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魔弾の王と戦姫~獅子と黒竜の輪廻曲~【第15話:勇気ある誓いと共に~流星達の決意】

gomachanさん

竜具を介して心に問う。
この小説は「魔弾の王と戦姫」「聖剣の刀鍛冶」「勇者王ガオガイガー」の二次小説です。
注意:3作品が分からない方には、分からないところがあるかもしれません。ご了承ください。

2017-02-12 20:22:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:879   閲覧ユーザー数:878

『数年前・ジスタート・レグニーツァ・リプナ港口』

 

「黒船?」

 

耳慣れぬ響きに、アレクサンドラ=アルシャーヴィンはその単語をつぶやいた。

これは、まだ彼女が『血の病』で床に伏せる前のやりとりである。

 

「……黒船」

 

「はい、戦姫様。世界を作り替える……常識を転覆させる存在……という意味が込められています」

 

「最初にその姿を目撃したのは戦姫様の何世代か前です。幾度となくレグニーツァに、その姿をちらつかせていました」

 

彼女の公務室に集まった臣下一同は、みな熱を帯びた危機感を以てうなずいた。

 

「あの時……海賊との戦いは一段落を迎えた直後でした。文字通り『黒という闇を丹念に塗りつぶした船』が我が国へ来航し、『我々は文明の孤児』という事実を、あの船はレグニーツァに、いや、この大陸に突きつけたのです」

 

戦姫になったばかりの彼女は、海上の治安に政力を注いでいた。理由は定期的にリプナとプシェプスの起点施設(ターミナル)に寄り、向こうの世界からもたらされる情報を収集する為だった。『利益』の形式はどうであれ、諸国実情を知ることは非常に重要なのだから。

建前はともかく、本心は何より『探求心』に近い動機があったからだ。サーシャは青い水平線から運ばれる『概念』を見るのが好きだった。長年仕えている文官や武官から、特に航海の多経験を持つマトヴェイからの『この手の話』を聞くのが楽しくて仕方がない。その時に彼女の瞳が一段と輝くあたり、それこそ彼女の本心であることがうかがえる。向こう側の話を聞くときの心境は、まるで宝箱を開ける前の瞬間に似ていた。

 

――しかし、『この手の話』も、決していい話だけではない。悪い話もあり得るのだった。――

 

定期外の報告により、マトウェイが突如として公宮へ訪れた。そして悪い話をしているという、今に至る。それが黒船に関わる話題だった。

 

「帆を必要としない……湯気で動く……鉄板を敷き詰めた船……」

 

そんなものが本当に実在するのか?アレクサンドラ――サーシャは冷静を装いながらも、眉を潜める。

帆を必要とせず、蒸気と呼ばれる『動力』で動き、風に左右されず自由自在に進船可能なものは、船乗りにとって理想のゆりかごといっても過言ではない。おそらく、ジスタートやザクスタン、いや、大陸中を捜してもないだろう。まさに『新世界』からの贈り物だ。

今の我々では到底達しえない技術力。木造船にどれだけ改造を加えても、後天的に付加した文明力程度では、決して黒船の潜在力(ポテンシャル)に及ばない。生まれた大陸が違うだけで、既に決定づけられた『力の壁』なのだろう。

 

「もし、風無しで自在に動く船が『本当に』あるとしたら、是非とも手にいれたいものですな」

 

「マドウェイらしいね」

 

サーシャはくすりと微笑んだ。彼の気性を知るサーシャがつい、ぽそりと出た言葉だった。

それは、生粋の船乗りとして出たマドウェイの本音であった。もっとも、『黒船』についてぎこちなくなった空気を払拭する意味もあったかもしれないが。

ともかく、サーシャにとっての黒船の認識は――良くも悪くも宝船――程度のものとなっていた。

 

――『焔』の記憶は、ここで途絶える――

 

 

 

 

 

『現在・ジスタート領内・銀の流星軍駐屯地』

 

 

 

 

 

獅子王凱がアリファールの導きに従って、バーバ・ヤガーの神殿を目指している最中、銀の流星軍は一同に集まっていた。

具体的には、駐屯広場にジスタート側の兵士が集められ、整列されられていた。壇上で皆の前に立ったリムアリーシャ――リムが、厳しい表情で口を開く。普段の冷静な彼女を知る皆は、どこか尋常ならざる雰囲気さえ感じ取っている。

 

「既に知っているかもしれませんが……現在、エレオノーラ=ヴィルターリア様、リュドミラ=ルリエ様、ティグルヴルムド=ヴォルン伯爵が|銀の逆星軍《シルヴリーティオ》の捕虜となっています」

 

何を聞かされるかと、兵士達は皆けげんな顔つきになる。やはりとおもい、眉を潜める者。バカなとおもい、衝撃を受ける者様々な反応を示している。

リムは兵士達が静まるのを待って続ける。

 

「――『銃』という兵器を前に、我々を逃がす為のしんがりをつとめ、『本来倒れるべきだった我等』の代わりに…………それがいま、|銀の流星軍《シルヴミーティオ》の現状です……」

 

本来倒れるべきだった我等。その言葉の意味と重さが、聞く者の耳にリムの心情を訴えた。

リムは怒りをこらえるような険しい表情をしている。彼女の隣に立つルーリックとて、リムと同じ感情を抱いていた。今だ経験したことのない『戦争』の危機がひたひたと迫ってきているのだ。

 

「ですが……戦姫が敵の手中にいるという現状と、銃という驚異の兵器に対し、我々は何の対抗処置をもち得ていません」

 

リムはここで深呼吸をして、兵達を見渡すように睥睨(へいげい)する。

 

(私たちは、今一度戦う理由を問うべきでしょう)

 

兵達はしんと静まり、これまでライトメリッツの副官とすがってきた若い女性の姿を見つめる。

 

「敗北した我々『ライトメリッツ』は、今置かれた状況は定かではない状況にあり、その状況に置かれた事態に際し、打開策をもち得ない我々は、あなた方に対して、戦わせる権限をもち得ていません……」

 

みな、その言葉に先ほど以上の動揺を浮かばせる。命令に従う、ということの意味。兵達の死を預かる上官の責務、そして、上官を信頼して生命を預ける、という意味。彼らはその関係に長く慣れすぎた。

ブリューヌ介入初期の頃、表向きの理由として『ライトメリッツとアルサスに交易路を結び、ライトメリッツの経済発展に貢献する』旨を、エレンが伝えている。しかし、リムが言いたいことはそこではない。そこを踏まえて、リムは言葉を再開する。

 

「……今一度、戦う理由を自分自身で問いて頂きたいのです。今のあなた方に命令するものはなく、あなた方自身が、何のために……何をすべきか、私も含めて、それらを自分で判断せねばならないのです」

 

リムはきっぱりとした口調で言った。

随分と手前勝手な言い分だと、自分でも思う。部下の未来を、生を、死を、それらを預かって命令する立場の指揮官からすれば、明らかな『逃げ』だと――

 

「……よって、これを機に『銀の流星軍』を離脱しようと思う者は、今より速やかにライトメリッツへ帰還してください」

 

リムにまったく自分たちを引き留める意志がないと知り、兵達は再びざわめく。戦姫不在での帰還による混乱は避けられない。

戦姫を助ける為に、このまま銀の流星軍に残るのもよし。持てる武器と意志を捨てて、ライトメリッツに戻るのもよし。戦うべき兵士にこのような選択を強いる自分は、エレンから見たらどのように映るだろうか?

命令でなく理由。はじめて味わう戦う意思の正念場。本当の意味で問われる、手に取る剣と槍、身にまとう甲冑の意味を。兵達の戸惑いは大きい。

ルーリックは不安げな顔で、彼等を見守っている。時折ルーリックが気まずそうにリムの横顔を見やる。彼女もその不安を隠しきれていないようだ。

彼等は自分で考えなければならない。蜂巣砲(ガトリングガン)という大量殺戮の兵器に対し、考えず、命令に従うだけならば、肉壁にすらならない無意味な死を遂げてしまう。一度はその恐怖を持ってしまった彼等だから、結論までの道のりは近いはずだ。

死にに行くようなものだ……騎士団は動かねぇのか?戦機様でさえどうにもできなかったのに、俺達じゃどうしようもない……そんな声が細々と聞こえる。ここまでは想定通り。重要なのはここからだ。

最後にリムはしみじみと兵達の顔を見回したその時だ。遠くから一人のブリューヌ兵が寄ってきて、ジスタート兵の後ろから声を上げた。

 

「――俺は副官様に従う」

 

その声に、全員が目を見開いた。この集まりに関係のないブリューヌが一体何の用だ?

 

「あんたたちの戦姫様が、今まで俺達を導いて助けてくれたのは事実だ」

 

ザイアン率いるテナルディエ軍によるアルサス焦土作戦。

ロラン率いるナヴァール騎士団による叛逆者ティグル討伐戦。

クレイシュ率いるムオジネル軍によるブリューヌ南部攻略戦。

想像を絶する激戦を潜り抜けることが出来たのは、隣人たるジスタートのおかげだと彼は訴える。

エレンが兵を貸してくれなかったら、アルサスは文字通り焦土と化しているに違いなかっただろう。

デュランダルで倒れたティグルの代わりに、エレンが兵を率いてくれなかったら、銀の流星軍は瓦解、混成軍たる一部のブリューヌ兵は、ティグルが討ち倒されてしまったら、戦う大義を見失っていただろう。

ジスタートがいなければ、アニエス攻略戦の緒戦でカシム率いるムオジネル先遣隊に蹂躙されていただろう。後に援軍として駆けつけたミラがいなければ、クレイシュ率いる本体に太刀打ちできなかっただろう。

全てギリギリの戦いだった。だからこそ、受ける恩恵は多大にして、ジスタートに対する感謝は深いのだ。そして言葉を続ける。

 

「俺達はまだ一度もお前達に恩を返してねぇ!だから返してえんだ!この命に代えても!戦姫様に願いを叶えてもらった『銀の流星』に!今こそ!」

 

以前、エレンが銀の流星軍についての由来を、リムは己の主に問いただしたことがあった。それは、ヴィッサリオンが国を持つものとしての理念である『人という流星が集いし、この丘の向こうが本当の国』というものだ。

銀の流星軍。その名の意味が、このような場で開花されるとは、誰一人思っていなかった。まだ心にともした流星の輝きは燃え尽きていないと、一人のブリューヌ兵は告げる。

あまりある言葉の熱さと、今まで募らせてきた想いの暖かさが、リムの涙腺を緩ませる。若干、涙ぐみかけているように見えたのは、気のせいではない。

 

「……俺達の戦姫様は、俺達が助ける!」

 

今度は、一人のジスタート兵が主張した。すると、あたりから「そうだ……」とか、「ああ……」、「よし!やるぞ!」さらには「俺達の戦機様が、自分たちで守らねぇでどうする!?」など様々だ。銃の恐怖を拭うかのように、あたりが沸騰する。

ブリューヌが戦うと言っているのだ。自国の平安を取り戻すより先に、あなた方の戦姫様を助ける事を先にして。

 

――予想以上の反応だ。

 

少し前に告げた、凱の言葉の意味がようやく分かった。今、流星達の集いしこの丘こそが、本当の希望の始まりだと。

ブリューヌとジスタート。その垣根を超えて、一つの枠組みとしての軍が生まれようとしている。

ルーリックは思い出す。バヤールとジルニトラの通り過ぎた雲を巡る喧嘩。今、新たな『流星』が誕生する瞬間を目にすれば、過去の喧嘩など些細な思い出と……思えてしまうから不思議だ。

銀の逆星軍。正式名称は国民国家革命軍(ネイションスティート)。テナルディエによる『力』での統合ではない。『想い』によって形作られる新たな銀の流星軍は『共同体』となった。

 

「……ありがとうございます」

 

嗚咽をこらえるような声色で、リムは一礼した。有効な策を見いだせるか分からない自分についてきてくれる兵達に感謝の意を示して。

そこから解散となり、兵達は相談を始め、あるいは一人で考え込みながら、集会所を離れた。

 

 

 

 

 

『レグニーツァ付近・夜・山奥・樹海』

 

 

 

 

 

獅子王凱は山の中へ来ていた。レグニーツァ領内に入って宿に泊まるという選択肢もあったが、いかんせん今回の行動は秘密裏が必須。そして、色々迷惑をかけてしまいそうなので、宿留まりはしない方針を取っていた。

 

「さてと……久しぶりの野宿だな」

 

凱はその辺の枝をへし折り、たき火にして腰を下ろす。ほっと大きく溜息をついて、大木に腰を掛ける。

そしてつい覗き込んでしまう。アリファールの紅玉に、たき火とお揃いで映る自分の姿を――

 

――汝は勇者なり。それを受け入れるならば、我を手に取れと――

 

今、自分は何をしているのだろう?という想いに、時々駆られる時がある。アルサスでのドナルベイン襲撃から、ザイアン率いるテナルディエ軍撃退に至り、ニースで異端審問を受けては、ジスタートのオステローでに導かれ、アリファールに助けを求められて――

 

(バーバ・ヤガーの神殿……そこに俺を導いて……アリファールは俺に何をさせようとするんだろう?)

 

現在、凱はアリファールの風の導きに従って、ルヴーシュ領内のバーバ・ヤガーの神殿を目指している。

本来なら、竜の翼たる風影(ヴェルニー)を使用すれば、上空から瞬間移動呪文の如くたどり着ける。だが、凱はその案を却下した。

先ほども申し上げているが、今回の行動は極秘だ。ディナント平原へ銀の流星軍救援に駆けつけた緊急時はともかく、むやみに竜技を使用すれば、他の戦姫にも、銀の逆星軍の間者にも知られかねない。もし、戦姫に知られる要因があるとすれば、竜具使用時の共鳴反応が考えられる。戦姫は全員、必ず銀の流星軍の味方とも限らないのだ。それは、以前リムが教えてくれた「ジスタートの国益を第一にせよ」との方針に戦姫が従っている。最悪の想定は、テナルディエ、ガヌロンの両公爵に繋がりを持つ戦姫がいることも。だから、注目を浴びるような支障はなるべく避けたい。

釣りたてた魚の焼き具合を見て、頬張ろうとしたときだった。

 

――ガサッ

 

「?」

 

草むらから物音が聞こえて、青年はアリファールの鍔に親指をかける。不測の事態に備えて抜刀術で返す為に。

警戒を維持しつつ、音のした方向を見やると、人の声が聞こえた。

 

「女の声と複数の男の声が聞こえる……野盗の連中かそのあたりの類か……人との接触をなるべく避けたかったが、このままやり過ごすわけにもいかないな」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

そこには、一人の女性がいた。

夜の風がかすかに吹き、今この場に居合わせている者達の頬を撫でる。

女性は元傭兵だった。小さな村に雇われて、近隣諸侯の野盗を追い払う仕事を引き受けていた。害虫駆除と言えば聞こえが悪いが、今の仕事は当てがない。お金がなくなって、ある目的をもった旅が継続できなくなっていたからだ。

 

「あんた達……他に仲間は?」

 

男たちと距離を取りながら、女性は簡潔に訪ねる。

 

「知ってどうする?」

 

男たち――今回の標的となる野盗はぺっと唾を吐き捨てる。

 

「ここ最近収穫がなくて気がたってんだ!『乱刃』!てめぇのせいでな!」

 

そんな夜盗の火を煽るような怒りを、乱刃――フィグネリアは鼻で笑った。今更何を言ってるんだ?と障害物が目の前に現れたのなら、それを燃やし尽くせばいいだけの事じゃないか。

 

「……ったく。本当ならここでこんなことしている場合じゃないのに」

 

そうぼやきつつも、フィグネリアにも殺る気がみなぎってきた。言いたい事。成したい事があるならば、言葉でなく力で語れと、瞳に宿した意思で野盗たちに訴える。自分も早く掃討(しごと)を終わらせて、早々にここを発ちたいのに。

野郎ども!たたんじまえ!そう野盗の頭角が号令を飛ばそうとしたとき――

 

「女性一人に複数人掛かりとは、随分と卑怯じゃないか!」

 

一人の長身の青年が、フィグネリアを庇うような形で躍り出た。

『|流星の勇者《ミーティリア》』・『|銀閃の勇者《シルヴレイヴ》』等の異名で呼ばれる、獅子王凱その人だった。

 

NEXT

 

 

あとがき

 

 

るろうに剣心の北海道編掲載決定を聞いて、テンションあげてる自分がいます←(馬鹿)

おかげで体調をこじらせたりいろいろやらかして、更新が遅れてしまいました←(大馬鹿)

さておいて――

今回も読んで下さり、ありがとうございます。

魔弾の原作もあと残すところ1巻なのですが、もう少しで終わりと思うと、寂しささえも感じています。それに伴い、ゼロの使い魔も最終巻が今月で発売されます。聖剣の刀鍛冶のコミックも今月で最終巻です。今年の2月はそういった寂しさでいっぱいになりそうです。

アマゾンのレビューで聖剣の刀鍛冶みたいに+1巻は後日談にしてくれると、魔弾ももっと読みたくなると思うのは、おそらく自分だけでしょうか?ともかく、川口先生には最後まで駆け抜けてほしいものです

では次話で会いましょう。

第16話『乱刃の華姫~届かぬ流星への想い』です


 
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