No.530568

真・金姫†無双 #5

一郎太さん

待たせたな!

と、待ってる人がいなくても言ってみる。

1度でもクスリとしたり、ニヤついたら勝ちだと思ってる。

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2013-01-11 20:50:11 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:10684   閲覧ユーザー数:7941

 

 

 

#5

 

 

「お帰りなさい。あの娘……えぇと、呂蒙だっけ?強いのね」

 

警邏の兵に無法者たちを引き渡して店内に戻ると、桃髪姉さんが声をかけてきた。

 

「自衛程度にはね。得意なのは暗器を使った戦いなんだけど、あいつら程度だったら無手でも無問題だ」

「嘘ばっかり。自衛程度の腕で、あんな動きは出来ないわよ?明命といい勝負かしら」

「ほぅ?それは興味深いな」

 

誰だ?

 

「それより」

「ん?」

「あの娘に武を教えたのは貴方?」

「今はね。昔は彼女の姉と独学だったけど」

 

居酒屋の営業はもっぱら陽が沈んでからの為、昼間は俺や亞莎の勉強と鍛錬、それから仕込みや仕入れに時間を費やしている。

 

「って事は、貴方も強いのね?」

「亞莎よりはね。軍で武功を上げられるほどじゃないさ」

「興味深いわ」

 

なんか、流れがおかしいぞ?そんな事を俺が考えている間も、姉さんは何事かを考え込み、酒を空け、注ぎ、そしてまた考え込む。そして顔を上げた。

 

「決めた!ますたぁ、それにお嬢ちゃんも。2人は軍に入る気ない?」

「は?」

「だって、おもしろそうじゃない。居酒屋の店主のくせして、腕は立つ。私達相手にも物怖じしない。なかなかいないわよ、そんな逸材」

「なかなか、というよりも皆無であろうな。腕が立つ者は、みな仕官して一旗揚げようという奴らばかりだ」

「でも、反対はしないわよね、冥琳?」

「あぁ、当然。私も興味深いしな」

 

待て待て待て。勝手に話を進めないでくれ。俺は商売人なんだ。こうして金儲けをしている時が一番楽しいんだよ。

 

「待ってくれ、お客さん方。俺は軍に入る気なんかないぞ?」

「そうなの?」

「そうなの?って……」

 

なんでキョトンとしてんだよ。

 

「俺は見ての通り、居酒屋のマスターだ。軍でやってけるような人間じゃない」

「えー、いいじゃない。ケチー」

「というかアンタらは何者だ。役人という事は、聞こえてきた会話の内容から分かるが、そんな簡単に決めてもいいのか?」

 

俺の問いに、何を今さらという顔で、桃髪の姉さんは答える。

 

「いいのよ。だって、この街で一番偉いの、私だし」

「だな」

「………………へ?」

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、ようやく自己紹介。桃髪の姉さんは孫策。相方のメガねーさんは周瑜さんだとさ。驚きだねぇ。

 

「ねぇ、北郷。うちに来てよー」

「駄目ったら駄目。孫策ちゃんも酒が入ってるから、気が大きくなってるだけだって。素面に戻れば考え直すから、きっと」

「このくらいじゃ酔わないわよ。ね、冥琳?」

「…………ふむ」

 

駄々をこねる孫策ちゃん――年齢はわからないが、年上っぽいのに可愛いので孫策『ちゃん』――の同意を求める声に、周瑜ねーさん――こちらは大人っぽいので周瑜『ねーさん』――は、何事やらを考えているようだ。

というか、周瑜って呉の軍師じゃん。なんでこの2人も女なのかわかんないけど、もしあの周瑜ならめっちゃ頭がいい筈だし、俺なんかが口で勝てるわけないって。

 

「どうしたの、冥琳?」

 

孫策ちゃんも、その様子に当然気づく。

 

「いや、北郷の話しぶりだと、自分の事ばかりでな。呂蒙に関しては、軍に入る事を反対しているようには見えない」

「げっ…」

「ふっ、わかりやすいな、お前は」

「周瑜ねーさんが手厳しいだけだって。なぁ、孫策ちゃん?」

「ちょっと、なんで冥琳は『ねーさん』なのに私は『ちゃん』なのよー」

「だって……ねぇ?」

「ふむ……確かに」

「ちょっとぉ!」

 

そうやって頬を膨らませる姿が孫策『ちゃん』なんだって。

 

「それより北郷」

「ん?」

「話を逸らそうとしても駄目だ。呂蒙に関してはどうなのだ?」

「……仕方がないなぁ」

 

眼鏡の奥の鋭い瞳には勝てず、俺は2人に明かす。俺達がここに来た理由。そして、俺が亞莎の面倒を見ている理由を。

 

「――――なるほどな。言ってしまえば、お前は呂蒙の保護者な訳だ」

「そうなっちまうな。だから、亞莎が軍に入りたいって言えば俺は応援するし、入りたくないって言ったら、俺はその意志を尊重する」

「保護者の鑑だな、お前は」

「だから、孫策ちゃん達が亞莎を軍に勧誘するのを止めはしない。だが、無理にでも連れて行こうとすれば、俺は全力でそれを止める。それだけだよ」

 

 

 

 

 

 

軍への勧誘はそれっきりだった。あの程度で諦めたとは思えないが、今日がその日ではないと考えたのだろう。来店も初めてだしな。その会話が終わった後は、ひたすら楽しい酒を飲むだけだった。

 

そろそろ店仕舞いという時間――開店前から閉店まで飲む2人……主に孫策ちゃんも相当な酒豪である――に、俺はいまさらながらの問いを発する。

 

「今さらだけど、こんな話し方でいいのか?」

「何が?」

「いや、一番偉い人なのに、敬語も何も使ってないし……」

 

その問いに2人は顔を見合わせると、楽しそうな顔で笑みを交わし、答える。

 

「いいわよ。今はますたぁと客の関係だし。もちろん外ではダメだけどね?」

「あぁ。それに、雪蓮を孫策『ちゃん』と呼ぶ人間など、まずお目に掛かれない」

 

そう言って、再び楽しそうに笑う2人。

 

「2人がいいならいいけどさ。それより、そろそろ閉店なんだ」

「あら、もうそんな時間?」

「あぁ、周りをみてごらん?」

「……ほんと、誰もいないわ。楽しい時間は過ぎるのが早いわね」

 

俺の指を追って振り向いた2人の視界には、他に客のいない店内と、せっせと卓を拭く亞莎の姿だけだ。

 

「それじゃ、私たちも帰りますか」

「そうだな。ますたぁ、代金だ」

「流石は周瑜ねーさん。計算が早い」

 

俺が言うまでもなく、合計金額を弾き出す周瑜ねーさん。粋だ。粋の一言に尽きる。

 

「私はやはり、ねーさんなのか……」

「ん?」

 

一応の確認で金を数えていると、ねーさんが何かを言っていた。ごめん、聞こえなかったや。

 

「北郷、冥琳も周瑜『ちゃん』って呼んで欲しいんだって」

「雪蓮!?」

「あ、そっちの方がよかった?周瑜さんはなんか可愛いってより綺麗だから、ねーさんって呼んでたんだけど……」

「お前も恥ずかしい事を口走るな……」

 

頭を抱えちまった。

 

「私と同い年なのに、なんで年上のように扱われるんだーって思ってるのよ、きっと」

「そういう意味じゃなかったんだけどなぁ。ま、いいや。だったら呼び方を変えるよ、周瑜ちゃん」

「だからそういう訳では……」

「それより北郷、なんで私は最初から『ちゃん』なの?私って可愛い?」

「どっちかって言うと、子どもっぽいから」

「ひっどーい」

「そうやって頬を膨らませるところが子供っぽいんだよ。あー、はいはい。可愛いから不貞寝しないで。片づけ出来ないじゃん」

 

カウンターに突っ伏す孫策ちゃんを適当に慰めつつ、食器を片づける。亞莎も他はすべて綺麗にしたようで、今は椅子を卓に上げている最中だった。

 

「わかったわよ。帰りましょうか、冥琳」

「あぁ。久しぶりに楽しい酒を飲めた。感謝するぞ、北郷」

「毎度。また来ておくれ、孫策ちゃん、周瑜ちゃん」

「えぇ、また明日」

「駄目だ。明日は仕事が詰まってるからな」

「ぶー、ケチー」

「なんとでも言え」

「はいはい。おやすみ、ますたぁ」

「またな」

「またのお越しをー」

「ありがとうございましたー」

 

酒を飲んでいる時のように楽しげな雰囲気を滲ませながら、2人は帰っていった。流石は断金。仲がいい。

 

面白い出会いがあったが、それ以上にハードな1日だったな。

 

「さて、最後にパパッと片づけて寝るとしますか」

「はいっ」

 

2人でカウンターと調理場を掃除し、店の灯りを消す。そのまま2階へと移動して寝る準備へと入った。だが、俺達の夜は、まだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

なんてな。

 

「あ゙ぁ゙ー…気持ちいいですぅぅ……」

「亞莎はここが好きだな」

「はいぃ……」

 

寝室にて気持ちよさそうな声を上げるのは、寝間着に着替えて髪を下ろした亞莎。その上で規則的に身体を上下させる俺。別にエロい事なんかしていない。いまは、亞莎の足を俺がマッサージしている最中だ。

 

「やっぱふくらはぎと腿が凝るよな……どうだ、この辺りか?」

「はいぃ……あぅっ、もう少し外側ぁ……あぁぁああ!そこそこそこぉ!」

「歩き回ってるから、腰とかはそれほどでもないのかな?」

「一刀さんはぁ、同じ姿勢がぁ、多いです、からねぇ…はぁぁあ……」

「気持ちよさそうな声出しやがって」

「終わったらぁ、私もぉ、してあげますぅ……それいい!もちょっと長めにぃ!」

「あいよっ」

 

最初は恥ずかしがっていた亞莎も、何度か繰り返すうちにその快楽の虜になってしまっていた。今では、この為に仕事を頑張っていると言っても過言ではない。

 

「ふぃぃー、気持ちよかったぁ……」

「お粗末」

 

最後に脚全体を拳で軽く叩いて仕上げれば、至福の声が漏れる。

 

「次は一刀さんの番ですよ」

「おー、頼む」

 

起き上がった亞莎は、布団に座る俺の背を押して、うつ伏せになるように力を加える。俺はそれに逆らう事無く、その圧力と重力にしたがって布団に寝転がった。

 

「一刀さんは、背中全体が凝りますからね」

「あぁ……あ゙ぁ゙ぁ゙ー、気持ちいいぃぃぃ……」

「すっごい堅いですよ、一刀さん」

「あぁ、そこが気持ちいいんだぁ……」

 

繰り返すが、別にエロい事をしているわけではない。それでもそう聞こえてしまうのは、言葉というものが本当に面白いものである事の証左ではないかと、個人的に思う。それはいいとして。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、最初から最後まで、あの2人とは楽しげに話してましたね」

「あぁ、気に入ってもらえたようだ」

「そうじゃなくて……」

「ん?」

 

一瞬力が弱まったが、すぐに元に戻る。

 

「何の話をしていたんですか?」

「あぁ、俺と亞莎を軍に誘いたいってさ」

「……え?」

 

今度こそ、その動きが止まった。

 

「……亞莎?」

「あ、えと、ごめんなさい」

 

だが、名前を呼べば、それも再開する。

 

「途中、亞莎があの3人組を撃退しただろ?あの動きを見て、相当強いんじゃないかってさ」

「そ、そんな事ないですよぉ…」

「いや、ある。まぁ、それはいいとして。亞莎を鍛えている俺にも目をつけてな。2人でどうか、って」

「それで、一刀さんはどうするんですか?」

 

亞莎は気づいていないだろうが、同じところをずっと押し続けている。どうやら彼女の興味は完全にこっちの話題に移ったようだ。

 

「俺は商売人だからな。ビーのおっちゃんにも、まだ金を返していない。断ったよ」

「そう、ですか……」

「だが、亞莎に関しては別だ」

「……え?」

 

再びその動きが止まった。起き上がって彼女の目を見ながら話せば、きっと彼女は眼を背けてしまう。俺からではない。俺の口から出てくる言葉から。だから、俺はその体勢のまま言葉を続けた。

 

「亞莎をこの街に連れてきたのも、それが目的のひとつだからな」

「じゃぁ…一刀さんは私に……軍に入れって言うんですか?」

「そうは言ってない。軍でも文官でも、亞莎が入りたいと思えば、入って何かを成したいと思えば、入ればいい。特に目的なしに生き場所を変えても、碌な結果にはならないからな。ただ、亞莎に対する勧誘を、俺は止めない。何度も言うが、亞莎は、亞莎のしたい事をすればいいんだ。俺は、それを尊重するよ」

「一刀さん……」

 

ゆっくりと、ゆっくりとその手が動き出す。その手は腰から肩甲骨まで滑り、とうとう肩までやって来た。直後、背中に暖かい感触。

 

「私は……」

 

その感触のすぐ傍から、亞莎の声が聞こえてきた。

 

「私は…私にはまだわかりません。何をしたいのか。何になりたいのか。でも、今は一刀さんと……その、一緒に…いたいです……」

「……」

「お金儲けの楽しさはまだわかりませんが、お料理を出して、喜んでもらえるのが、私は嬉しいです」

「……うん」

「だから、少なくとも今は…このお店で頑張りたいです……一刀さんと、一緒に」

「…そっか」

 

それきり言葉はなくなる。気づけば、亞莎は身体を起こしてマッサージを再開していた。俺は思考の海に没頭しながらも、彼女の手の温もりを享受し続ける。

 

 

 

 

 

 

「――――はい、おしまいですよ、一刀さん」

「おー、気持ちよかったぁ……」

 

亞莎のテクもなかなかのもので、俺は弛緩した筋肉を動かそうともせずに、布団と同化しようとしている。

 

「さて、それじゃ寝ましょうか」

「おー、こっちおいで、亞莎」

「はややっ!?」

 

隣の布団に移ろうとする亞莎の腕を引いて布団に転がせば、彼女の口癖の驚声。

 

「かかか一刀さんっ!?」

「よしよーし、亞莎はいい娘だなー」

「き、急に何を!?」

 

慌てながらも逃げようとしないあたり、俺への好意が見えて心が暖かくなる。

 

「お兄ちゃんは嬉しいぞー」

「おぉおおぉ兄ちゃんっ!?」

「あぁ、亞莎をこの街に連れてきて、生活の為に店を開きはしたが、亞莎が自分から何かをしたいとは言った事はなかったからな」

「あ…」

「でもさっき、亞莎はこの店で働くのが楽しいと言ってくれた。ここで頑張りたいって言ってくれた。俺は、それが嬉しいんだ」

「一刀、さん……」

「だから、また何かしたい事があったら言ってくれ。全力で応援してやる」

「…………はぃ」

 

腕の中で頷く亞莎は眼を閉じて、俺の手を享受する。気持ちよさそうな顔だ。

 

「あの……」

「ん?」

 

しばらくそうしていると、亞莎が顔を上げた。

 

「今夜は…一緒に寝てもいいですか?」

「あぁ、もちろんだ」

「ありがとうございます、一刀さん」

「ん」

 

俺は枕元の燭台に手を伸ばし、息で灯を吹き消す。部屋が暗闇に満たされて、亞莎が規則的な呼吸を始めるまで、俺はゆっくりとその小さな頭を撫で続けた。

 

「おやすみ、亞莎」

「んにゅぅ…」

 

出張ホストで鍛えた俺の撫でテクは、こちらの世界でも通用したようだ。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

という訳で、#5でした。

 

 

亞莎ちゃんが可愛くて生きるのが辛い。

 

 

という訳で、孫策ちゃんとメガねーさんの勧誘を振り切りましたが、

 

 

さて、どうなる事やら。

 

 

次回は、皆が大好きあの恋姫が登場するよ!

 

 

明日上げれると思うけど、出来なかったらごめん。

 

 

ではまた次回。

 

 

バイバイ。

 

 

 


 
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