No.868609

リべレート ザ ヴィーナス 第4話 ~Liberate The Venus~

ざわ姐さん

第4話、できました。へいお待ち。風雲急を告げる展開になっています。行き当たりばったりで書いている訳ではありません、この展開を書きたかったのですよ。次回その訳も語られることでしょう。
そして今回は簡単な挿絵も書いてみました。また、感想とかもらえると書くのが少し早くなるかもしれませんw

2016-09-12 01:38:43 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:559   閲覧ユーザー数:559

まるで舞台演劇が終わってからのスタンディングオベーションの様な、拍手喝采だった。それを間近で見ていた私は目を丸くし、思わず後ずさった。

 

 一連の騒動を大修道院上階から眺めていたシュクラ、その後ろには気絶したタオとマオを、風で出来た渦を使って抱えていた一人の魔王がいた。風を身に纏い、怪鳥ズーを供に連れた風と嵐の神エンリルだ。連れているズーのくちばしには気絶したレイディーも銜えられていた。「あなたが来てくれて助かったわ、エンリル。」シュクラがそう言うと、エンリルは口元を吊り上げて微笑みながら「せっかくのオペラに誘ってくれたんだから、見なきゃ損だもの。」と言って風に巻いたタオとマオを宙で弄んでいる。シュクラは一歩前に出てエンリルに言う「あなたのお蔭で腹黒眼鏡(ソーマ)に台無しにされかけたシナリオの軌道修正はなんとか出来そうね。」そして壇上のアサルシャが見える位置に移動すると下階にいるまぞく達に出口付近にいる妖怪サトリを連れて退去するように指示を出し呟く「さてと、そろそろ私の出番ね」

 

 そんなやり取りがあった事すら知らない私は、目の前の歓声に度肝を抜かれ立ち尽くしていた。何をどう答えていいのかまったくわからない私は、近くにいた騎士様に目配せを送るも理解されず、この収拾をどうつけていいか考え付かないでいた。そんな時だった、宙を舞うように壇上に突然黒い影が飛び込んできた、デュラハン公爵勇猛に登場という感じだった。公爵の黒いオーラで場内は水を打ったように静まり、騎士様たちは再び臨戦態勢になる。しかし私は事情を概ね理解している為、目の前の公爵に敵意は感じていなかった。だから構える姿勢をとらなかった私を見て、周りの人々は私が余裕と自信に満ちている、そんな風に映ったようで、私に期待の眼差しをおくる。それを見てか豪気になった騎士様たちはデュラハン公爵を甘く見ている様にも見えた。「子飼いのまぞくでは歯が立たないとみて親玉の登場と言う訳か。狼藉者、名を名乗るがいい」騎士様の一人がそう言うと剣をデュラハンに向ける。

 デュラハンは私に剣を投げていたため武器は何一つ持っていなかった。壇下の人々にも見えるように諸手を広げて丸腰であるという事をアピールしながら「武器を持たない者に剣を向けるとは、帝国とは実に非礼な国柄のようだな。申し送れた、我が名はデュラハン公爵。まぞく七大諸侯に列せられる公家の領主である。」デュラハンは名乗ると私に向かって右手に持った首を突き出すような格好をする「女兵士、いや、アサルシャ・シャウエンブルクよ貴公に尋ねる、」私は来たか!と思わず顔を引きつらせる。どんなアプローチで名前を聞き出すのだろうか、そんな考えを頭の中で巡らせていると騎士の一人が突然躍り出てデュラハンに跳びかかっていった「我らを無視して随分余裕だな!」そう叫びながら剣を突き出す。デュラハンはそれをひらりとかわして、騎士の脚を引っ掛け縺れさせてから体を反転させると、水月に軽く当身をいれた。騎士はそのまま進行方向の先へとすっ飛ばされていった。「無作法な者たちだな。しかも己が力量も弁えず、更に相手の力量も測れないとは、手の施しようが無いな。」とデュラハンは小馬鹿にする。それを聞いた騎士たちは憤慨するものの、デュラハンの実力を目の当たりにした後では一歩も動く事ができないでいた。その様を見てデュラハンは「よろしい、最初からそうしていれば良かったのだ。さて、話は戻るが貴公、我々の仲間にならないか?」

 私はデュラハンが何を言っているのか、瞬きする程の間だが理解できなかった。昨日の話を反芻する限りではここは丁重にお断りして良い筈・・・だよね?「まぞくに貸す力など持ち合わせてはいない、また私に切られたくなければここから立ち去られよ!」と啖呵を切る。ちょっと今の私かっこいいかも。いいよね?なんて余韻に浸っていたら「ならば好し、先日の雪辱を果たさせてもらおう」デュラハンはそう言って、手に持った首の口から妖気を帯びた真っ黒い業物のツヴァイヘンダーを取り出した。デュラハンはその両手持ち剣を軽々と片手で振り回して見せた。「先日のような手加減は無用だ。我が全身全霊をもって決着をつけよう。」と言われた私は、え?ちょ、待って!話が見えないんだけど!アンタ本気出したら私なんて瞬殺じゃない?みたいな状態になった。しかし、冷静に見てみればデュラハンは左手で剣を握っている、本気ではない証拠だ。何か確認の手段が無いか考えた私は「本気だな?本気出すんだな?」と東洋に古来から伝わる熱湯風呂よろしく振りをいれてみた。するとデュラハンは持った首から私に目配せを送ってきた。

 「参る!」と短く叫び打って出てきたデュラハンは先ほどの打ち合わせはどこに行った?という気迫で打ち込んできた。私はそれを受けきれず徐々に劣勢を強いられ押されるがままに壇上の壁際に押し付けられる。「話が違うじゃない!」と小声で訴えると、デュラハンは私に剣を押し付けるように近づき小声で「刻印は体のどこにある?」と尋ねてきた。私はすぐに痣の事だと気づいて「背中!背中!」と小声で答えると、デュラハンは一度剣を引いて二歩ほどの間合いを開けた。その隙に横に回り間合いを取ろうと動き出した瞬間、デュラハンは私の足を剣で引っ掛けて、前のめりになった所で服の背中に左から右に剣を刺し引き上げて服を切り裂いた。今度は破れた服の後ろ襟元を掴んで引き剥がすように破る。後ろ面が無くなった礼服と下着は前方にもはだけて落ちそうになる、私はそれを、両手を胸の前に当てて阻止すると、その場に背中を丸めてしゃがみこむ姿勢でへたりこんだ。

 背中を壇上から観客方向に向けて座り込んだ姿は、私の背中の痣=刻印を衆目の元に晒すことになる。その時になってデュラハンの、いやシュクラの狙いがこれなのだと初めて気づいた私は、計画の詳細を説明されなかった訳を悟り、怒りと恥ずかしさで赤面した。するとデュラハンは「その刻印は!貴公、イブリース王族ゆかりの者なのか?」とわざとらしく説明口調で叫んだ。

 しかし、それを見ていたシュクラは「何?あの刻印・・・・・聞いていた話と違うじゃない・・・・・」と呟いて明らかに青ざめていた。「聞いていた話じゃ月の刻印って、あの三つ星の刻印は何なの?」とひとりごちる。舞台に上がる時間が刻々と近づいているシュクラは現状把握が出来ないでいた。「あれは始祖神の時代の刻印だ。」とエンリルが言った。シュクラは振り返り「始祖神?私たちよりも前の神代の時って事?」と聞き返す。「私たちの世界が出来る前、滅びた時代の神が使っていた刻印、今はもう知る者もほとんどいない、あんなものが残っていたなんてね。」エンリルはそう答えると手を胸の前で合わせて祈るような格好で「あれは危険かもしれない。私たちに抑止できる力ではないのかも。」と言って遠くを見るような目で天を仰いだ。

 

 デュラハン公爵は固まっていた。恐らく、デュラハンの口上を合図に何かあるはずなのだろう。それが一向に起こらない為、硬直していた。私も同じだ。この恥ずかしい状況をなんとかして欲しい。そんな時だった「我みささぎにこうずる時からきたるしんゆうの年、我がこういん奉じてふつのみたま授けん」と遠くの方から聞こえた。声の方向を見ると人々が道を空けて、シュクラがこちらにゆっくりと向かってくる。それを見たデュラハンは待ってましたとばかりに「魔王陛下!良くぞ興しになられました!」と用意されていた台詞を空々しく叫ぶ。それを聞いた回りの者たちは口々に魔王だ、と言いながら道を空けてゆく。

 壇上に上がると例の怪しい刻印の遺物を取り出して背中に近づける。刻印は反応して青い淡い光を放つ。「あなた、もう一つの名、真の名を持っているわね」と衆目に聞こえるように私に尋ねる。私はついにこの時が来たかと覚悟を決めそれを言おうとした瞬間、「それは今ここで言っては駄目。」とシュクラに小声で止められてしまい、一枚の紙を手渡される。そこには「英雄王アルマディナ三女、ヴィルヘルミーネ・アルマディナ」と書かれていた。これを名乗れということなのだろう、それと供に私に与えられた真名が人に知られてはいけない危険な名だと理解した。

 「わ、私の真の名は、ヴィルヘルミーネ。ヴィルヘルミーネ・アルマディナ。英雄王アルマディナの娘の後胤(こういん)だ。」とても心苦しかったが嘘の宣言をした。しかし、私の背徳行為に反して、場内からは一斉に歓声が上がった。「英雄王!英雄王が再び降臨した!」「救世主だ!救世主が現れた!」と場内には口々に歓喜が飛び交い、それは外の広場にも伝播していった。その様を確認したシュクラは踵を返して民衆に宣言する。「英雄王の後胤、顕現したことに敬意と祝福を贈ろう。その祝いの席を汚す様な無礼も慎む事とする。我々は元来、事を構える事を望まない、このまま立ち去るとしよう。また、配下の無礼をここで詫びよう。」そう言って一礼した。その人格者的な行動に押されたのか、騎士も民衆も道を空けてまぞくの王とデュラハン公爵をただ見送る。

 壇上に残された私は騎士様に上着を拝借して立ち上がる。場内の歓声は止む事を知らない様だ。そして壇上に再びヴィルヘルム二世台下が姿を現し更に歓声があがる。「臣民諸氏、目下の奇跡を体現した諸君らならばもう確信を得たであろう。我々には神のご加護、英雄王の末裔があらせられる。帝国はこの戦に必ずや勝利するであろう。」そう宣言すると民衆は大歓声をあげる。台下は先ほど拝受し損ねていた勲章を私に手渡し、民衆と同様私に対して拍手を送ってくださる。私はそれに答える様に勲章を高く掲げた。台下はこのシナリオのほぼすべてを知りながら自らの役割を演じているのだろうか?

 アヴニール城に帰還したシュクラたちまぞくは浮き足立っていた。シュクラはまず魔王ソーマの元に押しかけ「あんたのお蔭で危うく舞台が台無しになるところだったわ!」と文句を吐くとと同時にタオ、マオ、レイディーを押し付ける様にソーマに返却。事の顛末を配下のまぞくから知らされていたソーマは「いや~知らなかったもので、私も依頼を貰って襲撃しただけなんですよ~」としれっと答える。それを聞いたシュクラは「誰の依頼なのよ?」と聞き返す。「依頼主の名は口が裂けても言えないですよ~信用問題ですからね。」眼鏡の中のソーマの眼差しが鋭く変化する。これ以上は何も答えないし、力ずくのやり取りになる事を予想させた。これが「腹黒眼鏡」の異名を持つ所以なのだ。

 無駄なやり取りを好まないシュクラは供与された自室に戻ると、机に両手の平を思いっきり叩きつける「なんなの!アイツ!不愉快だわ!」机に向かって怒鳴りつける。一緒にいるデュラハン公爵は針の筵に巻かれた思いだった。「我輩はしばらく席を外しますかな・・・」そう言い残して退室して行く。一人になったシュクラは回想を巡らせる。一部混乱が生じたものの、すべてがシュクラのシナリオ通りに進んで幕引きはした。しかしアサルシャの名前だけは想定外の誤算だったようだ。「あの娘の真の名ってなんなのかしら?」その疑問だけはどうにも答えが出なかった。

 しばらくの後、頭を冷やしたシュクラは怒りを鞘に収めると、エンリルともう一人の旧知の魔王マルドゥクの元を訪れる。事の顛末は既に城中の噂となっておりシュクラの計画はほぼ成功したと言える。説明は端折って先ほど答えの出なかった疑問を二人に投げかけた。「我々の知っている名では無いのだろう。始祖神の名はほとんど失われている。我が知る限りではエホバ、アッラーぐらいだな。滅びた世界の神だが。」マルドゥクはそう答えた。それを聞いていたエンリルは付け加えるように「前の世界を滅ぼした星の子伝承にあるシルバラ、ヴェスタルアイン、ミライなどの可能性はあるかも。」と言って続きを語る「世界に絶望したミライは星を100年の間焼き尽くし、前世界を終焉させ、その絶望を見ていたヴェスタルアインは再び世界を作り直した。私たちの前に存在した破壊神と創世神の物語。神々の間にだけ伝えられる口伝。」それを聞いたマルドゥクは「ばかばかしい、そんな力を持った神などいるか!」と一蹴した。「しかしあの刻印は間違いなく始祖神の刻印。可能性は十分あると思う。」エンリルは自説の主張を曲げなかった。シュクラは収拾をつけるように「救いなのはアルマディナの血縁関係は間違いないみたいなのよね。」と言って刻印の遺物を手にする。「確かめる必要があるわ」シュクラは再び帝国に赴く準備をするのだった。

 大修道院から病棟へと、後ろめたさで冷や汗を掻きながら戻った私は、事が順調に進んでいるのかが気掛りでしょうがなかった。いや、あの時メモを渡された時点で何かが狂い始めているとずっと考えていた。私に与えられたもう一つの名は一体何なのだろうか?その疑惑の答えはわからないが、母が何かを知っているような気がしてならなかった。そう考えるとすぐにでも母の元に帰り事の真相を聞きだしたいと居ても立っても居られなかった。そこにヴィルヘルム二世台下がお姿をみせる。着替えた私は台下の前に跪き返礼する。「よいよい、面を上げなさい、ここにいるのは只の老いぼれ。そう畏まらずとも良い。」そう仰り私の肩を叩き寛ぐように勧める。聞いていた様な御方とは少々違うようだ、そんな事を考えていると「叙勲式は大混乱だったのう!台本を知っていた余は笑いを堪えるのが大変だったわ!はっはっは!」と仰って大笑いした。「台下はあの寸劇をすべて知っていらしたのですか?」私がそう窺うと台下は「知っとったわ!すべてな!」と仰り、私の肩を再び叩いた。「まぞくとは今後の事も含めてすべて話が通っておる。そなたを帝に就けてこの国の安泰を約束するとな。余が後見人となってそなたを支えるから安心せい!情報省の小役人どもも心配する事は無いぞ!」と心強いお言葉を頂いた。シュクラの言っていた事は本当の事だった様だ。

 そんな話をしていると、病室に親衛隊の騎士様が入ってきて台下に耳打ちする。台下は頷いてから「連れて参れ」と一言。騎士様は病室の外で待っていた紳士服姿の男性を連れて戻ってくる。その者は誰あろう戦略諜報局のヘルベルト・ホーエンツォレルンだった。「ヴィルヘルム台下、お久しぶりです。」そう言うと一礼してこちらに進んでくる。「ほぉ!大きくなったのぉ!前に会った時は小童だったが、立派になったものだの。」その言動から二人は知り合いなのは予想できた。「彼此、15年程ご無沙汰しております。台下もお変わりなくお元気そうで何よりです。」ヘルベルトは決まり文句のような挨拶をする。「聞いたぞ、情報省の小役人をしているそうじゃないか。こんな辺境まできて何をコソコソ嗅ぎまわってる?」台下はそう尋ねるとヘルベルトは少し困った様な苦笑いを浮かべ「ははっ・・・嗅ぎまわっている訳では無いのですが、これも情報省から与えられた仕事ですから。」と言葉を濁すと、「情報省はものを尋ねても話さない癖に、横暴に聞く事だけは辞めないから嫌いじゃ!」と台下は本音を漏らす。するとヘルベルトは「いいでしょう、私に与えられた権限でお伝えできる事を話しましょう。」と言って鞄から書類を出した。「今回、私に与えられた任務は簡単に言えば、私の目を通して事の次第を精査してまぞく、皇帝どちら側に着けば良いかを判断する只一点に尽きます。」そう言って書類を見せる。書類には今回の騒動のすべてが書き記されていた。「結果から申し上げましょう。情報省はまぞく側につく事が望ましいと、私は進言するつもりです。」

 それを聞いた台下は「ほう、それは何故じゃ?」と尋ねる。ヘルベルトは一拍おいて答える「第一にシャウエンブルクさんの行動理念です。」そう言われてつい「私っ?」と漏らしてしまった。「はい、あなたの行動の正当性が一貫していた事です。あなたは物事の判断時に正義の一点に置いてのみ迷い無く正当な判断を下せる思考がある。そこを私は評価しました。私の提供したソードブレイカーをあなたは会場に持ち込まなかった。それは誰に言われたでもないあなたが最終決断した正義の判断だった。」改めて言われると確かにそうだった。シュクラに言われたけど、最後の判断は自分自身の決断だった。「そしてあなたの血統の正当性も確認させて頂きました。あなたなら十分王座に着く資質を持ち合わせている、そう判断しました。」やはり王になるには正当な血筋が無ければ駄目なのだ。私にそれがあるかはまだ疑問なのだけれど、それをここで言うのは控えた。

 粗方の話しを終えると、看護婦と先生が検診にやってきた。親衛隊員から病室にとおしてもらった所に台下の姿を見つけると看護婦と先生は平伏してしまい、台下はそれを止めるように言って二人の肩を叩く。その光景がなんとも微笑ましかった。ヘルベルトも席を立ち退室しようと出口に向かう。「またお会いしましょう。御自愛を。」と言って病室を出て行く。検診も滞りなく終えると先生と看護婦も病室を出て、私一人が病室に取り残される。沈黙が辺りを包むと、待ち構えていたかのように睡魔が私を襲う。まだ日は傾くには足りないが私はそのまま床に伏した。

 真夜中、私は月明かりで目を覚ますと、ベッドの横にはシュクラが座っていた。それに驚いた私は寝ぼけ眼で後ずさり無意識にシーツを手繰り寄せた。シュクラは眼鏡を掛けて本を読んでいたが、私が起きたので本に栞を挟み、閉じてから、眼鏡を少し下にずらして「ぐっすりお休みのようだったけど、良く眠れた?」と尋ねてきた。「びっくりした、脅かさないでよ。」と私は答え状況の把握に努める。「ごめんなさい、驚かすつもりは無かったのだけれど、用があったので来てみたら、お休みのようだったから待たせてもらっていたの。」なんだかとても恐ろしい事をしれっと言われた気がした。「どれぐらいそこにいたの?」と尋ねると「5時間ぐらいかしら。」と答えるシュクラはあくびしながら背伸びした。そんな長い時間と思ったが、千年を生きるまぞく達にとってはあくびほどの時間なのかもしれない。「何の用なの?」と尋ねると、シュクラは私の事をジッと見つめて数拍おいてから答えた。「あなたに与えられたもう一つの名前。教えてもらいに来たの。」言われて思い出した重大な懸案、水を被ったかのように眠気も覚めた。「私の隠し名はヴィルヘルミーネではないわ、あなたは私の隠し名が何なのか知っていてあの寸劇を仕組んだのではないの?」私は掴みかかりそうな勢いで疑問を投げかけた。「齟齬があったようね。私は刻印に反応していたあなたがアルマディナの後胤だと思い込んでいたのだけれど、それだけではなかった。あなたには別の刻印が打たれていたの。」シュクラは射抜くような眼差しを私に向ける、それは真剣である事を意味していた。「あなたに打たれていた刻印は、大昔に失われた神の刻印、イルテバーク様の刻印ではなかったのよ。どういう経緯であなたにそれが打たれたのか解らないけど、その謎を紐解く鍵はあなたの真の名が握っているのよ。さあ、あなたの真の名を教えて?」迫るように私に詰め寄るシュラクだった。

 

 「私の隠し名は・・・・・」

 

続く


 
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