No.730024

命-MIKOTO-24-話

初音軍さん

ついに出産回です。命には辛いこともさせてしまいましたがその分返ってくる幸せもすごいものがあるのではないでしょうか。こちらも調べながら話を書いていました。長らくなかった創作熱で一日かけて書いていました(というか一気に書き切らないと展開が展開なだけに疲れてしまうので)ということで一旦この回で第二部終了となります。あくまで第二部が終わるわけで第三部や短編も気が向いたら書いていきますww反動で次はただただイチャつく話が書きたいな~(*´∇`*)




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2014-10-14 13:59:51 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:753   閲覧ユーザー数:750

命24話-誕生-

 

【萌黄】

 妊娠が始まってしばらくの間は今までと変わりなくお腹も平らのまま。

通常の生活が続いている。

 

 伊佐の知識としては約10ヶ月間を目安にして欲しいとのことだった。

ただそれはあくまで一般人に対しての説明であって私たちに当てはまるとは

限らないらしい。だからといって絶対当てはまらないわけでもない。

 

 普通に出産できればそれに越したことはないが、普通の人でも破水をしたりして

順調に産める人ばかりではない。だから私たちに関しては普通の出産ができる

可能性はわずかだと思っていてほしいとのことだった。

 

「大丈夫、命ちゃん?」

「はい。まだまだ膨らむ気配ないですし、元気ですよ」

 

 明るくしている命ちゃんにホッとするけれど、命ちゃんはけっこう無理して我慢する

ことがあるから心配な部分は大きい。それにしても…。私は命ちゃんのお腹を見て

自分の遺伝子が入った細胞が変換された精子が入ってるとは思えなかった。

 

「あの…」

「え?」

 

「そんなにお腹見られると恥ずかしいです」

「ごめん」

 

 気がついたら私は命ちゃんの服を少し捲り上げていてお腹をまじまじと見つめて

いながら考えていたようだ。

 

**

 

 二ヶ月目、ここまでも変化は無し。だけどつわりらしい症状は時々出るようで

少し敏感になっていることがある。だけど本人曰くそんな辛いものではないが

やや不快感が表れることが多くなっていっているようだ。

 

 まだ早すぎるくらいだろうけど、命ちゃんは仕事に支障が出ないように

バイト先のおもちゃ屋に行って説明をして辞めるように伝えたそうだ。

だけど向こうの店主さんが気を利かせて落ち着いたらいつでも復帰できるように

してくれるらしかった。

 

 本当は私も行きたかったんだけど、ややこしくなるかもしれないと瞳魅に指摘されて

命ちゃん一人で向かったのだった。帰ってきたときの命ちゃんは嬉しそうに微笑みながら

行った先のことを夕飯時に話してくれた。

 

 この日の夕飯はカレーだった。話とご飯で心も体もぽかぽか温かくなって

心地良かった。

 

 

**

 

 3ヶ月目。

 

 月の初め頃には変化がなかったように見えていた。

実際私はその頃には気づいていなかったからだ。

 しかしそれも中盤に差し掛かる辺りに、命ちゃんのお腹の形に変化が訪れた。

明らかにおかしい…。明らかに早すぎる…。

 急激ではないけれど、日を追う毎に少しずつ膨らんでいっているのだ。

 

 しかし月一回の定期健診の際に異常な動きは見られなかった。

命ちゃんも安定しているようで本人はびっくりはしていたけれど特別に

苦しいこととかはなかったみたいだ。

 

「命ちゃん大丈夫?」

「えぇ、大丈夫です。ねぇ、お腹の鼓動聞こえてます?

本当に私たちの子供がこの中にいるんですね」

 

「命ちゃん…」

 

 そう、大丈夫なのはあくまで現時点での話だったらで…。

幸せな気持ちと不安な気持ちな掻き混ざり何とも言えない気分になっていた。

妙な胸騒ぎがする…。

 

 

**

 

 4ヶ月目。

 

 お腹が膨らんでいくことが止むことがなかった。もう既に8ヶ月以上にもなりそうな

くらい大きくなっていたのだ。ここまで余裕を見せていた伊佐も険しい表情で

子供の成長具合を調べていた。

 

「あまりにも早すぎるな…。普通通りにはいかないと思ってはいたが…。

「どうすればいいの、医者でしょ。何とかしてよ!」

 

「医者じゃない。医療の免許などはあるがメインは研究者だ」

「…!」

 

「萌黄、落ち着いてください」

「命の言う通りだ。あんまり怒ってると胎教に悪いぞ~」

「くっ…!」

 

 これまでお腹に話かけたり、歌を聞かせたりして健やかに育つようにがんばってきた。

それは出産には直接関係のない行為かもしれないがしないよりマシかなとか

気持ちを落ち着かせるため、愛情を深めるために行っていたことだった。

 

「しかしまだ出てきそうな気配はない。健診の期間を短めにしてこまめに来てくれ」

「…わかった」

 

 命ちゃんの代わりに答えたものの、心に余裕はなくつい素の言葉が出てしまった。

それから家へ戻ってまだ笑顔を浮かべて私を見る命ちゃんの姿が少し可哀想に感じた。

何でだろう、まだそんなに苦しんでる様子はないのに…。

 

 大丈夫と言いながら命ちゃんはみゅーずちゃんからもらったと言うリボンを

お守り代わりにしっかりと握りながら大丈夫と私や瞳魅達、そして命ちゃん自身に

言い聞かせているように見えた。

 

***

 

 5ヶ月目。

 

 私の嫌な予感は少しずつ現実味を帯びてきた。

5ヶ月目の中盤辺り。普段通りに二人で一緒に寝ていると命ちゃんの苦しむような声が

聞こえてきたのだ。まだ外は明るくなっていない深夜の時間帯であった。

つい前日に健診に言ったばかりだというのに。

どうなっているのだろうと私は混乱していた。

 

「命ちゃん、大丈夫!? 命ちゃん!」

「うっ…ううっ…!」

 

 急に辛そうにする命ちゃんを見て手足が震えてくる。

でもこのままでいると命ちゃんの体が危ないと私の本能が私の体を奮い立たせ

ほとんど無意識に携帯を取り出して電話で連絡をする。

 

 連絡先は弟の燈馬だった。だいぶ前に電話がかかってきて車の免許を取っているのを

今思い出したのだ。寝ているとこを叩き起こして悪いけれど今は緊急事態だから

車を出して欲しいとお願いをすると、すぐに迎えにきてくれた。

 

「燈馬、ごめん!」

「それより早く乗れ。場所はわかるか?」

 

 久しぶりに見た弟は彼女と二人でちゃんとした生活を送っていたせいもあってか

随分逞しく見えた。弟が言う通りに苦しむ命ちゃんを後ろ座席に乗せて隣に

私とマナカちゃんも乗ってから車を出した。

 

 本当は瞳魅も行きたかっただろうけど、瞳魅が急の休みを取るための作業と

連絡をするからそれが終わり次第、向かう予定になった。

大変だろうに、私は瞳魅に心の中でお礼と謝ることをしつつ命ちゃんのお腹に

手を当てた。

 

 ひどく強く動いている。命ちゃんはこれまで見ないような魘されてるように

呻いていて額には脂汗を浮かべていた。

 

「命は大丈夫なの…?」

「大丈夫に決まってる…!もう命ちゃんには危ないことさせないって決めたんだから!」

 

 声をかけてあげるくらいしかできることがなくて自分が情けなくて…泣きたくなった。

だけどそれはしない。当事者の命ちゃんが一番不安で苦しいのだ。嫁の私が命ちゃんを

支えられなくてどうするんだ…って。自分を強く持った。

 

 

**

 

「これ以上は危険だな…。よし、今から病室に連れていって検査する。

手伝ってくれ」

「わかったわ。マナカちゃんはそこで待っていて」

 

 車で研究所兼病院に辿りつくと入り口に着くや、すぐさま伊佐が顔を出してきて

私と話をした後に入り口付近の椅子に座って待ってるようマナカちゃんに伝えた。

申し訳ないけれど私の手が空くまでは一人になってしまうから心細いかもしれないけど。

だけど、マナカちゃんはグッと我慢した顔をして。

 

「わかった。大丈夫、一人で待ってる」

「終わったらすぐ向かうから」

 

 私の言葉を聞いて頷いたのを確認したらすぐに私は命ちゃんを連れて

伊佐の誘導を見ながら歩いていった。

 

 燈馬は翌日のこともあるから到着してすぐに帰ってもらったから私がいない間は

本当に一人きりになっちゃうけれど、不安はなかった。

 

 マナカちゃんは命ちゃんのことだったら相当なことは我慢できる子だって

これまで一緒に生活していてわかってきたことだった。

 

「さぁ、この中だ」

 

 伊佐が扉を開けて私は命ちゃんと部屋の中へと入っていった。

休む暇もないほど目まぐるしく事が進んでいく。

これ以上のことは私にできることはないと伊佐に言われて。

私は魂が抜けたような感覚で暗い廊下の中ゆっくりと歩いて

マナカちゃんの元へ戻っていった。

 

***

 

【命】

 

 これが産みの苦しみ…?

 

 これがお母さんが味わった痛さ…?

 

 でもどんなに苦しくても諦めたくない。何とかしてあげたいという気持ちが

強く強く挫けそうになる私の心を支えてくれる。

 

「うぅぅぁぁぁ!!!」

 

 今までに味わったことのない激痛と苦しさが私を襲う。今にもお腹の中から突き破って

きそうな勢いを私は大丈夫と念じながら耐えていた。ひたすら耐えていた。

歯を食いしばって血が吹き出そうなくらい力強く食いしばって。

 

 いつ終わるかとわからない感覚に私はなんとかお腹の中にいる子を両手で抱きしめる

ようにして耐えていた。

 

「くそっ、こんなの想定外だ。ここまで異常に発達するなんて生物の構造上ありえない。

ありえないが、実際に起こってしまったのだから仕方ない」

「伊佐さん、どうしますか」

 

「母体の安全が優先だ!緊急手術の用意だ、子供を取り上げるぞ!」

「はい!」

 

 視界がぼやけて歪んで溶けて、今どこにいるのか、目の前に誰がいるのか

理解が追いついていかない。何とかギリギリ言葉が霞んで聞こえるような感じだった。

私はどうなってしまうんだろうか、呼吸がまともにできない。

 

 扉が閉まった後の部屋は私一人だけ。すごく心細くてそのせいで痛みは更に強くなり

私の体を蝕み破壊していく。

 

「うああああ!」

「萌黄…!萌黄ィ…!」

 

 涙か汗かわからない、顔からあらゆる体液が流れていってるような感覚。

灼熱のように熱くなっている体。今にも気を失ってしまいそうだ。

 

「大丈夫だから…大丈夫…」

 

 お腹の子に言っているのか、自分に言い聞かせているのか。それとも萌黄達に

言っているのか定かではないけれど、私は残った力でそう呟いて気が遠くなっていく。

そんな中意識が保てなくなってきた直後、手で握っていたリボンが少し光ったような

気がしたけれどそれを確認する間もなく私の意識はプツンと途切れてしまった。

 

 

***

 

【?視点】

 

『うあぁぁぁぁぁ!』

 

「!」

 

 呼んでる…?

名前は呼ばずとも必要だと私の「分身」が教えてくれている。

 

 あの声は命の声だ。

今必死に何かを抑えようとしているのか…。

 

 ともかくあの子では手に負えないか。

目を瞑っていて神経を研ぎ澄ましていた私は目を見開いて高台の丘の切り株に

座っていた私は優しく冷たい風を受けて覚醒した。

 

「よし、待っていなさい。命…」

 

 「分身」のある場所を感知しながら体を宙に浮かせて飛んでいった。

「分身」がいる場所まで行くにはある程度距離を詰めないと瞬間的に飛ぶことはできない。

そこまでは普通に移動するしかないのだ。

 

 しばらく飛んでいて気づくと私は見覚えのない施設の前にいた。

この中に命がいる…そして命の中に誰かの気配も…。

 

「そう、ついに始まったのね…」

 

 夢物語だと思っていたこの世界の中での子供作り。ifの世界でしか会えないと

思っていたあの子…。このままでは「二人」の命が危ない。

 

「喜んでいる場合ではないわね」

 

 「分身」が存在する場所をすばやく察知して私は「飛んだ」!

現実の中にある境界と境界の間を潜って、すり抜けるように私は空間の中を泳いだ。

そして感知していた場所と一致した刹那。

 「私」は飛び出した。命の握っているリボンから飛び出したのだ。

現実という世界ではありえないことをしでかしてしまったがそんなことは

言っていられない。

 

「ハッ…ハッ…!」

 

 今にも息が止まってしまいそうなほど絶え絶えとしている命を見て私はリボンを

握っている彼女の手からリボンを抜き取って両手で握り直す。

 

 今までに感じたこともないくらい強い熱さ、鼓動、そして生命…。

人間含めた地上の民と関わってはいけないという決まりがあったが、罰を受けても

構わないくらい今私は珍しくやる気に満ちていた。

 

 取り上げたリボンを長い髪をまとめて縛った。そして再び苦しそうにベッドの上で

横になっている命の手を取りお腹の中にいる者に対して直接語りかけるように歌った。

周りには聞こえず、しかし対象にははっきりと伝えられるくらいの歌を。

 

 私が初めて歌った子守唄を。

 

「~♪~♪」

「うっ…あぅぁぁっ…!」

 

 早く出て母親達に逢いたいのね、私の言うことを聞かない頑固な子。

そして寂しがりやな子…。でもね、今貴女が暴れるとその会いたいお母さんとは

会えなくなるかもしれないのよ。

 

 思考を歌に、言葉ではなく感情的に、直接対象の脳に語りかけるように歌い続けた。

命のお腹の動きが激しくて危うかったのが徐々に落ち着いて静かになっていく。

 

 ひどく苦しんでいた命の表情もしかめた顔はそのままに、だけど呻く声が少しずつ

穏やかになっていくのを感じた。目を瞑り続けながら歌い続けて…。

やがては収まった子に最後に一つだけ歌う様にして呟いた。

 

『いつか私も貴女に会いたいわ。それまでみんなの言うことをよくお聞きなさい』

 

 私の言葉に呼応するように暴れていたお腹の中にいる者は静かに治まっていた。

再び眠りに就くように。気づけば私も額から汗が流れていた。とても強い意識だった。

まだ人として生まれる前からこんなに生命力に溢れるのと出会うなんてね…。

 

「ふぅ…。二人とも無事なようね…よかったわ」

 

 小さく誰に言うつもりもなく呟いた言葉に命が反応をした。

私はびっくりした。生き物の寝たり起きてたり喜んだり怒ったりする感情を感知するのは

得意だったけれど今、命は「気を失っている」はずなのに。

 

「みゅ…みゅーずちゃん…」

 

 今の私は貴女の前でいた姿でいるわけではないのに、意識がないはずなのに。

まるでそこに貴女が知っている子がいるかのように蚊が鳴くような、か細く儚い声で。

 

「ありが…とう…」

「こちらこそ…。またいつか遊びにいくね」

 

 私は歌で人の感情を揺さぶる使い手。

ある時は聞く者を感動させ、ある時は戦争で戦士たちを鼓舞させて、

ある時は洗脳をさせて狂わせて…。

そして今は私の歌で一人のために安らぎを与えている。

こんなの初めてかもしれないわね。

 

「また…ラーメンを食べに行くからね」

 

 まるで血が繋がった親子のように優しい眼差しで満身創痍なのに嬉しそうに笑みを

浮かべている命が愛おしくて、釣られて私も笑みがこぼれていた。

 

 そして時間が切れたのか、力を使い果たしたのか。私はこの世界から溶けるように

消え去っていった。私の肉体はこの世界にはない。私の力が形となって存在するから。

力を消耗すれば自然と消滅してしまうのも仕方のないことなのだ。

 

 でもね、別れるつもりはないの。不思議なことだけど、私も辛く苦しい思いをしても

会いに行きたくなる場所を見つけたから。

 そのためならどんなに時間がかかっても戻るつもりだった。

 

***

 

【他視点】

 

 ガラガラガラ!

 

 手術の準備を終えた伊佐が病室の中に入っていった。

昔のように手遅れにならないように必死に用意はしたがどうしても時間がかかってしまい、

焦りを隠すこともなく命の傍に車椅子を転がして駆けつけていた。

 

「お、治まっている…? 馬鹿なさっきまで暴れていたのが嘘のように…」

「伊佐、彼女は大丈夫なのでしょうか」

 

「相当体は痛んでいるが…僕が独自に調合した薬品と彼女の再生力があれば

いけるだろう。それにしても、どうしてこんなにも都合よく治まったのだろう」

「しかしとりあえずは様子を見ることで良いでしょうか」

 

「そうだな、今取り出すと赤ん坊も死んでしまうし、逆に母体も危険になる。

治療を行いつつ、せめて後一ヶ月は待っていないとな」

 

 必死に命の様子を伺う伊佐とクヌギの会話の後に命の声を聞いて心配して

駆けつけてきた人影の姿が3人分。それは萌黄、瞳魅、マナカの姿だった。

 

「命ちゃん!」

「命!」

 

 最初と違い変わり果てた姿に驚く3人だが伊佐の説明で命の危機はとりあえず去った

ことを告げると張り詰めた気が抜けた萌黄がその場で泣き崩れながら床にへたりこんで

命が無事でよかったと連呼していた。

 

「よかった…よかったぁ…!」

 

 普段強気の態度をしていた瞳魅とマナカも無事だと知った途端。

強張っていた表情が緩んで感情が剥き出しになって、床に座り込んでいた萌黄と

同じように、萌黄と命の傍に寄り添っていた。

 

 みな同じように安堵して同じ言葉を交わしながら命の無事を噛みしめるように

喜んでた。それでもまだ命の体がボロボロなのは間違いないから支障が出ないように

伊佐は睡眠導入剤と独自で作った回復剤を注入して命を落ち着かせて

ゆっくり眠らせることにした。

 

 

***

 

 それから一ヵ月後。普通の出産とは程遠い早さで帝王切開手術を始めて

無事赤子を取り出すことに成功した。早産とは思えないほど赤子の体はしっかり

していて、母体にも影響はなく無事出産を終えた。

 

「ん…」

「起きた?」

 

「もえぎ…」

「子供も命ちゃんも無事だったよ」

 

 麻酔が切れ始め、意識がぼんやりと戻ってきた命。命の手を萌黄が腰を落として握って

周りには幸せそうに微笑む瞳魅とマナカ。そして自信を覗かせていた伊佐の姿。

 

「無事産まれたよ。喜べ、女の子だった」

「よかった…」

 

 長いこと地獄のように苦しんだ命はその言葉を聞いて気を失いそうになるのを

堪えて清潔な布で暖かそうに包まれた子供を見て笑みを浮かべた。

 

「よかった…。おかえりなさい…はおかしい…かな…。

初めまして…みき…」

 

 ゆっくりとなかなかはっきりと発音できないほど疲れきった命は振り絞るように

子供の名前を呼んだ。それは別の未来から不思議な出会いを果たした娘の名前を

呼びながら震える手の中でそっと赤子を渡された。

 

「みき…無事に産まれてきてくれて…ありがとう…」

 

 手に伝わる重さ、暖かさを感じながら消え入るような声で命は呟いた。

 

 

***

 

 数年後…。

 

「うわぁぁぁぁん、お母さんどこおおおおお!」

 

 とある公園の付近で迷子になっている女の子がいた。

綺麗な金髪で碧眼と淡い茶色の目が片方ずつあって。

ワンピースを着てピンクのリボンをつけポニーテールにしている子だった。

 

「何を泣いているんだい?」

「お母さん達とはぐれちゃったの~…!」

 

 そんな子に声をかけた同じくらい小さい子が宥めるように話しかけた。

 

「おー、おー、そんなに泣くんじゃないよ」

 

 宥めていた同い年くらいに見える子は自分のリボンを取って泣いている子のリボンを

解いて横分けにしてリボンを結び二つのテール。ツインテールを作った。

 

「なにこれ…?」

「これはね、泣き虫な子が泣かないくらいに強くなるおまじないがこもったリボンだよ」

 

「う、うそだ…」

「嘘なもんか。そうだ、せっかくだからそのことを証明するのに一緒に探しにいこう。

泣き止む頃にはお母さんたちに会えるはずさ」

 

「う、うえぇぇぇ…」

 

 泣き虫な女の子の手を握って引っ張るようにして歩き出していく、歌いながら。

歌を聴いているうちに女の子は少しずつ泣き止んで、いつしか歌い始めた子と

同じように歌い始めた。

 

 楽しそうな暖かいような歌に動物たちは引き寄せられ猫に鳥に虫に。

ちょっとしたパレードみたいに華やかに行進を続けていると。

 

「あ、みき!」

「どこいってたの!? 心配したよ!」

 

 そうしているうちに女の子の両親の元へたどり着いて、気づいた女の子はまた

泣きながら走り出して金髪碧眼で長身の女性に飛びついていた。

 その後に思い出したかのように振り返って連れてきた少女に向かって涙目ながらも

笑顔を浮かべて両親に教えていた。

 

「あの子がね、みきをここまでつれてきたんだよ!」

「貴女は…」

「まぁ…」

 

 女の子は少女と初めて会うが、両親の反応は違っていてまるで久しぶりに会った

友人に会ったかのような反応をしていた。

金髪の女性は誰をも包み込むような温かい眼差しを向けて、

ピンクの髪をした中学生になりたてのような外見の女性は嬉しそうに笑っていた。

 

 そして二人は同時にこう言った。

 

『おかえりなさい』

 

 少女はくすぐったい気持ちになりながらも赤らめた顔を隠さずに二人に負けないくらい

思い切り人懐っこいような笑顔を浮かべてこう応えた。

 

「ただいま!」

 

 爽やかな風が吹いて葉が舞っている。鳥達が楽しそうにさえずり歌っている。

その場にいる4人の気持ちくらいに清々しいほど綺麗な青空が一面に広がっていた。

 

MIKOTO第二部…完結

 

 

                          そして-第三部-に続く。


 
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