No.758743

遠く、遠い筈のモノだった。(弱ペダ/福金)

福金プチオンリー良いなあ、開催おめでとう御座います参加したかったなあーという、底と隅っこで細々と、捨てきれぬ煩悩で書いた。
「うちの福金てどんなサ」という意味合いを込めて。推敲無し原稿。
「うちの荒金てどんなヨ」と書いた「0mキョリ」と対的な感じ。
私的に荒金は強引に行こうと穏かだろうと、いつだってらーぶらーぶなら、福金は闇です。ライトサイドとダークサイド@SW
暗い話荒金でも考えてあるけど、ベクトルが違うんですなー。

続きを表示

2015-02-15 21:49:24 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:841   閲覧ユーザー数:841

 夜中とも今朝方とも言い難い時間、金城の目が覚めた。電気の点いていない部屋は暗く、カーテン越しに伝える外の光も、一番近くの街灯ぐらい。

「……まだ、暗いな」

 金城の小さな声へ、朝が応える気配はない。今が何時かは分からないが、また寝てしまおう。

 ところが奇妙なことに、寝なおす為に身じろごうとした体が、動かなかった。

―金縛り、なのか?

 寝ぼけた脳が緊張感を与えるも、すぐにそれは否定された。金城の体は背後で寝ている福富によって、ガッチリ抱きしめられていただけだったから。

 そうしてようやく、お互い何も着ていない状態に気付いた。ついでに、裸である意味も。

「福富……ああ、そうだったな……」

―結局、何回したんだったかな。

 気だるい息は、金城の体調面にも直結している。与えられた情は、簡単に昇華されない。

そうして今、睡眠によって温かい肌は心地よく、けれど抱きかかえられる腕の力に苦笑する。

立てていた予定は、福富を受け入れた時に消えうせた。ならば、まだ寝ていたい。

 肩越しに情事の相手を覗き込む。起きぬ気配に、罪悪感と悪戯心を交えて呼びかけた。

「福富」

「ん……」

 一声であっさりと、深い眠りの海から浮上した福富は目を開ける。腕の力は弱まるどころか、少し強くなった。

「金城……?」

―俺は抱き枕なのか?

 小さく方笑みながら、やんわりと福富の腕を掴む。

「起こしてすまない。少し、緩めてくれないか」

 覚醒しきらない意識では、すぐに金城の要望を理解できなかった。一寸してから、緩めて欲しい物が、自分の腕だということだけ気付く。

「あ、ああ」

 咄嗟に金城を離そうとしたが、うまく指先にまで伝達されない。金城がモゾモゾと動くから、ようやく腕に空間を作れた程度。

 未だ寝ぼけているからか、ただの、嘘のない本能のせいか。福富には分からなかったものの、福富と向かい合う形を取った金城は、気にしていない。

「寝ているとは思えない力だったぞ」

「もしかして、寝られなかったのか」

「いや、起きたら動けなくて困った程度だな」

 金城の笑う声が、二人の間で、くすぐったく漏れる。福富は安堵のため息を飲み込み、金城へ顔を近づけた、

「次は気をつける」

「そうしてくれると助かる」

 次からはしない、ということにはならない所が、妙にらしく思えた。

 そして福富は、まるで猫が主の機嫌を伺うように、瞼に唇を落とす。金城のまつげが震えたのが、拒絶ではないことを感じ、今度は触れるだけのキスをする。

 乾いた喉が水を求め、口内へ押し進めてくるのを、金城は躊躇いながらも招きいれた。

 朝の挨拶にしては、刺激が強い。

「……寝なおしたいんだが、これじゃ変わらないな」

 二人分の乱れる息を、眠りの夜が聞き逃す。金城は、その夜に再び身を沈めたくて、福富を起こした。しかし状況は、背後から抱きしめられていた時よりも進んでいる。

 起こされた福富の方が、目が覚めてしまった。

「眠いか。確かにまだ、明るくはないが」

「あれだけしたんだ、体がまだだるい。暗いし、寝ていたいな」

 てらいなく己の状態を教えると、福富は途端に口を噤んだ。

「そ、うか……」

「ああ」

 ようやく、金城が体制を変えたいと言ったことを、きちんと理解できた。

 どれだけ彼の身に楔を打ち込んで、熱情を注いだのかも。

 これが二人にとっての、初めての行為ではない。だが、無理を強いたことで負う相手の体を考慮しきれずに抱いた、最初の行為を顧みるには充分なもの。

―また、まだ俺は、奪うようにしか抱けないのだろうか。

「……福富?」

 突然、沈黙の波に引いた福富の姿を、金城が訝しい顔で覗き見る。

―それでも、この腕の中に居てくれるのか。

 福富は、強く抱きしめたい衝動に抗い、けれど拭いきれぬ想いで俯く。

「すまない、無理をさせたようだ」

 かつてと同じ省みた言葉でしか伝えられないのが歯がゆく、相手の許容のラインを見極めているような繰り返しに、奥歯をかみ締める。

 違う、そうじゃない。一方的で良い筈がない。

「俺が欲しいだけ欲しがり、金城の優しさに甘えた」

 だのに、同じ底の見えない海溝へ身を沈めて欲しいとも思ってしまうのも、事実。

 現に、腕を緩めるという、簡単な要望すら困難だ。

「今も、この腕の解き方が分からない」

 自分の無意識に罪を押し付けられず、福富は、金城にすがり寄る。

 いつになればこの想いは優しい物を象り、愛おしさで守られるのだろう。

 告解に近い心情でいる福富に対し、金城の思考は、シンプルな物で構成される。

 微かに目を丸くさせるや、「ふっ」と笑みさえ零して。

「どうして笑う」

 金城の真意を掴めない福富が、眉間に皺を寄せた。至近距離で相手の不審を買ったことは、ひとまず詫びる。

「すまん、だが今のは、福富が悪いと思うぞ」

「む」

 笑いながらでは説得力はないものの、金城に悪気は無い。

 反省か主張、どちらかにすれば良いのに、福富は両方ともに譲っていない。

 それがおかしくて、また同時に、福富の筋違いな自責の念に対しても、噴出してしまったのだ。

 彼は、どこかで金城の告白を聞き漏らしたのだろうか。

 ならば、かつて福富が金城へぶつけたように、聞き届くまで教えてやれば良い。

―俺が優しいと、どこで勘違いしたのか、こいつは。

 仕方が無いから、金城は何度も、秘密にならない秘密を教える。

「確かに今日の予定を潰したのは、お前がしつこかったからだろうが」

 主張すべき点を最初に、逃さず伝える。案の定、福富は分かりやすく落ち込んだ。

「金城」

 名前の続きを待っても良かったが、先ほどのやり取りを繰り返すなら、周回遅れになってしまう。

 もう何度も、何週もグルグルと走ってきてようやく、この道を今、並走しているのに。

「そんなものは、お互い様というやつだ。福富は、俺を無理やり組み敷いたか?」

「っ、」

 金城の飾り気の無い問いかけに、福富の喉がひくついた。

 全ての始まりに顧みる、消えぬ傷はどうなのか。

 福富は、首を横に振る。

 消えなくとも、癒すことはできる。

「俺がお前に足を開く意味を、誰よりもお前は知っているだろう?」

 見えているのは、どちらかの背中ではない。

 前を向いた先に見えるのは、同じ道なのだ。

「腕は解かなくて良い、解き方が分からなくても構わないさ。俺が教える」

 金城は、離せない福富の腕を掴む。

 とうに共犯者となっている関係を、福富は知らなければならない。

 福富が知っている明確なのは、一つだけ。

「俺は……、金城を好きなことしか分からない」

 その一つが全てなら、道しるべは立っている。

 金城は、福富の髪を静かに撫ぜ、強く告げる。

「なら問題はない。俺が福富を好きなのを、お前が否定しなければな」

 自分の心に嘘をつけない男へ、嘘を付かせたくないから。

 金城は、何度でも、彼で変化する心を教えてやるのだ。

 心から、でも時々困りながら、いつかは呆れながらでも、それでも笑い、教え続けるだろう。

 遠くない。

「金城」

 君との距離は、ちっとも遠くはないのだと。

「福富?」

 ぎゅっと、金城を抱きしめた。

「すまない」

 震える心が、声すら奮わせる。 

 すまない、すまないと謝ることしか出来ない。

「どうして謝る」

 思いのほか強く抱きしめてくるので、金城の声が少しこもった。

 苦しいのだろう、それでも、すまない。

「すまない、駄目だ」

「なにが」

 すまない、ありがとう。

「教えて貰ったとしても、離せそうにない」

この涙が止まるまで、抱きしめる腕の緩め方は、分からないままが良い。

 相手の意図を涙の水ごと汲み取った金城は、ため息に笑みを付ける。

「そうか」

 この甘さを優しさだと解釈する福富へ、金城は一つ一つ、顔にキスの雨を降らせる。

 指で撫ぜた髪、額、瞼へはお返しとして。鼻筋に寄せ、頬にキスするつもりだった唇を塞がれる。

 涙で濡れた唇が水分を宿し、口内とは違う味がした。少し息が苦しいのは、抱きしめる腕の力のせい。

 仕方が無い。

「こんな状態でも寝れていたからな、構わないさ」

 解き方を教えない共犯者に、ほんの微か、福富の唇に弧が描かれる。

「ああ、そうだったな」

 泣きながら笑う様を、金城はひそりと満足を覚える。穏やかな波間を静かに眺め、あるがままの音に耳を傾けるような心持で。

「笑えたじゃないか」

 脈略のない、してやったりな口調に、福富が無言で聞き返す。

 忘れたとは言わせない。あの、最後のインターハイ、二日目に敷かれたゴールラインの先で。

「心から笑えると俺に言った割りに、俺は、そんなところをあまり見ていない」

 あれから随分と経った気がするけれど、肌が焼ける熱を鮮明に思い出せるほどに、近い記憶。

 もちろん、忘れてなどいない。 

 福富は、今度は声にして言い返す。

「人は幸せでも泣くだろう」

「そうだな、知っている」

 至極あっさりと認めたのは、自身が証明者だから。

 今、福富が泣くように。

「だが、幸せそうに笑うと、人はつられる。俺は、お前の傍で笑っている筈だが、自惚れだったか」

 あえてシニカルに笑ってみれば、福富の涙がひくりと止まった。

 単純なほどの条件反射に笑う間もなく、目の縁に溜まる水を、金城は指でぬぐう。頬に残る涙の道も、手の平で隠してみた。

 福富は、金城の手に自分の手を重ねて握る。

 言葉で教える必要などない。

「ああ、そうだな、金城……」

 がんじがらめの腕は、自然と解けた。

 笑い方も、思い出せる。

「俺を、幸せにしてくれる」

 それもお互い様だから、夜と朝の狭間で止めた足を、二人でまた前へと進められる。

「……すっかり眠気が飛んだな」

 二度寝を惜しむ金城の気配を感じた福富が、自ら手を引っ込めた。

「俺は起きるから、金城は寝ていれば良い」

「福富はどうするんだ」

「コンビニまで朝飯を買いに行く。冷蔵庫が空っぽだったろ。外も、少しだけ明るくなってきているしな」

 言われて初めて、カーテン越しに窓の外を見やる。確かに最初に起きた時よりは、布から漏れる色に明度があった。

「そうか」

 されど明るくはない。

「なら、その泣きはらした赤い目が引くまで、お前も寝ていれば良いさ」

 ようやく寝心地の良い体制へと変えられた福富が、満足げな顔で福富を誘う。

「?赤いのか」

「多分な」

 真面目な顔で尋ねる福富へ適当に返すのは、部屋が暗いからきちんと見ていないからだ。

 そして金城にとっては、本当に赤いかは些末なこと。

「そんな顔を見せるのは俺だけで良い。そうだろ?」

 優しさや甘さだけで福富の傍に居るワケではないのを、当人が垣間見られたのは、きっと幸福に違いない。

「ふっ、そうでありたい」

 素直に笑みが漏れた福富が、金城にならって寝返りをうつ。離れた手は、再び金城の体へ伸びた。

 金城が気になるのは、抱きしめるというよりも、露になっている肌を触れて来る事。

 纏う物の無い状態だと、刺激がダイレクトに伝わる。意味深にしてはもったいぶる触り方は、もどかしさとなって金城の心拍を跳ね上がらせる。

「……福富、一応聞くが、まさか今からするのか?今日の予定を潰すほどヤっただろう」

 その手を振り払わずに捕まえれば、福富は捕まった自分の手と金城の手を一瞥してから、シレッと応える。

「潰れたのならば潰しきれば良い」

「突き詰める所が違う気がするが」

 今朝方とは思えぬほど、明瞭な主張だった。

 仕方が無い。

 寝たかったな、という心持で覚悟を決めてみれば、福富の手は金城の体に回るや、ガッチリ抱きしめてきた。

 多少ウロウロしていたのは、本能の仕業。結局定位置を見つけた場所も背後で、腕は起きた時と同じく、ぴくりともしない。

「安心しろ、俺は眠る」

 これで寝られるのか。寝ていたな、と金城は、内心ツッコミを入れる。

「そうか」

「ああ」

 目を閉じたのは、福富からだった。それを空気で感じ取り、後は本来の朝が目覚めるまで己も寝るだけ。

 ところが、あれだけ欲しかった二度寝なのに、金城だけが抱きまくら既視感を間に挟む羽目になった。

 それすらも、仕方が無い。

 実は、朝は、すぐそこの地平線に来ていることに、二人共気付いていない。

「起きたら、今度こそ朝飯を頼む」 

「分かった」

 とはいえ、太陽が空のテッペンに登るまで二人共に寝てしまったとしても、予定を無くした休日では些末なこと。

 手放す必要のない温もりがあれば、それ以外は全て、仕方が無いで済ませされる。

 そんな朝に見送られながら、金城は目を閉じた。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択