No.699736

【短編】レズ曹操には奥さんが居るとのこと

~注意~
※文章の書き方を練習すべく書いた物です※
※ドレズ、ド百合を目指しています※
※Hシーンはカット、真相はあえて謎に包んでいます※
※華琳さまはこんな奴じゃねえ!!もっと凛々しく百合百合しいんだ!!と考える人は戻るボタン推奨です※

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2014-07-10 12:24:43 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:6441   閲覧ユーザー数:6186

 私は未来が見える。例えや冗談ではない。

 今、私が生きるのは漢の三国時代手前あたり。最近は黄巾を身に纏うものが増え、184年黄巾の乱が今か今かと待っているような状況。未来が見えるのならば、英雄となるにも容易く、平和に生きるのも容易いではないかと思うだろう。自由の身ならば、私はなにか大業を成すか、何事も無く生きるかの二択だっただろう。だが、自由の身ならばと言った通り、私は自由ではない。何か犯罪を犯したわけではない。

 私は彼女に女として愛されすぎた。

 

「ねぇ、淑。何か欲しい物はあるかしら?」

「んー……、強いて言うなら華琳の覇道の達成された世界?」

「権力が欲しいの?」

「ふふ、見て見たいのよ」

 

 無茶なお願いだと知っている。私は未来が見えるからこそ、曹操の天下となった世界をこの目に焼き付けてみたかった。司馬家を蹴散らし、晋など物ともせず呉も蜀も飲み込んで……。彼女はきっと出来ると思っている。だからこそ、私は英雄が女となったこの世で違った未来を見て見たい。それが唯一つの願い。彼女が天の頂点に立ち、その横にあの二人が立って、そんな光景。

 

「なら……」

「ん?」

「私の覇道が成された時、淑は私の妻となってくれる?」

 

 英雄でも、天才でも、この世界では女性。荒々しさを身に着けても、本質はか弱い。だから私は彼女の頭を撫でて言う。

 

「その時は劉夫人とでも、名乗らなきゃね」

 

 私は死ぬまで曹操の妻なのだから。

 

 

 

 

 太平妖術の書。華琳の祖先が何処かから貰い、宝物庫で埃を被っていた一冊の妖術書。華琳は信じては居ないようだけれど、私はその書の効果を知っていた。あの書があれば天下を揺らす事くらいは出来る。上手く使えば飲み込める。それでも、その書を使ったものが向かうのは破滅。当然でしょう。軍の何も分からない者が、分かっていたとしても少人数でしか使えない書なのだから。上に立つ者が無能か、少数の国は簡単に傾く。自分で手に入れてこそ、国の地盤が強固となり、国として成立する。

 まぁ兎に角、危険な書が曹家の宝物庫から盗まれたらしい。正直、ガラクタが大半を占めるあの宝物庫から宝を無意識か意識的か、見抜いたその実力は十分に凄い事でありながら、もう少しすれば華琳に首を刎ねられてしまうのだろう。

 

「んっ……、じゃあ行ってくるわ。間違えても部屋から出ないようにね」

「分かってる分かってる」

 

 行ってきますのキス、行ってらっしゃいのキスという新婚夫婦のような事をする女性二人。華琳は所謂レズビアンであり、気に入った子を寝台に誘うらしい。しかし、私が誰かと話をするのはどうにも我慢ならないらしく、私は基本的に部屋からは出られない。別にその事に不満はないし、時々話をしに来る夏侯姉妹がいるから退屈なことはそんなにない。

 華琳は私の返事にムスッとするも、急ぐべきだと分かっており私に背を向けて部屋から出て行った。外から鉄のぶつかる音が聞こえる。また大きな錠前でも付けたのだろう。そんなのがなくても部屋からは出ないし、出る必要もないのに。トイレだって、風呂だって、ご飯を出される場所だって、この室内にある。シンプルな壁に豪華な家具。華琳の好きな花がベットの傍の花瓶に添えられ、部屋の香りを無理やり支配しているように香る。

 何故、此処まで私を粘着質に閉じ込めるのかは分からない。彼女の英雄たる性格からはあまり考えにくいが、曹操の第一夫人として歴史が勝手に補正しているのかもしれない。私自身は歴史を知っているのだから補正の仕様がないので仕方なく華琳を補正した。神様が居るならばそう考えているんじゃないんだろうか。どこの宗教にも参加していない私は欠伸をして、豪華なベットに横になったのだった。

 帰ってくるのは何時ごろになるだろうか。三日後?四日後?一週間くらいかもしれない。未来が見えてもそれはあくまで正しい歴史での未来。いや、こっちが正しいのかもしれないが、とりあえず曹操が男だと言うほうが正しいと仮定しよう。そして私はその曹操が男の正しい方しか知らない。だから、華琳が一体どのくらい歴史を覆すのだろうか。夏侯惇こと春蘭の方が歴史を覆すだろうか、それともその妹の夏侯淵の秋蘭?

 私はクスクス笑いながらゆっくりと眠った。

 

 

 

 

 騒音。廊下から聞こえてくる。

 私は身体をゆっくりと起こし、周りを見回す。ベットの横、花瓶には活けてから時間がそれほど経ってないであろう水気を帯びた花の束。開いている窓の外を見ると日は既に高く、昨日夜更かししすぎた事を思い出した。「この騒音は返ってきた春蘭のかな?」などと思い、ベットからゆっくり這い出ると、扉まで歩んだ。もう華琳も帰ってきているし窓も開いているのだ。扉も開いてるだろうとドアノブに手をかけた時、急に扉が開いた。引き戸である扉は私のデコに角を命中させ、右側へと軽々と私の身体を跳ばす。扉が開かれた事で騒音は跳ね返って大音量で部屋に侵入する。それと同時に見たことのない人間が入ってきた。

 

「か、隠れないと……って、あぁ!?ごめん!!」

 

 部屋に入ってきた謎の青年は扉を開けた拍子に私が無言のままに跳ばされたと知り駆け寄ってくる。私がデコを手で押さえ、青年の支えで上半身を起こす。青年は必死に私に謝るが、デコの痛さに何も返事が出来ない。とりあえず返事をすべく口を開くが。

 

「ぃ、ぃたぁぃ……」

 

 久しぶりの痛みに涙を堪え、口を噤む。プルプルと震えながらデコを押さえていると、青年は頭を何度も下げる。そんな事をしていると廊下から聞き覚えのある声が近づいてくる。

 

「ほんごぉぉぉおおおお!!貴様ぁぁぁあああああ!!!」

「ひぃっ」

 

 顔を真っ青にする青年。春蘭の激怒の声が段々と近づいてくるのに比例してどんどん蒼くなっていく。このままでは下手をすれば部屋が真っ赤に染まりかねない。

 

「そこに隠れてください」

 

 私は無駄に広いベットの下を指差す。仕事が早く片付いた日は大抵華琳がやってきて一緒に寝たりする為に広く作られたのだろうが、キング以上のサイズのベットに女性二人と言うのは随分広い。ベット内部を隠せるように薄いカーテンも取り付けられているが、未だ華琳の妻となっていない私は身体を合わせた事はない。そんなベットの下を指差しているのだと知った青年は首を赤ベコのように振るとゴキブリのように這って隠れた。隠れるのとほぼ同時、開かれていた扉から春蘭が入ってきた。尻餅をついている形の私を見ると、直ぐに近づく。

 

「淑!!さっき此処に変な……どどどどどどど、どうしたんだ!?ももももももも、もしかしてまたっ!?」

 

 片手にガッチリと掴んだ剣を落とし、私の目の前で屈む。丁度良い高さになった春蘭の口に、人差し指を静かに当てる。首をゆっくり横に振る。

 

「大丈夫。ちょっとこけただけ」

「でででででで、でもおでこに怪我がぁっ!!」

「ちょっと扉にぶつけただけよ」

「だだだだだだ、だがっ!!」

「ふふ、大丈夫。大丈夫だから」

 

 ゆっくりと春蘭を支えに立ち上がった私は、一緒に立ち上がった春蘭を優しく抱く。背は大体同じくらいで、慌てていた春蘭の背中に手を回して落ち着かせる。ゆっくりとしたリズムで子供をあやす様に軽く背中を叩く。すると春蘭もだんだん驚きを抑え、落ち着き始める。

 

「落ち着いた?」

「……あぁ、取り乱してすまなかった。だが、気をつけてくれ。淑は私達にとって大切な存在なんだぞ」

「分かってる分かってる」

「そういえば怪我をしているんだったな、衛生兵を呼んでくるか?」

「大丈夫よ」

「……そうか」

 

 春蘭は少し離れて正面から私の胸に顔を埋めた。これがあの一騎当千の夏侯惇の一面でもあるなんて、一体誰が考えるだろうか。春蘭の頭を優しく撫でる。背中に回された春蘭の腕は強く私を締める。それでも苦しいという事はなく、苦しいのはむしろ春蘭なのかもしれない。だから私は髪を乱さないように優しく春蘭が満足するまで頭を撫でる。

 しばらく春蘭は凛とした姿ではなく、甘えた少女の姿を見せたが、満足したようでゆっくりと体を私の体から離す。

 

「じゃあ、私は馬鹿を探してくる。淑も変な男を見たら直ぐに報告してくれ」

「分かったわ」

 

 私は部屋を出て行く春蘭の背中を笑って見送る。扉をゆっくりと閉め、足音が離れていく。

 ベットの下から物音がして振り向くと、安心しきった青年がゆっくりと出てきた。毎日華琳の信用する者が掃除をし、埃一つない床に伏しても全く汚れない。こうして這い出てくる青年の服を見て見ると中々に妙な格好だった。

 上下白色の光を反射する服は、私が知っている未来の服だった。もっと未来の服も知っているが、青年の服は明らかにこの時代では考えられない服。まぁ、ファッション雑誌も流通する世の中なのだから絶対にないとは言い切れないけども。

 

「あ、ありがとう。助かったよ」

「いえいえ、世の中助け合いですから」

 

 ベットの下から這い出てきた青年は立ち上がると私のほうに向き直る。

 

「えーっと、俺は北郷一刀。姓が北郷で、名前が一刀ね」

 

 胸に手を当て、自己紹介をする北郷君。随分と不思議な名前で、南蛮の方の人かとも考えるが、南蛮の民なら衣服は拘らないだろうとその考えを捨てる。

 

「劉です。姓は無いというか、劉が姓と名前の役割を担っているのです」

 

 えっへんと胸を張る私。目の前の北郷君の目線は胸に一直線に向かう。此処最近は女性とばかりあっていたために忘れていたが、私の服は基本的に胸元を大きく開いている。それは何故か。華琳がいざと言う時素早くやれるようにする為らしい。一応女性としての恥じらいは無い事は無いので胸元をわざとらしく隠す。これが伝える意味は「貴方の目線分かり易すぎですよ」だ。

 

「あ、あぁっ。ごめん!!」

 

 慌てて謝罪する北郷君の姿はなんだか面白かった。

 

「ふふっ」

 

 なるほど。この北郷君はきっとそこいらの男性のようではなく、何か面白いものを持っているから華琳が連れて来たのだろう。どことなく何か不思議な感じがする気がしないこともない気もする……かもしれない。

 

「変なこと言ったかな?」

「いえ。でも、さっきから謝ってばかりだなぁと思って。っと、そろそろ行かないと見つかってしまいますよ?」

「へ?でも春蘭は今出て行ったばかりだよ?」

 

 もう春蘭と真名を交換するほどの仲、やはり不思議な魅力を持っているのかも知れない。下手をすれば問答無用で刀を振り下ろす春蘭が真名を許す、つまりこれからも北郷君と顔を合わせることになるのだろう。だったら余計に教えておいた方が良い。多分華琳とも真名を交換しているでしょう、と勝手に決めた。

 

「華琳にバレれば問答無用で」

 

 私は親指を立て、自分の首を切るように横に動かすと、北郷君の顔はまた青く染まる。多分、華琳の他人に対する冷酷さを見たのだろう。現実味のある話だと分かってくれたようだ。

 

「じゃ、じゃあ俺そろそろ行くね!!じゃあまた!!」

「あ、ちょっと」

「えぁっ?な、なに!?」

「私の真名は淑です。今後はそう呼んで下さい」

「はい!!」

 

 こうして逃げるように部屋から出て行く北郷君。扉を開けて勢いよく閉めたことで、春蘭に場所がバレただろうなと軽く笑う。

 それにしても、華琳もなかなか面白い玩具を持ってきてくれた。私と会わせる為に持ってきているなどとは思わないが、偶然と言うのはやっぱり面白い。恋愛の始まりもこうなのだろうか。こんな考えをしている事がバレれば、浮気だなんだと言われるんだろう。間違っても華琳にバレてはいけないなぁ、と椅子に座り込む。

 机には様々な木簡が積まれている。北郷君は隠れるのに必死で気付かなかったようだが、私も当然仕事位している。文官たちが纏めた報告を華琳が大体に目を通し、最終チェックとして私が目を通す。未来を見ることだけが私じゃなく、しっかりとした文官としての力もあるのです。

 

「へぇ、あのフードの子が今度の黄巾討伐での食糧管理をするんだ」

 

 私の部屋の位置は高く、広場が窓から見渡せる。あちらこちらと急がしそうにする兵や、春蘭から逃げる北郷君なども見える。いつも男性には厳しく当たっているようだけど彼女の提出する報告書は分かりやすく的確である。だから随分前から気にはなっていた為に、次の黄巾の討伐がより一層楽しく思えた。

 

「私も行けると良いなぁ、キャーッ」

 

 多分無理であろう未来に、頬を押さえて足をバタつかせ、妄想に浸るのだった。

 

 

 

 

 結果として言えばまた私は居残りだった。

 

「淑、怒らないでちょうだい」

「怒ってないもん」

 

 必死に機嫌を良くしようとする華琳。ベットに腰掛ける私の後ろから首の後ろあたりに胸を当て、私のほうにだらりと重心を預けていた。華琳の手は私の胸をやさしく包み、より密着度を高めていた。

 

「別に今回全く関われなかった事とか、帰ってきてあの文官ちゃんを相手にして土産話が遅れたからとか。そんなことで全然怒ってない」

「嫉妬?」

「そんな訳ないっ」

 

 耳の直ぐ傍で喋る華琳はさぞ意地悪い笑みを零しているのだろう。

 

「そういえばね、あの文官の名前、荀彧って言うんですって」

「ふぅん」

 

 知っている名前だ。あのような華奢な見た目では知らないが、私の知る未来にも名を連ねる一人。つまり、この世界では約束された天才である。

 

「あの子ね、計画していた兵糧の約半分足らずで十分だって言ったのよ」

「へぇ」

「もしも、その策が失敗したならば首を切ってくれても構わない、なんて」

「……それで?」

「ギリギリ失敗かしら?まぁ、道中加わった許チョが見た目に反して大食だったってのが原因でしょうけど」

「あのピンクの髪の子?」

「知ってるの?」

「窓から偶然見えたの」

 

 華琳が黄巾討伐から帰ってきた時、土産話に期待して窓に急いで駆け寄った時に見えた。北郷君と一緒に話すピンクの髪の幼い子。その見た目に反して引きずるのは自分の体と同じくらいの直径の鉄球。私の知る未来の通り怪力の持ち主なのだろう。

 

「昨日はその策が失敗した罰を与えていたのよ」

「まさかとは思うけど、首を刎ねたの?」

「ふふ、そんなことする訳ないじゃない。ちょっと可愛がってあげただけよ」

「ふぅーん」

「やっぱり嫉妬?」

「別に」

 

 私がそっぽを向くと、華琳は唐突に首を舐め始める。わざとピチャピチャと音を鳴らし、少しずつ私の胸を支えるようにしていた腕を動かし始める。顔が段々赤く染まっていくのが分かる。大きく開かれた胸元に華琳の手が滑り込む。

 

「だ、駄目……っ!!」

「なんでかしら?」

「とにかく駄目!!」

「思い出してるの?」

「っっ!!!!」

 

 体が大きく震える。ゆっくりと這い回る華琳の手は私の震えを止めるようにしっかりと優しく掴んでいる。腰の後ろの少し上あたり、そこにはベットで膝立ちして後ろから抱きしめる華琳の足に挟まれる。

 

「もう忘れなさい。と言って忘れられたら苦労はないわね」

 

 首を這い回る舌はマーキングするように唾液を残す。服の外側から動いていた手は段々と下に向かい、ヘソ辺りを撫でる。

 

「じゃあ、忘れさせてあげるわ」

 

 ヘソ辺りを撫でていた手はスカート状の下半身の衣服を捲くり、ショーツに触れる。

 その時、私の目の前に火花が散るかのように衝撃が走った。思わず華琳を後ろに跳ね除け、正面の床へと崩れ落ちる。息は荒くなり、目線があちらこちらに無意識に走り、力が抜けていく。赤く染まった顔は更に赤く染まり、血が頭に上っていくのが分かる。

 

「……仕方ないわね。我慢するわ」

 

 華琳は私の背中を優しく摩る。段々と息を整え、頭から熱が引いていくのが分かった。

 

「ごめん……、やっぱり忘れられない」

「そう」

 

 私は華琳に支えられ、フラフラと立ち上がる。倒れこむようにベットに戻ると仰向けに寝た。

 

「ねぇ、淑」

「……なに?」

「私は不安なのよ」

 

 英雄として振舞う華琳からは思いもよらない言葉が飛び出した。

 

「淑を愛しすぎてる」

「知ってるよ」

「誰にも取られたくない」

「それも知ってる」

 

 華琳は私に自分の匂いを擦り付ける様に頭を私の胸に押し当てる。寝る前という事で降ろされた金髪はサラリと私と華琳を包む。

 

「ずるいのは分かってるけど」

「……」

「先払いとして、今は身体を合わさせてくれないかしら」

「……」

 

 先ほどの言葉と明らかに矛盾していた。それでも、もう華琳のなかでは十分に我慢してきたのだろう。だから、今夜も無理やりな行動に出たし、出たからこそ高ぶった身体を言葉と意思だけで封じる事などできない。ただ自分の色欲の為に、私を苦しませても、満たしたいと。少女はそう願っている。

 私に拒否権などなかった。それでも目に見えて「良いよ」という意思を伝えるのもどうにももどかしく、苦しく、気持ち悪い。だから私はただただ口を閉じ、華琳の色欲に従うだけだった。

 

「これ以上、我慢させられると狂ってしまいそう」

「……」

「正式に妻になるのは私が覇道を達成してからで良い。だから、今夜だけ……」

 

 私はその夜、必死に意識を繋ぎ止め体の拒絶反応を、華琳の為に封じ、身体を重ねた。

 

 

 

 

 きっと私は謝罪のつもりだったんだろう。心の奥底にしまった昔。昔の華琳への罪悪感、春蘭への罪悪感、秋蘭への罪悪感。それが華琳の満足で少しでも薄れるなら、そんな小さく惨めな私の思い込みで、私は今日もこの部屋で閉じ込められる。

 

「ま、そんなに深い話じゃないんだけどね」

 

 ただの私の昔話。彼女達はもう気にしていないのだろう。だから私は此処に居る方が楽だろうなぁと思って居るだけだ。

 

「どうした、淑?」

 

 私の隣で報告書を纏める秋蘭。私の部屋にある広い机、そこには今年一年の大抵の報告書が揃っている。去年やそれよりももっと前の物は机の下の棚に仕舞ってある。華琳が言うには、この部屋の中の物が燃えたのならば大打撃は間違いないとの事。その話をしている時、私の手に手を絡めていた為に、燃えたら大打撃の中に私は入っていたのかもしれない。そんな膨大な報告書の中、椅子を私の部屋に持ってきて直ぐ隣に置き、仕事を始めた。

 

「いや、今日もまた仕事は山積みだなぁと思ってね」

「……っ、やはり淑はズルイな」

 

 秋蘭に向けて軽く微笑むと、顔を赤くしてそっぽを向いた。華琳の教育?調教?が行き届いているんだなぁと改めて実感し、私も男性好きよりも女性好きになっていくのか又は既になっているのかと思う。別にそれでも悪くはない。

 

「さ、早く終わらせよ」

 

 私は目の前の筆を取り、木簡を開いて中を見ていく。街の工事、商人たちの商売の許可、街での事件、村はずれで賊らしき集団、夫婦喧嘩など様々な内容がそれぞれの木簡に書かれている。問題があるという事は更なるよりよい環境への足掻き。あまり便利になれば堕落するものだからこそ、足掻いている時が一番人にとって幸せなのだろう。

 

「なあ、淑……」

「ん?」

 

 普段冷静な秋蘭。姉の春蘭の馬鹿な所や溢れるほどの華琳への愛でストレスのガス抜きは出来ているのかもしれない。それでも、ストレスが抜けきらなかった時、此処に仕事に来る。もう言わずもがなというほどである。それでも、私は少しでも彼女達に恩を返せるなら、彼女達を支えられるなら。

 

「仕事が終わったら」

「街へ行こっか」

 

 秋蘭にそう言うと、目をつぶり無言のままに頷いた。その姿に心動かされる私はやはり、華琳に毒されているのかもしれない。

 

 

 

 

 こんな毎日が流れるだけ。私は知っているつもりで何も知らないだけ。彼女達を守る事しかできない。それでも、私は少しでも彼女達を支えられるように、身体を心を自由を。捧げる。まだ英雄の片鱗も見えない小さな頃に曹操に見出され、娶られ、傍に控え、曹昂・曹鑠・清河長公主の三人の子供を孕み、産み、死ぬ。たとえこの世界が私の知っている歴史と違っても、たとえ夫が女性でも、たとえ夫が同性愛者でも。実際に姓を同じくしていなくとも、傍で支えていく形でも。

 

 

 

 

 

 

 

 私は死ぬまで曹操の妻なのだから。

 

 

 

 


 
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