新暦のミッドチルダ企業は

 

 創り出した産業を地方世界へ広げた

 

 

 時をめぐり、

 

 我々の前に現れた、敗北企業の復讐を……

 

 「企業テロ」と呼んでいる

 

-航空魔導師隊入隊マニュアル序文より抜粋-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.

第九話『超過激進化型魔法戦闘伝説!!』後編

原作:アインハンダー

原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ

原作設定:日本製シューティングゲーム各種

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 地上部隊の格納庫の中、パイロットスーツに袖を通す。

 格納庫には技術部の人達が入れ替わり立ち替わり出入りをしているが、隅のこの一画は私が嘱託魔導師に就く一条件として与えてもらったもので、人の目は届かない。

 今日は管理局の任務がないので、この工房で新しい機動小型戦闘機(シップ)の調整をしていたのだ。

 

 パイロットスーツは首から下を覆うように手足の先を除いた全身の素肌を隠す。

 肌に露出した魔動機械接続用のコネクタとスーツを接続する必要があるため、ダライアス製の服以外は中に着込む事が出来ない。

 先ほどまで着ていたのは局から支給して貰った作業服と安物のインナーシャツだったので、スーツの中はダライアス製の下着のみだ。

 

 私達一族は発汗以外の体温調節機能がいくつかあるため、スーツの中は蒸れることはない。

 

 それでも洗濯はしっかりやっているけれども。

 

 調整段階で塗装もされていない新型シップの一パーツである金属ブレードを持ち上げ、右肩のコネクタに接続した。

 シップは重力制御機構を充魔式で組み込んであるので片手で持ち上げられるほどに軽い。

 重力制御機構がないと、重さで右に倒れてしまうだろう。コネクタで接続されている限りは肉が引っ張られて引きちぎれるということは起きないが。

 

 胸の魔力炉を回転させ、右肩へと魔力を送り出す。

 少しずつシップに魔力を注入し、駆動させる。

 

 シップの側面に接続されたコードの先、計測機の空間投射モニターに実験値が表示されていく。

 

 起動から一分が経過。出力は安定。

 計測値は理論値とほぼ違いはないようだ。

 

 昔は手探り状態だったシップの開発も、最近は大体の手順が掴めてきたところだ。

 

 初期の作品であるビックバイパーT301は作るのに一年かかった。

 流体金属加工の感覚を掴めずに装甲形状を整えるだけでもずいぶんと時間を浪費してしまったものだ。

 

 区画の隅、先ほど整備点検を終えたビックバイパーを見る。

 

 金属の再生特性のためか装甲の表面に傷はなく、完成した四年前と変わらず新品同様の輝きを見せている。

 

 私の本業は魔動機械開発者であり、シップを駆るのはテストパイロットとしてだ。

 いずれあのビックバイパーも私以外の誰かが乗ることになるのだろうか。

 ならばそれまでしっかりと乗りこなしていきたいと思う。

 今作成中のこのシップも同様だ。すぐに完成させ、戦場へ連れて行ってあげよう。

 

 起動から五分が経過。少しずつ魔力の供給を落とし、駆動を止める。

 モニターの現在値が全てゼロに落ちる。

 

 問題なく停止できたのを確認して肩からシップを取り外してビックバイパーの横に並べる。

 次は計測結果の確認作業だ。

 

 

 計測機のモニターを覗きこもうとしたところで、管理局からの通信が入った。

 

 通信元はオーリス姉さんだ。

 姉さんは中解同の捜査で出張中のはず。どうしたのだろう。

 

「はい、こちらカガリです。今日は休みなのですがどうしました」

 

『む、スーツを着ているな。緊急事態だ。これから送る座標に一分以内に向かえ』

 

「んなっ!? なんなんですかいったい!」

 

『緊急事態です。シップも後ろにあるようだな。急ぎなさい』

 

「えーあーうー、その、バイザーはロッカールームに……」

 

『そんな時間はありません急ぎなさい!』

 

 ああ、もう何が何だか解らないがオーリス姉さんが素の敬語を使い始めているということは本気で緊急事態だ。

 

 新シップの隣にあるビックバイパーT301をパイロットスーツのコネクタに接続する。

 

 装着が完了したと同時に、格納庫のハッチが開いていく。

 私以外の局員さんにも連絡が行ったのだろう。

 一分以内に来いというのはどうも本気の話のようだ。

 

 魔力炉を回しシップに魔力を入れる。慣性制御が起動したと同時に開きかけのハッチの隙間から外へ。

 勢いそのままに前方の安全を確認、アフターバーナーに推進魔力の火を入れ空へと飛び出す。

 

 速度を上げながら進路を確認。

 バイザーが無いので網膜へ映像を表示させる。

 慣れない視界だが超加速の中の空間投射は安定性がないため仕方がない。

 

 管理局に空路に接触物がないか問い合わせる。一瞬でオールグリーンが返ってきた。

 

 加速する。

 一瞬で音の壁を超過し、衝撃波を空中にまき散らす。

 

 高度は既に雲の真下。視界の風景がコンマ秒単位で変わっていく。

 空の光は夕方から昼、そして朝へと流れていった。

 

 指定ポイントへ到着。速度をゆるめ開いたままの通信に向けて叫ぶ。

 

「着きました! 姉さん指示を!」

 

『中解同の大型戦艦が月へ向けて発射した。加速を終えたら一時間後には月面都市が焦土になっている。宇宙に出る前に撃ち落としてください』

 

「戦艦って……うわ、でか!」

 

 左前方、弧を描いて空へ伸びるカタパルトと、そこから飛び立ったばかりであろう巨大なロケットが見えた。

 原始的な煙を噴いてどんどんと加速している。

 

「あそこまで大きいとそう簡単に撃ち落とせませんが……」

 

 言うと同時に戦艦の詳細データが視界に表示された。

 ワイヤーフレームの立体構造の中、後部についた二門のブースターが赤く点滅する。

 ここだけ狙って加速を止めろということか。

 

「援軍は?」

 

『あの戦艦に追いつける空士はこちらにいません。航空魔導師隊が到着するまで単独で』

 

 私に連絡が入ったタイミングを考えると、航空魔導師隊の人達が到着する頃には戦艦はすでに空気のない宇宙へ出ているだろう。

 どちらにしろ私が一人でやらねばならない。

 

「ああもうやりますよやってやりますよ!」

 

 休日を有意義に過ごしていたというのにえらいことになってしまった。

 

 私は再び後部機械翼(アフターバーナー)から火を噴かせて戦艦へと接近。

 加速を続ける戦艦の後ろに貼り付くようにして併走する。

 

 戦艦のブースターからは魔力の炎が吹き出し続けている。

 

 魔力残滓が濃密だ。シップに取り込み残滓を魔力へ変換し、一瞬でオプションを四機生み出した。

 機銃をレーザーに切り替えブースターの上を位置取り、攻撃を開始する。

 

 だが、戦艦も無抵抗ではいてくれなかった。

 

 カメラアイの視界の中、戦艦の側面のハッチが開きそこから魔法機械が次々と射出されていく。

 

 あれを相手にしながらブースターの破壊も行わなければならない。

 

 計算では二分五十秒。

 二分五十秒以内にブースターを破壊しなければ、戦艦は加速を終え進路方向の直線上にある月の一つへと突き進んでしまう。

 

 魔法機械がこちらへと銃口を向け、魔力弾を放ってきた。

 わずかに左へずれるようにしてそれを回避。魔力弾がブースターの魔力障壁へと当たり霧散する。

 

 私はオプションのうち二つを魔法機械迎撃のために後方へ狙いをつけた。

 残り二つとシップの機銃をはースターへと向ける。

 

 魔力障壁の隙間に穴を開けるようにしてレーザーを撃ち込む。

 バイザーが無いため強度解析は不完全。時間内に破壊できるかどうかは未知数だ。

 

 

『WARNING!! WARNING!!』

 

 

 こんなときに未登録魔力警告!?

 

 シップから私の頭の中に向けてシステム警告が鳴り響いた。

 魔力値AAAクラスの物体が地表からこちらに向かってきている。

 

 相手をしている時間はない。可能な限り無視してブースターの破壊に専念だ。

 

『あと二分で限界高度に達します』

 

 私が通信で送った計算時間をオーリス姉さんがアナウンスしてくる。

 それと同時に未登録魔力の姿が後部視界へと入った。

 

 見覚えのあるその形状。

 機械の鎧を身にまとった小さな子供。大きな左腕。

 アインハンダーだ。

 

 今までとは駆動炉の固体魔力と外装の色のみが違う。

 

 海のように青かった装甲は、夜のように黒く塗りつぶされている。

 黄色く強調されていた角のラインは、黒に合わせたように赤く。

 

 そして、アフターバーナーを守る左の盾型装甲には白くAs.01とミッドチルダ語で書かれていた。

 

 新型機か、間に合わせの旧型機か。

 

 バイザーがないため即座のスキャンは不可能だ。

 アインハンダーから意識を眼前のブースターへと切り替える。

 彼女の狙いは私と同じ、この戦艦の月面到着阻止だろう。

 

 レーザーの一点集中により魔力障壁に穴が開きブースターへ直接射撃が当たるようになる。

 だが、巨大なその装甲は少し魔力光輪を当てたところですぐには崩壊しなかった。

 

 射撃を続け魔法機械の狙撃を最小の動きで回避し続ける私の横に黒いアインハンダーが並んだ。

 

『手伝う』

 

 とだけの短い念話が届いた。

 

「ではこの推進ブースター二門の破壊を。あと邪魔しに来る小型機の相手をお願いします」

 

 そう返しながらもレーザーで射撃を続ける。

 

 アインハンダーは魔法機械から奪った銃をその大きな左手に抱え、私の狙う魔力障壁の穴へ向けて射撃した。

 質量兵器弾が同時に数発撃ち出された。

 散弾銃の接射。

 ブースターの装甲に小さな穴が穿たれる。

 

 アインハンダーは戦闘機ではなく魔法のデバイス。

 中解同のただの質量兵器は攻撃補助魔法で増幅され、質量をまとった強力な魔法兵器へと変わる。

 

 散弾銃を連射し、次々とブースターへと穴を開けていく。

 その穴を押しつぶすように魔力光輪(リップルレーザー)が叩き込まれ、装甲に大きな亀裂が入った。

 

 亀裂からブースターの魔力の火が漏れる。

 後は自分の炎で崩壊を待つだけだ。

 

「後一門、急ぎましょう」

 

 残り時間は一分半。のんびり眺めているような時間はない。

 爆発を起こして自滅し続ける壊れたブースターから離れ、もう一門のブースターの側面に位置を取る。

 

 戦艦は今も加速を続けており、その逐次上がっていく戦艦の速度に合わせてこちらも速度を変えなければならない。

 推進機構の微妙な調整のなせる移動。

 その動きにアインハンダーもついてきている。

 

 先ほどと同じように私はレーザー、アインハンダーは散弾銃を撃ち込む。

 

 こちらに向けて突撃してくる魔法機械に、私はオプションを叩きつけて迎撃。

 アインハンダーは大きく回避し背後を取ってブースターごと魔法機械を撃ち抜いた。

 

 今の攻防で弾切れを起こしたのか、散弾銃を捨て機関銃を新たに魔法機械から奪い取っていた。

 

 

 再びブースターの魔力障壁に小さな穴が開く。

 時間に余裕もある。間に合いそうだ。

 などと思考の端で考えたそのとき、ブースターの横、戦艦の後部に丸い穴が開いた。

 

 突如現れた空洞。

 その奥に何かが見えた。

 

 魔力反応あり。

 直感。これは危険だ。

 

「避けて!」

 

 咄嗟にアインハンダーに叫び、私は初めて大きな回避行動を取る。

 

 私が先ほどまでいた位置を巨大な何かが通り過ぎた。

 後方へ流れていくその物体を見る。

 シップの倍の大きさほどの直径を持つミサイルだ。

 

 魔法機械の襲撃ばかりに気を取られ、戦艦そのものからの攻撃を忘れていた。

 

 オーリス姉さんが月の都市を焦土にすると言ったほどの戦艦だ。

 多くの兵装を備えているのだろう。

 

 だが。

 

「障壁はすでに砕けています、一気に撃ち込めーっ!」

 

 オプション四機を全てブースターへとまわし、障壁の隙間へとレーザーを叩き込む。

 アインハンダーも私の念話に応じるように、いつの間にか換えていた左手の大砲で連続砲撃。

 

 ブースターが爆発を起こし、装甲の破片が雲の中へと沈んでいく。

 推進力を失った戦艦がゆっくりと船首を大地へと傾けていく。

 戦艦に宇宙へと飛び出す速度は残っていない。

 後は雲の下へと落ちていくだろう。さすがに浮かぶ分の浮遊機構は備えているだろうが。

 

「こちら民間協力者カガリ・ダライアス。戦艦を落としました」

 

 通信でオーリス姉さんに言葉を投げかける。

 民間協力者とは休日出動させられた皮肉を込めた恨みの一言だ。

 

『ご苦労。すぐに航空魔導師隊が到着する。戦艦の相手は魔導師隊に任せてくれ』

 

 オーリス姉さんがそういった瞬間、また未登録魔力警告が頭の中に響いた。

 戦艦の中から中型の魔法機械が飛び出したのだ。魔力値の推定はS-クラス。

 

「……任せて良いんですよね?」

 

『ああ、お前はお前の仕事をしろ』

 

「仕事、ですか……」

 

 シップの開発のことかと一瞬思うが、すぐに違うことに気づく。

 

「そうですね。民間協力者として頑張ります」

 

 そう言って通信を切った。

 余計な一言だったろうが今回の仕事は嘱託魔導師が請け負うには急すぎる。

 これくらい言ってもかまわないだろう。

 

 そして私は空中で静止したまま、アインハンダー、いや、ギンガさんの方へと顔を向けた。

 

「ありがとうございます。おかげで助かりました」

 

「私を捕まえるつもり?」

 

「はて、なんのことやら」

 

 どうやらばればれのようだった。

 

「血の付いたヘルメットを置いていったから。私の正体に気づいたはず」

 

「……いやまああれ以前から貴女の正体は解っていたんですけどね」

 

「そう」

 

 言葉を止め、アインハンダーが左手に掴んだ大砲をこちらへと向けてくる。

 

 反射的に回避行動を取る。

 それと同時に大砲が火を噴いた。

 どうやらおとなしく投降してくれる気はさらさらないようだ。

 

 こちらはすでにオプションを四機展開している。

 武装は十分。

 魔法出力設定を非殺傷に切り替え、銃口をアインハンダーへと向ける。

 

「管理局は貴女を保護する体制が整っています。もしこのようなことを嫌々やらされているなら投降してください。悪くはしません」

 最後の投降の呼びかけ。

 だが、返答は一発の砲撃だった。

 

 シップを駆動させ砲弾をかわし、そのままの勢いでアインハンダーの背後へと回る。

 

 オプションは包囲網を作るように四方へ展開。

 非殺傷のレーザーで飛べなくなるまで叩き落として、そのまま下の姉さん達の元へと連行だ。

 

 機銃と四機のオプションから同時にレーザーを発射。

 狙いを定めたのは機銃の一発のみで、他は逃げ道をふさぐための牽制射撃だ。

 

 だが、アインハンダーは格子状に撃たれたレーザーの隙間を器用に避けていく。

 

 速く、そして正確な動き。

 

 ここまで機動力の高い敵を相手にしたことは今までに無い。

 フェイトさんもここまですばやい動きでは無かった。

 

 アインハンダーはお返しとばかりに数発砲撃をしてくる。

 

 こちらも軌道を予測し、常に一定の距離を保つよう機体とオプションの位置を操作する。

 

 大砲の強力さは驚異だが、手数はこちらのほうが圧倒的に有利だ。

 あの黒い機体が青いアインハンダーと同等の性能ならば、防御性能自体はそれほど高くないはず。

 性能が同じである可能性は低いが、最新型だとしてもいきなり防御能力が跳ね上がると言うこともないだろう。

 

 今度はオプションをアインハンダーの周りに旋回させるようにして射撃しながらの移動を行う。

 

 全方位からのレーザー照射がアインハンダーを囲むようにして降り注いでいく。

 アインハンダーはさすがに回避しきれずにとっさに障壁魔法を展開するが、障壁は前方にしか展開されない。

 

 背後から迫ったレーザーがデバイスの魔力障壁を削っていく。

 

 全方位をカバーする障壁魔法を覚えていないのだろう。

 あの幼さだ、使えなくても仕方がない。

 

 避けきれないと悟ったのか、アインハンダーは障壁を展開しながら私の方へ向けて機体を走らせてきた。

 接近戦をするつもりか。

 確かに私の周囲にはレーザーは通らない。

 

 だが、こちらには機銃があり、オプションを寄せることも出来る。

 こちらへ向かいつつもレーザーはアインハンダーへと迫り、彼女は大砲を盾にそれを防いだ。

 大砲が爆砕し粉々に砕ける。

 アインハンダーは大砲の残骸を手放し、空いたその左腕で私に殴りかかってきた。

 

 勿論そんな攻撃当たるはずもなく、わずかに右へ移動した私はレーザーを撃ち込もうと機銃をゼロ距離で機体に触れさせる。

 まさに撃とうとするその瞬間、すぐ近くのギンガさんのヘルメットの中から小さな声が響いた。

 

「……私は妹を救いたいだけなの」

 

 突如アインハンダーの身体から魔力の刃が生えた。

 刃は魔力障壁に衝突し、私の機体は大きくはじかれてしまう。

 機銃のレーザーはアインハンダーとは全く関係ない方向へ飛んでいく。

 

 なんだ、今のは。

 魔法ではなかった。詠唱も兆候の魔力光も何もなかった。

 

 ぶれる視界の中、アインハンダーを何とか捕捉する。

 魔力の刃は右腕の先から生み出されていた。

 近接攻撃魔法などではない。中解同の攻性魔力力場発生装置(ブレード)だ。

 

 左腕だけでなく、右腕もガンポッド規格のアームになっていたのか。

 先ほどのブースター破壊では使っていなかった。

 私との戦いのために隠していたのか。

 

 何とか体制を整え直し弾かれた勢いを殺すも、アインハンダーはすでに上空へと逃走していた。

 

 追おうとアフターバーナーに火を入れた瞬間、アインハンダーの反応がロストする。

 次元転移だ。完全に逃げられてしまった。

 

「あー……」

 

 アインハンダーを逃がしたのはこれで二度目。

 もう完全に警戒してしまっているだろう。

 まいった。任務失敗だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギンガさんとの戦いから数日が経った。

 私は休みを延長してシップ開発の最後の詰めに入っていた。

 

 格納庫で作業をしているため時折技術部の人が様子を見に来るが、私の作っているものを見て何も言わずに去っていく。

 何故逃げられるのか解らないが、確かに下手に近づいたら危険なものであることは確かだ。

 

 そんなこんなで一人で調整を行っていたときのことだ。

 

「休暇をまとめて取ったと思ったらこんなところに籠城していたか」

 

 オーリス姉さんが訊ねてきた。

 私服だ。

 

 局にいるのに何でだろう、と思ったらすでに夜になっていることに気づく。

 帰る途中に寄ってくれたのだろう。

 私は食事が必要ないため、何かに熱中するとすぐに時間を忘れてしまう。

 

「聞いたぞ、何か変なものを作っているらしいな。技術部の輩が怖がっていたぞ」

 

「変なものじゃありません。フォースです」

 

 そう言いながら制御機械の計測を続ける。

 作っているのは新シップ用の追加兵装だ。

 かつてR戦闘機に携えられたという力の塊。四本の制御機械に包まれて初めて人の手で操ることが出来たという。

 

「……バイドを抽出して云々と言うやつか?」

 

「違います。私の胸のクリーンフォースから摘出したものを培養増殖したものです」

 

 バイドなどという危険な代物は、流石にこんな場所で扱うわけにはいかない。

 

 フォースからバイドを連想したということは、オーリス姉さんも例の展覧会を見にいったのだろう。

 技術部の人が逃げたのも、案外バイドの恐ろしさを知っていたからなのかもしれない。

 

 姉さんは何も言わずに私が普段椅子に使っている四角い金属ケースの上に腰を下ろした。

 

「負けたらしいな」

 

 しばらく私の作業を眺めていた姉さんが、突然そうつぶやいた。

 アインハンダーを逃がした一件のことか。

 

「負けていません。逃げられたんです」

 

「捕まえるのが仕事である以上、逃がすのは負けだ。殴り合いの結果など関係ない」

 

 なんだ。嫌みでも言いに来たのだろうか。

 それとも任務失敗で降格だとか。

 局員ではないので降格とかはないのだが。

 

「負けたかと思ったらこもってこんなものを作っているとはな。やる気に火でも付いたか」

 

「フォースの培養はそんな一朝一夕で出来るものじゃありません。前から仕込んでいたのが完成しそうだったので籠もっていただけです」

 

 ただ完成を急いだだけだ。

 フォースの作成は私だけでなく展覧会用のシップを作った自治区のメンバーの方にも作業を委託しているが、シップの特性からフォースは多くそろえておきたい。

 シップ自体は既に完成している。

 格納庫の片隅、ビックバイパーとR-GRAY2の隣に一緒に並んで置かれている。

 

 姉さんはそれを見つけたのか、腰を上げシップの方へと歩いていく。

 新シップの横にしゃがみ込むと、手に持ってしげしげと眺め始めた。

 

「これが申請のあった新しい機体か。名前は何と言ったか。覚えやすい単語だったはずだが」

 

 ふむ、と装甲の表面を撫でながら考え込み始めた。

 私は作業の手を休め、オーリス姉さんへと新しく生まれた戦闘機の名前を紹介する。

 

「カーテン・コール。展示会に飾られていたグランド・フィナーレの姉妹機で、究極の互換性という戦闘機の理想の一つの到達点です」

 

 

 

――――――

あとがき:諸事情により次回更新は少し時間をおいてからになります。と言いますかA.C.E.はこんなにハイペースで書くつもりはなかったのですが……。

 

 

SHOOTING TIPS

■As.01とミッドチルダ語で書かれていた

黒い塗装のアインハンダー、アストライアーFGAマークI(Astraea FGA MK.I)。

ガンポッドを二種類同時に使用できるのが特徴。これまで作中に登場していたエンディミオンFRSマークIIIとは違いガンポッドを的確に操れる上級者向けの機体です。

ちなみに黒い装甲のはずなのにゲーム中ではエンディミオンと同じ青です。ムービーを青黒二種類用意できなかった苦肉の策?

 

■カーテン・コール

R-100"CURTAIN CALL"

【究極互換機 Ver.2】

R-99の開発によって一旦終了したR戦闘機の開発プロジェクトであったが、本機はそのテクノロジーを後世に伝えるために開発されたと言われている。(R-TYPE FINALより抜粋)

尖ったフォルムのかっこいいR-TYPE FINAL最強機体三機の一つです。グランド・フィナーレでなくこちらを使用シップにしたのはフィナーレさんの元デザインがダサイから。

 


 
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