No.160704

甘々々々々々々愛紗

 なんか巷で不穏な噂を聞いて、書いてみた作品。
 オレの中の愛紗欲は、こないだの にゃーにゃーで発散されたと思いきや。
 例の噂を聞いたとたん種的なモノがパカーンと割れて、一作できてしまいました。
 即興で、拙いところもありますが、慰みになれば幸いです。

2010-07-25 22:15:01 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:11801   閲覧ユーザー数:10149

 

 

愛紗「それでは ご主人様、いってらっしゃいませ」

 

 今日も政務へ出かける北郷一刀を、愛紗は明るく送り出した。

 それを受けて、かばんを受け取った一刀は優しく微笑む。

 

一刀「コラ愛紗、間違うなよ。オレは もう君のご主人様じゃないだろ?」

 

愛紗「そっ、そうでしたッ! 申し訳ありませんッ!」

 

 愛紗は慌てて、自分が今口に出した間違いを訂正する。顔を真っ赤に、モジモジさせて、

 

愛紗「いってらっしゃいませ、旦那様」

 

 言うと同時に、二人の唇が触れた。

 それが、今では必ずやっている、朝の見送りの儀式だった。

 

 

    *

 

 

 関羽将軍が軍籍を退いてから、もう一ヶ月が経つ。

 理由は寿退社。

 北郷一刀からプロポーズを申し入れて、愛紗が受けた。考える時間 二週間。本来であれば、国主である一刀は、同意なしに彼女の体を自由にできるのだが、それでも彼は待った。

 その誠実さが愛紗の心を打ち、仲間を越えて、男と女として、一緒に人生を築き合っていくことを了承した。

 

 結婚してから愛紗は軍務から一切身を引き、家庭に入ることになった。

 世間の慣例や、彼女自身の有能さを鑑みれば、結婚後も一将軍として働くことは大いにありえたが、彼女は その道を選ばなかった。

 自分は北郷一刀の妻である。

 自分というものを示す言葉は、ただその一つだけでよかった。

 

愛紗「ふぅ……」

 

 一刀が政務に出かけてから、夕方に帰宅するまで、この家では彼女一人ですごすことになる。

 朝食の片付けをしつつ、愛紗は ふと、左手の薬指に目が行った。そこにあるのは、銀色にきらめくシンプルな造りの指輪。

 それは天の国にあるという慣わしで、夫婦の契りを交わした者は左手の薬指に、指輪をつけるのだという。

 一刀もつけている、今愛紗が見下ろしているものと、まったく同じデザインのものを。

 自分が既婚者という証。

 それを愛紗は、うっとりとした表情で眺める。何時間 見詰めていても飽きない、自分が、愛する人の所有物になったという証。

 

愛紗「ふふ……」

 

 陶然とした笑みが漏れる。

 それともう一つ、彼女と一刀が、今は他人ではないという証がある。

 一刀が生まれた天の国では、結婚した女性は、生来の姓を捨て、夫の姓を変わりに名乗るという風習があるのだそうだ。

 愛紗の姓は「関」で、名前が「羽」。

 しかし「北郷羽」では語呂が悪すぎるので、あえて真名に、愛する人の姓を重ねてみる。

 

 

 

 北郷愛紗。

 

 

 

愛紗「北郷愛紗……!」

 

 

 

 北郷愛紗なのである。

 

 

 

 愛紗は もう堪えきれなくなって、部屋の中でクルクル回る。

 こんな日が来るなんて思いもしなかった。

 自分は、生まれもった武才を使い、世の安寧のために一生を捧げると思っていた。女としての幸せなど終生 縁のないものだと。

 しかし今、この心は女の幸せを知っている、この体は女の悦びを知っている。

 

愛紗「こんなに満ち足りていていいのだろうかッ?」

 

 愛紗は、自分の着ているフリル付きのエプロンを引っ張ってみた。一刀がわざわざ「愛紗に似合うから」と言って、呉服屋に縫わせたものだった。

 

愛紗「はッ? ……イカンイカン、たとえ結婚して無役になったといっても、私には、人の妻としての仕事があるのだった!」

 

 そうそうトリップばかりもしていられない。

 

愛紗「ごしゅじ……、じゃなく、旦那様が帰ってくる前に、掃除と洗濯、コレを終わらせておかねば! あと午後は料理の練習をするぞ! 今週中に献立の数を二倍に増やすのだ!」

 

 専業主婦だってやることは一杯あった。

 それでも、将軍として軍務に追われていた あの頃に比べれば、信じられないほど穏やかな時間が流れていた。

 洗濯物を取りこむ最中に、日の光を一杯に浴びた夫の上着に 顔を押し付けたり。

 寝室の掃除中、昨晩のことを思い出して赤面したり。

 庭に咲いた季節の花を手折って、玄関の花瓶に生けたり。

 訪問してきた野良猫と戯れて時間を潰したり。

 本当に穏やかに時間は流れていた。

 

 

    *

 

 

 そうして気付いてみると、時刻は夕方。

 この頃になると愛紗は毎日ソワソワして、落ち着きがなくなる。

 

愛紗「まだかなぁ、旦那様まだかなぁ……」

 

 この時間になると そのことしか考えられなくなる愛紗だった。

 たまに星あたりがバカなことやって、一刀の帰りが遅くなることもある、そういう時は もう最悪だが、今日は幸い そんなことはなかった。

 

一刀「ただいまー、あー疲れた疲れた」

 

 一刀は いつもと変わらぬ時間に帰宅してきた。

 愛紗はパタパタとスリッパを鳴らして、玄関へ直行する。

 

愛紗「お帰りなさいませ! 今日のお仕事は どうでしたか?」

 

一刀「ああ、概ね順調だったけど、この夏にやる祭りで、貂蝉が「男裸音頭をやる!」とか言い出して調整に 手間取ってさー。ホントあれだけで一日分のスタミナ消費したわ」

 

 玄関をくぐって襟元を緩めた一刀は、疲れてはいるようだが体調を崩した様子はない。今日も無事に過ごせたと安堵しつつ、一刀からカバンを預かる。

 

愛紗「それでは旦那様、お食事とお風呂、どちらを先になさいます? 料理は既に出来てますし、湯も沸いてますよ?」

 

一刀「コラコラ愛紗ー」

 

 一刀は愛紗のおでこをコツンと突いた。

 

一刀「いつも言ってるだろう? そういう時には、ちゃんと決められた聞き方があるって」

 

愛紗「あ、ハイ……」

 

 指摘され、愛紗は赤面しつつ、例の言葉を唱えた。

 

愛紗「お帰りなさいアナタ、ゴハンにします? お風呂にします? それともア・タ・シ?」

 

一刀「この淫乱妻めーッ!」

 

 一刀は大喜びで愛紗のことをハグした。

 自分で言わせたのに。

 

愛紗「もう旦那様、いつでも悪ふざけして、もう!」

 

 愛紗も満更でもなかったが、ここでコトに至っては せっかく愛紗が用意した料理やお風呂が冷めてしまう。

 そこで、まずは料理を先に選択する一刀であった。

 

愛紗「さあ、ドンドン召し上がってくださいね! お代わりはたくさんありますから!」

 

 本日のメニュー。

 

 すっぽん鍋。

 うなぎの蒲焼。

 ニラレバ。

 おろしニンニク。

 イモリの黒焼き。

 ハブ酒。

 朝鮮人参。

 馬刺し。

 

一刀「……うわぁー、わかりかすぃー」

 

 若い一刀は すべて平らげた。

 

 そして お風呂。

 先に湯船に入って待つことになった一刀、何を待つかというと、それは わかりきったことだった。

一刀「愛紗、まだー? 愛紗、まだー? 愛紗、まだー? 愛紗、まだー? 愛紗、まだー?」

 

愛紗「ハイハイ、すぐ行きますから大人しくしててください!」

 

 脱衣所で衣服を剥がしつつ、落ち着きのない夫に苦笑する愛紗だった。

 パンツをクルクルと下ろして脱衣籠に入れると、愛する夫しか見たことのない生まれたままの裸身になり、浴室に入る。

 元々そういう目的で設計した浴槽は、二人で入っても十分にゆったり出来た。

 愛紗が湯の中に尻を沈め、盛大にお湯があふれ出す。

 そうして沈んでいく愛紗の尻が最終的に触れたのは、浴槽の底ではなく、一刀の筋肉質な太ももだった。

 二人の体の表面が、湯の中でピッタリ重なり合う。

 一日の中で至福の時間が始まった。

 

一刀「ああー、いい湯だなー」

 

愛紗「本当に、この世の至福と言えますね……」

 

 髪を纏め上げたために露出したうなじが、位置的に一刀から丸見えだった。

 お湯の温かみで玉のような汗が、首筋に数的浮かぶ。

 

一刀「…………」

 

愛紗「……あの、ご主人様。ドコを触ってるんですか?」

 

一刀「愛紗の恥ずかしいところです」

 

 と自供する一刀が触ったり抓んでる部分とはドコか? それは愛紗の お腹だった。

 

一刀「愛紗は最近 運動不足だからなぁ、現状をキープしているかどうか詳しくチェック」

 

愛紗「何をお言いですか旦那様ッ!」

 

 愛紗が湯船から腕を出して、一刀の頭をポカリ。

 

愛紗「もうッ! どうせわかってますもん! 将軍を辞めてしまった私は体を動かす機会なんてないですもん! ブクブク体格 直行ですもん!」

 

 いかん、拗ねてしまった。

 

愛紗「……旦那様は、やっぱり武人だった頃の私の方が好きですか? 勇ましく武器を振り回していた私のほうが、引き締まっていて好きでしたか?」

 

一刀「いやいや……」

 

愛紗「わかってます、武神なんて呼ばれるようなガサツな女が、急に しおらしく人妻のマネなんかしても似合わないって。どうせ私は、生まれてこの方 女らしいことなんてしてこなかったし、家事も料理も、まだまだ半人前だし」

 

一刀「愛紗は可愛いよ、武器を持とうとホウキを持とうと」

 

 一刀は愛紗の頭を撫でた。

 

一刀「俺が愛紗を好きになったのは、愛紗の真っ直ぐで、清く正しい心をもってるからだ。そんな愛紗が見せるものなら、なんでも可愛いって思えるよ。武器を持って暴れるところも、チャーハンを焦がして失敗するところも」

 

愛紗「旦那様……」

 

 世界一幸せな瞬間。

 

愛紗「好きですよ旦那様、大大大大大大大大大大大大大大大大好きです」

 

一刀「オレも大好きだよ、愛紗」

 

愛紗「知ってます」

 

 戦乱の荒野で出会い、さまざまな困難を一緒になって戦い続けた二人。

 苦しいときも、楽しいときも、横を向けばお互いの顔があった。

 本当に、この時間が永遠に続けばいいな。

 終わっても終わらない、好きな人と過ごす、この大切な時間が。

 

 

    *

 

 

翠「……紗、おい愛紗、いい加減起きろよ!」

 

 翠に揺さぶられて、愛紗は目を覚ました。

 見回してみると、そこは城の中庭にある東屋、日は既に傾き始め、虫たちが涼しげな音を奏でている。

 

愛紗「…………だんなさま?」

 

翠「何寝ぼけてんだよ愛紗は。ったく こんなところで無防備に昼寝なんかしやがって、そんな たるみっぷりじゃ武神・関雲長の名が泣くぜ?」

 

 言われて、自分の体を見下ろす愛紗。

 エプロンは着けていない、左手に指輪はない。手に持っているのは青龍偃月刀。

 

愛紗「そうか、私は、夢を見ていたのか」

 

 物凄く甘くて、暖かくて、満ち足りていた夢。

 あのまま覚めてしまうのが悔しいぐらいの幸せな夢、でももう自分は帰ってきてしまった、あの夢の場所へ行く手段は、もう自分にはない。

 

翠「それよかさ、今 ご主人様が稽古の見学に来てるんだぜ? 手合わせしよーよ愛紗、ちっと ご主人様に、アタシのいいとこ見せてやりたいのさ!」

 

 茂みの向こうから聞こえてくる、金属がぶつかり合う轟音と、「なのだーッ!」という掛け声。

 愛紗はフッと、寂しげに笑った。

 

愛紗「よかろう、私はご主人様の矛、この武のすべてはご主人様に捧げるためにある」

 

翠「なんだよ、気合入ってんなー」

 

愛紗「ご主人様に、ご自身の手にする武具がいかに優れているか ご照覧いただこう。それと、翠が意外に頼りにならんところもな」

 

翠「言いやがったなーッ! そっちこそ寝起きを負けた言い訳にすんなよーッ!」

 

 こうして愛紗が茂みの向こうへ出ると、そこには夢にいた彼と同じ、とても愛しい笑顔があった。

 あの夢の場所には もういけない。

 でも このまま現実を歩き続ければ、似た場所にはたどり着けるかもしれない。

 そんなことには欠片も気づかず、武人は長刀を振るい続ける。

 

 

                    終劇


 
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