No.423146

真・恋姫†無双~薫る空~覚醒編:第69話『私が望んだ力』

当小説は恋姫無双の二次小説、『~薫る空~』の続編です。

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2012-05-15 02:54:06 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3361   閲覧ユーザー数:3011

 

 秋蘭は目の前で起こっている事態に、混乱していた。

 

 矢文の通り、岩を崖下へ落としたまではいいが、それによって巻き上げられた砂塵が、風で戦場を覆ってしまった。

 

 視界のききにくい状況のなか、更に事態は進んだ。さっきまで化け物じみた強さを持っていた敵兵たちが、次々と倒れていくのだ。

 

 それもすべてというわけではないが、倒れていない敵兵も、肩を斬れば剣を落とし、足を払えばその場に倒れる。

 

 中には自分の手足を見て発狂する兵士まで出てくる始末。その姿はまるで、自分の体が何かに犯されていくのを目の当たりにしているようなものだった。

 

「これは、一体……」

 

 過去数度にわたって、戦を行ってきた相手だが、今回のようなことは初めてだった。

 

 しかし、これは好機ではないだろうか。文の主はこれを狙って、私に矢を放たせたのでは。

 

 あるいはこれらがすべて罠で、私が動くのを待っているのかもしれない。

 

 秋蘭の頭の中に、そんな二つの思考が同時に生まれてくる。

 

「ええい、将が迷ってどうする……!」

 

 華琳さまから受けた命はなんだ、夏候淵。そう自分自身に檄を飛ばし、改めて前を見据えた。

 

「全軍!敵軍へ突撃せよ!!」

 

 敵の士気が下がっているのは事実。ならば、それにつけいらない理由はない。

 

 

 

 

 

 

 砂塵の巻き上がる戦場をみながら、私は次の奴の動きを考えていた。

 

 今まで通用していた瞳の力が急になくなれば、大なり小なり焦りは生まれるはず。

 

 だから、今度は自分も戦場へ出向こうとするはずだ。

 

 軍師は自分の思い通りの戦運びをしようとする。そうでなければ、軍師である意味がないから。

 

 自軍が思い通り動かない場合、私ならどうする……?

 

 手段を選ばず、ただ敵を侵略することを考えた場合。

 

 この土煙だって、さっきの風が吹いているのだから、そう続くわけじゃない。

 

 李儒が戦場を見れないなんて状況は今だけの話だ。でも、いくらあの瞳でも、一度死んだ兵士を生き返らせるなんて不可能なはず。

 

 その上で、自分が李儒だったら、やりそうなこと。

 

「……やっぱ、私って最低だなぁ」

 

 少し考えて、思いついてしまうあたりが、どうにも自分が嫌いなところだった。

 

 さらにもっと最悪なのが、現状でこれをやられると、防ぎようがなく曹操軍が壊滅してしまうところ。

 

 悪ければ、季衣や秋蘭も死んでしまうかもしれない。

 

 思えば、少数で敵兵をつり出すような戦をしていたのは、はじめからこれが狙いだったのか。

 

「どうすれば……」

 

 どんどん土煙は薄くなる。これが消えてしまったら、もうおしまいだ。

 

「秋蘭……!」

 

 下唇を噛みながら、どんどん変化する戦局を見続ける。

 

 

 

 

 

 そして懸念通り、戦場にその男は姿を見せた。

 

 ざりっと、砂地を踏みしめて、卑しく口の端を釣り上げた。

 

 

 

 

 

視点/side李儒

 

 

 

「わが軍の被害は……ふふ、すでに半数か。通常なら大敗だな」

 

 笑うたびに、体から発する青白い霧の量が増す。そして、その両腕を前へと突出した途端、霧は戦場へと延び始めた。

 

「……ほう。矢文か。誰かは知らぬが、つまらぬことをしてくれたものだ」

 

 夏候淵の記憶を探ってみたが、彼女自身も文の送り主の正体を知らなかった。

 

 ここで広範囲に力を使ってしまえば、あるいはひっかかるかもしれんが、同時に戦場に存在する数千という人間の記憶を受けてしまうことになる。

 

 それは以前に、司馬懿の例を見ている。さすがにまだ人間をやめるわけにはいかないのでな。

 

「まぁいい。少し予定は狂ってしまったが、結果は変わらん」

 

 ようやく砂塵も薄れてきた。この程度なら可能だろう。

 

「さて……。さすがの強さの曹操軍だが……ふふ、そろそろ”いただくとしようか”!!」

 

 瞬間、体を纏っていた霧が爆発した。

 

 

 

 

 

視点/side司馬懿

 

 

 その音を聞いたとき、私はすでに走り出していた。

 

 軍師失格といわれても仕方ないだろう。結局対策は何も思い浮かばなかった。

 

 少し急だった斜面を駆け下りて、戦場へと入っていく。

 

 さっきまで片方しか聞こえなかった怒号や悲鳴は、今では双方の軍から聞こえる。

 

 どうやら李儒は完全に自軍の兵を切り捨てたようだ。

 

 どんどんと青白い霧が迫ってくる中、兵士たちはその存在を知らず、いまだに戦い続けている。

 

「だめ……!戦ってたら、みんな……!」

 

 もう自分の正体がばれるなど言っている場合ではなかった。

 

 さっき誓ったばかりなのだ。もう誰も失わないと。

 

 霧が迫る。追いつかない。李儒の狙いは、最初からこれ――自軍の兵士をおとりにして、敵兵を支配する。

 

 私が遭遇したのはこれが初めてだからわからないけど、もしかしたら今までにも何度かこんなことがあったのかもしれない。

 

 私は、頭にかかっている外套の帽子を背中へと流した。

 

 すぅっと、大きく息を吸い、強く目を閉じた。

 

 これで私の存在がばれて、結局何もできないまま斬首なんてことにもなるかもしれない。

 

 それでも――二人には死んで欲しくない!

 

「――逃げて!!!季衣、秋蘭!!!」

 

 今までで一番大きい声を出したかもしれない。

 

 近くにいた兵士たちが驚いてこちらへ振り返る。この人たちは曹操軍。当然、私の顔を知る人間も中にはいるだろう。

 

「…………なっ!かっ――」

 

 秋蘭がこちらへ気づいて、何かを言おうとしていた。

 

 しかし、近づく霧に気がついたのか、すぐにそちらへ視線は移った。

 

「あの霧にのまれる前に逃げて!!!」

 

「薫、何故……」

 

「いいから!死にたいの!?これはもう戦じゃないのよ!」

 

「……」

 

 秋蘭は、一瞬、口を閉じてしまった。

 

「薫……」

 

 季衣は疑問と心配が混じったような、複雑な表情だった。

 

 思えば、この二人に会ったのは、華琳の下を離れて以来かもしれない。

 

「っ! 全軍引け!!!撤退だ!!! 季衣!行くぞ!」

 

「は、はい!」

 

 秋蘭はそのまま軍を引き、季衣は最後までこちらを見ようとしていた。

 

 私は、二人に背を向けて、近づいてくる霧を見据えた。

 

 何人もの兵士が私の隣を通り過ぎていく。

 

 このうち何人が、帰って私の噂をするのだろう。

 

 そんなことを思いながら、霧を、その向こうにいるはずの霧の宿主を睨む。

 

「ねぇ、今だからわかるよ。私が望んでたのは、こんな力じゃないって」

 

 今はもういない、かつての自分へ話しかける。

 

「未来を知る力なんて、要らない……!」

 

 それは過去への決別を込めた一言でもあった。

 

「来てみなさいよ。お前に私を操るなんてできっこないんだから……!」

 

 そして、逃げ遅れた兵士ごと、青い霧は薫を飲み込んだ。 

 

 

 

 

 

 

視点/side一刀

 

 

 

 

「撤退!?」

 

「っ!、耳元で大きな声を出さないでくれる!?」

 

「あ、ごめん」

 

 桂花の執務室の中、ついつい大声を出してしまい、知らせを聞かせてくれた彼女を驚かせてしまった。

 

 とはいえ、あの秋蘭まで負けるとは思っていなかった。

 

 まで、というのは以前から涼州とは戦が絶えず、そのたびに敗戦の知らせを聞いていたからだ。

 

 その報告もどこかはっきりとしない、ぼやけたものが多く、それに耐えかねた華琳は、秋蘭、季衣に出撃を命じたんだけど。

 

「まぁ、その様子だと、ダンゴムシ程度の頭脳しかないあんたでも、事態の重さは理解したようね」

 

「ダンゴムシって……。っと、そんなことより二人は大丈夫なのか?」

 

「えぇ、季衣のほうは少し傷を受けたらしいけど、それも土煙で視界がきかない時に飛んできた石があたったせいらしいわ」

 

「ってことは、二人とも無事なんだな」

 

「だからそういっているでしょうが」

 

「そうか。うちの被害のほうは?」

 

「それは秋蘭が戻り次第報告するでしょう」

 

 まだ安心するには早いけど、とりあえず二人が無事ということなら、俺としてはよかった。

 

 それにしても、秋蘭を撤退させるなんて、どんな相手だったんだろう。他の二国ならともかく、あそこには特に名将や猛将がいるなんて話は聞かないけど。

 

「李儒、か」

 

「えぇ、生きていたらしいわね。しかも、薫を裏切って国を乗っ取った」

 

「薫、無事だといいんだけどな」

 

「あんた、まだそんなこと言っているの?」

 

「……」

 

「琥珀の話では、薫はあの後、ここに来ずに涼州へ戻った。そしてあの噂が流れた」

 

「あぁ……」

 

「たどり着く答えなんて、ひとつしかないじゃない」

 

「噂は噂だろ?」

 

「火もないのに煙が立つわけがないでしょう」

 

 それでも、俺には信じられなかった。

 

 噂は、「李儒が謀反によって司馬懿を殺害し、涼州の王となった」というもの。

 

 薫には、あの力がある。未来がわかるなら、李儒の謀反だって事前にどうにかできたはずだ。

 

 椅子を揺らしながら、どうにかして、その噂を打ち崩す要素はないものかと思案する。

 

「うるさい」

 

「う~ん」

 

 しかしそんなものはなく、どうにも待っているのは絶望的なものばかり。

 

 やはり桂花の言うとおりなんだろうか。

 

「うるさいわよ」

 

 華琳はどう思っているのか、聞いてみようか。

 

 いや、この件は華琳も結構気にしていたし、変に逆なでするのはまずい――

 

「うるさいって言ってるでしょ!?ぎぃぎぃ、ぎぃぎぃ!そんなに椅子を揺らしたいなら自分の部屋にいきなさいよ!!」

 

「うぉっ!?」

 

「だいだい、なんであんたが私の部屋にいるのよ!」

 

「えぇ!?桂花が廊下でぶらぶらするくらいなら手伝えって……」

 

「知らないわよ!そんな過去の話!!いいから出て行きなさい!!さもないと……」

 

「わ、わかった!わかったから!」

 

 視線だけで敵兵を殺してしまいそうな目をしていたので、早々に退散することにした。

 

 

 

 

 

 

 ばたんと扉を閉めたあと、桂花はため息をつきながら再び自分の椅子に腰掛けた。

 

「まぁ、私だって人のことは言えないのよね」

 

 がさり、と机の引き出しから出したのは、ここ最近の涼州の情報をまとめた資料だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日経って、秋蘭と季衣が戦場から帰還した。

 

 一同は広間に集まり、その報告を待っていた。

 

 皆を代表するように、華琳が口を開いた。

 

「よく無事に戻ってきたわね、季衣、秋蘭。さっそくで悪いのだけど、報告してもらえるかしら?」

 

「は。敵軍は、こちらよりも少数、さらに将らしき人物もこれといって見当たりませんでした」

 

「……指揮官がいなかったというの?」

 

「はい。以前の報告を聞いたこともあり、こちらも様子を伺っていたのですが、その際に、向こう側から攻撃をしかけてきたので、こちらも応戦しました」

 

「……。つづけて頂戴」

 

「指揮官がいないため、敵兵は当然陣形もなにもなく、こちらへと突撃してくるのみでしたので、こちらは迎え撃つべく陣形を敷いたのですが……敵兵は、何度体を斬られても倒れることなく、襲い掛かってくる、まるで僵尸(キョンシー)のようでした」

 

 僵尸なんて妖怪の名前が出たことで、一同にもざわめきが生まれた。それを体現するように、春蘭が口を開く。

 

「僵尸だと?おいおい、どうしたんだ、秋蘭。お前までそんなことを言い出すなんて」

 

「ふ。自分でも冗談だと思いたいんだよ、姉者。 しかし、華琳さま」

 

「えぇ、あなたがそんな冗談をいうとも思えないし、事実なのでしょう」

 

「戦況から、これ以上の続行は不可能と判断し、撤退をしました」

 

 華琳は、事実だろうといいながらも、いまだに半信半疑のようだった。

 

 秋蘭の言葉にも、「そう」とだけ言って、口を閉じてしまう。

 

 一同に沈黙が流れたとき、季衣が恐る恐る声をだした。

 

「あ、あの……」

 

「何かあるのかしら、季衣」

 

「え、えっと、秋蘭さま……」

 

「? 秋蘭、他にも何かあるの?」

 

「……。こちらはまだ確証がありませんので、後ほど報告させていただきます」

 

「そう、なら後で部屋に来てくれるかしら」

 

「は」

 

「なら、今日のところは一度解散としましょう。 後日この件に関して再度軍議を行うから、皆そのつもりでいるように」

 

 そして、春蘭の掛け声により、今回は解散となった。

 

 

「一刀」

 

「うん?」

 

 俺も広間から出ようとしたところで、秋蘭に呼び止められた。

 

「今の件を華琳さまに報告にいくのだが、お前にも来てもらいたい」

 

「俺も?」

 

「ああ。お前にも深く関わっている事なんでな……」

 

「ふむ。ああ、わかったよ」

 

 

 そして、俺たちは華琳の部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

 

第3話、お読みくださり、ありがとうございます。

徐々に恋姫たちにシナリオが絡み始めました。と、同時に視点変更が多いこと……。

読みにくかったら申し訳ないです。

できるだけ視点変更はしないでおこうと思ってるんですが、書きたいところに主人公が絡んでいないとどうしても難しいものですね…。

いっそ三人称にしてしまえばいいんでしょうけど、それはそれでまた難しいという。

愚痴っぽくならないうちに、違う話題に(

ヒロインの一刀への好感度ですが、薫る空の覇道編までの好感度を引き継いでいますので、序盤にしては仲良さげな面も多いです。

今回で言うと桂花の毒舌が少しやわらかく、近くにいてもそこまで拒絶反応を示さなくなっています。

まぁ、それでも一般的なツンデレと同格か、まだツン多めかもしれませんがw

 

さて、それでは次回から曹操軍も動き出して、話も進み始めます。

また第4話のあとがきにて、お会いしましょう。ノシ

 

 


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