No.278608

異聞~真・恋姫†無双:二二

ですてにさん

前回のあらすじ:蘭樹と愛紗の雑炊を突端に、孫呉の王は記憶を取り戻す。そして、ついにあの男が降臨したのだった───!

人物名鑑:http://www.tinami.com/view/260237

冥琳や明命の記憶復活は次回になりました。というか、雪蓮姉さん、動かしやす過ぎでしょう!?

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2011-08-19 16:20:22 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:10636   閲覧ユーザー数:6964

「・・・皆、勢ぞろいって感じだな」

 

風と共に先頭で部屋に入ってきた燃えるような赤い短髪の男、彼が華佗だろう。

それに続き、冥琳に明命。さらに、桃香、鈴々、朱里&雛里、左慈や于吉、最後に稟と続く。

元から部屋には、華琳、愛紗・・・貂蝉、星、雪蓮。

・・・なんと錚々たる陣容だろうか。

 

「天下が取れると、思う人は絶対思うよなぁ」

 

「・・・一刀が望むなら、いつでも覇王に戻ってみせるけど?」

 

「それは嫌だな。今は蘭樹という、一人の女の子でいる華琳と一緒にいるのが好きなんだ」

 

「光栄だわ。私も今の自分を気に入っているから」

 

と、揃い踏みしている英傑たちに、俺と華琳が感想を漏らしていると、

案の定、フリーダムの代名詞さんが会話に割って入ってくる。

 

「ぶーぶー! 二人だけの空気作らないでよね! それにっ、なんで、曹そ・・・おっと、蘭樹は黒髪に染めてるのよ?」

 

「私が覇王を捨て、一人の女になった天の御褒美よ。染めてなどいないわ。それに、一刀の国だと黒が基本の髪色になるもの」

 

「あー! 天の御遣いの格好をしていると報告に聞いてたけど、まさか・・・っ!」

 

「そうよ、私は天の世界の住人になったの」

 

「一刀! どういうこと! それえこひいきでしょ!」

 

「・・・えこひいきって・・・いや、確かに当たってるけど・・・」

 

「私も行くーっ!」

 

「いや落ち着こうよ雪蓮。孫呉の再興すらまだなのに、いろいろ吹っ飛びすぎ・・・」

 

「そんなの、蓮華がやるわよ。冥琳、補佐は任せたわ!」

 

「あっさり押し付けた!?」

 

「待たんか、雪蓮! 何を勝手なことを、孫呉の再興はお前なくして成り立つわけがないだろう!

第一、どこぞの正体の知れぬ男に、真名まで許したのかっ!?」

 

「ふふんっ・・・思い出せてないって不幸よね~♪」

 

いや、勝ち誇るところじゃないから・・・。って、俺の腕を取ったりしたら! あぁ、冥琳のこめかみに青筋ががががが。

 

「わけのわからん話をするな! ふざけるな、雪蓮!」

 

「ううっ、ご主人様怖いよぉ・・・!」

 

「って、なんで俺に抱きつくんだっ!」

 

「むむっ! 左慈を惑わす根源には負けませんよ!」

 

怒りを露にする冥琳を見て、ちゃっかり左慈の腕に抱きつく桃香の姿が見える。

さらにその二人に嫉妬心全開で絡んでいく于吉・・・おおぅ、なんて混沌・・・。

あー、朱里も反応しないように・・・って、雛里も反応してるってことは同類か?

 

「そこまでだっ! まずは病人の治療が先だ! いい加減にしないかっ!」

 

命を拾い、救い上げる者としての絶対の威厳。神医・華佗の裂帛の気合に、場に沈黙が舞い降りた。

が、桃香が左慈の腕を、雪蓮が俺の腕を抱きしめているのに変わりは無く。

うん、君達は強かさんだね・・・ほんとに。華佗に助けてもらったとしても、俺の死亡フラグ消えないんじゃないかな?

冥琳の黒い瘴気が俺にもはっきり見えるし・・・氣の流れが曲がりなりにも見えてくるって良いことばかりじゃないよね!

 

「・・・あれが見えるようになったのね。頑張った甲斐、あったじゃない?」

 

「うん・・・修行の成果、出始めてるね・・・ははは」

 

ため息交じりの華琳のお褒めの言葉も、今は正直嬉しくない。

言外に、見えないほうが幸せだと、いう気持ちが、お互いの言葉からひしひしと伝わる。

 

ともあれ、華佗を待たせてしまったのは事実。俺はまず頭を下げ、謝意を示した。

 

「お待たせしました、先生」

 

「せ、先生!? い、いや、俺はそんな大それたものでもなんでもない。俺は華佗。

五斗米道(ゴッドヴェイドー)の教えを受けた、ただの流れの医師さ」

 

うん、流暢な外来語の混じった自己紹介だ・・・。

 

「ゴッド、ヴェイドーですか」

 

「!!!・・・な、なんて完璧な発音だ・・・! くぅ、俺は今猛烈に感動しているっ!」

 

「か、華佗先生?」

 

「先生など不要! 君は北郷というのだろう!? こんな俺の流派を初耳で完全に諳んじてみせた人は初めてだ! 

どうか、俺と友になってくれっ!」

 

「はわわっ! こっちにも夢が現実に!」

 

「すっ、すごいね、朱里ちゃん! これで新作が書けるよ!」

 

あの二人は後でおしおきだな。本音を駄々漏れしてどうするんだよ、って、新作ってなんだ。

 

「華佗さんが・・・」

 

「華佗でいい!」

 

なんで、こんな真っ直ぐで純粋な目なんだよ・・・もう穢れた俺にはとても直視しがたい・・・。あ、華琳も視線逸らした。

 

「それじゃあ。華佗、友達として、俺の怪我、看てもらえるかな」

 

「わかった、任せておけ! ・・・それと、周瑜。氣が淀んでるぞ。治療したばかりなのに、それでは身体に良くない」

 

「あ、あぁ・・・すまない。本来は一日安静だったのだな」

 

「穏やかに過ごすという条件で、動いても構わないと言っただけだからな。寝台に強制帰還したくなければ、従ってくれ」

 

「・・・うむ、医師の言うことには従わねばならんな」

 

見事だ、華佗・・・冥琳の瘴気が綺麗に消えたよ・・・。

 

 

「さてと、北郷。かなり無茶な氣の使い方をしたな?」

 

診察を始め、しばらく俺の身体の数箇所に触れていた華佗の第一声はそれだった。

 

「こうして、そちらの奥方などに常に氣を流し込んでもらっていないと、身体中に激痛が走る状況だろうに。

普通、武人といわれる奴らが相当無茶をしないと、ここまではならないぞ」

 

「はは、急に要する状況だったから、氣を無理やり活性化したりした、かな・・・」

 

「なるほどな、足りない身体能力を無理やり補ったのか。それに、北郷は身体と氣の均衡がそもそも悪いんだな。

だから、余計に反動がひどくなったんだろう。・・・よし、まずは身体の数箇所に鍼を打っていくぞ」

 

華佗は取り出した鍼を、微量の氣と共に、多分、ツボと呼ばれる箇所に次々に打ち込んでいく。

この手馴れた鍼さばきは、なるほど、腕のある鍼灸師にしか見えない。

 

「・・・あれはやらないのですか? げ・ん・き・に・なれ~! ってやつは」

 

「北郷の身体の不調は、別に病魔というわけではないからな。

回復能力の活性化を促して、身体の自己治癒能力に任せたほうが、今後のことも考えた上でもいいんだよ」

 

風の疑問に答える華佗。掛け声みたいなものは一体なんなんだ。

 

「あの呪文は、一気に氣を高め、体内の病原の元を消し去る際に使うものだから、北郷には不要なんだよ」

 

「その氣を使った治療で、冥琳も治してくれたわけ?」

 

雪蓮、聞くのはいいけど、今は腕、離して欲しい。華佗がやり難そうだよ?

 

「うむ、まだ最初期の病魔だったからな。ただ、発病したら厄介な病魔になるのは間違いなかった。

下手したら手遅れにもなりかねないほどにな」

 

「なるほどね・・・親友を救ってくれて、本当にありがとう。私からも礼を言うわ」

 

「医者として当然のことをしたまでだ。むしろ、俺を早くから探していたという、北郷たちに礼を言うべきだろうな」

 

「あー、それは蘭樹の手柄だよ。俺は発病させないようにする方法しか考え付かなかったから」

 

「・・・毒矢のお詫びってわけ?」

 

「私は、一刀の希望に沿う形で動いただけよ」

 

硬い声の華琳の頭をそっと撫でる。毒矢の責は華琳一人が負うものじゃない。

強張った表情が和らぐのを見て、俺はしっかりと頷いてみせる。

 

「むー、貴女なんか性格変わった?」

 

「女である喜びを知れば、自然とこうなるものじゃない?」

 

「その勝ち誇った顔がムカつく~!!! あーっ、絶対に負けないわよ。私の魅力、一刀にもう一度刷り込んでやるんだから♪」

 

「頼むから診察が終わってからにしてくれ・・・」

 

雪蓮の豹変ぶりに冥琳の困惑具合も加速してるしなー。珍しいよ、あれだけ困った表情の彼女を見るのも。

 

「で・・・だ、北郷。身体と氣の均衡について、説明をしておきたい」

 

「ああ、頼むよ。出来れば皆も聞いておいてくれ」

 

「我らも構わないというのか?」

 

「ええ、公謹さん。俺は隠し立てすることもあまりありませんし、雪蓮はしばらく離れないでしょうから、

一緒に建業や寿春に赴くことになりますよ。もう、旅仲間みたいなもんです」

 

「確かに妖術師や優れた軍師や武人をまとめる男を、みすみす放っておくことはないな」

 

その会話を華佗は肯定と見たのだろう。彼は静かに話の続きを始めた。

 

「まず、北郷の身体能力は、男性としてはこの世界でも最高峰に近い。

ただ、あくまでそれは男性に限ったことで、優れた女性武官の前にはとても敵いはしない」

 

その通りだろう。修行は欠かさず続けてきたものの、この大陸の女性の身体能力というのは色々規格外だ。

比べる自体が色々間違っているとしか思えない。華琳しかり、雪蓮しかり、愛紗しかり。

あの、男性に比べて細い腕のどこに、あれだけの得物を軽々と振るう腕力が隠れているというのか。

 

「へぇ、一刀、かなり磨き上げてるんだ・・・確かに、全体的に体つきも逞しくなったわよね。

男性の中での最高峰って、徳謀に近いってことだし」

 

「徳謀さん・・・って、雪蓮、どちらさまで?」

 

「あー、そっか。前の時はいなかったんだっけ? えっとね、姓名を程普、字を徳謀。今の孫呉の最古参よ。

初老に近い男性だけど、祭ともまともにやり合う、うちの唯一の男性将軍」

 

魏の稟と風を引き抜いた形になったから、

秋蘭には、桂花のいとこを探してみてと伝えて、無事見つかったと返答が来たけど・・・。ちなみに女性だったとか。

呉にも歴史の修正力が働いているのか、各国の均衡を取る為に。

 

「俺の世界では、文台さんの代から仕える文武両道の名将と伝えられる人だ。それはすごいな、雪蓮」

 

「うんうん、後で続きを聞かせてね。さてと、華佗。続き続き♪ 冥琳が知恵熱を出す前にね~」

 

「なっ、雪蓮!」

 

「はいはい、あとでまとめて疑問にも答えてあげるから。今は大人しく聞いていてちょうだい」

 

「・・・続けるぞ。さて、身体能力は女性武将に及ばない北郷だが、

それに比べ、体内に潜む氣の総量はハッキリ言ってこの場の誰よりも多いと思われる。

身体の力と氣の量がここまで乖離している奴は初めて見るよ。

 

普通はな、無理やり氣の活性化をさせたら、この翌日に意識を保てるわけが無いんだ。

今回、まだ激痛で済んでいるのも、足りない身体能力を、大量の氣で必死に補ったから。

普通は、筋がずたずたになって、一生寝たきりになるのが関の山だ」

 

おーおー、華琳も稟も風も雛里も星も、一斉に于吉を思い切り睨んでる。

この殺気には管理者とか関係なく後ずさりするよなぁ・・・って、式神使って逃げたよあの野郎。

 

あれか、春蘭の攻撃を何合が受けることが出来たのも、そのおかげなのかな。

本能が生命の危機を覚えてなんとやら、ってやつだ。

 

「氣の総量が一番多いって・・・それって、一刀次第で、ここにいる誰よりも強くなったりする?」

 

「結論から言えば、短時間であれば理屈としては可能かもしれない。ただ、無茶をすれば今回のような副作用は必ず出るし、

もともと身体能力が飛び抜けて秀でているわけじゃないから、長時間となれば、とても氣で補いきれるものじゃない。

第一、本人がこの氣を使い切れていないからな」

 

「じゃ、鍛錬あるのみじゃない! 毎日死ぬような思いをすれば、自然と身体が氣の使い方を覚えるわよ♪」

 

「雪蓮・・・だが断る。修行は続けるけど、俺の今の目的は、武人として強くなることじゃないからね」

 

「えー。もったいないわよー」

 

「短時間しか最強になれないんじゃ、意味ないよ。でも、ありがとな、華佗。参考になる」

 

「氣の使い方は俺もよく知っているから、これから色々教えて行くさ」

 

「え、でも俺たちは旅の途中だよ?」

 

「大丈夫、しばらくお前たちに同行するさ。特に北郷、お前は生傷が絶えなさそうだからな。

さて、そろそろ鍼の効果が出てくる。

体内を巡る氣を意識するんだ。俺が誘導するから、回復を早めてしまおう」

 

華佗のありがたい言葉に、俺は再度頭を下げ、彼の言うように、体内へと意識を集中させていくのだった。

 

 

華佗の誘導に、体内の氣へと意識を集中させていく一刀。

あの痛みはもう収まりつつあるようで、私はホッとしながら、背中から一時手を放す事にした。

 

「貂蝉・・・三週の経験値が一気に加わった、効用みたいなものかしら」

 

「おそらくはねん。元々、ご主人様の家系からして、氣の素養はある一家だから、一気に花開いたというところかしら」

 

「時間を取って、氣の修練はさせるべきね。自分の身をより安全に守れる術が身に付くにこしたことはないもの」

 

「えー、やっぱり最強目指しましょうよー。短時間だけの能力だっていうんなら、短時間で敵を殲滅!・・・でいけるんだし」

 

予想通り、話に入ってくる雪蓮。まだ最強説を唱えている。

 

「なっ、伯符どの。ご主人様は私が守るゆえ、最強を目指す必要性は・・・」

 

「伯符ちゃん、貴女ねぇ・・・」

 

「おっと、迫力があるとはいえ、もう二回目! さすがに慣れるし、気をやったりしないわわよ。

貂蝉、蘭樹に関羽。この三人に、私の真名『雪蓮』を預ける。あ、他の面子とも後で交換するけどね。

と同時に、一刀は絶対に手に入れる宣言をしておくわね」

 

「ぷっ」

 

思わず噴出す。愛紗と殆ど同じ宣言をやってのけるなんて。

 

「何がおかしいのよ~蘭樹」

 

「あぁ、ごめんなさい。私も『華琳』の真名を預けるわ。いやね、愛紗と全く同じことを言うものだから、つい」

 

「わ、私はかなり恥ずかしい宣言を堂々としたのですね・・・。あ、雪蓮どの。私の真名は『愛紗』。宜しく頼む」

 

「私は真名が無いのよん。許してねん」

 

「確かに預かるし、貂蝉は気にしないこと。で、愛紗も一番手宣言したクチなわけ?」

 

「う、うむ。ご主人様は戦乱を平定すれば、天の世界に帰る契約でこの地に降り立っている。

ゆえに、この地を捨ててでも、ご主人様と共にあると決めた自身への誓いも込めてあるのだ」

 

「ふーん。なるほどね、その言い分だと、一刀と一緒に向こうの世界に行くことが可能なわけだ」

 

「隠す気は無い。戦乱の終結時、ご主人様か、華琳どのと共にあればいい」

 

「私の今回の立ち位置が天の御遣いの一人、ということだからみたいね」

 

「りょーかい。じゃあ、さっさと袁術ちゃんを引き摺り下ろして・・・ん? あ、下ろす必要は無い、か」

 

「御飾りにしてしまうのはあるでしょうね。ただ、それを他の孫呉の仲間が納得するかしら」

 

「しなかったら、じゃあ頑張りなさいってことで~」

 

孫権の苦労が目に浮かぶ。一刀の記憶を取り戻したとして、色々葛藤しそうな立場だ。

 

「雪蓮、さすがにそれはどうなの・・・」

 

「華琳だって、そうなんでしょ。私も一度は務めを果たしたわ。母様も文句言わないわよ」

 

「あ、そうそう。この大陸にはちゃんと『覇王・曹孟徳』がいるから、人前では蘭樹ちゃんと呼ばないと色々だめよ~」

 

「・・・似て非なる存在だけどね。身体的成長も含めて・・・」

 

そう、こっちの華琳とは成長具合が違うのだ。いろいろと、ええ、いろいろと。


 
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