No.990203

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第031話

どうも皆さんこんにち"は"。
最近は喉を潰してございました。
すっかり季節も暖かくなり、季節の変わり目ですから、皆さんも体調管理だけはしっかり行ない、頭痛が痛い状況は無くしましょう。←違和感

さて今回でいよいよ『黄巾の乱』終結です。

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2019-04-15 14:20:36 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:472   閲覧ユーザー数:402

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第031話「初めての交渉」

呂北の立てた『釣り野伏せり』は功を奏し、黄巾軍20万は盗伐連合軍諸侯14万の面々に各個撃破されていく。手柄を先んぜんと、各諸侯は血眼になり黄巾軍を殲滅する。

黄巾軍の主だった将は討ち死に。現在は逃亡した張角達黄巾の首謀者三人の追跡が行なわれていた。

【.........なんでよ。いったい、ちー達が何をしたっていうの?】

青髪で髪を左でポニーにしてまとめ、胸元にかかる髪はロールにしている少女は、数人の護衛を連れて、見知らぬ荒野をひた走る。彼女は今回の黄巾の首謀者の一人である張宝。戦いに敗れ命からがらも逃亡したのは良いものの、姉と妹と逸れてしまった。その長く美しい髪と服は(すす)と砂塵で汚れて、逃亡の際の凄惨さが垣間見える。

【ちーたちは普通に歌を歌いたかっただけなのに。どうしてこんなことになっちゃったの?】

過去を悔いながらも、張宝はひたすら走る。体力の限界で呼吸が乱れようとも、何度も足が痛くなって立ち止まろうとしても、今ここには自分を褒めてくれる姉や、甘やかせてくれる妹も居ない。自分の力だけが全てであった。無心で走り続けていた彼女に更なる悲劇が襲い掛かる。

「ぐわぁっ‼」

突然張宝の前に彼女の親衛隊が立ちふさがったと思えば、無数の矢が上空から降り注いできた。親衛隊の面々は自らが盾となり、張宝を守りそして地面倒れていく。張宝も親衛隊の一人に抱き留められていた。

「ふぅ。張宝様、ご無事でしょうか?」

「......うっ、ち、ちーは大丈夫だけど......。そ、そんなことよりアンタ、何ちーに気安く抱き着いているのよ‼」

「申し訳ございません。ですが、こんな状況です。これぐらいの役得ぐらいあってもいいでしょう?」

張宝を抱き留めた灰色の長い髪の女親衛隊の一人は、爽やかに微笑むと、張宝も顔を赤くして「馬っ鹿じゃないの‼」と愚痴を叩く。

「ですが、そんな役得もここまでのようですね」

近づき聞こえてくる馬の嘶きと蹄の音。軍が追い付いてきた証拠である。

「張宝様、ここは私が食い止めますから、貴女様はお先にお逃げを」

親衛隊の女性は、背中の腰から二本の短刀を抜き去って、動きやすいようにステップを踏んで張宝を守る様に立つが、その足元は何処か覚束無かった。

「ちょっと韓仲。アンタ背中に矢が刺さっているじゃないの‼」

韓仲と呼ばれた女性は、背中の矢傷から血を流して獲物を構えている。

「......お、おぉ。私としたことが、ついうっかりしていましたな。だ、大丈夫です。あれぐらいの敵であれば、直ぐに、け、ちらしてご、らんにいれます、よ」

「そんな息が挙がりながら言っても説得力ないわよ。ほら早く」

「いけま、せん。貴女だ、けでも逃げ、て下さい」

肩で息をしながらも、韓仲は張宝に逃亡をすすめる。そんなやり取りをしている間にも、敵軍は追い付いた。

「おいおい。黄巾の残党にこんな女がいるじゃねぇか。俺たちもついているぜ」

追い付いてきた数十人の官軍兵は、嘗め回す目で品定めをするかのように張宝と韓仲に視線を向ける。

「あの青髪の女は中々の上物だな。お前たち、あの女は俺の獲物だから手を出すなよ」

「そんな何苗様。また権力を傘に自分ばっかり」

舌なめずりをする何苗と呼ばれた男に、張宝は引き付け声を出して後方に後退りする。

「このお方に手出しはさせぬ。お前たちの相手はこの韓仲がする‼」

背中の矢傷に耐えながらも、韓仲は背中で張宝を守る様に立ちふさがる。

「さて。あの”穢れた血”のうるさい女を仕留めて、青髪の女を犯すとするか。お前たち、やれ」

何苗の一言で、彼の部下が二人に襲い掛かる。張宝は頭を抱え丸くなり、韓仲は獲物持つ手に力を込めて襲来を待ったが、突如一陣の冷風が流れた気がした。その冷風が通り抜けた瞬間に、官軍兵の動きが固まり、彼らは首から脇からあばらからと突如鮮血を噴き出して絶命していった。

一体何が起こったかわからなかった張宝と何苗達であり、官軍兵も謎の兵に絶命させられ、またその中心にはブロンズの髪を靡かせた成簾が血塗られて双剣を手にし、冷めた視線で何苗を見つめていた。

「お、お前は呂北の部下の!?き、貴様”穢れた血”め。どの様な権限があって我らの邪魔をする――」

「おや、これは何苗殿ではないですか」

彼は後ろから聞けてきた声に体を瞬間的に震わせ、自身の顔の血が冷めていくことを理解しながらもゆっくりと振り返った。その後ろには最も警戒すべき男の姿があった。

「な、りょ、りょ、呂北‼......様ではありませんか?こんなところで奇遇ですな」

「いやいや、これが奇遇ではないのですよ。実をいうと、そこにいる者を今追跡していたところでね」

呂北が指さす先の者とは張宝であり、その点も含めて掻い摘んで何苗に説明すると、何苗は目を見開き、韓仲はより一層警戒を強め、成簾は二人を逃すまいと冷たくした視線は外さない。

「そ、それはようございました。わ、我らは別に呂北様に相対そうとしたわけではございませぬ。ただ黄巾賊を捕縛しようとしただけでございます」

「別に私は何も言っていませんよ。それに今回の戦はそれぞれ戦果を挙げた者次第。淑女に暴行を働こうとした輩を成敗した結果、たまたま貴方の部下であった為に、その非礼をどう詫びようかと、私が考えていた次第なのですが?」

「い、いえいえ。私自身あの部下には手を焼いておりました故、呂北様を責めるなんてことはありません。しかし、護衛もいなくなった手前、直ぐに軍に戻らなくてはなりません故、こ、これで失礼致します」

「それはそれは、道中お気を付けて。なんでしたら、私の部下に貴方の護衛をさせましょうか?」

「いえいえいえ、お気遣いはありがたいですが、これでも一端の将でございますので、自分の身は自分で守れます」

「そうですか。それでは遠慮しましょう――」

それで話を切り上げと思い、呂北は何苗の前を横切る。

「あ、あのぅ呂北様......くれぐれも――」

呂北に対し、何かを祈るように願いをする何苗。

「大丈夫ですよ。何進将軍より貴方のことはくれぐれにと言われています。私の部下が貴方に手を出すことはありません」

煙管を取り出し、煙を吹かす呂北のその言葉に安心したのか、何苗は逃げるようにその場から去って行く。すると成簾は徐に地面に刺さった矢を引き抜くと、その矢をそのままダーツの矢の如く投げると、去り行く何苗の首に刺さり、彼は呼吸困難に陥って絶命した。

「...そう。私の部下は手を出していない。”私の部下”......はな。さて、君が張宝だね」

煙を吹かして張宝と韓仲に近づく呂北。彼の放つ静かな威圧に飲まれ、先程とは比べならない恐怖で張宝は終わりが来たと思い震える。韓仲も気丈に立ち向かおうとするが、それでも呂北の威圧に体が動かなかった。やがてはそのまま呂北に自身の攻撃可動範囲内への侵入を許してしまい、闇雲に攻撃を加えるも、あっさり避けられ延髄に手刀を入れられて気を失った。崩れた韓仲を抱き留める呂北に張宝は恐怖で腰を抜かすも、韓仲を抱えた彼が語り掛ける。

「ここじゃ目に付く。この者を死なせたくなければ。また生き残りたければ来い」

腰を抜かした張宝は、成簾に無理やり立たされながらも、引っ張られるようにして呂北軍に捕らえられた。

 

 張宝と韓仲は呂北軍に捕縛され、気絶している韓仲は治療を受け寝台で休まされ、張宝は栄養失調と判断され、食事を与えられた。近頃黄巾軍の数が急激な増えた為に、食糧不足にてまともに食事をとった記憶がないとのことだ。目の前の餌に喰いつく犬の様に張宝は与えられた食事を疑いもせずに摂取した。そして現在は汚れた身なりを整えさせ、夢音が出した食後の茶を一刀と共にしている。

「......助けてくれて......ありがとう」

徐々に弱くなる語尾で、張宝は礼を述べたが、そんな彼女に一刀は無情な言葉を返す。

「助ける?一体何のことだ?俺は君の事を助けた覚えはないぞ」

「......え?」

「黄巾の首謀者の一人を捕まえたのだ。これ程の手柄は無い。ましてや討ち取りではなく捕縛。朝廷からの恩賞もたんまりであろう。お前に食事を採らせ、身なりを整えさせたのは、朝廷に引き渡す際に、本物と判断しやすくさせる為だ。あくまで自分の為。君の為ではない」

「な......あんた、ちーをなんだt――」

彼女が勢いよく席立ち、呂北に怒鳴り散らそうとした瞬間に、自身の行動を制止させた。

自らは捕虜である。それにも関わらず、何故手に縄をしばられていないのか。何故この場には目の前の男と、何苗を屠った給仕?の女しかいないか。何故自らと対談させる場にいるのか。彼女は状況を考えた。

今現在は自分を褒めてくれる姉や、甘やかせてくれる妹はいないのだから、自分で判断し、自分で危機を脱しなければならない。普段使わない思考を総動員させ、一度落ち着き、妹の様に冷静になろうと心がける。未だ立ち上がり張宝に対し、何を言い出すかを楽しみにしている呂北。彼女は一度着席する。

「.........目的は何?」

「ほう。冷静に持ち直したか。あのまま君から放たれる罵詈雑言を浴びるのも一興かと思ったのだがな」

「なんなの‼変態なの‼?いいから要件をいいなさいよ。ちーに何かさせたくてこんなことしているんでしょ‼」

その言葉に一刀は小さく含み笑う。飲みかけた茶を置いて、張宝に向かい合う。

「簡単なことだ。俺は君の力が欲しい」

「私の力?」

「そうだ。厳密には君達三姉妹であったが、生憎見つけることが出来たのは君だけだ。とりあえず質問だが。君達、黄巾以前に今まで軍を率いたことは?」

「ないわよ。最初は私達だけで歌っていただけだけど、徐々に応援してくれる人が増えて、いつの間にか大量の人になって、いつの間にかこんなことになっただけだもん」

「ほう。君たちは旅芸人を初めて、最初から売れていたかい?」

「そんなわけないじゃん。きっかけは応援してくれている人がくれた太平要術っていう書物を手に入れてからね。表裏が文字で埋まっているのに、それでも炭が滲んだ後も無い真っ白な見たこともない紙で出来た不思議な書物でね。それに書かれていることをやったら、お客さんが増えて、いつの間にかこうなったのよ」

「それは不思議な書物だな。その書物は今どこに?」

「官軍から逃げるときに火の中に落として燃えちゃったのよ」

「そうか。それは残念だ。ということは、その方法を知っているのは、君達三姉妹だけということになるな」

一刀は机を指で叩いていると、張宝が切り出す。

「ねぇ、あんた名前は?君とかあんたでは味気ないと思わない。せめて名前を教えてよ。私は張宝よ」

「名乗られれば返さないのは礼に反するな。俺は呂北だ」

「そう。呂北、なんでさっきちーが欲しいと言ったわよね。なんで私が欲しいの?そんなにちーの魅力に取りつかれたのかしら?」

「ははは、これでも妻持ちだ。そんな邪な目的ではない。単純なことだ。君達の人を惹き付ける魅力が欲しいと思ったまでだ」

「人を惹き付ける魅力?」

「そうだ。実力主義世の中には優秀であるのに、永遠に下働きする者もいれば、大した能力も無いのに、分不相応な仕事・役職を任される者もいる。出自や身分の差も関係するであろうが、最終的にそれらを埋めうる要因は何か。大まかに分ければ3つある。一つは圧倒的な実力を示すこと。1つは利益を生み出すこと。1つは人を惹き付ける魅力を持つことであり、君にはそのうちの1つ、圧倒的な”魅力”が備わっている。これからこの大陸は群雄割拠の時代に突入しようとしている。実力のある者が生き残れる真の実力主義に。なればこそどれだけ人を味方につけるかが胆になる」

捕虜になっているとはいえ、褒められて悪い気はしない張宝は、内心は頬のニヤケが止まらない様な状態であり、そこに交渉の材料を見つけた気がした。

「なら呂北、あんたのところでちーを置かない?」

彼女の提案に、一刀は顎を触りながら聞く。

「あんたはちーが欲しいと言ったわよね。ちーには歌がある。魅力がある。ちーが人をあんたの所に集めてあげるから、あんたの所にちーを置きなさい」

「......捕虜の癖に、随分と尊大な態度なのだな」

「別にちーは都に送られてそのまま処刑だけれども、今ちーの身柄はあんたの手の内。今目の前の手柄を取るか、100万人惹き付ける魅力を持つ人間を取るかはあんた次第ってことよ」

張宝は腕と足を組んで胸を張りながらも、内心は死への恐怖で震えていた。いつか読んだ太平要術の書にてこんな言葉が載っていた。『交渉は強気に』と。目に入ったのは言葉なので、内容は全く把握していない為に、自らのこの行動と判断は正しいのか何度も思考が巡るが、それでも交渉の賽は投げられたのだ。あくまで姿勢は崩さず、尊大な姿勢は崩さない。

「なるほど。確かに君の魅力があれば、俺の領地にもより良い循環な人の波がより巡るに違いない。選択肢の一つとしては大変面白い」

前向きに捉えてくれている呂北の言葉に、張宝は内心安堵した。

「っで、君が出す条件は?」

その言葉に、今度は思考回路が止まる。

「......じょう......けん?」

「そうだ、条件だ。君は捕虜なのだから、立場は対等とまでいかなくとも、そちらから交渉を持ちかけるからには、何かしらの条件があるのだろう?その条件は?」

自らを売り込むことしか考えていなかった張宝は、自らの価値を売り込むあまりに価値の為の条約を忘れてしまっていた。こうなれば彼女の仮面は剥がれていき、顔と背から脂汗が出てきて、視線の焦点は合わず挙動不審に動いてしまう。

「普段使わない交渉術。懸命にやってのけたことは褒めてやるが、あと一歩の所で爪が甘かったなぁ。惜しかった。......実に惜しかった」

顔の(えくぼ)がより深くなる含み笑いに、張宝は交渉を失敗したと思い込んだ。やがて三人がいる天幕より、関羽が入って来ると、張宝の背は丸くなり、今し方の尊大な態度は委縮した。

「失礼します。呂北様、ちょっと兵糧についてご相談したいことが......。こちらの女性は?」

関羽の登場にて、出来るだけ存在を消すことに勤めていた張宝は、登場してきた人物に自分に対する話題を振られ体が強張る。今ここで自らの正体をばらされれば、どの様な罵詈雑言を浴びせられ、どの様な暴力に身を晒されるかと恐怖に震えた。しかしそんな考えとは裏腹に、一刀はなんともなく彼女の想像とは逆の答えを繰り出した。

「あぁ、彼女は黄巾軍に捕まっていた捕虜で、今は事情聴取をしていたところだ」

「そうですか。それでもよかったです。黄巾の首謀者である張角、張宝、張梁は討ち取られ、我らも張宝を討ち取る快挙を得られるなんて」

その言葉に張宝の思考はまた駆け巡る。自らが死に、姉や妹も討ち取られていることに。

 


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