No.973824

紫閃の軌跡

kelvinさん

第143話 例に漏れずの成長度合い

2018-11-15 15:08:23 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1495   閲覧ユーザー数:1394

~リベール王国センティラール自治州 温泉郷ユミル郊外~

 

―――七耀暦1204年12月7日。

 

 今回はレグラム自治州に向かうということで、リィンとセリーヌ、アリーシャの固定メンバーに加えてⅦ組からはステラとアリサとミリアム、助っ人メンバーとしてシャロンとトヴァルが加わることとなり、それ以外の面々はユミルの守りをしてくれることになった。

 

「正直、過剰戦力になりつつあると思うんだけれどね、あんた達は」

「えと、すみませんリィンさん。否定できません……」

「いや、俺もそう思う……」

 

 並び立つどころか逆に追い越されているのではとリィンは最近感じるようになった。どこかでしっかり鍛えなおさないとと思うリィンはヴァリマールの佇む場所に移動し、彼に準契約者の探知で探して貰ったところ、意外な結果が出た。

 

『ルーレ方面に4名、それと同一の反応が一つ。レグラム方面に3名』

「えっ……」

「今、同一の反応って言ったような……」

「ということは、ルーレに騎神があるってことなのかしら」

 

 レグラム方面の人数が一人減ったことよりも、今までに聞くことが無かった文言に意識が集中してしまう。現在いない“Ⅶ組”メンバーはラウラ、エマ、アーシア、ユーシス、アスベル、ルドガー、セリカ、リーゼロッテの8名にクロウを入れれば9名となる。ここから近隣となるルーレも気になるが、今回は予定通りレグラム方面に向かうべきだと判断し、ヴァリマールの『精霊の道』で一路レグラムに飛んだ。

 

 その頃、すれ違う形でシュバルツァー侯爵邸を訪れる者がいた。リィンの妹であるエリゼであった。

 

「皆さん、お久しぶりです」

「久しぶりだね、エリゼさん」

「いえ、兄様共々ご無事で何よりです。それより、兄様はどちらに?」

「ああ。今頃はレグラムに向かっているはずだが……何かあったのか?」

「……父様と母様にもお伝えしますが、エレボニアの方々にも他人ごとではないゆえ、お伝えします。本日、リベール王国は先月のエレボニア帝国からの宣戦布告を受理、<不戦条約>を凍結して戦争状態に入りました」

「なっ!?」

 

 エリゼの放たれた言葉は一同を驚愕させた。“眠れる白隼”を起こす意味……<百日戦役>とは異なり、強大となったリベール王国軍の脅威は未知数。先月の二国侵攻失敗のことは聞き及んでいたが、まさか<不戦条約>を凍結させた上で戦争状態に突入するなどとは思っていなかったようだ。そのことに対して尋ねたのはクレア大尉であった。

 

「エリゼさん、一つお伺いいたしますが……戦争状態となったことで、“Ⅶ組”や私のようなエレボニアの人間はどうなるのでしょうか?」

「あ……!!」

「そうか、ノルドの民である俺を除けば、殆どがエレボニアの人間になる」

「その点はご心配なく。あくまでも敵対するのはエレボニア帝国の“現政府”である貴族連合ですので、王国内にいる帝国の方々は王国の法と秩序を守っていただければ拘束することも罰することも致しません。とりわけ“Ⅶ組”とその協力者であるなら最大限の配慮を、とシュトレオン殿下より仰せつかっております」

 

 エリゼがそういう風に話していると、何かあったのかとテオとルシアが近寄ってきた。するとエリゼの姿に二人は表情を緩ませた。ルシアに至ってはエリゼをやさしく抱きしめていた。

 

「エリゼ、このご時世によく帰ってきたな」

「お帰りなさい、エリゼ。少々タイミングが悪かったけれど……でも、どうしたの? 彼らの表情を見るに、どうやら良くない知らせのようだけれど」

「ただいまです。コホン、父様に母様。とても重要な知らせです……」

 

 そして、エリゼはリベール王国がエレボニア帝国と開戦したことを改めて伝える。それを聞いた二人の表情はとても悲しげであった。

 

「やはり、エルウィン殿下を匿ったことであったか……せめて、殿下の身の安全を願うばかりだ」

「父様……それもありますが、皇位継承権を破棄しようとしたアルフィンの願いも消し去り、既に継承権のないアルゼイド夫人まで狙った身勝手な都合にリベール王国はもう付き合う義理もない……既に、4つの飛行艦隊がノルティア州に向けて飛び立ったという情報も聞いております。私が聞いたのはそこまでぐらいで、どういった行動をするかまでは王国軍の管轄になるため、聞いておりません」

「その、エリゼ君。気になるんだが、4つの飛行艦隊でどれくらいの機甲師団を相手にできるのか……正直解らないことが多い」

 

 マキアスの疑問も尤もだろう。ここ十数年リベール王国とエレボニア帝国は軍事的な衝突を起こしていない。それに近いことは<百日事変>での出来事ぐらいだが、それでも戦闘状態に陥っていないのが実情。なので、どの程度の規模の戦力なのかも不明瞭。それを聞いたエリゼは説明を始める。

 

「そうですね。私も少し耳にした程度ですが、今回の戦闘では最新鋭の220アージュ級高速戦艦である<ゼフィランサス級>を8隻投入し、それとファルブラント級巡洋戦艦8隻を加えた16隻、310アージュ級航空母艦『アレクサンドリア』に加え、改アルセイユ級となるクリーズラント級巡洋艦24隻が投入されていると聞きました」

「せ、戦艦!? リベール王国が戦艦を!?」

「聞いただけでも凄いが、それだけの資金を捻出できた経済力は計り知れないな……」

「そして、ゼフィランサス級1隻で中規模の都市ならおおよそ半日で壊滅にできる火器を保有しているとの噂もあります。殿下に確認しましたが、否定はされませんでした」

「なっ!? リベール王国がそれだけの戦力を有していたのは<不戦条約>違反なのではないですか!?」

 

 エリゼの言葉に驚愕しているエリオットとマキアスに対し、クレア大尉は反論の言葉を発した。隣国にこれほどの航空戦力など聞いたこともない。確かに<不戦条約>のことからすればパワーバランスの均衡を崩すような過剰戦力ともいえる。だが、それに対してエリゼは毅然とした態度でこう述べた。

 

「お言葉ですが、クレア大尉。貴方方の国にいる情報局の人間が頻繁に軍施設を監視していたことは周知の事実です。それに、ここ数年で軍事費の増大を続けていて、『アハツェン』を始めとした新型兵器の生産も大量に行っていると聞きます。努力義務とはいえ、真っ先に均衡を崩そうとするような軍備増強路線をお取りになっている“鉄血宰相”殿に対してまず言うべき台詞ではないかと申しあげておきます」

「っ……それは……」

「ま、その通りだよね。手の内を全て明かすような人に国なんて任せられないのは当然。切り札は隠し持っていてこそ意味がある」

「フィー……」

「言い方は鋭いが、その通りなんだろうな。この場合は先見の明があったリベールに驚くべきという他ない」

 

 この状況で言うのは筋違いであり、後出しジャンケンに近い。そもそも貴族連合は機甲兵という新兵器まで持ち出してきていて、それに正規軍は何とか食らいついている状況。そういったパワーバランスを見越してリベール王国は隠していた切り札を一枚切っただけのこと。これはクレア大尉も理解して押し黙った。

 

「エリゼ、殿下はエレボニア全土を焦土にされるおつもりか?」

「いえ、そこまでは決してしないと。ただ、彼らには少なからず代償を払ってもらうと……民には極力被害を出さない。その言葉も頂いています」

「そうか……どうか、エルウィン殿下のことをよろしくお願いするとシュトレオン殿下に伝えてくれ。彼女には何ら罪もない。本国に保護を頼まなかった私も同罪だ」

「あなた……エリゼ、私からもお願いします」

「父様と母様なら、きっとそう言うのではと殿下は申しておりました。国を変えてもアルノール家のことを大切に思いやる心は捨てないだろうと……なので、最大限の配慮はすると確約も頂いています」

 

 エリゼの言葉にテオとルシアは涙ぐみながらも安堵の表情を浮かべた。それを見やったエリオット達は毅然と対応するエリゼの凄さもそうだが、ここまで予見しているシュトレオン王太子の凄さに正直感嘆していた。

 

「やはり凄いな……」

「うん。そんな人がトールズの常任理事で、僕らとあまり年が変わらないっていうのも驚きだよ」

「君は別の意味で凄いと思うけどな、エリオット」

「そうですね……あの中将閣下を投げれる人なんて、数えるぐらいしかいませんし」

「うっ、その話はあまり掘り返さないでくれるかな……」

「じゃあ、同窓会の時にでも掘り返す」

「ちょっと、フィー!?」

 

 

~リベール王国レグラム自治州~

 

 そんな会話がシュバルツァー侯爵邸で繰り広げられている中、レグラムにあるローエングリン城にて……リィン達はある意味悟りの境地に達していた。そう、リィンにとっては3度目となる状況であった。

 

「ほえ~……皆すごいなぁー!」

「あらあら、皆さんお強くて羨ましい限りですわ」

「執行者のアンタがそれを言うか……」

「あはは……」

「……リィン、頑張りなさい」

「……えと、ありがとうアリサ」

 

 竜らしき魔物を一刀両断するラウラ、もう一体の魔物に向かって白銀の剣の雨を降らせるエマ、そしてそこに追い打ちをかけるように法剣の刃を分割させて微塵切りに仕上げるアーシア。しかも、ここにいる3名のうち2名はリィンに対して好意を寄せており、エマについてもそれらしき感情を垣間見せている。決して怒らせないようにしようと……リィンは心の中で強く決意した。そして、エマと握手を交わし、ラウラとアーシアに抱きしめられる役得を発揮したリィンであった。

 そして、合流したリィン達は一路レグラムの領主邸であるアルゼイド侯爵邸を訪ねることとなり、彼らを館の主であるヴィクター・S・アルゼイド侯爵とその妻であるアリシア・A・アルゼイド夫人が彼らを温かく出迎えた。

 

「久しいな、リィン。それと久しぶりな者もいるが、改めて自己紹介をさせてもらおう。レグラムの領主であるヴィクター・S・アルゼイドという。以後お見知りおき願おう」

「妻のアリシア・A・アルゼイドと申します。このような場所ですが、少しでも羽を休めていってください。それと、久しぶりですねステラさん」

「はい、お久しぶりですアリシアさん。聞けば、毎年母の命日に花を贈ってくださって……手紙もなかなか書けず、申し訳ありません」

(そういえば、ステラのお母さんはオリヴァルト殿下にとっても…)

 

 この事実を知っているのは“Ⅶ組”でもアーシアとミリアム、そしてクロウを除く面々。アリシアはリィン達にステラの母親と古くからの友人であったことを伝え、ヴィクターも面識があると話す。

 

「ふむ……懐かしいな。だが、久闊を叙する暇もなさそうではあるかな。とりわけ君達にとっては……」

「そういえば、ラウラ達はこれで全員なの?」

「いえ、少し前まではユーシスさんもいたのですが……」

「えっと、ちなみにユーシスさんも皆さんみたいなことに?」

「それをアンタが言うのかしら……」

 

 ラウラ達4人はヴィクターの知り合いである人物たちに稽古をつけてもらっていたが、やはり実家の情勢が気になると断った上でユーシスは一人バリアハートに向かったと話す。それが2週間以上前の話らしい。それを聞いてステラはユーシスの強さが気になって尋ねてみた。それには流石にセリーヌがツッコミを入れたが。

 

「そうだな……彼のような騎士剣術は軍での師範指導の際によく知っていたから手合わせた。手伝ってくれた人物もその辺には詳しくてな。今ではアルゼイド流の師範代クラスの剣術ぐらいならこなせるだろう」

「師範代クラスって……」

「うむ。母上や兄上にも劣らぬであろう」

「あの、リィンさん……」

「聞かないでくれ。余計に頭が痛くなってきた……」

 

 例に漏れず、ユーシスもかなり強くなっていたことにリィンは頭を抱えたくなってきた。ヴァリマールを使っても正直勝てるのか疑わしくなってきたほどに……ともあれ、レグラムの遊撃士協会支部で何か困っていることはないか尋ねて依頼をこなした後、ユーシスと合流するためにリィン達は一路バリアハートを目指す。

 

 

~エレボニア帝国クロイツェン州 バリアハート市~

 

 そのバリアハートにあるアルバレア公爵家城館では、当主であるヘルムート・アルバレア公爵が独り言を延々と呟いていた。そこから聞こえる言葉はカイエン公爵をどう出し抜けるかという言葉ばかり。それを毎日聞く方も堪ったものではない。それを一番感じていたのは彼の近くに控えている庶子、ユーシス・アルバレアであった。

 このまま立っていてもあまり意味を成さない。兄からもユミル襲撃はするなと釘を刺していたにもかかわらずだ……だが、結局は皇族という大きな手柄欲しさに猟兵を送り込み、シュバルツァー侯爵を銃撃した。その後の仔細は不明だが、生きているような傷ではないとの報告も受けた。同じクラスの親を自分の父親が邪魔であるかのように扱った……それを罰しない兄にも、カイエン公にも不信感を覚えてしまう。ユーシスは一言断って執務室を後にした。

 

「ユーシス様、ご苦労様です」

「アルノーか。いや、俺は何も出来ていない……それどころか、クラスメイトの親を見殺しにしたようなものだ」

「……」

 

 どうしても公爵という立場に逆らうことができない。これが身分制度の壁なのだろう。自分の意見とて所詮はただの意見でしかない。それを聞くかどうかは公爵の一存次第……だが、当の本人はカイエン公を出し抜いて自分が貴族連合の総主宰に躍り出ることしか考えていない。なので、バリアハートへの采配といった事務仕事はすべてユーシスに押し付けられていた。こんなことをするために、自分は戻ってきたわけではないのだと……そう思考するユーシスにアルノーは小声でこう報告した。

 

「ところでユーシス様。先ほど南門より数名の学生らしき人物が入られたと報告が」

「何? 門番は追い返さなかったのか?」

「はい。手配されている方々ではなかったそうで……いかがいたします?」

「……あそこなら誤魔化しも効くか。アルノー、手配を頼む」

「はっ、畏まりました」

 

 レグラムに一緒に来た面々にエマがいる。彼女は“魔女”ということも聞き及んでいるので、何らかの回避手段を用いたのかもしれない。そう考えたユーシスはアルノーに必要な手はずを整えるよう命令し、彼はそれに対して頭を下げた後その場を去った。そして、ユーシスは公爵を睨み付けるように先ほど出てきた扉を睨んだ後、扉に背を向けるような形でその場を去った。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
2
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択