No.803487

「VB DAYS 1」

蓮城美月さん

ベジータ×ブルマ、人造人間編前のエピソード。
ダウンロード版同人誌のサンプル(単一作品・全文)です。
B6判 / 076P / \200
http://www.dlsite.com/girls/work/=/product_id/RJ161561.html

2015-09-21 19:28:22 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2590   閲覧ユーザー数:2590

◆CONTENT◆

 

場所の問題

サービス

透明人間現る?

余計なお世話?

ベジータの悪夢?

負けず嫌い

かんちがい

勉強熱心?

 

サービス

 

人造人間との戦いに向けて、戦士たちは修行に励む日々。カプセルコーポレーションに居候しているサイヤ人の男も、強くなるために激しい鍛錬を自らに課している。重力室でのトレーニングは一定の段階まで到達したため、ベジータは数週間前から外へ訓練に出ていた。朝食のあとに出かけては、その日の夜に帰ってくる。

そんな毎日が続いたある日のこと。いつもより帰りが遅いのが気になって、彼女はバルコニーで待っていた。星が輝く漆黒の闇に、なにかがきらりと光る。なんだろうと目を凝らすと、その光はどんどん近づいてきた。それが待っている男だと気づいたのは、ブルマの視力で姿が捉えられてからのこと。

ベジータはカプセルコーポレーション上空までやってくると、急降下した。バルコニーへ着地した相手にブルマは「おかえり」と声をかけるが、なんだかいつもと様子が違う。空気が張りつめている。普段のベジータなら、振り向いて一言くらいはあるのだが、そうすることなく自室へ足を進めた。その態度が気になって、ブルマはあとを追う。続けて窓からベジータの部屋へ。

「……大丈夫?」

控えめに訊ねると、ベッドに腰を下ろしていた相手は苦々しい表情を浮かべている。

「喋りかけるな。集中力がいるんだ」

余裕のない眼差しを訝しんだブルマは、状況に困惑し「なにが?」と訊いた。すると不意に金色の光が放たれ、暗い部屋を一気に明るくする。

「な、なにこれ?」

ベジータの身体から発するオーラに、ブルマは驚きを隠せなかった。

「うるさい」

「これってもしかして、超サイヤ人ってやつ?」

「見ればわかるだろう」

ぶっきらぼうに答えるベジータは、手のひらを見つめながら意識を集中させているようだった。

「くそったれ。コントロールが利かん」

思うように制御できない力に、自身を抑えながら精神を研ぎ澄ます。息を呑んで見ていると徐々に金色の光は薄れていき、やがて通常に戻った。

部屋が薄暗くなったため、ブルマは照明のスイッチを入れる。明るく照らし出された下に、ベジータが疲労感を漂わせた。相当の集中力を要求されるため、疲労もそれに比例するのだ。

「…すごい」

「なにがだ?」

力を制御するのに疲弊したベジータは、怪訝そうに顔を上げる。

「よかったじゃない、ベジータ!」

すると、ブルマが勢いよく抱きついてきた。

「なっ、なんだ!?」

うっかり押し倒されそうになったベジータは、慌ててブルマを引きはがす。

「なにって…一緒に喜んであげてるんじゃない」

味気ない対応に首を傾げた。

「離せ!」

「なんでよ?」

「いいから、離れろ!」

人が祝っているというのに、その態度はなんだろう。照れ隠しでもないベジータの反応に、ブルマはちょっとだけ腹立たしくなる。

「あんた、よくそんな台詞が言えるわね。いつもあたしが『離して』って言っても離してくれないのはどこのだれ?」

「今はそんな話を――――」

困惑気味に言いかけたとき、男の身体が再び金色に光りだした。

「あれ?」

「だから言っただろうが! 喋りかけるな、離せと。まだ力を制御できないんだ。余計な手間をかけさせるな」

「だって…あんたが超サイヤ人になれたの、嬉しかったんだもん」

はにかんで呟くブルマに、ベジータは舌打ちする。もう一度精神を集中させ、数分かかって元の状態に戻った。まだ自由自在に変身できないため、かなり疲れる作業だ。早いうちに超サイヤ人の力を自分の意思でコントロールできるようにならなければ…。ベジータはパワーの制御を明日からの課題とした。

「……疲れた。もう寝る」

疲労感を漂わせた言葉に、ブルマは異論を訴える。

「もう寝ちゃうの? あんたが頑張って超サイヤ人になれたお祝いに、今日はいっぱいサービスしてあげようと思ったのに」

指を顎に当てて残念がる仕草に、ベジータは一瞬だけ迷い、そして判断を下した。

 

透明人間現る?

 

未来から来た少年が告げた、人造人間が現れる日まで一年半あまり。ウーロンは久しぶりにカプセルコーポレーションへ顔を出した。ブルマと別れたヤムチャがプーアルと共にあの家を出てしまったことで、居心地が悪くなったウーロンもまた、気ままで優雅な居候生活に別れを告げた。

「あら、ウーロンちゃん。いらっしゃい」

「久しぶりだな、ウーロンくん」

居候がいなくなって退屈していたブルマの両親は、ウーロンを歓迎してくれる。

「あ、あの…あいつは?」

ゆっくりしていってと微笑まれても、すぐに是とは言えない。ウーロンは周囲を見渡しながら、怖れる人物がいないか警戒した。

「ブルマさんなら、どこかにお出かけしたわよ。夕方までには戻ると言ってたけど」

「いや、ブルマのことじゃなくて…ベジータは?」

かつて、自分がこの家での気楽な居候を泣く泣くやめることになったのは、あの凶暴なサイヤ人が原因である。人造人間を倒すためだか、悟空に勝つためかは知らないが、タイムマシンでやってきた青年の話を聞いて以来、己の身を削るような特訓を重ね、鋭い殺気をまき散らしていた。

同じ家の中でいるだけなのに、その恐ろしいまでの空気は心臓に悪い。いざとなったら防波堤くらいにはなると思っていたヤムチャが、ブルマと破局したことでこの家から出て行ってしまい、ウーロンは途方に暮れた。下手に機嫌の悪いときに顔を合わせて殺されでもしたら…という不安に耐え切れず、長年居座ったこの家を離れる決心をしたのだ。

「ベジータくんなら、最近は外で修行しているよ。朝食を食べたあとに出て行って、日が暮れるまでは帰ってこんよ」

ブリーフ博士の言葉を聞いて、あからさまにほっとするウーロン。ベジータさえいなければ、気兼ねなくくつろげる。

「ウーロンちゃん。せっかくだから、お夕飯を食べていってね」

ブルマの母親の誘いに対し、ベジータがいない安心感に駆られて頷いた。

「そうじゃ、ウーロンくん。わしの研究室に来ないか? 見せたいものがある」

 

博士に誘われたウーロンは、メカなどが置かれている一階の広い研究室ではなく、細かい作業や個人的な趣味に使う第二研究室へ案内された。この部屋には、博士が蔵書する珠玉のエロ本や厳選映像が隠されている。居候時代は博士と二人でそれらを鑑賞し、満喫したものだった。

「これなんだがね」

作業用のテーブルに置かれた複数のビーカー、試験管。その傍らには、一部が変色した衣服や植物が散乱している。

「なにかの実験…?」

基本的に機械関係の技術に優れている『科学者』のブリーフ博士だが、まれに別方面の『化学』も研究することがあった。それは公益目的でなく、極めてプライベートな用途のため。博士の好奇心と前向きな欲求、世界の男が抱く夢のためと言っても過言ではない。

「これこそ、男の永遠の夢じゃよ」

「…え、永遠の夢?」

思わせぶりな笑みに、ゴクリと唾を飲んで次の句を待つ。

「透明人間になれるという、画期的な発明なんだがね」

「――――透明人間!?」

明かされた内容にウーロンは仰天した。

「物質を透明化する液体を身体や服に塗ると透けてしまい、だれの目にも映らなくなる」

男にとっては世紀の大発明を、ブリーフ博士は淡々と語る。

「そんなすごい発明を完成させるなんて…!」

本当に透明人間になれたら、あんなことやこんなことが…と、妄想して興奮するウーロンだが、それは刹那の夢だった。

「うん。完成すれば、すごいことだが…。残念なことに、どれかの配合が間違っているようでな」

「へっ?」

「つまり、未完成なんだ」

目の前に広がるおかしな色の衣服や植物は、実験失敗の産物らしい。

「何の配合を間違えたのか…。惜しいなあ」

博士はコーヒーカップに手を伸ばすが、中身はすっかり冷めてしまっていた。カップを置くと、新しいコーヒーを淹れてくると言い残して部屋を出て行く。

「なんだよ。完成してないなら、見せびらかしたりするなよ」

拍子抜けしたウーロンは、並んだ数々の試験管を見比べた。

「こんなの、適当に混ぜちまえばいいんじゃねえのか」

ひとつのビーカーを手に取り、かざすように真上で容器を振ってみる。無色の液体が大きな波を立てて揺れた。何本か立てかけられた試験管に手を伸ばそうとしたとき、ビーカーの液体がこぼれてしまう。慌てて手を伸ばした瞬間、弾みでコーヒーカップが横に転がった。机の上で透明な液体と黒い液体が混ざりあう。

「やべえ!」

まだ実験途中なのに大変だと、そこにあった布切れで液体を拭いていく。奇妙な色合いのタオルは、コーヒーの色を吸って黒くなる…はずだった。ところが色がつかない。というより、そこだけ見えなくなっている。

「ん? あ、あれ…?」

理解できない現象に、ウーロンは首を傾げた。タオルを掴むことはできるので実体はある。それなのに見えないなんて。その瞬間、脳が事実を認識する。これが物質を透明化させる――――透明人間になれる発明なんだ。そうと分かれば、ウーロンの行動は早かった。

残っていたコーヒーと液体をビーカーの中で混ぜ合わせ、植物で試してみる。透明化を確認し、自分の手に少量塗ってみた。塗布された部分だけ消える。それから全身と服に塗りたくり、ついにウーロンの身体は目に見えなくなった。鏡で自分の姿を映してみる。――――なにも映らない。

「やったぜ! オレって天才じゃないのか?」

偶然の産物によってもたらされた幸運。ウーロンは感動に打ち震える。これで着替えや風呂を覗いても、絶対にばれないと歓喜した。

「お待たせ、ウーロンくん」

そこへコーヒーカップを持った博士が戻ってくる。しかし、博士の目にウーロンの姿は映らなかった。キョロキョロと部屋の中を眺め回すも、だれもいない。

「おや、どこへ行ったのかな?」

自分の存在は完全に認識されていない。透明人間になれたことを確信したウーロンは、こっそり部屋を抜け出した。ブルマの母親のそばを通り過ぎ、室内庭園の動物に気配は察知されるものの、何者が相手であろうとウーロンの存在を目撃されることはなかった。これならば、どんなことをしても自分の仕業だと知られることはない。

「そうだ!」

透明人間になってできることを考えたウーロンは、ひとつの目的を見出した。本人はまだ帰ってきていないはず。このチャンスを逃す手はない。あちこちで時間を費やしたため、そろそろ夕方が近づいていることも忘れ、ウーロンは五階にある部屋を目指した。

 

主のいない部屋にはロックがかかっていなかった。忍者のような挙動で部屋に侵入したウーロンは、目的のクローゼットへ向かう。

「相変わらず雑然とした部屋だな」

居候当時、下着を盗むために何度となく忍び込んだ部屋。かつてと同様の風景を見て、呆れ混じりに呟いた。部屋の広さは通常の三倍あるのに、いつも衣類や書類があちこちに散乱していた。

それでも多少は整理整頓の術を身につけたのか、過去よりは若干、部屋が片付いているように見える。デスク周辺は発明品や書類が山積みになっているが、全体的に整然としていた。

以前は衣服が乱雑に放置されていたベッドは、いつでもその用途を果たせるように整えられている。床にあった靴や装飾品、脱ぎ捨てた服も見当たらない。女らしい部屋とまではいかないが、少なからず改善されているのはいい傾向だろう。

(いや、そんなことより下着が先だ)

気を取られていたウーロンが目的を思い出す。ここには下着を盗むためにやってきたのだ。すぐさまクローゼットに突き進むと、下着の入った引き出しに手を伸ばした。

(久しぶりだぜ、こういうスリル)

ベジータが居候として定住してから、近くにあるブルマの部屋には以前のように立ち入れなくなってしまった。かつては下着を盗みに侵入し、捕まってはひどい目に遭ってきたが、ブルマが凶悪なサイヤ人を拾ってきてしまったため、ウーロンは日々の楽しみを失ってしまったのだ。そしてこの家を出ることになって、溜まっていた鬱憤のようなものもある。それを晴らさんと、下着の物色に没頭していた。

「ああ、疲れた」

部屋のドアが突然開いたかと思えば、その声が足音を伴って入ってくる。

(ブ、ブルマ! もう帰ってきたのか!?)

ブラジャーを手にしていたウーロンは挙動を止めた。帰ってくるのは夕方だと言っていたのに。動揺したウーロンが窓の外を見る。太陽が傾き、赤い色が部屋を染めていた。透明人間になれたことに浮かれ、楽しんでいる間に時間は過ぎていたらしい。

(やばい…。見つかったら、どんな目に遭うか)

姿は透明化して見えないにしても、ここには下着が散乱している。何者かが侵入したことは一目瞭然だ。現在は位置関係から荒らされたクローゼットは見えないけれど、彼女がこちらへ来たら気づかれる。ウーロンは物陰からブルマの様子を伺った。荷物を机の上に置くと、上着を無造作にソファへ投げ捨てる。

 

一方のブルマは、シャワーを浴びようと踵から脱いだ靴を転がし、時計やイヤリングを外した。今まではピアスだったが、ある理由からイヤリングに替えたため、外すのが面倒で仕方ない。

その原因である男も汗を流している頃だろう。彼女がフライヤーをカプセルに戻していたとき、バルコニーから自室へ入っていくのを目撃した。夕食の時間までに戻ってくるということは、修行は順調らしい。超サイヤ人になってからは、以前のように根をつめることがなくなり、大きな怪我もしなくなったので安心していた。その代わり、男が余剰な体力を残していた場合、消耗につき合わされるのは彼女なので、それだけが近頃の悩みだった。

「まったく、こっちの身にもなってほしいわ」

日頃の不平を呟くと、彼女は着ていた服の裾に手をかけた。

 

ゴクリ。ウーロンは生唾を飲み込んだ。心臓の音は期待に高鳴っている。透明状態なのに身を潜めてしまうのは長年の習性か、自らのやましい心がそうさせているのか。

ブルマはシャワーを浴びるらしく、服の上下を順番に脱いでいった。今、彼女の身体を覆っているのは、ラベンダー色の下着のみ。

(いいぞ。このままブラジャーとパンツも脱いでくれ!)

相変わらずスタイルのいい身体に、昂る気持ちを抑えられない。ウーロンはいやらしい視線で彼女の肢体を凝視する。

(ちょっと遠いな。もっと近くで見たい…)

その欲望には勝てず、ウーロンは忍び足で歩き出した。視線は一秒も彼女からそらさず、こっそりと接近する。なぜか考え込んだ様子のブルマが、ようやくブラジャーのホックに手を伸ばした瞬間。ウーロンの足がベッドに敷かれたシーツを引っかける。そのまま転がり込んでしまい、ふわりと舞ったシーツがかぶさってしまった。

「な、なにっ!?」

突然の異変に、ブルマは手を止めて驚愕する。なにもないはずの空間に、シーツだけが勝手に動いてめくれた。さっきから変な気配を感じていたのだが、部屋の中にはだれもいない。気のせいかと思った寸陰にこの事態だ。薄い布切れのはずのシーツが、おかしな形状をしてうごめいている。そこに人の姿などなかったのに…まるでオバケみたいだ。

その考えに至ったとき、彼女は青ざめて部屋を飛び出した。地球で最高レベルの頭脳を持つ者としては、科学で解明できないことはないと思う。でも今は、突発的なことでなにも考えられない。あれがオバケだか、科学を超えた不思議現象だとしても、とにかく怖い。彼女は全速力で一番近い部屋に駆け込んだ。

 

「――――ベジータ!!」

部屋に戻ったあと、シャワーで汗を流した男は、肩にタオルをかけた上半身裸の格好でミネラルウォーターを飲んでいた。部屋のドアが開くなり駆け込んできた女を目の当たりにしたことで、口にしていた水がのどに詰まって咳き込む。

「な、なんて格好してやがる!」

あられもない、とはこういうことを指すのだろうと男は思った。上下とも下着一枚で、それ以外なにもまとっていない。部屋の中でならまだしも、廊下をこの姿で歩くなんて下品すぎる。

「部屋に…あたしの部屋に変なのが、オバケみたいなのがいるの!」

男の苦言などまるで耳に入っていない彼女は、切羽詰まった様相で訴える。

「お願い、なんとかして!」

たくましい腕にしがみついて、ブルマは懇願した。あんなわけの分からないものは、この男にやっつけてもらうに限る。

「なんだ、一体…」

唐突な女の来訪に、ベジータは眉根を寄せた。修行から帰ってきたとき、女もどこかから戻ってきたらしいのは、目に入っていたので知っていた。どうせ夕食の席で顔を合わせるから、わざわざ部屋を訪れてまで「おかえり」と言うことはなかった。女の格好から察するに、着替えようとしていたところになにかが起きたようだ。

「部屋に戻ってシャワー浴びようと服を脱いでたら、すごくいやらしい視線がしたの。でも部屋の中にはだれもいなくて…。気のせいかなと思ってたら、突然シーツが勝手に動き出して。あれ…変態のオバケかなにかかしら。とにかく追い出して!」

縋りつく男の腕に、ブルマは両方の腕を絡ませた。ちょうど腕に胸が当たる形となり、男は顔を赤らめる。

「あまり近づくな」

見ないように意識するものの、やはり男である性なのか、視線は胸の谷間を捕らえていた。そのやわらかさから腕を引き抜こうとしても、本能が拒否する。しかも、怯えた彼女がしっかり掴んで離さないため、逃れる術はない。このままだとやばい、少し離れないと…。男が冷静さを維持しようと躍起になる傍ら、女はそんなことなど露知らず。

「ねえ、ベジータ。お願い」

甘えるように切願する。やめろ、そんな猫撫で声を使うな。理性が揺さぶられる中、男は懸命に自制を強いた。

「……とにかく、なにか着ろ」

腕を引きはがしたベジータは、バスローブを放り投げて着るように促す。彼女が背後で袖を通している間、密かに動悸を抑えた。女の下着姿など、それ以上を知っている身の上で動揺することはない。しかし、最中以外でああいう姿を目撃するのは…正直、弱った。

 

(しまった、ばれちまった!)

欲望に負けて自分の存在を露見する羽目になったウーロンは、蒼白の表情。透明化しているため姿は目撃されていないが、博士から話を聞けば、犯人が自分だと判明するのは時間の問題だ。

まずいことになった。早く逃げなければ。しかし、ブルマが階下に人を呼びに行ったのだとしたら、多少は時間が稼げる。どうせ痛い目を見るのなら、下着の一枚くらいは持っていこう。戦利品として、それくらい持ち帰らないと割に合わない。

まずは、身体にまとわりついたシーツから抜け出さなければ…。バタバタと暴れたため、尋常でない絡まり方をしているようだ。ウーロンがシーツを相手に悪戦苦闘していると、廊下から足音が聞こえてきた。やがてそれは大きくなり、この部屋の前で止まる。

ブルマのやつ、戻ってくるのが早すぎる。心の中で叫んだものの、戻ってきたなら仕方ない。隙を見て横を通り抜けるか、窓から逃げ出すか。嫌な予感がしつつも、ウーロンはまだどうにかなると思っていた。シーツの中であがいていると、ようやく隙間から視界が開けた。部屋の扉が勢いよく開く。そこには、予想外の人物が立っていた。

(ベ、ベジータ!)

あまりに衝撃的な展開に、ウーロンの脚がすくむ。おいおい、どうしてベジータなんか連れてくるんだ。それにベジータも、なんでくるんだよ。ブルマの頼みなんか、無視するような男だと思っていたのに。自分がこの家を離れてから、多少は馴れ合うようになったとでもいうのか。

だが今は、そんなことを考えている場合じゃない。早く逃げよう。ベジータが相手では、本当に殺される。ウーロンは身体に絡んだシーツから逃れようと、死ぬ気で抗った。

 

ブルマは男の背後から自分の部屋を覗き込む。ベッドの傍らで、シーツが異様な動きを見せていた。まだお化けもどきはそこにいるらしい。

「本当に、だれの姿も見えなかったの」

ブルマの証言を聞きながら、ベジータは鋭い眼差しで部屋を見渡す。うごめくシーツ以外に異常はない。問題は『姿のない』とされるその存在。

ブルマはお化けだと言っていたが、男はその可能性を否定した。気配を察知することができる者に、小手先のトリックなど通用しない。なにかがいることは簡単に分かった。しかも、この気配には覚えがある。どうやったかは知らないが、姿を消して忍び込んだのだろう。

ベジータが冷ややかに笑ったのを見て、彼女は悟った。男がこの怪奇現象の正体を見破ったのだと。目に映らない『なにか』は身動きが取れないのか、シーツが妙な形で動き続けている。男はそれに近寄ると、シーツを裂いてなにかを掴んだ。なにもない空間に見える場所だが、たしかに物質が存在している。手触りからして、これは耳らしい。ベジータは遠慮なくそれを引っ張った。

「いてえ!」

必死に恐怖と戦いながら沈黙を守っていたウーロンは、ちぎれるほど耳を引っ張られ、思わず声を上げる。足が地に着いていないのに、痛みのあまり右往左往していた。

「えっ? 今の声…」

聞き覚えのある声だ。ブルマはその空間に目を凝らす。ベジータは悪あがきする相手をおとなしくさせようと、周囲を見回した。手の届く場所に花が飾られた花瓶がある。それを手にすると、適当な力で振り下ろした。陶器が割れる音がして、花瓶が四散した。まるで芸術のように鮮やかに飛び散った花、流れ落ちる水。本来なら重力に従ってまっすぐ流れるはずの水は、人型を描きながら床に滴る。その水の流れの頂から、肌色の物体が浮かび上がってきた。

「ふん。やはりおまえか」

「――――ウーロン!」

全身がびしょ濡れになったせいで、液体の効力がなくなったらしい。痛みに頭を抱えたウーロンの姿が露になっていった。

「オレの姿が…!」

透明化が解けたことを知り、姿見に映った己の身体を直視する。こうなってしまえば、もう逃げられない。

「なんなの。どういうこと?」

いきなり姿を現したウーロンに、ブルマは一驚した。

「おまえの父親の発明だろう」

「とうさんの?」

ベジータが語る推測に、実の娘としては頭を抱えずにいられない。

「つまり物質を透過させる――――透明人間になれる発明、ってことね?」

科学や化学の範疇になれば、理解力は常人の百倍はあるブルマだ。目の前で起こった現象を、的確に分析してみせた。

「もっとマシな、人に役立つ発明をしてよ。とうさん…」

自分の父親のスケベ心から発生した事態に、ブルマは脱力を禁じえない。

「……で、あんたはその発明を悪用して、あたしの部屋でなにをしてたわけ?」

話の矛先が自分に向き、ギョッとするウーロン。

「あ…ええと、その」

うまい言い訳はないか脳をフル稼働させるが、凶暴なサイヤ人がいるせいで、頭はろくに動いてくれない。

「人が服を脱いでるところ、ずっと見てたわね。下着姿まで。いやらしい、ねちっこい視線がしてたのは、やっぱり気のせいじゃなかったのか。もう少しで全部脱いじゃうところだったわよ。ああもう、危機一髪」

ブルマが怒り心頭にウーロンを睨む。

「あたしの身体は、あんたみたいな変態豚のために磨いてるんじゃないの!」

刹那、生命が縮むような冷たい刃が突き刺さった気がした。全身が総毛立ち、呼吸がうまくできなくなる。彼女の怖さは昔からよく知っているが、ここまで生命の危機を感じたことはない。つまり、これはブルマからの波動ではなく…。

「あたしが帰ってくる前からこの部屋にいたってことは――――」

身動きの取れないウーロンを傍目に、彼女は腕組みして推理する。そして思い当たったことを確かめるべく、部屋の奥へ足を踏み入れた。予想どおり、クローゼットが荒らされていた。

「なるほどね。下着を盗もうとしてたわけか」

冷ややかな視線を注がれ、反論の余地もない。おまけにベジータから凍るような冷気を浴びせられ、言葉がうまく出てこなかった。

「ベジータ。これ、焼き豚にしちゃっていいわよ?」

今回のことは、彼女の父親が加担しているとはいえ、性質が悪い。相当なお仕置きをしないと、このスケベな豚は同じことを繰り返す可能性がある。ほんの少しくらいは不愉快な思いをしているだろう男に、彼女は軽く提案した。

「いらん、まずそうだ。食えたものじゃないだろう」

(焼き豚って、食うつもりだったのかよ!)

男は応諾しないものの、ウーロンは安心などしない。言葉と裏腹の殺気を、ずっと感じているから。口に出す内容と態度がまるきり違っているのだ。ベジータの内意は、本当に焼き豚になるかと薄笑っている。

自分だけに絞り込まれた気配は、かつてウーロンがこの家にいた頃、周囲の人間すべてに振りまかれていたあの禍々しいそれとは違う。あの頃は目が合っただけで殺されると怯えていたが、それはまだマシだったのだ。現在向けられているものは、精神的に参りそうなほどの殺気。

それがどうしてなのか。そしてベジータに対して、親しそうに話すブルマ。浮かんできたこの疑問を、深く考える余裕はなかった。もしもウーロンが注意深く二人を観察していたら、一年半後に知ることになる衝撃の事実を、いち早く察していたことだろう。

 

「もう二度としません」

平謝りしたウーロンが、脱兎のごとく部屋から逃げ出す。ベジータに脅しをかけてもらったことで、効果があったようだ。

「畜生。覚えとけよ!」

遠く離れた廊下から、捨て台詞を残すところがウーロンらしい。直後に、急いで階段を駆け下りる音がした。

「まったくもう、ろくなこと考えないんだから」

オバケ騒動のあっけない顛末に、ブルマは肩をすくめる。

「くだらないことにオレを巻き込むな」

不機嫌な表情を浮かべた男は、ぶつくさと文句を言った。

「なによ。あたしの裸、ウーロンに見られてもいいの? あのスケベな豚に、全身舐めまわすように覗かれるところだったのよ?」

答えたくないベジータは、無言で顔を背ける。

「下着だって盗まれるところだったし。あんたは下着の中身にしか興味ないんだろうけど」

「――――!」

あけっぴろげな発言に抗弁は空回り。こういうことを口に出すと、目の前の男は反論できなくなる。普段の態度からは想像もつかない一面は、彼女だけが知っている秘密。そこが面白いと思っていることは、男には内緒だ。

「…っていうか、人の部屋を荒らしてくれたわね」

ベッドやシーツの上に散乱した花、粉々に砕けた花瓶、濡れた床。花瓶の破片があちこちに飛び散って危ない。

「掃除するのは、おまえじゃないだろう」

明日の午前中にはお掃除ロボットが巡回に来るので、跡形もなく片付けてくれる。でも…とブルマは考え込む。

「ねえ、ベジータ」

「なんだ」

名前を呼ぶ声に妙な色が混ざっている。なにかを企んでいる予感がした。

「あたしは今夜、どこで寝ればいいの?」

いつのまにか隣にいた女は、腕の筋肉を細い指でなぞる。艶やかな挑発。最初の頃は自分が優位に立っていたのに、いつごろからか女も組み敷かれるだけではなくなっていた。そう簡単に思うようになってたまるか、という男のプライドのようなものが、これまで揺らぐ理性を支えてきた。

「あんたの部屋に行ってもいいわよね。こんなところじゃ寝れないし。それと、シャワーも借りるわよ」

返事も聞かず勝手に話を進められ、ベジータは思案する。あんな豚の気配にも気づかず、下着姿をさらした女の無防備さは腹立たしい。身体に教え込む必要がありそうだ。その身体がだれのものなのかを。

「勝手にしろ」

男は、表向きはぶっきらぼうに告げた。心の内では「のんきに寝られると思うなよ」と目論んでいることを、上機嫌で笑う彼女は知らない。

 


 
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