げたため、この場での遺恨は無い。

 

もし、あったとしても、この外史の黄忠には何ら関わりがないのだけれど。

 

 

「この街の見取り図はあるかしら?建物の位置取りなどを把握しておきたいのだけれど」

 

「ええ、分かりましたわ。では、歩きながらでも」

 

 

黄忠が歩きだし、華琳がその後に着いて行く。

 

 

擦れ違う刹那、華琳は

 

 

 

 

「――今夜、街の一番高いところで」

 

 

 

 

そんな呟きを残していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 補足? 】

 

 

次の話で、華琳様の詳しいビジュアル説明をします。

まあ、ビジュアル説明と言ってもこれは間違いなく『見た方が早い』レベルな話だと思うので。

 

華琳様のビジュアルを文で見て、おそらく賢明な読者様方は気付いていると思われますが。

その辺りは、次回をお楽しみください。ではでは。

 

 

 


 
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