No.437089

『改訂版』真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第一部 其の二十

雷起さん


大幅加筆+修正となっております。


『改訂版』第一部最終話です。

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2012-06-14 15:41:25 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:4298   閲覧ユーザー数:3322

 

 

『改訂版』 第一部 其の二十

 

 

荊州 房陵城会議室

【エクストラturn】

 

『三人揃ったご主人様は三乗よぉん♪』

 

 かつての貂蝉の一言が事の起りだった。

 

「ご主人様が三人揃った時の方がより功績を上げられているというのは、過去の事例を見ても明らかです。」

 朱里が提示した書類の数々を指し、その事実を集まった人たちに確認を取る。

 現在この部屋に居るのは朱里の他に蒲公英、華琳、風、冥琳、祭の六人である。

「これは貂蝉さんの言葉を裏付ける物だと私は考えます。」

「ふむ、これなら三人の北郷を一箇所に集め、皇帝に即位させる口実の一つにできるな。」

 冥琳は書類の一つ一つを確認し微笑みを浮かべる。

「まあそれもありますが~、今の問題はお兄さんの種馬力も三乗となるのか?という事ですよ。」

 風は半目でむむむと唸った。

 普通ならば何を馬鹿な事をと笑い飛ばす処だが、相手は何しろ、あの『北郷一刀』である。

 色事に関しては何が起きても納得できてしまう存在だ。

 しかも言った相手が貂蝉となると、その真実味はほぼ確信の域に達する。

 貂蝉と卑弥呼の言動は・・・いや、存在そのものが無茶苦茶だが、一刀の事を語る時の言葉は正鵠を射ている事がほとんどだ。

 ならばもし、一刀の種馬力が三乗となるとすれば実際どうなるのか?

 最も具体的、かつ解り易いのは『回数』だろう。

 彼女たちの脳内では以下の公式が展開していた。

 

(一刀との一晩での最高回数)×(一刀との一晩での最高回数)×(一刀との一晩での最高回数)=(三人の一刀が揃った時の回数)

 

 彼女たちの名誉と平和の為、敢えて一人一人の最高回数は伏せるが、三回などという数字は最低回数になるのが北郷一刀という男である。

 もし十回と仮定した場合、公式に当てはめれば三人で千回!一人当たり三百三十三回は連射が可能になるわけである!!

 最早種馬などという生易しい者ではない。

 これは 何処(どこ)ぞの神社に御本尊として祀られるか、伝説の勇者に倒され次元の狭間に封印されるレベルだ。

 いくらなんでもそれは現実的に考えて異常すぎる。

 しかし三国の武将軍師を全員一度に相手をするぐらいはやって退けそうではある。

 それを踏まえた上で考えられたのが、新都房陵の城内に設計された五十畳の閨だった。

 

「まぁ実際に全員を一度に相手にする事は無いでしょうけどね♪」

 

 華琳は自分の想像の荒唐無稽さについ笑ってしまった。

「でもご主人さまたちなら『全員相手』に挑戦しそうだけど?」

 蒲公英には極自然な流れだと思え口にするが、それに答えたのは冥琳だった。

「蒲公英、まさか全員で公務を放り出す訳にはいかんだろう。内憂外患の在る内は不可能だな。」

「それじゃあ永久に不可能って事なんだ・・・・・あはは、それはそうだよね♪」

「ならばこの部屋は必要ないという事じゃな。設計し直すのか?」

 祭の言葉はあっさりしていたが、その口調と顔には名残惜しさが表れている。

「いいえ。これは完成させましょう。たとえ使わないとしてもこの閨が存在することで、色々な効果が期待できるわ。」

 華琳はまるで悪戯を仕掛ける子供のように微笑んだ。

「成程、面白いな♪」

「お兄さんたちには効果抜群でしょうね~。」

「対外的には恥ずかしいですけど・・・ご主人様の力を象徴する部屋ではありますね・・・」

 軍師三人は華琳が言外に言わんとすることを察しているが、蒲公英には何のことやらさっぱりだった。

「・・・・・ねぇねぇ、たんぽぽにも分かる様に説明してよ。」

「おお、すまんすまん。北郷たちならこの閨がどういう目的で造られたかひと目で理解するだろう。そして蒲公英、お前が言ったように北郷たちはこの閨を本来の目的の為に使いたいと思うはずだ。しかし、先程言った様に内憂外患が在る内は無理。ならば北郷たちは内憂外患が無くなるよう努力奮励すると思わんか?」

「それってご主人様たちの前にエサをぶら下げて走らせるって事?」

「言い方はちょっと引っ掛かるけど・・・ご主人様にはそうです。それからこのお部屋の存在は外敵や地方豪族、それに民に至るまでご主人様に畏怖を抱かせる事ができる・・・・・畏怖の種類が少しアレだけど・・・」

「更に言えば『お兄さんたちに色事関係の誘惑や策を弄しようとしても、我々が目を光らせているぞ』と、暗に示す事ができるのですよ♪」

 要するに一刀たちに『美女連環の計』を仕掛けさせない為の布石として使おうという訳である。

 情に(ほだ)され易い一刀たちだ。いくら策と判っていても放って置かないだろう。

 しかも相手の女性が一刀を騙すつもりで近づいても最終的には一刀に対して本気になってしまうであろう事は、三国のツンデレ達を見ていれば確定事項と言っても過言では無い。

 いくら複数の女性を愛することがこの国での英雄の努めとはいえ、彼女たちもこれ以上増えられては一刀と過ごす時間が減っていくという危機感を持ち始めている。

「なるほどねぇ~。それじゃあたんぽぽは常にご主人様のそばにいて目を光らせる役って事で♪」

「そんなの無理ですよぅ!たんぽぽちゃんだって自分の部隊があるじゃないですか!」

光禄勲(こうろくくん)(九卿・皇帝の身辺警護担当職)は恋と決めてあるの・・・・・なんなら蒲公英、恋と一騎討ちをして勝ったら代えてあげてもいいわよ♪」

 蒲公英の魂胆を見透かしている華琳は極上の笑顔で提案した。

「・・・・・・遠慮しておきます・・・・・・・」

 

 このような経緯を経て『大閨』が造られる事となった訳だが、その後一つの問題が発生した。

 いつもの様にこの大閨の存在を噂として流し、対外的には朱里と風の言ったようにその効果を現した。

 しかし女官を含む宮中での働き手の募集を始めた所で思わぬ事態が起きたのである。

 なんと定員の十倍の女性が応募してきて、しかもその理由のほとんどが『御遣い様にお仕えしたい』と言っている。

『街中では会って話をすることも難しいけど宮中ならば』という訳である。

 これに対し少府(九卿・宮中担当職)の詠がブチ切れ、強権を発動した。

 

「禁中法度っ!!『北郷一刀』は女官に手を出した場合即刻監禁っ!!」

 

 これにより大閨の最初の使用者が女官たちという最悪の事態は回避された。

 この件は全国の娘たちが『天の御遣い』に途轍も無く憧れを抱いている事を知らしめ、三国の軍師達はその対策に頭を痛めた。

 

 余談だが、詠はこの一件で廷尉(九卿・司法担当職)も任される事となった。

 

 

 

呉 建業

【冥琳turn】

「北郷、準備は出来たか?」

「あれ?冥琳が俺の部屋に来るなんて珍しいな。お茶でも淹れようか?」

 ふむ。茶を勧めるような余裕が有るという事は出発の準備は終わっている様だな。

「準備って言っても女官の子達がほとんどやってくれたから、俺のやることなんて殆ど無かったけどね♪」

「それもそうか。・・・・・・なら一杯ご馳走になるとするか♪」

 私は卓に着いて北郷が茶を淹れるのを眺める。

 実はこれから新都となる房陵に向い、三人の北郷を皇帝に即位させるのだが。

 その事にこの赤北郷が気付いていないか確認しに来た訳だ。

 

 思えば不思議なものだ。

 

 私は雪蓮をこの大陸の王にしようとしていた筈なのに、今では雪蓮と一緒になってこの男を皇帝に祭り上げ様としている。

 あの日、雪蓮と祭殿が北郷を拾ってきたのが始まりか。

 一歩間違えば狂人として首を刎ねられている処だったと云うのに、この男ときたら・・・・・。

「ふふふ♪」

「へ?何?どうしたの?」

「いや、お前と初めて遭った時を思い出してな・・・・・」

「ああ・・・あの時はどうやって信じて貰うか必死だったからなぁ。結構変な事言ってた気がするな♪」

「嘘つけ。飯をたら腹食ってぐーぐー寝ていたのは何奴(どいつ)だ?祭殿も妙に腹が座った奴だと感心していたではないか♪」

「あはは♪ジタバタしても始まらなかったからさ。はい、どうぞ。」

「ん、戴こう♪」

 北郷も卓に着き、一緒に茶を啜る。

 変わったな、北郷は。

 一時は出来の悪い弟を持った気にもなったが、今では北郷に頼る所も少なく無くなっている。

「今回の三国総会議と式典では、お前たち三人にもやって貰う事が有るからな。心構えはしておけよ。」

「・・・・・それなんだけどさ・・・・・会議は良いんだけど、式典って去年やった凱旋行進みたいなモンだろ、何か照れるな。」

「照れる?お前にそんな殊勝な所があるのか?」

「うわ、ひど!俺はみんなを影から支えただけだろ?大勢の前で褒められる様な立場じゃないって言うかさ・・・・・」

「まったく・・・・・そう思っているのはお前たち三人だけだぞ。民がお前たちの姿を見たがっているんだ。民の前に立つだけでもその支えになれるのだから、しっかり役に立ってもらうぞ♪」

「役に立つならやるけどさ・・・・・」

 うむ、気付かれてはいない様だな。

「これでも褒めてるんだ。不貞腐れるな。」

「今の会話で褒められてると思える様になったら、俺は迷わず華佗に頭を診てもらうよ!」

 ・・・華佗・・・・・・か。

「ん?今度は深刻な顔になって・・・・・・冥琳、何か有ったのか?」

 まったく、本当にこういう処には気が回る奴だな。

「向こうに着いたら早々にお前を華佗の所に連れて行って、大人しくなる薬か鍼を施してもらおうかと思ってな。去年の『建業三周事件』の二の舞は避けたいからな♪」

「マジ勘弁してください!」

「冗談だ。そんな事をしたら蓮華様が口を聞いてくれなくなる。」

 変わったといえば蓮華様の北郷に対する態度もだな。

 最初遭った時は親の敵のような目で睨んでいたのに・・・・・。

 

「一刀♪準備が終わって時間が有るようなら・・・・・・・・・・め、冥琳居たのっ!?」

 

 噂をすれば影か♪

「これは蓮華様。ちょうど今蓮華様の話題が出たところです♪」

「わたし・・・の?」

 はは♪北郷のやつ目を見開いて慌てている♪

「北郷が悪さをしないように、華佗に鍼か薬で大人しくさせるぞと言ったら、蓮華様が悲しむからやめてくれと・・・」

「言ったのは冥琳だろっ!しかも微妙に改ざんされてるしっ!!」

「そ、その・・・冥琳・・・・・それはさすがにやりすぎだと思うの。勘弁してあげて。」

 頬を染めてそんな可愛らしい態度を・・・・・北郷、蓮華様がこのような態度を取るのはお前だけだという事をもっと自覚しておけよ。

「ふむ・・・・・そうですね、ではその役目は蓮華様にお任せ致しましょう。」

「「は?」」

「北郷が大人しくなる様、蓮華様が傍にいてやって下さい。では、私はこれで退散させていただきます♪」

 最後にわざと含み笑いを加えておく。

「え?ええっ!?ちょっと冥琳っ!!」

 聞こえない振りをして北郷の部屋を後にすると、蓮華様は直ぐ北郷に言い訳をし始めていた。

 おやおや・・・折角二人にして差し上げたというのに・・・・・。

 

「あ、冥琳!一刀の部屋に行ってたの?」

 

「これは小蓮様。はい、北郷はまだ部屋におりますよ。」

「あは♪ありがとう冥琳!!」

 決断が遅いとこうなるんですよ、蓮華様♪

 

「ああぁっ!!お姉ちゃんズルいっ!!」

「シャオ!?」

 

 部屋の中から言い争う声が聞こえて来るが、何時ものことだ。ここは北郷に骨を折ってもらおう♪

 

「冥琳ー♪どうしたの?ニヤニヤしちゃって。」

 

「何だ雪蓮、お前も北郷の所に行くのか?」

「私も?・・・・・あら、蓮華とシャオに先を越されたか・・・・・しょうがない。ここは二人に譲っておきますか。姉妹三人で押しかけちゃ一刀が可哀想だもんね♪」

 そういえば雪蓮も変わったな・・・・・・表面的には変わってないが、北郷を『男』として見るようになっている。

 これは私みたいに雪蓮と長く付き合っていないと分からない微妙な変化だが。

「どう雪蓮、出発まで建業の街を見て回らない?」

「ん、そうね。今度は何時戻れるか判らないし・・・・・・」

 

 私の身体は今、病に蝕まれている。

 

 以前華佗に長期の静養治療が必要だと診断されていたが、北郷の即位まではと治療を引き伸ばして来た。

 華佗から貰った薬で病気の進行は抑えているが、この体の痛みはどうしようも無かった。

 私は引退を決意して、新都房陵での治療を始める事にしたのだ。

「雪蓮まで隠居する必要は無かったのに・・・・・」

「私は以前から家督を蓮華に讓るって言ってたわよ♪平和な世の中になったら私みたいな戦好きの王様より蓮華みたいに真面目な王様の方がいいでしょ♪」

「まだ戦が完全に終息した訳ではないのよ。」

「その時は一刀たちの武将として参戦すればいいじゃない。」

 これは本気の目だな。

「それに以前にも言ってるもんね♪隠居したら三人の一刀の下を巡って旅をするって、一刀たちを一箇所にまとめるから旅の必要は無くなったけど。それに・・・・・・」

「それに?」

 雪蓮が私に腕を絡めてきた。

 

「私が冥琳から離れられる訳ないじゃない・・・・・」

 

 これを言われたら私は降参するしか他はなかった。

「分かったわよ。それじゃあ私と雪蓮で三人の北郷を鍛えてあげましょう♪」

「えぇ♪あ、それからね・・・」

「まだ何かあるの?」

「冥琳の病気が治ったら、私は冥琳と一緒に一刀の赤ちゃんを産みたいと思ってるの。」

「・・・・・・・・・なにを馬鹿な事を・・・・・」

「これは今の私の夢なんだから、早く叶える為にも病気を治しなさい、冥琳!これは命令よ♪」

「はいはい・・・ご命令承りました、我が王よ♪」

 

 

 

魏 荊州新野

【秋蘭turn】

「北郷、華琳様がお呼びだ。直ぐに来てくれ。」

 五千の隊列が新野城を出発し、房陵へと向かう途中。

 後列の指揮をしている北郷を見つけ声をかけた。

「了解。凪、こっちの指揮は任せた。ちょっと行ってくるよ。」

「了解しました、隊長!」

 隊を離れた北郷は私と轡を並べ華琳様の下へ向かう。

「秋蘭、何か有ったのか?まさか賊・・・だったら俺じゃなく春蘭を呼ぶだろうし・・・」

「いくら荷車が多いとはいえ、曹魏の旗が守る隊列に襲い掛かる賊などこの辺りにはおらんよ。」

「それもそうだ・・・・・それじゃあ華琳の用事って何だろう?」

 真剣に悩む北郷には悪いが、本当の事は話せないな。

 さて、何と言って誤魔化すか・・・・・。

「式典で北郷がへまをしたり、騒動を起こさないか心配なさっておいでなのではないか?」

「う・・・・・・・否定できない・・・・・」

 成程、自覚はしてるのか。

 騒動の度に北郷が関わっているから、傍から見ると北郷が中心になって起こしているように見えるが、むしろ巻き込まれている方が多いのが事実なのだが。

 裏を返せば皆が北郷に会いに来ているという事だ。

 しかもその事にはまるで自覚が無いから始末が悪い。

「そういえばその式典をする場所、房凌だけど。なんでそこになったんだ?」

 やはり訊いて来たか。

 この質問が必ずあるのは予測済みなので、過去の三国会議でどう答えるかは決めてあるから大丈夫だ。

「房凌は蜀の地だが東に曹魏、南を孫呉との国境と接している。会議用の場所も建設したしな。」

「いや・・・・・それは前にも聞いた事があるから知ってるけど・・・・・式典をするなら許都・・・成都や建業でもいいけど、そういう大きな街でやった方がいいと思うけど。」

 むむ、食い下がるな。

「それはな、房凌での戦から丁度一年になる記念の日だからだ。」

 これも前から決めてあった答えだ。

「あ・・・そうか、桃香達が、房凌を攻めていた氐族を追い払ったのがあの戦の本格的な初戦だったもんな。」

「街の大きさについては・・・・・北郷は房凌に行くのは初めてだったな。」

「あぁ、そうだけど・・・」

「行けば分かるが・・・・・多分驚くぞ♪」

 これ位は言っても問題ないだろう。

「魏、呉、蜀の平和同盟を象徴する地として、三国が協力して整備したからな。」

「ええ!?そうなの?・・・・・・平和の象徴となる街か、楽しみだなぁ♪」

 北郷が房凌に思いを馳せている所で、華琳様の下に到着した。

 

「あら、結構早かったわね。秋蘭に頼んで正解だったわ♪」

「なあ華琳!房凌は平和の象徴として三国で整備したんだって!?」

「えっ!?どうして・・・・・・・・」

 華琳様は驚かれていたが私の顔を見て納得された。

「秋蘭~。駄目じゃないばらしちゃ。」

 一見怒っている様に見えるが、私が一番肝心な所を教えていない事に気付かれ、一芝居打たれるつもりだ。

「もしかして・・・・・俺を驚かせる計画だったのか?」

「ええ、そうよ!」

「北郷の勘が冴えていたから、早々と降参してしまいましたよ。」

「あ、あれ?お、俺の所為なの?・・・・・・・・・」

「一刀を驚かせるネタはまだ有るんだけど・・・・・まさか私の楽しみをこれ以上奪ったりしないわよね、一刀♪」

 ふふ、北郷の額の冷や汗がすごい事になって♪

 これで北郷がこれ以上探りを入れてくる事は無いだろう。

 ・・・・・・・・・・・・・華琳様のあの笑顔。

 私達には見せる事のない、北郷にしか見せない笑顔。

 華琳様自身気付いておられない、そして私が言っても絶対否定される。

 華琳様のあの笑顔が『甘え』であるという事を。

 北郷・・・お前も気付いていないのだろうな・・・・・・。

 その笑顔がどれだけ貴重かということにも。

 

 だから・・・・・・・お前には絶対に教えてはやらんぞ♪

 これは私の嫉妬だよ・・・・・・・一刀。

 

 一刀と華琳様。

 二人に対して嫉妬と愛しさを同時に抱き、それを嬉しく思う私。

 姉者も私と同じ・・・・・・いや、むしろ姉者の方が顔や態度に出る分より強く感じているかもな♪ 

 ふふ、華琳様に変態姉妹と罵られるのも最もだ♪

 

一刀に初めて出会った時はこんな日が来る等、微塵も思わなかった。

 そういえば我らに出会う前に稟、風、星に出会っていたと言っていたな。

 もし我らと先に出会っていたらその場で首を刎ねられていただろうな♪

 いきなり真名を呼んで。

 赤と緑の一刀の情報が入ってきた時も驚かされたが、やはり三人揃った時が一番衝撃を受けた。

 未来からやって来たと言っていたのに、あれでは本当に天の国からやって来たと言う方が信じられる。

 こんな不思議な男を愛し、皇帝に据えようなどとは・・・・・。

 私を含め皆酔狂な物好き達だな♪

 

我らの愛は重いぞ、一刀♪

 皇帝となってしっかり受け止めてもらおう♪

 

 

 

蜀 荊州 房陵近郊

【桃香turn】

「ご主人様、もうすぐ房陵の城壁が見えてくるよ♪」

 馬車から見える景色に、わたしが目印にした大きな木が見えてきた。

「房陵か・・・・・俺はあの戦以来だから一年ぶりなんだよな。」

 新しい都にするために色々建てたり直したりしてたから、ご主人様がここに来れないようにしてたもんね。

 今もまだ工事はしてるけど・・・・・。

 わたしは今日の為の打ち合わせとかで三回来たけど、来る度に街が立派になっていってビックリしたなぁ。

 ご主人様にはそのビックリをまとめて味わってもらうんだから♪

「えへへ♪」

「なんだ桃香、今日は一段とご機嫌だよな。」

「それは待ちに待った日だもん、楽しみでワクワクが止まんないんだよ♪」

「はは♪全員が揃うのって麗羽との戦以来だもんな。俺も楽しみだよ♪」

 うん、ご主人様はまだ気付いてないね。

 麗羽さんたちにも私は来て欲しかったんだけど、みんながダメだって言うんだもんなぁ。

 美羽ちゃんなんか一緒に来たがってたけど、雪蓮さんも来るって言われたら真っ青になって震え出しちゃって・・・・・・・話には聞いてたけど、雪蓮さんどれだけ脅したんだろう・・・・・。

 

「あっ!ご主人様!見えたよ!ほらっ!!」

「おっ!・・・・・・・・あれ?房陵の城壁ってこんなにでかかったっけ?」

「えへへ♪今、房陵はね、三国が協力して整備してるの。城門をくぐったらもっと驚くよ♪」

「そんなことになってたんだ・・・・・・三国が協力・・・・・すごい素敵な街になるんだろうなぁ♪」

 ご主人様は眩しいものを見るように城壁を眺めている。

 

 思えば愛紗ちゃん、鈴々ちゃんと一緒に初めてご主人様と出会ってから色んな事があったよね。

 楽しいこと、悲しいこと、嬉しかったこと、苦しかったこと。

 全てが有ってこの日を迎える事になったんだって、

 ご主人様の顔を見てると改めて思える。

 

「これが房陵の街!?以前とは比べ物にならないくらい立派になってる!」

「どう?ご主人様♪まだ結構工事中だけどスゴイでしょ♪」

 ご主人様ったら馬車から身を乗り出して流れていく街並みを眺めてる♪

「ああ、すごいなあ。驚いたよ。」

「まだまだ、もっと驚いてもらうからね、ご主人様♪」

「え?それってどういう・・・」

「えへへへ♪まだナイショだよ~♪」

 

 そう!本当に驚くのはこれからなんだから♪

 

 

 

【緑一刀turn】

 桃香はニコニコと笑って、俺がいくら質問しても「ナイショだよ~」としか言ってくれない。

 一体何を企んでるんだろう?

 でもこうしたサプライズで俺を喜ばせようとしてくれているのは充分伝わってくるので、ここは敢えて驚かされてあげるのが俺の役目だろう。

 こうして嬉しそうな桃香を眺めていられるだけでもかなり幸せじゃないか。

 だが、俺がそんな幸せな気持ちで居られたのはここまで。

 大通りの向こうに巨大な建造物が目に入るまでだった。

「うわっ!なんだよこのでっかい城は!?・・・・・成都城よりでかいだろこれ・・・・・」

 俺の驚く様に桃香の笑顔が一層輝いた。

「うん♪大きさで言えば許都や建業のお城より大きいよ。でも、そんなに派手じゃないでしょ。」

「まあ、確かに・・・・・俺はコレくらいの方が落ち着いてていいかな。」

 桃香の言う通りこの城の外観は、派手な色彩の塗料をふんだんに使ういわゆる中華風ではなく、どちらかというと和風建築に近い外観をしていた。

「よかった、ご主人様に気に入ってもらえて。大きさは・・・これくらいないと入りきらないんだよねえ。」

 桃香のその大きな胸を撫で下ろす姿は、心底ホッとしている様だった。

「ああ、今日みたいな会議のこと?確かにそうかもな。」

 五十人近い武将軍師達を一度に収容しようという城だ。

 みんなの居室や世話をしてくれる人達、護衛の兵士の数を考えればこれくらいの建物になってしまうのかもな。

 

 そんな俺達が城を眺めながら進む馬車の前に突然人影が飛び出した!

 

「うわっ!危なっ・・・・・・・え?」

「御子様。お久しぶりでございます。羌族族長迷姚、この晴れの日にお祝いを延べに参上仕りました。」

 飛び出して来たのはなんと炙叉だった。

「う、うん・・・ホント久しぶり・・・・・・・なんだけど・・・・・」

 敦煌で別れて以来の再会だ。炙叉が突然現れた事にも驚いたが・・・・・。

「その抱えてるのは・・・・・」

「あぁ!いえ、ここで御子様がお越しになるのを待っていたら、目の前にやってきたのでつい・・・・・」

 炙叉は美以達四匹・・・いや四人をまとめてハグしていた。

「に・・・ニィ・・・・・たすけてにゃ・・・・」

 かなり強烈なハグを貰っているようで、美以は既にグッタリしていた。

 明命といい、炙叉といい・・・・もう少し加減してあげられないのかなぁ?

 美以は朱里達の会議やパレードの準備の為の先行隊と一緒だったので数日前に到着していた。

 街ではしゃいでいる所を炙叉に見つかって捕獲されたんだろな。

「ご主人様、こちらが前に言っていた迷姚さん?」

 俺が桃香の質問に答えるより早く、炙叉が答えた。

「これは失礼致しました。あなた様が蜀王劉備玄徳様ですね。お噂はかねがね聞き及んでおります。この度はお招き頂けた事大変感謝しております。どうか私の事は炙叉と、真名でお呼ください。」

「は、はい!・・・・・わ、わたしの事も桃香って真名で呼んで下さいね、炙叉ちゃん♪」

 深々と頭を下げる炙叉に戸惑っていた桃香も、真名を預けられ落ち着きを取り戻した様だった。

「炙叉、良かったら一緒に乗っていかないか?」

「よろしいの・・・・・ですか?」

 ちらりと桃香を炙叉が確認する。

「桃香だって話をして仲良くなりたいよな♪」

「うん♪大歓迎だよ♪」

「それでは・・・お言葉に甘えさせて頂きます。」

 馬車は炙叉とグッタリしている美以、ミケ、トラ、シャムを乗せ、城へ向けて動き出す。

「さっき待ってたって言ってたけど、赤と紫には・・・・・」

「はい、先にお会いしています。お二方共もう入城されていますよ♪」

 穏やかで和やかな笑顔・・・・・なんか違和感が・・・・・。

「炙叉、緊張してる?」

「え?・・・・それは・・・」

 炙叉が冷や汗を掻き出したところを見ると図星だったようだ。

「炙叉ちゃん緊張してるの?」

 桃香も心配そうに問いかけた。

「じ、実は・・・・・訛りがきついので・・・・・先程も蓮華様と小蓮様に引かれまして、今度は失敗しないようにと・・・」

 成程・・・・・確かに炙叉のアレは訛りがきついってレベルじゃないしな。

 そもそも方言がごちゃ混ぜだし。

「蓮華さんとシャオちゃんとも真名を交換できたんだね♪おめでとう♪それから私は訛り気にしないよ。方言って暖かい感じがして私は好きだけどなぁ♪」

「ホンマ?ウチもなまらシンドいけ、こん方が楽なんじゃけんど・・・・・やっぱり崩さない方がいいみたいですね。」

 桃香の目が点になったのを見て、早々と諦めたな。

 それから城に着くまでの僅かな時間だったが、桃香と炙叉は楽しく語らい、馬車を降りる頃には仲がとても良くなっていた。

「ご主人様、桃香様、お待ちしていました。お疲れとは思いますが桃香様はお召代えを・・・炙叉さん!それに美以ちゃん達も!」

 城の入口で待ち受けていた朱里。

 そんなに焦ってどうしたんだ?

「それじゃあご主人様、着替えたら直ぐに行くね♡」

「桃香様!お急ぎ下さい!」

 紫苑に呼ばれ桃香は手を振りながら走って行った。

「ご主人様、炙叉さんたちを連れてきて来て下さってありがとう御座います!もう始まりますので会場となる玉座の間にご案内します!」

「おいおい朱里!そんな直ぐに始めるのか?」

 朱里の小さな手に引かれて城の奥へと進んでいく。

 

「華琳さんをこれ以上待たせる勇気がお有りならゆっくりされても構いませんけど。」

 

「急いで案内して!」

 どれだけ待たせたかは判らんけど、この朱里の様子じゃかなりやばそうだぞ・・・・・。

 

 

 

 朱里に案内されて入った玉座の間には既に三国のほぼ全員が集まっている様だった。

 部屋の奥には立派な拵えの雛壇状の台座とその上には、これまた立派な拵えの玉座が三脚並んでいる。

 ああ、なるほど。あれに華琳、雪蓮、桃香が並んで座って会議をするわけか。

 

「「緑、こっちだ!」」

 

 玉座の真正面になる席から、赤と紫が手を振って呼んでいる。

 俺はみんなが掛けてくれる挨拶に手を振って答えつつ、二人の所へ駆け寄った。

「よお、来たな、緑」

「そっちは大変そうだな。」

「よう。赤、紫。そう思うならたまに変わってくれよ。」

 これは麗羽たち袁家の皆さんのことだ。

 どんなに離れて、何ヶ月と会わなくても目の前に居るのは『俺』だ。

 多くを言葉にはしなくても分かり合える。

 話題が袁家ってのがちょっとアレだけど・・・・・・・。

「ところで、今回の会議の議題聞いてるか?」

「いや、それが俺たちも知らないんだ。」

「やっぱり蜀でも教えてもらってないんだ。」

「う~ん、サプライズのつもりなのはいいが、会議の議題まで教えて貰えないってのは困ったもんだな。」

 俺たち三人が頭を捻っていると台座の横に置いてあったスタンドマイクの前に稟が現れた。

「司会進行は稟か・・・・・・なんか緊張してるのかな?顔が赤くないか?」

 そう言った途端に稟は

 

『それではっブハーーーーーーーーっ!!』

 

 盛大に鼻血を噴出した。

「「「・・・・・・・・・・・・・・・極度の緊張でも鼻血が出るのか・・・・・・」」」

 あ、詠と風が出てきた。

「ちょっとなにやってんのよ!」

「あ~凛ちゃんしょうがないですね~。ほら、トントンしますよ~。トント~ン。」

「もう、しょうがないわね!後はボクが変わるから・・・・・・・って、誰か鼻血拭くもの持ってきてー!もう、マイクが血だらけじゃない!うぅ・・・」

 コントなのかこれは?笑うところなのか?

 

『あ~、コホン。では改めまして、これより新国家「晋」の建国式を執り行います。』

 

「「「えぇっ!?」」」

 

『晋初代皇帝北郷一刀様!こちらへ!!』

 

「「「はあああぁ!?」」」 

 

 な、なななな何だってええええええええええええええええええ????

 いくらサプライズって言っても、規模が大き過ぎるってっ!!!

 

 俺たち三人はお互いの顔を見合わせる。

「ほら、早く行ってこい三人とも♪」

 紫の後ろの席から秋蘭が。

「さあ、ご主人様♪」

 俺の後ろの席から愛紗が。

「主役が行かなきゃ話しが進まないでしょ♪」

 赤の後ろの席から蓮華が声を掛けた。

 そうは言われても心の準備が出来ていない俺たちはその場でオロオロするばかり・・・・・。

 ふと気が付くと台座の上に雪蓮、桃香、華琳が正装をして立っていた。

 この場はとにかく三人の王様の所に行かないとどうしようもなさそうだ。

 俺たちは台座の階段を登り三人の前に立つ。

 そこで初めて三人が両手で冠を持っている気が付いた。

 同じ形だが赤、緑、紫の冠を。

 

「・・・・・本気・・・・・なのか?」

「・・・・・今ならまだ冗談ですませられるぞ。」

「・・・・・考え直さないか?」

 

 俺たちは最後の抵抗で言ってみるが、王様達はまるで動じていない。

 俺たちがこう言い出すのは予測済みと言う訳か。

 三人の王様はお互いの眼を見て頷き、桃香が代表して話し出す。

 

「これはわたしたちも長い間話し合って決めたことなの。

わたしたちが同盟を組めたのも、数々の戦を勝ち残ってこられたのも、

そして今の平和な世の中でみんなが笑って暮らせるのも、

みんな『北郷一刀』って素敵な人がいたからなの。

だからこれはわたしたちの感謝と信頼の証。

これからもどうかわたしたちを導いてください。

 

皇帝陛下♡」

 

 桃香の、そして雪蓮、華琳の瞳は今の言葉以上にその気持ちを伝えていた。

 そんな彼女達の気持ちを否定するなんて事を俺たちに出来るわけが無かった。

 

 俺たちは黙って片膝を付き彼女達の顔を見上げる。

 三人の王様は俺たちの頭にそっと冠を載せた。

 俺たち三人はゆっくりと立ち上がり、目の前の女性を軽く抱きしめ同じ言葉を耳元に囁く。

 

「ありがとう」と・・・・・。

 

『続きまして伝国璽の授与!』

 

 またしても詠の言葉に驚かされた。

 特に赤は驚いて雪蓮の顔を凝視している。

「雪蓮、それは!」

「これが在ったおかげでここまで出来たのよ。感謝してよね♡」

 俺たちの知っている正史では、これの所為で袁術は僭王の誹りを受けて滅んだ。

 しかし今、漢王朝も無くなり俺たちは正式に伝国璽を手にしようとしている。

 

 そして雪蓮から直接俺に伝国璽は手渡された。

 

「さあ、みんなの方を向いて♪」

 雪蓮に促され俺たち三人は広間を埋め尽くす見知った顔たちに振り返る。

 その背には冠と同じ色の外套が掛けられた。

 

 ああ、やってやるさ!ここまで信頼され期待されたんだ。

 しかもこんな大勢の素敵な女性たちから。

 男として燃えてこなきゃウソだろ?

 

 俺は手にした伝国璽を右手で高々と掲げ声高に宣言する。

 

「俺たち、三人の『北郷一刀』は今ここに晋の皇帝となることを宣言する!!」

 

うおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 割れんばかりの拍手と歓声を受け、俺たちは達成感に酔いしれた。

 徐々に拍手が止み、俺たちは傍らの女性にそれぞれ手を引かれ、

 

 ついにその玉座に着いたのだった。

 

 

 

 

 

『みんな!盛り上がった所で申し訳無いけど、この場を借りて孫呉から重大発表させて貰うわよ!!』

 

 いつの間に用意したのか、雪蓮がマイク片手に壇上でみんなに向かっていた。

『冥琳!』

 雪蓮の声に冥琳も壇上に上がってきた。

 マイクを受け取りみんなの方を向く。

 

『私は今、病を患っている。華佗の診察では長期の休養治療が必要だという事だ。そこで私は孫呉の大都督を引退し、治療に専念することにした!』

 

「「「えぇっ!?」」」

 俺たち三人は思わず玉座から立ち上がっていた。

「そんな!冥琳っ!!嘘でしょうっ!!」

 俺たちも驚いたが、それ以上に蓮華が驚いたようで壇上まで走って来る。

『あら、ちょうどいいわ蓮華♪私も隠居して家督は蓮華に讓るから♪今からあなたが孫呉の王よ♪』

 雪蓮が更にとんでもないことを言っちゃってるよ!

「雪蓮姉様までっ!何を馬鹿な事を仰っているんですっ!!」

『え?前から言ってたじゃない。家督はあんたに譲るわよ~って。』

「そ、そのような事・・・・・冗談だと思うに決まってるじゃないですかっ!!」

 まあ、雪蓮のあんな言い方じゃそう思うよな・・・・・普通。

『私はね、一刀たち三人を即位させるのが王としての最後の仕事って決めてたの。それに治療でここに残る冥琳を放って私が建業に帰れると思う?』

「あ・・・・・・」

 ・・・・・そうか・・・・・そうだよな。

 雪蓮と冥琳が離れて暮すなんて有り得ないか。

 二人が離れ離れになったら、前の外史みたいに冥琳が暴走してしまうかも・・・・・。

 それに雪蓮も・・・・・・あれ?

(なあ赤、雪蓮の服の胸元。さっきより開いてないか?)

(気が付いたか。あのマイク、胸の谷間に隠してたんだよ・・・・・)

((なんて事を・・・))

 確かに雪蓮のおっぱいなら・・・・・大きさで言ったら桃香も出来そうって桃香!?

 なにやらコソコソやってると思ったらマイクを胸の谷間に入れようとてるし!

 他人がやってるのを見て自分もやってみたくなったんだろうけど・・・子供じゃないんだから。

 それに、そのマイクは何処から・・・・・あ、玉座の向こうの台に置いてあったのかって華琳もかよっ!!

 俺たち三人は同時に華琳の行動に気付き、咄嗟に動いた。

 華琳のおっぱいでそんな事をしようとすれば結果は明らかだ

 俺たち三人は不自然に見えなよう移動して華琳をみんなから隠す。

 と、ほぼ同時に

 

カツーーーーン

 

 マイクは床に落ちて硬い音を響かせた。

『何?今の音?』

「ごめんごめん、手を滑らせてマイクを落としちゃったよ♪」

 俺が言い訳をしてマイクを拾い、その間に紫が華琳と何やら小声でやり取りし、赤が俺からマイクを受け取り・・・・・。

 

『雪蓮が俺たちを皇帝にするのが呉王最後の仕事なら、俺たちは蓮華を呉王に就けるのが最初の仕事だよな、雪蓮♪』

 

「そんな!一刀まで!」

『あははは♪さっすが一刀♪解ってるじゃない♡』

『蓮華、俺だって雪蓮が呉王を辞めるってだけなら何としても止めたさ。でも、冥琳の治療の為なら俺は・・・俺たちは全面的に雪蓮に協力するよ。』

 この説得には蓮華も反論できない様だ。

「・・・・・わかったわ、一刀・・・・・」

 蓮華から肯定の言葉を聞いて俺と紫が赤の横に並ぶ。

 

『では孫権仲謀。前呉王孫策伯符の推薦を受け、貴女を新たなる呉王と成る事を、我ら三人の晋皇帝北郷一刀はここに認め見届ける。』

 

 赤がマイクを差し出し、蓮華はそのマイクを受け取り、みんなの方に振り返る。

 

『我、孫権仲謀は呉王となり、魏王曹操孟徳、蜀王劉備玄徳と共に三人の晋皇帝北郷一刀を援け、全身全霊を以て国の為、民の為、王としての務めを果たす事をここに誓うっ!!』

 

 玉座の間がまた拍手と歓声で大きく震えた。

「「「これからもよろしくな、蓮華♪」」」

 マイクを下ろした蓮華は、はにかみながら俺たちを上目遣いで見る。

「こちらこそ・・・・・三人ともよろしくね、一刀♡」

 

 蓮華の即位も、覇王様と大徳様の奇行も丸く収めることが出来たな・・・・・しかし、華琳があんな行動をするなんて・・・どういう事か後で紫から聞いておこうっと♪

 

『さあみんなっ!新たな皇帝と呉王のお披露目祝賀行進よっ♪その後は大宴会で盛り上がるわよーーーーっ!!』

 

 雪蓮・・・・・隠居したのにお前が仕切るんかい!

 

 

 

 

エピローグ

 

【緑一刀turn】

 そんな訳で俺たち三人の『北郷一刀』は、まんまと皇帝にされてしまった。

 まったくみんな、こんな大事を良くまあ内緒で進めたもんだ。

 しかも国号が『晋』とは・・・・・・この外史には司馬懿仲達の姿が無いから、俺たちが司馬家の代りって事なのか?

 まあ、それはさて置き。

 晋の国土は魏、呉、蜀三国全てなのだが、

 がっ!がっ!!がっ!!!

 直轄地は房陵郡のみ・・・・・。

 

 ちっさ!

 

 まあバチカンよりは広いけどさ・・・。

 なぜ、ここが選ばれたかというと、三国の国境が接している土地だったから。

 いいのか?それで?

 首都なんだよね、ここ?

 まあ、房陵は漢中に有るから、俺たちは『漢中王』でもあるのか?

 

「ほらっ!ボーっとしてないでちゃっちゃと書類を片付けなさいよ!三人居るんだから三倍・・・そういえば貂蝉があんたたちは三人揃うと能力が三乗になるって言ってた事があったわね。」

 俺たちは今、執務室で書類や書簡の山の中で悪戦苦闘の真っ最中だった。

「「「詠、零は幾つ掛けても零なんだよ。」」」

「・・・・・・・・・・・・・あんたら自分で言っててヘコまない?」

 うん、実は涙が止まらない。

「詠ちゃん、帝にそんな言い方失礼だよぅ・・・」

「「「うぅ・・・・・・月は優しいなぁ・・・でも、二人には今まで通り『ご主人様』って呼んで欲しいなぁ♪」」」

「ボクはそんな呼び方したことないわよっ!」

 

 俺たちが即位した後、三国のみんなは引越しの為に一度それぞれの都に戻る事となった。

 しかし、この首都房陵に残るのが俺たち三人と雪蓮、冥琳だけじゃどうしようもない。

 当然そこは考えてくれていて、みんなが引っ越して来るまで月と詠が政務の補佐をしてくれる。

 本来二人の役職は内朝(皇帝側近)となるそうだが、現在の二人は三公九卿のほとんどを兼任する形になっていた。

 麗羽がよく『三公を輩出した袁家』なんて言ってるけど、一時的とは言え月と詠は袁家のご先祖様を全て合わせた位偉くなっちゃっている訳だ。

 

「・・ご主人さま、おなかすいた。」

 そして九卿の内『光禄勲』という俺たちの身辺警護役には恋が抜擢された。

「恋殿のタメが短いのです!これは早急に食事を用意しなければまずいのですよっ!」

 恋が居れば当然ねねも居る訳で。

 ねねは恋の補佐役である。

「しょうがないわね・・・・・それじゃあ休憩にして市までお昼を食べに行きましょう。」

「「「いいのか?詠♪」」」

「でも!街の視察も兼ねるからね!」

 

 

 城下の街に繰り出し食事が出来る所を探す・・・・・食堂や屋台は結構たくさん有るんだけど、どこが美味しいかが分からないんだよな。

 鈴々や季衣が居れば判るのかもしれないけど、今この場に居ないんじゃしょうがない。

 

「陛下!どうされたのですか!?城下に降りてこられるなどっ!!」

「あ!隊ちょ・・・じゃなかった陛下たちなの!それに月ちゃんに詠ちゃんにねねちゃんに・・・・・・恋さんが居るあたりで大体事情が解ったのぉ・・・・」

「ウチらもご一緒させてぇ♪」

 

 魏の三羽烏こと凪、沙和、真桜は房陵の警備隊を任されている。

 さすがに九卿までは行かないが凪は武衛将軍、沙和は奮威将軍、真桜は強弩将軍と官四品位の将軍号を貰っていた。

「凪、声が大きい。街の人が驚いてるって。許都と違って房都の人はまだ俺たちに慣れてないんだから。」

「沙和は察しがいいなぁ。あ、そうそう俺たちの事は呼び易かったら『隊長』のままでいいよ。」

「真桜・・・・・お前ちゃっかりしすぎ。」

 

「あー!ホントに一刀たち・・・って何?お揃いじゃない♪」

「「「雪蓮!・・・・・・・・あれ?どこだ?」」」

「こっちこっち♪」

 声は上から聞こえてきた。

 飯店の二階の窓から身を乗り出してる雪蓮と、奥に冥琳の姿も在った。

「丁度今から食べる処だ。お前たちも一緒にどうだ?」

 当然俺たちはご一緒させて頂きます♪

 

「「雪蓮・・・いくら隠居したからって昼から酒かよ・・・・・」」

「緑、紫・・・雪蓮は前からこんな感じだよ。」

「ぶーぶー!なによ赤一刀ったら!それじゃあ私が呑んだくれみたいじゃないのよぉ!」

「冥琳、よく雪蓮が酒呑むの許したなぁ。」

「この後華佗の所に行くのに付き合って貰うからな。感謝の前払いだ♪」

「ちょっと無視しないでよぉ!」

 赤と冥琳が雪蓮のボケをスルーしたって事は・・・・・そういう事なんだな。

「月、ここの支払いだけど・・・・・」

「みなさんお揃いですし、恋さんも居ますから、ちゃんと予算から出しますよ♪」

「「「助かった・・・・・」」」

 月が九卿の大司農(国家財政担当)じゃなかったら、俺たちの財布はみんなの胃袋とは反対に空っぽになる所だったよ。

「なんや隊長方、皇帝になったのにお小遣い増えてへんの?」

 真桜が箸で焼売を摘んだまま驚いている。

「北郷たちに金を持たせると、何処かで新しい女の為に贈り物を買ってしまいそうだからな。私がそうさせた。」

 俺たち三人と恋以外の女性陣は深く頷いていた。

「「「そんな事しませんっ!!」」」

 

 

「我が身、我が鍼と一つとなり!

 一鍼胴体!全力全快!必殺必治癒!・・・・・・・病魔覆滅!!

 

 げ・ん・き・に・なれええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!!!」

 

 何度見ても熱いものが込上げてくるな。

 ・・・・・・とても病気の治療とは見えないけど。

 

「・・・どうだ周瑜。」

「うむ、また一段と体が軽くなった。礼を言うぞ華佗。」

「あぁ、だがまだまだ無理は禁物だぞ。治療に掛かるのが遅くなった分完治するまでに時間が掛かる。取り敢えず用意した薬を毎日飲んで、一月後にまた鍼を打つからな。」

 冥琳の病気は華佗の腕を以てしても、一気に治す事は出来ないらしい。

 俺たちじゃ病気のことは解らないから、華佗に全て任せる事にする。

 食事の後に来た場所は、華佗の為に建てられた病院だ。

「それじゃあ、一刀・・・・・」

「「「行くのか、華佗。」」」

「あぁ、こんなに立派な病院を建てて貰ったのに申し訳ないが・・・」

「気にするなって、全国の病気や怪我で困っている人達を助けたいんだろう。むしろそれは俺たちから頼みたいと思ってた事さ。資材でも資金でも必要になったらいつでも連絡してくれ。」

「ありがとう・・・・・一月後には必ず戻る!」

「医者の不養生なんて事になるなよ、華佗♪」

 華佗と握手を交わした後、俺たちの様子を微笑んで見ていた貂蝉と卑弥呼に声を掛ける。

 二人の顔が妙に紅潮してるのは気にしないでおこう・・・・・。

「「「貂蝉、卑弥呼、華佗の助手と護衛を頼んだぞ。」」」

「まっかせてちょうだぁい♪」

「心得たぞ、御主人様!」

「・・・・・二人には本当に助けられたな・・・・・・・ありがとう、これからもよろしく頼むな。」

「ご、ご主人様からそんな優しい言葉を掛けてもらえるなんて♪」

「ぬおおぉ!燃え上がる魂の炎がこの身を焼き尽くし、その炎の中から復活してしまいそうだぞぉぉぉぉっ!!」

「わたしも身体が二つ・・・・・いえ、四つ欲しいわぁん♡」

「うむ、さすれば御主人様全員とダーリンと常に一緒にいられる♡」

 ・・・・・・・・・・・・・・・貂蝉と卑弥呼が四人づつ・・・・・。

 お願いだからそれは勘弁してください・・・・・。

 

 

 さあ、これから俺たちの迎える未来がどんな物になるのか!

 

期待と不安を胸に俺たちは、愛する人たちと共にその一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

『改訂版』真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第一部 了

 

 

 

 

あとがき

 

 

これにて第一部改訂版は終了です。

 

元版をプロットにして、思いつくまま書き連ねて、

気が付けばこんな文量になっていました。

思えば元版を書いたのが2009年の暮れ位だったでしょうか、

当時はどこにも発表せずお蔵入りさせていたのですが、

去年友人の勧めでPIXIVに、

今年に入ってTINAMIに投稿させて頂きました。

改訂版を書こうと思ったのは、

元版をもっと掘り下げたいという思いが募り、

ついに我慢が出来なくなってしまった為です。

このような拙作にお付き合い下さり、

応援、さらにコメントを下さる皆様には

本当に心から感謝しております。

 

皆様、本当にありがとう御座いますm(_ _)m

 

 

 

恒例となりましたネタ解説

 

北郷一刀の三乗

三倍だとなんか弱いから三乗にしちゃえ

なんて思ったのが始まりなんですが・・・・・完全に人外ですねw

 

冥琳

改訂版では大活躍

というか、『困った時の冥琳頼り』

あまりに頼もし過ぎて、出し過ぎない様気を付けなければならない程でしたw

感謝の意を込めて、孫呉代表として一刀を語って貰いました。

 

秋蘭

こちらは逆に、あまり目立てなかった事へのお詫びに

曹魏代表となって貰いました。

夏侯姉妹√の最後で「一刀」と呼んでいたのに、

萌将伝で「北郷」だったのが残念だったので

ここぞとばかりに呼ばせてみました。

心の中で、ですけどw

 

桃香

三国の王様の中で一番影が薄かった気がしますw

最後に見せ場があってホッとしました。

 

 

華琳のカツーーン

中の人ネタです。

乃嶋架菜様が「ほめられてのびるらじおPP」で

ゲスト出演された時に語られたエピソード。

架菜様が落とされたのはボールペンだったと思います。

知っていらっしゃる読者の方も多いのではないでしょうか?

あの放送を聴いた時から是非華琳でやりたいと思っていましたw

 

 

 

次回は「 第五部 帝立北郷学園(仮)其の一」の予定です。

 

 

 

 


 
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