No.720053

真・恋姫†無双 拠点・曹洪 4

ぽむぼんさん

文章を切りつめても長くなってしまいました。申し訳ございません。 サクサク読める文章を目指しておりますが、中々難しいものですね。 いよいよ拠点・曹洪も残るは2話。最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

2014-09-21 08:00:02 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2441   閲覧ユーザー数:2107

 主人から下された期限まで二日をきった朝。蜀と呉ではどんな美味しいものが食べられるのかなーと浮かれている季衣と流琉に挨拶をし、一刀は栄華の部屋へ向かっていた。

 部屋の主はすでに仕事にかかっているであろう。男である一刀がいない部屋にいない時間が何より一番集中出来るのだから。

 蜀・呉へ向かう人々は顔を合わせ、間近に迫ったイベントを指折り数えて待っている。今回のイベントに参加出来ない人々は普段と同じ。

 いつものように仕事をして、時折楽しそうに話している人たちに羨む視線を向ける。

 そういった武将達の賑わいを横目に、栄華の部屋の前にたどり着く。思えばこの部屋をノックするのは二度目だな、などと思いつつ一刀は右手を戸に近づける。

 深呼吸。ノックするまでに約五秒。ノックしてから、またも五秒。十秒の間に鍛錬に向かう霞に『頑張りや』と声をかけられ勇気づけられる。

 「どうぞ。私としてはもう少し遅く来ていただいてもよろしいのですけれど」

 願わくば、今日は暴力を振るわれたくはない。さぁ、北郷一刀の戦闘を始めよう。

 「おはよう、栄華」

 「えぇ、おはようございます」

 せめてこっちを見てくれてもいいんじゃないかな、と思いつつも昨日と同じ栄華の前に腰かける。

 「だいぶ進んでるみたいだね」

 「おかげさまで。さ、無駄口を叩いている暇がありましたら仕事をしてくださいませんこと?」

 栄華の筆はただ一つの迷いもなく竹簡の上を走る。間違えたら無駄になる。その思いによって栄華の筆に過ちが起こる事はないのである。

 しかし

 

 「むー。いや、違うな」

 シュッ。シュッ。シュッ。

 

 「ん。こうじゃないな……」

 シュッ。シュッ。シュッ。

 

 「お?これなら――駄目か」

 シュッ。シュッ。シュッ。

 

 この男の筆の動きのほとんどが過ちだった。筆を何度か動かしたら短刀を取り出して竹簡を削る。何度も繰り返された竹簡の表面は既にボコボコにへこんでおり、机の上には削られた竹が散乱している。散乱した削りかすが地面に落ちたところで栄華の不満が爆発した。

 「……先程から何度も削っていますけれど。昨日の私の話を聞いておりまして?『頭の中で書く事を纏めてから書く』そうすれば何度も書き直さなくても良いのですけれど」

きっ、と一刀の顔を睨みつけながら吐き捨てる。無駄は一切許さない。それが栄華の信念である。

 「あぁ、俺も栄華の話を聞いて実践してみたんだけど違うんだ。書く事が決まってないから書きなおしてるわけじゃなくて、その、怒られるような字だからやりなおしてるんだ」

 “怒られるような字?それは汚いという事かしら。”そう思いながら一刀が書いている竹簡を見に移動する。

 

 「んな、これ、は―――」

 

 字が汚いと言ってもこの男はまがりなりにも天の見遣い。少しくらい歪な形なのだろうと思っていた。というか、この男が書いている竹簡に目を通しているが、この男の書く文字が奇麗な分類だと知っていた。

 知っていたので、どんな字を書いていても速度を優先する為に“この程度なら大丈夫です。そのままお書きになったらよろしいですわ”と言い放つつもりであった。

 そんな栄華をして、それは言葉を失わせるに足る威力を持った芸術だった。

 「あー……えっと、これ、は、守宮(ヤモリ)?」

 おそるおそる口にする栄華。

 「ん?いや、これは『蜀王であらせられる劉元徳殿』って書いてあるんだ」

 関羽や魏延が聞いたら死刑は免れない発言である。

 一刀はなに恥じらう事もなく、次々に得体のしれない芸術作品を生み出していく。

 何らかの怨念すら感じる、見るのもおぞましい守宮。

 吐き気を催す程の醜悪な黒い何か。

 ボコボコに削られた場所に溜まる墨の池。

 これは最早、主に提出する竹簡ではない。嫌いな相手に送る呪いの竹簡(手紙)だと思わざるをえない。

 「う、嘘でしょう……?これが文字ですって!?ありえないですわ……。文字に対する冒涜ですわ。あぁ、なんて事なのでしょう!!」

 栄華の嘘偽りない純度百パーセントの本心であった。

 「ひどい……俺だって一生懸命なんだぞ」

  一刀の文字は栄華が言う程汚いわけではない。むしろ、この世界に来た時に比べれば格段に上手くなってはいるのだ。しかし、栄華が目を通していた一刀が書いたとされる竹簡は一度華琳の目を通った後に善意で猫耳軍師が全て書きなおしているのである。

 桂花の文字と比べてしまうと天と地ほどの差がそこにはあるのだ。故に、あまりにも汚いと錯覚してしまったのである。

 

 余談ではあるが、一刀が書いた原物(オリジナル)は全て書庫に納められており、桂花や華琳、風が時々見返しては字の上達ぶりを見て喜んでいる。

 

 「……天の国にいた頃は文字を書いた事が無かったのかしら?」

 「文字を書く事はもちろんあったよ。でもこの世界とは少し違う文字を書いていたんだ。もっと簡単なものをね」

 「簡単なもの、ですか?」

 「うん。栄華たちが使う文字を簡略化して書くんだ。だから簡単に覚えられるし、早く書く事が出来る」

 「文字の簡略化……」

 なるほど。天の国の文字が民衆に広がれば、文字が読める人間が増え始めて後に国を強くする助けになるかもしれませんわね。

 しかし、あまり民に知識をつけさせてしまって暴動が起きる事が心配ですわね。

 「大丈夫だよ」

 思案していたら一刀が声をかけてくる。心を読んでいたかのように。

 「今のこの世界に不満を持っている人は少ないと思うよ。もう三国が争う事なんてないんだから」

 栄華はこの男の考えは甘いと思う。三国が争う事はもう無いかもしれないが、外の国からの侵略だって考えなければならない。しかし、だからこそ未来への人材を育てる事も重要になる。天の国の文字を教える事を検討してみても良いかもしれない。

 「もう貴方は竹簡を書くのをお止めなさい。この削りかすの量を見てご覧になって?とても、無駄ですわ」

 仕事を再開して早々、再び竹簡を削っている一刀に向かって栄華は言う。

 「この削りかすも、そのうちなんとかするよ。栄華は間違えないから削りかすを出さないだろうけど、この国全体で考えてみると物凄い量の削られた竹が出てしまうだろう?」

 「そうですわね。文官の誰もが私と同じような書き方をしているわけではありませんし」

 というか、栄華のような書き方をしている方が稀なのだ。とつっこむのはやめた。

 「だから再利用出来ないかな。と思ってさ、真桜に頼んであるんだ」

 「さ、再利用ですの?この削りかすを再び竹簡にするだなんて……不可能だと思いますけれど」

 「うん。それは俺だって無理だと思う。だからこの削りかすから竹酢液が作れないかどうか試してもらおうと思って」

 「ちくさくえき?」

 「真桜や凪、沙和のいた村では竹で炭を作る時に出る黄褐色の液体を消臭や防虫に使っていたらしいんだ。それが竹酢液。だから、この削りかすを使ってそれが作れないかどうか頼んでる」

 「……」

 「俺の国では再利用する事をリサイクルって呼んでるんだ。リサイクルは一般的で、国民全体に推奨されているんだよ」

 「な」

 「な?」

 「なんて素晴らしいんですの天の国!!少しの無駄も無い。もう捨ててしまうようなものでさえも、再び何かに使うですって!?あぁ。なんて素晴らしいんでしょう!最高ですわよ!」

 うっとりとした表情で目を輝かせている栄華に一刀はついていけなかった。

 「蜀?呉?ふふ、そんな国に行く時間がありましたら天の国へ行って見聞を広めた方がはるかに!そう、はるかに魏の為になると思いませんこと?今からでも遅くありませんわ。この『三国つあー』の日程に『天の国つあー』も書きたしませんこと?いいですわよね!?」

 栄華が一言一言を言う度に一歩ずつ近づいてきて今では一刀と栄華の鼻が触れ合いそうな程になっていた。栄華は興奮しているのか、さらに歩を進めようとする。

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!近い!嬉しいけど凄い近い!」

 「近い?天の国がですか!?あぁ、そんな近くに天の国があるだなんて!何故もっと早く思いつかなかったのかしら。ふふ、軍師の皆さん方もまだまだですわね。それで、どの程度近いんですの?確か東の方角でしたわよね?」

 「ちち違う!天の国は遠いよ。近いのは栄華の顔だ!」

 「顔?……い、いやぁああああ!!」

 「あー……ゴホン。その、大丈夫ですの?」

 「あぁ。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 頭に巨大なたんこぶを作った一刀は仕事を一時中断し、椅子にもたれかかる。

 

 “うーん……やっぱり怪我をしたか”

 今朝の願いを天は聞き入れてくれはしなかった。

 

 「丁度いいですわ。休憩にしましょう」

 頭を殴って何が丁度いいのか分からないが、一刀は素直に従おうとした。が

 「ん……?この蜀と呉でやる大宴会って何なんだ?俺聞いてないぞ」

 蜀と呉の武将達がもてなしてくれるとは聞いているが、それではないらしい。滞在している日の毎夜に大宴会と予定が書かれているので気になった。

 「あら、よくお気づきになりましたわね。いいですわ。説明してさしあげます」

 髪を撫で、自慢げに、褒めろと言わんばかりの表情で言い放った。

 「蜀と呉にいらっしゃるまだ汚れを知らぬ、健全な意味で可愛がらなければならない幼女の踊り子に、透けている衣装を着せて踊らせているのを肴に酒を飲み交わすという素晴らしい趣向―――」

 「駄目に決まっているだろ!」

 「な、何故ですの!?閨に連れ込まなくとも相応の代価をお支払いいたしますのよ!?」

 「しかも健全な意味で可愛がらなければならない幼女を閨に連れ込むつもりなのか!?」

 「勿論、気にいった健全な意味で可愛がらなければならない幼女がいた場合ですけれど」

 頬に手をあてぽっと頬を染める栄華。その仕草がとても可愛くて一刀は少し見とれてしまった。しかし、だからといってこの宴会を許すわけにはいかない。

 「こんな宴会の為に金を使うんじゃない!あと、あんまり健全な意味で可愛がらなければならないって言うんじゃない!かえって不健全に聞こえる!」

 「使わないお金など、そこらの瓦と何らかわりありませんわ!」

 「絶対駄目!」

 

 

 

 その後数時間に渡って議論が繰り広げられ、泣く泣く大宴会を諦める栄華であった。


 
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