No.515447

真・恋姫†無双 倭√ 第七倭

洛陽での生活

2012-12-06 00:04:35 投稿 / 全21ページ    総閲覧数:2729   閲覧ユーザー数:2173

第七倭 洛陽で

 

陣を出て数週間程たった頃

 

「やっと着いた……」

 

ここまでの道のりを思い出す

 

色々あったがやっと着いた洛陽

 

都と言うだけあって呉以上の人々が行き来している、ここに来た理由は情報収集以外に他ならない

 

人が多ければそこに集まる情報も多い

 

「じゃあまず初めは」

 

早速、俺は馬を連れ二度目の仕事探しを始める

 

 

 

 

意外にもあっさり決まった

 

就職先は飲食店

 

今は男1人で切り盛りしている店であり、評判はそこそこと言った所らしい

 

奥さんが妊娠して働き手に困ってる所へ俺が来たと言う訳だ

 

宿はおっさんが独身時代に住んでた家があるるらしく、馬を飼うスペースはあると言う事

 

つまり街のはずれと言う事だけど気にはしない、夜中にトレーニングしてても文句を言われないと考えれば逆に利点である

 

飯は賄い付きと高待遇

 

まぁ給料は流石に客将の時よりは少ないが、それは仕方のないことだろう

 

それにここは飲食店だ、色々な人が集まり様々な話を聞ける

 

要するにこれ以上無い高待遇の仕事を引き当てる事が出来た

 

最も呉での生活とあまり変わらないのだが

 

日中は働き、夜は鍛錬、それに馬の世話が入るだけであった

 

それ以外は何も変わらない、仕事場が城から店へ変わっただけだ

 

こうして、洛陽での生活が始まる

 

 

 

 

洛陽の街で生活してみて今の大陸の状態がかなりよく分かった

 

帝の様態が思わしくないらしく、それに乗じて宦官の動きが活発になっているという話だ

 

最も宦官が好き勝手やっているのは前からの事であるのだが、その宦官の配下の兵士もそれにあやかって好き放題やっているらしい

 

都の権力が衰退しているのも大体がこの宦官のせいであるのは確かであり

 

中でも張譲は十常侍の筆頭として幅を利かせていて、噂では帝よりも権力を持っているとかなんとか

 

何進を中心として反宦官勢力が頑張っているが、その何進にも疑問符が付くといった具合である

 

「お話ありがとうございます」

 

礼を言う

 

「良いってことよ、俺達もこうして愚痴を言わないとやってけないからよ」

 

「じゃあそろそろ行くか」

 

席を立つのは贔屓にしている市場の人達、たまにはこうして飯を食べに来てくれている

 

「ありがとうございました、お茶代は話のお礼ってことで奢りますよ」

 

「お、わざわざ悪いね」

 

「でも、飯は別ですからね」

 

「分かってるって、じゃあ勘定頼む」

 

勘定を済ませる

 

義務教育のお陰か四則計算が役に立つことが多く

 

ありがとう義務教育! 

 

と、日本の教育制度に日々感謝している毎日だ

 

都に来て一ヶ月、やっと今の生活や仕事に慣れ始めた

 

常連さんとも仲良くなり、こうして情報を仕入れる事も出来ている

 

「注文えーかー」

 

関西弁の女の人、ここで働き始めて初めて見る顔だ

 

先程までメニュー表と睨めっこしていたのを思い出す

 

髪は紫で、袴にさらしと言った服装であり袴の隙間から見える生足が何とも言えない風情がある

 

「はい、お伺いします」

 

「じゃあこれの20年物と、ん~ご飯と麻婆茄子ー」

 

昼から酒か!

 

これを選ぶ奴は通とおやっさんが言っていたお酒を選択するあたり酒には中々詳しいらしい

 

「かしこまりました少々お待ちを、おやっさん! ご飯と麻婆茄子!」

 

「あいよ! 酒は任せたぞ!」

 

 

 

昼のラストオーダーを取り終わり、後は客が食べ終わるのを待つだけであった

 

この店は昼の部夜の部とあり、その間は下ごしらえの時間となっている

 

「美味いなぁーこの茄子」

 

幸せそうな顔をする

 

そんな顔をされるとただオーダーを伝えただけの自分も幸せになって来る

 

「そして酒も……ん~昼から飲む酒は別格や」

 

それを眺めながら皿を洗う

 

「一刀、後片付け頼んだぞ」

 

「あーい」

 

「妻の所に行ってくるから適当に食っといてくれ、余った材料使っても良いからな」

 

そう言っておやっさんは店を出て行く、

 

俺が来て余裕が出来たのか、昼の部が終わると一度家に帰り奥さんの様子を見に帰る

 

店の中には俺と彼女1人だけ

 

「兄ちゃん一刀って言うんか」

 

酒を飲んだ女性に声を掛けられた、皿を見てみると空になっている

 

どうやら食べ終わったみたいだな

 

「はい、やっぱり珍しいですか?」

 

「ん~珍しいなぁ、一度聞いたら忘れられへんぐらいに」

 

「それは良かったです、次来た時は名前で呼んでくださいね」

 

冗談めかして次の約束を取り付ける

 

この仕事を通して学んだ事の一つである

 

「そうさせて貰うわ、飯は美味しいし酒はあるし、あーでも」

 

「でも?」

 

「その敬語止めてくれたらええで、ウチ仕事以外で敬語使われると背中がむずむずすんねん」

 

なら仕方がない

 

俺も敬語を止め、素に戻る

 

「はは、そう言う事なら了解、ところで俺も名前聞いていいか?」

 

「あーうちは……張ちゃんや、よろしく」

 

「チョウ・チャン?」

 

「せ、せやチョウ・チャンや」

 

チョウ・チャン……なんだか珍しい名前な気がするが、中国人っぽいといったらっぽい名前

 

そもそも俺が名前についてとやかく言うのはお門違いなのかもしれない

 

「よろしくな、チョウ・チャン」

 

「あぁ、よろしく北郷」

 

 

 

 

洛陽に来てからの鍛錬も順調に進んでおり、

 

倭の時の自分と比べてみて自分で違いが分かるぐらい基礎的な運動能力が上がっているのを感じる

 

しかし比べる相手が居ない事から、自分の強さが測れないのは辛い所ではある

 

今日も基礎的な筋肉トレーニングから始まり、刀を持っての走り込みから

 

何百回もの素振りを行う

 

「……ふぅ」

 

桶に貯めた水で顔を洗い、火照った体を覚ますためにも外で一人夜風にあたる

 

風は熱を持っていき、その風は広い大地へと広がっていく

 

手元の双振りの刀を見る、白と黒の刀身は対極の色ながらも月光を鋭く反射させる

 

思い出すのはこの双振りの刀と渡って来た今までの戦

 

そして思い出して一言

 

「やっぱリーチ長い相手はキツイかったなぁ」

 

持つ武器は統一されてなかった黄巾だが、槍を持った兵はやりにくい

 

そもそもリーチが違う

 

刀は1対1を考えれば小回りの効く刀で問題じゃないんだけど

 

集団となるとやはり槍といったリーチの長い武器が有利であるのは事実なんだよなぁ

 

だって囲んで突けばいいんだもん

 

そもそも刀で槍と対峙する場合、相手の懐まで入るという動作が必要だけど

 

リーチがあればその懐に入る動作が必要ない

 

張飛ちゃんを思い出す

 

彼女の戦いはやはり蛇矛といったリーチの長さと武器の重さを活かしてて

 

体の何倍もある蛇矛を信じられないスピードで振るうのだ

 

あの重い一撃を受け止めるのは無理に近いし、今の自分の速さでは刀の届く距離に入れない

 

そもそも、あの柄の部分も遠心力により相当な威力を持っている

 

「思春の様な速さがあれば別だけどなぁ、生憎そんな早く無いし」

 

だからと言って槍を使うのもあまり考えられないんだけど

 

自分より小さな女の子が自分のより長く重い武器を自分と同じぐらいかそれ以上で速く振るう姿を見ているのだ

 

敵う筈がない

 

「でもやっぱ集団戦はリーチの長い武器使えた方がいいよな」

 

しかしこう思うところがあるのも事実である

 

確かに双振りの刀は一番手に馴染んでいるし、これが無い戦場など考えたくない

 

この双振り刀には卑弥呼との鍛錬という経験があるし、その経験があるからこそ戦場でも臆せず戦え

 

ると自覚もしている

 

が、しかし集団戦を考えるとやはりそういう武器が欲しくなる

 

生き残る可能性はなるべく上げておきたい、引き出しは多い方がいいだろうし……

 

いや? これって手を出しすぎてどれも中途半端になるパターンか?

 

悩む、やはり一人で鍛錬と言うのはこういうところが不便だ

 

比べる相手がいないし、相談する相手がいない

 

自分の腕前がどの程度か知る事が出来ないのだ

 

呉だったら思春達に相談できたのだが……

 

明日は丁度店も休みだ、兎に角鍛冶屋に行ってみるか

 

 

 

 

 

鍛冶屋には鋤や鍬と言った農具の他に、はさみや鉈、包丁と言った様々な日用品が売られていて誰で

 

も気兼ねなく入れる

 

このころの鍛冶屋は鉄製品の殆どを作っていて、言わば無くてはならない存在なのだ

 

そしてその日用品が置いてあるさらに奥には、当たり前のように武具も置いてある

 

勿論兵も鍛冶屋利用するからだ

 

と言っても大体の兵は支給品の剣や防具で済ませることから

 

鍛冶屋を直接利用する兵の殆どははある程度上の階級の人か自分の武に自信のある人が主である

 

稀に武器コレクター的な人もいるらしい

 

奥にあるのはなるべく一般人と兵を一緒にしない様にする為だろう

 

周りを見渡す、やはりそれっぽい人が武具や防具を物色している

 

ここでは自分の方が浮いていて、なにやら目線を感じる気もするが気にせず武器を物色する、

 

剣、鉾、槍、鉾と言った武器が飾られていているがそしてその中でも一際目立つのが

 

「斬馬刀かぁ……にしては日本のと形が全然違うな」

 

言わば薙刀状の形をしていて、刃の部分よりも柄の部分の方が長い

 

俺個人としては斬馬刀と言って思い浮かぶのは大太刀なんだけど

 

大太刀か……見たことならあるのだが触ってみた事は無い

 

刀身が90センチ以上の物を大太刀と分類される

 

卑弥呼から譲り受けた刀は大体70センチ位なので

 

それより20センチ以上大きくなると大太刀となる

 

大太刀……ちょっと使ってみたいかも……

 

斬馬刀の値段を見てみる、オーダーメイドとなればこれより値段は高くなるんじゃないか?

 

「……」

 

俺はそっと店を後にした

 

 

「いやぁ、あの値段は無理だわ」

 

値段を見て諦めがついた俺はぶらぶらと洛陽の街を歩いていた

 

若い男たちが城の方へ向かう、何かあるのだろうか?

 

そんなことを考えながら街を回る

 

こうして回るのは、洛陽に来て仕事を見つける時以来だ

 

呉では見られなかったもの、旅先で見た特産品

 

様々なものが店頭に並んでいる

 

流石洛陽、伊達じゃ無いなと感心していると見知った顔を見つけた

 

「お」

 

「あ」

 

「よ、チョウ・チャン」

 

「なんや、北郷やないか、そうか今日は休みやったな」

 

「そうそう、チョウ・チャンはどうしてここに?」

 

「どうして……って、見て分からへんか?」

 

チョウ・チャンのいる店の看板を読む

 

「あぁ何だ、酒買いに来ただけか」

 

「なんやその眼はーえぇやないの非番の日くらい」

 

恨めしそうな目でこっちを見てくる

 

「……毎日非番なのか?」

 

「あ! 酷っ! ウチだってちゃんと仕事してますぅ」

 

膨れるチョウ・チャン、可愛い

 

「冗談だって、ってあれ? チョウ・チャンは何の仕事してるんだ?」

 

「あー……」

 

気まずそうな顔をするチョウ・チャン

 

昼はいつも暇……お酒が好き……

 

それから仕事を察する

 

「あーすまん、配慮に欠ける言葉だったわ、そうだよな、じゃなきゃ昼あんなに暇じゃないもんな」

 

「ちょい待ち! なんの仕事思い浮かべたん!?」

 

「いや、悪かった……辛いかも知れないけど頑張れよ……相談なら聞くからさ」

 

「だから! 違うっちゅーに!!」

 

「お、張遼ではないか」

 

「げ」

 

街の人の目がこちらに向けられる

 

初対面の人が殆どなはずなのに、その眼には心なしか敵意が向けられているのは気のせいだと思いたい

 

「ん?」

 

チョウリョウ……

 

声が聞こえてきた方向を向く

 

そこには女の人が一人

 

チョウ・チャンの知り合いなのだろうか

 

「張遼がこんな所で男と居るなんて珍しいな、ははは!」

 

「ちょっ! か、華雄!」

 

「チョウリョウ……カユウ……張遼……華雄……」

 

「ほ、北郷、話をしよう」

 

 

張遼に連れられて来たのは洛陽の城

 

部外者が入っていいのか、と聞いたが

 

今日は大丈夫だと言う事

 

城に勝手に入って大丈夫な日があるのだろうか? 見学日とか?

 

張遼の部屋に案内され開口一番

 

「すまん! ウチ嘘ついてたんや!」

 

謝るチョウ・チャンというか張ちゃん、もとい張遼

 

彼女の言い分はこうだ

 

城の兵の中には宦官や何進の言いなりが多く、よって街で余り良い印象を持たれている訳では無い

 

彼女もその被害に遭っているらしい

 

店員が張遼の名を聞くと、急に余所余所しくなったりゴマを擦ろうと必死になるらしいのだ

 

そしてその結果居心地が悪くなってその店には行かなくなってしまう

 

で、今度はそういう事が無いように咄嗟に偽名を名乗ってしまったという話だ

 

「なんだ張遼、嘘の名前教えてたのか?」

 

「い、いや嘘と言うか自分は張ちゃんって言って嘘を言うつもりや無かったんやけど、北郷が勘違い

 

するからついなぁ」

 

「また偽名など女々しいことを……」

 

呆れる華雄さん

 

「女々しいってウチは女や! せやかて華雄! ウチらの噂話知らないわけやないやろ!」

 

「噂話? あぁ、城の兵と関わるとろくな事が無いって話か? ふん、どうでもよい」

 

心底どうでもよさそうな、華雄さん

 

「せやから、ついウチあの店追い出されると思って……すまん、北郷!」

 

頭を下げる張遼

 

「いやいや頭あげてよ、俺は別に兵とかそういうの気にしてないから」

 

「ほ、ほんとか? 気にせぇへんか?」

 

「あぁ、だからまた来てくれよ?」

 

「行く! 絶対行く!!」

 

「なんだ、そんなに旨いのかその店は」

 

「あぁ、旨いでぇ」

 

「ほう、なら今度私も行ってみよう」

 

「お、なら月達も誘って皆で行かへん?」

 

「構わん」

 

「なら決まりや、と言う事で北郷、明日は頼むで」

 

「お待ちしております、お客様」

 

「北郷ぅー」

 

「はは、冗談だって」

 

 

 

張遼の買ってきた酒をチビチビやりながら話に花を咲かせる俺達

 

「いやぁ、まさか華雄がこんな面白いやっちゃとはなぁ」

 

酒を煽りながらしみじみそんな事を呟く張遼

 

「今までは違ったのか?」

 

「いやぁ、今までは……そう! 一言でいうなら脳筋っていうん?」

 

「おい! ろういう事らぁ!」

 

バンっと机を叩きながら抗議する

 

しかしその顔は真っ赤で、舌も回っていない

 

「完全に出来上がってるぞ」

 

「わらしはれきあがってなろいない! 北郷! つげ!」

 

「はいはい」

 

杯についでやる

 

華雄さんはそれをちょびちょびと煽り始めた

 

「こう猪突猛進的な感じでなぁ、うちの軍師とよう揉めてるんやわ、で近づき難かったんやけど」

 

「あー」

 

チラっと横目で華雄を見る

 

「せやから、あまり近づかんとこと思うてたんやけど、話してみたら意外と面白いやっちゃな」

 

「はは、確かに」

 

元々、華雄さんはこの酒盛りに対しても乗り気では無かった

 

……のだが

--- 回想

 

「えぇやん、華雄、親睦を深めるためにも一杯やろうや」

 

「ふん、昼間から酒など不健康にも程がある! 私は鍛錬があるのでな」

 

部屋を出ようとする華雄

 

「逃げるんや」

 

ボソっと聞こえるか聞こえないかのボリュームで呟く張遼

 

「……何だと?」

 

「べっつにーなんでもー?」

 

「もう一度言ってみろ!」

 

「いやだからぁ、あの猛将華雄はお酒が飲めないから逃げるんや~とか言ってへんでぇ? 気にせず鍛錬でもなんでも行ったらええ」

 

「張遼貴様……ッ! 分かった! そこまで言うのならば飲んでやろうではないか」

 

「ええって、ええって、飲めへん人は誘わない主義やから」

 

「構わん! 早くつげ!!」

 

………

……

 

といった具合に口車に乗せられこの状況である

 

「これなら仲良くやれそうやわ」

 

「はは、それは良かった」

 

「ちょうりょーう」

 

「なんや、華雄」

 

「きょうはありがとなー」

 

「な、なんや急に」

 

「なんれもー」

 

張遼に抱き着く華雄さん、

 

……眼福眼福

 

張遼もやぶさかではないと言った感じだ

 

「きっと寂しかったんだろ」

 

「そうなんか? 華雄」

 

「さみしくなろない!」

 

「はいはい」

 

 

 

「はっはっは! 華雄! その程度か!」

 

煽る張遼

 

「なんらとちょうりょう! まらまらぁっ!」

 

負けじと酒を煽る華雄

 

「……」

 

酒のにおいが充満した部屋から逃げ出す

 

2人とも酒の引力に引かれてただの酔っ払いになってしまった……

 

これも人間のサガ……部屋に向かって手を合わせる

 

廊下の窓から外を見ると、夕日が廊下を照らしている

 

そろそろ帰るか、そう思い踵を返すと

 

「おい」

 

「!?」

 

そこには一人の兵が

 

「お前、今日試験を受けにきた奴か?」

 

「え、あ、あの」

 

「ははーん、迷子か、そうか、俺が連れてってやろう」

 

「ち、違」

 

「大丈夫だ、俺も新兵のころはよくこの城で迷子になったよ」

 

「だから」

 

「ほら、こっちだ」

 

「いや、だから違……」

 

「ちが? あぁ、血が怖いのか、大丈夫、試験じゃ死なないさ、よほど運が良くなければな」

 

「助けてぇぇぇえええぇぇぇ」

 

 

 

 

「……」

 

手軽な鎧を着せられ、俺が来たのは修練場

 

「うん、良く似合ってるぞ、それじゃあほら、この中から好きな武器を選べ」

 

今日は新兵の入社試験的なあれらしい

 

試験の内容は実力を見るだけと言う話だ

 

張遼の今日は大丈夫と言う言葉が思い浮かぶ

 

成程ね……確かに俺が城へ入っても怪しまれない訳だ

 

しかし俺はしがない店員、ここで怖いから辞めると言えば良いだろう

 

支給されるらしい武器を横目で見る、どれも鍛冶屋で見た奴だ

 

剣、槍、鉾、

 

そして斬馬刀

 

「じゃあ、これで」

 

勝手に手が伸びる

 

「これって……これか? 剣とかの方がいいんじゃないか?」

 

「いや、これで」

 

これを使わさせて貰えるなら少し受けてみるか

 

「そうか、そこまで言うからには止めないが」

 

手に持ってみる。重さは……両手で持てるからかそう感じない

 

「それでは、武運を」

 

そう言われて送り出される

 

 

周りを見渡す、

 

城の中央にあるこの広場

 

見物人はそうとう居るようだ、その眼は俺に注がれる

 

そして目の前には赤い髪の女の子

 

「……」

 

ボーっとしていてこちらを見ているのか見ていないのか分からない

 

細い身に担ぐはでかい獲物、身長の倍はあるかもしれない

 

間合いは6メートルあるかどうかの位置をとる、一つの踏込みで届かない距離

 

「それでは試験を開始します、始めッ!」

 

始まりの銅鑼が鳴る

 

 

速い!

 

油断していたのもあるが、あっという間に獲物が届く距離まで詰められる

 

「疾ッ」

 

吐く息とともに巨大な獲物を片手で一振り

 

片手なら止められる!

 

それを柄で受け止め……無理ッ!?

 

とっさの判断で受け流す

 

金属音が城に響き渡り鼓膜を震わせる

 

慌てて距離を取る

 

掌に残るは衝撃の強さ、手が衝撃で痺れる

 

冷や水を浴びせられたように酔いが醒める

 

城内がざわめき出すが、そんな周りなど気にしている暇などない

 

相手の実力は相当なものだ、気合を入れる

 

相手の一挙一投足に注意を向ける

 

筋肉の動き、予備動作、相手の目線

 

「……やる」

 

「ん?」

 

「お前……やる」

 

「そりゃどうも」

 

斬馬刀を振り回す、

 

重さを確認、片手でも問題無い

 

リーチを確認、約2メートル

 

折角の機会だ、中国の斬馬刀試させて貰おう

 

 

 

 

「ハッ!」

 

一息に突く

 

狙うは相手の手首

 

それを相手は武器で器用に逸らし、そのまま一回転した勢いで一薙ぎ

 

慌てて斬馬刀を引き戻し、柄で獲物に対し上に力を加える

 

獲物は頭上を通り過ぎていく

 

その隙に間合いを詰め蹴りを放つ

 

頭上に影が落ちる

 

慌てて上に斬馬刀を掲げる

 

そして獲物同士がぶつかり合う瞬間、傾ける

 

頭のすぐ横に刃が滑り落ち、下の地面が捲れる

 

すぐさま距離を置いて、一呼吸

 

強い

 

使い慣れない斬馬刀を使っているという事を言い訳にせずとも

 

今まで戦った誰よりも強い

 

これが新兵の試験……さすが官軍と言った所か

 

だけどこれを思う存分使うまでは、付き合って貰うとしよう

 

 

「だ、誰よあいつ!」

 

城の上で見ている女の子が3人

 

「な、名前を調べやがれです!」

 

「詠ちゃん、ねねちゃん落ち着いて……」

 

「落ち着いていられないわよ! 恋とやって生き残ってるのよ!」

 

「生き残ってるって……そんな物騒な物じゃ……」

 

「恋殿に一発でやられて医務室は生きた屍でいっぱいいっぱいなんでやがりますよ!?」

 

「そうだけど……」

 

「あっ! また!」

 

「だから! なんでそれを避けやがるんですか! 恋殿! さっさと決めるです!」

 

「いけぇぇぇ! 恋! 飛将軍の力見せてやれえぇぇぇ!」

 

「詠ちゃん怖い……」

 

 

 

 

今まで扱ってきた武器をベースに様々な動きから彼女を攻めた

 

しかしそれらは全て弾かれ、相手に刃は届かない

 

現状を整理する、体力は問題ないが

 

武器は危篤である

 

相手の攻撃を受け流していたはずの柄は凹んでいる

 

これ以上続けると武器が先に限界を迎えそうであるし

 

そもそもこのままでは絶対刃は相手に届かない

 

そう感じるには十分な実力差を感じる

 

これが試験とは大陸は広い……

 

もっと強くならなければ、そう心に誓い

 

「ハッ!」

 

一息で捲れた土を斬馬刀を利用し彼女目掛けて捲り上げる

 

「……ッ」

 

反射的に目を庇う

 

隙が出来た、その瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は背を向け逃げ出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

止める兵の静止を振り切り洛陽の街へ消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

家に着いた俺

 

あんなのが試験とか……ヤバいだろ

 

汗まみれの鎧と服を脱ぎ捨て……

 

「……って、あ!」

 

手に持っているのは斬馬刀

 

鎧も持って帰って来てしまった

 

「……置いてくの忘れた」

 

今から返しに行くのも気が引ける

 

「……まぁいいか、練習用に貸してもらおう」

 

貸してもらうだけだから、うん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は知らない、城に伝説が出来た事を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

お久しぶりです、

 

と言う事で洛陽編と言う事です

 

 

匿名でも構いませんので、感想改善点アドバイス誤字脱字等々ありましたらよろしくお願いします

 

 

それでは

 

 

 

 

 


 
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