ここがあなたの眠る場所

 

 

 

 ここがあなたの終着駅です

 

 

 

 安らかに……安らかに……安らかに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.

第十一話『HEART LAND -心臓部-』前編

原作:アインハンダー

原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ

原作設定:日本製シューティングゲーム各種

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無重力の支配する中、廃棄宇宙ステーションの港から内部へと降下していく。

 

 JUDA CENTRAL SYSTEM。

 

 八福星間開発公司が月面都市の行政区画として建造を行った人工衛星都市である。

 だが、月面開発競争の敗北により月面都市建造計画が頓挫。

 このセントラルも建造途中に廃棄が決定したのだ。

 

 だがそれはあくまで公表された記録上のこと。

 

 明かりも無く眠り続ける鉄骨で組まれた空間の奥から微かに感じる。

 魔力のうごめく様子が。

 

 

 アフターバーナーから魔力の火を噴かし、周囲を光で照らす。

 暗視モードに入ったカメラアイの視界の中、突入隊のメンバーが光で強く浮かび上がる。

 

 はやてさんは無重力空間に来るのが始めてのためか、動きがどこかぎこちない。

 

 私たちの後ろからはアースラの武装隊メンバーが編隊を組んでついてきている。

 彼らはこのまま入り口付近にとどまり、転送用の結界構築とステーション外殻の固定を行うことになっている。

 

 セントラルは月面に近い空間を漂っている。

 万が一の自爆や月面都市への特攻を考えて、アースラによる大規模結界で動きを押しとどめるのだ。

 

 武装隊は魔力の明かりを空間に灯し、結界構築のために散開する。

 詠唱の声は聞こえない。空気が無いため音が伝わってこないのだ。

 

 私たちは武装隊を背後にセントラルの内部へと進む。

 眠り続ける鉄の城塞。だが、バイザーは魔力の動きを確かに捉えた。

 

 皆へと念話を送る。

 

 

『小型駆動炉反応有り。ミッドチルダ製戦闘魔法機械が接近しています』

 

 

 瞬間、セントラルが蘇った。

 壁のライトに光が灯り、白線の引かれた通路を下に重力が生まれる。

 

 施設の奥から無数の魔力の反応が感知された。

 ミッドチルダ規格の戦闘機械だけではない。中解同の有する地方世界の駆動炉の魔力もバイザーが拾う。

 

 皆武装を構え陣形を維持したまま前へと進むと、機械の駆動する音が聞こえた。

 港と空間干渉結界を隔ててこの空間には空気が存在している。

 

 この施設は生きている。本当にただ眠っていただけなのだ。

 

 

 私の発した念話は同時送信用の指向性の無い広域タイプのもの。管理局の一般回線だ。

 逆探知されて管理局の突入が察知されたのだろう。

 

 このステーションの真相を知らない民間船が中に侵入しただけで施設全体を稼動していては、すぐにその存在が公になってしまう。

 施設の稼動は明らかに管理局をピンポイントで狙ったもの。ステーションの破棄が虚偽だったと知れてからの処置。

 すなわち。

 

「奥に進ませる気はないみたいだね」

 

 ナカジマ捜査官がそう言いながら飛行魔法を解き通路へと着地した。

 飛行が可能な彼女だが、魔導師ランクは陸戦AA。ローラーシューズを活かした地上での戦闘が持ち味だ。

 

 ナカジマ捜査官は胸の前で両手のナックル型のデバイスを打ち合わせて気合を入れ、こちらに向けて叫んだ。

 

 

「進行ルートは打ち合わせどおり! カガリさんは魔力反応を随時チェックして!」

 

 

 予定ルート。中央を真っ直ぐだ。

 このセントラル、建造中は中心部に行政用の中央演算器が置かれる予定であった。

 

 月面都市の全てのAIを結ぶニューロネットワークの中心となり、人が直接手を下さなければ行えないこと以外の全てを司る無人の統治者となるはずだった演算器。

 それが今置かれているかは不明だが、ミッドチルダの全てのテロ機を操るホストマシンが置かれるには相応しい場所だ。

 

 何も無い場合は施設の駆動炉を端からダウンさせ地上本部から部隊を呼びしらみつぶしに探査することになっているが、バイザーは確かに中央に何かがあると知らせてきている。

 

 

 ナカジマ捜査官の合図と同時に、皆一斉に前へと駆ける。

 港からセントラルへ続く通路を抜けると、そこは鋼の都市が広がっていた。

 

 ライトアップされた空に、多層の道路。

 宇宙ステーションというよりは人工移民衛星だ。

 

 建物の陰からは魔力反応が感知できる。先ほどからバイザーのセンサーにひっかかっている迎撃兵器だろう。

 そのうち、こちらに向かってきているのが四つ。

 

 

「前方から五機接近。飛行魔法機械です」

 

 

 各々が武器を構え、前へと進みながら戦闘の態勢をとる。

 

 アルピーノ捜査官は補助魔法を発動。ナカジマ捜査官はローラーシューズのわずか先に魔力の道を作り、空を走る。

 この走行法はウィングロードという先天性の魔法を使ったものであるとナカジマ捜査官本人が語っていた。

 

 空を陸にする魔法。本来は空間に長い魔力の道を構築するらしいのだが、道を作ることで他人に走行ルートを見破られてしまうためわずか先にしか道を作らないよう改良したものであるらしい。

 

 ナカジマ捜査官は真っ直ぐに魔法機械へと走っていき、交差するようにして一機を拳の一撃で叩き落した。

 

 後ろを追いかけていたヴィータさんはハンマー型のデバイスを振り上げて一機を粉砕。

 

 その横に体当たりをしようとしていた一機ははやてさんの放った五本の氷の槍に全身を貫かれて爆発。

 残る二機はランスター二等空尉の四発の魔力弾に駆動炉を撃ち抜かれて墜落していった。

 

 

 五機が破壊されたのは一瞬の出来事。

 だが、バイザーにかかる魔力はこれくらい軽々とこなしていかなければ先へ進めないほどの数だ。

 

 

「前方の階層、戦車と固定砲台です!」

 

 

 私のアナウンスに、ナカジマ捜査官は着地、ヴィータさんは宙に浮いたままデバイスを構える。

 

 ヴィータさんの左手が赤く輝き、指の間に魔力の塊が三つ生み出された。

 彼女はそれを前へと放るとデバイスを横に無いで塊を弾き飛ばした。

 

 三つの魔力の塊はそれぞれ別の方向へ魔力の尾を引いて飛び、わき道から頭を出そうとしていた魔法戦車を軽々と貫いた。

 

 何てユーモラスな攻撃だろう。

 手順は多いが物質化した魔力を撃ち出している。殺傷設定ならば威力は高いだろう。

 

 私の横でははやてさんとランスター二等空尉がデバイスを構え魔力弾を放っていた。

 さて、私も戦いに参加するとしよう。

 

 現代に蘇ったR戦闘機、カーテン・コールの機銃を最下層から飛翔してきている飛行機械へと向ける。

 セントラルの破壊を気にすることなく機銃から弾丸を連射する。

 

 私はランスター二等空尉のような無駄弾を撃たない美学など無い。

 胸の魔力炉は永久の魔力を供給してくれる。オーバーキルなど日常茶飯事だ。

 

 機銃から打ち出された弾丸が五機の飛行機械を撃ち落していく。

 

 機銃の威力は十分。中解同の兵器だけでなくミッドチルダ製の兵器にも通用するようだ。

 

 

 カーテン・コールの機銃は電磁投射砲(レールガン)。純科学の理論を用いた質量兵器が元だ。

 もちろん、私はお縄になどなりたくはないので質量弾は使わない。

 弾丸は先ほどヴィータさんも使っていたような、魔力を物質化させた擬似金属体だ。

 

 レールガンに用いる電磁誘導に理想的な金属を一から魔力で構築し、弾丸として撃ち出す。

 魔力で構築された弾丸であるので、非殺傷設定や訓練弾設定も付与できる。

 私の仕事はただ昔の戦闘機を復元すことではない。

 現代の技術を用いて過去より発展した戦闘機として新しく蘇らせることを一族から求められているのだ。

 

 

 突入隊全員で攻撃魔法を乱射しながらセントラルを真っ直ぐと進んで行く。

 遮蔽物が多いためか、物陰で待ち伏せを行う機械群も多い。

 

 私はそれをバイザーで感知できるが、他のメンバーはそうもいかない。

 装甲戦車を叩き潰していたヴィータさんの背後の地面から、砲台が急にせり出す。

 機械には生物特有の気配が無い。音も無く現れた砲台にヴィータさんは気付いていない。

 

 援護しなければ。だが、機銃は別の方向を射撃している最中だ。

 私は咄嗟にシップの後方に接続していた兵装ををヴィータさんを狙う砲台に向けて射出した。

 

 三本の制御機械に包まれた球状の超束積高魔力生命体。

 R戦闘機専用の兵装、フォースだ。

 

 光学チェーンのアンカーでシップと繋がれたフォースは砲台へと真っ直ぐに飛翔。

 ヴィータさんへと向けて放たれた砲弾をかき消しつつ砲台に激突する。

 

 高密度の魔力の塊に触れた砲台は大きな音を立てて粉々に砕け散った。

 

「うおっ! おお、わりぃな!」

 

 砲台の砲撃に驚きの顔で振り返っていたヴィータさんがこちらに向けて礼を言った。

 

 私はアンカーを巻いてフォースを手元に戻し、軽くヴィータさんに手をあげて次の標的を機銃で狙う。

 

 

 フォースはバイド戦役時代に『無敵の兵器』とまで言われた兵装だ。

 

 高密度のエネルギーで構築された生きる力の塊。

 制御機械は魔力で復元する素材で作られているため、私の胸の魔力炉と同じく半永久的に魔力を生成し続ける。

 次元兵器でも使用されない限り破壊されることが無い。

 

 このフォースは私の魔力炉から一部を取り出し培養したもの。

 つまり、私の手足も同然の外部器官なのだ。おそらく私以外に操れるものもいないだろう。

 

 本来ならフォースとシップを繋ぐアンカーが無くともフォースの操作は可能なのだが、フォースを実戦投入して日が浅いとあっていくつか作成したフォースの中から操作性を重視して今回は接続式のアンカーフォースを選んでいる。

 他のフォースを使用するのはアンカー・フォースで十分なデータが取れてからだ。

 

 武器であり同時にその魔力で銃弾を防ぐ盾でもあるフォース。

 これには他のシップの機銃と同様に一時魔力補助(パワーアップ)システムが搭載された機銃が備わっており、シップと接続し魔力をさらに注入することで三種の魔力砲撃を繰り出すことが出来る。

 

 カーテン・コールには今の私の持てる技術全てをつぎ込んでいる。

 中解同やミッドチルダの兵器にはそうそう負けるわけにはいかない。

 

 

 あらゆる方向から飛び出してくる魔法機械。ミッドチルダ式の最新のものもあれば、中解同戦で何度も見たものもある。

 旋回しながらレールガンを撃ち、足を止めることなく前へと進む。

 

 建物の陰に隠れ、誘導弾でこちらを狙ってくる戦車の砲撃を側面に展開した小型のフォースである二機のビットで防ぐ。

 本来は近接攻撃用の補助兵装であるビットの防御性能を向上させ、遠距離砲撃の防御を可能としたシールド・ビットだ。

 

 壊れることの無い三つの盾に守られながら、シップの腰パーツから魔動ミサイルを射出する。

 追尾性能を持った魔力弾だ。

 

 魔動ミサイルは障害物を迂回しこちらを狙ってきていた戦車に触れると、そのまま爆発を起こした。

 空気の振動がこちらまで伝わってくる。

 

 

 魔法機械の軍勢相手にもカーテン・コールは何ら劣っていないようだ。

 

 レールガン、アンカー・フォース、シールド・ビット、魔動追尾ミサイル、波動砲。

 これらの兵装をもって、私はミッドチルダの兵器達にダライアスの技術力を見せ付ける。

 

 レールガンを放ち、ミサイルを狙い撃ち、魔力残滓を集め強化されたフォースの機銃から黄金のレーザー、ターミネイト・γで敵機をなぎ払う。

 

 

 快進撃を続ける突入隊一同は、やがて地面にすえつけられた巨大な門を前にして立ち止まる。

 

 重々しく閉じられた大きなハッチ。本来ならばここをくぐりぬけて下層へと降りなければならないのだが。

 

「自動ドア、というわけにはいかねーっすねぇ」

 

 侵入者を前に都合よくハッチを開けてくれるはずが無い。

 

「魔法で打ち破るか?」

 

「そーだなー」

 

 ナカジマ捜査官とヴィータさんはベルカ式の魔導師らしい脳みそに筋肉が詰まった発言をする。

 だが。

 

「六層もあるようですよこのハッチ」

 

「そりゃまた厳重やなぁ」

 

 バイザーでの内部スキャン結果では、同じようなハッチが六つも続いているようだ。

 それだけこの下にある中央行政区画は重要な拠点だったのだろう。

 

「うーん、こじあけられるか解らないけど召喚してみるね。私の召喚獣はパワーだけはすごいから」

 

 近くに開閉レバーがあるわけもなく、結局は力技で進まなければならないのだ。

 

 アルピーノ捜査官はハッチの上に召喚陣を展開。

 プラント制圧時にも見た大きな機械生命が顕現する。

 

 アルピーノ捜査官は機械生命の内部に乗り込み、腕をハッチの隙間にねじ込もうとした。

 その瞬間、突然ハッチが重厚な音を立てて開き始めた。

 

「おわたたたたたたたっ!?」

 

 急な出来事に開いた隙間に落ちそうになるアルピーノ捜査官。

 驚いているということは彼女がこじあけたわけではないのだろう。

 

 本当に自動ドアだった?

 いやまさかそんなはずが……。

 

『おっすカガリちゃん。順調に進んでいるみたいだね』

 

 ハッチが半ばまで開いたところで、私の目の前に通信対話ウィンドウが開いた。

 そこに映っていたのは、アースラで待機しているはずのヤマトさんだった。

 

「……何やっているんですかヤマトさん」

 

『いやあ。武装隊が開けられない区画があるって言うんで一人で内部に侵入して中央管制室に入り込んだんだ』

 

「いやいやいや、何凄いことをさらっと気軽にやっているんですか」

 

『隠れるのが得意なのは知っているだろ』

 

 ウィンドウの中で嬉しそうにサムズアップをするヤマトさん。

 そんなに待機任務が嫌だったのか。

 

「しかしそんなところよく解りましたね」

 

『え、だってそこらの壁に地図が載っていたよ。ここ本来は都市なんだろ』

 

 何ですかその裏技は。

 私は戦いに夢中で周りの施設などまともに見ていなかったが、敵地を普通の都市と見て利用するなど何とも柔軟というか視点の違う発想だ。

 

「……なんというか前々から思っていましたけど、ヤマトさんって……かゆいところに手が届く便利な人ですね」

 

『そう褒めるなって。カガリちゃんが言うと背中が寒くなるよ』

 

 別に褒めたわけではなく利用しがいのある都合のいい人だと言っただけなのだが、まあいい。

 心の中で感謝しつつ先へと進むことにしよう。

 これ以上会話を続けるとはやてさんの視線が怖い。

 ただでさえこのタイミングで真っ先に私に連絡してきたせいでずっと睨まれているというのに。

 

「褒めてません。じゃあこっちは任務の続きがありますので」

 

 通信ウィンドウを閉じ、開きかけのハッチの中に身を躍らせる。

 他のメンバーも私に続いて降下していく。

 

「中にも敵機はいます。気をつけてください」

 

 言いながら少しずつ開いていく下のハッチの隙間にフォースの機銃を向ける。

 

 フォースに魔力を送り込み、青のレーザー、サーチ・βを発射する。

 ハッチの中に吸い込まれたレーザーはその下で屈折し、上昇してきていた魔法機械に当たる。

 

 だがこの魔法機械の装甲は厚いのか、破片を下にこぼしながらハッチの中から這い出てきた。

 回転しながら無差別にレーザーを射出してくる。

 

 それに反応したのがはやてさん。

 反射性能のある防壁を魔法機械の周りに展開しレーザーを乱反射させる。

 

 防壁に閉じ込められた魔法機械は、自らの放ったレーザーに貫かれ、煙を上げて落ち開きかけのハッチに激突した。

 

 見事な手際だ。

 

 はやてさんはわずかな期間だというのに魔法行使がどんどん上達している。

 魔力の高さだけでは通過できない魔導師試験も毎日の訓練を経て高ランクで合格してみせた。

 

 電子レンジ成功! などと言ってはしゃいでいるそんなはやてさんをヴィータさんは複雑な表情で眺めている。

 守るべき主が前線で自分と肩を並べて戦っているのだ。色々思うところがあるのだろう。

 

 

 ハッチ内の全ての魔法機械を払いのけて進攻は続く。

 

 六つのハッチをくぐりぬけ、下層の区画へと降り立つ。

 そこには四台の砲台がこちらに砲身を向けて待ち構えていた。

 

 私のアナウンスで待ち伏せを察知していたナカジマ捜査官とヴィータさんの前衛二人は区画突入と同時に前へと駆けていた。

 砲撃が開始される前に破壊される砲台。

 

 だが、息を付く間も無く次の魔法機械が高速で飛来してくる。

 屋内とは思えない速度でこちらに向かってくる戦闘機。

 私たちの後ろは壁だ。止まる様子も無い。自滅前途の突撃だ。

 

 咄嗟に回避行動を取る前衛二人。

 体当たりをかわされた戦闘機は勢いを殺すことなく壁に激突し大きな風穴をあけた。

 

「なりふりかまわなくなってきやがった」

 

 デバイスで戦車の砲弾を打ち返しカウンターで破壊しながらヴィータさんがつぶやく。

 

「ここが最終防衛ラインなのでしょう。感知できる魔力も上よりずっと大きいです」

 

 先に見える通路にも戦車や砲台が待ち構えており、ところどころ見える開いたハッチには飛行機械が収まっている。

 

 だがやることはただ一つ。前へと進むだけだ。

 

 再び陣形を整えなおし、先へと進もうとしたところでアースラから通信が入った。

 

 

『入電入電ーっ!』

 

 

 エイミィ執務官補佐だ。また通信士のような役割を任されているのか。

 

 

『アインハンダーが結界を突破してステーション内部に突入しちゃった!』

 

 

 思わずナカジマ捜査官と顔を見合わせてしまう。

 

「てっきり八福社側に行くと思ったのに……」

 

 そう言って考え込むように口元にデバイスの手を当てるナカジマ捜査官。

 ナカジマ捜査官は中解同の捜査に当たっていた捜査官の一人だ。八福社とセレーネの関係も知っているのだろう。

 

「私はこちらに来ると思っていましたよ」

 

「ふむ、根拠は」

 

「勘です」

 

 勘というよりも希望か。

 企業テロを解決する前にギンガさんとは何らかの決着を付けたかったのだ。

 

 今後管理局の捜査官や執務官が彼女を捕まえることはあっても、戦場で相対出来るのはこれが最後の機会となる。

 

「目的はおそらくいつもと同じ中解同打破でしょうね。中枢制圧まで無視、もしくは協力。良いですか?」

 

 ナカジマ捜査官が通信ウィンドウに向けて確認を取る。

 それに対し、エイミィ執務官補佐ではなくハラオウン提督がウィンドウに出て応じた。

 

『ええ、そうしましょう。どう話をつけるかはそちらに任せるわ』

 

 目的達成まで協力しておいて終わったら捕縛というのもちょっとあれだが、ギンガさんもこのタイミングで突入してくるということは私たちの戦力を利用するつもりなのだろう。

 

 方針は決まった。

 気を取り直して任務へと戻る。前方では敵機が編隊を完了しこちらへと向かってきていた。

 

 二つの建造物を結ぶ陸橋の上には戦車が並び、陸橋の下からは装甲ヘリが姿を現す。

 

 ランスター二等空尉の先制弾を皮切りに前衛二人、そして召喚機人に乗り込んだアルピーノ捜査官が突撃していく。

 

 私はフォースのレーザーを集中攻撃型のシェード・αに切り替え、装甲の厚い空中機から撃ち落とす。

 橙色に輝く一筋の光線が羽虫を叩き落すように飛行機械をなぎ払っていく。

 補助はヴィータさんの後ろについているはやてさん任せだ。

 

 

 戦車の群れを駆逐したところで中型の人型機が姿を現した。

 厚い装甲。強固な魔法障壁。バイザーが高魔力出力の駆動炉に警戒するようアラームを鳴り響かせている。

 

「気をつけてください、AAクラスの傀儡兵です!」

 

 質量ミサイルの飛び交う中、全員へ呼びかける。

 あの防御を貫くには相当の大魔法が必要だ。

 

 この先にもこの人型機と同様の魔力反応がいくつかある。

 じり貧にならないためにも魔力は温存しなければならない。

 

 ならば、魔力の消耗がない私があれを相手すべきだ。

 

 ナカジマ捜査官の一撃を軽々と障壁ではじいている人型機に向けて、胸の装甲に備え付けられた波動砲ユニットを構える。

 

「主砲を撃ちます。チャージまで耐えてください!」

 

 ナカジマ捜査官へ声を投げかけ、武装の展開を開始する。

 肩に繋がったシップの装甲が変形し、胸の波動砲ユニットの前で合わる。装甲は前へと伸び戦車の大砲のごとく前へと突き出した。

 

 波動砲は小型の戦闘機が戦艦級の砲撃能力を得るために、バイド戦役時代に作り出された破壊兵器だ。

 

 前へと向けた装甲は砲身ではない。これは力場発生装置。

 波動エネルギーを機体前方の相対座標空間の力場へと蓄積、力場を解放することで集積したエネルギーを敵へと放出するのだ。

 

 今カーテン・コールに装着されている波動砲はスタンダードタイプと呼ばれているもの。

 波動砲の運用試験もかねて、癖の無い標準型を搭載しているのだ。

 

 だが、スタンダードといえどもこのタイプの波動エネルギー蓄積量限界点の四段階までチャージを行えば、Sランクの集束魔法に匹敵する威力となる。

 波動砲は私に今まで不足していた瞬間火力を補ってくれる強力な武器なのだ。

 

 波動エネルギーのチャージが二段階――二ループまで完了。

 あの巨大な装甲を破壊するには三ループは必要だろう。

 

 胸の魔力炉からシップ、そして波動砲ユニットへと魔力が流れていく。

 前方の空間に青白い光が集まる。三段階までチャージが終わった。

 

「行きます、避けてください」

 

 防盾魔法で人型機の機関砲を弾いていたナカジマ捜査官が、私の念話の合図とともにシューズのローラーを逆回転させ後方に逃れる。

 

 射線からナカジマ捜査官が逃れたのを確認し、波動エネルギーで満たされた力場を解放する。

 

 瞬間、視界が白い光で埋まった。

 

 私の身の丈の数十倍ほどもあるエネルギーの塊が、空間を引き裂きながら前へ前へと突き進む。

 

 砲撃は人型機の障壁を一瞬で吹き飛ばし、表面の装甲を破砕し、胴体に風穴を開けた。

 機関砲を構えていた右腕は千切れ、駆動炉からは魔力の光が漏れ出ている。

 

 波動砲の前には強固な守りも何の障害にもならなかった。

 R戦闘機は高ランクの魔法兵器にも通用する。

 そう心の中で握り拳を作った瞬間のこと。

 

「クイント!」

 

 ナカジマ捜査官を押しのけるようにして現れたアルピーノ捜査官を乗せた召喚機人。

 そして、それに向かって突進する半壊した人型機。

 

 人型機は装甲を撒き散らし崩壊を続けながらも最後の一撃とばかりに身をかがめて加速する。

 

 そうだ、ここは最終防衛ライン。

 いずれの機体も周囲の損壊を気にすることなく捨て身で攻撃してきてもおかしくないのだ。

 

 人型機はアルピーノ捜査官の機人に激突し、駆動炉を崩壊させ自爆した。

 爆炎が二人を包む。

 

「――っ!」

 

 その一部始終を見ていたはやてさんが言葉にならない叫びをあげた。

 

 二人とも回避も防壁魔法の展開もしていなかった。

 私はバイザーのモードを切り替え、急いで立ち上る煙の中へ突っ込んだ。

 

 治まらない火を煙ごとアフターバーナーの魔力噴射で吹き飛ばし、瓦礫の中から二人を探し出す。

 アルピーノ捜査官の機人は砕け散っており、召喚の効果が切れたのか姿が薄れ消え去ろうとしていた。

 

 バイザーに人型の熱源が映る。見つけた。

 魔力を繰り瓦礫に埋まったアルピーノ捜査官を掘り起こす。

 

 アルピーノ捜査官は全身から血を流しぴくりとも動かない。

 

 ナカジマ捜査官は何とか無事だったのか、壊れたデバイスの腕で瓦礫を押しのけ自力で這い出してきた。

 

「はやてさん! 急いで治療を!」

 

 背後へと振り返り、半ば放心状態にあったはやてさんに声と念話を叩きつける。

 アルピーノ捜査官は重症。早急な処置が必要だ。

 

 右半身は瓦礫で潰れ、全身に火傷が広がっている。バリアジャケットなど欠片も残っていない。

 押しのけた瓦礫の所々に皮膚や肉片がこびりついている。

 

 私の声でかけつけたはやてさん。

 だが、アルピーノ捜査官の姿を見て一瞬で青い顔になり身体を硬直させた。

 

 時間が無い。私は治療魔法など使えないのだ。

 これ以上はやてさんに頼るのを放棄する。

 

「リインフォースさん、治療魔法を」

 

 はやてさんが動けないならばそのサポート役の人に頑張ってもらうしかない。

 

『了解しました。延命処置を優先します。エミュレート開始』

 

 はやてさんの左手に抱えられた魔導書が独りでに開き水色の魔力光を放つと、私の前で横たわるアルピーノ捜査官の身体を魔力の膜が覆った。

 バイザーでアルピーノ捜査官の身体をスキャン。心肺機能に異常はない。

 

 こちらはリインフォースさんに任せても大丈夫だろう。

 

 もう一人の負傷者であるナカジマ捜査官の方を見る。

 頭から流れる血を砕けたデバイスから露出した左手で押さえている。

 

「大丈夫ですか?」

 

「大丈夫、と言いたいところだけど無理そうだ。これ以上は足手まといにしかならない」

 

 見たところ、右腕を骨折、右の肋骨も二本折れている。

 バリアジャケットはパージ状態。デバイスのナックルは両腕とも全損している。

 

 ナカジマ捜査官は頭から血を流しながらアースラとの通信を開始した。

 

「二名戦闘続行不可のため撤退。転送をお願いします」

 

『医療班を転送室に配備中です。完了しだい転送開始します』

 

 簡素なやりとりだ。だがナカジマ捜査官の息は荒く、それを見るエイミィ執務官補佐は悲痛な表情をしている。

 

『それと、アインハンダーが十五秒後にそちらに到着します』

 

 その言葉に、身体スキャンに切り替えていたバイザーを魔力探知に戻す。

 

 高速で飛来する登録済み魔力。

 私は敵機への警戒を続けるランスター二等空尉とヴィータさんへと念話を送る。

 

 

「アインハンダーが来ます。誤射しないよう気をつけてください」

 

 

 程無くして、黒い機体のアインハンダーが私たちの進んできた方向からアフターバーナーの火を噴きながら現れた。

 こちらを視界に収めると速度を落とし通路へと降下してくる。

 

 ギンガさんはヘルメットの目線を負傷者二人へと向ける。

 そしてヘルメットの奥から小さな声でこちらにつぶやいた。

 

「……手伝う」

 

「ああ、頼むよ。私の代わりにこの子らを助けてやって欲しい」

 

 ギンガさんの声に答えたのはナカジマ捜査官。

 ギンガさんは、自分が目の前に居るナカジマ捜査官のクローン体だということを知っているのだろうか。

 

 ナカジマ捜査官の方は淡々とした対応だ。

 まるで普通の民間協力者に話すかのよう。

 ギンガさんに警戒心をもたせないようにセレーネや機人について触れるつもりはないのだろう。

 

『準備完了しました! 十秒後に転送します!』

 

 通信ウィンドウからエイミィ執務官補佐のカウントが始まる。

 それを受けてナカジマ捜査官はギンガさんから視線をはずす。

 

「ランスターさん! 後は任せます!」

 

「げっ!」

 

 ナカジマ捜査官は魔法機械を長距離砲撃で撃ち落していたランスター二等空尉へと声を投げかけ、それを聞いたランスター二等空尉は渋面になった。

 指揮の類が嫌いなのか。

 だが、ここに残るのは彼以外、嘱託魔導師に新米二人、そして外部勢力だ。

 

 ランスター二等空尉の返答を待たずに、ナカジマ捜査官とアルピーノ捜査官は光と共にこの空間から消えた。

 

 仕方が無いといった表情でランスター二等空尉は手で前進の合図をこちらへ送ると、飛行魔法で宙に浮く。

 

 私もアフターバーナーから軽く魔力の火を吹かしわずかに浮くと、ギンガさんの方へと顔を向けた。

 

「行きましょう。また共闘です」

 

「待って」

 

 加速しようとしたところで呼び止められる。

 

「何でしょうか?」

 

「あなたの名前。聞いていない」

 

 ああ、そうか。

 彼女の呼称は教えてもらったが、私の名前は一度も言っていなかった。

 

「カガリ。カガリ・ダライアスです」

 

「うん、知ってる。カガリ、よろしくお願いします」

 

 ぺこりと腰を折って礼をしてくるギンガさん。

 

「あ、はい。これはご丁寧に」

 

 反射的に礼を返してしまった。

 私の名前はミッドチルダ限定で有名なので知ってはいたのだろう。

 だとすると、これは名前を交換する儀式だ。

 

 アリサさん達が言っていた友達は名前で呼び合うものだという言葉を思い出す。

 二人の立場を考えると、友達というよりはよくて戦友といったところだろうが。

 

「カガリ、急げ!」

 

 おおっとヴィータさんに怒られてしまった。

 ギンガさんに頭を下げたままアフターバーナーから推進魔力を放出して加速し、ランスター二等空尉の横に並ぶ。

 

 

 ほどなくして魔法機械が襲い掛かってくる。

 アースラと話している最中に狙われなかったのは、ランスター二等空尉が長距離狙撃で全て撃ち落していたからだ。

 

 エリート武装局員として若くしてこの場に居るだけはある。

 私の年齢からすると頼れる兄貴分といったところだろうか。

 

 

 残る近接担当はヴィータさん一人。

 アインハンダーも加わった遠距離砲撃手三人で敵を近寄らせること無く捌いていく。

 

 ギンガさんは巨大な左手と小さな右手の両手で長い砲身を構え狙い打っている。

 もう私に隠す必要も無く最初から全力だ。

 

 小型機を一掃した前方から、先ほどの中型の人型機と同型の機体がこちらに近づいてきた。

 その後方にはさらに二機の同型機が居る。

 

「くそ、いきなりきつくなってきたな。幸先悪ぃ」

 

 ランスター二等空尉は悪態を付きながら赤い銃身からカートリッジの薬莢を排出する。

 前のプラント制圧戦ではカートリッジシステムはついていなかったが、ここに来るまでの間に改造が施されていたようだ。

 

 一気に高まるランスター二等空尉の魔力。

 まだ数百メートルも先に居る人型機に向けて特大の魔力弾を連射した。

 

 人型機の動きが止まり宙に縫い付けられる。わずかながら捕縛魔法も付与されていたようだ。

 

 動きが止まっている隙にと、はやてさんが魔法の詠唱に入る。

 

 私も波動砲のチャージに入ろうとしたところで、再び通信が入った。

 

 今度は何だ。

 通信元は……アースラではない。地上の部隊、オーリス姉さんからだ。

 向こうは八福社への強制捜査中のはず。このタイミングでの通信は何か緊急事態でも起きているのだろうか。

 

 通信ウィンドウを開き、念のため他のメンバーとアースラにも回線をまわす。

 

「何ですか、こちらは戦闘中です」

 

『こっちも戦闘中です!』

 

 いきなり叫ばれた。

 何だ一体。戦闘中?

 

 敬語で話すオーリス姉さんの様子に嫌な予感が膨れ上がる。

 

『八福社にテロ機が続々と集まってきています。彼ら、八福のビルごと管理局を潰すつもりみたいです』

 

 セントラルの機能を止められる前に最後の特攻に来たか。

 

 確かにセントラルに侵入していることは地上の中解同にも伝わっていることだろう。

 八福社を文字通りに潰して地方世界に繋がる証拠を少しでも多く消す狙いもあるのかもしれない。

 

 オーリス姉さんは咳払い一つつき、再びこちらに視線を真っ直ぐ向けてくる。

 

『早急にセントラルを制圧してくれ。施設丸ごと破壊してしまっても構わない』

 

「……エイミィ執務官補佐、戦艦の砲撃でセントラルの破壊は可能ですか?」

 

『援護任務だから危険すぎる主砲は積んできてないんだよねー。頑張れカガリちゃん』

 

 面倒なことになってしまった。どうするべきか。

 このまま敵機をいなしながら進んでいては早急な制圧は無理だろう。

 

 カメラアイの視界で全員を眺める。

 

 ランスター二等空尉は通信ウィンドウに目を向け考え込みながら人型機に捕縛魔法を発射。器用だ。

 

 ヴィータさんはあふれ出て来る小型機に魔法の鉄球を撃ちこみ続け、ギンガさんは一人関係ないとばかりに破壊した機体から武器を回収している。

 

 そして、詠唱を終え大魔法を待機状態にしたはやてさんが、真っ直ぐと私を見た。

 

 

「さっきはかっこ悪いところ見せたからなあ……」

 

 

 右手に持った杖を胸の前で強く握った。

 

 

「あたしなぁ、戦う魔法使いになってからずっと言ってみたかったことがあるんや」

 

 

 言葉を止め、息を大きく吸い。

 

 

「カガリちゃん! ここはあたし達に任せて先に行きぃっ!」

 

 

 はやてさんの周りに黒い魔力光があふれる。長期戦になると温存していた魔力を一気に高めたのだ。

 待機状態にある魔法の魔力がさらに膨れ上がった。

 

「そうだな、それが一番だな。だろう、ティーダのあんちゃん」

 

 ヴィータさんもそれに応じ、カートリッジをロードし薬莢を宙に排出する。

 

「……ああ、最速で任務を完了するにはそれしかないだろう。アインハンダー、カガリについていってやってくれ」

 

「ん……」

 

 ギンガさんはランスター二等空尉の言葉に小さく頷く。

 

 選んだ作戦は、敵機を無視し私とギンガさんの二人で中枢へ突破。

 何度目になるだろう、二人だけでの共同戦線だ。

 

「そうと決まったら前を掃除や! 行くで!」

 

 待機していた魔法が解き放たれ、闇色の集束魔法が人型機へと突き刺さる。

 

 集束魔法の下を潜り抜けるように巨大化したデバイスを構えたヴィータさんが前へと突進する。

 

 ランスター二等空尉はさらにカートリッジをロードし、進む道を作るように結界魔法を構築した。

 

 出し惜しみすることの無い三人の全力。

 最高の援護を受けて私は加速を開始する。一瞬で集束魔法を受け装甲を撒き散らす人型機を越え、その後ろに待機していた二機を一瞬で通過する。

 

 アインハンダーも私の速度に追いすがろうとアフターバーナーを全力で吹かし飛翔する。

 追い越した戦車や戦闘機の砲撃はこちらにかすることはない。

 

 奇妙な魔力の待つ中心部まであと少しだ。

 

 

 

――――――

あとがき:STGにおける要塞突入で、閉じたハッチが勝手に開くのはご都合主義なのでとりあえずご都合主義キャラを使って開けてみました。

 

 

用語解説

■利用しがいのある都合のいい人

ナデポニコポに惑わされなければ、最強主人公を見る味方の感情なんてこんなものです。

 

 

SHOOTING TIPS

■JUDA CENTRAL SYSTEM

レイストームより七面ステージ。地球に反旗を翻したセシリア連合のニューロネットワークの中心。

ここを破壊されるとセシリア連合側の惑星・衛星環境は崩壊してこの星域の人類は死滅します。大切なものは分けて保管しようねという教訓。

 

■侵入者を前に都合よくハッチを開けてくれるはずが無い。

STGでは都合よく開けてくれます。閉じている場合は軽く射撃すれば自機が通れるだけのスペースができます。

ご都合主義ですがハッチが開く演出はたいてい格好良いのでそこで思考停止しておきましょう。深く気にしてはいけません。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択