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新・恋姫無双 ~呉戦乱記~ 第16話

4BA-ZN6 kaiさん

続きを上げます。よろしくお願いいたします。

2021-11-10 12:38:59 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:434   閲覧ユーザー数:361

御前会議から一週間と経たぬうちに私は蓮華があとを引き継ぐ期間は体裁上王ではあるが実質的な権限は蓮華が継承している。

 

私はただの孫伯符という女としてこれから戦う。その実感が湧いてきており、勇み足で友人の部屋へと進む。

 

「冥琳、ちょっといいかしら?」

 

「ん?雪蓮か、ちょうど良かった。座ってくれ」

 

冥琳は私を執務室の応接間で待ってくれと言うとしばらく。

 

冥琳はお茶を持ってきて私に差し出す。

 

「ありがと」

 

「ん、お前の所属先は・・・希望は十五独立部隊だったな。まぁ・・・・お前の実力は折り紙付きだし、指揮も問題はない。希望は間違いなく通るだろう」

 

「随分褒め殺しにしてくれるわね」

 

「私はお前と十年以上戦場を共にしているんだ。お前の実力ぐらい図るのはわけないさ。それに有能な人材である以上はただの一兵卒は眠らせるほど呉は人材が豊富というわけでもない」

 

「・・・・それもそうね。まぁ私自身ただの一兵卒扱いでも良かったんだけどね」

 

「お前が一兵卒だと上官のメンツが保てぬ。それに小覇王を部下にするなど恐れ多くて誰もしないさ」

 

「・・・・そう。冥琳、十五部隊のあの男・・・・」

 

「ん?ああ、北郷の副官をしていた男か。私も直に話したが、お前が来てくれる事を大層喜んでいたさ。さらに精進せねばと張り切っていたな」

 

「彼、相変わらず真面目なのね・・・・」

 

「うん、彼は実直であり義に厚い。だが兵を率いるには彼は優しすぎる節がある。彼もそれは良く分かっているのだろう。お前の副官をさせて欲しいと言っていたな」

 

「適材適所ってやつね」

 

「そういう事だ。ただお前は北郷の遺志を引き継いでいる事を、あの部隊の連中は知らないはずはないさ。存分に暴れてくれ。正式な辞令は追って出すが、お前はあの部隊の司令として率いてもらいたい。階級は上級佐官となる」

 

呉軍は階級が設けられており、将・佐・尉・曹・長と分けられており冥琳たち参謀は将の位置にいる。私は佐官となりその中で上・中・下とあるなかでの上級佐官という位置づけだ。

 

部隊の司令を行う上での最低限の階級を用意した。ということだろう。ついでに一刀は参謀本部に出入りできる人間であって下級将官であった。

 

「ありがと。いつもすまないわね」

 

「気にするな。ただこれでお前とは上司と部下の関係になる。祭殿もだ。軍規上・・・・」

 

「上官の命令は絶対、ということでしょ?」

 

「そうだ」

 

「別に構わないわ。それを覚悟で軍に入るのだもの」

 

「理解が早く助かる」

 

「まぁ・・・・規律の中で好きにやらせてもらうわ」

 

「うん。では孫伯符 上級佐官。貴女に一層の精進を期待する」

 

冥琳は立ち上がり敬礼をすると、私立ち上がり敬礼を返す。

 

「呉のため粉骨砕身で我が身を国に捧げます。公瑾殿」

 

私もそう言うと握手を交わし、頷きあい笑みがこぼれた。

 

冥琳の微笑みは優しく、頑張れよ!とその表情から発せられているのがわかり、笑みを返す。

 

 

冥琳の計らいで十五部隊の司令となった私は先ず初めに、宿舎へと荷物を移す。場所は・・・一刀が使っていた部屋だ。

 

「ふぅ・・・一刀の荷物が少なくて助かったわ・・・」

 

部屋を整理しおわり、体を再度伸ばすと部屋から見える外の景色を見やると訓練場では兵たちが鍛錬に励む姿が見える。

 

「いよいよね・・・・。一刀、見ていてね」

 

私は呟くと湧き上がる高揚感からか、少し笑みがこぼれる。こんなにワクワクしたのはいつ以来だろうか。

 

築き上げられた道を進むのでなく、自分で道を作り進んでいく。それだけのことかもしれないが、私からしたらそれが極上の喜びでもあった。

 

そして翌日、執務室を使えるようになったと冥琳から伝言をもらい執務室へと足を運んだ。

 

十五部隊の執務室は一刀が使って以来ずっと空室であったが、私が使うことになり木札も北郷から孫策と変えられた。

 

「さーてここが・・・私の執務室ね。一刀が使っていたけど・・・・ん?」

 

「孫策上級佐官、よろしいでしょうか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「失礼します。我が部隊への入隊、おめでとうございます!」

 

「ん、ありがとう。これからは私が指揮を取るけれども、私の補佐として貴殿には働いてもらう」

 

「承知しております。孫策様と戦えること兵たちも喜んでいます」

 

「そう・・・・いい心がけね。まぁ・・・せっかくだし訓練場に行ってみようかしら。それに私のことは雪蓮でいいわ」

 

「よろしいのですか?真名ですが・・・・」

 

「この部隊は一刀の忘れ形見みたいなものだからね・・・。今更孫策様って言われるのもね・・・・」

 

「そうですか・・・・。では雪蓮様、こちらです」

 

それから訓練場に着くと兵士たちは一斉に走り出し隊列を組み敬礼をする。

 

「うん、みなご苦労。私がこの部隊司令に着任することとなる孫伯符である。私は以前は王であった身ではあるが・・・今はただの軍の歯車の一部でしかない。貴殿たちとは精進しあえればと思っている」

 

そう言うと皆が拍手をする。

笑みをこぼすもの、涙を流すものと兵士は私に感情をぶつけて来てくれる。私にはそれが嬉しく思う。

 

「じゃ・・・まず初めに私も手合わせをしようかしらねぇ・・・。体が訛ってね」

 

兵士たちは一斉に手を上げ、副官は一瞬驚きながらも私に少し笑みを見せたあと声を上げる。

 

「では・・・・私が五人ほど選抜し演習を行いましょうか。よろしいですかな?」

 

「いいえ、構わないわ。全員相手をする」

 

「雪蓮様!!それはさすがに・・・・」

 

「まぁ見てなさいって~。一刀は赤鬼だったけど私も負けてないんだから」

 

副官が慌てて、静止をする。まぁしょっぱなからこんな滅茶苦茶な事をするとは思わなかったのだろう。

 

その表情に困惑の色が見えていた。

 

「し、しかし・・・・」

 

「心配してくれるのは嬉しいけど・・・・、私の訓練だと思えばいいから。危険だと思ったら止めてもらって結構よ」

 

「・・・・・・・分かりました」

 

「ただ貴方たちも死ぬ気で向かってきなさい。訓練でも死ぬことだってあるんだからね」

 

 

 

それから演習が行われ、兵士が目の前に立つと目を少し閉じ、浅く呼吸をしたあと再び目を開けた。

 

私の抑えていた気を解放する日課であり、いつもの儀式である。

 

心臓の鼓動が自分の頭に響くと同時に、極限の集中力が自分の眠っている部分を覚醒するのを感じる。

 

私の視界に見える全て動きが緩慢に見える。

 

「では始め!!」

 

副官がそう言うと同時に私は一気に距離を詰める。

 

兵は怯み、距離を取ろうとするも私の速さについてこれていない。

 

牽制で突きをしてくるが太刀筋が甘い、模擬刀で適当に受け止めると懐に潜りこみ腹部に強烈な膝蹴りを食らわせ、よろめかせると回し蹴りで兵の顔を捉えると宙に舞う。

 

地面に叩きつけられた兵士はそれからピクピクと痙攣をし、立つことができない。

 

「やめ!!」

 

副官が声を上げると意識を失った兵士たちを担ぎ、医務室に連れて行く。

 

皆に動揺が走っているようであるが、私は笑顔で次を促す。

 

「さぁ?お次は?」

 

それから次々と兵士が来るが私の前では赤子当然であることには変わらず、もって数手で相手側の模擬刀が弾き飛ばされ、体術を用いて投げ飛ばし、蹴り飛ばす。

 

十五部隊は師団であり、数だけでも千人以上は間違いなくいる。

 

だが今の私自身、いつもより体が軽く敵の動きが全て見えている。

 

(今日は調子がいいみたい・・・・敵の動きが見える・・・・)

 

斬撃も、体術も全てが敵の動きが予知できる。

 

筋肉の動き、呼吸の仕方が変わり、それをもとに私は兵の動きを予知する。

 

兵士たちの顔は困惑を極めていた。

 

それはそうだ。

 

自分の攻撃が全て見切られ、予知されているかのような動きをされたら誰だってそう思うだろう。

 

副官は驚愕の表情で雪蓮の動きを見続けていた。

 

十五部隊が結成されてからは現場に出張るのは北郷隊長であり、彼の直上の司令官であった雪蓮自らが前線に出るということは滅多になく、前回の魏での戦闘ぐらいなものであり希であり、真の意味で彼女の動きを見るのはこれは初めてでもあったからだ。

 

雪蓮はそれだけ北郷隊長を信頼していたのであろう。

 

ゆえに副官たちも雪蓮の恐ろしさを身を持って知るということはなかった。

 

それに十五部隊は呉軍随一の精鋭部隊であり、各隊員の技量も劣っているというわけではない。

 

連合軍での演習でも優秀な成績を収めているし、信頼も実績ももちろんある。

 

そんな部隊の部下たちが次々と負かされていく状況に目が点になるのは無理がない話だった。

 

「北郷隊長も恐ろしかったが・・・・雪蓮様も鬼神だな」

 

「はい・・・・。自分も先ほど彼女と手合わせをしましたが、恐ろしいです。こちらの動きをすべて見切っているかのような動き方をしてくるのですから・・・」

 

「お前、もうやられたのか・・・・。お前は呂布とは良く手合わせをしているが、違いはどこにある?」

 

「動きが読めない事がまず挙げられますね。それなのにこちらの動きを正確に把握している。呂布は直線的であり、一撃一撃が驚異的ではありますが避けることに徹すればしのぎ続けることはできましたからね・・・・」

 

副官は雪蓮にやられた部下から話を聞く。彼も呂布とはよく手合わせをしており、相応の実力は持っている。

 

「特に近接戦闘での速さと集中力が凄まじいですね・・・・。接近すればするほど速さと鋭さが増してくるのです。そして狙ってくる箇所がすべて急所であり精度も正確です」

 

「それが江東の小覇王と謳われる所以ということか・・・。俺たちは北郷隊長の再来を目の当たりにしているということだな」

 

「まったくそのとおりです」

 

男が深く頷くと、副官もため息をついて一方的な演習を見続けていた。

 

また一人、今度は強烈な蹴りを腹部にくらい、もんどりをうっている。

 

結局誰ひとり雪蓮に適う事なく、打ちのめされてしまった。

 

呉で随一の精鋭部隊である第十五部隊の兵士たちが、たった数手ほど手合わせをしただけで吹き飛ばされ、負かされる事実に皆は顔を青ざめる。

 

私は剣技をほとんど使ってはいない。

 

ほぼ体術という縛りで兵たちと手合わせをしたのだが、こうも歯ごたえがないのはいただけない。

 

ただ隊の歩兵すべてを相手にした疲れは私の体をどんよりと覆い、壮絶な数をこなしたことを物語っていた。

 

「ふぅ・・・・・。さすがに疲れたわ。あら、ありがとう」

 

執務室に私は戻ると副官は用意していた飲み物を私に差し出した。

 

「どうでしたか?この隊は?」

 

「悪くはないはね。私も本気を出さないといけなかったし・・・・。いい兵が揃っているという印象を受けたわね。磨けば光ると思う」

 

「そ、そうですか・・・・。つくづく北郷隊長の凄さが身に染みて分かります。貴女とほぼ互角でしたからね」

 

副官は苦笑する。

 

私の動きを完全に止めていた一刀は抜きん出た実力であった事を改めて思い知らされたからだろう。

 

「まぁね。ただ貴方たちの動きも何度も言うけど悪くはないと思っている。魏兵相手なら問題ない実力であろうし、集団戦で戦えば関羽や張飛相手でもしのぎきれる実力はあるでしょう」

 

「一騎打ちは武将の華だと言われますが・・・・」

 

「副官、我々は任務を果たし、生き残る事が先決よ。個人的な戦いや武勇伝はこの戦に何ら意味をもたらさないわ。国家という枠組みで勝てるか、否か。それしかないのよ。だからこそ私も生き残るためにこうして技量をつけてきたのだからね」

 

「・・・是非もないですね。その言葉が聞けて私も満足しています。兵たちもこれで身を引き締めてさらに精進するでしょう」

 

「あら、私を試したのかしら?心外ね」

 

試したような副官のセリフに思わず刺のある声色で返す。彼の態度が私を暗に侮っているかのように思えたからだった。

 

「申し訳ありません。ですが貴女が孫呉の王であったからこそ、どう考えているのを私個人が知りたかったというのもあるのです。我々は軍の組織の一部にしか過ぎない。それは北郷隊長から言われていた言葉です。だからこそ生き残ることこそが、国に忠を示す行為であるのだと・・・」

 

「ふぅん?アイツそんなことをね・・・・。イイこと言うじゃない」

 

私も彼が考えていることがよく分かる。

 

兵士たちを育てるだけででも多額の国税を使っている以上、無駄で徒らな戦死は国家の損失を意味するからだ。

 

玉砕などもってのほかで、可能な限り仲間を見捨てず生き残る。

 

そして生き残るためにはどんな戦い方をしても構わない。勝てる可能性があれば、容赦なくその手段を問うことはない。

 

それが私の考え方だ。

 

一騎打ちで勝てる相手ではなければ、囮やおびき寄せによる集団・組織戦で敵を打ち倒せばいいだけのことだ。

 

「今後は組織的な戦闘を想定し、演習を重ねるように」

 

「分かりました」

 

「我が軍は近いうちにまた戦闘が始まるわ。そのためにもしっかりと準備を怠らぬよう訓練に励みなさい」

 

「はい」

 

副官は詳細を聞くことはせず、頭を下げると執務室から出て行った。自分の階級では知る権利がないと悟っているのだろう。

 

彼のその潔い行動に好感を持ちつつも私も、仕事を再開したのであった。

 

 

それから二週間ほど、軍令部から私は招集がかけられると直ぐ様建業の参謀本部へと赴いた。

 

冥琳は今回の荊州攻略作戦の概要を説明するべく、皆を呼び出したようであった。

 

「敵は南征の失敗による痛手を引きずってはいるが、未だに戦力を持っており油断はならない状況である。敵はまず我々を警戒する以上、我々の勢力圏の最前線である桂陽郡、長沙郡に戦力を置くはずである。従って我が軍は陽動作戦を展開し、あえて主力部隊である第三突撃軍たる呂布隊と十五特務隊である孫策隊をもって荊州の南部である桂陽郡を強襲する」

 

「敵の主力部隊は南部に集中をする以上攻める場所が限定されてしまうが・・・東から挟撃をかける形になるのかのう?」

 

「はい。まず北と東南に隊を分け、東南の奇襲をかけたのち北方の敵を撃退します。東側の敵の補給線を分断でき、第十五部隊と第三。ですが我々もそう易々と荊州を陥落できるとは思ってはいない。今回は多少の犠牲は覚悟の上です。ただ桂陽郡を陥落させることができれば、その勢いで江夏郡を挟撃し補給線を確保、西側の戦線は我々が完全に支配できます」

 

「敵は誘いに乗ってくれるかの?」

 

「そのために我が主力部隊を南部に展開し、強襲をかけるのです。もし敵が北方に戦力を展開したら、その時は雪蓮と呂布の両軍で南部を確保すればいいだけのこと」

 

「連合軍の支援は期待できないのですか?」

 

亞莎が声を上げると冥琳は断固とした口調で言い放つ。

 

「ないと考えたほうが良いな。我々が独自で展開する以上、連合も動くことはしないだろう」

 

「「・・・・・・・」」

 

参謀たちは黙ってしまう。

 

ここ一番の状況下で呉軍五万の軍勢だけでは荊州を攻め落とすことは困難を極めるからだ。

 

 

いくら江東の大都督が出来るといっても現実は過酷だ。

 

多数の屍の上を行軍する覚悟が必要となる以上、士官学校から出て今まで連合軍での共同作戦が多かった温室育ちの士官たちが多い事は事実である。

 

軍令部で修羅場を経験しているのは冥琳と穏、祭と私と思春ぐらいなものか。

 

経験不足な参謀たちも北郷の存在をアテにしていたのは事実であった。

 

一刀が冥琳と議論を重ねるのは経験の浅い参謀たちを守る意味合いもあった事は確かだった。

 

彼が矢面に立ち、参謀たちの意見を吸収しつつも宰相である冥琳と議論を重ねる姿に助かっていたことであろうに。

 

御前会議で荊州攻略戦が決まったとはいえ、まだ若い参謀たちが頼りにしていた北郷が戦死し、想定してない事態が発生している今、経験不足な優等生が多い参謀が冥琳の博打のような作戦に対し重い腰を上げたがらないのもそういった理由からでもあった。

 

(誰も責任を取りたがらないとはね・・・・何が参謀よ全く・・・・)

 

内心呆れ返っているなか私は辺りを見回した。

 

祭は黙って目をつぶり、思春はこめかみに青筋を立ててイラついている。

 

思春は多分若参謀たちの優柔不断さが癪にさわるのだろう。

 

蓮華は私を見て強く頷く。覚悟は出来てる。とそう言っているようだ。

 

(しょ~がないか・・・。最後の王の仕事ね・・・・)

 

「心配いらないわよ」

 

「え?」

 

皆が私の一声で振り向く。参謀の皆は驚きの表情でこちらを見ていた。

 

それが可笑しくて、私も思わずクスリと笑う。

 

「呂布と私とで十分よ。重と軟を合わせた部隊編成で気に入ったわ。これなら南部も問題はないでしょう」

 

「その根拠はなんですか?孫策上級佐官?」

 

参謀の男が一人冷や汗をかきながらも言う。

 

「勘よ。勘」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

「まぁ・・・・こんな状況だからこそやらない意味はないわ。この現状を打開するのは生きている私たちが切り開くしかない。貴方たち、一刀はもういないのよ?いつまで死んだ人間をアテにしているの?」

 

「!!・・・・そ、それは・・・・」

 

「一刀がなぜ貴方たちと議論をし、冥琳と話し合っていたかが分からないほど愚かではないでしょうに。一刀は貴方たちに未来を託していたのよ。だからこそ彼が緩衝材となり、貴方たちを守っていたの」

 

「・・・・・・・・・」

 

「いま成長した姿を彼に見せなければ、彼はそれこそ救われないわよ?周瑜派の参謀たちはこんな腰抜けぞろいだなんて失望させてくれるわ・・・・。軍に入った以上死を覚悟するのは当然のことだ!何を甘えているのか!!!」

 

私が一喝すると参謀たちもグっと下を向き項垂れる。自分たちが情けないことを自覚しているがゆえの態度であった。

 

「・・・・・・・・・・・おっしゃるとおりでございます」

 

「では考えなさい!!!それがお前たちの仕事だろうに!!」

 

「・・・・・私は孫策佐官や周瑜将軍の言う事には反論はない。私は与えられた仕事を完璧にこなすまで」

 

思春がそう言い放つと、祭もそれに頷き同意をする。

 

「・・・・時には理不尽だと思う戦いもしなければならないものよ。じゃが儂は北郷の弔い合戦が出来ることを・・・仇討ちができることを軍人失格ではあるかもしれんが素直に喜んでおる。今回は儂も前に出るぞ!冥琳よ!」

 

「是非もない。思春も祭様も暴れてもらわなければ、この戦い厳しいであろう。この戦いは総力戦だ。誰の助けも借りず、我々だけで成し遂げるなければ意味がない。この意味を我々は噛み締めて、戦わなければならないのだ」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

冥琳の発言は暗に北郷の死に対する追悼も込められていた。

 

冥琳の発言の真意が今の呉の軍令部や行政府の総意であったし、いま自分たちが抱えている蟠りを、憎しみのはけ口を求めての行為である事は分かってはいる。

 

だからこそ連合の力を借りる事はできない。

 

汚れ仕事は我々だけが行わなければならないし、山越や蜀がそれに付き合う義理はないからだ。

 

「決まりだな!では決行は三ヶ月後とする!!それまでに参謀たちは策を纏めるように!」

 

「「はっ!!」」

 

意を決した参謀たちが立ち上がり冥琳に対し敬礼をする。

 

冥琳は静かに皆に敬礼を返すと、カツカツと音を立てて去っていく。

 

蓮華もそれを悲しい眼差しで見つめながらも、目をつぶり感情を押し込むように息を吐くと彼女についていった。

 

 

私は軍令部の会議が終わると副官を呼び出し、会議の内容を早速話す。

 

「・・・・という事よ。私たちも開戦の準備をしなければならないわ」

 

「ご安心ください。既に我々は準備を行っています」

 

「ふ~ん?いい心がけじゃないの?」

 

「隊長の死に対し思うことがあるのは、上の人間だけではないということです」

 

「今回は呂布の部隊と共同で強襲作戦を敢行するわ。作戦参謀に誰が付くかは決まってはいないけど、多分穏あたりがきそうな気はするわね」

 

「陸遜様がですか?しかし行政府の・・・・・」

 

「穏はもともとは軍師よ。冥琳と穏の二人で呉をかつては切り盛りしていたんだから。私たち連隊を用いて作を巡らせるなんてわけないわ」

 

「そうですか・・・・。周瑜将軍も本気である・・・という事ですか」

 

「ええ、とにかく私は陳宮と話をつけてくるわ」

 

「分かりました。我々は先に荊州南部に赴き、情報を集めてみます。合流場所は・・・・」

 

副官は合流場所を私に教えたあと私も頷く。

 

「頼んだわ。私も直ぐに呂布とそちらに向かう。無茶な行動はしないように」

 

「心得ております。では・・・・」

 

そう言うと副官は頭を下げ走っていく。

 

私も直ぐに立ち上がると恋がいるであろう広場へと足を運ぶ。

 

「恋?いるかしら?あら、セキト」

 

広場に着き恋の名前を呼ぶと、彼女の愛犬であるセキトが出迎えてくれた。

 

セキトはワン!と声を上げると歩き出す。ついてこいという事か。

 

それからセキトと歩いていくと昼寝をしている赤毛の女性が一人。セキトが寝ている顔をペロペロと舐めるとう~んと唸り目を開けた。

 

「・・・・雪蓮・・・・おはよ」

 

「おはよう恋。ちょっといいかしら?」

 

「ん」

 

「戦が始まるわ。こんどは荊州の南だけど私と共に戦って欲しいの」

 

「・・・・大丈夫」

 

「ありがと。準備は出来てる?」

 

「してくる」

 

それから一週間ほど経ち、恋は方天画戟を片手に姿を現す。

 

後ろに腕を組み仁王立ちする音々音と呂布隊の兵士たちがズラリと。

 

「一刀の仇・・・うつ・・・・」

 

恋はよく一刀と手合わせをしていた為仲は良かった。

 

私が知らない間に個人的な付き合いもあったようであり、恋自身一刀を兄と慕っていた部分はあったのかしれない。

 

無論彼が死んだときは衝撃は彼女からしたら大きな出来事でもあり、一時期抜け殻のような状態となっていた。

 

だからこそ今の恋の瞳の目つきは強く引き締められ、目の奥は闘志をむき出しにしていた。

 

飛将軍と恐れられる彼女ではあるが本来、恋は争いごとを嫌う優しい性格である。

 

自分の家族が脅威にさらされるから戦う、という理由で彼女は武器を手に取り戦ってきたのである。

 

今回はその家族が死に、仇をうつという事であろう。

 

彼女の発せられる圧に飛将軍と謳われる所以を垣間見、さすがの私も思わず息を呑む。

 

「音々音、用意は出来ているのかしら?」

 

「はいなのです!準備はとっくに出来ているのです!」

 

「ん、私の部隊と貴女の部隊とで共闘になるわ。よろしく頼むわね」

 

「問題はないのです。私たちはいつもどおり暴れればいい、という事なのですよね?」

 

「そうよ。私の隊と貴女たちの部隊で荊州南部を強襲。一気に制圧をする」

 

「私たちは陽動という役割でしたが、それを無視してもよろしいのですかな?」

 

音々音はニヤリと笑うと私も彼女が考えていることを察し、笑みを見せる。

 

「冥琳は陽動しろとはいったけど制圧するなとは言ってはいないわ。私たちが南部を制圧できれば、それを起点に北部と挟み撃ちができる。今回は激戦が予想されるわよ音々音」

 

「もとより覚悟の上なのです。私は恋殿と戦場を駆けるだけであります」

 

「結構よ。では向かいましょう。私の隊は既に荊州南部へと向かい偵察をかけているわ。詳細な軍議は軍師も交えて話し合いましょ」

 

「了解なのです!!」

 

「ん、分かった」

 

そして呂布の歩兵部隊五千人と十五部隊の五千との合計一万弱の兵力で侵攻を行う。

 

(私たちの選択は間違っているのかもしれない・・・・。でも・・・・一刀、このままだと私たちはあなたに囚われたままだわ・・・・)

 

進軍をしている最中に私はかつての想い人を想い、心中で語りかける。

 

きっと彼は喜ばないだろう。

 

ましてや一刀は自分に前を向いて生きて欲しいと言っていたはずだ。

 

だが私も王である以上に一人の良識のある人間だ。超えてはならない領域を超えてしまっていた現状で、私の気持ちを再び前に向けるにはこうして私怨を果たすという選択肢しかなかった。

 

(許して・・・・一刀)

 

心の中で一刀に再度詫びると、前を見据え進軍を続けるのであった。

 

それからは十五部隊と合流を果たすと、直ぐ様軍議が始まる。

 

「雪蓮様、今日到着予定であるという軍師は・・・・」

 

「うん、まだね。まったく困った軍師だわね」

 

私は呆れ顔で嘆息をすると立ち上がり、会議の進行を開始するべく声をあげようとしたところ天幕が開けられた。

 

「遅れてすまない。私がこの軍で参謀を務める周公瑾である。まず軍議に遅れてしまったことを詫びたいと思う」

 

 

副官と音々音は驚きの声を上げ、冥琳は少し可笑しかったのか笑みを浮かべながら説明する。

 

「北方の攻撃は甘寧と黄蓋の水陸軍の連合軍であり主力部隊であるため、私がここにいることに疑問を持つ者もいるとは思う」

 

「ほんとよ・・・・。まさか冥琳だなんてね」

 

私のつぶやきが耳に入ったのか彼女はワザとらしく肩をすくめヤレヤレと腕を組む。

 

「そう責めないでくれ。自分の気持ちに正直になっただけだ。この戦い、呉の興廃を決する戦いであると思っているゆえ、せめて友人と共に戦いたいと思っただけさ」

 

「でも・・・・!」

 

「本隊は穏や亞莎他、私の頼れる弟子がいる。立ち行かなくなったときは後ろを振り返れ、そう北郷は言っていた」

 

一刀の遺言では確かにそう言っていた。

 

冥琳は他人に頼るということが出来ない、完璧主義いや不器用すぎる一面があったのも確かである。

 

だからこそ一刀は冥琳のそう言った不器用な性格を看破しているからこそ出たものであろう事は、彼と長い付き合いである彼女本人も分かっていることでもあった。

 

「だからって・・・今じゃなくても・・・・」

 

「この困難な状況で頼らなくて、いつ頼るというのだ。穏や亞莎はそこまで無能であるはずはないさ。私の目利きに狂いがないことはお前が良く分かっているだろう?」

 

「はぁ・・・・まあいいわ。冥琳が来てくれて助かる部分は大きいし、兵の士気は上がるでしょう」

 

「ご理解いただきありがたいな。では軍議を始めようか」

 

それから軍議が始まる。

 

私たち本陣を築いているこの場所から少し離れた場所に、魏の前線基地がある。

 

前哨戦はまずそれらの基地を強襲していき、破壊していくことだった。

 

その後は敵の物資を強奪しつつ前進していき、南方の戦端をまず確保する。

 

とここまでの説明を受け、冥琳は目を閉じながら私の副官に質問をする。

 

「敵の数は?」

 

「我々が偵察をした限りではおよそ三千です」

 

「ふぅん・・・このあたりで敵の根城はここしかないはずでしょ?少ないわね。舐められたものね、我が軍も」

 

「街も潜入をし、調べましたが魏は我々のような常備軍を設けているわけではないようです」

 

「やはりな。そうであるならば戦力が結集するまでに時間がかかる。そこをつければ勝算は十分にあるな」

 

「どういうこと?」

 

「敵があのような大軍を構築するのには絡繰があるという事だ」

 

冥琳の言葉に皆が頷くなか、音々音が手を上げ疑問をぶつける。

 

「敵が我々を騙しているということはないでありますか?」

 

「その可能性は低いかと。練兵所の規模も小さく、とても大戦力を保持できるようなものではなかったと聞いていますので。こちらが練兵所までの地図と規模を書いた絵となります」

 

音々音の質問に副官が答えると、冥琳たちは副官が描いた絵を見て声を上げる。

 

「お前たちが出て行った後で入れ替えで北方の諜報員からは詳細な報告は来ていてな。魏の兵力というのは徴兵が主な戦力であるとな」

 

「なるほどね・・・。つまりは常備軍以外の兵力は徴兵によって賄われているということ?」

 

「そうだ。わが軍の参謀本部もその情報の精査で少し時間をかけていた。まぁ遅刻した言い訳ということさ」

 

「うまいこと言うのね、冥琳。しかしそれでは・・・・」

 

「我々は雪蓮が洛陽や許昌で今いる諜報員を懐柔するまでは、全くの情報がない状態であったからな。最近上がってきた情報であるし、皆が知らないのは仕方の無いことだと思う。だが曹操の強権政治である以上は徴兵や練兵は鶴の一声で賄われている状態であることは想像ができると思う」

 

「曹操が出陣をする時に兵士の数を揃えるのに徴兵をし、それまでは農民や町民・村民に兵役を課し練兵を行うということね」

 

「そういう仕組みなのだろう。でなければあれだけの莫大な兵力を常時保持し、維持していくのは些か経費がかさむ。民に重税を覚悟しなければならない状況を考えれば、困難を極めるからな」

 

「数だけ揃えてってことね」

 

「戦いは数だよ、雪蓮。我々がいくら一騎当千の力を誇っていても敵の数が多ければ、それも意味はなさない。敵を圧倒する物量を短期間に早急に用意するというのは、魏のような帝国では間違った考えではないだろう」

 

「しかし先の戦いでも、組織的な戦闘を連合がするのに対し魏は後手に回っていましたが・・・・」

 

「兵役を課していても職業軍人であるお前たちと比べれば、連度の低さがやはりあるのだろう。連合軍は常備軍を編成しているし、演習も定期的におこなっているからな。そういった一長の長があったという事だ」

 

連合は兵力こそ一国全体では魏に大きく劣るものの、各国は常備軍を設営しており兵士が職業となっている。

 

ただ魏と違うのは戦場で戦う軍人となるためには練兵には時間をかけて行うため、数が少ない。

 

呉は陸軍で五万、水軍で一万。

 

蜀は三~四万で山越は二~三ほどの兵力であり軍単体での行動というのは対魏で考えても期待できない。

 

そうであるのなら戦力としては一国で魏を相手する事は無謀であると思うだろう。だが冥琳は確固たる自信を覗かせ説明を続ける。

 

「この時期は稲作が行われる時期に差し掛かっており、兵役を課された農民は自分の田へと帰っていく。今いる兵も順次帰順しているくだろう。そのなった時に我々は攻撃をくわえ、一気に制圧という流れだ」

 

「それまで北方の動きは?」

 

「無論待機だ。こちらが制圧できさえれば、我々を制圧せんと北方の戦力を動かそうと騒ぎ出すであろう。その時に背中から一気に攻撃を仕掛ける!という事だ」

 

「それまでは私たちは北へ、ということね」

 

「ああ。北方の敵を本隊の三万五千あまりの兵力と我が部隊の一万弱で挟撃、一気に撃滅させる。部隊合流後は東南へと進路を変更。拠点を制圧していく。そのために我が軍の損害は最低限に抑えなければならないだろう」

 

「損害率はどれだけにしないといけないの?」

 

「概ね初戦は一割以下で凌ぎきって欲しいものだな」

 

「無茶言うわね」

 

「無茶は承知ではある。だがそれを実現するために私がやってきたのだ」

 

「あてにしてるわよ、美周朗」

 

「・・・その言い方はやめろ。私が美周郎と言われるのが嫌なのは知っているだろうに。では詳細な作戦を煮詰めるとしよう。いいか・・・・」

 

茶々を入れた冥琳は私を睨むと、そのまま会議を続ける。

 

(肩に力が入りすぎてるわね。冥琳の悪い癖ね)

 

私は肩をすくめると会議に耳を傾ける。

 

それから一ヶ月ほど待機が続く。

 

随時監視を行い、敵が動くのを今か今かと舌なめずりしている状態であった。

 

「雪蓮隊長、敵兵たちが・・・・」

 

「ええ、ついに動き出したわね。セキト!」

 

私は名前を呼ぶとワンと元気な声を上げ、尻尾を振りながら私のもとへとセキトが走ってくる。

 

「お前の主へ手紙を渡してちょうだいな。頼んだわよ」

 

私は敵の情勢を書いた用紙をセキトの首にかけられた書簡入れに収めると。頭を撫でる。

 

セキトは嬉しそうに私に一度身を寄せると、走り去っていく。

 

「お前も北方に情報を出せ!」

 

「はい」

 

副官は籠に収められた鳥の足に、紙をしっかりと括り付けると

 

「いけ!」

 

と外に飛ばしていく。鳩は北に向かい優雅に空を飛ぶと高度をあげ見えなくなった。

 

「伝書鳩の到着は予想できるかしら?」

 

「はい。おおかた1ヶ月といったところですな」

 

「結構よ。それまでに一気に敵を殲滅する。まずは冥琳を待ちましょう」

 

「しかしうまく考えたものですな。呂布の飼っている犬を利用するとは」

 

「セキトは賢いからね。少し訓練を積ませれば、このとおりよ」

 

恋と話を付け、セキトを用いて伝令を迅速に行なえないかを訓練をした結果、今ではセキトは呉軍で重要な伝令犬となりつつあった。

 

今ではセキトの働きが認められ呉軍は野犬を保護しては、こうして軍令犬、警邏犬にすることで役に立っている。

 

恋も最初は戦場を駆けるという事で懸念を示してはいたが、私の熱意に珍しく根負けした。

 

だが結果として軍令犬や警邏犬の飼育は恋が行い、躾や訓練も全て彼女が率先して行っていた。

 

彼女自身も多くの動物を保護でき、それが役に立てることに意義を見出したようでもあり今では懸命にセキトたちと訓練に励んでいたのであった。

 

最初は賊討伐での試用、実戦訓練が課され今回が初めての大規模戦闘での実戦投入でもある。

 

だがセキトは戦場の緊張を気にすることなく仕事をこなしてくれていた。

 

それから二日ほど経ち、直ぐ様呂布隊が到着する。私は皆が揃ったことを確認すると、振り向き声を張り上げる。

 

「皆、聞け!!この荊州攻略戦は志半ばで散った北郷を始めとした英霊を鎮めるため行われる、いわば聖戦である!!この戦いが呉の興廃を決める一戦となるだろう」

 

「「おう!!」」

 

「では予定通り作戦を開始!!私の隊は側面から敵を強襲するぞ。音々音、恋を任せたわよ」

 

「任せろなのです。恋殿の手綱は見事握ってみせますなのです!!」

 

「では、皆行くぞ!!」

 

こうして荊州攻略戦が開始されたのであった。


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