No.682544

紅と桜~あの日~

雨泉洋悠さん

にこまきりんぱなから高貴な姫君の間で、
突然にこちゃんが真姫ちゃん好き好きになってしまったようにみえるのは、
間にアニメ本編の流れと、
エピソードを2つほど挟んでいるからです。
1つはもう少し先になりますが、

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2014-04-29 18:20:00 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:442   閲覧ユーザー数:441

   紅と桜~あの日~

              雨泉 洋悠

 

 貴女の人生の中の、何時の日にも立ち止まって振り返る、あの日は何時ですか?

 私にとってのあの日は、貴女にとってのあの日に、なっていますか?

 

 私は貴女に、生涯ただ一度だけの、恋をするの。

 あの日、始まりにすら辿り着くことの出来なかった、私が秘めた想いは、きっと貴女の為に彼女が置いて行ってくれたの。

 

 夏の緑を含む風、陽射しの香りを含んで、私の上を吹き抜けていく。

 昨日の夢見が悪くて、何となく誰もいない場所に行きたくて、こんな校庭の隅の木陰の下、芝生で私は寝っ転がっている。

 昨日の夢で見た、お父さんとのあの日のことなんて、忘れる気はないけど、もう少し上回る感じの何かが欲しい。

 もう一つ、昨日の夢の中で想い出したあの日は、もう遠い、巡り巡って今はこれが、自分にとって、良かったのだと思える。

 その二つにやられてしまい、今私は一人でいる。

 何も言わないで来てしまった。

 それはつまり、単純に一人で居たかったからでは、無いのかな。

 寝っ転がった私を包む、青い空、そこの隅っこに、見えて来る、高貴な瞳と赤髪の房。

「にこ先輩、今日はここに居たんだ」

 大分聞き慣れることが出来てきた、真姫ちゃんの声。

 その独特の響きを耳に感じる度に、無意識の奥から考える暇もなく、増えていく何か。

 

 ひらひら、ひらひら

 

 PV撮影も終わって、お昼の自主練も終えて、少し経つ。

 なのに、特別外せない用事でも無い限り、真姫ちゃんは、私を見つけ出す。

 今日のように、私の一人になりたい何て想いも、当然のように、その手に掴む。

 何でこの子は、当たり前のように、私の隣りに座ってくるのかな。

 心の奥底に、音も無く湧き出して、日々降り積もっていく。

 私はまだ、自分の中のそれを上手く引き出してあげられない。

「にこ先輩、私明日は久々にお弁当で、凛と花陽と食べると思う」

 こんな風に、持って来たパンを袋から出しながら、当然の報告とでも言うように、真姫ちゃんは、そう言ってくれる。

「あーうん、解った。にこは部室ででも食べるから」

 私は、いつもの笑顔で答える。

 明日、この時間がないのは残念かな、昼休みが長くなりそう。

 明日の自分を思うと、私でもほんの少しだけ気持ちが沈み込む。

 随分と、大きくなってしまった、心の底にあるものを、感じる。

「そ、そうじゃなくて。だから、それなら明日は三人で昼休み部室行くから……」

 そして、赤髪の房を弄くる、真姫ちゃんの手を見てる。

 ああ、やっぱり良いなあ。

 

 何時だって降り積もっていく、自然に、でもいつも唐突に

 

 どうしてこの子は、普段見せる姿とは裏腹に、こんな簡単に相手の心に寄り添えるんだろう。

 それは、あの日の印象に、何時だって重なる。

「……ありがと。じゃあ、部室で待ってる」

 ミューズのメンバーは、皆本当に良い子たちだと思うけど、こんな言葉を、私に言わさせてくれるのは、そんな中でも真姫ちゃんだけだ。

「うんっ、待ってて」

 こちらを向いて、満面の笑みを惜しむこと無く、見せてくれる真姫ちゃん。

 こう言う時にだけ、真姫ちゃんの歳相応の素直さを、垣間見る事が出来る。

 それが、未だにそれを見ないようにしている私の、想いの源流を撫で付ける。

 普段の時や、二人きりでない時の真姫ちゃんも、私はとても、好ましく思っているし、二人きりの時も見た目の印象通りの尖った姿を見せることもあるけれど、こう言う時に、ほのかに見える、この子の本質。

 私は、その大元にあるものを、知りたい。

「ねえ、そう言えば真姫ちゃんさあ、あの日全然キャラ違ったよね。何でー?」

 それは、私にとって珍しい、少しだけ相手を見定めるための言葉。

 あ、見る見るうちに真っ赤になっていく、いつも通りにそっぽ向いてしまう。

 

 ああ、良いなあ

 

 こう言う姿が観たいから、私は敢えて真姫ちゃんに、色んな言葉を向けているのかもしれない。

「あ、あれは、もう、忘れてよって言ったのに」

 真っ赤な顔で、空を見上げながら、そう言いつつも、言葉を続けてくれる。

「何だか、泣きそうに見えたから」

 私は瞳を閉じる、その心根の奥の、言葉を待つ。

「家は、にこ先輩も知っての通り、病院なんかやってて、パパの専門は脳外科だけど、脳外科とは言っても、結構子供とか多くて」

 聞こえる、安らかな音。

「脳外科に来るような子達って、当然それなりに症状の重い子もいて、皆辛い思いや痛い思いをしていて、色んな事に不安を抱えて、家に来るの」

 続いていく、静かな旋律。

「家のパパも、子供の扱いはとても上手い方だけど、子供にとってはやっぱり大人の男の先生は怖かったり、不安を感じたりするのよね」

 優しい言葉。

「そういう時に、どうしても放っておけなくて、あんな感じで話しかけちゃうのよね。何でか、あの時のにこ先輩も同じ様に感じちゃったの。不安なのかな、怖いのかなって。にこ先輩、そんな弱くなんか無い、強い人なのに、そんな風に感じちゃって、申し訳ないんだけどね」

 ああ、言葉って、こんなにも、優しいんだね。

 

 お父さん、ごめんね私、この子にする

 

「にこ先輩?寝ちゃったの?」

 私の頬を、しなやかに突っつく感触。伝わってくる、心の柔らかさ。

 

 お父さんが言ってくれた言葉、それをちょっとだけ違えちゃうけど、ずっと見てて欲しい

 

「しょうがないなあ……意を決して人が大事な話をしている時だって言うのに」

 私の目元を拭う指、私の心の滴よりも、暖かい、優しい人の温もり。

 

 お父さん、私、やっと、生涯一度だけの……。

 

 真姫ちゃん、私が起きたら、また、話してね、沢山、ここに、真姫ちゃんと居られた、沢山のあの日を、私に……。

 

次回

 

どうして?

 


 
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