No.730017

命-MIKOTO-23-話

初音軍さん

やっと体外受精のとこまで持っていけました。
専門のことはちっともさっぱりなので変なとこ多いと思いますが
久しぶりに調べながら書いたのでちょっと疲れましたw
こちらは前半みたいなものと思ってくれれば。
次回で命の第二部終了となります。

2014-10-14 13:30:42 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:389   閲覧ユーザー数:388

命-23話-

 

【命】

 伊佐さんの説明からして受精するかが肝心でそれ以降は普通の妊娠になるらしい。

だから私は難しく考えずに伊佐さんに言われたことと、妊娠に対しての知識を念を入れて

調べておいてくれとのことだった。

 

「じゃあ、早速行おうか」

 

 にこやかに私の肩に手を当てて伊佐さんは車椅子を引いて私と萌黄を導いてくれる。

案内された病室は古そうだけどしっかりと清潔に保ってあって割と快適そうになっている。

 

「ここで採卵手術を行うよ。体外受精させるために必要なんだけど、大丈夫かな?」

「命ちゃん…」

「私は大丈夫です」

 

 不安そうに見上げてくる萌黄の手を握って落ち着かせるように見つめた。

その日に体を弄くるのは予想外だったけれどいつかはしないといけないことだから

私は緊張しつつも表情を和らげて頷いて、伊佐さんの方へ向かって頭を下げた。

 

「よろしくおねがいします」

 

 今大変なのは私ではない。

どれくらい感じてるかわからないけれど責任持って行う伊佐さんが大変な番だから。

 

「わかった。僕も初めてのことだから確実とまではいかないけど。

命の保障はできる限り安全にしていくつもりだよ」

「な、なんか不安だなぁ…」

 

 伊佐さんの言葉に顔をしかめて不安そうに呟く萌黄。

まぁ私も不安が全くないと言ったら嘘になってしまうけれどそれ以上に大切なこと、

楽しみが待っていると考えるとその感覚も仕方ないと思える。

 

「摩宮…萌黄さんはここまでね。これからお腹切ったり閉じたりする作業があるから

清潔に保っておきたいんだ」

「やっぱりこいつ信用できない」

「そう言わずに…」

 

 にこにこしながら萌黄を追い出そうとする伊佐さんに萌黄はあからさまに嫌そうな顔を

して伊佐さんに指を差しながら不満を募らせていくのを私は懸命に宥めた。

 

 卵子を取り出して受精させたものを再び中に戻すため入院という形で私だけ残ることに

なった。萌黄は私と離れるのを嫌がっていたが、伊佐さんの「まるで子供みたいだね」の

言葉に過剰反応して萌黄は憤慨しながら帰っていった。

 

 萌黄の抱えるコンプレックスを利用したのだろうけど、萌黄が少し可哀想に思えた。

萌黄の気配を感じなくなった後、伊佐さんは私に声をかけてきた。

 

「じゃあ、始めようか」

 

 その言葉に私は頷きつつもやや不安を抱いていた。

多分それは今に対してではなく少し先のことなのかもしれない。

そんな予感があった。

 

 

【萌黄】

 私は家へ戻って軽くシャワーを浴びて気分がよくないのを少しでも晴らそうとした。

終わらせてから時計を見やるともうすぐ夕方過ぎになりそうな時間帯だった。

出かけたのはだいぶ早かったのに思ったより時間が経過していたらしい。

 

「はぁ…」

 

 軽く検査して帰ってくるかと思ったけど随分早く物事が進みそうで不安だった。

本当に同性で子供が作れるのかも疑問だったし、何よりできなかったとしても

命ちゃんが無事で戻ってこれるかの保障もわからなかった。

 

 私の溜息に心配そうに顔を覗かせてくるマナカちゃん。

普段は私と反りが合わないこともあるけど命ちゃんのことだけに今は同じ気持ちで

いてくれているようだ。

 

「大丈夫…?」

「うん、大丈夫」

 

 二人で見つめていると玄関が開く音がした。

 

「ただいまー」

 

 家の住民が全員揃ったところで私は家族会議を開くことを決めた。

とはいってもほとんど決まったことだし変えられることもないだろうけど

この胸に溜まる不安が少しでも和らげればと…3人で話し合うことにした。

まぁ、なんというかそういう風に形を作って私の愚痴を聞いてもらうという

感じかもしれなかった。

 

「ってことであの医者!? 研究者!? 大丈夫なの!?」

 

 肩書きがぐちゃぐちゃしていてどう言えばいいのかわからなくて怒りのせいか

妙にテンション高く二人に問いかけてみた。マナカちゃんは子供だからそういうのを

聞くのはどうかと思ったけれど割と人生達観してるようだからちょっと気になってたり。

 

「けっこう急ね」

「でしょう、命ちゃんが実験材料みたいにされていないか心配で」

 

「性格的にありえそうなことだけど、そこは大丈夫よ。あの人はプライドと同じくらい

責任感も強いから」

「本当に~?」

 

 仕事帰りから直接話し合い。瞳魅はスーツ姿のまま、私の話を真剣に聞いた上で

その言葉を吐いた。彼女はあの男を贔屓目に見るようなことはしないだろう。

何せ今中心になっているのは瞳魅も愛している命ちゃんのことだから。

 

「本当よ。昔、伊佐とは少し仕事とプライベートで近かった時期があってね。

ある件をきっかけに離れることになったけれど」

「ある件?」

 

「そう、彼の恋人の死がきっかけでね」

 

 その言葉にマナカちゃんはピクッと反応して少し目を開いて驚いたような

表情をしていた。ということはマナカちゃんも初耳だということで、彼女と出会う前の

出来事だったのだろう。

 

「そうだったんだ…」

「あ、ちなみに恋人は男ね」

 

「そ、そうだったんだ…」

 

 あかん、ちょっと想像して顔が熱くなってしまった。

 

「男ってクヌギ君じゃないよね。生きてるし」

「そりゃそうね。あれからしばらくしてからだったし、全くの別人」

 

 付き合いが減ってからでも情報はちょくちょく同族の人から伝えられていたらしい。

少しだるそうにしながら話を始める前に淹れていた冷め切っていたお茶を口をつけて

喉を潤わせてから続けた。

 

「お互いの合意の上で色んな実験を行っていた時の事故が原因だったらしい。

それがあってからすごい塞ぎこんでいてね。もうほとんど壊れていたんだけど…」

 

 話の内容にずっと聞き入って一言も発さない私とマナカちゃん。

お茶を淹れなおす余裕がないくらいだ。

 

「それでも少しずつ色んな研究を続けて、事ある毎に自分の身を削るように

自身に実験を続けていたんだ。あれは絶対体が蝕んでるよね」

「それで車椅子に?」

「いや、あれは不運な事故だ。交通事故。研究疲れで呆けている所に轢かれたとか。

人気がない場所だからって油断しすぎたんだろうね」

 

 その前後のどちらかでクヌギ君と出会っていたんだろう。

しっかりしていそうだけど、あまり手を出させないのはまだ未熟だからか、

不器用だからか。

 

「まあ、そういうことだから。あれ以来の相手だから慎重にはやってくれるさ」

「そっか…」

 

 大好きな人を亡くしたらそりゃ辛いだろうな。辛いじゃすまないくらいだろうけど。

今の私から命ちゃんがいなくなったら死んでしまいそうな気持ちになるし。

 

「それに今はまだいいよ。問題は先に進んで出産段階に入る時だ。

普通の人間でも下手したら生死に関わることがあるんだから」

「うん」

 

「そもそもまだ適合できるとは限らないからね。受精できませんでした、終わりって

可能性もあるわけだし」

 

 まぁ、深刻に考えるなよって肩を叩かれた後、すっかり遅くなった時間を時計で

確認してみんなで外へ食べにいった。精神的に疲れたのと作る気持ちにならなかったから。

久しぶりに食べにいったご飯は、いつもは美味しく感じていたのに今日は何でかな。

味を感じることがなかった…。

 

 

【命】

 

「起きてる?」

「…はい」

 

「痛みは?」

「今はないです…」

 

 ベッドの上で寝ていたようでぼんやりした頭の中、今の状況を整理していた。

確か私は入院していて、手術を二回受けていたんだっけ…。ということは…。

 

「ふぅ…。無事受精して戻しておいたよ。大変なのはこれからだけど」

「ありがとうございます…」

 

 体が重くてだるい…。何かの病気とかではないんだろうけど。麻酔が強かったのかな。

まだすごく眠い…。

 

「もう少し寝ているといいよ。僕は君の家族に連絡を取ってくる」

「はい…」

 

「おやすみ」

 

 それからすぐに目を閉じたらすぐに繋がっていた意識が離れていき。

夢を見ていた。誰も欠けることなく楽しそうに娘を遊んでいる私たち5人の姿。

 

5人…?

 

 誰か抜けているような気がしたけれど、夢の中で疑問を持つことができず。

できたとしても夢に反映されることはない。

 

 ただただ幸せな気持ちが続く中。私を呼びかける声が聞こえた。

 

「命」

「ふぇ…」

 

「あ、ごめん。起こしちゃったね」

「だ、大丈夫です…」

 

 ちょっと涎出ちゃってたのか口の周りに違和感があり、ちょっと照れながら

声のした方を見ると心配そうに私を見る瞳魅さんとマナカちゃんの二人がいた。

 

「萌黄は?」

「あぁ、命のこと気にしすぎたせいで仕事が溜まりすぎてね。今日は残業」

「なんで今日に限ってこうなるんだか」

 

 呆れる二人に反して私はその話を聞いたら焦って仕事を続けている萌黄の

姿が想像できて思わず笑ってしまった。

 

 お腹に響かないように小さく、軽く笑った。

 

「萌黄らしいです」

「そうね」

 

 瞳魅さんはちょっと複雑そうに。でも、私の笑顔を見てホッとしたような顔を

浮かべていた。

「話は聞いたわ。結果は良好のようね」

「みたいですね、実感はまだ湧きませんけど」

 

「これからよ、実感を嫌でも味わうようになるのは」

「そうですね」

 

 頭がボーっとしていたせいもあって、ジッと瞳魅さんの目を見ていたら不意に

瞳魅さんから軽く唇に触れられた。互いの唇が触れ合ってびっくりした私に対して

瞳魅さんは軽く冗談めいた雰囲気で笑っていた。

 

「いやぁ、命を見ていたらつい…ね。これくらいはノーカンだよね?」

「は、はい…」

「もう何をやってるのよ。私の前で…」

 

「あぁ、ごめんごめんマナカ」

 

 びっくりしたのは一瞬でそれからいつもの雰囲気でほのぼのしていたけれど。

唇に残った感触は不思議と少しの間は残ったままでいた。

 

 だいぶ遅くなってすっかり真っ暗になってから萌黄が駆けつけてきて私の顔を見て

ホッとしたような顔で安堵の溜息を吐いていた。

 

「よかったぁ、何ともなさそうで」

「ありがとうございます。萌黄」

 

「みんな揃ったようだね」

 

 萌黄が入って私と一言二言話した辺りで伊佐さんが入ってきた。

研究していた細胞から精子へ変異させたことと受精までの流れを簡単にまとめたのを

説明をしてくれてから簡単に妊娠してからの必要事項をまとめた用紙を渡されていた。

 

「僕はこういう専門の医者じゃないんでね。わからないことや足りない部分があったら

ネットで調べてもらいたい。なに、ググればすぐに見つかるさ」

「地味にネット用語混じらせないで欲しいんだけど」

 

 萌黄の一言で場の空気が少し和んで、手術後から数日経ったらしい今の私の状態なら

今すぐ家へ戻れるそうだった。どうしようかと聞かれたとき、しばらく空けていた

家に戻りたくなって帰ることを告げる。

 

「そうか、ならクヌギに言って送っていってもらおう彼は一応運転できる身でね。

免許はちゃんと持ってるよ」

「ちょっと、不安になるようなことは言わないでよ。それじゃあ運転の腕が怖い

みたいじゃない」

 

「大丈夫さ。彼はちょっと慎重に行き過ぎるだけで安全ではあるから。

ただ…異様に遅い」

 

 その後、伊佐さんがクヌギさんのもとに案内してくれて話をした後。

伊佐さんの代わりに今度はクヌギさんが案内をしてくれて。

 

 施設から出てちょっと奥の方へクヌギさんが姿を消した後、エンジンがかかる音が

聞こえてからゆっくりと車を私たちの前に移動してきた。

 

 窓を開けてクヌギさんが乗るように言って、私たちはみんな中に入ると

忘れていたことを思い出したかのように私たちに伝えてきた。

 

「先生から言い忘れていたことを言いますね。えっと、今回の件に関しては

初めてのケースが多いため何が起こるかわからないから。異常な状態になったら

すぐに連れてきてくれ、とのことです」

 

 いきなり不穏な言葉を聞いて不安になったがすぐにクヌギさんは無表情のまま

「まぁ、大丈夫でしょうけど。念のため」と言ってから再びエンジンをふかして

走り出した。

 

 道らしい道があまりないように感じたが伊佐さんの言う通り安全に運転してくれて

いるせいか最小限の揺れで済んで駅まで運んでくれるのかと思ったけれど。

なんと、家まで車で連れていってくれたのだった。けっこう遠いから悪いと思ったけど

まだ一見妊娠しているようには見えなくても体の大事をとってくれたのが嬉しかった。

 

「では、何かあったら連絡してください」

 

 そういい残してクヌギさんは去っていった。

ずっと外にいると体が冷えてしまうので中に入ると久しぶりの我が家の匂いに

心落ち着かせて萌黄に支えられながら自分の部屋に入っていった。

 

 少しの間しか空けていないのにすごい久しぶりな感じがして不思議な気持ちになった。

ベッドの中に入ってから萌黄から私がいなかった間の話をしてくれて。

聞いてるだけでその場にいたかのように想像できて楽しかった。

 

「ありがとう萌黄。これから大変になるかもしれないですがよろしくおねがいします」

「こちらこそだよ。ちゃんと二人共無事でいられるようにがんばるから」

「はい…!」

 

 愛しい萌黄の手を握っていたら、すぐにうとうととして眠気が襲ってきた。

もう少しこの気分を味わいたかったけれど萌黄に気づかれておやすみって言われたから

私は目を瞑った。

 

「これからいつでも握れるからさ、ゆっくりおやすみ」

「はい…」

 

 離された手をお腹に当てて、愛しい気持ちをお腹の中にいると思われる子供に

注ぐような気持ちのまますぐに眠りに就いた。

 

 無事に産まれてみんなで楽しい日が過ごせますように、と。

 

 


 
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