No.803488

「VB DAYS 2」

蓮城美月さん

ベジータ×ブルマ、人造人間~セル編のエピソード。
ダウンロード版同人誌のサンプル(単一作品・全文)です。
B6判 / 080P / \200
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2015-09-21 19:35:55 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1710   閲覧ユーザー数:1709

◆CONTENT◆

 

父と息子

かたちあるもの~続・父と息子~

親権問題~逆襲のトランクス~

認知問題~この子だれの子?~

トランクスのつぶやき

進化の理由

父親の自覚

トランクスの困惑

トランクスの憂愁

遺伝子の不思議

トランクスの災難

トランクスの疑問

 

父親の自覚

 

精神と時の部屋での修行を終えた一組の親子、ベジータとトランクスがセルとの戦いに赴いてから数時間後。一年以上に及ぶ激しい鍛錬により、超サイヤ人を超える強さを得た二人は、必ずセルを倒せるという確信を持って神殿を発った。

しかし、西の都へ戻ってきたときは失意に打ちのめされた表情で。勝利の自信にあふれていた面影はどこにもない。当初、十七号を吸収した第二段階のセルには圧倒的優位を誇っていたものの、窮地に陥った敵は策略を用いて、自らの野望を達成に導く。サイヤ人としての本能を巧みに利用されたベジータは、十八号を吸収して完全体となったセルに桁違いの力を見せつけられた。

親子揃ってセルに翻弄され、辛酸を舐めさせられた胸中は平穏ではないけれど、その後の経緯もあって、ともかくカプセルコーポレーションに帰還する。二人の無事な姿を確認して、ブルマは心の底から安堵した。事態の推移をトランクスが説明したところで、明るい声が割って入ってくる。

「ベジータちゃんも、大きなトランクスちゃんも、お腹空いてるでしょう」

修行中は最低限の保存食ばかり、そのまま戦闘に向かったので空腹の限界だ。

「すぐに食事を用意するわね。二人とも上にいらっしゃい」

ブルマの母親がにこやかに呼びかけると、ベジータとトランクスはダイニングルームへ。そして戦いで消耗した体力を補うように、出てきた料理を黙々と食べていく。

一心不乱に食べ物を口に運ぶベジータ、時折父を伺い見るトランクス。修行の時は一緒に食事をしていたけれど、緊張の伴わないリラックスした場所、この家で並んで食卓に座っているのは、ひどく不思議な気持ちだった。ベジータは未来の息子から注がれる視線は感知していたが、どうせくだらない感傷に浸っているのだろうと、気にせず食事を続ける。

「ああ、そうだ。小さいトランクスちゃんもお腹が空いてるわよね」

大量の食事を作り終えると、思い出したように呟く。脇に置かれたサークルでは、赤ん坊のトランクスが指をくわえている。ブルマはクリリンから十六号の修理を依頼され、ブリーフ博士と階下の研究室。母親が料理を作っている間は眠っていたけれど、先刻目を覚まし、食卓の二人を興味深そうに見つめていた。久しぶりに帰宅した父親と、未来の世界からやってきた十七年後の自分。

トランクスは、この世界の自分に凝視されて奇妙な気分だった。赤ん坊の頃の自分はこんなだったという、実物が目の前にいること。まっすぐな瞳で『トランクス』に見つめられている自分という存在。普通ならばありえない、だれも体験することのない状況だ。物怖じせずこちらを正視する無垢な瞳は、生後半年には思えない。あちらのトランクスの目に、自分はどのように映っているのか。そしてこちらの世界のトランクスは、なにを思いながら父親を見ているのか。

(…もしかして、羨んでいるのか? こっちのトランクスを)

自分がタイムマシンで未来からやってきたことにより、回避された絶望的な世界。この世界のトランクスは、父親を人造人間に殺されることはない。そんな現実がどこかにあってほしくて、未来からこの時代に来たはずなのに。それが母と自分の一番の願いであったはずなのに、己の現実は変わらない。未来世界の父が生き返ることも、人造人間に破壊された街が戻ることもないのだ。

過去へ来るということは、自分が喪ったものを思い知らされることだと、覚悟も納得もしてタイムマシンに乗りこんだはず。それでも心のどこかが小さく痛む。なにもかも存在する世界を羨むのは、人間として当然のことだ。仕方ないことだと割り切らなければ。

むしろ、自分よりこの光景を望んでいた未来の母がそれを見ることなく、未来の世界からもうひとつの世界が救われることを望んでいると思えば…。自分の想いなど、母親の葛藤に比することもできないと感じた。トランクスの中にある、この世界のトランクスに対する羨望も薄れていく。

(それに、もしかしたら…)

未来の世界でも、もしかするとこんな場面があったかもしれない。母も師匠である悟飯も、人造人間との戦いに関しては詳細を語らないため、トランクスは父親がいつ死んだのか知らなかった。けれど少なくとも、人造人間が現れるまでの半年間は生きていた。孫悟空という宿敵を喪った父がどういう精神状態でいたのかは不明だが、それでも平穏な日々はあったはずなのだ。

今、この世界のトランクスが父親を見つめているように、かつて赤ん坊だった自分も、同じように父を見ていたかもしれない。ただ幼すぎて、その記憶が残っていないだけで…。そう考えると不思議と安堵するような心地が湧いてきた。

「――――おい」

考え込むトランクスを我に返したのは、無愛想な声。ハッと顔を上げると、ベジータがまっすぐこちらを見ている。

「食わないなら、よこせ」

目前にある肉の塊を顎で指されたトランクスは、慌ててその皿を手元に引き寄せた。

「た、食べますよ! オレだって空腹なんですから」

たとえ親子であっても、食事に関しては譲り合うことなどない。トランクスは父に盗られないよう、肉にかじりつく。

「フン。よく食うな」

「地球人の数十倍もある食欲は、サイヤ人譲りですよ」

子どもじみた対応を鼻で笑うベジータに、トランクスも黙ってはいない。

「母さんもよく言ってました。いつも、オレと悟飯さんの食事を作ってたから…。『いくら戦いで消耗するからって言っても限度がある。底なしの食欲ね。これで強くなってくれなかったら、食費を無駄遣いしてることになるわ』って」

トランクスが未来の母親の口調を真似ると、ベジータはムッとした顔で黙り込んだ。なにが父の癇に障ったのか息子が怪訝に思ったとき、邸内にチャイムが響く。エントランスに来客があったらしい。ブルマの母親がインターホンに駆け寄った。お手伝いロボットで対応できないときは、人間に報せが届くシステムだ。

「すぐ行きますから、ちょっとお待ちになって」

相手にそう答えた母親は、足早に通路へ向かったが、あることを思い出して立ち止まる。食卓の二人を見て刹那の逡巡。すぐに判断を下すと、無邪気さを含んだ顔で笑った。

「トランクスちゃん」

「はい」

「赤ん坊のトランクスちゃんのこと、お願いね」

「えっ?」

思いもよらないことを依頼され、トランクスは一瞬戸惑う。赤ん坊の自分の面倒を自分が見るというのは、普通はありえない。かなりおかしな状況だが、考えれば他に頼める人間がいないのだ。仕方ないと割り切って「…わかりました」と返答した。

「ミルクはそこに作ってあるから、飲ませてあげて」

赤ん坊に飲ませるため用意した哺乳瓶を指差すと、ブルマの母親は急ぎ足でエレベーターホールへ去っていく。

「ミルクって…オレが?」

赤ん坊から目を離さず、あやすくらいならできなくはないだろう。相手が自分という、表現しがたい奇妙さを感じてはいても。しかし、自分が自分を抱いてミルクを与えるとなったら、ためらいが勝った。その光景を脳内で描いてみたら、どうしてもおかしすぎる。

(だけど…オレ以外にいないから)

天地が入れ替わったとしても、父が乳児の面倒など見るはずがない。あの父親が赤ん坊を抱いてミルクを飲ませる場面など想像でも描けないし、そんなことがあったら地球どころか、宇宙がひっくり返るような気がする。結局自分が担うしかないのだと、トランクスは諦めの胸中に至った。

対象である当の本人、赤ん坊のトランクスを伺うと、大きな瞳でなにかを訴えるように見つめている。どうやら、かなりお腹を空かせているらしい。現状がどうであろうと赤ん坊に罪はない。放っておかれたら気の毒だ。トランクスはミルクが入った哺乳瓶を取ると、サークルの前まで近づいた。自分の物だと分かっているのか、赤ん坊のトランクスは哺乳瓶から目をそらさない。

(ええと…どうすればいいんだろう?)

基本的には抱き上げてミルクを与えるのだろうけれど、育児など体験したことがないため、勝手がまるで掴めなかった。困惑するトランクスを傍目に、赤ん坊のトランクスは哺乳瓶を一心に見つめ、小さな腕を懸命に上へ伸ばしている。

「それをそいつに渡せ。余計なことをしなくても、てめえで勝手に飲みやがる」

トランクスが行動を迷っていると、傍観者からの意見が耳に届いた。

「なに言ってるんですか、父さん。トランクスは…こっちのトランクスはまだ生後半年の赤ん坊なんですよ。自分でミルクを飲めるはずないじゃないですか」

どう考えても育児に参加しているとは思えない父親からの助言を、トランクスは一蹴する。いくら子どもに関心がないからといって、そんなことを言うなんて…。一緒に過ごしたこれまでの時間で父の人となりは理解していても、育児放棄を推奨するような言動は許しがたい。

「サイヤ人のガキだぞ。そこらの貧弱な地球人のガキと一緒にするな」

トランクスの憂慮など意に介さず、ベジータは断言した。

「父さん。いくらなんでも――――」

そのとき、哺乳瓶を持つトランクスの手が下がる。すると赤ん坊のトランクスの手が届くようになり、するりと瓶は抜け落ちた。正確には、生後半年の乳児が両手で哺乳瓶を抜き取ったのだ。

「…え?」

自分の掌中から消えた哺乳瓶を赤ん坊の手元に見つけたトランクスは、唖然としてそのまま一挙手一投足に見入ってしまう。空腹に耐えられなくなったこの世界のトランクスは、紅葉のような手で哺乳瓶をしっかり掴むと、適度に傾けて飲み始める。

赤ん坊とは思えない自主性に富んだ行動だ。成長した同一人物は言葉もない。トランクスは驚きを隠せないまま、目の前で起こっている出来事を見つめていた。この豪胆な赤ん坊の父親は、それ見たことかと言いたげな面持ちで座視するのみだ。赤ん坊のトランクスはあっという間にミルクを飲み干し、哺乳瓶は空になる。すると、ミルクを持ってきた相手へ強い眼差しを注いだ。

「ど、どうした、トランクス?」

気後れしながら問いかけると、赤ん坊は空の哺乳瓶を示唆する。

「なにが言いたいんだ?」

まだ言葉が通じない乳児のため、会話でコミュニケーションをとることはできない。トランクスは赤ん坊の態度から気持ちを汲み取ろうとするが、容易ではなかった。

「そんなもんで足りるか。五本くらいは軽く飲むぞ?」

食事の手を止めたベジータが淡々と告げる。

「ガキのくせに、食欲だけは一人前なのはおまえと同じだな」

「だって、それは父さんの息子だからですよ。サイヤ人の血を引いているから」

旺盛な食欲は自己も認めるところだが、その原因の人物に言われたくはない。純粋なサイヤ人である父の食欲は、トランクスも脱帽ものだ。

「とにかく、この一本じゃ全然足りないってことか」

哺乳瓶が用意されていた場所を確認したが、空の瓶はあっても飲める状態のものは一本もなかった。準備していたところに来客があったのだろう。祖母がまだ戻ってこない以上、自分が作るしかなさそうだ。とりあえず、粉ミルクの缶に書かれている説明を読めばなんとかなるはず。

(…それにしても)

自分が過去の世界にやってきたのは人造人間を倒すためであって、赤ん坊の自分が飲むミルクを作るためでは決してない。しかしこれが現実だ。トランクスは己の境遇に自嘲したくなった。

赤ん坊のトランクスが柵をよじ登ってくる。そのままミルクを作るわけにもいかず、サークルの中へ戻るのも嫌がったため、食卓の椅子に座らせた。おとなしく座ってくれたので、トランクスはその場を離れる。早く次のミルクを作ってやらないと、空腹のために暴れだすかもしれない。

未来の母や悟飯から自分の乳幼児時代の話は聞かされているので、そういうこともあるだろう。なにしろ同じ『トランクス』なのだから。トランクスが慣れないながらも哺乳瓶にミルクの用意をしていると、食卓から抑揚のない声が聞こえた。

「……おい、トランクス」

名を呼ばれ、食卓に顔を向けたトランクスはあっけにとられる。赤ん坊のトランクスが椅子からテーブルに上がってしまっていた。這って空の皿を蹴散らした挙句、今はベジータの目前にいる。それだけでなく、まさにこれから食べようとしていた肉の塊に乗りかかっているのだ。

刹那、笑い出したくなったのを必死で耐える。吹き出してしまいそうなインパクト、これが笑わずにいられようか。しかし、ここで笑ってしまっては父親の機嫌が悪化する。辛うじて眉間の皺は一本で済んでいるのだ。笑ったらそれどころでは済まない。

「笑ってないで、これをなんとかしろ」

「笑ってなんかいませんよ」

低い声での指摘に、未来の息子は頬を引きつらせながら答えた。

「嘘つくな。腹の中で笑ってるだろうが」

(どうしてわかったんだろう…)

トランクスは、的中した父親の言葉に驚く。タイムマシンで時空を越えた関係であっても、やっぱり親子だからなのか。自分をこんな風に理解してもらえることは、素直に嬉しかった。

「それより、このガキをなんとかしろ」

「えっ? あ…」

赤ん坊のトランクスは、ベジータが鋭い視線を投げても逃げない。本気の敵意じゃないと分かっているのか、自分の父親だから大丈夫と思っているのか、怖がることもなく平然とベジータの前に鎮座する。無意識なのか故意なのか、食べ物の上に乗ってベジータの食事を妨げていた。自分が空腹なのに、父親だけ満腹になるのが不満なのだろうか。

この状況はおかしいものだが、いつまでもそのままにしておけない。赤ん坊のトランクスを引き離すのは簡単だけど、当人の気持ちも考えれば、どうしたらいいか多少困惑の胸中になる。

(父さんの視界に入りたいのか? おまえも)

赤ん坊のトランクスに対し、そんな共感が湧いてきた。どんな性格であろうと、優しさなど微塵も持っていないとしても、それでも父親の目に映っていたい。子どもが無条件に親へ抱く感情。

「こいつが邪魔するせいでメシが食えん」

よりによってメインディッシュを妨害されたベジータは、我が子に対して苦々しい表情。自分の血が半分通っているだけに純粋無垢とは言えない。こちらの食事を妨げるのは、空腹の自分を差し置いて…という、赤ん坊なりのやつあたりのような気がしていた。気難しい顔で対峙する父親と赤ん坊を見ていたトランクスは、我に返り、あることに気づく。

「あの…父さん」

「なんだ」

そんなことより肉にかじりつこうとしている乳児をなんとかしろと、ベジータの眼差しは語っているけれど、トランクスは自身の疑問を優先した。

「名前で呼んでくれませんか?」

ぎこちなく申し出たトランクスに、ベジータは呆れた様子で。

「耳は確かか? さっき呼んだだろうが」

自分の息子なので物分かりはいいと思っていたが、少し前の会話も覚えていないのかと、態度が雄弁に語る。だが、トランクスが問題にしているのは自分のことではなかった。

「オレのことじゃなくて…現実の父さんの息子の――――こっちのトランクスのことも、名前で呼んであげてください。『これ』とか『このガキ』とか『こいつ』じゃなくて…ちゃんと名前で」

トランクスの主張に、ベジータの眉間の皺が増える。脳内では反論もあるが、説明がややこしくなりそうで口ごもった。トランクスに対して「おい、トランクス。トランクスをなんとかしろ」だなんて、傍から見れば面妖なことこの上ない。喋っているうちにこんがらがってしまい、最終的にどっちのことを言っているのか分からなくなりそうだ。そういう理由から、赤ん坊のことを別の言い方で表現したのだけれど、本当はもうひとつ別の理由も存在していた。

「……さっき、祖母が言ってましたよね。二ヶ月ぶりだって」

ベジータが黙考していると、トランクスは別方向からアプローチする。二人がカプセルコーポレーションに帰着したとき、ブルマの母親はベジータにこう言ったのだ。

『あら、ベジータちゃん。おかえりなさい。二ヶ月ぶりかしら?』

つまり父親は二ヶ月間、西の都へ戻ってきていないということだ。人造人間との戦いに向けて、一人で修行に集中していたのだろう。それは父親の性格を考えれば理解できるけれど…。

「オレが産まれたときも修行してたんですか? もしかして、西の都にすらいなかったんじゃ…?」

トランクスの推測にベジータは閉口した。その反応で図星だったのだと見抜く。そして、なんとなく浮かんできた可能性を問い質してみた。

「まさかトランクスのこと、一度も名前で呼んだことがないとか?」

気まずさをごまかすため、ベジータはそっぽを向く。それがまるで、怒られることを回避したい子どものように見えて。トランクスは複雑な胸中で嘆息した。

「まだ、喋りもしないガキだぞ」

ブルマとの会話中に「トランクス」と言ったことはあっても、赤ん坊本人に対して直接呼びかけたことは、まだない。会話が成立しない相手になにを喋れというのだ。自らの分の悪さを自覚しながら釈明を試みるベジータだが、息子が納得してくれるような論理ではなかった。

「それでもわかりますよ。自分の父親が名前を呼んでくれたら、きっと」

過去の世界の自分を見つめながらトランクスは語る。当の本人はといえば、キョトンとした顔で二人の会話を眺めていた。

「なのに父さん、あなたって人は…。本当に父親なんですか?」

未来の息子からの言及に、我慢も限界らしい。極めて不本意な父親は、開き直る対応に出た。

「フン。もっとサイヤ人らしい名前ならな」

名前を呼ばないのは、名前そのものに問題があるからだと主張する。

「オレの名前、母さんが決めたんですか?」

「当たり前だろ。オレがそんな名前をつけると思うか?」

「…まあ、そうですけど」

名前をつけられた当事者としては複雑な気分だ。未来からやってきたトランクスにしても、赤ん坊のトランクスにしても、実の父親から自分の名前にケチをつけられているのだから。

「だったら、母さんが名前を決めたとき、反対してくれれば。命名に文句があったというのなら。父さんだって、オレの誕生に半分は関係してるんですから、権利はあるでしょう。オレも、苦労をかけた母さんに不平不満は言いたくありませんけど、自分の名前に関してだけは…」

「おまえのことは、オレのせいじゃないだろうが。本当のおまえの父親に――――未来の死んだオレに文句を言え。それに、言って聞くような女か。一度決めたことは覆さんだろう。大体、オレが帰ってきたときにはもう書類を出したあとだ。どうしようもあるか」

当時のことを思い返しながら、ベジータは苦々しく告げる。率直な言葉に、トランクスはそれもそうかと納得しつつあった。

「そうかもしれませんけど…それでも父さんが、オレが生まれたときにいれば」

「いたとしても結果は変わらない。そもそも、オレがいたところでどうなる。何の役にも立たんだろう。ガキを産むのはブルマだぞ」

「それでも、なにかあるでしょう。そばにいてあげるとか」

一般論としてのイメージで物を言っているらしい。ベジータはげんなりしながら言い返した。

「ふざけるな。オレがいようといまいと、あの女は平然とガキを産みやがるんだ」

「奥さんが自分の子どもを産むというときに、心配じゃなかったんですか?」

「奥さんだと…? そういや、あのときもそう言ってやがったな」

あのときは切迫した事態だったためスルーしたが、今回は聞き流さない。

「違うんですか?」

「オレは『奥さん』だのというものを持った覚えはない」

トランクスはふと思い出していた。未来の世界の両親は結婚していなかったことを。

「じゃあ、あなたの子どもを産んだあの女性は、なんだというんです?」

「なんだっていいだろう」

「よくありませんよ。オレを私生児にする気ですか?」

「ブルマはオレの女で、オレのガキを産んだ。ただそれだけのことだ」

「認知してるなら、結婚すればいいじゃないですか。どうせこの家で一緒に暮らしているのなら、結婚しているのと同じでしょう」

「どうして、おまえにそんな指図をされなきゃいけない」

「オレがトランクスだからですよ。別の次元だとしても息子だから…。言う権利はあるでしょう。トランクスのことを考えたら、当然じゃないですか。父さんは、オレの父さんみたいに人造人間との戦いで死ぬことはないんです。生きてるんですよ。生きてるのに、子どもまで作った女性と結婚しないなんて…。こっちのトランクスは父さんが生きてるのに、父親がいないことになるんです。そんなの理不尽じゃないですか。オレは断固として抗議しますからね。トランクスとして『トランクス』のために、トランクスがしあわせになれるように」

意気揚々と主張する未来の息子だが、名前を連呼するうちに脳内が混乱してきた。自分とこの世界の赤ん坊の自分。どっちのことを指しているのかこんがらがる。トランクスの表情からそれを察したベジータは、ほら見ろと内心で呟いた。

「二人もいれば面倒だ。『このガキ』でいいだろ、おまえがいる間は」

加えられた一言で、トランクスの精神は鎮まっていく。その言い回しだと、自分が未来へ帰ったあとになら…『トランクス』と呼ぶ存在が一人だけになったら、名を呼んでくれるということだ。

「それに、くだらない形式なんぞにこだわったところで、人造人間との戦いに勝たなければ何の意味もない。ガキが産まれようが、人造人間が勝てば殺されることになるんだ」

それが、自身の子どもが産まれたときも修行に邁進していた理由なのだと、トランクスにはそう聞こえた。あとから取ってつけた言い訳かもしれない。でもそれでもいいと、今のトランクスには思える。父が強くなろうとした動機のどこかに、母と自分の存在があるならば。

「根本的なことを訊いてもいいですか?」

「…なんだ」

改まって問いかけたトランクスに、ベジータは眼光だけを動かした。

「こっちのトランクスの父親は、父さんですか?」

「当たり前だ!」

即答した父親の剣幕に、息子は心の中で苦笑する。

「おまえが超サイヤ人になれるのが、なによりの証拠だろうが」

「よかった。一応、自覚はあるんですね」

「なにが言いたいんだ、おまえは」

まわりくどいことは好きではない。ベジータは意図を質した。

「父親の自覚もない人が親だと、こっちのトランクスが不憫でしょう」

「フン、そんなもの」

「でも即時に認めたから、ちょっと安心しました」

超サイヤ人になれるという条件なら、もう一人父親になり得る人物がいるけれど、その可能性を一切認めず、自分だと断言したのだ。そういう気持ちがあるならば、こちらのトランクスの将来には希望が持てる。

「あいつが、オレ以外の男のガキを産むと思うか?」

その点においては、絶対の自信を持っているらしい。プライドに賭けて宣言した父親に、未来の息子はどう反応するべきか迷った。

「……それ、本気で言ってるんですか? のろけですか?」

調子に乗って想定外のことまで口走ったベジータは、ハッと我に返る。そして気を取り直そうと食卓へ目を向けた。

「おい」

「なんですか?」

「このガキ、食い物の上で寝てやがるぞ」

「…あ」

二人の口論のきっかけになった赤ん坊は、肉の塊に身体を預けたまま、よだれを垂らして眠っている。どうやら待ちくたびれてしまったようだ。

「なんてガキだ」

ベジータが仕方なく赤ん坊の首根っこを掴んで持ち上げると、手はしっかりと肉を抱きしめたまま離さない。食べ物に対する執着は、さすがにサイヤ人譲りだ。

「そっちを持て。引きはがすぞ」

肉を手放さない赤ん坊に対し、ベジータはトランクスに協力を求めた。二人がそれぞれ肉と赤ん坊のトランクスを持って引き離そうとしたとき。

「……なにやってるの、あんたたち」

ダイニングルームにやってきた人物が、目の前の光景に唖然とする。

「か、母さん!」

トランクスとベジータは、突如出現したブルマに驚き、慌てふためいた。

「トランクスがお腹を空かせてる頃だと思って様子を見にきたら…あんたたち、なに考えてるの。あたしのトランクスになにしてくれてるの。トランクスは――――あたしが産んだトランクスは、まだ赤ん坊なのよ! 生後六ヶ月の乳児に、なんてものを食べさせようとしてるのよ!」

「これは、このガキが…!」

「違います! 誤解ですって、母さん」

状況から我が子に対する二人の行動を完全に誤解してしまったブルマは、ベジータとトランクスの弁解も聞かず、二人に怒りの鉄槌を下した。

 

遺伝子の不思議

 

人造人間を吸収したセルが完全体となり、恐るべき強さを手に入れた翌日。己の強さを世界に知らしめるため、セルは武道大会を開くことを提案した。詳細は近いうちにテレビを通して伝えると告げられ、仲間たちは朝からテレビ画面と向かい合っている。

西の都のカプセルコーポレーションでは、トランクスがその任を負っていた。ブルマとブリーフ博士は十六号の修理で手が放せない。細部が緻密な構造設計で作られているため、片手間にできることではなかった。しかしブルマとしても、完全体となったセルには関心がある。

あの古いタイムマシンのそばにあった奇妙な形のタマゴ、それから生まれたものが成長して完全な姿を得たという。一体どんなものに変化したのか興味に駆られた。そのため、修理作業をしている研究室にテレビを運んでもらい、トランクスはそこでセルの出現を待っている。なにか異変があったとき、ブルマがそれを見られるように。

「ちょっと倉庫に行って、足りない部品を調達してくるよ」

二時間後、ブリーフ博士が休憩を兼ねて研究室を出ると、ブルマも工具を置いて一息入れた。

「あたしもトランクスの様子を見てくるわ」

いかに優秀な科学者親子とはいえ、一朝一夕に完了するものではない。ブルマは自分が産んだ赤ん坊の面倒を母親に任せきりだった。

「まだ現れないわね、セル」

「そうですね」

今のところ、テレビ画面に異常は起こっていない。

「あんたもずっとテレビを見てたら疲れるでしょ。コーヒーでも持ってくるわ」

「いいですよ、母さん。そんなことは自分でやりますから」

精密な機械と向き合っていることに比べたら、自分の労力など些細なもの。それに元来の性分も加わって遠慮するトランクスだが。

「遠慮しないの。子どもは親に甘えていいんだから。こっちのトランクスにミルクをあげてくるから、ついでみたいなものよ」

快活に言い放つと、ブルマは行ってしまった。

(赤ん坊と一緒にしないでほしい…)

青年のトランクスは心裡で思うが、面と向かって言えるかといえば…未来でも過去でも、トランクスは母親に敵わない。自分をこの世界に産み出してくれた人というのは、やはり特別だった。

「セルの野郎はまだ現れないのか」

そこへ、ブルマと入れ違うようにベジータが入ってきた。ここは日常暮らしている自宅なので、普段着らしいラフな格好。見慣れた戦闘服姿でない父親は、トランクスにとって新鮮だった。

「ええ、今のところは」

トランクスは答えながら立ち上がる。父が来ると思ってなかったので、椅子はひとつしか用意していない。生まれがサイヤ人の王子なので、ベジータはさも当然のように椅子に腰を下ろした。

「母さんはさっき、赤ん坊のオレの様子が気になるからって」

この状況を説明するトランクスだが、そんな必要もないベジータは一蹴した。

「そんなことはどうでもいい」

ベジータからすれば、ブルマの居場所など気配を追えば把握できる。そこまで解説する筋合いもなく面倒だったので省略したが、その背景を知らないトランクスには冷ややかな対応に映った。

「…父さん」

「なんだ」

「母さんと赤ん坊のオレは、父さんにとって『どうでもいい』存在なんですか?」

厄介なことを問いかけてきた未来の息子に、ベジータは苦渋の表情。そういうことを当事者から詰問されること自体、好ましくない。自分の中でも測りかねている存在に明確な説明を求められたところで、本人にすら正解が判断不能な状況では、答えられないのが実情だろう。沈黙が肯定だと解釈したトランクスは、非難を込めて呟いた。

「そんな風で、よくオレが生まれましたね?」

一組の男女が深い関係になって、初めて芽生える生命が子どもだ。それなのに、現代の両親を見ていても、そういう要素をまるで感じない。

「なにをどう間違えば、オレが産まれるような状況になるのか不思議ですよ」

「――――…」

「選択を誤ったんじゃないですか? 母さん」

反論する材料が見つからず無言を貫くベジータだが、その台詞は癇に障ったらしく、ムッとした表情で口を開いた。

「……言っておくが」

「なんですか?」

「誘ってきたのはあいつだぞ」

父親から放たれたフレーズに、今度はトランクスが言葉を失った。なんと評すればいいのか、とにかく親としての神経を疑わずにいられない。デリカシーがないと言ってしまえばそれで片付いてしまうだろうが、なんにしても、子どもに対して聞かせる話じゃないことだけはたしかだ。

「………親の口から聞きたくないですよ、そんなこと」

トランクスが軽蔑の情を含んだ眼差しで告げると、

「…てめえがあんなこというからだろう」

ベジータは聞こえるか聞こえないかの声量でもらした。

「第一、そんなのは相手がいない場所ではどうだって言えるじゃないですか。もう一人の当事者が認めない限り、信憑性は薄いですよ」

「信じる、信じないはおまえの勝手だ」

正論を盾にされれば極めて不利な主張だけれど、ベジータはそれでも撤回しない。

「そもそも父さんと母さん、二人しか知らないことなんですから、お互い認識の相違があれば『真実』と信じているものが同一でない可能性だって…」

「だったら、どうすれば信用するっていうんだ?」

「だから信用する、しないの問題じゃないんです。結局のところ、『真実』なんてものは、その場を見ていなければわからないじゃないですか」

だんだんと方向性を見失い、迷走し始めた会話の流れ。トランクスは口論の原因さえ分からなくなりかけていた。

「……間違っても、見たいとか言い出すなよ?」

「見たいってなにを――――」

父親から抑揚のない声で釘を刺され、トランクスは首を傾げた。しかし、その寸前の自分の発言を思い出して意味合いを悟る。

「言うはずないでしょう。それに、どうやって見るんですか!」

「…タイムマシンがあるだろうが」

未来から過去へやってくるために利用した乗り物が、ベジータの脳裏を過ぎった。

「タイムマシンを、どうしてそんなことに使わなきゃいけないんですか。エネルギーだって未来と往復するだけでギリギリなんですよ。貴重なエネルギーを浪費するような真似…しませんからね、オレは絶対。それになにより、見たくありませんよ。そんな場面」

トランクスは怒気を露に訴えた。自分にそういう意思がまったくないことを、父親に理解してもらわなければ。息子として、そんな疑いを微塵でも持たれているのは不快でしかない。

(見たいわけないじゃないか、両親の『現場』なんて)

憤りをこらえながら、トランクスは心の中でぼやいた。自分が『作られる』シーンなんて、間違っても目撃したくない。

「なに、どうしたの。なにか揉めてる?」

そこへ用事を済ませたブルマが戻ってきた。手にはコーヒーカップがふたつ。やけに早く戻ってきたことをトランクスが怪訝に思っていると、

「こっちのトランクスったら、もう母さんにミルクをもらって寝ちゃってたわ」

様子を見に行った赤ん坊の状況を説明する。せっかくの安眠を妨げたくなかったので、ブルマはすぐに研究室へ引き返した。この場にベジータがいることを気にかけず、まっすぐトランクスの元までやってくると、片方のカップを手渡す。

ブルマからすれば、ベジータがここへ来るだろうことは予見できることだった。ベジータの部屋にはテレビがないのだから、セルの情報を知りたければテレビのある場所へ足を運ぶしかない。

「あんたも飲む?」

「いらん」

さっきまでの空気を変えるように、ブルマは訊く。コーヒーカップを掲げて問うと、間髪入れず答えた。最初から分かりきっていることをわざわざ訊くな、と表情が語っている。それを承知の上で、険悪な雰囲気を打破するための問答。意図を察したベジータは小さく舌打ちし、真意を掴めないトランクスは若干の戸惑いを見せた。

「――――で?」

コーヒーを一口飲んだブルマが切り出す。

「何の話をしてたわけ?」

彼女がこの部屋へ入ってくる直前に交わされていた会話。改めて思い出すと、両者は必然的に口が重くなった。

「ええと、それは……」

「なによ。あたしには話せないようなことなの?」

言いよどむトランクスに対し、好奇心に満ちたブルマは詮索を続ける。

「男同士の会話とか?」

「違いますよ」

「じゃあ、なんなの?」

ブルマの追及に怯むトランクスは、父親を伺った。眼差しが「余計なことは喋るな」と言っている。しかし母親を相手にして、ごまかしが通用したことは一度たりともない。未来だとしても現代だとしても、結局は同じ人間なのだから。

「その…タイムマシンはエネルギーに余裕がないから、他の用途に使わないと」

話の最後の部分を最低限に切り取って、トランクスは説明した。まさかあのやりとりを、最初から順を追って話すわけにもいかない。

「他の用途って? タイムマシンで行きたい時代でもあるわけ?」

「あ、いえ…そういうわけじゃ」

「なによ、はっきりしないわね。男なら潔くあるべきだわ。正直に教えなさい」

ブルマの断固たる態度に、未来の母親を思い出す。超サイヤ人の強さを持つ己にとって、絶対に勝ち目がないと思わせる、それが自身を産んでくれた母親という存在なのだろう。逃げ道はないと悟ったトランクスは、嘆息しながら観念した。父親はあくまで喋るなと気配で威嚇していたが、それを振り切り告白する。

「…だから、父さんと母さんの話ですよ。どうしたらオレが生まれるようなことになるのかって。いくら当事者から話を聞いたって、その場面を見ない限りはわからないって言うと、タイムマシンで見てくる気じゃないかという話になって…。言っておきますが、オレはそんなことにタイムマシンを使ったりしませんからね」

最初はぎこちない口調で、だが後半は自らの潔白を主張すべくきっぱりと、トランクスが会話の要約を告げれば、ブルマは平然とした様子で。

「なんだ、そんなことか。あんた知らないの? そういう知識はまだ?」

どうやら理論的なことと解釈したらしい。

「知ってますよ、それくらい。――――そうじゃなくて。そういう意味じゃなくて…物理的なことじゃありませんよ。父さんは修行で長期間、この家を離れていたことだってあるのに」

トランクスがここへやってきてから知ったこと、明らかになった事実があった。

「最初の頃は重力室で修行してたし、外へ出るようになってからも、食糧がなくなったら戻ってきたから、頻繁に家へ帰ってたわ。それにタイミングが合っちゃえば回数は関係ないでしょ?」

「おいっ!」

あまりの露呈ぶりに、我関せずの様相で聞き流していたベジータも黙っていられず声を上げた。そういう方面には奔放な、奥ゆかしさとは無縁の女なので、ベジータの前でも平気で遠慮のない発言をしていたけれど。二人きりじゃない場所、別次元とはいえ実子の前で度を過ぎている。

「か、母さん…」

あられもない母親の発言に、トランクスは頬を赤らめながら困惑した。けれどブルマは淡々と、問題の趣旨を把握してしまう。

「つまりあんたの疑問っていうのは、どっちが押し倒したのかってこと?」

ズバリ的中。トランクスは頭を抱え、ベジータは椅子からずっこけた。そんな繊細な男たちの反応すら眼中に入れず、ブルマは顎に手を当てて考え込む。

「そうね。どっちが先かって言われたら難しいわね。まさかそのときの挙動を逐一説明するわけにもいかないし。まあ、当事者の説明ではどうしてもお互いの主観に左右されちゃうから、手っ取り早いのは現場を見ることに違いないけど」

何の支障もないような顔で、現実的な解決方法を口に出すブルマ。それを聞いてベジータが黙っていられないのは、もう一人の当事者だから。

「いい加減にしろ! 冗談にも限度がある」

いつもの軽口だと思って放置していたら、ろくでもないことを言い出した。今にもかみつきそうな勢いで怒鳴るが、それでおとなしく納得するような性格ではない。

「別にいいじゃない、見られたって。息子なんだしさ」

涼しい表情で語ったブルマに、時空を超えた親子は同時に叫ぶ。

「ふざけるな。ガキだろうと見られてたまるか!」

「オレも嫌です。見たくありませんよ!」

耳まで赤くなっている父子の共通点を発見したブルマは、小さく笑った。鋭い目つき以外に、ちゃんと親子らしく似ている部分を見つけられたことが嬉しい。

「なに笑ってやがる」

「母さん、ちゃんと聞いてます?」

苦々しく呟くベジータと、遠慮がちに言い聞かそうとするトランクス。妙なことで意気投合している父親と息子を見ていると、なんだか悔しい気分になる。ブルマは最後にもうひとつだけ、事実を暴露させた。

「結構楽しいかもしれないわよ。このしかめ面が余裕のない必死な顔になるところとか、面白いんだけどな」

そのときの断片を語られ、挙句に「面白い」などと評されたベジータは、これ以上ないという真っ赤な顔で拳を震わせると、一目散に逃走した。力ずくでブルマの口を封じられないため、逃げる以外に術はない。

「………父さん」

父親の気持ちも多少は理解できるので、同情するトランクス。もしかすると、未来世界の両親もこんな風だったのだろうか。疑問に思ったが、答えを知るのが怖い気がして考えることをやめた。

「逃げ出すことないのに」

「母さん、あんまりですよ。まさか本気で?」

トランクスは大きなため息をもらしながら質す。

「もちろん冗談よ。さすがにそこまでは、あたしだって」

迷いもなく否定した母親。息子としては、とてもじゃないが理解しかねる。

「だったら、どうしてあんなこと言うんですか?」

「あんた、あたしの子なら冗談通じると思ったのに。予想外だわ」

なんともいえない答えを返されて、トランクスは脱力した。

「たしかに、オレの半分は母さんの遺伝子で構成されてますけど、残りのもう半分は父さんの血を引いてるんですよ? その手の冗談は受け流せません。真に受けてしまいますよ」

「あ、そっか。なるほど」

そんな当たり前のことに、ブルマは今さらながら気づく。トランクスの主張に納得しつつ、科学では解明できない事案を訝しそうに呟いた。

「遺伝子のバランスっていうのかしら? 不思議よね」

 


 
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