No.885478

本編

根曲さん

・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。

2016-12-27 03:16:37 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:366   閲覧ユーザー数:366

悪魔騎兵伝(仮)

第13話 第1章完結 救済

C1 閉鎖

C2 同乗

C3 忘れ去られたもの

C4 墓

C5 キャンプ

C6 聖女

C7 捕縛

C8 小さな嘘

C9 同類

C10 救済

次回予告

あとがき

C1 閉鎖

 

シュヴィナ王国。ラエティア火山ラルルの街。俯いて歩くファウス。

 

オーハイの声『お姉さま…まさか全額かけてなんかいませんわよね。』

 

ファウスは路地の方を向く。旅人で女ミノタウロスのオキュパイを囲む妹のオーハイ、付き人のモーミン。

 

モーミン『はははは。オキュパイ様がそんなこと…。』

 

俯くオキュパイ。

 

オキュパイ『…えっと、その。』

モーミン『…まさか、かけちゃったんですか。』

 

頷くオキュパイ。

 

オーハイ『どーするのよ!お姉ちゃん!!』

 

ファウスは俯き、足を速める。ファウスの方を向き、ため息をついたり、舌打ちをする人々。更に足を速め、ラルルの街から去って行くファウス。

 

 

朝。ラエティエ火山を一望できる丘の上。眼を開くファウス。彼は上体を起こす。

 

ファウス『…今日。』

 

ファウスは暫し、ラルルの街を眺め、俯く。

 

ファウス『…なんで明日なんて来るんだろう。』

 

ファウスは掌を見つめる。風が木々を揺らし、音を立てる。ラルルの街を見続けるファウス。日が真南に来る。ファウスは瞬きし、ため息をつく。彼の眼に映るラエティア火山のできた穴。ファウスは立ち上がり、ゆっくりとその穴へと進んでいく。

 

 

ラエティエ火山。木々をかき分け、魔導人型機構に開けられた穴付近を歩むファウス。大音。

木々の間から魔導人型機構に開けられた穴の方を向くファウス。

 

マジック・シード調査団員Aの声『オーライ!オーライ!』

 

砂煙が上がりマジック・シード所属の人型機構と大型トラックが並ぶ。野営地を作る南部バンガロール産官複合体千年大陸連邦従属王国のマジック・シード財団の団員達。腰に手を当て、魔導人型機構に開けられた穴を見つめるマジック・シード財団の調査団班長。その傍らに立つマジック・シード財団の調査団隊員達にマジック・シード財団の秘書官達。

 

マジック・シード財団の調査団班長『…ラエティエか。』

マジック・シード財団の女性秘書官A『重要度の低い伝承の案件でしたが…。』

マジック・シード財団の調査団班長『出てきたのは発掘頻度の低い人型…。そこに我々が投入される…ということは。』

 

マジック・シード財団の女性秘書官Aの方を向くマジック・シード財団の調査団班長。

 

マジック・シード財団の調査団班長『余程これまでの人型機構とは異なった遺物が出てきたということだな。』

 

頷くマジック・シード財団の女性秘書官A。ファウスの後ろに立つマジック・シード財団の団員のアールマーフラー。

 

アールマーフラー『おい。』

 

体を一瞬震わせるファウス。アールマーフラーはファウスの傍らに寄る。

 

アールマーフラー『こんなところでどうした?』

 

アールマーフラーの方を向くファウス。

 

ファウス『あ、いえ、その用事で…。』

アールマーフラー『そうかい。あいにくだけど、ここはシュヴィナ国王の依頼で俺ら南部バンガロール王国のマジック・シード財団が調査することになったんだ。街の方にも知らせが行くと思うけど当分は閉鎖だよ。危ないから、ここには近寄らないこと。』

 

頷くファウス。

 

ファウス『あ、はい…。ありがとうございます。』

 

アールマーフラーに一礼して去って行くファウス。

 

 

ラエティエ火山を一望できる丘の上に座るファウス。彼は顔を上げ、立ち上がる。

 

ファウス『…最後に…。』

 

その場を去るファウス。

 

C1 閉鎖 END

C2 同乗

 

シュヴィナ王国。ラエティエ火山を一望できる丘の上。ファウスは体操座りをし、俯く。夕日が周りを染める。顔を上げるファウス。

 

ファウス『…お母様に。』

 

ファウスは立ち上がり、丘の上から去って行く。

 

 

ラエティエ火山。魔導人型機構に開けられた穴の付近につくられたマジック・シード財団の野営地に近づくファウス。ファウスの方を向くマジック・シード財団の団員C。

 

マジック・シード財団の団員C『おい!止まれ。』

 

止まるファウス。マジック・シード財団の団員Cはマジック・シード財団の団員Dに目くばせする。頷き、ファウスの方へ駆け寄るマジック・シード財団の団員D。

 

マジック・シード財団の団員D『ここは、部外者は立ち入り禁止だ。』

 

頷くファウス。

 

ファウス『は、はい。』

 

眉を顰めるマジック・シード財団の団員D。

 

ファウス『そ、その…フッシ王国の…ポーの街まで行きたくて…。』

 

ファウスはマジック・シード財団の団員Dの顔を見つめる。

 

ファウス『道が分からなくて…。』

 

マジック・シード財団の団員Cの隣に来るアールマーフラー。彼はファウスを見て、歩み寄る。

 

アールマーフラー『ああ、この子は…。』

 

アールマーフラーの方を向くマジック・シード財団の団員D。

 

マジック・シード財団の団員D『知ってるのか?』

アールマーフラー『いや、知ってるというか…。』

 

ファウスの顔を見るアールマーフラー。

 

アールマーフラー『駄目じゃないか。さっき注意したばっかりだぞ。』

 

頭を下げるファウス。

 

ファウス『申し訳ありません。』

マジック・シード財団の団員D『なんでもフッシ王国へ行きたいんだと。』

 

マジック・シード財団の団員Dの方を向くアールマーフラー。

 

アールマーフラー『フッシ…。フッシていや随分遠いな。フィオラからパノラマ…今は無いっけ。まあ、通って…か。』

 

アールマーフラーはファウスの方を向く。

 

アールマーフラー『どうしてまた…。』

ファウス『お母様に…会いに。』

 

2、3回頷くアールマーフラー。

 

アールマーフラー『…そうかそうか。なんなら送って行こうか?』

 

アールマーフラーの方を向くマジック・シード財団の団員D。

 

アールマーフラー『心配するなって、団長からの命令で例の手帳の調査さ。』

 

頷くマジック・シード財団の団員D。

 

マジック・シード財団の団員D『ああ、例の…どうせガセネタだろ。アールアルなんて神話の世界の話だぞ。』

アールマーフラー『まあな。だが、ガセでも面白そうじゃないか。消息を断った理由にイタズラした奴はどんな作り話を盛って来るか。』

マジック・シード財団の団員D『まあ、傑作ならそいつは文学賞受賞もんだな。勿体ないことしやがるぜ。』

 

ファウスはアールマーフラーとマジック・シード財団の団員Bの方を見つめる。

 

ファウス『…お言葉はありがたいのですが…。』

 

アールマーフラーはファウスの方を向き、彼の肩を叩く。

 

アールマーフラー『女の足じゃ無理だ。まあ、男でもな。乗ってけ、乗ってけ。』

 

マジック・シード財団仕様のヴェルクーク級人型機構の方へ向かうアールマーフラーとファウス。

 

C2 同乗 END

C3 忘れ去られたもの

 

シュヴィナ王国フィオラ山地の道を行くマジック・シード財団仕様のヴェルクーク級人型機構。コックピット内にはアールマーフラーとファウス。ファウスは復旧中のトーマ城と城下町を見つめる。

 

アールマーフラー『フィオラの地もひでえもんだな。まだ回復してないんだから…。』

 

胸に手を当てて俯くファウス。

 

アールマーフラー『あっちこっちで戦争がありやがる。国家的なものから内紛的な奴までな。特に内紛が多いか…。』

 

ため息をつくアールマーフラー。

 

アールマーフラー『…ユランシアっていえば騎士物語の地なのにな。俺は騎士物語の時代の方が今の殺伐とした時代より好きでね。名誉を重んじ、弱きを助け、悪を挫き正々堂々と戦うってな。暗連の南北戦争の効率重視の総力戦からおかしくなっちまったか…。』

 

首を横に振るアールマーフラー。

 

アールマーフラー『いや、真っ向勝負だと負けると分かっているから毒殺、暗殺、謀殺が流行った時代が壊したのか。いずれにせよ。偽王子が…。』

 

眼を見開き、震えるファウス。

 

アールマーフラー『王位簒奪未遂をしなくともいずれはこうなっていたさ。』

 

ため息をつくアールマーフラー。俯くファウス。マジック・シード財団仕様のヴェルクーク級人型機構から見えるパノラマウンテン跡地に作られた戦争難民の野営地。

 

アールマーフラー『…酷いもんだな。戦火から逃げ出しても、物資も無ければ、衛生状態も悪い。おまけに一部の連中の不祥事で国家は受け入れに慎重さ。だから行くあてもない。ただ過ぎては来る日々を過ごすだけだな…。』

 

ファウスはパノラマウンテン跡地にいる戦争難民達を見つめる。

 

 

フッシ王国ポーの街郊外に止まるマジック・シード仕様ヴェルクーク級人型機構。

 

アールマーフラー『本当にここでいいのかい?』

 

頷くファウス。

 

ファウス『はい。』

 

アールマーフラー『なんならお母さんのところまで送るけけど。』

ファウス『いえ、ここまでくれば大丈夫です。本当に…。』

 

ファウスはアールマーフラーに深々と頭を下げる。

 

ファウス『本当にありがとうございました。』

アールマーフラー『そうか。』

 

アールマーフラーは操縦席の機器のボタンを押す。開くマジック・シード仕様ヴェルクーク級人型機構のコックピットのハッチ。

 

アールマーフラー『じゃあ、元気でな。』

 

ファウスは頭を下げてマジック・シード仕様ヴェルクーク級人型機構のコックピットのハッチから出ていく。閉じるコックピットのハッチ。ファウスに背を向けるマジック・シード仕様ヴェルクーク級人型機構。ファウスはそれを見つめ深々と頭を下げる。

 

C3 忘れ去られたもの END

C4 墓

 

フッシ王国ポーの街のヘッポコ聖堂を見つめるファウス。彼は周りを見回した後、胸に手を当てて進む。

人気の無い路地を進み。ヘッポコ聖堂に辿り着くファウス。

 

 

フッシ王国ポーの街ヘッポコ聖堂の墓地。談笑する墓守のバイトAと墓守のバイトB。ファウスは彼らを避け、墓地へと進んでいく。墓地を回るファウス。彼は立ち止まり、眉を顰めて周りを見回す。ファウスの方を向く墓守のバイトAと墓守のバイトB。ファウスは周りを見回しながら歩き出す。顔を見合わせる墓守のバイトAと墓守のバイトB。彼らはファウスの方へ歩み寄る。

 

墓守のバイトA『どうしたお嬢ちゃん?』

 

一瞬体を震わせた後、墓守のバイトAと墓守のバイトBの方を向くファウス。

 

ファウス『…その、共同墓地を探しているんです。』

 

墓守のバイトBの方を向く墓守のバイトA。

 

墓守のバイトA『共同墓地を探してるんだと。』

墓守のバイトB『共同墓地…ああ、知らないのかい。共同墓地なら取り壊されたのさ。』

 

眼を見開くファウス。

 

墓守のバイトA『このご時世だ。墓よりも死体の方が多くて、取り壊されたのさ。』

墓守のバイトB『穴掘って埋める方が早いからよ。』

 

墓守のバイトBはヘッポコ聖堂の墓地の奥にある盛り上がった場所の方を向く。

 

墓守のバイトB『ほら、あのこんもりしたところがあるだろ。あそこに共同墓地に眠っていた奴らも一緒に引っ越しさ。』

 

ヘッポコ聖堂の墓地の奥にある盛り上がった場所を見つめるファウス。

 

墓守のバイトA『しかし、埋めるのは骨が折れたぜ。』

墓守のバイトB『次はあの丘の隣じゃねえかな。ま、金が入るからいいけどさ。』

 

ヘッポコ聖堂の墓地の奥にある盛り上がった場所に駆けていくファウス。墓守のバイトAと墓守のバイトBはファウスの方を向く。ファウスはヘッポコ聖堂の墓地の奥にある盛り上がった場所にしゃがみ、手で土を掘る。

 

ファウス『お母様!お母様!お母様!!』

墓守のバイトA『お、こら!何やってる!』

 

ファウスに向かって駆ける墓守のバイトAと墓守のバイトB。呪文を唱えるファウス。墓守のバイトBがファウスの頭を叩く。

 

ファウス『痛…。』

墓守のバイトB『こら!こんなところで呪文なんか唱えるな!』

墓守のバイトA『後始末、誰がすると思ってんだ。下手すりゃこのバイト、クビになるかもしれないのによ』

 

ファウスは墓守Aと墓守Bの方を向き、頭を下げる。

 

ファウス『ごめんなさい。』

墓守のバイトA『まあ、ちったぁ俺達の事も考えてくれ。』

 

一歩前に出る墓守のバイトB。

 

墓守のバイトB『…お母さん。探してるのか。』

 

頷くファウス。

 

墓守のバイトB『残念だな。この下に居るのは白骨死体ばかりで、どれが誰だか分からないさ。』

 

俯くファウス。聖堂の方を向く墓守のバイトA。

 

墓守のバイトA『また来てるな。』

 

聖堂に向かうパノラマウンテンに住む難民の集団の方を向くファウスと墓守のバイトB。

 

墓守のバイトB『ああ、また来てる。』

墓守のバイトA『パノラマウンテン付近に住みついてからここ連日だぜ。』

墓守のバイトB『つらいのは分かるが少し自重して欲しいな。教会の一部も税金で賄われてるんだぜ。』

墓守のバイトA『全くだ。』

 

墓守のバイトAは墓守のバイトBの方を向く。

 

墓守のバイトA『そういや偽王子は何処に行ったんだ。』

 

下を向き、地面を見つめるファウス。

 

墓守のバイトB『ラエティエに居たって噂は聞いたが。』

墓守のバイトA『もとと言えばあいつのせいなんだ。何で俺達の払った金で、難民を賄わなきゃなんねえんだよ。』

 

頷く墓守のバイトB。

 

風がファウスの銀髪を揺らす。俯くファウス。

 

C4 墓 END

C5 キャンプ

 

シュヴィナ王国フィオラ山地、パノラマウンテン跡地に作られた難民キャンプを木々の間から見つめるファウス。テントの他に少しのコンテナの仮設住宅の一画にパイプ椅子に座った難民Aの前に立つ難民Cとカスタナッチョを手に持つ難民B。難民Cの方を向く難民B。

 

難民B『…あんた受け入れ申請でロメン出身っていっていたな。』

 

眉を顰める難民C。

 

難民B『俺もそこの出身なんだ。』

 

一瞬、眼を見開く難民C。彼に近寄る難民B。難民Cは難民Bから目をそらし、下を向く。

 

難民B『いや、懐かしいよ。こんなところで同胞にあえるとは。俺はリクアルトニナンの出だ。』

 

難民Aの方を向く難民B。

 

難民B『それで、彼がジュナッゼの菓子職人。』

 

難民Bは難民Aの方を向く。

 

難民B『あんたはどこの出だい?』

難民C『はは…ああ……故郷は…。』

 

難民Cを見つめ頷く難民B。

 

難民B『あの戦の後だ。思い出したくもないか。仕方がない事だ。俺も、爺ちゃんと婆ちゃんを置いて来ちまって…逃げるので精いっぱいだった。』

 

俯き、2、3回頷く難民B。難民Cの肩を叩く難民B。

 

難民B『でも、大丈夫だ。エグゼナーレ様の方針で戦争地域から逃げてきた俺達の一時の宿は確保してくれる。それに、タルキィサス様の軍勢が僭称皇帝の軍を所々で破っているそうだ。いつの日かくにに帰れる日が来るさ…。いつの日かきっと…。』

 

ため息をつき、カスタナッチョを見つめる難民B。

 

難民B『しかし、よく栗粉が手に入ったな。』

難民A『神聖マロン帝国からの支給品だよ。』

難民C『こりゃあ、栗粉を使ってるのかい…。その支給品を持っていけば金に換えてくれる奴なら知ってるぜ。このご時世、やっぱり金がないと…。』

 

傍らの木に手を掛け、俯くファウス。彼の後ろに来る難民キャンプの猫獣人の子供のトヌとトン。

 

トヌ『あれれ~。見ない顔だ。』

 

眼を見開き、振り返るファウス。ファウスに近づくトヌとトン。後退りするファウス。

 

トヌ『怖がらなくても大丈夫だよ。』

トン『あんたも逃げてきたんだろ。』

 

俯くファウス。

 

ファウス『…えっ、僕は。』

 

ファウスの傍らに寄るトヌとトン。ファウスの手を引く。

 

トヌ『キャンプはあっちだよ。』

 

トヌとトンを見つめるファウス。

 

トン『困ったときはお互い様だよ。』

 

瞬きするファウス。彼はトヌとトンに手を引かれ、難民キャンプの中へ入って行く。

 

 

シュヴィナ王国フィオラ山地、パノラマウンテン跡地に作られた難民キャンプ。難民キャンプのリーダーのファガルタのテントの前に立つトヌとトン。

 

トヌ『ちょうろーーーーーーっ!』

トン『長老!』

 

難民キャンプのテントから出て来る年老いたパノラマウンテン跡地に作られた難民キャンプの難民のリーダーのファガルタ。

 

ファガルタ『トヌとトンどうした?』

 

トヌとトンはファウスの方を向く。ファウスをゆっくりと見つめるファガルタ。

 

ファガルタ『…新顔か。』

トヌ『森の中でうろうろしてたから…。』

ファガルタ『そうか。』

 

頷くファガルタ。

 

ファガルタ『まあ、入りなさい。』

 

テントの中へ入って行くファガルタ。トヌとトンに手を引かれテントの中に入って行くファウス。

 

 

シュヴィナ王国フィオラ山地、パノラマウンテン跡地に作られた難民キャンプ。ファガルタのテント内部。

 

ファガルタ『たいしたもてなしはできないが…。まあ、座りなさい。…昔は戦争なんて王侯貴族や兵士達だけで戦っていた。わしが子供の頃はよく見物したもんだ。それが今は…。』

 

ため息をつくファガルタ。床に座るトヌとトン。彼らに腕を引っ張られ座るファウス。支給品の乾パンを数個皿にのせるファガルタ。

 

ファガルタ『ここには各地の戦から逃げてきた人々が流れ込んでいる。少し前まで…。』

 

笑うファガルタ。

 

ファガルタ『はっは、非合法な避難所だったが、今はエグゼナーレ様の許可を頂いて、周辺諸国の支援と受け入れまで取り付けて下さった。本当に立派な方だ。』

 

眼を開き、俯くファウス。乾パンを数個のせた皿を持って来るファガルタ。ファウスは顔を上げる。

 

ファウス『僕は…に…。』

ファガルタ『あの…悪逆非道のアレスの偽王子なんぞとは全く違う。』

 

目を丸くし、体を震わせて俯くファウス。ファウスを見つめるトヌとトン。

 

トヌ『どうしたの?』

トン『大丈夫?』

 

ファウスの銀髪が、垂れる。床に落ちる涙。ファウスの傍らに寄るファガルタ。

 

ファガルタ『さぞ、つらいことがあったんだろうな。何も言わなくていい。みんなつらい思いをしてここまでやってきたんだ。何もないところだが…。』

 

立ち上がるファガルタ。

 

ファガルタ『そうだ。暫く私の家にいなさい。』

 

体を震わし、蹲るファウス。

 

 

シュヴィナ王国フィオラ山地、パノラマウンテン跡地に作られた難民キャンプ。倒れた木に座り俯くファウス。ファウスを見つめるトヌとトン。彼らの後ろから現れるファガルタ。トヌとトンは顔を上げファガルタを見つめる。

 

トン『来てからずっとあんな感じで…。』

 

眉間に皺をよせ頷くファガルタ。

 

ファガルタ『そうか…。』

トヌ『食事を持って行っても、首を横に振るばかりで…。』

 

顔を見合わせる一同。彼らの方へ来る難民の女の子で狼獣人のカマラ。

 

カマラ『どうしたの?』

 

カマラの方を向く一同。トヌはファウスの方を向いた後、カマラの方を向く。

 

トヌ『…あの人が、ずっとあんな感じで。』

ファガルタ『無理もない。女装までして逃げてきたんだ。大変な目にあったに違いない。』

カマラ『女装…。』

 

カマラは上体を動かして、ファウスの方を向く。暫くしてファウスの方へ歩いていくカマラ。

 

トヌ『お、おい。』

 

ファウスの前に立つカマラ。ファウスはゆっくりと顔を上げ、カマラの方を向く。

 

カマラ『お兄ちゃん。』

ファウス『君は…。』

 

微笑むカマラ。

 

カマラ『カマラっていうのよ。』

ファウス『カマラ…カマラちゃん。』

 

頷くカマラ。カマラはファウスの手を取る。瞬きするファウス。

 

カマラ『ねえ、お兄ちゃん。遊ぼ。』

ファウス『えっ、あ…。』

 

カマラはファウスの手を引く。立ち上がるファウス。トヌとトンは顔を見合わせ、頷いてファウスの方へ駆けて行く。

 

トヌ『ねえ、遊ぼうよ。』

トン『遊ぼ。遊ぼ。』

ファウス『君たちは…。』

 

トヌとトンとカマラを見回すファウス。トヌとトンの方を向くカマラ。

 

カマラ『何して遊ぼっか。』

 

腕組みするトヌ。

 

トヌ『う~ん。そうだな…。』

トン『そうだ。』

 

ファウスを見上げるトン。

 

トン『お兄ちゃん、何かできることある?』

ファウス『できること…。できることは…こんなことぐらいしか。』

 

ファウスはしゃがみ、両手の掌を向い合せ、呪文を唱える。ファウスの掌が青白く光り、両手の掌の間に現れる雪の結晶。それを見つめるトヌにトンにカマラ。ファウスを見つめるファガルタ。

 

カマラ『綺麗…。』

トヌ『お兄ちゃん魔法が使えるの!』

トン『すげえ。』

 

微笑むファウス。ファウスを見つめて、顔を見合わせ笑顔になるトヌとトン。

 

トヌ『笑った。』

 

目を丸くするファウス。

 

トン『初めて笑ったね。』

 

瞬きするファウス。

 

ファウス『えっ…。』

 

周りを見回すファウス。

 

ファウス『そう…なんですか。』

 

ファウスを見つめるカマラ。

 

カマラ『変なの…。』

ファウス『なんだかとても遠くにいたようで…。』

 

ファウスの服の袖を引っ張るトン。

 

トン『そんなことよりあっちで遊ぼうよ。』

トヌ『皆連れて来るからさ!』

 

トヌとトン、カマラに手を引かれるファウス。

 

C5 キャンプ END

C6 聖女候補

 

シュヴィナ王国フィオラ山地、パノラマウンテン跡地に作られた難民キャンプ。開けた空き地に、ファウスとトヌにトンにカマラと難民の子供達。呪文を唱えるトヌ。右手と左手の間に現れる小さな火。歓声が上がる。

 

トヌ『やった!僕魔法ができたよ!魔法が!!』

 

拍手が巻き起こる。

 

ファウス『流石、トヌ君。上手だね。』

 

鼻下を人差し指でなぞるトヌ。

 

トヌ『へっへ、あたりまえだい。』

 

ファウスの方へ駆けよる子ども達。

 

難民の子供A『僕もやりたい。』

難民の女の子A『私も!』

 

子どもたちに取り囲まれるファウス。彼らから少し離れた場所に現れるファガルタ。ファウスはファガルタの方を向く。ファウスに手招きするファガルタ。子ども達を見回すファウス。

 

ファウス『今日はここまで。』

 

頬を膨らます子供たち。

 

トン『えーー。』

ファウス『ごめんね。でも…。』

 

ファウスはファガルタの方を向く。

 

難民の子供B『長老か。』

難民の子供C『長老じゃ、仕方ないね。』

 

ファウスは子ども達に頭を下げる。

 

ファウス『明日は、水術も教えてあげるね。火をおこしたら消さないと危ないから。』

 

飛び上がって喜ぶ子供達。

 

トヌ『やったー!』

ファウス『でも、むやみやたらに使ったら駄目だよ。火事になったら大変だから…。火事…。』

 

眼を見開くファウス。

 

トヌ『分かってるよ。』

 

ファウスはトヌを見つめ、微笑む。

 

ファウス『そうだね。皆、いい子達だから。』

 

子ども達に笑顔で手を振るファウス。

 

ファガルタ『いや、本当に助かるよ。魔法なんて習うには大枚をはたかなきゃならんからね…。子どもたちがそういった技術を身につければ、他の土地でもやって行けるだろうて…。』

ファウス『…僕なんかが皆さんのお役に立っているなら…。』

ファガルタ『すまんな。少し用事ができてな。この先のシーン皇国からの支援教室のヤマアラシ先生に…。』

 

ファガルタは袋をファウスに渡す。

 

ファガルタ『これを届けて欲しい。』

 

ファウスは袋を見た後、ファガルタの方を向く。

 

ファウス『シーン皇国…随分遠いところからきているんですね。』

ファガルタ『ああ。でもわしらとしては大助かりだよ。』

 

頷くファウス。

 

ファウス『分かりました。』

 

ファウスの方を向くファガルタ。

 

ファガルタ『…ところで名前ぐらいは思い出せたかね?』

 

ファガルタを見つめ、首を横に振るファウス。

 

ファウス『…いえ。何もかもあやふやで…さっきも…。』

 

俯くファガルタ。

 

ファガルタ『そうか…』

ファウス『申し訳ありません。』

ファガルタ『いやいや、謝ることはない。…思い出さない方がことなのかもしれん。』

 

ファガルタはファウスの肩を叩く。

 

ファガルタ『でもな。わしらは前に向かって生きることしかできないんだ。』

 

ファガルタを見つめるファウス。

 

 

シュヴィナ王国フィオラ山地、パノラマウンテン跡地に作られた難民キャンプ。シーン皇国からの支援教室の前に立つファウス。野外に置かれた椅子に机。黒板の前に立つシーン皇国のNPO法人の取締役のヤマアラシ。

 

ファウス『すみません。』

 

振り返り、ファウスを見つめるヤマアラシ。

 

ヤマアラシ『おや、君は…。』

ファウス『ファガルタさんがこれを…』

 

ファウスから袋を受け取るヤマアラシ。

 

ヤマアラシ『ありがとう。』

 

ファウスを見つめるヤマアラシ。

 

ヤマアラシ『ところで君は…。』

ファウス『ファガルタさんのところに厄介になっている者です。』

 

頷くヤマアラシ。

 

ヤマアラシ『ああ、じゃあ、君が…。そうか。』

 

ヤマアラシを見つめるファウス。

 

ヤマアラシ『ファガルタさんから話は聞いているよ。記憶喪失とか…。』

ファウス『…何か遠くにいたようで、何もかもあやふやで。僕はいったい…。』

ヤマアラシ『…そうか。俺にできることなら何でも言ってくれ。』

 

ヤマアラシを見つめ、頭を下げるファウス。

 

ヤマアラシ『俺はシーン皇国からここに来てな。ここの子供たちが目をキラキラさせて勉強をしているんだ。その姿を見て、この事業を成功させなくてはならないと思うんだ。各地の戦で更に多くの避難民が流れ込んで来るだろう。キャパティシを超えちまったキャンプもある。だからこそこういった取り組みが必要なんだ。もちろん戦が終わるにこしたことはない。でも、平和になって勉強をすることができなかった子供達は悲惨な目にあってしまうだろう。それを防ぐ為にも…。』

 

ヤマアラシを見つめるファウス。

 

 

シュヴィナ王国フィオラ山地、パノラマウンテン跡地に作られた難民キャンプ。ファガルタのテントの前に立つファガルタにチェレンチェ国際人権協力機構の職員Aとオンディシアン教会の職員A。

 

チェレンチェ国際人権協力機構の職員A『こちらにおいででないのですか?』

 

頷くファガルタ。

 

オンディシアン教会の職員A『…聖女候補様は常に難民の方々に強い関心を持ち。それが…お忍びでと…。』

 

彼らの前に来るファウス。

 

ファウス『何かあったのですか?』

 

ファウスの方を向くファガルタ。

 

ファガルタ『おお。丁度いいところに来てくれた。聖女候補様…。たぶん身なりのいい綺麗な女性だと思うが、見なかったか?』

 

首を横に振るファウス。

 

ファウス『いえ…。』

 

駆けこんで来る難民B。難民Bを見つめるファガルタ。

 

ファガルタ『どうした?』

難民B『おい、長老!若いのをどうにかしてくれ。集団で、娼婦か…とにかく身なりのいい女を担いでったぞ!』

 

顔を見合わせるチェレンチェ国際協力機構の職員Aとオンディシアン教会の職員A。眼を見開くファガルタ。

 

チェレンチェ国際人権協力機構の職員A『ま、まずいことになった。』

オンディシアン教会の職員A『首がとぶぅっ!』

 

難民Bの方を向くファウス。

 

ファウス『その人達は今、何処へ。』

 

難民Bは後ろを指さす。

 

難民B『あっちの郊外だ。』

 

駆けて行くファウス。

 

難民B『あ、おい!』

 

C6 聖女候補 END

C7 捕縛

 

シュヴィナ王国フィオラ山地、パノラマウンテン跡地に作られた難民キャンプから少し離れた森の中。難民の若者がグラン王国の聖女候補メサリナーを円形に取り囲む。後退りし、尻もちをつくメサリナー。ゆっくりと彼女へ近づいていく難民の若者達。難民Dがメサリナーの服を破く、逃げるメサリナー。起こる笑い声。前方の何人かの難民の若者たちがズボンのベルトに手を掛ける。難民Cの方を向く難民D。

 

難民D『難民D、おい、犯しちまっても構わねえんだよな。』

難民C『ああ、構わねえ、構わねえ。商人はトロメイアのテロリストに聖女を売り飛ばすってんだ。どうせ処刑ショーされるんだろ。敵対する異教徒だからな。今、ここでやっておかないと勿体ないぜ。』

難民D『へへ、違いねえ。にしても、女犯して売り飛ばして、入国できるための金がてにはいるってのはいい話だぜ。』

メサリナー『いや!いや!』

 

首を横に振るメサリナー。メサリナーに近づいていく難民D。難民Dの前に飛び降りるファウス。ファウスを見つめる難民達。

 

難民D『何だ!おめえは!』

 

難民Dを睨むファウス。

 

難民D『何だ、テメェも女抱きたいのか?』

 

ファウスに近づく難民C。

 

難民C『おい。ガキ!順番は守れよ!!』

 

メサリナーの方を向くファウス。震えてファウスの後ろに隠れるメサリナー。ファウスは難民の若者達の方を向き、眉を顰める。

 

ファウス『なんてひどい事を。』

 

ファウスの服の袖を掴むメサリナー。難民の若者達の方を見つめるファウス。

 

ファウス『こんなこと間違っています!』

難民D『黙れ!貴様に何が分かるってんだ!痛いめ会いたくなきゃ、さっさとその女よこせや!』

 

ファウスに体当たりする難民D。ファウスはメサリナーを抱きかかえ飛び上がる。

 

難民E『お、おい。あいつ跳んだぞ!』

難民F『何処行きやがった!』

難民G『おい、こっちだ!こっちだ!!』

 

難民の若者たちの輪の外側に降り立つファウス。

 

難民E『クソ!逃すな!』

難民C『に、逃がすんじゃねえ!聖女を持ってかなきゃ金にもパスポートにもなんねえぞ!』

 

ファウスは呪文を唱え、地面に手をつく。地面が揺れ、駆けて来る難民の若者たちが立ち止まる。

難民の若者たちを取り囲んだ黄緑色の光がまばゆく光る。地面が盛り上がり、高い壁を作って難民の若者たちを閉じ込める。

 

難民C『ちくしょう!どうなってんだ!』

難民E『ここから出せ!!』

 

ファウスは立ち上がり、壁の方を向いて俯く。立ち上がり、ファウスに頭を下げるメサリナー。

 

メサリナー『ありがとうございます。』

 

メサリナーの方を向くファウス。

 

ファウス『いえ、それよりも大丈夫ですか?お怪我は…。』

 

泣いてファウスに抱き付くメサリナー。

 

ファウス『大丈夫ですよ。すぐ安全な所へ向かいますから。』

 

 

シュヴィナ王国フィオラ山地、パノラマウンテン跡地に作られた難民キャンプ。シュヴィナ王国兵士達と俯く難民達。現れるメサリナーとファウス。ファウスを指さすトヌ。

 

トヌ『あ、お兄ちゃんだ!お兄ちゃんが戻ってきた!!』

 

立ち上がるカマラ。

 

カマラ『あの女の人は…聖女様?』

 

ファウスに駆け寄って行くオンディシアン教会の職員Aとチェレンチェ国際人権協力機構の職員A。

 

オンディシアン教会の職員A『聖女候補様!よくぞご無事で!』

 

メサリナーはファウスの方を向く。

 

メサリナー『この方に助けて頂いたの。』

 

ファウスを見つめるオンディシアン教会の職員A。

 

オンディシアン教会の職員A『それはそれは…。』

 

ファウスに詰め寄るチェレンチェ国際人権協力機構の職員A。

 

チェレンチェ国際協力機構の職員A『それで、聖女候補様を襲った難民達は。逃げたのですか!』

 

ファウスは首を横に振り、後ろを指さす。

 

ファウス『いえ、あちらで土の壁で閉じ込めました。』

 

ため息をつき、俯くファウス。チェレンチェ国際人権協力機構の職員Aがシュヴィナ王国兵士達に手を振る。

 

チェレンチェ国際人権協力機構の職員A『あっちだそうです!』

 

頷くシュヴィナ王国兵士F。

 

シュヴィナ王国兵士F『よし、あっちだ!』

 

シュヴィナ王国兵士Fとシュヴィナ王国兵士の数十名がそれぞれのシュヴィナ王国のヴェルクーク級人型機構に乗り込む。チェレンチェ国際人権協力機構の職員Aはシュヴィナ王国兵士Fの機体に乗り込み、彼らは去って行く。

 

ファウス達に近づくシュヴィナ王国兵士A。

 

シュヴィナ王国兵士A『それにしても大変でしたね…。』

メサリナー『ええ…でも。』

 

ファウスの方を向くメサリナーとシュヴィナ王国兵士A。ファウスの方を向くシュヴィナ王国兵士A。

 

シュヴィナ王国兵士A『んっ!』

 

シュヴィナ王国兵士Aはファウスの顔を見つめる。

 

シュヴィナ王国兵士A『お前は…。』

 

首を傾げシュヴィナ王国兵士Aを見つめるファウス。

 

シュヴィナ王国兵士A『お前はアレスの偽王子じゃないか!』

 

瞬きするファウス。

 

ファウス『えっ、えっ…。』

 

剣を抜き、それでファウスをさすシュヴィナ王国兵士A。

 

シュヴィナ王国兵士A『しらばっくれるな!こんなところにのこのこ何の用で来た!この偽王子が!』

 

下を向くファウス。

 

ファウス『えっ、偽、偽、王子…。あっ…。』

 

ファウスは体を震わし、眼をゆっくりと見開いていく。下を向き両手の掌を見つめるファウス。

 

ファウス『僕は…偽王子。』

 

呆然とする難民達。メサリナーはファウスの方を向いた後、白目を向いてよろめく。

 

ファウス『…僕は偽王子だったんだ…。』

 

メサリナーを受け止めるオンディシアン教会の職員A。彼らの方を向くファウス。オンディシアン教会の職員Aは、メサリナーを抱きよせ、眉を顰めファウスを見つめながらゆっくりと遠ざかる。

 

シュヴィナ王国兵士A『なんたることだ!聖女候補が気を失うなんて!』

 

ファウスを指さす難民女A。

 

難民女A『聖女様を犯したに違いない!』

シュヴィナ王国兵士C『なんたることだ!』

 

シュヴィナ王国兵士達の方を向くファウス。

 

ファウス『違います!僕はそんなひどい事やってません!』

シュヴィナ王国兵士D『偽王子が何を言うか!』

ファウス『本当です!僕は…。』

 

難民たちの方から起こるざわめき。難民たちの方を向くファウス。眉を顰めてファウスを見つめる難民達。カマラの母親や子供の親たちがファウスからカマラや子供達を見えなくする。眼を見開くファウス。

 

シュヴィナ王国兵士A『この際まで言い訳か!いい加減にしろ!捕縛だ!捕縛しろ!!』

 

ファウスを捕らえるシュヴィナ王国兵士達。

 

ファウス『あぅ!』

 

ファウスは難民たちの方を向く。

 

ファウス『本当です!僕はやってないんです!信じてください!信じて…。』

 

ファウスから目をそらす難民達。ファウスから目をそらし、拳を震わせながら俯くファガルタ。眼を見開くファウス。

 

シュヴィナ王国兵士A『引っ立てろ!』

 

ファウスを連れていくシュヴィナ王国兵士達。

 

ファウス『本当です!信じてください!信じて…。』

 

C7 捕縛 END

C8 小さな嘘

 

シュヴィナ王国フィオラ山地再構築中のトーマ城。封魔独房で蹲るファウス。扉の開き窓から入る光が、石でできた床を照らす。靴音。食事の出し入れ口に、パンを入れるシュヴィナ王国兵士G。ファウスは立ち上がり、扉の開き窓からシュヴィナ王国兵士Gの背中を見る。

 

ファウス『あの。』

 

振り返るシュヴィナ王国兵士G。

 

シュヴィナ王国兵士G『何だ?』

 

シュヴィナ王国兵士Gの顔を見つめるファウス。

 

ファウス『あの方は大丈夫ですか?』

シュヴィナ王国兵士G『あの方…。』

ファウス『あ…あの、せ、聖女様です。』

シュヴィナ王国兵士G『ああ、聖女候補様なら問題ない。一時、気を失っただけだ。』

 

胸をなでおろすファウス。

 

ファウス『良かった…。』

 

ファウスを睨み付けるシュヴィナ王国兵士G。

 

シュヴィナ王国兵士G『良かねえだろ!てめぇに犯されたんだからよ!』

 

開き窓の鉄格子を両手でつかみ、首を横に振るファウス。

 

ファウス『違います!僕はそんなことしていません!』

 

ファウスを見、鼻で笑って去って行くシュヴィナ王国兵士G。ファウスはシュヴィナ王国兵士Gの背中を見つめた後、俯く。

 

 

シュヴィナ王国フィオラ山地再構築中のトーマ城。封魔独房。靴音。扉が開き現れるシュヴィナ王国兵士達。顔を上げ彼らを見つめるファウス。

 

シュヴィナ王国兵士H『出ろ。』

 

瞬きするファウス。ファウスを取り囲む数名のシュヴィナ王国兵士達。ファウスの手にかけられる千年大陸連邦製の封魔錠。腕組みするシュヴィナ王国兵士F。ファウスはシュヴィナ王国兵士Fの方を向く。

 

ファウス『あの…。これは…。』

シュヴィナ王国兵士H『オンディシアン教会の審問官達がお前をお呼びだ。』

ファウス『オンディシアン…。』

シュヴィナ王国兵士I『これでようやく独房が一つ空くぜ。』

 

ファウスはシュヴィナ王国の兵士達に連れられて行く。

 

 

シュヴィナ王国フィオラ山地再構築中のトーマ城。庭に簡易に作られた法廷。に集うオンディシアン教国の審問官達とモニターに、メサリナー、チェレンチェ国際人権機構会長のオーディエンス。城門を固めるシュヴィナ王国兵士達。城門の外から法廷を除く聴衆たち。モニターには貴族連合盟主でシュヴィナ王国国王エグゼナーレ、グラン王国のグランツゥ・グランにアレス王国国王メフィスに、その母のヴィクトリアが映る。扉が開き、現れるファウス。ファウスの方を向く一同。ヴィクトリアがファウスを睨み付ける。

 

ヴィクトリア『よくもこの場にのこのこと現れることができたものですね!』

 

ヴィクトリアの方を向くファウス。

 

ヴィクトリア『王位簒奪、裏切り、主殺し…そして挙句の果てには聖女様を強姦するなんて!我が国が恩赦で、見逃してきたことを仇で返して!』

 

ヴィクトリアの方を向くファウス。

 

ファウス『違います!』

 

ヴィクトリアはエグゼナーレの方を向く。

 

ヴィクトリア『何が違うものですか!盟主様。この者をそこで死刑にしても我が国は構いません。いいえ、我が国の面汚しです。即刻死刑を!』

グランツゥ・グラン『全くその通りだ。審議などいらない。すぐに処断すべきだ。偽王子の悪名は何処の国にも響いておるわ。それに、我が国の聖女候補に手を出すとは!』

エグゼナーレ『気持ちは分かりますが、今回の審議は教皇様の命。』

グランツゥ・グラン『む…。』

エグゼナーレ『それに…ヴィクトリア殿、メフィス王より目立っておりませんか。』

 

一瞬眉を顰めるヴィクトリア。

 

ヴィクトリア『ぐ…。』

 

オンディシアン教国審問官Aがモニターの方を向く。

 

オンディシアン教国審問官A『ご静粛に。』

 

立ち上がるオーディエンス。オーディエンスは両腕を広げる。

 

オーディエンス『静粛に??静粛にと言われましても、なぜ偽王子の審議の場にこの私が呼ばれるのですか。盟主殿もアレス王国国王陛下、グラン王国国王陛下が呼ばれるのは道理として、なぜ関係のない私が…。私も多忙の身、教皇様の命だから仕方なく来ているのですよ。』

 

オーディエンスがファウスを指さす。

 

オーディエンス『あの強姦魔の下らない審議で!』

 

眉を顰めて、俯くファウス。

 

オンディシアン教国審問官B『それは申し訳ない。何しろ教皇様の御命でございますので。』

 

鼻息を荒げ、襟を両手で持って座るオーディエンス。メサリナーの方を向くオンディシアン教国審問官B。

 

オンディシアン教国審問官B『では、グランの聖女候補。尋ねます。嘘を言えば神罰が下るでしょう。』

 

オンディシアン教国審問官Bを見つめ、喉を鳴らすメサリナー。オンディシアン教国審問官Bはファウスを指さす。

 

オンディシアン教国審問官B『貴方はあの少年に犯されましたか?』

 

ファウスを見るメサリナー。

 

メサリナー『え、私、気を失って…何があったかなんて覚えてません。知りません。その時のことは何も覚えてないんです。』

オンディシアン教国審問官B『そうですか。』

 

指を鳴らすオンディシアン教国審問官B。ファガルタを連れて来るシュヴィナ王国の兵士達。ファウスはファガルタを見つめる。

 

ファウス『ファガルタさん…。』

オンディシアン教国審問官B『あの少年は聖女を犯しましたか?』

 

首を横に振るファガルタ。

 

ファガルタ『…分かりません。ただ、とてもそのようなことをする子には見えませんでした。』

オンディシアン教国審問官B『わかりました。』

 

指を鳴らすオンディシアン教国審問官B。難民Cを連れて来るシュヴィナ王国兵士達。メサリナーは難民Cの方を向く。メサリナーから顔を背ける難民C。難民Cを睨むファガルタ。

 

メサリナー『こいつです。私を犯そうとしたのは!でも、助けられて…その後は覚えてません。』

 

顔を上げ、ファウスを眼に映し、眼を見開く難民C。難民Cの方を向く一同。難民Cはファウスを睨み付ける。

 

エグゼナーレ『なんということだ。こちらが…戦地から逃れてきた難民の受け入れを認めたというのに…。』

 

歯ぎしりするエグゼナーレ。

 

オンディシアン教国審問官B『彼らは難民ではございません。移民です。この男はロメン出身と言っていたそうですが、比較的治安の安定しているキリキアの寒村から、助成金とよりよい生活を求めてやってきた移民です。』

 

顔を見合わすエグゼナーレとヴィクトリアにグランツゥ・グラン。メフィスはため息をつく。

 

オンディシアン教国審問官B『パノラマウンテン跡地に、トリメイアの過激派のテロリストが出入りしておりましてな…。彼らが受け入れられるにはどの国も敷居が高いんです。意味は分かりますね。』

 

下を向く難民C。オンディシアン教国審問官Bはオーディエンスを見つめる。オーディエンスは額に手を当てて下を向く。オーディエンスの方を向くメサリナーにグランツゥ・グラン。

 

グランツゥ・グラン『オーディエンス!それは本当か!!?』

 

咳払いして顔を上げるオーディエンス。

 

オーディエンス『何を言っているのですか!』

 

オンディシアン教国審問官Bの方を向くオーディエンス。

 

オーディエンス『我々人権を尊重する仕事を生業とする人間が、あの悪魔の様なテロリストどもと手を組むわけがないじゃないですか!…それに…人身…人身売買等…我々はそんな法に反したことはしない!』

 

オーディエンスを見上げるメサリナー。ヴィクトリアがオンディシアン教国審問官Bの方を向く。

 

ヴィクトリア『お待ちください。どういうことですか?』

オンディシアン教国審問官B『通年の資金供給と、偽造パスポートですよ。それを手配する代わりに、テロの片棒を担げと、言わばギブアンドテイクというやつです。それに、最近では人身売買の話もちらほらとこちらの耳に入ります。特に少年少女を中心としたね…。』

ヴィクトリア『まあ、なんてこと!』

 

オンディシアン教国審問官Bを一瞬睨み付けるオーディエンス。オンディシアン教国審問官Bはオーディエンスを見つめる。

 

オンディシアン教国審問官B『しかしですな…。教会からの莫大な支援金…些か不明瞭でして、それを一体何に使ったのかと。』

 

後退りするオーディエンス。

 

オーディエンス『そ、それは……。あ、あなた方は苦しんでいる人々の声が聞こえないのか!先程から支援金、支援金と金の話ばかりではないですか!』

オンディシアン教国審問官A『いえ、これはもっとも重大なことですよ。我々の支援金を何に使ったのか。世界中の兄弟たちの布施を何に使ったのか…。』

オーディエンス『そんなことを言うとオンディシアン教国の価値が下がります!結局は金か!教会は人権をないがしろにしている。』

 

眉を顰めるオンディシアン教国審問官達。

 

オンディシアン教国審問官A『…だから、先ほどからの抽象的な言論でごまかさないでください。』

オンディシアン教国審問官B『用途を具体的におっしゃっていただければいいのです。』

 

机を叩くオーディエンス。

 

オーディエンス『ふざけるな!これは、偽王子の強姦審議だろうが!何で、そこで私がこのような辱めを受けねばならない!』

 

メサリナーはオーディエンスの方を見上げる。

 

メサリナー『オーディエンス様。…これからの人道支援のための新規事業の為にですよ。ですよね。』

 

メサリナーの方を向くオーディエンス。

 

オンディシアン教国審問官B『ほっほう。これからの事業の為にと、随分とチェレンチェの会長と聖女候補様はお親しいらしい…。』

 

顔を見合わせて頷くオンディシアン教国審問官Aとオンディシアン教国審問官B。

 

オンディシアン教国審問官A『よろしい。聖女候補様の身辺調査を行います。聖女に相応しいかどうか…。』

メサリナー『し、身辺調査。』

 

眉を顰めるメサリナー。

 

メサリナー『わ、わ、私は、グラン王国の教会からの推薦で!神父様からも国王陛下からも…。』

オンディシアン教国審問官B『それにオーディエンス殿からの口添えもですな。こちらで吟味させていただきます。』

 

少し瞼を痙攣させるメサリナー。左目を閉じ、右目でメサリナーを見つめるオンディシアン教国審問官A。

 

オンディシアン教国審問官A『我々の…暗部がね。』

オンディシアン教国審問官B『グランといえば処女検査もあるな。』

 

頷くオンディシアン教国審問官A。オンディシアン教国審問官達の方を向いて、眼を見開き、口を2、3回開閉するメサリナー。彼女は体を震わしながら下を向く。歯ぎしりをしながらメサリナーの方を何回も向くオーディエンス。暫し沈黙。メサリナーの口角が少しあがる。

 

メサリナ-『…わたし、犯されました。』

 

顔を上げファウスを指さすメサリナー。

 

ファウス『えっ…。』

メサリナー『わたし、こいつに犯されました!』

 

首を横に振るファウス。顔を両手で覆い隠して倒れ込み、泣き声を上げるメサリナー。

 

メサリナー『今、思い出しました。あいつが嫌がる私を無理やり。』

 

首を横に振るファウス。

 

ファウス『ち、違います!僕はやってません。きっと聖女候補様も今、混乱してしまって…。』

 

顔を上げファウスを睨み付けるメサリナー。

 

メサリナー『何勝手になことをを言っているの!犯したくせに!この私を犯したくせに!!この人でなし!』

 

ファウスから目を背けるファガルタ。ファウスを睨む難民C。

 

難民C『なんて野郎だ!!』

 

顔を両手で覆うメサリナー。

 

ファウス『違う!僕は何もしていません!本当です!信じてください!』

 

ヴィクトリアがファウスの方を向く。

 

ヴィクトリア『もはや言い逃れはできませんよ!』

 

エグゼナーレの方を向くヴィクトリア。

 

ヴィクトリア『もう、結果は充分でしょう。』

 

頷くエグゼナーレ。

 

ファウス『僕はしていません。信じて…。』

 

ファガルタがファウスの方を向く。

 

ファガルタ『黙れ!偽王子!お前のせいで…戦争でわしは、わしの孫と息子は…。』

 

眼を大きく見開くファウス。

 

ファガルタ『お前が偽王子だと分かっても、信じていたさ…信じたかった。だが、お前は我々を裏切った!』

 

首を横に振るファウス。泣き声をあげる聖女を見た後、ファウスを見るファガルタ。

 

ファガルタ『これでもしらをきるのか!本当に…本当になんて奴だ!』

 

下を向き、拳を震わすファガルタ。ファガルタを見つめた後、俯くファウス。オンディシアン教国審問官Aとオンディシアン教国審問官Bは顔を見合わせて頷く。

 

オンディシアン教国審問官A『ふむ。聖女候補様がそういわれるならそうでしょう…。』

オーディエンス『ふん。名誉棄損だ!偽王子だ、はなから強姦したに決まっている。時間の無駄の茶番ではないか!』

オンディシアン教国審問官B『これは失礼いたしました。』

オーディエンス『まったくだ!貴重な時間を無駄にしてしまったからな!』

 

エグゼナーレの方を向くオンディシアン教国審問官B。

 

オンディシアン教国審問官B『では、聖女候補を強姦したこの者に対する処分は盟主殿に任せると致しましょう。』

 

頷くエグゼナーレ。

 

エグゼナーレ『偽王子に対する処分は決まっている。死罪だ。王位簒奪、裏切り、主殺し…これだけでも死罪に相当するのに聖女候補凌辱まで。』

 

手を叩くヴィクトリア。

 

ヴィクトリア『まっことご英断ですわ!』

グランツゥ・グラン『私としても賛同だ。我が国の聖女候補をこのように凌辱して!』

 

俯くファウス。ファウスを見つめ笑い出す難民C。難民Cの笑い声がトーマ城にこだまする。

 

C8 小さな嘘 END

C9 同類

 

シュヴィナ王国フィオラ山地再構築中のトーマ城。死刑囚用の牢屋をシュヴィナ王国兵士達に囲まれながら歩くファウス。死刑囚用の牢獄に入っている難民Cをはじめとする聖女候補を凌辱しようとした難民の面々。彼らはファウスを見る。

 

難民D『聞いたぞ。お前、あの女犯したそうじゃねえか!』

 

俯くファウス。

 

鉄格子に近づく難民E。

 

難民E『おい、どうだった。偽王子ちゃんよ。気持ちよかったか!あっ!!』

難民F『おい、黙るなよ』

 

シュヴィナ王国兵士Iが難民Fを殴る。

 

難民F『いてっ!』

シュヴィナ王国兵士I『黙ってろ!』

 

口を閉ざす難民達。ファウスは難民達の隣の狭い牢に入れられる。壁にもたれかかり、座るファウス。シュヴィナ王国兵士達はファウスと難民達に背を向け、靴音を立てながら去って行く。

 

暫く、向かいの壁を見た後、俯くファウス。

 

難民D『おい、行ったか。』

難民E『ああ。』

難民F『ちっくしょう。隣の馬鹿のせいで俺達は!』

難民G『なんだよ!結局犯したのかよ!俺達を閉じ込めてよ!おいあの女の具合きかせろよ!おら!!』

 

壁を蹴る音。ファウスは眼を細め、床を見つめる。

 

難民F『お前に何が分かるってんだ!もとはぬくぬくと王族の暮らしをしていたクズ野郎じゃないか!俺達の貧しい暮らしなんか分かっちゃいねえんだ!』

難民H『は、補助金といい生活を貰って何が悪いってんだ!こっちだってな女も抱けずに、危険な目潜り抜けて来てるんだよ!この地に来れば、あんな生活なんぞせずに済む!』

 

難民たちのため息。

 

難民I『へっ、審問官の奴。俺達移民だとよ。良く言うぜ。入国できるのは手に職がある奴と金がある奴だけ…けっ、聞いてるか!偽王子!危ない橋渡っても、一銭にもならねえのさ。』

難民C『教会の奴らも人権の奴らも王侯貴族も俺達の国の政治家もそうだ。俺達のことを気にかけている様で何もしやしねえ!所詮、自分の自己顕示欲や人気取りだろ!偽善だ!偽善!肝心な時には助けちゃくれねえ、トロメイアのテロリストのほうがよっぽど親切だったぜ。金もパスポートも用意してくれるんだからな。おまけに女も犯していいと。ククククハハハハハアーハハハハハ。』

 

向かい側の壁を見つめた後、俯くファウス。

 

難民C『おい。偽王子。聖女犯したんだってなぁ。格好つけて、悪者から救ったふりをして聖女を犯したんだろ。楽しかったか。良かったか。ケケケ。俺達も聖女を犯そうとした。それで死刑。お前も聖女を犯して死刑…。俺達とお前は同類なんだよ!自分だけ楽しんでんじゃねえよ!この偽善者が!!』

 

耳を押さえて首を横に振るファウス。

 

C9 同類 END

C10 救済

 

シュヴィナ王国フィオラ山地再構築中のトーマ城。死刑囚用の牢屋。ファウスの牢の前に立つシュヴィナ王国兵士J。

 

シュヴィナ王国兵士J『お前に面会を求めている奴がいる。』

 

顔をゆっくりあげるファウス。

 

ファウス『面会…。』

難民D『ははは、偽王子に面会?物好きな奴がいるもんだ!』

難民E『まったくだぜ。』

シュヴィナ王国兵士J『黙れ!』

 

口を閉ざす難民達。

 

ファウス『面…会…。』

 

頷くシュヴィナ王国兵士J。

 

シュヴィナ王国兵士J『ああ、シバっていう記者だ。』

 

眼を見開くファウス。

 

ファウス『シバ……さん。』

シュヴィナ王国兵士J『ふん、あまりにしつこくてな。特ダネ狙いのこざかしい記者だろが。まあ、処刑は明日の午後だからな。明日の午前中に面会だ。良かったな。死ぬ前に色々と語れて。』

 

鼻で笑い去って行くシュヴィナ王国兵士J。ファウスは俯き、涙を流す。

 

難民が壁を蹴る音。

 

難民F『ふざけんな!なんであの偽王子だけに面会がゆるされるんだ!』

難民E『クズ記者め!俺達はどうでもいいのかよ!』

難民C『ざけんな偽善者め!』

 

 

朝。シュヴィナ王国フィオラ山地再構築中のトーマ城。死刑囚用の牢屋。鳴り響く靴音。ファウスは眼を開く。ファウスの牢の前に立つシュヴィナ王国兵士達。ファウスは彼らを見つめる。牢の扉を開けるシュヴィナ王国兵士J。ファウスはシュヴィナ王国Jの顔を見つめる。

 

ファウス『これは…。』

シュヴィナ王国兵士A『出ろ。』

 

首を傾げるファウス。

 

シュヴィナ王国兵士A『出ろと言っているんだ!』

 

ファウスを立ち上がらせるシュヴィナ王国兵士達。

 

ファウス『…えっ、でも。シバさんとの約束が。』

 

ファウスはシュヴィナ王国兵士Jの方を向く。

 

シュヴィナ王国兵士J『そんなことはどうでもいい。さっさと出ろ。』

ファウス『で、でも…。』

 

難民C『ゲラゲラ、ざまあねえな!』

難民D『おい、偽王子だろ。最後ぐらい潔く逝けよ。なあ、散々好き勝手したんだろ!』

ファウス『シバさんとの…。』

 

ファウスを睨み付けるシュヴィナ王国兵士A。

 

シュヴィナ王国兵士A『…偽王子!不本意ながら…エグゼナーレ様の意向だ。』

 

ファウスはシュヴィナ王国兵士Aを見つめる。握り拳を震わせるシュヴィナ王国兵士B。

 

シュヴィナ王国兵士B『…しかし、国王陛下はなぜ、このようなものに…偽王子なぞに恩赦など!』

 

瞬きするファウス。

 

ファウス『えっ!』

シュヴィナ王国兵士A『言うな!』

 

舌打ちするシュヴィナ王国兵士B。難民の入っている牢屋からざわめきが起こる。

 

難民D『ふっ、ふっ、ふざけんじゃねえ!』

難民F『お、おめえら寝言言ってんじゃねえぞ!』

 

眉を顰めるシュヴィナ王国兵士A。

 

シュヴィナ王国兵士A『行くぞ。』

 

ファウスを連れて行くシュヴィナ王国兵士達。鉄格子を掴み血走った目でファウスを睨み付ける難民C。難民Cの方を向くファウス。

 

難民C『ふざけんな!何で俺達が殺されて、そいつがその悪逆非道の偽王子が生かされなきゃなんねえんだ!俺達は聖女凌辱未遂しか犯してないんだぞ!』

 

ファウスを指さす難民C。

 

難民C『そいつは…そいつは、王位簒奪、裏切り、主殺し、聖女凌辱をした大悪党だぞ!そいつは!俺達とは比べ物にならない大悪党なんだぞーーーーーーーーーーーーーーーーー!』

 

ファウスは眼を閉じて俯く。

 

難民達『偽善者!悪党!クズ野郎!』

 

 

シュヴィナ王国フィオラ山地再構築中のトーマ城。城壁を歩くシュヴィナ王国兵士達とファウス。風がファウスの銀髪を揺らす。

 

サンジャーナルの記者の声『おお。シバさんよ。面会どうだった?』

シバの声『あなたはサンジャーナルの…いえ、会えませんでした。』

 

瞬きするファウス。

 

サンジャーナルの記者の声『手柄を独り占めしようってのか?こっちは大手だぞ!』

シバの声『いえ、違いますよ。なんならシュヴィナ王国の兵士の方に聞けばいい。』

 

振り返るファウス。

 

ファウス『シバさん…。』

 

サンジャーナルの記者の声『ふん、まあいいだろう。まあ、今日は仲良くやってやるわ。しかし、あんたも偽王子に面会とは大した度胸だな。』

シバの声『僕には…あの子がそんな風にする子には見えない!』

 

眼を見開くファウス。

 

サンジャーナルの記者の声『それが記者のいうことかい?ジャーナリスト初心者もいいところだぜ。いい人ぶって浮気する奴らも居りゃ、聖人ぶって、少年少女を凌辱する奴だっている。あんた、ジャーナリストのはしくれならもっと客観的に物を見るべきだろ。それに皆そう言ってんだ。そうに違いない。本当にニワカはこれだから…。』

 

ファウスはゆっくりと頭を下げる。

 

C10 救済 END

次回予告

 

初任務

 

あとがき

 

 

やっと念願の(ネタばれするので伏せ)まで書くことができました。だいたいこういう場では自分の作品語りをする人が多いので、お腹いっぱいかなと思い、シナリオ内容について語るのは割愛したいと思います。

第1章が完結しました。当初は12話の予定が9話からおさまらなくなったので13話にしました。後は、設定資料は作った方がいいです。特にこの作品は国や人名が多いので。設定や名前などを忘れてしまった場合にすぐにその情報を手元に引き寄せることができます。まあ、検索データベースをつくれば更に便利になりますけどね。文字列ベースもあれば随分と楽になるのではないでしょうか。

それから設定資料はできるだけ簡素化して、短く必要な要点だけまとめておいた方が、見て使用する分には楽です。あくまで作者向けとしてですが。考えても見てください1キャラに何十頁も記載があれば、それを読むだけでも大幅に時間を割かれてしまいます。こちらが欲しいのは使いたい情報ですから、そんなに多い情報量は必要ありません。どれだけ、多く情報量が書かれていても、どれだけ制作側が気に入っていたとしても結局素材の1つでしかないのですから。それにあんまり設定を詰め込みすぎると今度は読者の想像できる余白が無くなってしまうとことになってしまいます。

しかし、台詞に不自然さを出さないようにするのは難しい。ネタばらしとか、自分の得意分野はどうしてもキャラを通して書いてしまいそうになりますが、我慢します。流れというか、本当にその人達がどう思っているか考えるとだいたい否だからです。まあ、とはいえ、勢いで書いてしまうことも多いのですがね。勢いと言うものも意外と侮れないもので、ただ、そうやった後に修正箇所やここは絶対にこうした方がいいという案がでてくると随分前の段階から修正しなくてはならなくてきつくなりますが。でも、流れがある程度できているので加工はしやすいです。そんな感じで2回目のあとがきとなりました。

 


 
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