No.874600

リべレート ザ ヴィーナス 第5話 ~Liberate The Venus~

ざわ姐さん

5話目デキタヨー。先週ぐらいには出来てたんだけど、挿絵どうしようとか考えてたら1週間経っちゃった。
そんなこんなで5話目どうぞー。

2016-10-16 19:16:36 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:475   閲覧ユーザー数:475

 

 前回のリベレイトザヴィーナス!(ラブライブ風に)私の名前はアサルシャ・シャウエンブルク。帝国の女兵長なんだけど、ここレジオンの救国の英雄にされちゃった!教皇様が勲章をくれるっていうから、式に出たのはいいけれど、なんと!そこにまぞくの軍勢が!何だかんだで再度まぞくを撃退したのはいいけれど、あんな恥ずかしい思いはもう二度とごめんだわっ!

 

 「私の・・・隠し名は・・・ヴ・・・」言おうとした所で唇に人差し指を当てられて、止められてしまう。シュクラは何かの気配を感じ、私の言葉を止めたのだ。シュクラの眼差しの先、ベッドの足先の更に向こうの壁際、そこにはトップハットを頭に載せた私好みの容姿端麗な若者がいた。「始めまして、お嬢さん。私の名はジン。邪悪の王とも呼ばれています。」そう言って帽子を親指と人差し指で摘み取り会釈すると再び帽子を元に戻す。「何の用なのジン?」シュクラが尋ねるとジンはベッドに、シュクラの居る方とは反対側に歩み寄り「私もこのお嬢さんに興味が御座いまして、脚を運んだ次第です。」そう言いながら私に近づいて来た。二人の間に静かなせめぎ合いを感じとった私は戦々恐々、病室内に冷気が漂う気配がするほどだった。「ティーンに言われて来たの?それとも只の興味本位?」シュクラは私の右手に自らの手を絡めながらジンに尋ねた。ジンは帽子の淵を摘んで目線を逸らすように、深く被りなおすと「これは困りましたね・・・両方・・・と、言いたいところですが、ティーン様の名代としての立場だけは外せません。」それを聞いたシュクラは「帰りなさい。報告する事はないわ。」と、にべもなく答えた。

 取り付く島も無いシュクラにジンは逆転の一手を策す、「現状報告ができないのであれば、しばらくの間私もこのお嬢さんと行動を供にして、監視したいのですがいかがでしょう?」ジンは自己に有利、かつシュクラには致命的に不利な条件を提案してきた。それに対して「だめよ。ダメダメ。この娘は私のお人形さん。この国の帝になって私と帝国を統治するんだから。あなたの席は無いわ。」私に頬ずりしながら挑発とも取れる回答を返すシュクラ。対してジンは「それはアーディ様に対する宣戦布告と捉えていいんですか?」と攻撃的な質問を返す。顔には出さなかったが、その言葉に激昂したシュクラは「瑣末な事だわ。あなたをここで殺ってしまえば。」と恫喝、いよいよ一線を越える最後の一言が出た。

 その言葉に気圧されたジンは両手を掲げ降参の姿勢を見せると「参りました、私の負けです。ティーン様にはまだ報告するのは止めましょう。あなたが機を見て上申してください。」と答えて一歩下がってから「ところで、私もあなたの計略に便乗してもよろしいですか?」とこちらに歩み寄る姿勢をみせてきた。自らの待ち望んでいた展開に持ち込んだシュクラは口角を吊り上げにやりと不敵な笑みを浮かべ「最初からそう言っていれば良かったのよ。」と先ほどまでの高圧的な態度を軟化させた。

 「ここ(ユニヴェール)に来てから、あなたが私の配下まで使って何やら秘密の行動をとっていたのは知っていましたが、今回の騒動が目的の一つだったのですね。」推し量るようにジンは言う。それを聞いていた私は、シュクラがこの大陸に来て、いや、それ以前から私を探し出す計画を立てていた事実に気が付く。ジンは続けて「このお嬢さんを使って何を企んでいるのですか?」と質問する。「さっき言った通りよ。この娘を使ってこの大陸を支配するのよ。」詳細な計画を話す気の無いシュクラは、知らを切り通す算段だ。ジンからあからさまに目を逸らす、その露骨な態度は誰の目を通しても言葉の信憑性に疑問を持たざるを得ない。語る気の無いシュクラにジンは「参りましたね、お嬢さんの秘密についてどこまでお教えいただけるのでしょう?例えば秘めた力の秘密には触れてもいいのでしょうか?」と、藪から棒にジンから秘密が公になっている事を知らされ、シュクラは「力の秘密をどこまで知っているの?」と隠すことなく詰寄る。「アルマディナの後胤と言えば、それなりの伝説ですからね。多少の知識はありますよ。しかしその程度です。あなたは相当詳細に探りを入れてこの大陸に乗り込んだのでしょう?聞かせていただけませんか?」ジンは下手に出ながら探りを入れる。シュクラはこの展開も想定していたのだろう、然程動揺もせず「いいわ。教えてあげる。代わりに私のお願いも聞いてもらうわよ?」と逆に交渉を持ちかける。ジンは考える仕草をすると「そうですね、お嬢さんの力を少しおすそ分けしていただけるのでしたらいいですよ。」と交渉に前向きな提案をしてきた。シュクラは「その条件でいいわ。」と、譲歩を受け入れる。

 ジンは私とシュクラを交互に見て「それでこのお嬢さんの持っている力とはどのような物なのでしょう?」と早速疑問を投げてきた。シュクラはそれに対し「簡単に言うとボイド・オブ・デヴィルズ・ストレングスってところかしら。私たち魔王のあらゆる効果を無効にする力を有してるわ。黒の書の効果すら消してしまうわよ。」と、自分の事の様に私の力を自慢げに話す。それを聞いたジンは考えるような仕草で「それは凄いですね。敵には回したくないお嬢さんですね。」と率直な感想を述べ、続けて「そのお力この私にお貸ししていただけますね?」と私に囁きながら、手を握ってきた。私は透かさず「はい(はーと)」と反射的に答えてしまった。「ちょっと!何してるの!変な術使ってこの娘を誘惑しないでよ!」シュクラは私の腕を引っ張りながら頬をペシペシ叩く。別に誘惑とかされた訳じゃないんだけど。第一魔王の力は私には効かないんじゃないの?シュクラから私を取り上げられたジンはつまらなそうに「シュクラさんはこのお嬢さんをどのようにご利用なさるおつもりなのです?」と先ほど回答をえられなかった同じ質問を再び尋ねる。シュクラは少し考え込むと「いいわ。教えてあげる。」そう言って脚を組み直し計画の見通しを語りだした。

 「まずはアーディの邪魔をしてもらおうかしら。」と、いきなり大胆発言が飛び出す。「これはティーン様には報告できませんね」とジンが呟く。「この娘の知名度を上げておかないと、和平に持ち込んだ時の主導権が取れないもの。」ジンが口を挟む「お披露目と言うわけですか?」と。「ティーンやアーディにも存在を誇示しておかないと帝国を継ぐのに都合が悪いわ。それも勝ってアピールしておかないとね。この娘の戦う所では領土防衛してもらって、アーディが今まで落としたアヴニール、メディウム領を私とこの娘で帝国領として奪い返すわ。皇帝側に着く帝国領土も私とこの娘で侵攻して、こちら側に着く荘園はそのまま吸収していく。最後は調停に持ちこんで和平成立よ。」私はそこまで聞いて前にも言われた事を思い出していた、私がまぞくと供に戦うという事を。「我々がこのお嬢さんと共闘するのですか?しかも人間相手に?」ジンも私と同じ疑問を持ったようだ。「帝国領以外では、この娘には正体を隠してまぞくの振りして町を襲ってもらう。イルテバークの子としてね。まあ、それ以外は危険の無い侵略になるから安心して。なぜなら、帝国省庁と話を通してある町を襲うんだもの。」シュクラの頭の中では既に相当計画が練られているようだった。「ジンにはその為の調略に協力してもらうわよ、いいわね?」シュクラに投げかけられた途方も無い計画にジンは「面白そうですね。大変面白い。まぞくが侵攻したこの大陸を横から乗っ取る計画とは大胆ですね。」顎に手を当てて笑みを浮かべながら関心していた。

 ジンとの交渉を概ね成立させたシュクラは、本来の目的であった私の隠された名前を聞くことも無く去っていく。ジンには聞かせたくないということなのだろう。私もそれが今後、何かの切り札になるかもしれないと思ったので触れなかった。私の隠し名がシュクラの期待に沿えるものだという保障はどこにも無いのだ。あるいは期待を大幅に上回るものなのかもしれないが。

 

 翌日、院省からの使者がやってきた。退院の後、今後の動向を決める為の話し合いを密に行いたいと申し入れてきた。私は既に諦めに似た感情で事の成り行きを受け入れていたので、申し入れを受けた。近臣の方の話ではメディウム皇国も半分の領土が攻め落とされ、まぞくはアヴニュの市街地周辺にまで侵攻してるという。メディウム城まであと町2つ程の距離しかないのだから恐るべき速度でまぞくは侵攻している。ティラン皇帝も既に自陣を出立してまぞくの背後からメディウム城に向かい侵攻、まぞくの攻城戦に合わせて城攻めする手筈らしい。皇帝自慢の黒いドラゴンも引き連れているとの事だ。シュクラはここで何かを仕掛ける準備をしている。そして、そこには私が必要不可欠な駒になるのだという。

 それから2日間、これまでの目まぐるしかった日々が嘘のように、まぞくからも帝国府からもなんの音沙汰も無かった。久々にのんびりした休日を過ごしていた私は気分転換に病室から抜け出して修道院の中庭へ赴く。先日の大観衆が溢れていた光景が嘘の様に庭園の中は静寂に包まれていた。陽だまりの中で芝生の上に座り日向ぼっこをしていると「英雄様がこんな所で何をたそがれているの?」声の先にはシスター・アントーニアがいた。英雄だなんて呼ばれてもピンとこない私はそれが自分に対して言われた事だと気づくのに数秒かかった。「たそがれているだなんて、そんな風に見えました?」シスターには私が酷く落ち込んでいる様に見えたのか、疑問に思ったので尋ねた。「ふふっ、冗談ですよ。先日のお礼がまだでしたね、あの時は私たちを救っていただき修道院一同感謝しています。ありがとう。」改まって言われると照れる。入院中に一度、司教様も私の病室に御出でになられて御礼を頂いているので修道院からはこれで二度目になる。「御礼を頂けるのは有難い事ですが、それが私の任務ですからどうぞ御気になさらず。」私は兵士として当たり前の事をしたまで。しかし今の私は国家安寧の為とはいえ、人々を欺いているようで気が引けるのも事実。シスターのお言葉に素直に喜べない後ろめたさから恐縮気味な返答を返してしまった。「この戦争はいつになったら終わるのでしょう?教皇様は近いうちとは仰っていましたが、私たち教会のみんなが心配しています。早く争いの無い平和な世になって欲しい、祈りが神に届く事を望んで止みません。」シスターは空を仰いで祈りを捧げた。それを見て私に課された役割の重大性を再認識させられた。私の一挙手一投足がこの国に住む人々の未来を左右するのだから。

 やっと、私の退院の日がやってきた。朝、帝国外務省の職員が迎えに来る。職員4人に連れられて、そのままガニアン宮殿に向かった私は、そこでまぞくを含めた各省庁と会合を行うとのこと。後には引けない状況になった、そんな思いを胸の内に秘めつつ、宮殿に向かう馬車の中で職員に尋ねる。「会合に出席する方はどのような方々なのでしょうか?」一人の職員が質問に答える「会議には各省の大臣か長官、委員長、議会長などの省の上役の方々が出席する予定になっています。遅れている方もいるようですが、概ねの方は昨日から宮殿に集まり今日の会合に備えています。」その回答を聞いて血の気が引いた。一介の帝国軍兵長が面会できるような面々ではないからだ。私がどんなに出世しても一生出会える顔ぶれではないと言えよう。「ま、まぞく側の出席者は判っているのですか?」気になったので聞いてみた。「まぞく側の出席者は魔王3名とだけ通達されています。名前までは判りかねますね。護衛が10名ほど伴われると聞いています。」魔王の一人はシュクラとみて間違いないだろう。もう一人はジンだろうか?残った3人目は私も知らない魔王なのだろう想像もつかない。

 そんな事を考えているうちに宮殿へ着いた。宮殿内に案内された私は控えの部屋に案内され、着替えの衣装を渡された。これに着替えて会合に出て欲しいとのことだ。渡された衣装は帝国軍礼服のなかでも近衛将官のみにしか着用を許されないヴァイセ・ローゼ・デズ・ヘーレズ礼装という特殊なドレスだった。このドレスは、近衛騎士団幕僚のみに着用を許されている礼装で、滅多にお目にかかれるものではない。帝国軍に籍を置いて今までに二回しか実物を見た事が無い礼装だった。しかも女性用は私も初めてお目にかかったほどだ。こんな貴重なドレスを自分が着られるとは想像もしていなかった。宮殿の侍女に手伝ってもらいながら着替えとヘアメイクを済ませる。侍女たちが部屋から退室して私一人になると、ちょっと舞い上がった私は鏡の前でくるりと一回転してキメポーズしながら微笑む。ちょうどそこに情報省のヘルベルト・ホーエンツォレルンがノックと同時に入ってきて一部始終を見られてしまう。「・・・・・すみません、ドアが開いていたものだから、てっきり準備を終えているものだとばかり。今のは見なかった事にしておきましょう。」気を使われる方が恥ずかしいから!と心の中で叫びながら「あっ・・・え~っ、な、なんの用です?」と、私は動揺を隠せないまま尋ねた。ヘルベルトは書類を数枚私に差し出し「これは情報省の議題内容をまとめたものです。これをお渡ししておきますので目を通しておいてください。もしかしたらあなたにも質疑応答があるかもしれませんので、今のうちに回答を用意しておくと良いでしょう。」そう言って資料を手渡された。「こんな重要書類頂いていいのですか?」会合前においては重要な情報だった。「今日の会合は情報省のこの先を決める重要な会議になります。あなたには是非この会議を成功に導いていただきたいのです。」そう答えたヘルベルトの目は真剣そのものだった。気圧された私はそれに答えようと決意新たに「わかりました。」と一言だけ言葉を返した。

 ヘルベルトが部屋から退室していったのを確認して、私は書類に目を通しながら、鏡の前で何回もキメポーズしてみた。カワイイ私超イケてる。心の中で呟く。

 書類に目を通していると何やら部屋の外が騒がしい。部屋の廊下側で、話し声に聞き耳を立ていると、どうやらまぞく側の出席者と護衛の一団が到着したらしい。そんな話し声を盗み聞きしていたら、私以外誰もいないはずの部屋の窓際から声をかけられる。「何してるの?」声の主はシュクラだった。びっくりした私はビクッと跳ねてシュクラに向き直る「毎回、毎回どこから入ってくるのよ!」会合前の会談は御法度なはず、聞き返す私の声は無意識のまま小声になってしまう。自らの後ろを指差して「窓から。」ぼそっと呟くシュクラ。私はシュクラに詰め寄り「まずいわよ!こんなところ見られたら!」と、出て行くように仕向ける。「平気よ。別に。見られないから。」と、事も無げに言うと続けて、「その服、中々いいわね、イケてるわよ。」と褒められた。満更でもない私は「そ、そう?いいかな?私も結構気に入ってるのよね、これ。」と、まぞくとなぜか和やか女子トークをしてしまう。「まあ、それは置いておいて、一つだけ忠告しに来たのよ。」場の空気を切り替えたシュクラは真剣な面持ちで続ける「あなたの名前、アルマディナの後胤で通すのよ。絶対に真の名前をこの場で言ってはダメよ。」と、念を押される。「解らない事は、知らぬ存ぜぬで通しなさい。あなたがアルマディナの子孫である事は間違いない事実なのだから。」そう言って部屋から去って行った。

 程無く、会議は始まる。馬車内で聞かされた通り、その顔ぶれはそうそうたる面々だった。院省、教皇ヴィルヘルム二世台下を筆頭に、外務省からカール・ジギスムント・フォン・バーデル公爵、情報省からアイテル・フリードリッヒ・フォン・クルムバッハ公爵、財務省からフリッツリ・フォン・シャルクスブルク伯爵、国交省からオットー・テオドール・フォン・クラウヒュンヴィース公爵、など、挙げていくとキリがないし、私も良く知らない遠い候国の領主もいた。その中に私も列席するなんて場違いもいい所だ。しかも円卓とはいえ席の中心位置である教皇様や魔王と並んで席が用意されている。私が席に着くとまぞく一団が最後に案内されて入ってくる。護衛は中に入れないので、入ってきた三人が魔王だということがその場にいる者達に理解できた。その内二人の顔は私も知っている、予想通りシュクラとジンだった。最後に入室してきた青い髪に巨大な二本角を頭に生やしたローブを纏った美女は私も初めて見る顔だった。「ティアマトだ・・・」「アレがティアマト・・・」その姿を目にした場内の人々で知っていた者は口々に呟いた。私も噂では聞いた事があった、賞金首リストナンバー1にランクされている竜族最強の子連れ竜姫と。ローブ越しでしか観察できないが、とても子持ちには見えない美しいスタイルだった。

 ティアマトは議場に入ると、室内を見渡せる位置に来て立ち止まり、席に着く者たちを値踏みするように見回す。その間にシュクラは私の隣の席に早々に陣取る。ティアマトは私を見つけるとじっと視線を送り、再び歩き出して私の2つ隣の席に着いた。席に着いてからもじっと私を見てくるティアマトに気が気でない私だった。ジンは外務大臣バーデル候と挨拶を交わした後、最後に席に着いた。会議場の席がすべて埋まり教皇台下の開会の挨拶が宣言される。「みな、よく集まってくれた。まぞくの方々も遠い所お越しいただき感謝する。さて、今日の会合は皆も知っての通り帝国の諸国紛争と今後の帝国の主権移譲を議題に話を進めていきたい。両議題供にまぞくの方々からお力添えのお墨付きを頂いておる。皇帝から主権を移譲する際、円滑に移行するための調整内容を各省から報告願いたい。と、その前に余の隣におる娘を紹介しておくかの。」そう仰って私に起立するように勧める。「知っている者も居るかもしれんが、英雄王アルマディナの子孫、ヴィルヘルミーネじゃ。良しなにな。ほれ、挨拶せい。」そう言ってお尻を叩かれた。私は突然のセクハラに「ひっ!」と声を上げたが、気を取り直し咳払いを一つして「ヴィルヘルミーネ・アルマディナ・フォン・イブリースです。今後、よろしくお願いします。」と挨拶した。その挨拶に対し、懐疑の目を向ける者、稀覯な物を見る様な者、祝福の眼差しを贈る者など、反応は多種多様だった。

 「まぞくの方々にも自己紹介をお願いしたいところじゃが、どうじゃろうか?」台下はそう仰ってシュクラに目配せを送る。シュクラはそれを受け、席を立ち「まぞく軍諜報部隊幕僚長シュクラと申します、明星神姫とも、昔はイシュタルとも言われていたわ。」と髪を掻き揚げて名乗った。続いてジンが立ち上がり「私はジン、参謀本部長を務めております、邪悪の王とも呼ばれます。」そう発言するとそこかしこから「あの邪悪の王・・・」「まぞくからも恐れられるあの・・・」と、かなり名の知れた魔王だと窺わせる小声が聞かれた。最後にティアマトが立ち上がり自己紹介する「私の名はティアマト、特に肩書きは無いわ。」そう言うと場内からは「真紅の子連れ竜姫だ・・・」と呟くものが多数いた。それがティアマトの耳に入ると「子供はいません!」と机を叩きながら否定した。噂は真実ではなかったようだ。なぜ子連れなどという尾ひれがついたのだろう?不思議だ。

 三魔王が紹介を終え、会議が始まる。各省が今後の動向を報告していくと、それに対する質疑応答が出席する各省やまぞくから行われた。そんな中で私はそれらを只見聞きしているだけの状況だった。私には政治の話は難しすぎてついていけなかったのだ。そしてその時が来た「ヴィルヘルミーネ様にいくつか質問が御座いますがよろしいでしょうか?」情報省の報告が始まると不意に私の出番が訪れた。台下とシュクラの顔を交互に一瞥してから「なんでしょう?」と答える私。「軍の資料によると、あなたの出生地はエクレール皇国となっておりますが間違いないでしょうか?」省の役人が質問してきた。クルムバッハ公爵は腕を組んで席上の書類を睨んでいた。私は特に考える事も無く「はい、そうです。」と答えた。「ご家族はエクレールにお住まいですか?」続けざまに質問が返された。私はこれも大して考えもせずに「はい、その筈です。」と答える。「現在エクレールはまぞく軍の統治下にありますが、ご家族はどういう状況なのでしょうか?」私には質問の意図が良く解らなかったが、シュクラがそれに気づいたようだった。「すでに私の手の届く場所で手厚く保護しております。次期皇女陛下のご心配の及ぶ所では御座いません。」シュクラは私の回答を待たずにそう発言した。私に対する誘導尋問を回避する先手を打ったのだろう、当の本人にはまったく理解できてはいなかったが。

 出鼻を挫かれた情報省の役人は、次の質問を用意していた。「ヴィルヘルミーネ様のご両親はあなたがアルマディナの子孫である事をご承知なのでしょうか?」私には意図の解らない質問を再びしてきた。「母は知っていると思います。父は多分知らないでしょう。」私は知っている事をありのまま答えた。「母方の血族がアルマディナなのですか?」どうやら私の出生や血縁が疑わしいと、鈍感な私でも流石に感づいた。「母から与えられた名前なので。」私はそう答えた。「何か証明する物は無いのですか?例えば英雄王から受け継がれてきた由来の品など?」質問がかなり具体的になってきたところで、再びシュクラが私の発言を遮って「背中の刻印が何よりの証明よ。世界中探してもこれと同じ刻印を持っている者はいないわ」と回答した。さらにシュクラは「刻印と対になっているこの聖遺物をここに提出してもいいわよ。」そう言ってぼんやり青く光る例のアレを席上に置いた。私の背中の痣も光っているのだろうか?服を着ているので解らない。もしかしたらの展開があるのではと脳裏を過ぎった。あの時の再現だけはもうたくさん。

 「それをこちらで預からせていただいてもよろしいか?」ここまで一切の発言を控えていたクルムバッハ公爵が口を開いた。「帝国が誇る国立歴史民族博物館にて鑑定したい。その際は次期皇女殿下にもご同行願いたいが、よろしいかな?」あからさまな私の身柄要求だった。それに対しシュクラは動じず「私の同伴で宜しければ。」と逆に主張した。付け入る隙を見せないシュクラに公爵は難色を示すものの提案を渋々了承した。

 その後、会議は私や親まぞく派にとって、滞りなく円滑に進んでいった。懸念されていた情報省の突き上げも大して無かったところを見るに、省内の皇帝派は私の身柄が引き換え条件で丸く収まっているのだろう。要は私を省にうまく取り込めるかが懸念材料だった訳だ。粗方の議題が解消された所で一刻の休息をとることとなった。会議場を退出して自室に赴く私の後をティアマトが追いかけるように着いてくる。それに気づいた私は少し怖かったので気づかぬ振りをしながら自室のドアをくぐる。当然のように部屋に押しかけてきたティアマトは、そのまま私を壁ドンした。私に顔を寄せてくるティアマト、間近で見ると凄く綺麗なんだけど、凄く怖い。ティアマトの手が私の喉元に触れる、まるで鋼鉄のガントレットで撫でられている様な冷たい感触が首筋に絡みつく。「あなた、凄くいい香りがする。私達と同じ・・・いいえ、もっと上品な香りが。」ティアマトは私の耳元で囁く。無言の私をよそに「あなたとはきっとうまくやっていけそう。これからよろしくね。」そう囁いて頬にキスされた。気がつくと部屋の入り口にシュクラは立っていた。「気に入った?」そう尋ねるとティアマトは振り返らずに私を見つめたまま「とっても。」と呟いた。

 

 続く


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
1
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択