No.717546

真・恋姫†無双 拠点・曹洪 3

ぽむぼんさん

全部で5つの予定でしたが、6つになりそうな予感がします。
キャラ崩壊を起こしていますが、お目こぼしをいただけたら幸いです…!

桂花がこんなに一刀の事を好いたお話も考えておりますが、拠点・曹仁が終わった後に書く予定で、ひたすら桂花視点のお話です。

2014-09-15 02:51:33 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2718   閲覧ユーザー数:2346

 日は既に傾いている。恐らく今日という日に阿蘇阿蘇を買いに行く事は不可能だろう。明日以降、まだ店頭に置いてある事を祈りながら栄華はようやく筆先に墨を染み込ませる。

 毛の根元まで墨をつけ、硯の陸で余分な墨を取り除く。使いこまれた大筆は既にコシがなくなり、毛が何本か抜け欠けている。

“そろそろ替え時かしら。もうこの筆を使い始めて長いものね”

 頭の中で纏めた文章を思い浮かべ、素早く竹簡に筆を走らせる。最初の一文字を書き終わった瞬間、戸が叩かれる。天の国、すなわち現代の日本から魏に伝わった文化の一つ。来訪を知らせる為に戸を叩く『ノック』と呼ばれるものだ。

「はい。どなたかしら?」

 聞こえてきたのは一回。コンと小さく控えめな音を発した少女は、声を張り上げる。

「私と風よ。急ぎの用事で来たのだけれど。この戸を開けてもかまわないかしら?」

 響く声。戸の外では頭の上に小さな模型を乗せた少女と、猫の耳をあしらった頭巾を被った少女が部屋の主の返事を今か今かと待ち構えていた。

 

 “……嫌な予感がしますわ―――”

 

 桂花と風。栄華にとって二人は魏を支えてきた有能な軍師達という認識である。よく思っていない事があるとすれば、それは二人とも予算を守らないという点と、親愛し、信愛しているお姉様へ近づく猫耳軍師( ドM)は敵だという点である。

 それだけならまだよい。しかし最近になってもう一つ許しがたい、栄華にとってとてつもなく気に入らない点が増えてしまった。

「急ぎの用件ね?わかりましたわ。部屋に入る事を許可します」

 筆を再び硯の上に置き、部屋の主として来訪者を待つ。ようやく書きだしたが、急ぎの用件とあれば聞かぬわけにもいかない。きちんと対応しなければならないだろう。

 「入るわ。一刀に用があってあんたに用は無いわよ。仕事をしてなさい」

 許可した瞬間に戸をこじ開けるようにして入る猫耳軍師。その後ろに、お邪魔しますよー。と言いながら急ぎ足で部屋へ入る少女。急ぎの用件はどうやら私に対してじゃないみたいね。ならいいかしら。と再び筆を取る。

 「桂花に風じゃないか。どうしたんだ?俺に用事って……華琳か?」

 「あんたに用があるのは華琳さまじゃないわ。この私よ」

 「風も用があるのですよー。桂花ちゃんったら風に内緒でお兄さんを独り占めしようとしていたのです」

 「まったく、この変態は油断も隙もあったもんじゃないぜ」

 「ちょっと!一刀に変な誤解を与えるでしょ!やめてよ!」

 

 コホン。と咳払いをし、用件を話し始める。

 「あんたの次の休日に二人で洛陽まで出かける予定だったじゃない?そしたら風がもうすでにあんたと約束してるって言うのよ。おかしいと思わない?」

 「風はちゃーんとお兄さんと約束したのですよー。次のお休みは風とお兄さんが二人で一日中ぼーっと過ごすのです」

 「おいおい。俺もいるから二人だぜ」

 「宝慧はお留守番だから、二人であってるのですよ」

 

 栄華にとって、とてつもなく気に入らない点。それはこの間まで一緒に男を嫌っていたはずの桂花がこの男に熱を上げているという事だ。一体どうしてしまった事なのか。

 栄華は出会ったばかりの頃の桂花を思い出してみる。

 一度お姉様から『一刀と仲がいいと言うのかしら?』と問われた時

 『誤解です、華琳さま!こんなやつ、私の眼中にもありませんから。私の眼に映っているのは華琳さまただお一人です』

 ……えぇ。間違いなくこうでしたわ。でも、ほんの少し前。そう一カ月程前の反応は

 『そ、そんな!もう、華琳さま!お似合いだなんて……でも、安心なさってください。家庭を築いても私は華琳さまにお仕えいたしますから!』

 ―――この発言を聞いた華琳は笑顔のまま青筋を額に浮かべ、今後二度と同じ質問をする事は無かった。その夜から週に三日は華琳が一刀を独占する暗黙の規律が出来あがった事は言うまでもない。

 栄華はチラッと桂花を盗み見る。頬を膨らませ、上目遣いで一刀の右膝の上に座っている。左膝の上には風が乗っていますけれど、そんな事は最早どうでもいいですわ。

 「貴女ってそんな感じじゃなかったですわよねぇ!?」

 思わず栄華は叫ぶ。違うと、あまりにも違いすぎているその姿を見ていられないと心からの叫びが木霊する。

 

 「ちょっと何なのよ。今私達は大切な話をしている途中なのよ!急に大声を出さないで!」

 「そうなのです。危うく宝慧を落っことしてしまう所だったのですよ」

 びっくりしちゃったじゃない!と一刀の胸にすっぽりと収まっている。風と共に。

 「私達の会話に参加したいっていうんなら参加させてあげなくもないわ。私のでぇと計画と、風との聞くまでも無い計画のどちらかを一刀に仕方が無く選ばせてあげている所よ。一刀が選んだ方が今度の休日の予定になって、選ばれなかった方がその次の休日の予定になるのよ」

 「いや微塵も興味ありませんの。だから事細かに説明しなくても大丈夫ですわ」

 「興味ないですって!?あんたそれでも魏背負ってる一人の自覚あんの!?」

 「その男の休日の予定を選ぶ事でこの国の行く末が変わるっていうんですの!?第一、認めたくありませんが。えぇ、百歩と言わずに千歩譲歩して言わせていただきますけれど。その男はお姉様の所有物ではなくて?」

 「そんな事……もちろん承知の上よ。華琳さまは別格だもの。でも、華琳さまの次に私を見て欲しいのよ。いいかしら、いい女っていうのは耐え忍ぶ女の事を言うのよ」

 

 ふふん、と自慢げな顔で私を見ています。いえ、そんな顔をされても何一つ羨ましいと思いませんわ。こっちを見ないでくださいます?

 

 「貴女たちが互いの予定を合わせるのは一向にかまいませんが、無駄だと思いますわよ」

 「無駄?私のこの努力が無駄?その言葉は聞き捨てならないわね。確かに私の努力は一番にはなれないわ。だって一番は決まっているんだもの。でもね、時には結果だけじゃなくて過程が大事だって事もあると思うのだけれど」

 「んー。なんとなく風には言いたい事が分かったような気がするのですよ」

 風が思案を始める。ほんの少しの沈黙の後、栄華の目を見ながら呟いた。

 「今回のお兄さんのお休みは風は譲るのですよ。その代わりに、この次のお兄さんのお休みをいただくのです」

 「あら、やっと分かってくれたのかしら風。―――どう?栄華。これでも努力が無駄になったと言うの?」

 風は桂花の言葉が終わるか終らないか、というタイミングで一刀の膝からぴょん、と飛び降りる。そのまま戸まで歩いて行き、出ていく前にくるりと振り返る。

 「それでは、風は帰るのですよー。桂花ちゃん、栄華ちゃん、お兄さん。またお会いしましょう」

 「えぇ、またね。私はもうちょっと一刀と一緒にいるわ。今日の仕事も残すところあと少しだしね」

 「ごきげんよう。一応、お姉様に伝えておくわ」

 「お願いするのですよー。行きますよ宝慧」

 「おう、今日は俺様を風呂に入れて欲しいもんだぜ。体が汚れちまったら好いた女も抱きしめられないだろう?」

 「おぉ?宝慧にまさか彼女がいただなんて。むむむ、知りませんでした」

 しばらく仕事をしていると、眼の前で甘い空気を出していた少女が栄華に振り替える。

 「……ところで、伝えておくって何の話?」

 桂花が片方の眉を上げ、怪訝そうな、しかし心配そうな顔で栄華に尋ねる。

 「あぁ、その事ね」

 忌々しい事よね。と言いながら、そっと桂花を地獄へ誘う言葉を口にする。

 「今度のその男の休日はお姉様が街へ出かける時の共にすると仰っていましたわ。一日中連れまわすと。だからその男の予定が無い休日はその次なのですけれど。風は今の会話で察したようね。だからその次の予定を抑えたのでしょう」

 

 「……は?」

 

 「だから、貴女の今の努力は無駄に終わると言ったのですけれど、かまいませんわよね?だって結果は大事じゃないのでしょう?大事なのは過程と言っていましたものね」

 「大事じゃないわけないでしょう!?誰よ!過程が大事とか脳みそに蛆でもわいてるような馬鹿な言葉言ったの!ちょっと!風!!待ちなさい!風!」

 

 小さな体のどこにそんな身体能力があったのか、残像が見えそうな程素早く一刀の膝の上を降りると戸まで一直線に走る。

 

 「っていうか!あんたが誰とでも休日一緒にいる約束さえしなければこんな事にならなかったんじゃないの!?反省しなさいよ!」

 「いやでも、……華琳から出かけるから共に来いって言われたらたとえ約束してなくても無理じゃないか?」

 「私の気分の問題よ!!!いいこと、栄華!まだ華琳さまに次の一刀の予定は伝えなくていいから!まだ風と話がついていないから!」

 

 戸が外れる程大きな音を立てて閉め、出て行った風を追いかける。部屋に栄華と一刀が残される。二人だけになった部屋は少しだけ、いやかなり寂しくなった気がした。

 「やっぱり女の敵ですわね。何人もの女と約束をするだなんて。しかも同じ日に」

 「……そうだな、それは悪い事をした」

 

 伏し目がちになり、反省しているように見える。事実反省しているのだろうが、栄華はやはり男というものが嫌いだ。臭くて汚いだけでなく、平気で何人もの女を食い物にする。たとえそれが天の御使いだろうと、お姉様の命を救った人間であろうとも。

 魏の皆がこの男に惚れているのが分からないわけではない。この男は皆を愛する事を決めたのだろう。優柔不断だと周りからの評価はあるが、根底にあるのは優しさである事は栄華にも分かっていた。

 もし誰か一人を選ばなくてはならない時が来た場合。その時選ばれるのはもちろん華琳だろう。それは栄華にとっても嬉しい。しかし、その時に無残にも捨てられる残りの女達の事を思うと栄華は心苦しい。

 

 全員がこの男を好いてしまった場合。もしもそんな事になってしまったならば、この国は瞬く間に崩壊してしまうのではないでしょうか。三国の力関係は崩れ落ち、この平和な世界に、お姉様がもたらした平和な世界にまた再び戦乱が起こるのだけは避けなければなりません。

 

 だから嫌いでいましょう。魏の女達が捨てられる時が来るとしたら。私だけはこの男を嫌いでいましょう。そうすれば、少なくとも崩壊だけは免れるのですから。たとえ私だけがこのまま家族を持たず生きていく事になったとしても。

 

 私だけはこの男を嫌いでいましょう。


 
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