『HYPERIONヨリ入電』

 

 

 星の瞬きが見える。

 どこかも解らない宇宙空間。

 

 私は無限とも思える時間をここで漂っていた。

 無数に襲いかかってくるセレーネのEOS(むじんき)

 何故私が未だに撃ち落とされていないのかが不思議だった。

 

 精神が研ぎ澄まされ、既に時間の感覚がなくなっている。

 

 

『貴官ハ重大ナル

 

 反逆行為ヲ犯シテイル』

 

 

 私をモニターにするなどと言っていたヒュペリオンの通信も、スバルを狙わずEOSを破壊し続けた私を完全に敵と見なしてしまったようだ。

 

 

 私がスバルと戦えるはずなどない。

 スバルをこんな先に死しか待っていない地獄へと向かわせないよう、私はこれまでずっと戦ってきたのだ。

 

 

『直チニ武装ヲ解除シ

 

 投降セヨ』

 

 

 投降など誰がするものか。

 

 スバルに武器を向ける気はない。

 だが、セレーネ。お前達は私が死ぬまで徹底的に壊し殺しつくしてやる。

 

 

『繰リ返ス

 

 貴官ハ……』

 

 

 EOSから奪ったミサイルポッドを構える。

 飛行魔法を唱えEOSの銃弾をかわす。

 

 私は一人死ぬまで戦い続けるのだ。

 

 

 ……ふと、いつか私と一緒に戦った魔動少女の顔が頭に思い浮かんだ。

 私とは正反対の正義の道に生きる戦友カガリ・ダライアス。

 

 彼女ははたして、私が死んだら悲しんでくれるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.

第十二話『アインハンダー』

原作:アインハンダー

原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ

原作設定:日本製シューティングゲーム各種

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちが地上に戻ってすぐ。八福社の強制捜査に並行して、セレーネへも捜査の手が入れられた。

 

 捕まった八福社の幹部は、まるでセレーネを道連れにするかのようにセレーネと戦闘機人の資料を管理局へと提示した。

 ギンガさんが中解同について詳しく知っていたのと同じように、八福社もアインハンダーについて独自の情報を得ていたのだ。

 

 ミットチルダに潜む闇は底が知れない。

 どこまでが表でどこからが裏なのか、たまに解らなくなる。

 

 

 セレーネへの捜査開始から三日。

 かつての戦闘機人事件で姿を消した違法機人の実験と運用を行っていたことが判明。

 

 その戦闘機人のうちの二体が、時空管理局員クイント・ナカジマの遺伝情報を元にした培養機人であるとの資料が発見された。

 ギンガさんとその妹のことであろう。

 

 ミッドチルダにおいて培養された生命体に姉妹という概念があるのかどうかは解らない。

 だが、二人は管理局が戦闘機人の捜査を行った二年より前の時点で一緒に教育を施されていたようだった。

 

 

 そしてヒュペリオン。

 セレーネ内の独立課であり、企業テロに対抗するための魔法機械を作っていた研究組織だ。

 

 ヒュペリオンが戦闘機人を開発したわけではない。

 ギンガさん達は二年前に魔法機械の搭乗者、商品としてセレーネに売られたらしい。

 何故セレーネに売られたのかは、以前オーリス姉さんが言っていた中央技術開発局としての繋がりだったのだろう。

 

 

 昨日に行われた研究所への強制捜査の時点で、すでにヒュペリオンはもぬけの殻。

 セレーネ上層部には直接ヒュペリオンに指示を与える権限がない、とは逮捕されたセレーネ幹部の証言だ。

 

 ミッドチルダには嘘を見破る魔法、真実を語らせる魔法、心を読む魔法などいくらでもあるので証言の信憑性は高い。

 

 つまりギンガさんはセレーネに狙われたのではない。

 セレーネを見限ったヒュペリオンによって連れ去られたのだ。

 

 新しい情報は次々と私たちの元へと入ってくる。

 セントラルでの戦闘を終えた私は、オーリス姉さんと二人で捜査官から入ってくる情報をまとめているのだ。

 

 私はいつでも出撃できるようにとパイロットスーツに着替え、バイザーを使ってデータの整理を行っていた。

 次々と入ってくる捜査情報。だが、ヒュペリオンに関する情報は入ってこない。

 

 言葉では言い表せない感情がお腹の奥に溜まっていく感じがした。

 

「姉さん、まだギンガさんは見つからないんですか……」

 

「落ち着け。捕まえたセレーネのやつらにヒュペリオンについて吐かせているところだ」

 

 それが一向に進展しないから、こんなに鬱屈としているのだ。

 

「……だって、連れ去られてからもう三日なんですよ!」

 

 捜査の上ではたったの三日。だが、殺されようとしている人を相手に考えると長い三日間だ。

 

 生存は絶望的。

 

 そう考えたとたん、お腹の底が熱くなり涙がこみ上げてきた。

 

「死んじゃいます、このままじゃギンガさん殺されちゃいますよぉ……」

 

「だからといってお前が焦って何が出来る。もっと私達、時空管理局を信じなさい」

 

 もどかしい。私が時空管理局で出来るのは、犯罪者を武力で押さえつけることと、簡単な情報の解析のみ。

 捜査は専門外。中解同のテロが治まった今、私に出来るのは待つことだけだ。

 

 ギンガさんは私の目の前で消えた。

 セレーネに戻ったわけではない。

 兵器のテストに使うためだけに彼女を連れていかれた。私の目の前でだ。

 

 

 私たちの前に姿を現した赤いアインハンダー。

 あのとき取り乱したギンガさんの様子から推測すると、あれに乗っていたのはギンガさんの妹、彼女と一緒に育ったもう一人の戦闘機人ということになる。

 

 ギンガさんは言っていた。自分は妹を救いたいだけだと。

 

 自分と同じような戦いの場へ妹を連れてきたくなかったのだろうか。

 中解同を滅ぼせば、もう戦いは無くなる。そう信じて戦ってきたのだろうか。

 

 だが今はヒュペリオンはセレーネの元にはいない。

 戦闘機人はこの中心世界において、貴重な兵器であり商品だ。

 企業の対立は時空管理局の介入という形で終わった以上セレーネにおいて戦闘機人の価値はなく、次の市場を求めてヒュペリオンはセレーネを脱した。そう私とオーリス姉さんは推測している。

 

 今ヒュペリオンの行方を突き止め止めなければ、また世界の影に紛れて見えなくなってしまう。

 

 だがそんなことはどうでもよく、私はギンガさんを助けたい。

 情が移った、と言ってしまえばそこまでだが、共に戦った戦友を兵器の試用などという理由で失いたくはない。

 

 気は沈むばかりだ。

 だが私がどうこう思ったところで事態は何も変わらない。

 

 

「世の中どうしようもないことはいくらでもある。私のような魔導師ではない人間はいつもそんなことばかりだよ」

 

 

 全くフォローになっていないオーリス姉さんの言葉を聞きながら、私は待ち続ける。

 

 

 捜査官から入ってくる八福社とセレーネの捜査資料を黙々と整理していたとき、アースラからの通信が入った。

 

 アースラはセントラル内の捜査と周辺空間の転移痕の捜索を担当している。

 報告書ではなくわざわざ直接通信をしてくるということは、何か進展があったのだろうか。

 

『カガリちゃんカガリちゃんカガリちゃん!』

 

 エイミィ執務官補佐だ。

 相変わらず妙なテンションだが、一目で何かがあったというのが解るのはありがたい。

 

「どうしましたエイミィさん!」

 

 ああ、私のテンションもおかしい。

 

『アインハンダーの行方が解ったよ!』

 

 アインハンダーの行方が解った。ギンガさんの行方が解った。

 言葉を理解した途端、首の後ろが熱くなり舌がからからに乾いた。

 

 落ち着け、私。明らかに今の私は普段の私とは違う。

 

 思わず咳き込んでしまった私に、オーリス姉さんが背中をさすってくれた。

 

『え、えっと、報告いいですか?』

 

「ああ、構いませんよ」

 

 私の代わりにオーリス姉さんが応えた。

 私は咳き込んで涙が浮かんだバイザーの視界で、エイミィ執務官補佐の映る通信ウィンドウを見る。

 

 嘱託魔導師の私とは違いオーリス・ゲイズ二尉の前とあって、エイミィ執務官補佐は佇まいを直し真面目な声で報告を始めた。

 

『セントラル周辺空間を探索中、亜空間の発生を感知しました。内部空間を調べたところ、所属不明の魔法機械が戦闘を行っています』

 

 エイミィ執務官補佐の映るウィンドウの横に、新しく空間投射ウィンドウが開く。

 それに映るのは歪んだ星の光。宇宙に構築された亜空間だ。

 

『戦闘を行っているのはアインハンダーと、セントラル付近に出現した魔法機械群……セントラル周辺に亜空間を構築して中距離転送したものと思われます』

 

「まだ戦闘は続いているんですか!」

 

 亜空間のウィンドウの中、小さな爆発が瞬いた。戦闘が行われている。

 ギンガさんは三日間も一人戦い続けていたというのだろうか。

 

『空間座標は全て算出済みで内部の観測もこのように可能……なんですが』

 

 言いながら、エイミィ執務官補佐が手元のパネルを操作する。

 亜空間のウィンドウにグラフデータが表示された。空間の歪みを表す二次元グラフだ。

 

『この亜空間、二十六次元空間は今不安定な状態で、戦艦ではとても突入出来ません。空間干渉で虚数空間が発生してしまう可能性が非常に高いです』

 

 この宙域に立ち寄らせないため、ヒュペリオンが不安定な空間に閉じこもっているということか。

 

 そもそもこうやって管理局に発見されるのも想定外だったのかもしれない。

 三日間。三日間もギンガさんはここで生き延び続けたのだ。

 

「戦艦が無理となると魔導師隊が生身で突入ということですか」

 

『む、無理ですよ。こんな不安定な空間、デバイス程度の演算能力では渡れません』

 

 次元世界間の移動は魔法が無ければ行えない。

 だが、同一次元世界内の亜空間の渡航は次元世界理論は適用されない。純粋な物理科学の領域。

 世界を書き換える力ではなく、世界を知る知恵をもって初めて踏み込める領域だ。

 

 すなわち。

 

「エイミィ執務官補佐。その空間のデータを全て私にください。私なら、単独で二十六次元を越えられます」

 

 純科学の極点に達したダライアスの技術ならば、その領域に手が届く。

 

『単独って……』

 

「オーリス姉さん、いえ、ゲイズ二尉。出撃の許可をください」

 

 私の言葉に、姉さんは強く眉をひそめた。

 

「それは私に死んでこいと言えということか」

 

「いいえ。前から言っているでしょう。ダライアスの戦闘機は、単独任務の生還にこそ真価を発揮すると」

 

 認められなければ、無断飛行で亜空間を突破するのも辞さない覚悟だ。

 私の今までの功績を考えれば、懲罰はダライアス一族までは及ばないだろう。

 

 私はオーリス姉さんの目を真っ直ぐと見つめる。

 

 にらみ合うこと数秒。やがて姉さんはため息一つに言葉をこぼした。

 

「解った、許可する」

 

『え、えー!?』

 

 エイミィ執務官補佐驚きすぎです。

 

「責任は私が取る。死んでこい」

 

「だから死にませんって」

 

 言いながら席を立つ。

 

「エイミィ執務官補佐、座標データの転送お願いします」

 

『……いえすまむー』

 

 急ごう。

 今は一分一秒も惜しいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダの地上から指定座標の宙域まで、五分とかからず到着する。

 

 ダライアスの戦闘機は、とうの昔に宇宙時代を経た存在だ。戦闘を行わない直線移動ならば、天体系間の移動も容易。

 加速と慣性制御が合致すれば一瞬で大気圏突破可能な速度まで到達出来る。

 

 この速度こそ、ミッドチルダの魔導師とダライアスの戦闘機の最大の違い。

 地上本部最速と呼ばれるのも当然のこと。皆は生身で私は機械を用いているのだ。

 

 バイザーで周囲を探知する。亜空間の発生を一瞬で感知。

 何故三日前、転移先を追おうと周辺空間を調べなかったのか、今更になって悔やまれる。

 

 シップの演算を開始。アースラから受け取ったデータを元に、異層次元の扉をこじ開ける。

 

 視界が歪む。宇宙の星の瞬きはそのままに、自分の存在がだんだんとずれていく。

 長い年月を経て、再びR戦闘機が二十六次元の世界を跳躍する。

 

 

 一瞬の暗転、そして、視界が開けた。

 世界は未だに歪んだまま。だが、その先に宙を飛び交う機械の姿が見えた。

 

 目に映ったのは、黒い機体……アインハンダーだ!

 

 アインハンダーの周囲には鋼色の戦闘機が三機飛び回っている。

 

 アインハンダーを駆るギンガさんはヘルメットがなく素顔がむき出しで、その表情は苦しげ。

 

 次の瞬間、赤い戦闘機がギンガさんの後ろから強襲してきた。

 私は咄嗟に赤い戦闘機へフォースを抱えた機体で体当たりする。

 

 戦闘機はフォースの魔力の前に四散する。

 機動力の割には薄い装甲だ。

 

 唐突な私の登場に驚愕の表情を浮かべるギンガさん。

 私はそんな彼女をつかみ取り機体を引っ張ってその場を離脱する。

 

 慣性制御の障壁に身を包み、こちらを追おうとする魔法機械では到達不可能な速度で飛び続ける。

 戦闘機の姿が消えたところで宙をただよう中型機の残骸の影に身を隠した。

 

 ギンガさんは未だに呆けたまま。

 私はその頬を指先で軽く叩いて気付けをする。

 うん、柔らかい。さすが幼児。

 

「え、あ、ど、どうして……」

 

 私の魔力障壁の中。空気がありこの二十六次元空間の中でも声が伝わってくる。

 

「助けに来たに決まってるじゃないですか」

 

「え……」

 

 私の言葉にまた呆けた表情に戻るギンガさん。

 その表情はやがて変わっていき。

 

「助けに、来てくれたの……」

 

 顔を歪めて涙を流し始めた。

 その表情は、もはや戦闘者のものではなく、年齢相応の幼子のものだった。

 

「お願い……妹が、スバルが……助けて……」

 

「ええ、助けますよ。ですから、まずは落ち着いて」

 

 そう私は言いながら、ギンガさんの首筋に注射剤を打った。

 私が出撃する間際に医療班が渡してくれた、戦闘機人にも効果のある栄養剤。

 セレーネから戦闘機人に関するデータは全て押収してあり、ギンガさんの現状を知った医療班は即座にこれを仕上げてくれたのだ。

 鎮静作用もあるのか、ギンガさんの表情がゆるむ。

 

「妹さんを非殺傷で撃ち落として貴女の前につれてくれば良いでしょうか?」

 

 我ながら物騒な案だ。

 だが、あの赤いアインハンダーがこちらに敵対している以上力業は必要になってくるだろう。

 

「……私を襲ってきたスバルは、あの子に出来るような動きをしていなかった。多分操られている。止めるだけじゃ、駄目」

 

「操られているというと……傀儡の魔法ですかね?」

 

「この空間にある無人機、EOSはヒュペリオンの管制下にあるはず。だから、妹も機械的な操作でヒュペリオンに操られているのかも」

 

 ああ、そうか。彼女たちは戦闘機人なのだ。

 機械と親和性の高い身体。つまり、機械からの影響を強く受ける。

 

 ギンガさんが正気を保っていると言うことは彼女にはそれが埋め込まれていないのだろう。

 

「ヒュペリオン、ですか。貴女が所属していた組織の名前ですね」

 

「違う、セレーネは何も解ってはいない。ヒュペリオンなんて組織はどこにも存在しないの」

 

 ヒュペリオンは存在しない?

 どういうことだ。セレーネは確かにヒュペリオンを抱えていると言った。

 

「あるのは、人を越えた人工知能とそれに従う技術者達だけ。ヒュペリオンは武装衛星機の名前なの」

 

「……ああ、神の機械とその盲信者ですか。よく聞く話です」

 

 ダライアスの歴史を紐解くと、そんな事例はいくらでもあふれ出てくる。

 人はいつの時代も神を自らの手で作り出すのだ。

 

「ヒュペリオンは、今この空間のどこかに居るの。私では、壊せなかった」

 

「そいつを破壊すれば貴女達は解放されるというわけですね。」

 

 もしギンガさんの妹がヒュペリオンに操られているとしたら。破壊することで光が見えるかもしれない。

 

「解りました。私はそのEOSとヒュペリオンを相手します。貴女はこれで……」

 

 両肩のシップの装甲を開く。

 装甲の中からそれぞれ一丁ずつ銃身が飛び出した。

 

「これで妹さんを止めてきてください」

 

 重力制御を用いて装甲の中から銃を取りだし、ギンガさんの前へと掲げる。

 

「非殺傷設定が可能なレールガン、フラッシュです。貴女のアインハンダーがあれば、きっと使いこなせます」

 

 ガンポッド規格に変えたR戦闘機用機銃魔動レールガン、フラッシュ。

 内部にカートリッジシステムを参考にした小型魔力槽を搭載しており、その威力はR戦闘機のレールガンの比ではない。

 すぐにギンガさんの元へ向かえたら共闘するつもりで三日前に作成したのだ。

 

 ここにくるまでこんなに長い時間がかかるとは思っていなかったが、幸いアインハンダーは損壊も少なくまだ戦える。

 ギンガさんは妹を救いたいと言っていた。ならば、妹さんを止めるのは彼女に任せるのが一番良いのだろう。

 

「ただし、無理はしないでください。三日間、ずっと戦い続けていたのでしょう」

 

「大丈夫、スバルは……スバルは私が助けてみせる」

 

「そうですね。私は手助けするだけ。余計な無人機やヒュペリオンは私に任せて、妹さんを救ってあげてください」

 

 ギンガさんが無事な様子が見れたからか、私の頭も少しずつ冷えてきていた。

 そうだ。妹を救うというのはギンガさんがずっと望んできていたことだ。

 

 成し遂げたい強い望みがあるなら、私はそれを押しのけず、後ろから背中を押してあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二十六次元の空間を駆ける。

 

 空間内の無人機をシップで捜索。その全てが、ギンガさんの方へと向かっている。

 

 彼女の邪魔をさせるわけにはいかない。

 

 アフターバーナーの火を噴かし、高速で無人機の群れへと接近する。

 

 カーテン・コールの前方に抱えるフォースはニードル・フォース。

 とげのように球状のフォースから付きだした制御棒。

 太古の近接武器、モーニングスターを連想させられる姿だ。

 

 無人機の群れの中にフォースを射出。

 それだけの動作で二機の無人機がニードルの装甲とフォースの魔力を前に、装甲に大きな風穴を開けた。

 

 そのまま遠隔操作でフォースの機銃を起動。

 フォースは回転しながら全方位に向けてレールガンを撃ち出した。

 

 次々と沈んでいく無人機。

 ギンガさんへと向かおうとしていた無人機達は、船首をこちらへと向けて標的を変更する。

 

 その中でも特に素早い赤の無人機が一機飛び出した。

 先端に紫電が走る砲塔をこちらへ向けている。

 ガンポッド規格の武装ライオット。

 

 砲塔の射線から逃れるため機体を横に傾ける。

 次の瞬間、カーテン・コールの魔力障壁すれすれを雷撃が通過した。

 

 私はフォースに機体へ戻るよう指示、さらにカーテン・コールのレールガンを赤い無人機へと向けて撃ち込む。

 正面の弾丸、後方からはフォースの突撃。挟み撃ちになった無人機は見事に砕け散った。

 

 

 無人機の設計思想はアインハンダーと同じ。すなわち、性能は高いが装甲は脆い。

 

 ならば、機動力で私を上回らない以上、私が負ける道理がない。

 英雄の世界、その戦闘機の力を見せるときだ。

 

 手元に戻ったフォースからレーザーを放つ。

 三方向へのレーザーを交互に放ち、計六発を撃ち出す青の3WAY反射レーザー。

 

 フォースは基本的に三つのレーザーのバリエーションを備えており、赤、青、黄で分類されている。

 

 フォースから雨のように次々と青色の光が飛び出していき、高速で移動する私へ追いすがろうとする無人機を貫いていく。

 

 

 この程度なのか、ヒュペリオンの戦闘機は。ギンガさんを犠牲にして得た技術は。

 

 無人機で私に勝ちたいならば人に匹敵するAIを連れてこい。この程度の鉄屑では力不足だ。

 

 

『WARNING!! WARNING!!』

 

 

 無人機を相手に暴れ回る私に、強力な魔力反応が近づいてくる。

 

 この亜空間内でAA以上の魔力を持つ存在は四つだけ。私、ギンガさん、赤いアインハンダー、そしてもう一つ。

 今近づいてきているこの強大な魔力は、ギンガさんが武装衛星と呼んでいたヒュペリオンだろう。

 

 来るのなら迎撃してみせよう。

 フォースのレーザーで周囲の無人機を全てなぎ倒し、魔力反応の元へと向かう。

 

 歪んだ視界に大型機が映る。

 

 人型機の胴体に甲虫の羽を腕に付けたような異形の戦艦。

 これがヒュペリオンなのか。

 

 その装甲は、すでに表面がえぐれ銃弾が内部にめり込んだ痕がついている。

 ギンガさんはこれと戦ったのだろう。

 

 大型機へ機銃を向ける私に念話が届く。

 

 

 

『HYPERIONヨリ入電

 

 直チニ武装ヲ解除シ

 

 投降セヨ

 

 繰リ返ス

 

 直チニ武装ヲ解除シ

 

 投降セヨ』

 

 

 

 どうやらこれがヒュペリオンで間違いがないらしい。

 投降しろなど、勿論従う気など毛頭無い。

 

 ヒュペリオンが行動を開始する前に、フォースのレーザーを赤に切り替え、波形レーザーを放った。

 赤青二色の光線が、紙の上で波形のグラフを描くようにして空間を切り裂く。

 

 見た目は大人しいが威力は十分備えた二発のレーザー。

 ヒュペリオンの魔力障壁へと衝突し火花を散らす。

 

 私の攻撃に念話を止めたヒュペリオンは、その巨体に似合わない機敏な動きで私の背後を取ろうと跳ね上がった。

 

 弧を描いて移動するその軌道に、小さな魔法機械が配置されているのが見えた。

 バイザーの解析によると、EI社の魔力ビーム発生装置(ビット)と規格が合致。

 

 咄嗟に銃口をヒュペリオンからビットへと向け、レールガンで狙いを付けて一機ずつ撃ち落としていく。

 小さな爆発と共にビットが破壊される。

 音はない。何もない亜空間の中では音を伝えるすべはない。

 

 撃ち漏らしたビットは、一斉に私の方を向き魔力で構成されたビームを放ってくる。

 十を超える数撃ち出されたビットはわずか三機までに減っており、十分に回避の予測がつく。

 

 ビームをわずか横にずれて回避し、魔動ミサイルで残ったビットを破壊する。

 

 ヒュペリオンは既に背後。

 右後方のアフターバーナー片方を噴かせて瞬時に旋回する。

 

 歪んだ空間が視界の端で流れていく。

 ミッドチルダの月の側に発生した亜空間。

 

 星の光と水面に映ったようにゆらめく月と青い地上の姿が交互に見えた。

 

 風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に。

 

 なのはさんの魔法詠唱だっただろうか。

 私は今まさに天の領域を駆けている。

 

 不屈の心を抱える胸の魔力炉から輝く光を腕に届け、さらにシップへと伝える。

 光は銃弾とレーザーへと変わり、ヒュペリオンの魔力障壁を削り装甲をえぐっていく。

 

 対するヒュペリオンは、装甲を大きく変形させ巨大な魔力の槍を前方へと掲げた。

 

 危険。

 危険だ、避けろ。

 

 直感のまま情報へと大きく離脱した次の瞬間、付きだした装甲が前方へと射出され先ほどまで私のいた空間を貫いていた。

 大型機の大質量に任せた装甲のアンカーショット。

 

 飛び出した装甲を追うようにヒュペリオンも同じ軌跡で前へと突進した。

 魔力の大きさと装甲の厚さだけで見ると、私はヒュペリオンにはとてもかなわない。

 だが、その程度の差でダライアスの戦闘機が負けるわけにはいかない。

 

 すでにヒュペリオンの装甲強度と障壁構成は解析し終わった。波動砲のチャージを開始する。

 

 イメージするのは戦艦の主砲。そして巨大な城塞を破壊する巨大な一撃。

 そう、一撃だ。大型のヒュペリオン全てを貫く力を波動エネルギーとしてチャージする。

 

 機銃の攻撃を止めた私と同じく、ヒュペリオンも攻撃の手を休め前方へ魔法陣を展開した。

 バイザーでの解析。術式、古代ベルカ。広域砲撃魔法。

 

 術式のチャージは一瞬。青白い魔力の光が真っ直ぐ私に向けて飛んでくる。

 

 魔力値はSランクを超える。防御は不可能。

 

 最速の動きをもって回避を行う。

 足を止められなければ、機械兵器と比べて動作の大きい大魔法は避けるのは困難ではない。

 

 回避行動の最中にも、波動エネルギーのチャージは続く。

 

 カーテン・コールの装甲は変形し、波動砲を撃ち出す突撃形態へと変わっている。

 

 必要なのは一撃。全てを貫く一撃だ。

 極限まで圧縮された波動エネルギーは物質化され、一本の杭となる。

 

 準備は整った。今の私は巨大なエネルギーの塊。

 先ほどの広域砲撃魔法をはるかに上回る魔力の塊。

 

 一撃を放つため、ただ真っ直ぐにヒュペリオンへと向かう。

 チャージし続けてあふれたエネルギーが星の光に混ざって黒い空間を彩る。

 

 ヒュペリオンは再度ビットを私へと向けて放つ。

 だがそれも無視。ビットの隙間を抜け、ヒュペリオンの眼前へと迫る。

 

 位置は頂点。ヒュペリオンの全てを打ち抜くため。

 

 限界まで蓄積したエネルギー。

 その全てを今解放する。

 

 解放されたエネルギーは空間を揺るがし、音のない空間に轟音を響かせた。

 

 巨大な魔力の杭がカーテン・コールからただ真っ直ぐに飛び出す。魔力の杭はヒュペリオンの魔力障壁を一瞬で蒸発させ、紙のように装甲を貫き、内部を食らいつくし、衝撃を伴って突き抜けた。

 カーテン・コールのわずか倍の長さの杭は、戦艦にも匹敵する巨大なヒュペリオンの機体を串刺しにした。

 

 衝撃から一瞬遅れて、視界が紫電に満たされる。

 あまりにも高速で撃ち出された杭が、空間中の粉塵と接触し帯電したのだ。

 

 

 加速をもって質量を叩きつける単純な杭打ち(パイルバンカー)を極限まで極めた波動砲。

 

 パイルバンカー帯電式H型。

 

 

 はるか昔、人類を危機に陥れたバイドを殲滅した最終波動砲、その威力に肩を並べる破壊の象徴。

 

 それは、ただの一撃を持ってヒュペリオンの全てを貫いたのだ。

 

 

 ヒュペリオンにとっては針程度の大きさの杭。

 だがその衝撃は内部の機械を全て砕き、機体全体から爆炎を漏らしながらヒュペリオンは沈黙する。

 

 

 小さな爆発はやがて連鎖となり、大きな爆発を一つ上げて装甲を周囲へとばらまき始めた。

 

 

 これが私の全力全開。

 

 私の全ては、ミッドチルダの機械の神へと届いたのだ。

 

 

 主を失った無人機は沈黙し、既に亜空間を漂う鉄屑へと変わっている。

 

 歪んだ星の輝きの中、爆発を続けるヒュペリオンだけが視界の中で動き続ける。

 

 やがて、一際大きな爆発を起こし、ヒュペリオンは無数の鉄の残骸へと変わり二十六次元の宇宙へと散らばっていった。

 

 

 魔力が霧散し膨大な魔力残滓へと変わる。

 それは少しずつ空間に溶け、世界の一部へと変わった。

 

 

 残ったのは、ただ一つの魔力反応。

 

 その方向へバイザーの望遠視界を向ける。

 

 

 そこには、パイロットスーツに身を包んだ小さな子供を両の手で抱えた黒いアインハンダー、ギンガさんがたたずんでいた。

 

 

 

――――――

あとがき:SHOOTING TIPS

■ヒュペリオン

アインハンダーより七面ラスボス、HYPERION UCS MK.XII。月の中核である無人指揮衛星。

A.C.E.9bでも描写した最大の苦戦の場である六面ラストを終え、最終テストの通信を聞き盛り上がったところで戦う最高の演出戦です。

ラスボスですが強さにはあまり言及しないであげてください。

 

■3WAY

STGの敵機が放つ基本的な攻撃。同時に三方向へと弾丸が連射されます。

この回避方法を理解することがSTG入門の第一歩。

 


 
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