No.761125

リリカル龍騎 -深淵と紅狼ー

竜神丸さん

第7話:戦う覚悟

2015-02-27 22:06:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4604   閲覧ユーザー数:1978

夜の7時、とあるレストラン…

 

 

 

 

 

「会計は私が済ませておくわ」

 

「あぁ、こっちもすぐ戻るよ」

 

「早く済ませてね、パパ」

 

食事を食べ終えた一組の親子。母が会計を済ませている間に、父はお手洗いを済ませるべく急いで男性用トイレに向かい、娘は母と共に父が戻るのを待つ。

 

「ふぅ……さてと」

 

そしてお手洗いを済ませた父が、すぐに母と娘の下へ戻ろうとしたその時…

 

 

 

 

 

 

-キィィィン…キィィィン…-

 

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

彼の脳内に、謎の耳鳴りが聞こえて来た。その直後、彼の目の前にあった鏡がグニャリと歪み…

 

「え―――うわぁっ!?」

 

出現した糸に巻きつけられ、彼はそのまま鏡に引き擦り込まれてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、バニングス家では…

 

 

 

 

 

 

「……」

 

屋敷に戻って来たアリサは部屋のベッドに寝転がったまま、『SEAL』のカードを眺めていた。

 

(モンスター……鏡の世界の怪物、か…)

 

アリサは昼間に二宮から言われた事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇ二宮、こっちのカードは何なの? “CONTRACT”って書かれてるけど…』

 

『ん? あぁ、そのカードか』

 

二宮から『SEAL』のカードを受け取ったアリサは、ついでに『CONTRACT』のカードについても問いかけていた。二宮は面倒そうに髪を掻きながらも説明する。

 

『簡単に言うと、モンスターと契約する為のカードだ』

 

『モンスターと?』

 

『あぁ』

 

二宮は自身のカードデッキから二枚のカードを取り出し、アリサ逹に見せる。カードにはアビスラッシャーとアビスハンマーの姿が描かれている。

 

『ライダーは皆、何かしらのモンスターと契約を結ぶ事で力を手に入れる。だが代わりにライダーは、契約したモンスターに対してある物を用意しなきゃならん』

 

『ある物? それって…』

 

『餌だよ』

 

二宮は皿の上のクッキーを手に取ってから噛り付く。

 

『契約ってのは、互いに利益があるからこそ結ぶ物だ。だからライダーは定期的に餌を用意して、契約モンスターに与えてやる必要がある。もし餌を与えずにしばらく放置していたり、契約モンスターのカードをなくしたり、カードデッキその物が破損したりすると……ライダー自身が、契約モンスターに喰われる事になる』

 

『餌って…』

 

『倒したモンスターの魂、もしくは……生きた人間だ』

 

『『『!!』』』

 

二宮の告げる言葉に、アリサ逹は戦慄する。

 

『一度モンスターと契約を結んでしまうと、その後はライダーとしてずっとモンスター達と戦い続けなければならない事になる……つまり、途中で戦いをやめる事が出来ない訳だ。誰か他の人間に、カードデッキを受け継がせる事もまぁ不可能ではないだろう。つっても、好き好んで化け物と戦うような物好きはいないだろうがな。それがライダーの宿命だ』

 

『ライダーの、宿命…』

 

『あの……二宮さんは…』

 

『先に言っておくと、俺は別に人間は襲わせちゃいない。モンスターの魂だけで済ませている』

 

『そ、そうですか』

 

(…まぁ、嘘は言ってないな。嘘は)

 

すずかの安心する表情を見つつ、二宮は『CONTRACT』のカードを見つめているアリサに対しても、釘を刺しておく事を忘れない。

 

『ちなみに言っておくがバニングス、やめておいた方が身の為だぞ』

 

『んな……まだ何も言ってないでしょ!?』

 

『顔を見りゃ大体分かる。どうせ自分もライダーとして戦おうと、少しでも考えてたんじゃないのか?』

 

『な、何でそうだと言えるのよ…!!』

 

『ほう? 常人なら怖がって逃げ出しそうな化け物に自分から戦いを挑んでおいて、戦う気が微塵も無いとは到底思えないんだが?』

 

『う…』

 

アリサの言葉が詰まる。どうやら見事に図星だったようだ。

 

『あんな無茶をやらかすような馬鹿がライダーになっても、途中でしくじって死ぬだけだ。そうやって軽い気持ちでライダーになった結果、その身を滅ぼしたライダーを俺は何人か知っている。安っぽい覚悟なんぞの為に、お前は命を投げ捨てるのか? 人を助けられれば良しだとか、そんな下らない自己満足の為だけに、お前は自分の命を懸けれるのか?』

 

『ッ……それは…』

 

『…一応、そのカードデッキはお前が持っておけ。それから、間違ってもその封印のカードだけは絶対になくすなよ。まぁ俺も、お前の屋敷に居候させて貰ってる身だからな。お前に死なれると住む場所がなくなって、こっちまで迷惑だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あぁ~もぉ~何なのあのムカつく言い方!! もうちょっとオブラートに包んでも良いでしょうに、どんだけ自己中なのよアイツ!!」

 

今頃部屋でぐっすり眠っているであろう男の辛辣な言葉を思い出し、アリサは苛立ちのあまりベッドの上でジタバタと暴れ回る。しかしそんな事をしても結局は何の解決にもならない事は、アリサ自身が一番よく分かっていた。

 

「全く、アイツは人の気持ちも知らないで…!!」

 

散々愚痴を零しておきながら、アリサは今の自分が情けなく感じたのか、枕の上に自身の顔を突っ伏す。そこには先程までのような怒りではなく、己のアホらしさに対する悲壮な感情があった。

 

「…何でよ……結局、私は何も出来ない人間なの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫だよ!! アリサちゃんもすずかちゃんも、私達が守ってみせるから!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ…!!」

 

今はこの街にいない友人の言葉を思い出し、アリサは枕カバーを強く握り締める。

 

「冗談じゃないわよ……そんなの、私は…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日…

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、鮫島…」

 

「おはようございます、アリサ様……どうかなされましたか? お顔が…」

 

「私なら大丈夫……顔を洗って来るわ」

 

いつも通り、朝早くから目覚めたアリサ。しかし昨夜の考え事の所為であまり眠れなかったのか、その目の下にはクマが出来てしまっていた。鮫島が心配する中、アリサは何でもないかのように振る舞い、洗面所で顔を洗い眠気を覚まそうとするが…

 

 

 

-キィィィン…キィィィン…-

 

 

 

『グルルルルル…!!』

 

「…ッ!?」

 

アリサの脳内にも、例の耳鳴りが聞こえて来た。慌てて鏡を見ると、そこにはアリサを狙うハウルフォレスターの姿があり、アリサは即座に鏡から距離を離す。しかしハウルフォレスターは唸り声を上げながらアリサを睨み付けているだけで、鏡から飛び出して来る様子は見られない。

 

(あ、そっか。封印のカードがあるから…)

 

アリサは着ているパジャマの胸ポケットから『SEAL』のカードを取り出し、自分が今も狙われ続けている事を再認識する。ハウルフォレスターはしばらくアリサを睨んだ後、すぐにアリサの前から姿を消す。

 

「ッ……私は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『続いてのニュースです。昨夜7時頃、親子連れの男性―――佐川昇さん(51)が行方不明になるという事件が発生しました。妻―――佐川順子さんの証言によると―――』

 

「…ここでもか」

 

一方、先に起きていた二宮も目玉焼きに胡椒をかけて食べながら、テレビのニュースを見て面倒臭そうな表情をしていた。

 

連続失踪事件。

 

人が突然姿を消し、行方不明になる謎の事件。何も知らない一般人からすれば謎だらけの事件だが、真実を知っている二宮からすれば謎でも何でもなかった。

 

「二宮殿、今のニュースは…」

 

「あぁ、間違いなくモンスターの仕業だろうよ。奴等は相手が誰だろうと、ミラーワールドに引き擦り込んでから容赦なく喰い殺す」

 

「…では、アリサ様も…」

 

「アイツには封印のカードを持たせてある。カードを手離すようなマネをしない限り、ひとまずは大丈夫だ」

 

二宮はコーヒーを一口飲んでから告げる。ちなみに彼はコーヒーに砂糖もミルクも入れておらず、ブラックのまま当たり前のように飲んでいる。

 

「んで、アイツはまだ起きて来ないのか?」

 

「アリサ様でしたら…」

 

「お待たせ」

 

そこにちょうどアリサがやって来た。洗顔を済ませたばかりだからか、前髪がまだ若干濡れた状態になっている。

 

「アリサ様、朝食の準備は整っております」

 

「えぇ、ありがとう鮫島」

 

アリサも席に座り、鮫島が一旦退室する。しかしアリサは朝食に手をつけようとせず、ウインナーに噛り付いていた二宮がそれに気付く。

 

「どうした、食べないのか?」

 

「…さっき、また狼のモンスターに狙われかけたわ。すぐに何処か行っちゃったけど」

 

「ほぉ、良かったじゃないか。封印のカードを持っていたおかげで、喰われずに済んだんだからな」

 

「…ねぇ」

 

「ん?」

 

「アンタは怖くないの? モンスターと戦うのが」

 

「いきなりどうした、頭でも打ったか?」

 

「殴って良いかしら?」

 

「断る」

 

「アンタねぇ…………もう一度聞くわよ。アンタは怖くないの? モンスターと戦うって事は、下手したら死ぬかも知れないって事でしょ? それなのに、アンタはどうしてライダーに…」

 

「…何かと思えばそんな事か」

 

二宮は箸を皿の上に置く。

 

「怖いからさ」

 

「え?」

 

「人間、誰だって死ぬのは怖いだろう? だから戦うんだよ。自分が死なない為にもな」

 

「…それだけ?」

 

「少なくとも、俺は俺の為に戦っている。それだけだ(まぁ、一度死んじまってるんだけどな)」

 

「…そう」

 

それだけ告げてから、二宮は茶碗に入ったご飯を口の中に掻き込んでいく。アリサもそれ以上は追及せず、香りの良い朝食を摂るべく箸に手をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリサちゃん、おはよう」

 

「えぇ、おはよう…」

 

「それと…二宮さんも、おはようございます」

 

「あぁ」

 

その後、この日が休日である事から、すずかと共に買い物へ向かう事にしたアリサ。何故二宮も彼女達に同行しているかと言うと、理由は二つ。一つは二宮が着る為の服を購入する為。もう一つはアリサとすずかを護衛する為である。

 

「アリサちゃん、大丈夫?」

 

「えぇ、大丈夫よ……モンスターに付け狙われてる事以外はね」

 

「あの狼のモンスターは俺が何とかする。お前等は待ってるだけで良い」

 

「けど…」

 

その時…

 

「…ん、人だかりか?」

 

とある服屋の前で、何やら人だかりが出来ていた。よく見るとパトカーに警察官までいる事から、どうやら只事ではなさそうだ。何があったのか、アリサ逹は近くにいた男性に問いかける。

 

「あの、何かあったんですか?」

 

「ん? あぁ、また人が消えたんだってさ。連れの友人が一人で店の前に待ってたんだが、少し目を離した隙にいつの間にかいなくなっちまってたらしい」

 

「「「!」」」

 

「携帯とかで連絡しても、全く反応が無いんだとよ。まぁ、何処かほっつき歩いてるんじゃねぇかって警察は認識してるっぽいけど」

 

「……」

 

男性の話を聞いて、二宮は周囲を見渡す。服屋の前で待っていた友人。服屋に存在するショーウィンドウ。そこから簡単に答えは導かれた。

 

(二宮さん、もしかして…)

 

(モンスターだろうな。たぶん、もう死んでる)

 

(そんな…)

 

二宮とすずかが小声で話す中…

 

「……」

 

アリサは無言のまま、その右手拳を握り締めていた。爪が食い込もうと、その痛みなど今の彼女にとっては何の苦でもなかった。二宮はそれを横目で見てから小さく溜め息をつく。

 

「…お前が悔しがって何になる?」

 

「ッ……そんな簡単に、割り切れるような事じゃないでしょう…!!」

 

「もう死んでるんだ。お前がどう思おうが、どうしようもない」

 

「でも…」

 

その時だ。

 

 

 

 

-キィィィン…キィィィン…-

 

 

 

 

「「「!!」」」

 

三人の脳内に、再び耳鳴りが聞こえて来た。それは今いる場所ではなく、別方向から聞こえて来る。

 

「二宮さん…!」

 

「あぁ、こっちだな」

 

三人はすぐさま場所を移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、公園前にて…

 

 

 

 

 

『ギシャァァァァァァァァ…!!』

 

公園前に停められていた車のウィンドウに、ディスパイダーの復活したモンスター―――ディスパイダー・リボーンの姿が映し出されていた。そのディスパイダー・リボーンは姿が変わっており、下半身は生前と同じ蜘蛛らしき姿、上半身は人間型の半獣人型のモンスターと化している。

 

そんなディスパイダー・リボーンが、車の近くを通りかかった女性に狙いを定め…

 

『ギシャッ!!』

 

「きゃ!? な、何…嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

糸を巻きつけ、そのままミラーワールドに引き擦り込んでしまった。そこに二宮達が駆けつけた後、女性が落としていたカバンをすずかが拾い上げ、間に合わなかった事を悟る。

 

「そんな…」

 

「手遅れだったか」

 

二宮はカードデッキを取り出し、すかさず車のウィンドウに突き出す。Vバックルが装着され、二宮は変身ポーズを取る。

 

「変身!」

 

カードデッキがVバックルに装填され、二宮はアビスに変身。すぐさま車のウィンドウを通じてミラーワールドへと突入する。

 

「二宮さん……大丈夫だよね?」

 

「……」

 

「アリサちゃん…?」

 

すずかが心配そうに見つめる中で、アリサは下を向いたまま歯軋りする。すずかがそれに気付いて声をかけるも、アリサはそれにすら気付かない。

 

(私は…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えへへ……ごめんね、アリサちゃん…心配、かけさせ…ちゃって…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

アリサはゆっくりと顔を上げる。

 

その顔は先程までと違い、何かを決意したかのような表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ミラーワールド内では…

 

 

 

 

 

「ギシャァァァァァァァァ…!!」

 

「! コイツ、復活してやがったのか…!!」

 

突入した先で、アビスはディスパイダー・リボーンと対峙する。アビスは仮面の下で面倒臭そうな表情をしつつもカードデッキからカードを抜き取り、アビスバイザーに装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

「時間をかけると厄介かもな…!!」

 

「ギシャアッ!!」

 

ディスパイダー・リボーンは糸を吐き、アビスはそれを回避してから接近しようとする。しかしディスパイダー・リボーンの上部に生えている上半身が何本もの針を飛ばし、アビスを近付かせない。

 

「チッ面倒な…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うん、やっぱり無理だわ」

 

「え……アリサ、ちゃん?」

 

何を言っているのか分からないすずかが首を傾げた直後、アリサは服のポケットから『SEAL』のカードを取り出す。そして…

 

 

 

-ビリィッ!!-

 

 

 

「!?」

 

『SEAL』のカードを、両手で思いきり破り捨ててしまった。破られた『SEAL』のカードがヒラヒラと地面に落ちていき、アリサの足元に落ち切ってから粒子化し、跡形も無く消滅する。

 

「ア、アリサちゃん!? どうして…」

 

「ごめん、すずか。私、やっぱりこの状況を見て見ぬフリは出来ない。私一人が助かったって、私の目の前で人がたくさん死んでいくなんて、そんなのとても耐えられない」

 

「で、でも…」

 

「だから私……戦おうと思う。それが今の、私のやりたい事だから」

 

「アリサちゃん…」

 

「大丈夫よ……ちゃんと、生きて帰ってみせるわ」

 

アリサはカードデッキを取り出し、その中から『CONTRACT』のカードを抜き取り、車の前に立つ。それと同時に…

 

 

 

-キィィィン…キィィィン…-

 

 

 

『グルルルルルルル…!!』

 

ハウルフォレスターも、待ってましたと言わんばかりに姿を現した。しかし、アリサは臆さずに対峙する。

 

「さぁ、来なさいよ馬鹿狼……今、私が契約してやるわ!!」

 

「ガァウッ!!!」

 

ハウルフォレスターが飛び出し、アリサは『CONTRACT』のカードを目の前に突き出す。するとハウルフォレスターの身体がカードの中へと吸い込まれて行き、そしてアリサの身体が光り出す。すずかは思わず両腕で顔を覆う中で、アリサの身体は光ったままミラーワールドへと転移していく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ここは…」

 

「グルルルルル…!!」

 

真っ暗な空間。

 

そこにはアリサの姿と、ハウルフォレスターの姿だけがあった。ハウルフォレスターはアリサの周囲を歩きながら、唸り声を上げてアリサを睨み付ける。

 

「契約させられるのがそんなに不服かしら?」

 

「ガゥ!!」

 

「安心しなさい、餌なら私が用意するわ。だから今は……あなたの力を貸して」

 

「…ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!」

 

ハウルフォレスターは咆哮を上げ、その身を光らせながらアリサと一体化する。するとアリサの姿が、再びライダーの姿へと変わる。

 

しかし、それだけではなかった。

 

 

 

 

左腕のライドバイザーは形を変え、狼の頭部を模したハウルバイザーに。

 

 

 

 

両肩の肩当ても変形し、狼の頭部を模した橙色の鎧に。

 

 

 

 

頭部には狼の意匠が組み込まれ、更に狼らしき紋章が刻み込まれる。

 

 

 

 

全身の色が変わり、下半身は黒、上半身は赤と橙色で配色されていく。

 

 

 

 

そして最後に、カードデッキにも狼の紋章が刻み込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリサ・バニングスは変身した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼の如き駆け抜ける深紅の戦士―――仮面ライダーウォルフに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、私の―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャシャシャアッ!!」

 

「ぬぉ…!?」

 

ディスパイダー・リボーンの飛ばして来る針に、アビスは苦戦させられていた。糸を吐く以外に新たな攻撃手段を得ている為か、生前よりも攻守に隙がなくなっているのだ。

 

(どうする……思い切って使ってしまうか…?)

 

アビスは“奥の手”を使うべく、カードデッキから一枚のカードを抜き取ろうとする。しかしディスパイダー・リボーンがそれをさせまいと、アビスに向かって再び針を飛ばし…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁあっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ガキィンッ!!-

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

その針を、ウォルフの蹴りが弾き飛ばした。ウォルフの後ろ姿を見て、アビスが驚愕する。

 

「な、新たなライダーだと…!?」

 

「危ないところだったわね」

 

「!! その声、バニングスか…!? まさか、あの狼のモンスターと…!!」

 

ウォルフの正体がアリサだと分かってアビスは更に驚き、同時にウォルフを問い詰めようとする。

 

「お前…」

 

「ごめん二宮……私、黙って見てられなかった。たくさんの人が襲われてるのに、私一人が楽な思いをするなんて我慢出来ない」

 

「俺が言った事を忘れたか? 一度ライダーになったら、もう二度と…」

 

「それでも私は戦う」

 

「何?」

 

「アンタ、言ってたわよね? 俺は俺の為に戦うって。私も同じよ。アンタが言う自己満足の為だけに……私は、今を生きている人達を守りたい」

 

「…!」

 

「だからお願い、私にも戦わせて。何があっても、絶対に後悔はしないから」

 

「バニングス…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人を守る為にライダーになったんだから、ライダーを守ったって良い!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…お前も、あの“馬鹿”と同じだって言うのか?)

 

アビスは呆れた様子で溜め息をついた後、しゃがんでいた状態から立ち上がる。

 

「もう一度だけ言っておく。俺はお前に死なれると非常に迷惑だ。だからお前には、ライダーになって欲しくはなかった」

 

「えぇ、でしょうね」

 

「だが、お前はこうしてライダーになった。そうなった以上……俺はお前が死なないよう、全力でサポートするしかない」

 

「…そうこなくっちゃ」

 

アビスとウォルフは正面を向き、ディスパイダー・リボーンと対峙する。今まで放置されていたからか、ディスパイダー・リボーンは機嫌が悪そうに唸り声を上げる。

 

「ギシャァァァァァァァァ…!!」

 

「バニングス、武器の出し方は分かるだろう?」

 

「えぇ、もちろん」

 

ウォルフは左腕に装備されているハウルバイザーの上部カバーを開き、カードデッキから抜き取った一枚のカードをハウルバイザーに挿入し、カバーを閉じて装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

音声が鳴り、上空からハウルフォレスターの尻尾を模した曲刀―――ハウルブレードが飛来。ウォルフはそれを右手でキャッチしてから駆け出し、ディスパイダー・リボーンが再び針を飛ばすが、針は全てアビスバイザーから放たれる水流で弾かれる。

 

「針は俺が撃ち落とす、お前はそのまま飛び移れ!!」

 

「分かったわ!!」

 

「ギシャ!?」

 

飛んで来る針が全てアビスに撃ち落とされる中、ウォルフはディスパイダー・リボーンの身体の上に飛び移り、その上半身をハウルブレードで容赦なく斬りつける。二、三度斬りつけられた後にウォルフはすぐに地面へと降り立ち、また次のカードを抜き取る。

 

≪FINAL VENT≫

 

「アォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ…はっ!!」

 

ウォルフの背後からハウルフォレスターが出現し、高く咆哮。ウォルフはその場で一回転した後に姿勢を低くして構え、そして高く跳躍してハウルフォレスターが繰り出す咆哮の勢いに乗り…

 

「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「ギ…ギシャァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

ディスパイダー・リボーンに向かって、右足を大きく突き出す。高速で飛来するその飛び蹴り―――ハウリングスマッシュを受けたディスパイダー・リボーンは跡形も無く粉砕されて爆発。爆炎の中から出現したディスパイダー・リボーンの魂が、ハウルフォレスターに咀嚼されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

「よっと」

 

「うわっととと…!?」

 

「! アリサちゃん、二宮さん…!」

 

車のウィンドウからアビスとウォルフが飛び出し、両者共に変身を解除。二宮は問題なく着地したが、慣れていないアリサは危うくバランスを崩して転倒しかけ、すずかに支えて貰う。

 

「アリサちゃん、モンスターは…」

 

「えぇ、倒したわ。言ったでしょ? ちゃんと生きて帰るって」

 

「一匹倒したぐらいで、調子に乗る馬鹿が一体何処にいる」

 

「うぐ…」

 

辛辣な言葉を吐き捨ててから、二宮はもう一度アリサに問いかける。

 

「…本当に良いんだな?」

 

「えぇ。今更、後戻りするつもりは無いわ」

 

「…そうかい」

 

「ふふん♪」

 

「?」

 

二宮は溜め息をつき、アリサはニカッと笑ってみせる。何があったのかをよく知らないすずかは、頭の上にクエスチョンマークを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、ミラーワールドのとある路地裏…

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギ、ィ…シャァァァ…!!」

 

「……」

 

レイヨウ型モンスター―――メガゼールが、ボロボロの状態で袋小路に追い詰められていた。そんなメガゼールに追い打ちをかけるかの如く、一人の仮面ライダーがその手に持った弓型の召喚機―――デモンバイザーの引き鉄を大きく引いてから離し、エネルギーで形成された矢を何発も撃ち込む。

 

「ふっ!!」

 

「グガ、ガァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

放たれた矢が全て命中した事で、メガゼールはあっという間に爆散。爆発による炎が、その仮面ライダーの全身を明るく照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、まずは一匹…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カードデッキには、蠍の紋章が刻み込まれていた。

 


 
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