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ALO~妖精郷の黄昏~ 第7話 神杖を求めて…

本郷 刃さん

第7話です。
今回は伝説級武器の入手話、その前編的な話になります。

どうぞ・・・。

2014-02-02 11:43:21 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:8393   閲覧ユーザー数:7671

 

 

 

 

第7話 神杖を求めて…

 

 

 

 

 

 

 

キリトSide

 

ALOに新たなエリアとして『アースガルズ』と『ニブルヘイム』が拡張されてから数日が経過し、5月に入った。

GW(ゴールデンウィーク)も訪れ、みんなで遊ぶこともあれば、

各々カップル同士でデートに行くこともあり、同性だけで遊ぶこともした。

まぁ、長い休みというわけでもないから、自然と夜はALOでクエストをこなしたり、それぞれで過ごすなどしていた。

そしてGWも終わるであろう最終日の午後、俺はあるメンバーと共にALOであるクエストの作業をこなしていた……それは…、

 

「エギル、そっちに1頭行ったぞ!」

「おう、任せろ!」

「キリトさん、そっちに追い込みますね!」

「ああ、来い!」

 

―――モォ~~~!

 

牛の捕獲作業である。何故、俺たちがこんな作業をしているのか……それは2時間前まで遡ることになる。

 

 

――2時間前

 

今朝のMMOトゥモローにてあるクエストの存在を確認した。

そのクエストの報酬は伝説級武器(レジェンダリーウェポン)の『神杖ケリュケイオン』に関するアイテムらしく、

それはアスナがゲット出来たら良いな~と言っていた武器であり、

『聖剣エクスキャリバー』を入手しに行く際に手伝いを所望された武器でもあるのだ。

しかも、どうやら既に相当数のプレイヤーがクエストに挑んでいるらしく、ゲットされるのも時間の問題かもしれない。

とはいえ、未だクエストを終えてゲットした者はいないようなので、まだチャンスはある。

いつもの如く、メンバーを招集し、ALOの俺たちの家に集合、クエスト情報を収集して挑戦することとなった。

 

「さて、集まれるメンバーが集まれたことだし、状況整理をしようか」

 

集まったのは俺とアスナとユイ、ヴァルとシリカ、ハクヤとリズ、エギルというメンバーだ。

 

ハジメとシノンの2人はGGOにて近々に迫ってきた第4回『BoB(バレット・オブ・バレッツ)』に向けての調整などを続けているため、

最近はGGOの方に出張っているため不参加。

シャインとティアさん、カノンさんの3人は高認を得てから今年の4月に大学に入学したため、

レポートやら課題やらで忙しいうえに、シャインとティアさんの2人は次期朝霧財閥の筆頭なのでそちらの勉強も忙しく、

カノンさんはというと最近はクラインと彼のギルドである『風林火山』のメンバーらとの行動が多いため、こちらも不参加。

クラインとカノンさんはそちらのメンバーでクエストに挑戦していると思われる。

ルナリオとリーファの2人はというと……まぁ、デートである。

リーファ(直葉)は剣道部に所属しているため、GWとはいえそちらの方が優先され、

夜以外は練習に明け暮れ、碌にデートも出来なかったようでルナリオ()とデートをしているのだ…というわけで珍しく不参加。

 

そういうわけで、人数としては1パーティー分の人数となったが、なんとかなるだろう。

 

「まずは(アルゴ)から買ったクエストの情報なんだが、戦闘ありのお使い系クエストに近いものらしい。

 なんでも牛を捕まえるとかなんとか…」

「牛、ですか?」

 

取り敢えずアルゴから得た情報を話してみるとシリカが首を傾げながら言った。

そう、牛らしいのだが、あのアルゴが牛を捕まえるとしか言わず、とにかく行ってみればわかるとも言っていた。

それに加えて言ってきたのが「相当な根気がいるはずだヨ。なんせ、普通の作業クエストとはケタが違うからネ」とのこと。

 

「ともあれ、まずはクエストを受けにいくぞ」

「「「「「「「「おぉ(きゅ~)!」」」」」」」」

 

俺たち8人と1匹はクエストを受けられるアースガルズへと向かった。

 

 

 

 

アースガルズに到着した俺たちはこのエリア最大の平原の『イザヴェル平原』を抜けて、

アルゴからの情報であるクエストを受けられる場所の座標へと向かった。

その場所に辿り着いてみるとそこには小屋があり、小屋の前には若い青年が困り顔で立っているのに気付いた。

彼の頭の上にはイベントマークがあることからイベントNPCであることが察せられる。

さっそく青年の前に降り立ち、話し掛けてみる……そこでクエスト受注のウインドウが出現した。

クエスト名は『盗牛の捕獲』で、受注して話しを聞くことになった。

 

「なにか困りごとか?」

「は、はい…。実は私、ほんの出来心から知人の牛を盗んでしまいまして、けれどすぐに返すつもりだったのです。

 しかし、返しに行く途中で魔物(モンスター)に襲われてしまい、牛たちが逃げてしまったのです…。

 どうか、牛たちを捕まえてきてはいただけないでしょうか?」

 

とりあえず、俺たちがこの青年に思ったことはおそらく一致している……コイツ、アホだ。

 

「まぁ分かった。それで、牛の数はどれくらいなんだ?」

「50頭です」

「「「「「「「「………はっ?」」」」」」」」

「ですから、50頭です」

「「「「「「「「……………はぁ~~~っ!?」」」」」」」」

 

コイツはアホじゃない、ドアホに違いない! 50頭ってなんだよその数!?

 

「そして、牛を捕まえるにはこの縄で編んだ首輪を付けなければなりません。

 首に掛けるだけであとは牛の首にはまります。

 ただ、首輪を掛けるには牛の体力を削らなくてはなりませんので、覚えておいてください」

 

なんだ、その面倒臭いのは……これで手に入るアイテムが神杖ケリュケイオンに関するだけというのは、萎えそうだ。

だが、アスナのためだ、俺はやる。

 

「かなり面倒なクエストみたいだが、みんなはどうする? 当然、俺はやるつもりだ」

「わたしは自分が欲しい武器だもの、当然やるよ!」

「わたしも最大限のサポートをしますね!」

 

まずはやってみることが大切だし、アスナも意気込みはバッチリ、ユイもやる気満々だ。

 

「僕もやれるだけのお手伝いをさせていただきます」

「あたしはビーストテイマーですから、もしかしたらお役に立てるかもしれません」

「きゅっきゅ~!」

 

ヴァルとシリカ、ピナも乗ってくれた。

 

「根気なら十分あるからな、手ぇ貸すぜ」

「武器の耐久値にも気を付けないといけないわね。あたしに任せなさいな」

「力仕事なら、俺の出番だろ?」

 

ハクヤとリズ、エギルも良いやる気のようだ。全員参加、だな。

 

「お礼は必ずやいたしますので、どうかよろしくお願いします」

 

青年、『Hermes(ヘルメス)』の頼みを受け、俺たちは50頭の牛の捕獲クエストを行うことになった。

 

 

――現在

 

まぁそんなことがあって、俺たちは現在進行形で牛の捕獲を行っているのだ。

しかしこの『盗牛の捕獲』を始めて分かったことがある。

 

それはこのクエストは1パーティーでしか受けることが出来ないらしく、レイドパーティーが意味を成さないということ。

そのため、大型のギルドなどが人員を総動員してクリアをしようとしても、

あくまでも1パーティー=7人で50頭を捕まえなければならないのだ。

さらに、捕獲した牛はヘルメスの元まで連れていかなければならないのだが、

途中でモンスターに襲われることもあり、守りながら送らなければならない。

もし、途中で牛がやられてしまうと、首輪だけをドロップするので捕まえなおさないといけない。

しかも牛はパーティーメンバーにしか付いていかないので、他のパーティーが連れていくことは出来ない。

つまり、1頭ずつ確実に捕獲し、守りながらヘルメスに渡さなければならない。

イザヴェル平原のモンスターは大した事はないし、

一度ヘルメスに預ければ倒されることはない……だが、根気がいるのは確かだ。

 

「よし、捕獲したぞ!」

「こっちもだ! アスナ、回復を頼む!」

「うん!」

 

ハクヤとヴァルが弱らせた牛を、エギルと俺が首輪を掛けて捕獲し、ヒーラーのアスナがHPの減少した牛を回復させる。

リズとシリカとピナはそのサポート、ユイは周囲にモンスターが出現する際の警戒役だ。

アスナが捕まえた牛〈Apollon bull(アポロン・ブル)〉のHPを回復させたのを確認し、

俺たちは一度ヘルメスの元に渡しにいくことにする。

既に8頭の雄牛を渡し、いま捕まえた2頭で10頭目になる。

牛の前を歩く俺、その後ろに2頭の雄牛、その2頭を囲むようにみんなが円を作る。

最初は他のパーティーが妨害をしようとしてきたこともあったが、

俺とハクヤが2人で良い笑顔(悪人顔)を浮かべると顔を真っ青にさせて逃げていったこともしばしば…。

ともあれ、順調といえば順調である。

 

「それにしても、諦めて帰っているやつらもいるな」

「仕方がないですよ。同じことの繰り返しなんですから」

「諦めている人より、飽きている人の方が多いですけどね…」

 

エギルの言葉にヴァルとシリカが続ける。

いくら伝説級武器に関するアイテムが手に入るクエストとはいえ、これだけの作業だからな~。

諦めや飽きることは解らなくもないし。とにもかくにも、俺たちは雄牛たちを捕獲する作業を続行した…。

 

 

 

 

それから2時間30分後、ようやく50頭目となる雄牛を捕獲し、ヘルメスの元へと歩く。

俺たちよりも先に50頭を捕まえたパーティーもいたようで、その時には泣いて喜んでいたのを覚えている。

まぁ俺たちも先程この50頭目を捕獲した時はかなりの達成感を得たからな。

そのため、アスナとリズとシリカの女性陣はご機嫌な様子で、

娘であるユイは疲れたのかお昼寝タイムということでアスナの胸ポケットの中、

俺たち男性陣とピナは周囲を警戒しながらも満足感を得ている。

そしてようやく、青年ヘルメスのいる小屋の近くに辿り着いた時、ついさっき見かけたパーティーを見つけたのだが、

ひどく疲れ切った表情…というより、落ち込んだ表情をしていた。

 

「なぁ、なにかあったのか?」

「ん、あぁ、ブラッキー先生か…。いやなに、アンタらもすぐにわかるよ…は、ははは、はぁ~…」

 

すれ違いざまに聞いてはみたものの、返ってきたのはあまりにも暗い表情での言葉だった。

そのまま通り過ぎて行ったパーティーの有り様に俺たちは思わず汗を流した。

 

「な、なんだったのかしら…?」

「さ、さぁ…?」

「でも、なんだか嫌な予感がしてきたんだけど…」

 

困惑するリズとシリカとアスナ、対して俺も何処か予感はしている……しかし、それに嫌悪感はない。

取り敢えず、ヘルメスのもとに行ってみなければ何もわからないので、足を進めることにした。

 

 

「雄牛を全て捕まえていただけるとは、本当にありがとうございました!

 こちらはほんの少しばかりですがお礼です、お受け取りください」

 

青年、ヘルメスに50頭目の雄牛を受け渡すことでクエストが達成され、

俺たちのアイテム欄にいくらかのインゴットやアイテムが入り、所持金もユルドが増えた。

 

「「「「ひっ…!?」」」」

 

そんな中、彼が手に持つ物を俺に渡してきた……それは、明らかに動物、おそらくは牛の腸と思われるものだった。

女性陣は小さな悲鳴を上げ、ハクヤとヴァルとエギルも表情を引き攣らせている。

ピナは小さくても竜だからなのか、なにやら物欲しそうに腸を見ている。

俺は、渋々、仕方なく、それを受け取ってアイテム欄にすぐさま収め、

ハンカチを取り出して手を拭き、そのままハンカチを処分した。

 

「………さて、まずはお疲れ様と言っておく」

「「「「「「「お、おつかれさま(です)…」」」」」」」

 

俺の言葉にみんなは微かに同情の色を浮かべているが、それが心に染み渡る……と、アホなことはさておいてと…。

 

「この動物の内臓()らしきものに俺は心当たりがある。それについては移動しながら話そうと思う。

 それと、途中で亀と羊のモンスターに遭遇したら必ず倒すからな」

 

そう言い聞かせて、まずはこの場から去ることにした…。

 

 

 

 

イザヴェル平原を歩きながら俺たちは亀や羊のモンスターがポップする度にそれらを優先して倒している。

 

「キリトくん、どうして亀や羊のモンスターを倒すの? それに、その、さっきのアレって、なんなの?」

「そうだな。周りにプレイヤーもいないし、サーチャーもないみたいだからここらへんで説明しようか」

 

アスナに真意を問われたので、周囲を見回して気配を探り、何もないことを確認して言う。

見渡しのよさそうな小高い丘のうえに1本の木が立っているのでそこへ移動し、みんなに話すことにした。

 

「俺が亀と羊のモンスターを倒すように言ったのにはさっきの牛の臓物、

 まぁ多分腸だと思うんだが、それが関係しているんだ。

 伝説級武器の『神杖ケリュケイオン』に関するアイテムだというのは、俺の知識からしてほぼ間違いないはずだ」

「アレがか?」

 

エギルが訝しげ表情で言ったが、それは他のみんなも同じである……ピナだけはシリカの膝の上で眠っているが…。

 

「アスナ、さっきの青年の名前はなんだ?」

「えっと、ヘルメスさんだったよね……あれ? ヘルメスって、何処かで…」

「ヒントは『ギリシア神話』だ」

「あっ…ギリシア神話に出てくる神様でオリュンポス十二神の一柱、青年神ヘルメース!」

「正解」

「ね、ねぇ。その神様がさっきの人とアレとどんな関係があるのよ…?」

 

隣で座りながら聞き入っているアスナに軽く問いかけ、彼女が答えたことに頷く。

一方、リズは良く分からないという感じに訊ねてきている。

 

「アスナが言ってくれたように、さっきの青年の名前はギリシア神話に登場する神の名前と一致しているんだ。

 そのヘルメースの逸話の1つに、別の神から雄牛を50頭盗んだとという話がある。

 それが今回のクエストと類似している…あの雄牛型モンスターの名前は〈Apollon bull(アポロン・ブル)〉、

 『アポロンの牛』という意味になり、ヘルメースが盗んだ雄牛はそのアポロンという神のものだったんだ」

「なるほどな~…ん? けどよ、それが『神杖ケリュケイオン』とどう関係があるんだ?」

 

まずは先程の青年について話したが、案の定ハクヤは首を傾げ、みんなも似たような反応である。

 

「ヘルメースが盗んだ神がアポロン、さっきの青年の言っていた知人をアポロンと当てはめて考えるんだ。

 彼はそのあとアポロンに50頭の雄牛を返したものの、アポロンは怒りが収まらなかった。

 その時、ヘルメスは亀の甲羅に羊の腸を張って竪琴を作った…その際、

 羊の腸ではなく雄牛の腸を使ったともされているんだ」

「ということは、その竪琴がケリュケイオンに関係しているんですね?」

 

ヴァルがある程度を察したように口にしたので俺は頷くことで応える。

 

「その通りだ。ヘルメースが作った竪琴を気に入ったアポロンはそれを欲し、彼から受け取った。

 その時に友好の証にケリュケイオンの杖、つまり『神杖ケリュケイオン』をアポロンはヘルメースに送ったんだ。

 つまり、ヘルメースの持物がケリュケイオンというわけさ」

 

説明を終えるとみんなから感心と感嘆の声が上がった。

まぁ俺も幾つかのキーワードを合わせる事でようやくそこに考えが至ったんだけどな~。

 

「それじゃあキリトくんはその竪琴を手に入れられれば、ケリュケイオンが手に入るかもって思ったんだね?」

「ん、そうだよ。ただ、俺はさっきのヘルメスはケリュケイオンを持っていないと思うんだ。

 ユイ、ヘルメスは至って普通のイベントNPCだったんじゃないか?」

「はい。パパに言われた通りに探ってはみましたが、他のNPCとまったく同じでした」

 

アスナの考えは良い線をいっている。

けれど、俺はユイに頼んでいたヘルメスの調査を聞くことでケリュケイオンの入手はもう少し時間が掛かりそうだと判断した。

 

「ということは、アポロンかそいつに関する名前を持つやつがケリュケイオンを持っているってことか?」

「良い線を言ってるなエギル。だけど、そうとは限らないかもしれないし、俺にも一応心当たりがあるからな」

 

エギルの言うことも一理あるが、俺にはもう1人だけ確実だと予想できる人物がいる。

 

「とにかく、まずは竪琴を入手できるかを試してみよう。そのためにも、ここら辺に出現する亀と羊のモンスターを倒すぞ」

 

そうみんなに伝え、俺たちは狩りの作業に移った。

 

キリトSide out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

前述にもある通り、今回の話は本作オリジナルの伝説級武器『神杖ケリュケイオン』を入手するための話でした。

 

『聖剣エクスキャリバー』の時とは違って長い話にはならないので、次回でケリュケイオンを入手します。

 

神話を参照にして無い知恵絞って頑張って書きましたので、なんとか納得していただければと思っています。

 

それでは次回をお楽しみに~・・・。

 

 

 

 


 
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