No.369432

黒髪の勇者 第二十五話

レイジさん

第二十五話です。

よろしくお願いします。

黒髪の勇者 第一話

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2012-01-28 15:30:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:305   閲覧ユーザー数:302

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黒髪の勇者 第二章 海賊(パート15)

 

 「フランソワ。」

 肩を落としながら、詩音は唸るようにそう言った。

 既に海賊どもは詩音の視界から遥かに離れてしまっている。視界に残るのは、ただ黒い海と空、そして時折光る波間の白い泡だけであった。

 「とにかく、善後策を考えよう、シオン。」

 グレイスがそう言いながら、羽交い絞めにしていた詩音を開放させた。

 「それで、シアールとやら、お主に聞きたいことがあるのじゃが。」

 オーエンが口を開く。

 「俺で分かることならな。」

 「海賊どもの母船はどこにあるのじゃ。日中に第一艦隊と交戦していたはずじゃが。」

 オーエンがそう訊ねると、シアールはああ、と頷きながら答えた。

 「あれは囮だ。俺たちの母船は別の小型船だ。」

 「ふむ、海賊にしては知恵が働くのう。」

 「さて、本当に奴らが考えたものか。」

 そこでシアールは一度言葉を区切った。

 「どういうことだ?」

 続けて、グレイスがそう訊ねた。詩音も漸く、面を上げる。

 「詳しくは知らないが、ユリウスとかいう若い男がいる。」

 「誰だ、そいつは。」 

 記憶を探るように首を傾げながら、グレイスがそう言った。

 「さて、俺も詳しくは知らん。だが、活動資金も戦略も、奴が主導しているという噂がある。」

 シアールの言葉に、グレイスはむう、と唸った。

 「そんなことどうでもいい。」

 やがて、詩音が口を開いた。

 「それよりも、早くフランソワを助け出さないと。」

 ぎり、と拳を握りしめながら詩音はそう言った。そのまま、言葉を続ける。

 「母船に行けば、フランソワを取り返せるのでしょう?」

 「まぁそうだが。お前ら、船なんてあるのか?」

 肩を竦めながら、シアールはそう言った。実際、アリア王国第一艦隊は海賊捜索の為に殆どの船が出払っている状態にある。日中にシャルロッテを救出した艦隊は全体の十分の一にすぎないが、そのほかの艦隊も各方面へと出航している状態であった。でなければ、こんなにも簡単にチョルル港が襲撃されることも無かっただろう。

 「船ならある!シャルロッテならすぐに追いつけるはずだ!」

 「じゃが、たった一隻で海賊船を討伐出来るものかのう。」

 続けて、意気込むように叫んだ詩音に対して、顔を顰めさせながらオーエンがそう言った。その時である。

 「さて、どうしたことかな、これは。」

 柔和な男性の声に、詩音は思わずその背筋を殴られたような感覚を覚えた。慌てて声のした方向を振り向く。

 「シャルロイドの旦那!」

 続けて、グレイスがそう言って平伏するような勢いで頭を垂れた。オーエンも驚いた様子で瞳を瞬かせている。シャルロイド公爵、アウストリアであった。その後ろには、武装を整えたビックスの姿も見える。

 「ああ、気楽にしてくれ。話は大体聞いている。フランソワは?」

 「それは・・。」

 唇を噛み締めながら、詩音はそう言った。冷たい風が流れる。一体、父親であるアウストリアに対して、どう報告すればいいのだろう。

 「面目ねぇ、旦那。姫さまは今海賊の手に。」

 詩音に代わって、グレイスが頭を下げたままでそう言った。その言葉に、アウストリアは軽く頷いた。

 「なんという、なんということだ!公爵様、今すぐにでもこのビックスに救出をお命じくださいませ、すぐに姫さまを奪回してまいりましょう。」

 ビックスが癇癪を起こすように、半ば叫びながらそう言った。

 「落ち着きたまえ、ビックス。君一人では海を渡れないだろう。」

 勤めて冷静に、アウストリアが答えた。そのまま、言葉を続ける。

 「グレイスも、そこまで気を病むな。何よりもこれは俺自身のミスだ。」

 そのまま、続ける。

 「シャルロッテが戻っていることは知っていたが、まさか今晩襲撃があろうなど、微塵だにも想像していなかった。父親失格だな。」

 そう言って、アウストリアは自嘲気味に口元を歪めた。

 「しかしのう。旦那。儂らはどうすればいいかのう。」

 沈黙しかけたところで、オーエンがそう訊ねる。

 「無論、救出にいくさ。俺の魔術があれば、海賊などたいしたことはない。シャルロッテとやらは動くのかね。」

 「それは、ええ、すぐにでも。」

 グレイスがそう答えた。

 「ではすぐに準備を整えてくれたまえ。ああ、砲弾と食料品の補充は不要だ。どうせ一晩で片がつく。」

 「えらい自信だな、おっさん。」

 呆れた様子で、シアールが無遠慮にそう言った。その言葉を咎めようとしたビックスを片手だけで宥めながら、アウストリアが冷静に、軽く笑いながら答える。

 「これでもシャルロイド公爵なのでね。魔術なら他人に引けを取るつもりはない。それよりも、君も手伝ってくれたまえ。」

 その言葉に驚いたのは詩音であった。

 「でも、アウストリアさん、こいつは海賊です!」

 「無論、その格好を見れば分かるさ。だが、腕は立つのだろう。」

 「随分と楽観的だな。」

 シアールがそう答えた。

 「何、長く生きていると人の風貌を見れば分かるものさ。それからシオン君。」

 アウストリアはそう言って、詩音の右手に握られている木刀に視線を移した。

 「君はすぐに真剣を用意してくれたまえ。それでは随分と心もとない。」

 「なら、儂のタチを譲ろうかのう。」

 続けて、オーエンがそう言った。その言葉を耳にしながら、詩音は手元の木刀を見つめる。真剣を握る事に戸惑いと、僅かな恐怖を感じながら。

 「では、グレイス、すぐに準備を頼む。三十分以内に出航したい。」

 アウストリアはそう言うと、全員の先頭に立って歩き出した。

 

 「痛いなぁ、もう。」

 ぼやきながら、フランソワはそう言った。あの後、気付いた時には既に海賊船の船倉へと押し込まれていた。どうやら牢獄らしい。周りにはフランソワと同様にチョルルから連れ去られたらしい、美形の女性ばかりが十名ほど、恐怖に脅えながら震えている。その中で、膝を抱えて床に腰をおろしたフランソワは一人、奇妙なほどに冷静な感覚を覚えていた。着衣が剥ぎ取られていないことを見ると、どうやら性交渉はされなかったらしい。

 とにかく、ここから逃げる方法を考えなきゃ。

 フランソワはそう考えて、絶え間なく続くさめざめとした音を無視して思考を巡らせた。船の揺れ具合から、今いる位置は船底部分に当たるところだろうと推測を立てる。規模はシャルロッテよりもさらに小型の船だろうか。となると、船員は百名程度。自身が乗せられた上陸用の小型船は確認できただけで四隻。そのうちの一つでも強奪できれば。

 「・・魔術が使えたらなぁ。」

 そこでフランソワはぽつりと呟いた。いや、せめてシオン程度の力があれば。ここにいる全員を連れて脱出できるのに。

 どうして、私には魔術の才能が芽生えなかったのだろう。

 そう考えて、フランソワは折り曲げた膝の上に頭を押し付けた。どれだけ科学を習得しても、こんな時に役に立たなきゃ意味がない。思わず、そう考えてしまう。或いは、シオンがこの場所にいたら。

 きっと、助けてくれるのに。

 フランソワがそう考えた時、こつり、という靴音が響いた。誰かが近づいてくる。

 「全く。財宝はともかく、女は余計ではありませんか。」

 牢獄の向こうから、そんな声が響いた。その声につられるように顔を上げると、そこにいたのはまだ若い少年である。最も海賊船が不似合いな、まだ幼さが残る少年であった。

 「いやいや、ユリウスさん、そんな固いことを言わないでくださいよ。」

 その少年に対して、へつらうようにそう言った男は、少年よりも遥かに年長に見える体格の良い髭面の男であった。まるで場違いな二人のやり取りにフランソワは興味を覚えて、静かに耳を傾ける。

 「とにかく、彼女たちは頃合いを見て開放します。」

 厳しい口調で、ユリウスと呼ばれた少年が髭面の男にそう言い放った。

 「へ、いや、少しだけ、ほんのちょびーっとだけ、楽しめれば。」

 「・・この船の活動資金を提供しているのは?」

 「・・いや、その。ほんのちょっと、士気を高めるだけで・・。」

 「切り裂かれなければ分からないというのなら、今すぐ貴方を微塵にまで切り裂いてあげましょうか。」

 ユリウスはそう言いながら、右手を軽く持ち上げた。その先には指揮棒程度の大きさであるワンドが握られている。そのワンドの先端がユリウスの動きに合わせてぼんやりと輝いた。

 「いや、いや、いや!分かりました、分かっておりますとも!」

 その動作に、髭面の男は両手をぶんぶんと振り回しながらさも慌てる様子でそう言った。

 「なら、余計なことはしないでください。開放する日時は後で指示します。もしその間に背徳行為があれば。」

 ユリウスはそこでわざと言葉を区切ると、自身よりも一回り以上大きな男を凄みのある瞳で睨みつけた。

 「即座に対象者を処刑します。対象者如何に問わず、貴方も殺す。監督不行き届きとしてね。」

 「わ、分かりました、だから、その、ワンドを下げてくだせえ!」

 髭面の男がそこまで言うのを耳にして、ユリウスは漸く納得した様子でワンドを懐に戻した。そのまま、髭面の男を引き連れて牢獄から立ち去っていく。ただ単に女性たちの様子を見るためだけに訪れたらしい。それよりも、開放される目処があるらしいと知った女性たちが安堵したように顔を見合わせ始めた。

 だが、それよりも。

 「あの人、凄い。」

 フランソワは瞳を丸くしながら、そう呟いた。あのワンドから溢れる魔力。

 間違いなく、超一流の魔術師であったからだ。

 


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