No.79649

~真・恋姫✝無双 魏after to after~side霞

kanadeさん

after to afterシリーズです
今度のヒロインは霞
それではどうぞ
あ、感想とコメント待ってます

2009-06-17 21:20:02 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:20196   閲覧ユーザー数:14629

 ~真・恋姫✝無双 魏after to after~side霞

 

 

 

 「酒につまみ、蝋燭・・・・・・・ん、全部あるな。あとは夜に一刀をひっ捕まえるだけや。せやど・・・」

 自室で荷物整理をしていた霞の独り言は静かに空気に溶けた。

 

 自室で霞が色々と考えていた時、一刀は愛刀の菊一文字で素振りをしていた。一日五百回、祖父に言いつけられていたノルマを一刀はこちらの世界に戻ってきた後も続けているのだ。

 (やっぱり、少しでも近づきたいもんな)

 ――華琳、春蘭、秋蘭、霞、季衣、流琉、凪・・・真桜と沙和はまぁ意図的に外すとして。

 とにかく一刀は彼女たちに一歩でも近づきたかった。

 「帰ってくる前は守られてばっかりだったもんなぁ。春蘭との一戦、あれはハンデと春蘭の素直さで勝てたようなものだし・・・・なっと」

 きっかり五百回が終わり、丹田に力をこめ呼吸を整える。

 三年間、みっちり祖父に鍛えられたおかげで、わずかではあるが一刀は氣を扱えるようになっていたのだ。

 ただ、この世界の武将たちに比べればまだまだと言わざるを得ない。応用こそきかせているが、体力を使うこの技術は長持ちしないのが今の一刀の欠点である。

 (まぁ、移動法に関しては今の方がいいってことがわかっただけでも収穫か)

 などと考えていたら、寝不足ですと言わんばかりの声が聞こえた。

 「ふぁ~~、あかんわぁ・・・徹夜でカラクリいじとったら朝になってもうた。・・・・・・ん あ?一刀やんけ、こんな朝っぱらから何しとるん?」

 「おはよう・・・から言えよ。・・・・・・!真桜、頼みがあるんだけど」

 「なんや?・・・あ、わかったで。もう、一刀も好きやねんからぁ・・・こんな朝はようから」

 「違う違う違う。断じて違う」

 「う・・・そないに連呼せんでもええやんけ。ちょっとしたボケやボケ・・・」

 しゃがみ込んでイジイジと指で渦を描く真桜。まぁ一刀にとってはいつものことであるので、特には触れない。ささっと話を進めることにする。

 「実はこの刀のことなんだけど・・・」

 「ちょっとは慰めて~な・・・まぁええわ。で?一刀のその武器を強化したらええの?」

 実に早い立ち直りである。

 まぁ、だからこそ一刀は何もしなかったわけだが。

 「話が早くて助かるよ。実はコイツ、早さに主体を置いている分、強度の方がイマイチなんだ。もともと打ち合い向けの武器じゃないから、みんなとの手合わせだと心許なくて・・・」

と苦笑いを浮かべる一刀。

 そう、同じ刀同士ならいざ知らず、こちらの剣と刀では力比べの時点で話にならない。

 ましてや、この魏という国には魏の大剣と言わせしめる夏侯元譲・・・春蘭がいるのだ。しかも、季衣や流琉といった大型の武器を使う子力自慢までいるのだから、素のままの刀では打ち合った瞬間に自分ごとエライ目に遭いかねない。

 霞の飛龍偃月刀とならば、暫くは打ち合えるかもしれないのだが、いつぞやの春蘭との戦いぶりを見た限りでは安心できるはずない

 「ふぅん・・・。せやけど強化する以上、多少重くなるで?」

 「うん、それは承知してるよ。だから頼んでもいいかな?」

 「ええよ。他ならぬ一刀の頼みやし、任せとき・・・・・・で、ひとつ聞きたいんやけど」

 好奇心に満ちた輝く瞳を一刀を見つめる真桜。

 あまりにもキラキラしていたその目に思わずたじろいてしまった。

 「これを基に別に一本作ってもええかな?」

 「それって、俺専用?」

 「何当たり前のこと言うてんの?この武器使えんの一刀だけやんか」

 そんなことも分からないのと軽く馬鹿にされたことにへこむ一刀。

 へこんだ一刀をバシバシと叩いて真桜は励ます。

 「と、とにかく任せてくれといてええで!」

 ドンと胸を叩いて一刀の刀の強化を真桜は引き受けてくれた。

 

 

 真桜に刀の強化を頼んだ後、真桜は自室に帰っていった。何でも今から寝るらしい。

 幸いにも彼女の仕事の一つである警羅は、昼からなので一刀はゆっくりと寝かせてやることにしたのだ。

 「少し早いけど、何か食べよう」

 朝の鍛錬ですっかり腹が減ってしまった一刀は調理場へと足を運ぶ。

 するとそこには先客がいた。

 「?おお、一刀やんかー♥おはよう!」

 「兄様、おはようございます」

 神速の張遼こと霞と、魏の国にあって華琳の舌を満足させることのできる数少ない料理人の典韋こと流琉だった。

 「おはよう。霞、流琉・・・季衣はいないんだね?」

 「あの子はまだ眠いらしくて・・・まだ寝てます。私の方はすっかり目が覚めちゃって」

 「ウチの方も似たようなもんや。んで腹減ったんでここに来てみたら流琉がおったから、随伴させてもろうとるんよ」

 「そっか。ねぇ、俺も御馳走させてもらってもいいかな?」

 「ウチは構へんよ。一刀と食べれるっちゅうのは大歓迎や。な?流琉」

 「はい、霞様♪」

 二人は揃って笑顔を浮かべるのであった。

 

 「はむ・・・・あぐ・・・んむ」

 「はぁ~・・・見といて気分ええなぁ」

 「兄様、そんなに慌てなくてもまだありますよ」

 がつがつと、ひたすら咀嚼をする一刀。お猪口片手に感心する霞と苦笑する流琉。

 なんとも微笑ましい朝の一コマであった。

 

 「ふぅ~・・・美味しかったよ、流琉。ごちそうさま」

 「はい。これだけ食べていただけたら、作ったほうとしてもとても嬉しいです」

 洗い場に食器を運んで行く流琉。手伝おうとすれば、「私がしますから」と門前払い。

取り付く島もないとはまさにこのこと。

 仕方なく席に戻った一刀が流琉を見ながら一言。

 「・・・・・・なんかこう、いいなぁ」

 その瞬間にガシャンという音がする。何事かと思えば流琉の顔は心なしか少し赤い。

 口をパクパクさせているがどうやら上手く言葉が出てこないようだ。

 霞は霞で何やら呆れている。一体何なのだろう。

 「もう!・・・兄様はどうして・・!」

 「る~る、言うだけ無駄や。この種馬に期待したらアカンで」

 ここにきて霞の参入。急に始まったこの滅多打ちモード。言葉の刃物がガンガンと一刀の心を切り刻む。

 なぜか霞がご機嫌斜めだ。一体さっきのやり取りの中で何があったのだろうか、最初はあんなにも笑顔だったのに今は少しムスッとしている。

 ――気付こうよ、御遣いさん。

 「と、とにかく・・・私のことはいいですから、霞様とお話でもしててください」

 気付かぬ一刀をよそに気付く流琉。

 ――誇っていい、貴女は立派だ。

 

 「ええねん、どうせウチは空気や。美味いメシなんて作られへんもん・・・食う専やもん」

 すっかり拗ねてしまった。こうなると中々機嫌を直してくれないのだ。

 一体どうしたものかと考えていたら、ここで流琉が救いの船を出だす。

 まったくもって、彼女はどこまでも立派だ。

 「霞様、せっかくですから今日は兄様と出かけられた如何です?」

 すると、不貞腐れていた霞の耳が猫よろしくピクっと反応する。どうやら食いついたみたいだ。

 「え?いや、今日は書類整理が・・・・・・」

 「それは今日中にしなければならないんですか?」

 「まぁ、そんなこともないけど・・・・・・俺がいないとさぼるんだよ。真桜と沙和が・・・」

 そう、霞とデートをすること自体はむしろ歓迎なのだが、そうなると苦労が凪にかかってしまうのだ。

 しかし、ここで一刀は少し前のことを思い出す。

 ――『やっとまた酒が美味いって思えるようになったんやもん。そら飲むに決まってるやんか~♥』

 あの時、霞は確かにそう言ったことを。

 (そうだよな・・・・・・凪たちに事情を話して・・・・うん、思い至ったら即行動だな)

 「霞、ちょっと待っててくれよ!すぐ戻るからな!」

 霞の反応を待たずに一刀は食堂を後にした。

 残されたのはポカンとする霞と、ほほ笑む流琉。

 「なんなんやろ?」

 「きっと、楽しみにしてていいと思いますよ」

 

 食堂を後にした一刀は凪の自室を訪れていた。驚くことに、寝ているだろうと思っていた真桜と沙和もいる。

 丁度いいと思った一刀は三人に事の顛末を話した。

 「――というわけなんだけど・・・・・・駄目かな?」

 「ウチはええで。姐さんには、随分と世話になったし」

 「沙和もおっけーなの、とくに凪ちゃんがお世話になってたの」

 「さ・・・沙和!・・・・・・コホンっ。と・・・とにかく一刀様、霞様との〝でぇと〟に関して我々が反対する理由はありません。ですので、今日の書類整理の件はお任せください」

 意外なことに凪はともかく、真桜と沙和までもがすんなりとOKを出したことに少なからず驚きもしたが、沙和の一言でそれも納得した。

 ――霞もまた、凪を必死に繋ぎ止めてくれていたのだ。

 ――きっと、他の皆も。

 「三人ともありがとう」

 「そん代わり、今度昼奢ってな」

 「期待してるの~」

 「あの・・・自分も」

 先の感動は一瞬で霧散した。

 「お前ら・・・少しはタダで動こうとか考えろよ」

 やはり、三羽鳥であった。

 そんなこんなで凪たちに了承を貰った一刀は今、霞と市を当てもなく歩いていた。

 「さてと・・・どこ行こうか?」

 「ウチは別にどこでも・・・・・・。せや!一刀、少しウチに付き合うて」

 とくに当てもなく市をぶらついていた一刀と霞は、彼女の提案により遠乗りすることになった。

 

 

 「~~♪」

 日帰りの旅行というほど大層なものでもないが、それでも楽しい時間ではあった。霞に至っては 先程からご機嫌だ。

 それは、もちろん一刀のほうも同じ気持ちだった。

 ただここで問題がひとつ。

 「霞!疾いってば~!」

 そう、スピードである。嬉しさでいっぱいになってる霞は、そのスピードをどんどん上げているのだ。

 ――素人よりは、少し乗れる程度の一刀と大陸に名を馳せる神速の張遼では、追いつけるかどうかなど、まったく考える必要もないほど明白である。

 (でも・・・・・・まるで風だ。それに、すごく綺麗だな)

 馬とともに駆ける霞の姿は、どこか浮世離れした美しさを放っている。

 広がっていく距離など、どうでもよく感じてしまうほどに一刀は霞に見惚れていた。

 彼がそんな風に思っていると霞が一刀と距離が開いていることに気付き、馬の足をとめる。

 彼女に追いついてみれば、自分を少し責めているようで少ししょんぼりとしている。

 「ごめんな、一刀。ウチ、あんまりにも嬉しゅうなって自分でいっぱいになってしもうとった」

 「全然気にしてないから大丈夫だよ。それに、馬を駆る霞の綺麗な姿を独り占めできたしね」

 「///。綺麗って・・・・・・ウチが?」

 信じられないと言わんばかりの顔をしながらも頬は朱に染まっている。

 「凪もそうだったけどさ、霞も自分の事に自信を持っていいと思うよ?確かに俺は魏の子たちには・・・まぁ、手を出してるけどさ、その中で言った言葉にウソなんてないよ。だから今、霞の事を綺麗と言ったのも偽りのない本心だ。だから、このことに関してはこの頸を賭けていい」

 一刀の真摯な眼差しに、霞は言葉をなくし一刀を見つめる。

 (ウチ、ホンマに幸せもんやな。一刀に出会えたんやもん)

 「・・・・・・」

 どうしようもなく顔がにやけてしまう。

 霞の心は今、幸せでいっぱいだ。

 「し~あ!」

 「!か、一刀。どないしたん?」

 「どうしたは霞のほうだよ?急にボーっとしちゃってさ」

 そこで気付かぬか、天の御遣いよ。

 

 ――ちなみに、嘘か真かこのとき洛陽にいる魏の武将の面々と張三姉妹が一斉に溜め息をついたとかなんとか。

 

 「そう言えばさ、だいぶ歩いてるけど、どこに行くんだ?」

 「ん~・・・内緒や♪もうちょいで着くから楽しみにしとき」

 獣道を進みながら二人は話をしていた。今二人は洛陽から近い場所にある山の中を歩いている。

 先程から霞は、ずっと鼻歌を歌ってる。どうやら超ご機嫌のご様子だ。

 サクサク歩きながら、邪魔になる蔦などを片手に持つ偃月刀でばっさばっさと切り捨てていく。

 「来るの久しぶりやからな~。これくらいはご愛嬌や」

 「どれくらいになるの?」

 「ん~と、半年・・・かな?五胡の連中ぶちのめした後ぐらいやったと思うし・・・・・・と、着いたで」

 霞の横に並ぶと、一刀の目に入ったのは、息をのむ絶景だった。

 山の入り口から外れた森の中にあって開けたその場所は、陽光が降り注ぎ小さいながらも滝があり、飛沫が虹を描いている。

 「どや?中々のもんやろ」

 「ああ、すごい綺麗だ」

 「今日はここで野宿や。もう日を落ち始めとるしな」

 「へ?」

 「驚かんでもええやろ。孟ちゃんには許可とってあるから心配せんでもええで」

 何という用意周到。間の抜けた声を出す一刀に対して霞はふふんと胸を張っている。さらしで巻かれた胸が、胸を張っているため強調されてとても色っぽくて思わず鼻の下が伸びてしまう。

 すると一刀の視線に気づいた霞が、悪戯っぽい笑みを浮かべて彼の伸びきった鼻をツンツンとつつく。

 「も~、一刀ってばスケベなんやから♥心配せんでも後でゆっくり・・・な?」

 「わ、わかってるよ」

 「やったら、準備手伝うてや」

 「準備?」

 こくんとだけ頷いて、霞は自分の馬に積んでいた荷の口を開いた。

 

 「「か~んぱ~い!」」

 コチンと杯を鳴らしてクイッと酒を流し込む。

 元の世界ですでに成人を迎えている一刀は、よく祖父や両親と酒を飲み交わしていたのでそれなりに飲めるようになっていた。

 「ええ飲みっぷりやな♪」

 「霞に比べたらまだまだだけどね。父さんや爺ちゃんとはよく飲んでたし」

 「ふ~ん・・・んくっ・・・ぷはぁ~!ええな、一刀とこうして飲んでると美味しいわ~」

 「よかった」

 安堵の息を吐く一刀を見て、霞が僅かばかり表情を沈めた。

 「いいわけあるかい・・・。一刀がおらんようになったせいで、ず~っと酒が美味しゅうなかったんやで?」

 「霞・・・・・・」

 杯に注がれた酒に映る星空と、幽かに揺らめく蝋燭の灯を見ながら霞は、一刀の知らない彼女の物語を語り始めた。

 

 

 ――一刀が天に帰ったって華琳が言うた時、真っ先に噛みついたんがウチや。

 実を言うとな、凪より先に華琳の言ったこと否定したのはウチやってん。あんときは頭に血が上っとったしな。

 ま、あっさり流されたもんやからすっかり肩透かしくらってしもうてな、な~んにも言い返せんかった・・・・・・そしたら凪が華琳に噛みついてエライ驚いたで。

 「せやけど、ウチは心ん中で『よっしゃ!!』って普通に思うとった」

 ――ホンマ、思い返したら自分に腹が立つわ。

 まぁ・・・その日からウチは、全然酒が美味しいって思えんようになってしもうたわけや。

 せやから毎日飲んだ。飲むたびに思い出がわいてきたし、それが消えるんが嫌やったから一日たりとも酒をかかさんようになった。

 飲まんと消えてしまいそうやったから。

 でも、美味しゅうないまんまやった。呉の孫策や蜀の趙雲と名だたる酒のみ達と杯を交わしても、ウチだけはどっか別のトコにおって蚊帳の外や。

 天下一品武道大会で関羽で戦うても全然興奮せえへんかったし、最悪やったわ。

 そんで、飲みすぎが祟って体壊して華琳に説教くらって牢に入れられた。今思い返せば当たり前やけど、もちろん酒は没収や。

 「人生の伴侶とられてしもうたウチは抜け殻や。それがこうしてここにおられるんは、やっぱり凪のおかげやろな」

 ――凪はひたすら死のうとしとったからな。あの子止めるのに精を出しとったおかげで、ウチは壊れんで済んだんや。

 ま、ウチだけやなしに・・・他の連中もおんなじやったろけど。

 軍師連中は、うん・・・どうやってんやろな・・・。

 ――話し戻すで。

 皆がほんの少しやったけど、元気を取り戻し始めたまさにそのときや。

 ――五胡の連中が三国に攻めてきたんは。

 「ウチも含めてがむしゃらに暴れた。もう滅茶苦茶や。桂花達のたてた作戦とかどうでもようなっとったしな」

 ――それで生き残れたんは、ホンマ奇跡やった。それに関しては他の二国に感謝や。

 で、五胡との戦に勝って祝勝会とかで酒を飲むわけやけど・・・まあ、美味しいわけないわな。

んで、それからしばらくして・・・どこぞのアホが帰ってきたわけや。

 

 

 「お陰で、最近酒が美味しゅうてしゃあないんよ」

 向き合っていた霞は、いつのまにか一刀の肩に寄り添っていた。

 もちろん一刀はそれを拒まなかった。それどころか霞の腰に手を回してそっと抱き寄せる。

 所々に飾られた蝋燭の火はだいぶ小さくなり始めていて、淡い炎は不思議な温かさを放っている。

 「綺麗やな」

 「ああ・・・・・・でもな、蝋燭や星空なんかよりも霞のほうがずっと綺麗だよ。俺はこんなに綺麗で可愛い女の子を・・・泣かせたんだね」

  「そうや・・・・・・。せやけど泣いたのはウチ一人とちゃうねんから、そのことは忘れんといてな」

 「当たり前だろ?絶対忘れるもんか」

 「それでこそ、ウチが惚れた男や」

 ほほ笑む霞は、酒で上気した肌のせいもあって可愛らしくも艶っぽい。

 すると、霞が一刀をじっと見つめた。

 「一刀・・・約束の事やけど」

 「うん、羅馬にいこうってやつだろ?忘れてないよ・・・・・・」

 「あれ、もうええわ。今の一刀連れて行かれへんし」

 「霞・・・でも」

 ちょいっと指先で一刀の唇に触れて言葉を遮る。

 戸惑う一刀をよそに、霞はニコッと笑ってこう言った。

 「その代わり・・・・・・またここに来よ?今度は三人で・・・」

 「霞、それって・・・・んぐ」

 「ふむ・・・んむ、んん・・・・・・」

 最後まで言い終わることなく、言葉は霞の唇によってふさがれる。肩を並べていた二人はいつしか向き合ってお互いを抱き合っていた。

 二人が体を重ねた時にはもうすでに、蝋燭の火はすべて消えていて満天の星空だけがあった。

 

 

~epilogue~

 

 

 

 あの時訪れた場所に向かって、霞と一刀は馬を走らせていた。だが、あの時とはまるで違っていた。

 何故なら――。

 「おとん!はようせんと置いていくで~」

 元気いっぱいの声が一刀の前を走る霞の馬から聞こえてくる。

 しかし、その声は霞のものではない。霞と相乗りするもう一人のものだ。

 「こらトラ!あんまり乗り出したら落ちるで!」

 「何言うとんのや!ウチはおとんとおかんの子やで、馬から落ちるわけあるかい!」

 「独りで乗れんくせに、なに生意気言うとんねん!そう言う台詞は一人で馬に乗れるようになってから言えっちゅうねん!!」

 と、置いてけぼりをくっている一刀をよそに、霞と娘の張虎(愛称→トラ)はぎゃーぎゃーと言い争っている。

 少し呆れながらも一刀は笑った。

 (羅馬にはいけなくなったけど、この約束だけは守っていくんだ)

 一刀は小さくも確かな決意を胸に宿す。しかし、前の二人にそんなことは関係なかった。

 「「一刀(おとん)!なにぼけっとしてんねん!!」」

 さっきまでの口喧嘩はどうしたと一刀は思いもしたが、こうなった時のこの親子はなぜか強い。 反論に意味がないことを父は既に思い知っている。だから一刀は馬腹を蹴って二人の乗る馬に追いついた。

 「ごめんな・・・霞、トラ」

 「別に謝らんでもええで、考えてみたら一刀を怒鳴る必要なんてなかったわけやし・・・な?トラ」

 「おかんの言う通りや。おとん、堪忍してや」

 「いいって。俺なら気にしてないからさ・・・・・・行こ?急がないと日が暮れるよ?」

 「そや!急がんとあかんわ!一刀、トラ!行くで!!」

 「お~う!」

 「ああ!行こう」

 

 ――そうして一刀と霞は馬を走らせた。

 霞の馬には二人の宝が跨っている。

 いずれは、母親に負けない馬の乗り手にあることだろう。だが今は、母親の駆る馬に乗ってはしゃいでいる。

 その笑顔は、はじめて二人で遠乗りしたあの時に見せた霞の笑顔と負けず劣らず輝いていた。

 そしていつかは三人で酒を酌み交わす日も訪れるだろうが、その楽しみは当分先だ。

 だから今は、親と子としての時間を目いっぱい満喫しよう。

 するとトラが一刀と霞を交互に見た後に。

 「おとん!おかん!大好きや!!」

 満面の笑顔で娘がそう言った。

 一瞬、面くらった二人だったが、二人は顔を見合わせて笑った。

 

 ――三つの風は大陸の野を駆け抜けていく。

 

 ――光に満ちた果てぬ未来へと向かって。

 

 

~あとがき~

 

 

 

 ~真・恋姫✝無双 魏after to after~side霞

 四作品目まで来ましたこのシリーズはいかがだったでしょう?

 よかったと言って行ってくださったなら幸いです。

 さて、今回一刀は愛刀を真桜に預け、真桜は真桜でもう一本作ると言ってましたが・・・ここで先の展開として一つだけネタばれをします。

 一刀は今後、菊一文字ではなく、真桜が制作する新しい刀を使うことになります。

 なので、どういう状況で使うことになるのかを楽しみにしておいてください。

 幕間でなんとか宥めましたので今回は華琳が出ていません。

 少しでも華琳の出番を期待していた方にはすいませんです。

 さて、現在五作品目のアイデアをまとめている最中なので、可能な限り早めに書きあげようとは思っているのですが、やはりよりよい作品に仕上げたいというのもあるので間が開くかもしれません。

 そういうことなので、とにかく次回作を楽しみに待っていただけると嬉しいです。

 では次の作品でお会いしましょう。

 Kanadeでした。

 


 
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