No.660416

九番目の熾天使・外伝~マーセナリーズ・クリード~

okakaさん

第十話です
※今回はほぼ会話のみで成り立っております。

2014-02-04 08:29:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:636   閲覧ユーザー数:545

第十話

 

――――――――――――――――――マグリブ解放戦線の崩壊だった」

 

「マグリブ解放戦線?」

 

 

初めて聞く名前に思わず聞き返す岡島。プロフェッサーは律儀に答えてくれた。

 

 

 

「ホワイトアフリカ(サハラ砂漠以北)に存在していた反体制組織さ。【とある傭兵】に壊滅させられたがね」

 

「そうか・・・話の腰を折ってすまない」

 

「いいさ、どうやら君はこの世界にきて日が浅いみたいだ、疑問に思うことは何でも聞いてくれ。可能な限り答えよう・・・さて、その戦線なんだが・・・【とある傭兵】・・・僕らの勢力にいるリンクスが彼らを壊滅に追い込んだんだ。GAの依頼でね」

 

「・・・え?管理局じゃなくて?」

 

 

あまりに予想外の展開に思わず聞き返してしまった。しかしプロフェッサーはコーヒーを一口飲むと答えてくれた。

 

 

「ああ、だがその裏で糸を引いていたのが奴らだったのさ。元々管理局はネクスト目当てで戦線を取り込むつもりだったそうだ。突っぱねられたそうだがね。それでGAを通じて【彼】に攻撃を仕掛けさせた後、やつらは戦線と繋がりのあったイクバールを通じて戦線側に偽の情報を流して【彼】の拠点を襲わせたのさ。自分たちの前線基地に見せかけて、ね」

 

「イクバール?」

 

「この世界を支配する企業の一つさ、今はたしかアルゼブラと名前を変えてオーメル・サイエンス・テクノロジーの傘下に収まってる」

 

「オーメル・・・たしか企業連の実質的な支配者だったな」

 

「ああ、どうやらオーメルはその当時から管理局と接触していたようでね、いろいろと裏で動いていたそうだ。そして、その次のターゲットになったのが僕ら【ラインアーク】だったのさ。僕らは企業にとっても目の上の瘤だ、もし取り込めたら邪魔者がいなくなるからね。利害が一致してたんだろう。奴らはいきなり現れて僕達に『自分達はこの世界を含めたあらゆる世界を正しく管理する存在だ、我々に協力したまえ』なんて言い出したんだ。初めて聞いた時は奴らの頭を疑ったよ。でも、奴らの技術はたしかにこの世界のものとは全く違うものだった・・・驚いたよ・・・まさか魔法なんてものが存在する世界があるなんてね・・・」

 

「・・・その誘い・・・受けたのか?」

 

 

プロフェッサーはコーヒーを一口飲むとはっ、と笑い飛ばしながら続ける。

 

 

「まさか、断ったよ。さすがに怪しすぎたからね。そしたら連中本性を表してね。『マグリブの用になりたくなければ従え』なんて言い出したんだ。それで僕らの勢力にいた旧マグリブ勢力圏内の出身者の話を聞いてね、そこで戦線崩壊の真実を知ったんだ」

 

 

そう言うとプロフェッサーはまたコーヒーを一口啜る。・・・?少し待て。今の言葉に違和感を感じた岡島はプロフェッサーに疑問をぶつけた。

 

 

「・・・ちょっと待ってくれ?故郷を奪ったやつのところに流れこんできたのか?」

 

「ああ、僕らの勢力は基本的に来る者拒まずだったからねぇ。それに企業支配からの脱却はマグリブ解放戦線も目指していたものだ。思想的にも似通った部分があったんだろう・・・。もっとも、その頃にはもう企業内の権力闘争に敗れた亡命者が大量に流入してきていてね、ラインアークの政治と社会は腐敗を始めていたんだ」

 

 

さすがに岡島も呆れて溜息を付く。

 

 

「はぁ・・・あんたらよくそんなんで企業に対抗しようと思ったな」

 

「ああ、全くだよ。おかげでろくな戦力といえるのは僕の手がけたホワイト・グリントくらいだったよw」

 

「プロフェッサー!そんな他人事みたいに!あなたもそんな言い方は無いでしょう!」

 

 

二人のあまりな物言いにフィオナが声を荒らげた。呆れながら岡島も反論する。

 

 

「・・・あのな、政治も経済も回らないのにどうやって戦争するつもりだったんだ?ネクストを動かすのにも他の戦力を手に入れるのにも資金がいるだろうが、その資金のを捻出するのは?その使い道を決めるのは?政治と経済だろうが。一勢力を束る立場にいるのにそんなことも解らんのか?」

 

「そっ・・・それは!・・・」

 

「フィオナ君、彼の言うとおりだよ。そのせいで僕らはホワイト・グリントを失ったんだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

正論だと理解はしていたのだろう。さすがのフィオナも岡島とプロフェッサーの言葉に黙りこんでしまった。プロフェッサーは更に続ける。

 

 

「僕らは経済のほとんどをホワイト・グリントと【彼】に依存していたんだ。ラインアークの通行料だけじゃ足りずに【彼】をカラードに登録して、ミッションの報酬で資金を捻出して、ラインアークの防衛のほとんどを押し付けて、いつ限界が来てもおかしくなかったんだよ。今僕らがこんな状況にいるのも当然さ、その要も、首長だったブロック・セラノ氏も、もういないんだから。側近だった君なら解かるだろう?」

 

「・・・私だって解ってます・・・でも・・・そうするしか・・・」

 

 

そう呟くとフィオナはまた黙りこんでしまった。さすがに言い過ぎたと思ったのだろう。岡島は彼女に謝罪した。

 

 

「すまん・・・言い過ぎた。でもこれは人の上に立つなら絶対に必要なことだ。それだけは覚えておいてくれ」

 

「・・・ええ、今実感してるわ・・・私の方もごめんなさい。少し興奮してしまって・・・」

 

「いや、いいさ。理想も必要なことだ・・・現実と向き合いながら、だがな」

 

「・・・そう・・・」

 

 

二人が黙りこむとプロフェッサーが口を開いた。

 

 

「話を戻そう、ええと・・・ああ、そうそう、戦線崩壊の真実を知ったところからだったね」

 

「ああ」

 

「それを知ってね。当然二の舞いはごめんだと思ったんだがねぇ、だけど管理局に下るのは企業に下るのと同じだからさ、企業の軍門に下るのはラインアークの終焉そのものだったんだ。結局僕らには断るしか選択肢が無かったのさ、そしたら管理局にいきなり攻撃されてね。なんとか撃退したもののほとんどのMTとノーマルが破壊されてしまったよ。そしたらその直後に企業連の攻撃さ、まるで示し合わせたように・・・ね」

 

「あの戦闘か・・・」

 

「そう、僕らも必死に抵抗したよ。なんせブロック・セラノ氏直々にカラードのリンクスに防衛のミッションを依頼しに行ったほどさ。そしてこの有り様だよ。市民のほとんどは散り散りになってしまった、中にはまた企業に擦り寄るものもいたよ。結果今ここにいるのは四百人もいない状態さ」

 

「だからまたネクストが必要なのか。抵抗を続けるために」

 

 

プロフェッサーはコーヒーを飲み干すと自嘲気味に笑った。

 

 

「いや、正直なところ僕らが考えてるのはただの【復讐】だよ。我が物顔で世界を歪めるあいつらを放っておけないとか、そんな正義感なんかじゃない。僕らは純粋にあいつらが憎い。どんなに腐っていても居場所を奪われたんだ、腹も立つさ、たとえ自分達が同じことを強いてきたんだとしても。もう、理屈じゃないのさ、この感情は。せめて一発でもいい、奴らに痛い目を見せてやりたいのさ」

 

 

プロフェッサーの手の中で空になった紙コップがクシャリと潰れた。ふと目をやるとフィオナも拳を震わせている。・・・結局戦う理由は自分と同じらしい。岡島は一度大きく息を吐くと語りだした。

 

 

「なるほど、だいたい解った。とりあえずあんたらは管理局に一泡吹かせたい、と」

 

「ああ、そうさ」

 

「俺も似たようなもんさ。家族を殺された恨みを晴らす、あとあいつらが気に入らない。それが俺が戦う理由だ」

 

「なるほど、似たもの同士ってことだね・・・」

 

「ああ、・・・なぁあんた達、船長達も、俺と組まないか?うまく行けばここにいる全員・・・残るかはわからんが新しい居留地を用意できる」

 

「「「「!?」」」」

 

 

唐突な誘いにその場にいた全員が驚く。

 

 

「・・・それは本当かい?」

 

「ああ、さっき船の上でも言ったが俺は異世界の人間だ。奴らの目の届かん世界にアテはあるし、反管理局派の世界も存在する。そこに新しい居場所を作ればいい、戦い続けるためにも・・・俺達に本当に必要なのはデカイ一発じゃなくてあいつらの目の上の瘤を続けることじゃないか?」

 

 

岡島はそう言うとニヤリと笑う、・・・唐突にプロフェッサーが吹き出した。

 

 

「プッ・・・クククッ・・・ハハハハハハハハハハハハハ!いいね!そいつはいい!一回じゃなくてずっと嫌がらせを続けるわけだ!君は随分意地が悪いねぇ!」

 

 

大乗り気のプロフェッサーとは対象にフィオナは半信半疑で呟いた。

 

 

「・・・そんな事が・・・」

 

「できるさ、小さな組織でも、な」

 

「随分と自信があるのね」

 

「当然さ、なんてったって俺はそれを続けてたんだぜ?」

 

「・・・なぁ兄ちゃん・・・」

 

 

唐突に船長が口を開く。その瞳は今までに無く真剣なものだった。

 

 

「?、なんだ船長」

 

「あんたが言う別世界ってのは・・・海は綺麗なのか?空は?大地は綺麗なのか?」

 

 

岡島はこれまで巡った世界を思い出し、答えた。

 

 

「俺としてはここまで汚染された世界の方が珍しいよ」

 

「・・・そうか・・・決めたぜ兄ちゃん!俺はあんたについてく!俺は昔から一度でいいから爺ちゃんから聞いた本当の海の色ってのが見たかったんだ!無理だと思ってたがこんなチャンスに巡りあうたぁ運がいい!」

 

「・・・死ぬかもしれんぞ?」

 

「だが死なんかもしれんだろ?」

 

「・・・そうか・・・歓迎するよ、船長」

 

「俺も行くぜ旦那!こんな面白そうな話めったにねぇよ!」

 

 

作業員も乗り気らしい・・・海の男の血でも滾るのだろうか・・・サルベージ船の乗組員だけど。

 

 

「僕は元々賛成だよ?」

 

 

プロフェッサーも乗り気らしい。となると・・・四人の視線がフィオナに向く。

見つめられて恥ずかしかったのかフィオナは少し顔を赤らめながら言った。

 

 

「・・・はぁ・・・選択の余地は無いわ・・・OKよ傭兵さん」

 

「そうか・・・そういえば自己紹介がまだだったな。岡島一城だ」

 

 

岡島はそう言って手を差し出す。フィオナはその手を握り返し名乗った。

 

 

「フィオナよ、フィオナ・イェルネフェルト」

 

「そうか、じゃぁフィオナ」

 

「ええ、一城」

 

「「今後とも宜しく」」

 

 

こうして岡島はラインアーク残党と共闘関係を結んだのだった。――――――――――――――――――

 

 

 

「よし!そうと決まればまずは修理だよ!フラジールの方も気になるし!あ~どんな風に仕上げようか!楽しくなってきたよ!フィオナ君、彼をまず僕の研究室に連れて行ってくれ!いろいろ調べるから!ああ、その前に【彼】に合わせてあげてくれ!」

 

「【彼】って・・・」

 

「ええ、あなたの前のホワイト・グリントのリンクス―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――世間で【アナトリアの傭兵】と呼ばれる人物よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

第十話です。会話ばっかで見にくくてすみません。次回遂に【彼】との邂逅です。

 

 

 

 

 

 


 
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