No.973457

紫閃の軌跡

kelvinさん

第142話 やり切れぬ敵方の近辺事情

2018-11-11 21:47:33 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1950   閲覧ユーザー数:1798

~エレボニア帝国ラマール州~

 

―――七耀暦1204年12月9日。

 

 ラマール州の州都オルディスの北西側にある古城を改造した要塞にして、ラマール領邦軍の本拠地とも言えるドレックノール要塞。この拠点だけでも数万の兵と膨大な備蓄を兼ね備え、対空砲まで備えられている。下手に手を出せば多くの犠牲を出すことは必須。

 その要塞の執務室に座るのはオーレリア・ルグィン。貴族連合軍の中核を担う将にしてルグィン伯爵家当主。更にはヴァンダール流とアルゼイド流の両方を修めた女傑。稀代の女剣豪とも言われる彼女の二つ名は<黄金の羅刹>。その彼女が机を挟んで向かい合うのは<黒旋風>の異名で名高いウォレス・バルディアス准将であった。

 

「―――それで、“彼女”は独自に動いたと?」

「ええ。どうやら興味深いものを見つけたとのことで。イーグレット伯にその旨を報告したところ、別方面で無事であるとの報告も聞き及んでいるらしい」

「フフッ、御独りで帝都を脱出したと聞いたときは驚いたが……総主宰殿には、気付かれておらぬな?」

「ああ。あのお方が“裏”の方々と行動を一緒にしているのが功を奏したが……壊滅した師団の立て直しも何とか完了。だが、完全に膠着状態となっている」

 

 話している内容は今後のカイエン公爵家にも関わる重要な話。その人物はウォレスと合流していたのだが、何か気になるものを見つけたとだけ言って彼と別れた後行方知れずだった。だがイーグレット伯は既にそのことを知っていたので、何らかの連絡手段を持ち得ている人物の元に身を寄せている可能性が高い。

 そのことを置いておき、ウォレスは現在の戦線についても説明を始める。

 

「オスギリアス盆地は既に彼らの制空権、それとアラゴン鉱山もリベールに占領された模様。ですが、鉱員については逆に休ませている模様とのこと。彼らとて鉄資源は欲しいと思われるのだが」

「甘いぞ、ウォレス。彼らとて本音を言えば欲しいのは同じだろう。ザクセン鉄鉱山とアラゴン鉱山……この二つの屋台骨を抑えられたからには、我らとていずれ立ち行かぬ。ここから近いアラゴン鉱山に攻め入ったとしても、先月のリベール侵攻の二の舞であろう……いや、事態はもっと悪化するかもしれぬ」

「そこまで仰るとは……」

 

 欲しいからこそ鉱員を休ませることによって彼らの過労死を避ける……即ち彼ら鉱員も含めた人心の掌握をリベールは最大の利として主眼に置いている。ここで大軍を投入したとしても、返す刃で壊滅するのが目に見えている。あの侵攻以降、単純な力押しが意味を成さなくなってきているとオーレリアは率直に感じている。とりわけラマール州は重税によって領民が疲弊しきっている状況。この時勢の中で税が重くないリベールに実質占領されたら、彼らの心は一気に傾くであろうと。

 だが、カイエン公は楽観視している。その程度など皇族の威光と味方に引き入れる予定の機械人形―――<灰の騎神>を貴族連合側へと引き込み、“裏”の協力者と連携すれば可能であると……申し訳ない話だが、オーレリアにしてもウォレスにしてもその根拠が雲を掴むような話であり、到底現実味がないとお互いに一蹴していた。

 

「正直に言って、リベールの侵攻が止まったのは“其処まで”としたのかどうかだな」

「と言うと?」

「今回動員されているのは航空戦力のみということ。そして、旗頭である『アルセイユ』が出てきていないことを鑑みた場合、オルディス方面を狙う可能性は限りなく低い」

 

 拙速を重んじて航空戦力のみとしたのは帝国北部・北東部の地形からしても理に適っている。その上で電撃的な侵攻をしつつも、補給面で無理を生じさせない範囲での占領にとどまっている点。これを橋頭堡作りの一環ととらえるべきか、あるいは元々そこまでの侵攻に止めたのかではその後の対応の仕方も異なってくる。

 

「南北からの帝都攻略……それが濃厚か」

「あるいはパンタグリュエル制圧の可能性もだな。今回州北東部が切り取られた影響で兵器輸送にもかなり支障が出る。そこに止めを刺す可能性もあるというわけだ……だが、風の噂では例の空母で300アージュ超、更には次世代型となる200アージュクラスの戦艦が開発されているとの噂もある。……上の方々は一体何を考えているのか甚だ疑問である、と苦言を零したくなるな」

 

 あそこでリベール侵攻に走らなければ正規軍に苦戦することもなく、リベール王国軍がエレボニアに侵攻してくる事態にもならなかった。しかも、貴族連合が誘拐した人物を未だ返還していないという事実は帝国内に衝撃が走った。少なからず貴族連合内にも不安の声が上がっているのは事実そのもの。

 

「それで、我々に対しての命令は?」

「一先ずラマールにいる正規軍を追い込めとはなっているが、正直難しいだろう。パンタグリュエルへの連絡も不通の状態……最悪の場合、オルディスが火の海に包まれるようなことだけは阻止せよ。我々の誇りは民の心あってこそだからな」

「了解しました、将軍」

 

 殆どオーレリアに丸投げ状態となりつつある“表”の貴族連合軍。それだけリベール王国軍のエレボニア侵攻という事実は衝撃的であった。溜息の一つでも付きたいと思わんばかりのオーレリアとウォレスであったが、それは“裏”側でも同じような状況であった。

 

 

~エレボニア帝国クロイツェン州上空~

 

―――七耀暦1204年12月6日。

 

 そのパンタグリュエルはクロイツェン州に向かっていた。その目的はアルバレア公の身柄拘束や警告などではなかった。彼らの目的は<灰の騎神>の起動者であるリィン・シュバルツァーの確保。そのための切り札として“裏”の面々をほぼ一か所に集めた。だが、そんな中で<蒼の騎神>オルディーネの起動者であるクロウ・アームブラストは艦内の一室で浮かない表情をしていた。

 

「はぁ……本気で言ってるのかね、アイツは」

「らしくねえ表情をしてるな、リーダー」

「ええ。いつもは冷静沈着な貴方がね」

「ヴァルカンにスカーレットか……済まない、気を遣わせたな」

 

 そこに話しかけてきたのは同じ<帝国解放戦線>である“V”ことヴァルカン、そして“S”ことスカーレットであった。彼らの声掛けにクロウは疲れたような表情を垣間見せた。

 

「別に構わないわよ。でも、ノックしても反応がなかったから少し不安に思ってね」

「大方<灰の騎神>の起動者のことなんだろうが、どうにも気が進まねえって顔だな」

「気が進まないんじゃない。どう見ても博打にしちゃ悪手の連続だからな。アイツの妹を人質に取る……それでリベール王国まで本気にさせた今の状況で、勝ち目があるとは思えねえんだ」

 

 クロウがここまで言い切った背景には先月のリベール王国侵攻失敗の一件がある。姿が見えない相手からの一方的蹂躙。更にはリベール王国も騎神を保持しており、それによってクロウは敗北を喫した。<灰の騎神>で調子付いていた部分もあるがアスベルとルドガーに加減されて敗北を喫した上で、その敗北はクロウにとってあまりいいものでなかった。

 

「相手はあの空中都市出現の異変すら乗り切った国家だ。ここで埒外の現象を持ってきても、奴らなら乗り越えてしまうだろう。仮に<灰の騎神>の起動者をここに連れてきたら、それこそリベールの奴らにパンタグリュエルへ攻め入る口実を与えかねない」

「そのことは総主宰殿や総参謀殿に言ったのか?」

「当然伝えたさ。だが、その程度のことなど些事だと総主宰殿は言っていた。総参謀殿もその意見に賛成していた……おまけにヴィータもだ。結社の伝手を頼るつもりなんだろうが、ハッキリ言って最悪だろうな」

 

 リベールからすれば結社の存在は公的に認定した第一級国際犯罪組織。<百日事変>を引き起こした組織への対応としては至極真っ当である。それを頼みにした上で元帝国民とはいえ王国民を人質に取るやり方は最悪の一手になる。それに、連れてこようとしている人物だって今はリベール王国の人間だ。

 

「ハッキリ言っちまえば、ユミル襲撃の際にアルバレア公を切ってあのお嬢さんを返すべきだったんだ。ただでさえ、灰の起動者は身内贔屓だからな。今回のことはヴァリマールに暴れられても文句は言えねえな」

「……何かすごいこと言うわね。リーダー」

「ユミル襲撃の際の話は少し聞いたが、アイツ一人で猟兵の連中を殲滅したらしいからな。侯爵殿を撃たなけりゃ痛い目を見ずに済んだのに、アルバレア公はご愁傷様なことだ。その意味じゃ、ヴィータの関係者である俺にその八つ当たりが来ても不思議じゃねえだろうよ……そんな目には遭いたくないが」

 

 旧校舎地下での一件でそれを垣間見たクロウ。あれはまだ手助けの側として入ったからセーフだったが、先日のユミル襲撃の件は間接的に関係者である自分にその被害が及びそうな気がした。その言葉を聞いたヴァルカンとスカーレットは、二人揃って苦笑を零すほどにどういった反応をすべきか困った。それを見たクロウも苦笑が漏れるほどの有様だった。

 

「それで、私たちの前に誰か来ていたのかしら?」

「ああ、総参謀殿だよ。<灰の騎神>が現れた際、こっちで相手をしろとな。その際にアルバレア公はどうするんだ? と尋ねたんだが……」

 

『そちらについては放置しても問題ない。既に段取りは完了している…上手く行けば、彼らも味方に引き込めるだろう』

 

 ルーファスの言葉にクロウは内心呆れ返っていた。正直貴族連合に敵対しうる人もいるというのに“Ⅶ組”全員を引き込むつもりのようだ。いや、そのためにレーグニッツ帝都知事を拘束した可能性もある。その重心たりえるリィン・シュバルツァーさえ引き込めば、あとは芋蔓式で行けるとでも本気で思っているのかと叫びたくなった。

 

「最悪の場合、お前たちも巻き込まれかねない……だが、リーダーとしてこれだけは言っておく。お前らは絶対に死ぬな。死ねばそれこそ“鉄血”の思惑通りになりかねない。そんな気がするんだ……」

「お前の勘は嫌ほどいうほど当たるからな……解った。最悪の場合は<猟兵王>の伝手でもあたるか」

「私はそうね……教会方面をあたってみようかしら」

「ハハ、そういうコネってホント大切だと思うわ」

 

 ギデオンは殺されてしまった。<帝国解放戦線>もその意義を失った。だが、どこかしらこれで終わりだとは思えない……そんな予感がクロウの脳裏からこびり付いて離れなかった。あの銃撃の直後、聞こえない距離でありながらも確かにあの人物の声が脳裏に響いていた。

 

『―――見事だ“C”。いや、クロウ・アームブラスト……』

 

 それはただの幻聴なのかもしれない。だが、スコープ越しに見えた彼から、こちらを見据えるような視線を感じた。怪物という揶揄がまるで適格と言わんばかりに……そんな奴が避ける素振りもなく素直に撃たれた。それがどうにも腑に落ちなかった。まるで、遊戯盤のその一手が“王手”なのか“悪手”なのか解らなくなるほどに、クロウは悩んでいた。

 

 

~リベール王国暫定統治領(エレボニア帝国ノルティア州) ルーレ市 ラインフォルト本社ビル~

 

 その頃、アスベル達はRF(ラインフォルト)グループの本社ビルの24Fと25F、ラインフォルト家の住居スペースであるペントハウスにいた。というのも、イリーナを助けたのは他でもないアスベル達であった。事の起こりは本作戦開始前、シャロンから内密の連絡があったことだった。

 

「それで、イリーナさんはルーレのどこかに?」

『はい。おそらく市街地ではなく、ザクセン鉄鉱山のほうに幽閉されていると思われます。ログナー侯爵とて諍いの種に成りかねない会長を城館に監禁するのは好ましくないでしょうから』

 

 それで、リベール王国軍が黒竜門へと侵攻を開始した直後にルーレ市へ潜入。特別実習で使った鉄鉱山への直通ルートを使って潜入した。その扉を開けるカードキーは実習後にイリーナからの手紙に同封されていた。何かしらに使えるだろうと書かれていたが、実際役に立つとは苦笑を浮かべるほかなかった。そして鉄鉱山の駅にアイゼングラーフが停泊していたのを見つけ、アスベルとルドガーとアッシュ、セリカとリーゼロッテとミュゼの6人であっさりと制圧。イリーナと傍にいたカグヤの救出に成功した。クワトロについては身バレする可能性もあったため、カシウス中将の補佐に回ってもらった。

 そしてルーレ市への王国軍侵攻と時を同じくする形で、アイゼングラーフで本社ビルの地下に到着。ビル内に放たれた人形兵器をあっさり退け、到着した23Fにはログナー候の実弟であるハイデル・ログナーの姿があった。

 

「な、何だね君たちは!?」

「そうですね、解りやすく言えばラインフォルト家の関係者とその協力者です。ハイデル・ログナー、貴方をイリーナ会長の依頼で拘束するために」

「フフ、フフフ……これを見ても、それが言えるかな!?」

 

 そう言ってハイデルが呼び出したのは、太刀を持つ人形兵器。見るからにかなりのパワーとスピードを発揮しそうな機体だろうが、そんなことお構いなしに、刀を抜かずにアスベルが至近距離に詰め寄り掌底を放つ。

 

―――八の型、覇鋼

 

 『無手』の型に裏の極意の一つである『貫』を重ねることであらゆる防御を無視して内部破壊を行う技。そのたった一撃で人形機械は完全に沈黙して、駆動音が止まる。流石に室内で爆発させたら火事になりかねなかったからだ。これにはハイデルも目を見開いていた。

 

「な、なあっ!? 馬鹿なっ!? あの<風の剣聖>のデータを入れた機体なのだぞっ!?」

「……その時点でどこから譲り受けたのか解る話ですね。ルドガーにアッシュ、頼んだ」

「あいよ」

「てなわけで、てめえはおとなしく拘束だ」

「ぐはっ!? わ、私はログナー家のものだぞ! こんなことをしてただで」

「ただで、何かしらね?」

「!?」

 

 ルドガーとアッシュがハイデルを床に押し付けるように身柄を押さえ、権威を盾にしようとしたところでそれに匹敵する権威を持つイリーナのご登場であった。それを察したのかルドガーはあるものを要求したので、アスベルはそれを渡すとハイデルをそれに括り付けた。それというのは……丸太だった。なんで持ってるかというと、最初から入っていた。理由はわからないが、きっとあの幼女神のお茶目だと思う。すると、イリーナの目がかなり生き生きとしてきた。

 

「それじゃ、この人と話があるので貴方達は上の階でカグヤの手伝いをして頂戴」

「成程、解りました」

「……さて、何か申し開きをしてもいいけれど、私は今すごくご立腹なの。なので、気を付けて頂戴ね」

 

 その後、ハイデルの身柄を引き取りに来た王国軍の兵士からの証言によると、ハイデル・ログナーは顔がボコボコに腫れ上がり、イリーナの姿を見ると完全に顔が青褪めて震え上がっていた。ペントハウスを我が物顔で使っていたこと……家族の大切な場所に土足で踏み込んだ腹いせだと思うと、因果応報だと判断するしかなかった。その場に居合わせたカシウス中将もこれには苦笑を浮かべて無罪放免ということでハイデルを連行していった。

 ルーレ市にはリベール王国大使館職員であるアンゼリカ・ログナーもおり、どうやらログナー候と話し合いをするために戻ってきていたと話す。なので、話し合いをすることになった……機甲兵の殴り合いで。兵士たちの娯楽にも一役買ったようで、双方ともにスッキリした表情だった。似た者親子とはこういうことなのだろう。

 

 ノルティア州全域がリベールの暫定統治となったことでログナー侯爵は貴族連合によるクーデターと内戦の責任を取って隠居。ルーレ市内に少し豪華な屋敷を建て、そこに移り住む。エレボニア帝国貴族とするのか、リベールの民として再出発するのかは少し考えたいと発言したため、その意見を尊重した。代わりにアンゼリカ・ログナーがログナー侯爵家当主代行としてノルティア領邦軍の取りまとめや説得を行った。

 

「しかし、たった一撃で勝負を決する強さ……ふふ、これは女として惹かれざるを得ませんね」

「派手に戦ったらハイデルに被害が出るかもしれなかったからな。それだと面倒なことになると思っただけだよ」

「それをあっさり言いつつ今は両手に花とは、羨ましいご身分なことで」

「ん? またお仕置きする?」

「アスベル、その笑顔は怖いからやめてくれ」

「それには同感だと思うかな」

「クハハッ……(強すぎだから、マジで手におえねえ……)」

 

 ミュゼの言葉をあしらいつつカグヤが用意してくれた紅茶を飲むアスベル。左隣にはミュゼ、右隣にいるセリカの状況をからかうアッシュに対して笑顔で言い放つアスベルの言葉にルドガーとセリカが苦笑を浮かべて窘めた。流石のアッシュも引き攣った笑みで目線を逸らすほどだった。

 

「それにしても、今はエレボニアが内戦なのに寛いでいていいのかという罪悪感もありますけど」

「ある意味カイエン公の自爆芸みたいなものだが……ま、当初の目的はほぼ達せられたから、後は様子見だろうな」

「ああ。連中もどうやら“裏”まで引き込んで起死回生の一手なんだろうが……」

 

 ユミルとリベールの定期連絡はアスベル達にも伝えられている。その中でリィン達が現在“Ⅶ組”の一人であるユーシス・アルバレアに会うため、バリアハート方面に向かったという情報があった。クロイツェン州とレグラム自治州のリベール側国境沿いに軍関連施設があり、そこから得られた情報である。それに合わせてパンタグリュエルがクロイツェン州上空にいるという情報も得ている。ここから導き出される答えは、リィン・シュバルツァーを貴族連合に引き込む。そのためにソフィア・シュバルツァーを人質に取った。

 

「ここまでの段取りは想定通り。さて、もう一手打つために仕事をしないとな。彼らには悪いと思うが……ま、どちらにせよ10日まで事態は動かないだろうし」

「何でそう言い切れるんだ?」

「別口の交渉があってな。そっちが纏まるのは早くても12月10日というわけだ」

「ふふ、できればそちらの情報も教えていただきたいものですが。何でしたら、私の体でお支払というのも」

「丁重にお断りいたします」

(正体隠す気あるのか、コイツは……)

(あはは……まあ、私達は知ってるからね……)

(その打算を抜きにしても、アスベルは苦労人だよね……)

 

 

―――少し遡って七耀暦1204年12月8日。クロスベル帝国でも一つの大きな流れがあった。

 

 リューヴェンシス・スヴェンドが初代皇帝として正式な即位を宣言。名前も猟兵時代に名乗っていた『マリク』、自らを猟兵の道に誘ったガラド・リナスフィアーグ、そしてクロスベルという宿業の地を治めるという意志をもって、マリクルシス・フィラ・クロスディールと名乗った。

 そして、第一皇妃となるセルリア・フィラ・クロスディール、第二皇妃としてクルル・スヴェンドもといクルーディル・フィラ・クロスディールが紹介された。第一皇妃は平民出身であるが自ら見初めた相手だと公言した。第二皇妃クルーディルについては、かつてカルバード共和国成立前に存在していた東の王国の名が挙げられ、その王族の末裔であることも発表された。

 本来の血統主義ならば逆になるはずだが、第一皇妃を平民としたのは“実力主義”を体現する意味合いがあると公言。妻たちもこの序列には納得していることも併せて発表された。

 更に、元クロスベル自治州議会議長を務め、現在はクロスベルに設置予定の政治学院の最高顧問に内定しているヘンリー・マクダエルが祝辞を述べた。

 

『この70年余り、私の人生はクロスベル自治州と共にありました。その中で多くの者たちがエレボニアとカルバードの争いによって涙を流し、大国の軋轢に苦しみ、その果てとして先の独立国宣言があり、それは無事収束されました。この先も多くの困難が待ち受けていることでしょう。しかし、私は今大変嬉しく思っております。理念に賛同してそれを引き継いでくれた皇帝陛下に、私は敬意を表するとともに……これからのクロスベルに暗闘なき安寧をお願いしたい。それが、今の私からお願いできるただ一つのことであります』

 

 彼がこの場で祝辞を述べる意味……それは、クロスベル自治州時代の“議長派”を含めた各勢力を一丸とし、一つの国の構成員として皇帝に忠義を誓う意味合いがある。今現在エレボニア帝国での内戦が継続中という情報も市民の間にまで流れており、その不安を払拭して強き皇族を示すという意味合いがある。その後継者候補なのだが、実は既に存在しているがまだ伏せている。というか、その人物には第一皇妃の生存を伝えていないのもあるのだが。

 

 その会見が終わったあと、マリク達はオルキスタワーの35Fに移動していた。以前西ゼムリア通商会議が行われていた場所は更に改装され、最新設備が備わったハイテク感と帝国らしい荘厳さを垣間見せる会議室へと変貌を遂げていた。

 それはさておき、その場には既に4人の人物がいた。エレボニア帝国第一皇子オリヴァルト・ライゼ・アルノール、第二皇女アルフィン・ライゼ・アルノール、そしてその護衛であるミュラー・ヴァンダール少佐、更にはA級正遊撃士にしてリベール王国宰相、更には王太子であるシュトレオン・フォン・アウスレーゼ。

 

 彼らが一堂に会したその非公式会談は2時間にも及んだ。そして、その終了直後にエレボニア帝国とリベール王国の講和へ向けた条約締結交渉を発表。エレボニア帝国は皇帝名代の実績があるオリヴァルト皇子と外交経験のあるアルフィン皇女がいるため現帝国政府に通知は行わず、リベール王国へはクロスベル帝国大使館となった旧カルバード共和国大使館よりグランセル城に通知された。

 交戦状態にあるリベール王国とエレボニア帝国、その仲裁役となるレミフェリア公国とクロスベル帝国、更にはアルテリア法国と遊撃士協会がその会議を保証する形で、クロスベル帝国クロスベル市にあるオルキスタワーでその交渉を行うこととなった。

 

 

高速で移動するアイゼングラーフからリィンのほうを向くのだから、これぐらいはできるんじゃね? だって、あの人怪物だから(謎理論)。でなきゃ、あんな台詞なんて倒れる間際に言わないですし。というか、直前にそのことを聞いていて自ら狙撃に行くとか……ああ、だから総受けとか言われてしまうのか(酷い風評被害)

 

マリクの名前がコロコロ変わるとこんがらがるので、こんな措置を取りました。本音はリューノレンスと被る(自業自得ですが)

 

ハイデルのあのシーンはさらに過激になりました。母は強し。いい例えがなかったので丸太でもいいかなと。


 
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