第8話 神杖ケリュケイオン
キリトSide
亀と羊のモンスターを狩り始めてから30分が経過した頃、最初に羊の腸のアイテムを入手し、
さらに5分が経過した時に倒した亀のモンスターが甲羅のアイテムをドロップしたので、
とりあえず素材を揃えることはできたと思う。
「よし、多分これで良いとは思うが、あとはどうやって作るかだが…」
「やっぱり《工匠》か《鍛冶》スキルで作るのかなぁ?」
「もしくは特定のNPCが製作する、ですね?」
俺に続いてアスナとユイが言った。
「《鍛冶》スキルはあたしが
「NPCなら、やっぱ神話で作った本人のヘルメスかね~?」
「リズかハクヤ、どっちかの案が妥当だろうな」
エギルが2人の提案に頷く。
「どうしますか、キリトさん?」
「リズの工房に行くよりもヘルメスに会う方が時間とか短縮できるから、
まずはヘルメスに会いに行ってみよう。それで無理だったらリズが頼みだな」
「その時は任せなさいな」
ヴァルに聞かれたので取り敢えずはここから近いヘルメスの元へ向かうことにし、リズにも声を掛けておく。
俺たちは翅をはばたかせてさっき会ったばかりである青年の元へと向かった。
小屋の側に『
「すまないが、少しいいか?」
「はい、なんでしょうか? おや、もしやあなた方が持っているのは『アポロン・ブルの腸』と『アース・シープの腸』、
それに『ヴァン・タートルの甲羅』ではありませんか。それに『アポロンの枝』があれば竪琴を作ることができるのですが…」
どうやら話しかけるだけで自動的にアイテムの有無を確認し、足りないアイテムを教えてくれるようだ。
それにしても最後に言われた『アポロンの枝』はどうすれば手に入るのだろうか?
「あの、『アポロンの枝』ってどこで手に入るんですか?」
「『アポロンの枝』でしたら、この先の森の奥に一際大きな樹がありますからその樹から枝を取れるはずです。
ただ、樹の下には大きくて凶暴な〈
念の為に訊ねてくれたシリカに対してヘルメスはちゃんと応えてくれた。
入手方法も教えてくれるとは気前がいいな。
入手場所も分かったことなので、俺たちは東にある森の奥へと向かう。
しばしのあいだその森の中を進んでいると、少しだけ辺りが開けた場所に出た。
中央には周囲の樹よりも大きな樹があり、そこには〈
アレが〈Apollon bull lord〉だな。
「よし、行くぞ!」
俺たちは武器を構えながら駆け出し、攻撃を仕掛ける……その際に…。
「今夜はすき焼きじゃあぁぁぁぁぁっ!」
―――ン、モウゥゥゥゥゥ~~~~~!!!???
ハクヤがそんなことを雄叫びながら真っ先に突っ込んでいき、雄牛が悲鳴(?)を上げていた様は想像しやすいことだろう。
南無、とは言わずに俺も攻撃に参加させてもらったが…。
当然の結果、というべきか分からないがあっさりと決着がついた。
〈Apollon bull〉よりも強いとはいえ、所詮はMobよりも少し強いMobだからな。
「これで大丈夫だろうが、リポップする前に枝を手に入れようぜ」
「それなら僕が取ってきますよ」
エギルの言葉にヴァルが即座に応じて一番手近な大きな枝に向かって飛び乗った。
ヴァルは一瞬だが怪訝な表情を浮かべたが、すぐに槍を使って枝を切り、手に持ったまま飛び降りて着地した。
「どうぞ、キリトさん」
「あぁ、助かった。それで、樹の上で何を思ったんだ?」
「さすがですね……キリトさん、それにみなさんから見たこの樹は少しだけ発光しているように見えるんじゃないですか?」
僅かに発光する小さな枝、『アポロンの枝』を受け取ってからヴァルに訊ねてみると、彼がそう聞いてきた。
俺はもちろん、他のみんなも頷いて応えると彼は「やっぱり…」と短く呟いた。
「僕の推測になるんですけど、多分この枝は1つのアカウントで1度しか取れないかもしれません。
現に、いま僕の視界でこの樹は発光してなくて、取った枝だけが発光していますから」
「つまり、限定的なアイテムってことね?」
ヴァルの推測にアスナが『アポロンの枝』を見つめながら言った。
俺自身も確認するために飛び上がって太い枝に乗り、発光する枝を剣で切り落として手に入れる。
するとヴァルが言った通りに樹全体の発光が止まり、手に持つ2本の枝だけが発光したままだ。
なお、枝を切った箇所からは新たな枝が生えてきたが、発光は当然していない。
「ヴァルの言う通りになったぞ。俺の視覚からでも発光が確認できない。
それに、試しに枝を切ってみたがすぐに再生しただけで追加入手は出来なかった」
「ということは、ヴァルさんの仮説が正しいということですね」
地面に着地した俺の報告にユイが応じてくれた。
これがどういう意味を指すのかは今の俺には分からないが、後々分かるかもしれない。
「理由を追及するのは今度にしていまはヘルメスの元に行こう。まずは竪琴からだ」
「そうね、いきましょう」
俺が促してリズもそれに続いて応え、俺たちは再びヘルメスの場所へと戻った。
ヘルメスの居る小屋へと辿り着いた俺たちは彼に話し掛けた。
「おぉ、あなた方が持っているのは『アポロン・ブルの腸』と『アース・シープの腸』、
それに『ヴァン・タートルの甲羅』と『アポロンの枝』ではありませんか!
それらがあれば竪琴を作ることができますが、どうでしょうか?」
彼はNPCらしい意気揚々とした声で話し、アイテムを揃えて持っている俺の前に1つのウインドウが現れた。
そこには4つのアイテム名とそれらを渡しますか?という文章があり、
俺はみんなを見て了解の反応を示したことで、渡すことを決めて了承のボタンを押した。
「確かに受け取りました……………それでは、これをどうぞ」
「ありがとう」
少しの間のあと、ヘルメスは俺に1つの竪琴を渡してきた。
竪琴の名は『ヘルメースハープ』と言い、どうやら装備品としても使える楽器のようだ。
「これが『神杖ケリュケイオン』に関する真のアイテムか…。
あっちの雄牛の腸だと思っている奴らはまさかこれだとは思いもしないだろうな」
「それはそうだと思うよ。普通は内蔵から竪琴が作れるなんて思わないもの」
俺と明日奈は苦笑しながら言葉を交わす。だがこれでまた大きく前進したことに変わりはない。
あとは
とりあえず、他のプレイヤーが来ないうちにこの場を離れ、一休みすることにした…。
ダンジョン同様、フィールドにもほんの僅かな空間だがモンスターが
もちろん、その範囲の外は普通にモンスターがポップするし、
その空間自体にはモンスターも侵入するので絶対安全圏ではない。
俺たちは主にそういった場所を見極め、認識疎外系の魔法を使用することで安全を確保し、休憩したりするのだ。
「それにしてもどうするんだ、そのハープは?」
「そうですよね。『神杖ケリュケイオン』を持っているのが誰かわからないですし…」
「キリトさんが言ったように、本来ケリュケイオンを持っているのはさっきのヘルメスみたいですから…」
エギルがどうしたものかと言うように呟き、シリカとヴァルも困った様子である。
それはそうだろう、目的のものが何処にあり、誰が持っているのかもわからないのだから。
「うぅ~ん、やっぱりアポロンに相当するNPCを探すしかないのかな~?」
「でも何処に居るのかもわからないわよ。
アルヴヘイム、ヨツンヘイム、アースガルズ、それにニブルヘイムでしょ? 1つ1つのエリアも広大よ」
「そうですね。特にアースガルズとニブルヘイムは未だに情報が集まりきっていないです」
アスナとリズもどうしようかと話しているが、ユイの言う通りで情報は少ない。
特にニブルヘイムの情報の少なさは顕著である。
俺たちは足を踏み入れたことはないが、いずれは行ってみることもあるだろう。
ただ、神話どおりの場所でないことを祈るが…。
「休憩時に考え込んでも仕方がないだろう……ハクヤ、これで1曲頼む」
「お、いいのか? よし、それじゃ、疲れが取れそうなバラードでも…」
俺は『ヘルメースハープ』をハクヤに渡す。
彼は《音楽》スキルをコンプリートしており、その腕前は現実世界同様でかなりのもの。
音楽妖精であるプーカの特徴は楽器を用いた音楽魔法や補助系魔法が主である。
そんなプーカの特徴ともいえる音楽魔法だが、これはなにもプーカだけが使える魔法ではない。
属性魔法はそれぞれの種族の主体な魔法として特徴付けされ、音楽魔法もそれにあてはまる。
しかし、《音楽》スキルはどのプレイヤーでも上げることが可能であり、上級の音楽魔法はプーカだけが習得できるが、
《音楽》スキルが高ければ高いほど、最高でも中級の音楽魔法を習得することができるのだ。
お分かりいただけたと思うがハクヤは闇妖精のインプであり、
戦闘を主にするのと同時に音楽を奏でてサポートすることも可能としている。
そんな彼の音楽を俺たちは気に入っている。
「それでは、ご清聴あれ…」
『ヘルメースハープ』を受け取ったハクヤは手を添えて音楽を奏で始めた。
彼が奏でる音楽は穏やかで優しく、心に響き渡るものだ。
俺はアスナと寄り添い合い、ユイは子供の姿になって俺とアスナの膝の上に座り、瞳を閉じて聞き入る。
ヴァルとシリカも肩を寄せ合って聞き、ピナはシリカの膝の上で眠っている。
エギルも瞼をおろして聞き入り、リズは恋人の奏でる音楽にうっとりとした表情になっている。
時間にして10分ほど奏でられた音楽が終了し、俺たちはそろってハクヤに拍手を送った。
「ど~もど~もっと「ハクヤ~///♪」お、おい、リズ///!?」
笑みを浮かべるハクヤにリズが真正面から抱きついたので、2人そろって抱き合いながら倒れ込んだ。
あ~あ~、イチャつくのは別にかまわないがうちの娘の前だということを忘れないでほしいぞ。
まぁ、俺とアスナの手でユイを目隠ししているんだけどな。
「さて、ハクヤとリズは放っておくとして……ここらへんでアルゴ辺りに何か情報がないかを聞こうと思うんだけど、どうだ?」
「そうだね、それでいいと思うよ。まぁアルゴさんのことだからいくらかは要求してくるだろうけど」
提案してみるとアスナは苦笑しながら言って賛成し、他のヴァルとシリカとエギルも同じ様子。
ユイはまだ前が見えていないから首を傾げつつも賛成の反応……ハクヤとリズは言うまでもない様だが…。
「満場一致みたいだし、とりあえず行ってみるか」
そういうわけで、俺たちはイグシティに居るアルゴの元へと向かった。
「「って、おいてくな!?」」
ハクヤとリズの声が重なって聞こえた(笑)
移動中にメッセージを飛ばし、イグシティにてアルゴと合流した俺たち。俺はアルゴから情報を買うことにしている。
「さっきぶりだネ、キー坊。それで『神杖ケリュケイオン』に関する情報をお求めってことハ、そっちは何か掴んだのかイ」
「さぁ、どうだろうな? そっちこそ、情報をどれくらいで売ってくれるんだ?」
「相変わらずネタを掴ませてくれないみたいだナ~、まぁいいけどネ。一番良い
それともケリュケイオンに関するやつ全部かイ?」
「全部で頼む」
「了解だヨ。んじゃ、お会計はこんなものデ…」
情報代がそれなりにかかったが、伝説級武器を手に入れられるのならば安いものだろう。
「まずはキー坊たちにも売った情報のクエスト、アレをクリアして入手できるアイテムは『アポロン・ブルの腸』。
あのクエストでしかゲットできないみたいだかラ、なにかしらの意味はあると思うケド、
1つだけじゃ特に意味はないだろうネ。せいぜい食材にしかならないと思うヨ」
ここまでは知っている情報、だが敢えて応答はしないし、反応もしない。
出来る限り情報は隠しておきたいからな。
「次はそのクエストを受けるためのNPC『ヘルメス』。
クエストクリア後にソイツに話しかけると何かしらのアイテムを作るための材料を教えてくれるみたいダ」
これも知っている情報なので適当に頷くだけ。
アルゴも既に俺がその情報を得ていると理解しているのか、笑みを浮かべながら話しを続ける。
「それで次が一番新しい情報だヨ……なんと、ケリュケイオンのあるエリアが分かったんダ」
これは知らない情報だ……ある程度の予測はできるが、確信が欲しいから買っておくか。
「いくらだ?」
「さっきの半分の額でいいヨ」
しっかりしてやがる……苦笑しながらユルドを渡し、アルゴに話しの続きを促す。
「エリアは『アースガルズ』ダ。なんでもNPCがケリュケイオンについての話をしたらしいヨ。
それも何処かの宮殿にいるNPCが持っている可能性が高いみたいだナ」
「なるほど、良い情報をありがと。あとでこっちも情報を流すよ」
「まいど~……って、それはどういう「じゃあな」お、おい、キー坊!?」
話しに食らいつく前にみんなの元に戻り、全員を引き連れて空に舞い上がる。
そのまま飛行して俺たちはアースガルズへと戻った。道中、アスナたちが俺に成果を訊ねてきた。
「キリトくん、どうだった?」
「なにかいい情報はありましたか~?」
「あぁ、お陰で確信を得られた……『神杖ケリュケイオン』までもう少しだ」
アスナとユイの問いかけに答えると…。
「お、ついにか」
「そりゃ楽しみだな~」
エギルとハクヤ朗らかな反応を示し、
「キリトさんの持つ『聖剣エクスキャリバー』と『魔剣カラドボルグ』、それに…」
「リズさんの『雷鎚ミョルニル』の3つにくわえて…」
「ケリュケイオンが手に入れば4つ目の伝説級武器ね!」
ヴァルとシリカとリズはワクワクした様子をみせている。
「目指すは北欧神話の最高神であるオーディンの住む場所、『ヴァーラスキャールヴ宮殿』だ!」
俺はそう告げて先頭を駆け、みんなを引き連れた。
アースガルズに戻ってきた俺たちは、山々にあるなかでも一際大きく、銀色に輝いている宮殿へと訪れた。
宮殿は純銀でできており、リズなど喉を鳴らしているほどだ。
宮殿の前に立つと扉がひとりでに開き、俺たちは内部へと足を進めた。
「ねぇキリトくん。ホントにオーディンは居るのかなぁ?」
「居るのは間違いないさ。『トール』が居たんだから、一番有名どころのオーディンが居ないはずはないだろう」
アスナの疑問は尤もだが、俺はそれに対して適切な言葉で返す。
本当は奴がユイを前に攫わせた張本人で、俺自身も直接相対したことがあるのだが、いまは話すべきではないと考えてのことだ。
その時、暗くなっていた宮殿の最奥部に灯りがともり、かなりの高さの高座が現れた。
遠めにだがその最上部には玉座に座る男性の姿が見える。
「これが、世界を見渡す座『フリズスキャールヴ』か…」
「それじゃあ、一番上にいるあの人が…」
俺の言葉にアスナが確認するように言葉を発した時、最上部の人影が突如として消え、同時に俺たちの前に人が現れた。
以前に会った時の魔法使いのような装束とは違い、いまは甲冑でその身を纏っている。
まさしく異名の1つである“戦神”のようだな。
「貴公らは妖精のようだが、ここに何か用向きがあるのか?」
「貴方がオーディンですか…?」
「如何にも。私がオーディンである……して、どのような用件かな?」
慎重に訊ねるアスナに彼は堂々と答えている。
「パパ、ママ…。この人、フレイヤさんたちと同じです…」
「やっぱり…」
「……だろうな…」
ユイの言葉にアスナも俺も頷く…まぁ俺は知っているが…。そんな時、オーディンが俺たちに声を掛けてきた。
「もしやとは思うが、そこにいる闇妖精よ。貴公が持つその竪琴はヘルメスが作った物で相違ないか?」
「あ、あぁ、そうだよ」
いきなり声を掛けられたハクヤは僅かに困惑したが、すぐにハッキリと答える。
するとオーディンはこんなことを言ってきた。
「ならば闇妖精よ。いまから私が渡す楽譜を見て、その曲を聞かせてはもらえまいか?
一度も失敗せず、その竪琴で見事最後まで演奏することが出来た暁には、
褒美としてその『ヘルメースハープ』と『神杖ケリュケイオン』を交換しよう…」
「「「「「「「えぇ~~~!?」」」」」」」
「やはりか…」
オーディンの提案のあと、俺以外のみんなは声をあげて驚き、俺は予想通りだと判断した。
同時にハクヤの前にはクエスト受注のウインドウが出現し、『全能神の序曲』というクエスト名が書かれている。
「やはりって、キリトくんは分かってたの?」
「ギリシア神話の青年神にして伝令の神であるヘルメース、ローマ神話の商業の神であるメルクリウス、
そして北欧神話の最高神であるオーディンは同一の存在として語られることがある。
あのNPCの青年であるヘルメスはケリュケイオンを持っていない、
それならヘルメースと同一に語られるオーディンの方が持っている可能性が高いからな」
ぽかーんとする面々だが、ユイだけは「さすがはパパです♪」と褒めてくれている。
「まぁアスナの為だからな。知識をフル活用しただけだ……とはいっても、ここからはお前に任せるしかないけどな」
「……ハッ、いいぜ、やってやろうじゃないか!」
俺は苦笑しながらハクヤの方をみると任されたことを嬉しく思ったのか、意気揚々と了承ボタンを押した。
なお、アスナは俺が「アスナの為」と言ったことに気を良くしたのか、頬を赤らめて笑顔を浮かべている。
「しばしの猶予を与えよう。準備が整うか、猶予の時刻を超えた時に奏でると言い」
オーディンがそう言うと5分間のタイマーが現れ、0になるべく動き出した。
ハクヤの前には楽譜が現れ、彼は集中してそれに目を通している。
俺たちは静かに時がくるのを待った……が、3分ほど経過した段階でハクヤはタイマーを0にした。
「よし、覚えたし曲のイメージも掴んだ……始めるぞ」
……はっ、そういえばコイツは音楽に対しての集中力が凄まじいんだったな…。
俺でいう理系に対しての集中力みたいなものだ。
オーディンが頷き、ハクヤは『ヘルメースハープ』に手を添えて、音楽を奏で始めた。
透き通るような音色、流れるような旋律。
その旋律は寂しさや悲しみを含ませており、胸が締め付けられそうな感覚を覚える。
アスナとユイ、リズとシリカは悲しそうな表情をみせており、
ヴァルとエギルもどこか寂しげな表情、ピナも似たような感情を含めた声を小さくあげている。
そんな中、何処からともなく美しい女性の歌声が響いてきた。
「Alföþr orkar, álfar skilia, vanir vitu, vísa nornir, elr íviþia, aldir bera,þreyia þursar, þrá valkyrior.」
歌声を発する者の姿は見えないが、聞き入っているオーディンが特に反応を示さないということはそういう仕様なのだろう。
だが、この詩……覚えていた方が良いかもしれない。
しばし、ハクヤが奏でる旋律に聞き入り、俺たちは演奏が終わるのを待った…。
ハクヤの演奏が終わった時、オーディンが拍手をしてそれを称えた。
「素晴らしい演奏だった。礼を言おう、闇妖精よ」
「ん、ありがと…」
奏でた曲の寂しさからなのか、ハクヤは何処となく静かな雰囲気を醸し出している。
「では、『神杖ケリュケイオン』を受け取るのだ」
ハクヤの持つ『ヘルメースハープ』が宙に浮いてオーディンの手に渡り、
彼が取り出した杖が光を放ちながらハクヤの手に移された。
クエストクリアの音楽と表示が成され、いくつものユルドとアイテムが俺たちのアイテムウインドウに入った。
「それらの財は素晴らしい音楽を聴かせてくれた礼と、
この竪琴を手に入れるのに要した時間と苦労に対する労いとして受け取るがいい。では、また来るといい、妖精たちよ…」
それだけ言い残すとオーディンは姿を消し、高座の上へと戻ったようだ…。
「えっと、取り敢えず帰るか…?」
「う、うん、そうだね」
「だな。目的のものは手に入ったし」
「戻って宴会でもしようぜ」
「あ、いいわね、それ」
「それなら他のみんなも呼びましょうよ」
「賛成♪」
「楽しみです♪」
「きゅ~♪」
少しだけ微妙になった雰囲気を払拭するように言葉にし、みんなもそれに続いた。
新生アインクラッド第22層の俺とアスナとユイの家、そこでみんなを呼んで宴会をし、いつものごとく騒いでから解散となった。
ユイは既に疲れたようで眠ってしまっている。
いまは俺とアスナの2人きりだ…。
「おつかれさま、キリトくん」
「アスナもおつかれ」
酒(VRなので酔わない)を飲み交わしながら肩を寄せ合う俺たち。
「そうだ、もう一度ケリュケイオンをみせてもらっていいか?」
「うん、勿論♪」
彼女はアイテム欄から『神杖ケリュケイオン』を取り出して見せてくれた。
長めの杖の先には水色の球体があり、そこから一対の小さな白い羽が生えており、杖本体には2匹の白い蛇が絡みついている。
まさに神話の伝承にある通りの杖だな…。
能力としてはかなりの付加効果があり、魔法攻撃の威力や速度の上昇、回復魔法の回復量や回復速度の上昇、
範囲魔法の範囲拡大にくわえて消費MPの低下など、大恩恵ばかりだ。
「よし、ありがとう」
「キリトくんこそありがとう。今日は頑張ってくれて」
「俺は大したことはしてないよ。知識を活用しただけだし、みんなで協力しないともっと大変だった。
それに、肝心の杖はハクヤが手に入れたしな…」
「それでも、だよ。みんなも一緒に、そしてキリトくんが頑張ってくれたのが嬉しいの///」
だからね、と言ってアスナは俺に覆い被さり…。
「ん…ちゅっ、んん…//////」
「ん……ちゅ、ふぅ…」
唇を重ねてきた。なんともまぁ、大胆なことで…。
「今日は、わたしが、ね//////?」
「是非とも…」
こうして俺とアスナは夜の甘い一時を過ごすことになった…。
後日、俺たちは『神杖ケリュケイオン』の入手を公表。
それによって「またアイツらか!?」とか「まぁアイツらなら…」とか「アイツらだしなぁ~」などという、
やっかみが少し、納得が大半という声が多かったようだ。
同時に
オーディンの居るヴァーラスキャールヴ宮殿にて音楽判定クエストが行えることも公表し、周囲の納得を得たのは当然である。
キリトSide Out
To be continued……
あとがき
というわけで、オリジナル伝説級武器の『神杖ケリュケイオン』を入手するに至りました。
途中であった『ヘルメースハープ』は通常でも入手可能ということにして、一般プレイヤーも入手できる設定にしました。
さて、オーディンが再び登場しましたが今回はイベントとしてNPCという立場でした。
それとハクヤが音楽を奏でる時に歌っていた声の主も今後で登場しますので、
それまでの間はみなさんの心の中で推察していてください。
さらに歌は『オージンのワタリガラスの呪文歌』より参照しています、興味があるかたは調べてみてくださいね。
次回は現実世界でのお話し、原作でもキリトを悶絶させたあの本が発売される話ですw
それではまた~・・・。
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第8話です。
前回の続きでオリジナル伝説級武器、『神杖ケリュケイオン』の入手クエストになります。
今回でゲットしますのでお楽しみください。
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