十八話「交差する道標」
浦原商店は、霊力を失った一護に修行を課していた。
レッスン1は雨(ウルル)をただの魂魄になった状態で倒すこと。
レッスン2は虚(ホロウ)にならず死神化すること。
レッスン3は浦原喜助の帽子を落とすこと。
十日間──それが続く。
その間、雨竜はひとり己を鍛え、織姫とチャドには夜一さんが修行をつけていた。
そして夜一さんは、修行を終えると毎日のようにご飯を食べに来て、店番をしている私にぽつりと話しかけてくる。
「成。おぬし、おんじの後継の“見習い神”にならないか?」
「私が……? 私みたいな半端存在になれるのかな?」
「血筋は常沖からはっきりしておる。おぬしが唯一の後継者じゃ。でなければ──おんじはおぬしのためにここへ残らん。今頃、何の手も打てず絶望する喜助を置き去りにし、この場を放棄しておるじゃろう」
夜一さんの言葉に、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
私はおんじの采配でまだここに居られる。
本当はてて様のために、見習い神になるべきなのに──。
情けない私は、俯いたまま声を絞り出す。
「……私、まだ心が決まらないの。だって、いつか私が、おんじの代わりに“オオガミの総領神”になるってことでしょ?」
「そうじゃ。しかしおんじも後継を一人に押しつけるほど愚かではない。もしそうなら“見習い”などではなく、最初から後継神扱いにしておる。今は立ち直りかけておるおぬしに、重荷を背負わせるのはワシも賛成ではないが──常沖に会うには、それが条件じゃろう?」
「うん……。てて様という部外者を世界渡りで連れて行くには、最低でも私が後継と名乗らないと、おんじが他の眷属神に示しがつかないって……」
「ワシも襲名の折は腹を括らねばならなんだ。覚悟とは、そういうものじゃ」
意外だった。夜一さんにも、そんな時代があったなんて。
「夜一さんが……上に立つ覚悟を?」
「当然じゃ。皆の先頭に立つ者は引っ張らねばならん。だが成──おぬしは独りではない。あの喜助が付いとる。そして常沖も、おぬしを探すと誓ったろう」
「夜一さんは付いてこないの?」
「おんじに“適合せず”とされた。ワシはこの世界から抜けるのは難しいじゃろうて」
「……そうなんだ。じゃあ、私がかか様を見つけて一緒に行動できるようになったら──夜一さんやみんなの所にも帰ってくるね」
「ふふ、楽しみに待っとるよ。……まずは見習い神になるかどうか。決めることじゃな」
「決められなくて、ごめんなさい」
「良い。時間はある。まずは己を取り戻してからじゃ」
夜一さんは私の作った夕飯を綺麗に平らげ、織姫とチャドのもとへ戻って行った。
店番は再び私ひとり。
……と、その静けさは唐突に破られた。
風鈴が止まり、空気がぴたりと冷える。
全身の毛が逆立つような違和感。
それはこの世界の霊圧とは違う──異なる世界の『気配』。
どこか懐かしい、前世の空気を含んだ匂い。
胸がざわつく。
その時、
「──おー、昔映像で見たことのある『駄菓子屋』まんまだな。これがノスタルジーってヤツか」
カラン、と戸が鳴り、白髪に赤い瞳を持つ青年が姿を見せた。
二十歳前後。肌は白く、空気が違う。
私はその名を喉の奥で凍らせ──そして呟いた。
「……一方通行(アクセラレータ)……?」
青年は口角を吊り上げ、悪戯に成功した子どものように笑う。
「よォ、ミツケ。探したぜ。オマエの気配、アンタの父親に意図的に隠されてやがったからな。だが──やっと隙を見つけた。来れたぜ」
にやり。
その笑みは、私の過去がここへ侵入した証だった。
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BLEACHの二次創作です。
浦原喜助の娘で、成長物語です。
※とある魔術の禁書目録のクロスオーバーです。