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呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第023話

どうも皆さんこんにち"は"。
今回ちょっと嬉しいことがありました。
呂北伝第021話が小説支援スコアランキング(今週分)で1位を取っていました。

これも常日頃から読んで下さっている皆さんのおかげでございます。

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2019-02-05 19:15:38 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1484   閲覧ユーザー数:1385

 呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第023話「一刀怒る」

 黄巾の大軍が武関を攻略し、商を通じて洛陽に迫っている報告を受けて、大陸の諸将は弘農に集結して、これを迎え撃つ準備をしていた。集まった諸将は漢の大将軍である何進を中心として、三公を輩した袁家、宮中に使える宦官の義孫にして、近年その卓越なる力でのし上がってきた曹家などと様々である。無論、今回の盗伐に参加するものの、黄巾の暴動は大陸中にあるために、洛陽を中心とした部隊には参加せず、賊を各個撃破する勢力も存在する。その中で特に有力な勢力が、西涼の馬騰や長沙の孫堅、襄陽の劉表や南陽の袁術など様々。その他の諸侯である彼らが黄巾の軍の一部を抑えることにより、洛陽に攻めて来る軍の数を20万に抑えられていると言っても過言ではなかった。

「いやぁ、一刀。久しぶりやな。今日はよろしゅうな」

一人の関西弁訛りの女性が、一刀に話しかける。

(しあ)、あいも変わらず元気そうでなによりだ。それにしてもまた奇抜な恰好に凝って、傾いているな」

一刀に話しかけている女性は、丁原と同盟の関係にある董君雅(とうくんが)に仕えている張遼。以前は紫の袴を履いて胸にサラシを巻き、その上からマントの如く羽織れる様な青い羽織を着た紫髪の女性である。だが以前とはまた違い袴には赤い閃光の様な刺繍が入り、羽織の背中には『刃』の一文字が入った刺繍が入っており、顔には目に赤いアイシャドウが入っている。

「せや。かっこええやろう。最近ちょっとはまっとるねん。これやったら味方にも目立つし、敵も勝手にこっちにかかってきてくれるし、一石三鳥やで。それよりすまんな。3千しか出せんで。最近(ゆえ)のお母の調子がよろしゅうないんよ。かといって国を開けるわけにもいかんし、兵はちょっと少なめやねん」

今回の黄巾盗伐は、扶風と天水で共同戦線をはることにした。その総指揮官が一刀であり、天水側からは張遼が3千の兵を率いて出てきた。

「いやいや、董君雅さんとは貿易面でも世話になっているから、これぐらいのこと補填とも思っていないさ。それより今回参加するうちの将達を紹介しよう。侯成(こうせい)郝萌(かくほう)宋憲(そうけん)そして軍師の臧覇(ぞうは)に参謀の妻だ」

一刀は後ろに控える配下の将達の紹介をすると、霞は一人一人挨拶していく。

白華(パイファ)の姐さん、お久しぶりです」

「ふふふ、久しぶりね霞ちゃん。もしかしてその化粧って―」

「そうです。姐さんのやり方を参考にさせていただきました。まだまだ姐さんには遠く及びませんが、また姐さんからご教授出来ればと思とります」

「そうね。霞ちゃんは可愛いから、また教えてあげるわ」

「またまた姐さんご冗談を――」

霞は白華と少し笑いあうと、郷里の所に来た。

「よろしゅうな。ウチは張遼いうもんや。一刀が軍師に選ぶんやから、大した実力なんやろ。頼りにさせてもらうで」

「初めまして張遼殿。お噂はかねがねご主人様よりお伺いしています。未熟な身ではありますが、足を引っ張らないよう精進いたしますので、よろしくお願い致します」

郷里の畏まった礼に、上機嫌で話しかけた霞が逆に一つ冷や汗を流す。

「なぁ一刀、ちょっと固い子やな」

「大丈夫、緊張しているだけだから。乞う見ても音は本当にいい奴だから」

「そうなんか?」

霞は一刀に小声で話しかけ、彼もそれに返すと、思いがけない所から返答が来る。

「御心配には及びません。固いのは元々ですから。それとご主人様”乞う見ても”という言葉の真意について後で質問があります」

小声で話す二人揃って「地獄耳!?」という返しを残し、気を取り直して霞は隴、夜桜、留梨に近づく。

「三人とも久しぶりやな。きばっとるか?」

霞は変わらず三人に語り掛ける。三人は気まずい雰囲気を隠せないでいた。天水での村の生き残りとして、あの時張遼に罵詈雑言を浴びせてしまっている。天水では張遼はちょっと名の知れた将として通っており、彼女の手足の様に軍を動かす指揮能力故『神速』などと言われているが、だがいざ自分たちの村が滅んだのだからその時は不満を隠せられなかった。しかしいざ将として彼女の偉大さが理解できた。幾度の戦場に出るたびに、上手くいかないこともあれば救えない命もある。自分たちの様に、一つの村を救えないこともあった。しかしそれだけならいい。時には自分たちの意のそぐわない者達を斬っては、連坐刑で無関係な者を斬ることもある。無実と分かっていながらも、大義の為に冤罪を着せることもある。自分たちの正義とは相反す命を行ないつつも、それでも自らの信念を保たなければならないことは、武人として当然であった。そんな当たり前を通せる張遼にいつか三人は尊敬の念を抱いていた。そんな時、留梨の口が開く。

「久しぶりですね張遼将軍。今回は遅れなかったのですね。賊軍は私たちが全て引き受けますから、神速と名高い将軍は後ろで待機なさってはいかがです」

「「留梨!!」」

留梨は見下ろすかの様な立ち振る舞いで張遼を挑発する。これは彼女が出来る精一杯の事だった。張遼の事は尊敬している。しかし自分たちの故郷の件は未だ許すことは出来ない。だが罵詈雑言の件は謝りたいし謝りたくないといった思いが錯綜しての精一杯であった。張遼は肩を震わせ、次の瞬間大声で笑い始めた。

「はっはっはっ、えぇえぇ。えぇなあんたら。気に入ったわ。一刀、三千の兵はあんたに預けるさかい、今日は高見の見物としゃれこんでええか?」

「いいぞ。ウチの自慢の将達の活躍を楽しんでおけ」

こうして扶風7千天水3千の総勢1万の連合は、弘農に向けて改めて行脚する」

 「くっ、いくら賊と言っても数が多い」

戦による砂塵が飛び交う中、黒髪を靡かせる敵を切り倒していく女性が愚痴る。

「愛紗、こっちはもう持ちそうに無いのだ」

その近くでは短い髪の赤毛の少女が黒髪の女性に戦況を伝える。

「わかっている。しかし、我々に何かあろうとも、桃香様のいる本陣まで行かせるわけにはいかない」

「当然なのだ。お姉ちゃんの所にはいかせないのだ~~‼うにゃにゃにゃにゃにゃ~~‼」

少女は自ら体の3倍の長さはあろう蛇矛を振り回し、敵を蹴散らす。

そんな彼女と同じように、黒髪の女性も自慢の薙刀を用いて敵を切り伏せる。彼女たちは義勇軍を率いる将である。混迷の時代に、自ら兵を率いて立ち上がった将の一人。無論彼女達の目的は、この先に集結している黄巾盗伐の陣に加わる為である。伝手があるわけでもない。

頼るべき相手がいるわけでもない。だが彼女たちはジッとはしていられなかった。世を苦しめる混迷の闇を断ち切るために、動かないわけには行かなかったのだが、その道中にて、黄巾の先行部隊に当たってしまった。千や二千の兵数であれば造作もないが、20万の軍の先行部隊である。三千はくだらく、後ろに控える20万という数の影響で指揮も高かった。彼女たちは義勇軍。その殆どは農民や町人の寄せ集めであり、武具や装備もままなっていない。終始押され気味でもうダメかと思ったその時、後方より砂塵を上げて接近する軍があった。『蒼天已死 黃天當立 歲在甲子 天下大吉』の黄色い旗印ではない。近づいてくるのは深紅の『呂』の旗印。その統率の取れた動きを見ていると賊軍ではないと理解が出来た。黄巾軍を蹂躙していく中、少女たちも自らの軍に激励を飛ばし、黄巾軍を各個撃破していった。

 

「危ない所を助けていただいてありがとうございました。我が名は関羽。劉備軍が将の一人でございます」

長い黒髪を持ち、その長い髪を後頭部で結ばれている関羽と名乗った女性は白華に礼を言う。服装で言えば上は白いノースリーブのシャツに赤と白が真ん中でハーフアンドハーフに色が別れた短めのネクタイ。またシャツに合わせた緑のウエストニッパーも着ている。あとは肘上の留め金で結わせた袖で、下は紺のミニプリーツスカートと茶色のニーソックスで靴は砂塵が飛び交う平野に似つかわしくない革靴だ。

「いいえ、困った時はお互い様。私は王異。呂北軍参謀よ」

「呂北?呂北軍といいますと、扶風の呂北でございましょうか?」

「そうよ。あら、私たちも随分有名になったことですわね」

「いえいえ有名なんて処ではないです。『扶風にいけば職がある。腹を満たせる』と唄われる程、(まつり)は安定して善政が敷かれていると聞いております」

「それは嬉しいわ。呂北の妻としては鼻が高いわね」

「.........へ?」

興奮していた関羽を尻目に、白華の言葉に関羽は固まる。目の前にいる人物は、その扶風太守にして、呂北の妻である王異であった。まさかこの様な場所に奥方来るはずないという先入観により、彼女はとんでもない無礼を働いてしまったのではないかと思い、次の瞬間には頭を地面に擦り付けていた。

「も、ももも、申し訳ありません。恐れ多くも一国の奥方に対して砕けた物言いをしてしまい‼‼」

「あらあら、別にそこまで畏まる必要は無いのに」

「にゃ?愛紗、一体何しているのだ?それにこのおばちゃんは一体誰なのだ?」

土下座で頭を下げる関羽の頭を上げようとしている時に、後から遅れてきた赤い髪の少女が今度は無礼千万な発言を投げ込んだ。

「鈴々‼‼」

関羽は少女の頭を掴んで、再び地面に頭を擦り付ける。

「重ね重ね大変申し訳ございません‼‼ひいては妹に加えワタクシも割腹つかまつりたいと思いますので、どうか我が主の我が主の命だけは‼‼」

「にゃにゃにゃ」と抵抗の声を挙げる少女と土下座で貴婦人に頭を下げる女性。そんな二人を見て狼狽する貴婦人を尻目に、両軍の兵士は状況が理解できずにただ見守るしかなかった。

「......何やっているんだ?おまえ?」

 

 それから落ち着いて一刀が合流し、劉備軍からも代表である劉備が合流して互いに紹介を終えた。

姓は劉、名を備、字を玄徳。頭の左右に二つ白い羽の髪留めを付けた桃色髪でロングヘアーの女性。真ん中の服の留め具であるボタンのラインは黒。そして服の彩は白でその上から平均的な感覚を空けて縦に薄い黒線ラインが入っている。また左右のわき腹にかけてはエメラルドグリーンで、腕の袖が羽根を模した金刺繍が描かれた長袖の服。裏襟からは燕尾の様に2本の長布が膝下まで垂れており、末端が金刺繍で彩られている。胸元のリボンは 小豆あずき色。下が関羽より少し束の狭い小豆色のミニプリーツスカートに太股半ばまである白のスーパーロングブーツという格好だ。

姓は関、名を羽、字を雲長。恰好は先の記述通りで、劉備に使える者で義勇軍の将。

姓は張、名を飛、字を翼徳。先程白華に無礼な発言をした少女で、同じく劉備に使える義勇軍の将。赤紙ショートで左サイドを留める虎顔のヘアピンが特徴的だが、何故か少女が目を瞑って笑った時、ヘアピンも目を瞑ったのは気のせいであろうか。服は虎柄のボレロと黒のチューブトップ。下は黒のスパッツで対極印の入ったダブルベルトに首には赤い腰まで垂れるマフラーを付けている。

※三國志の作品によっては張飛の字を益徳と記述するものもあるが、この作品では翼徳で統一するものとする。

「本当に申し訳ありませんでした。妹が失礼なことをしたにも飽き足らず、奥方様に対してもとんでもないことを言ってしまって」

「いいのよ。もう27だしね。もうすぐおばさんになることには違いは無いし、そんなに気にしなくても」

「い、いえいえ。そんなことはありません。お世辞抜きで間違いなく王異さんはお若いです。ね‼愛紗ちゃん‼」

劉備のその言葉に、関羽は壊れた人形の様に首を縦に何度も振るが、白華の後ろでは、一人の人物が怒気を孕ませていた。それはもう周りにいる将達が引くほどの怒気であり、平然としているのは白華だけであった。小枝を踏み折る音と共に劉備達の下に近づくと、劉備は気に当てられ恐怖で震えていた。

「.........誰だって勘違いはある。白華に対しての関羽の発言は不問にする」

その言葉に内心劉備は肩を撫で下ろすが、一刀は「だが」の接続詞を付けると共に、張飛の顳顬(こめかみ)を片手で掴んで持ち上げた。

「お前だけはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼‼」

「うにゃにゃにゃ~~~~~~~~~~~~~‼‼」

これ程までの怒りを放出する一刀を、呂北軍のメンツは初めて見た。

「誰の(ツレ)のおばちゃんだって!?あぁ!?お前は俺の妻が年増だとでも言いたいのか!?あぁ!?自分は少女だから若さが羨ましいとでも言いたいのか!?あぁ!?それとも俺が年増を連れているじじぃだとでも言いたいのか!?あぁ!?よく見てみろ!?あぁ!?何処が年増だ!?あぁ!?この肌の艶の何処が年増だ!?あぁ!?」

何気に自らが一番年増の発言が多い一刀であったが、自分の為に本気で怒る一刀を見て、白華は頬を赤らめ艶めかしいため息を吐き、張飛はひたすら「ごめんなさいもう言いません‼‼」と謝罪を連呼し、劉備と関羽は一刀の体に縋り付きながらひたすら謝罪と怒りを鎮める言葉を述べながら、ある意味大陸の混乱より混沌としている現場がこの場所に存在した。

 


 
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