No.647298

真・恋姫†無双 十√37

kazさん

魏蜀激突編その4

えーっと、戻って参りました

とりあえず、まだ生きています

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2013-12-22 21:20:33 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:20189   閲覧ユーザー数:12952

 

 

 

-前回のあらすじ-

 

大陸制覇に向け戦う魏は魚腹浦に陣を構える蜀と一進一退の戦いを繰り広げていた

だがその戦いの最中戦場での違和感のようなものを感じた一刀は稟の言葉で敵が自分をこの戦場から

排斥しようとしている事に気付く、稟と協力し左翼のみでの攻勢を画策する一刀

だがそこで一刀は自らを囮に使うという無謀な作戦を行う、双方に驚きを与えた作戦ではあったがこれが功を奏し

魏軍は敵の一翼を壊滅する事に成功する

一方の蜀軍は一刀の登場によって一翼を崩され戦線維持が出来ないとわかると陣に火を放ち転進する

そして蜀軍は最後の戦いをすべく蜀の王劉備玄徳こと桃香が満を持して出陣する

 

 

 

 

 

 

-魏軍 中軍-

 

 

左翼の戦いにおいて勝利を収めた魏軍は粛々と放棄された蜀軍の陣地を全て制圧する

撤退時に蜀軍によって放たれた火災はすでに鎮火してはいたが戦場には焼け焦げた匂いが未だに充満していた

安全確認の終えた中央の陣地に入った桂花、風、稟、詠の四軍師は周囲を見渡し改めてこの陣地の完成度に感嘆する

 

小高い丘に作られたこの陣地は全方位に段差を作りその中に防柵や逆茂木を備えまさに城塞のように作られていた

中には井戸も無数に作られ食料庫となっている地下の空洞も作られており数ヶ月もの篭城に耐えられる造り

唯一の例外として撤退の為か後方は緩やかな下り坂となっており急遽の転進に対応できるようにとの

配慮と思われる、しかしそこには対騎馬用の罠の拒馬槍が無数に設置されていた跡があり騎馬への対応も完璧だった

 

「中に入ってみて改めてこの陣地の凄さがわかるわね」

 

「ですね~、守るに強く攻めるには困難極まりない造り、側面防御に関しても回廊を上手く利用して

各個撃破出来るようにしていますね~」

 

「まともに攻めていたら被害は酷いものだったでしょうね、ほんと稟が敵左翼を切り崩してくれて助かったわ」

 

「私はなにもしていませんよ、一刀殿が命を懸けて突破口を開いてくれたからこその勝利です」

 

桂花、風、詠、稟がそれぞれの感想を述べる

その言葉にはこの陣を構築した敵の軍師諸葛亮孔明への畏敬の念のようなものも感じられた

 

魏軍はこの陣地を拠点として兵を再編成、負傷した兵は後方へと送り無用な被害の拡大を減らす方策を決める

それでもここにいる魏軍はまだ十七万もの大軍が残っていた

その後蜀軍の動向を調べるべく細作を無数に放ち情報収集をする魏軍

 

しばらくして細作よりの報告で蜀軍がこの陣地より撤退した後、ここより山を二つほど離れた

河を背にして背水の陣を構えてるとの報告を受けると桂花、詠は蔑みさえ感じる言葉で

 

「背水の陣?はぁ、まだ戦おうって言うの?、ほんと呆れるくらい往生際が悪いわね」

蜀軍の残存兵力はもう後二万といったところだろうけどそれでどうにかできるって思ってるのかしら」

 

「まぁ相手に合わせて戦うのも癪だけど、ここまできたら付き合ってあげようじゃないの

降伏するならよし、戦うというなら一兵残らず殲滅して後顧の憂いをなくして大陸制覇を完遂するだけよ」

 

 

「相手を甘く見ていると痛い目を合いますよ」

 

 

桂花と詠がまるでもう勝ったかのような口ぶりをしてる所に稟が厳しい表情で口を挟む

 

「一刀殿が言っていました、蜀軍はまだ何かをしようとしていると、

これまでの戦いを見るに敵は未だ守りに徹していますが隙を見て何かしらの攻勢を行うのではないかと思っています

私たちは一刀殿が勝利を宣言するまでは最後まで決して気を許してはいけないのです」

 

「おおう、稟ちゃんが何やら一皮向けた感じになっていますね~、おにーさんに何をされたのでしょうかね~」

 

「今のままでは一刀殿の力になれないと思ったまでです、もっともっと高みを目指さなければ、

一刀殿に一番信頼され必要とされる筆頭軍師となる為にも…」

 

突如出た筆頭軍師という言葉に虚を突かれた桂花は声高に稟に

 

「ちょ、ちょっと稟いきなり何言い出してんのよ!い、言っておくけど筆頭軍師はわた…」

 

「桂花、この場ではっきりと言っておきますが、私はいずれ魏の、いえ一刀殿の筆頭軍師になります」

 

「…なっ!!」

 

稟から急に筆頭軍師奪取宣言された桂花はぐぬぬぬといった感じで稟を睨む、一方

 

「ほんと稟は変わったわね、今までだったら思ってはいても口には出さなかったでしょうに

それだけ筆頭軍師になってあいつの傍にいたいって事なのかしらね」

 

「そういう詠ちゃんは筆頭軍師になりたいという野望はないんですか?」

 

「ボク?ないわね」

 

風の問いにきっぱり言い放つ詠

 

「ボクはどっちかというとあまり目立つような事はしたくないのよね、今は戦時だし仕方なく軍を指揮してるけど

戦いが終わったら月と静かに暮らせればそれでいいって思ってるしね」

 

「ほうほう、詠ちゃんもおにーさんの傍で可愛がられるのが望みと思ってはいたんですけどね~」

 

「や、やめてよっ!べ、別にボクはあいつの事なんかっ!」

 

そんな感じで軍師達がそれぞれ和気藹々(?)とやりとりをしていたその時

 

 

「にいちゃん!!」

 

 

季衣の悲痛なまでの叫び声が響き渡る、その声に尋常ではない事態が起こったと緊張感を募らせる軍師達は

何事かと季衣の下へ駆け寄る、そこには魏の武将達が揃っていたが皆青ざめた表情で困惑、混乱していた

皆が見つめるその中心にいたのは

 

「北郷!」

 

桂花の叫ぶその先には夏候惇こと春蘭、夏候淵こと秋蘭に支えられながら

顔を苦痛に歪ませ苦しみもがいてる魏の覇王北郷一刀の姿があった

 

「だ…、だいじょ…うぶだよ…、ちょ、ちょっと頭痛が…する…だけ、だから…ぐっ!」

 

「いいから喋るなっ!おい!医者はまだかっ!早く寝所の用意をさせろっ!」

 

春蘭の叫びにようやく正気を取り戻した凪、真桜、沙和の三人はすぐさま駆け出し兵に医者を探す

一方心配そうに一刀に寄り添ってきた呂布こと恋の頭を力なく震える手で優しく撫でる一刀

 

「ごしゅじんさま…」

 

「大丈夫だよ恋、すぐ…良くなるから…」

 

土気色の顔で気丈に微笑む一刀の手をしっかり握る恋、しばらくして凪達が幕舎の準備と

医者の用意が出来た旨を春蘭達に伝えると大丈夫だと気丈に振舞う一刀を無視して

恋と春蘭は一刀を担いで幕舎へと向かう、その姿を心配そうに見つめる魏の面々

一刀の頭痛がここ最近酷くなってきている事に皆は心配を隠せないでいた、もしもこの先あの頭痛が悪化したら

そんな負の考えが皆の心を支配していく

 

沈痛な面持ちをした魏の面々、しばらくの静寂の後言葉を発したのは秋蘭

 

「これ以上長引かせるわけにはいかないな」

 

その言葉にはこれ以上一刀に負担をかけさせまいという強い意志が感じられた

秋蘭の決意したその言葉に皆も頷く、そんな中霞は両手を握り締め悔しそうに

 

「一刀はほんま無茶しすぎや、何も心配せんとうちらにみんな任せてくれればええのにっ!」

 

「おにーさんがそーゆうのを一番嫌いだというのは霞ちゃんもわかってるはずなのでは?」

 

「わかっとるがな!せやからもどかしいんやないかっ!

一刀があんだけ苦しい想いしてんのにうちには何もしてやられへん!

うちにやれるのは一刀の敵を討つ事だけなんやっ!そんだけしかでけへんねん!」

 

霞の叫びに皆は再び暗い表情になる、そんな皆を見てやれやれといった感じでため息をつく風

 

「いえ、やれる事ならありますよ、そしてそれは他の皆さんにもです」

 

いつもの緩い口調ながら絶望のようなものは感じられなかった風の言葉に皆が注目する

風は皆を見回し明るく、そしてしっかりした言葉で

 

 

「生きておにーさんに勝利の報告をする事です、もし誰かが死んじゃったりしたらおにーさんは悲しみます

それはもうずっとずっと悲しんで笑顔になってくれませんよ、そんな事をおにーさんにさせちゃだめです」

 

 

にこやかに語る風のその言葉に皆は顔を見合わせようやくにして気持ちが落ち着いてくる

その顔には先ほどまでの悲痛な面持ちはない、むしろ新たに決意し自分自身に気合を入れるかのように

 

「せやな!、一刀に悲しい想いをさせたらあかんかった、それだけは絶対にさせたらあかんな真桜!」

 

「はいな!うちかてまだまだ大将に恩返しとかできてませんし、何としても生きてみせます!」

「さ、沙和もも絶対死なないのー!ま、まだまだ色々やってあげたい事があるのー!」

「私は絶対に死にません、私が死ぬのは北郷様に死ねと言われた時だけです!」

 

霞、真桜、沙和、凪の決意表明に続いて季衣、流瑠もそれに続く

 

「ぼくだって絶対ぜぇーったい死なないから!にーちゃんを悲しませるわけにはいかないもんね!」

「うん、兄さまにはずっと笑顔でいてほしいです!」

 

そして春蘭と秋蘭も

 

「情けない!まったく、お前らときたら戦う前から負ける事など考えおって!いいか!

武人というものは常日頃より勝利の気持ちさえ持っていれば負ける事など絶対ないのだっ!」

「姉者は流石だな、だがそうだな、今は北郷の事は医者に任せるしかない、我らにできる事はこの戦いに勝って

北郷にこれ以上の負担をさせない事だ」

 

さらに白蓮、華雄

 

「魏はほんとにいい国だな、華雄」

「そうだな白蓮、我らも絶対生きるぞ!」

 

皆が改めて勝利を、そして一刀の為に生き残る事を誓う

 

「一刻も早くここでの戦いを終わらせましょう、そして一刀殿にゆっくりと静養して頂かなくては」

 

稟のその言葉に桂花が「それ私の台詞っ!」と言おうとしたものの

空気を読んであえて言わない桂花さんだった

 

 

 

 

 

-旧蜀軍陣地内 魏軍本営の幕舎-

 

 

一刀の看病を続ける恋(というか一刀を心配して傍から離れない)を除く魏の軍師、将の面々が揃い

これからの戦いについて議論していた

 

背水の陣を構える蜀軍に対してどう戦うか、兵力では魏軍が八倍近い差を以って圧倒している事には

変わりはないのだが追い詰められた蜀軍に乾坤一擲の戦いをされれば被害は軽視できない

さらに孔明がこのまま座して死を待つのみの策だけを行うのかという事に稟などは疑問を感じていた

 

「三陣の編成を以って蜀軍にとどめを刺しましょう」

 

卓上に近辺の地図を広げ魏軍の駒を配置し更に蜀軍の現在いるであろう位置に駒を置く

そして駒を動かしながらこれからの作戦を説明していく

 

「まず一陣は七万の兵をもって敵を攻撃、三陣は同じく七万の兵でこの陣地を拠点として本営を守ります、

一陣と三陣の中間に二陣として兵三万を配し敵に合わせて二陣の兵を適時活用していくという感じで戦います」

 

「敵の動きに柔軟に対応し、もし敵が正面の戦いのみに兵を割くのであれば二陣より一陣へ兵を動かす、

もし仮に敵が遊撃兵を以ってこちらの本陣を急襲する構えを見せるのであれば二陣より三陣へ兵を割いてこれを制す」

 

「何故兵を分ける必要があるのだ?一気に攻めればよかろう!」

 

軍師達の意見に春蘭が珍しくまっとうな意見をする

 

「ここまできて焦る必要はないでしょ、敵が何らかの策を考えていた時に兵を密集させておくのは危険なのよ、

それにもしあいつに何かあった時の事も考えないとね、戦場では何があるかわからないのだから」

 

「敵はまず間違いなくどこかで北郷を狙ってくるはず、それを防ぐためにも戦場から距離を置くべきなのよ」

 

「これだけの状況で敵はこちらの本陣を急襲する余裕があるゆーんか?」

 

一刀を狙ってくるという言葉に霞が少し訝しげに軍師達に質問をする

その言葉に桂花が顔を曇らせ一呼吸置いてから答える

 

「どの程度の戦力かはわからないけど多分ね」

 

「何でそない言い切れんのや?」

 

「蜀軍を撤退に追い込む前にあいつが言っていたのよ、蜀軍が玉砕覚悟の戦いをするのかと聞いた時に

”劉備の目的は俺を止めることだ、だからここで玉砕しても俺を止めることはできないから意味がない”ってね」

 

「にーちゃんを止める?」

 

季衣が意味がわからないといった感じで聞き返すと春蘭や真桜、沙和や華雄といった者達もうんうんと頷き

答えを求められた桂花はため息混じりに言葉を続ける

 

「おそらく孫策の時のようにどこかでこちらの本陣への突破を図ると思うのよ

そしてもし孫策のように劉備が一騎撃ちのようなものを仕掛けてきたらおそらくあいつはそれを絶対に受けるわ

絶対にね、例えそれがどんな状態であっても」

 

桂花の言葉に皆はようやくそれが一刀の命に関わる事だと認識する、劉備を見た限りは武に秀でたようには見えなかった

戦えば一刀がおそらく勝つだろう、しかし一騎討ちというのは何が起こるかわからないものだ

一刀が孫策に勝つなど誰が思ったことだろう、そしてさらに皆を考えさせるのは今の一刀の状況だ

ここ最近頭痛に悩まされ続けている一刀はまともに戦えるとも思えない

しかし一刀の事である、劉備が一騎討ちを望んできたならばどんな体調であってもそれを受けるだろうと

 

「だったら全軍で大将を守ってやれば…、ってそれやったら何の為にここまで来たかわからんか」

 

真桜の言葉に皆も確かになという感じで相槌をうつ

 

「ええ、ここに来たのはあくまで劉備を討って蜀を屈服させる為、それができなければ何の為の出征かわからないわ

もし守りに兵を割いた場合蜀軍は動かずこちらの疲弊を待てばいいし

同数の規模の兵力を以ての戦いはそれこそ向こうの思う壺、消耗戦とはいえ被害を軽視できなくなるしね

だからこそ兵を攻守に均等に分け戦力を動かすのよ、たとえそれが罠だとわかっていてもね

 

真桜の疑問に桂花が答え作戦の目的を話す

将達も自分達がまだ完全に勝利を掴んでいないという現状を改めて思い知らされたのだった

 

「とにかく油断はなしよ、皆もあらゆる状況に備えて!」

 

「「応!!!」」

 

圧倒的有利な状況でも引き締めを図る魏軍、それもこれもこれが最後の戦いであるがゆえである

百戦錬磨の将と軍師は慎重に、しかしすばやく行動を起こす為準備に取り掛かる

 

 

その頃一刀は薬で少しは緩和したものの激しい頭痛に苦しみ幕舎から出られずにいた

 

 

 

 

 

数日後

 

 

日が昇り始めた早朝朝靄の中、軍の再編成を終えた詠が指揮する第一陣七万が動き出す

 

「じゃあ、行って来るわね」

 

「詠気をつけてね」

「くれぐれも敵の策に嵌らないよう気をつけてください」

「ぐう」

 

 

「「「寝るなっ!!!」」」

 

 

恒例のいつものやり取りを終えた軍師達を微笑ましく見守る将達であった

この第一陣には主だった将帥は配置されてはいなかった、主な将達は本陣である第三陣に配置されていたのだ

これは敵の主目的が一刀のいる本陣であるとの判断である

 

第一陣を率いる詠は進軍をしながらも斥候などを放ち敵が罠や伏兵を仕掛けていないかを徹底的に調べさせる

 

「貧乏くじを引くのはいつもの事か、まぁしょうがないわね、さて、敵がまともに戦ってくれればいいけど…」

 

愚痴を言いながらも警戒しつつ山を越え森の中を進み蜀軍が布陣しているという場所まで来た魏軍ではあったが

そこには詠の思ったとおり蜀軍の姿は無かった、あるのは放棄された陣地の跡

 

「すでに転進した跡か、誰かあるっ!罠がないかを徹底的に調べて!

 あと細作を全方位に放って敵の位置の特定を速やかに行って!」

 

詠の命令にすばやく細作達が全方位に放たれる

 

残された陣地を詳しく調べるもののやはり人はおらず詠は細作を放ちその行方を調べさせる

しばらくして河を渡った平地に蜀の陣地がある事を突き止める、こちらを敵地奥深くまで誘い込む罠かなと

一瞬考える詠ではあったが続く報告に怪訝な表情を浮かべる、その報告は

 

 

「石で積み上げられた山のようなものが多数築きあげられている?何これ?」

 

 

問われた兵士達も何と言ったらという感じでしどろもどろな説明をするのみ

細作が見つけたものは蜀軍の陣地までに石で築かれた山のようなものが無数に積み上げられているというものだった

何の目的で?そう考える詠ではあったが敵の意図がまったくわからないでいた

おそらくは何かの罠か策略か?それともただのこけおどしか?

こちらを考えさせ行動を抑制する事で時間稼ぎをするのが目的か?

 

今更焦る必要のない詠は改めて細作を多く放ちその石の山やその地を徹底的に調べさせる

しかしそれ以上のおかしなものは結局何も見つける事はできなかった

不信感は募るものの蜀軍にこれ以上の時間的猶予を与えるのも不利になると判断した詠は敵陣に向け進軍を開始する

 

水計の可能性も考え慎重に渡河し始める魏軍、そして第一陣のほぼ半数が渡河した時

 

それは起こり始めた

 

「霧?」

 

それはうっすらと、しかし徐々に濃くなっていく、嫌な予感を感じた詠は警戒をしつつ渡河を急がせる

そしてほぼ全軍が渡河した頃にはすでに霧でほとんど視界は見えない状態にまでなっていた

不安に怯える兵たちを鼓舞し詠は全軍に警戒をさせつつ蜀軍の陣地に向かい再び進軍を命令する、だが

 

「敵の攻撃がない…」

 

間違いなく敵陣に近づきあるはずなのに敵からの攻撃が一切ない事に疑問を感じる詠

深くなる霧の中向こうも攻撃をしにくいのか、いや、今攻撃を仕掛ければこちらを混乱させるのは容易い

それともこの霧のせいで向こうも混乱をしているのではないか?

 

そう考え始めた詠の脳裏に信じられないといった考えが浮かび戦慄する

 

「まさか、敵はこの霧を予見していたというの!?」

 

敵からの攻撃がない事に詠は蜀軍はこの霧の発生を予期していたのではないかと考える

敵の軍師諸葛亮孔明は天候を自在に操れるという、いや、いつどの時に何が起こるかがわかるというべきか

地の利を徹底的に調べ上げ味方にする諸葛亮孔明、改めて恐ろしい軍師だと畏怖の念を感じる

一旦後退すべきか、そう考える詠ではあったがそこで再び気付く事となる、もしこの状況で後退した場合

 

(今度は自分達が背水の陣を取らされる形になる)

 

それも考えようやくにして詠は自分達が敵の策に嵌られたという結論に達する

目的は撹乱、殲滅、いや、敵から攻撃の気配を感じられないという事は敵の大部分はすでにここから

移動している可能性がある、だとすれば敵の目的はただ一つ

 

 

(この第一陣を分断し孤立させるのが目的)

 

 

「やっぱりか」

 

吐き捨てるように言葉を放つ詠、進軍前軍師達と話し敵の意図が北郷一刀だと考えていた

元々この第一陣は囮のような役割もあり、敵の主力がいた場合はこれを排除する

もし敵の主力がいない場合はすぐに転進し背後よりこれを挟撃するといった役割を受け持っていた

その為の準備や対応もしていた、にも拘らずこの有様

 

詠は唇をかみ締め悔しさを滲ませる

すぐに転進を考えるものの視界は悪い、下手に混乱をさせれば同士討ちの可能性すらある状況

そこいらの将であったなら焦り無用な被害を出していたかもしれない

しかし様々な難局を経験して成長した百戦錬磨の軍師賈文和である

 

「転進よ!霧で視界は悪いけど冷静に混乱せず今来た道を戻りなさい!渡河は慎重に!

おそらくは敵の攻撃はないと思うから速やかに転進する事だけを考えなさい!」

 

命令する詠、兵同士の連携を密にし、混乱のないように撤退命令を出す

 

しかしここで詠にとって予想外の事が起こる

 

兵士達の中に来た方向がわからず立ち往生してしまう者が続出したのだ、理由は積み上げられた石の山

同じようなものが無数にあり視界の悪い中自身の位置がわからずパニックになってしまうのだ

必死で立て直す詠ではあったが七万という大軍、さらに一度混乱した兵を立て直すのは簡単にはいかなかった

 

 

 

 

”朱里ちゃん、まずは敵の第一陣の足止めは上手くいったみたいだよ”

 

”うん、石兵八陣が上手く機能してくれたみたいだね雛里ちゃん、これで少し時間は稼げるかな、でも…”

 

”どうしたの朱里ちゃん?”

 

”うん、どうもこの戦場から北郷一刀の意思のようなものを感じないの”

 

”それって…”

 

”もし北郷一刀なら石兵八陣の事も気付いてたかもしれない、けど魏の第一陣はそういう感じじゃなかった

もしかしたら、北郷一刀に何かあったのかも…”

 

 

 

 

 

 

-魏軍第二陣-

 

 

第一陣と第三陣の丁度中央に位置する場所で風の率いる第二陣三万は備えていた

 

ここでも同じく霧が発生し深くなっていった

第二陣を指揮する風は霧が深くなっていくにつれ蜀軍が何か行動を起こすと予見していた

元々この第二陣の役目は遊撃的な役目であり独自の判断での行動を許されている

 

「第一陣からの定期の報告はきましたでしょうか~」

 

風の言葉に兵は首を振る

 

「ふぅ、さてさて、どうやら詠ちゃんは何かしらの策に嵌ったとみえますね~」

 

第一陣からの定期の伝令がない事に風は第一陣に何かが起こったと判断する

 

視界の悪くなる状況の中風がまず行ったのは兵の混乱を抑える事だった

それは千人単位での密集隊形を編成する事で兵士間の連携を密にする事

それは功を奏しこの第二陣で霧で混乱し乱れる兵はほとんどいなかった、とはいえ行動を制限され視界の悪い中

いつ蜀軍が攻撃を仕掛けてくるかという事に兵たちは不安で怯えつつあった

 

「条件としては蜀軍も同じとは思うのですが…」

 

風が蜀軍の動向を考えてる時霧の中銅鑼が打ち鳴らされる音が響く

 

「て、敵襲ですっ!!!」

 

敵襲と思い警戒する魏の兵たち、しかし敵兵が現れる事も攻撃を受ける事もなかった

神経を張り詰め辺りを見回す魏の兵士達

どのくらいの時間が経ったか攻撃が無い事に安堵し気を休めようとした時

 

別方向より再び銅鑼の音が激しく打ち鳴らされる音が聞こえてくる

 

その音に再び警戒する魏の兵士達、しかしやはり攻撃のようなものは一切なかった

 

「撹乱ですかね~、敵は寡兵…、いえ、数えるほどもいないでしょうがこの状況では効果的ですね~」

 

風はここには敵は数えるほどしかおらず攻撃の意図はまったくないと看破する

とはいえ視界が悪く動けないという状況では大軍を動かすのはリスクが大きすぎると判断していた

少数を以ての威力偵察、おそらくはこれが最善

 

「無理をしない程度でいいですからね~、多分敵には攻撃の意図はありませんから~

同士討ちを避けるために各々声を掛け合い慎重に捜索をお願いしますね~」

 

風は百人単位を全方位に索敵の為に動かす、敵がいた場合は攻撃をしこれを排除する

さらに第一陣への連絡、そして後方の本陣へ状況報告の為の伝令も送る

 

(これで間違いなく敵の目的はおにーさんだという確信が持てましたか)

 

敵が本陣急襲を画策してるのは明らか、であるならこの第二陣は本陣と合流して防御に厚みを増すのが良い

風は神算鬼謀変幻自在の用兵を用いる事で名を馳せてはいるが正攻法の戦いをしないわけではない

特にこういう不利な状況の時は慎重に動く事で敵の策に陥らないようにするのだ

 

風は全兵士に敵は少数、目的は撹乱、攻撃の意思はないと兵たちに伝えさせ混乱をしないようにと徹底させる

その効果あってか数度にわたって再び打ち鳴らされた銅鑼の音に再度の混乱のようなものはなかった

 

全方位に放った偵察はやはり敵を見つける事はできなかった

 

ここで風は兵を三つに分ける、まず五千を第一陣への援護へ向かわせる

次に一万五千と風は戦線維持の為ここで待機し残る一万を本陣への防衛に当てるために編成し向かわせる

視界は悪いとは言うもののさすがに精鋭中の精鋭の魏軍である、慎重にではあるが混乱無く本陣へと移動する

 

だがここで予想外の事が起こる

 

本陣に向かう魏兵の前に突如松明が煌々と灯され数十人の兵らしきものの影とともに現れたのは

 

 

「私の名は諸葛亮孔明、蜀軍の全てを統括している軍師です!

 申し訳ありませんが貴方方をここより先に進める訳にはいきません」

 

 

蜀の軍師諸葛亮孔明こと朱里、霧の中ではあったが松明に照らされたその姿は魏兵にも確認はできた

突然の事に驚く魏の兵士達ではあったが敵の軍師がむざむざ現れたというのであれば討つのみ

 

「ゆ、弓兵矢を番えよ!一斉射して討ち取れ!!!」

 

隊長の合図と共に弓兵は矢を番え明かりの場所へと矢を浴びせる

悲鳴は聞こえなかったが確実に仕留めたと意気上がる兵達

 

しかしまた別の場所に松明が照らされ

 

 

「我こそが諸葛亮孔明!魏の兵士よここより先に向かわせる訳にはいかない!」

 

 

今度は影と声だけであったが再び上がった孔明の名と声にたじろぐ兵士達

しかし再び矢を浴びせかける、今度こそ討ち取ったり!

沸く魏の兵士達の前に更に別の場所から松明が灯され孔明の名乗り

その後も同じように松明が灯され孔明の名乗りが何度も行われていく

 

撹乱の意図は明らか、だが霧によって視界を遮られた中でのこの策略は魏兵を混乱させるには十分だった

ある者はその松明のある場所へ斬りかかり、ある者は弓を撃ち続ける

そしてある者は妖術と間違え恐怖に震え座り込む

 

結局この混乱は風が報告を受け取って統制を整えるまで時間がかかってしまう

そして松明が灯された場所には矢を受けた人型の板が無数にあるとの事だった

松明に火を付け孔明の名乗りを上げた者は結局一人も捕らえる事ができなかった

 

「効果的な撹乱…というべきでしょうね~、時間稼ぎとしては十分過ぎるほどに」

 

風は自身が本陣に向かうべきだったと後悔する

この近辺に敵はもう戦える兵力はわずかであり撹乱というだけなら大きな混乱もなく

本陣へと向かえる筈だったと、しかし蜀軍はそれをあざ笑うかのように

兵をほとんど使わず一万の軍勢の足を止めることに成功していた

 

「すでに敵は本陣に迫りつつある、と見るべきでしょうね~、

この霧を上手く使われる形になってしまいましたか…」

 

間に合うか、そう考えながら風は兵を落ち着かせると本陣へと再び急ぎ向かわせる

 

 

 

”二陣の足止めもなんとか上手くいったね朱里ちゃん”

 

”でもさすが程仲徳といった所かな、もう少し時間を稼げるとは思ったけど混乱からの回復が早いよ”

 

”でも…”

 

 

”うん、後は皆と…、そして桃香様に全てを託そう!”

 

 

 

 

 

-旧蜀軍陣地跡 魏軍第三陣-

 

 

本陣にも霧は深くかかっていた、視界は悪く地形もまともに見えなくなるほどに

だが流石に大陸最強の魏軍王佐一等荀文若、そして覚醒しつつある郭奉孝という二人の名軍師

さらに春蘭秋蘭を軸に百戦錬磨の将達が兵達の混乱をよく抑え本陣をしっかり守っていた

 

「間違いなく仕掛けてくるわね」

 

「ええ、間違いないでしょうね、細作を全方位に放ち敵の位置を早急に把握しましょう」

 

桂花と稟は蜀軍の襲撃が間近に迫っていると考えていた、そしてそれは将達も同じだった

戦場から漂ってくる気配のようなものを敏感に感じ見えない敵の存在を確かに感じていたのだ

 

「松明を!」

 

桂花の命令に兵達は見づらい中陣中の各地に無数の松明を点ける

視界はまだ悪いものの松明のおかげで身近にいる人物の姿はわかるまでには改善された

その中で桂花と稟はこれからの敵の行動を各々考える

 

「ここに仕掛けてくるなんて自殺行為なものだってのはここを作ったあいつらが一番よくわかってるでしょうにね」

 

「とはいえこの霧です、乱戦に持ち込まれたらどういう自体になるかわかりませんよ」

 

「そうね、まぁそれが狙いって事なんでしょうけど、それにしてもこの霧

よくもこう都合よく出てきたもんだわ」

 

「まさか妖術で霧を生み出したなどとは思ってはいないでしょうね?」

 

桂花の疑問に稟が呆れた感じで返すと、図星を突かれたかのようにビクつく桂花

しかしすぐに平静を装い稟に反論する

 

「ま、まさか!そんな訳ないでしょ!どうせこの時期のこの時間に発生するとわかってただけでしょ」

 

「でしょうね、まぁ、それでもたいしたものですけど、天候を熟知しているとはいえ

こちらが攻勢をかける為に兵を分けてすぐにこの有様ですから、まるでこちらの動きが読まれてるかのような…」

 

そこまで言って稟ははたと言葉を詰まらせる

 

 

(読まれている?)

 

 

稟はこの戦場に来てから蜀との戦いを思い浮かべる、兵力差は二十万対四万の圧倒的な有利な状況で開始された戦い

しかし敵の新兵器や天候を熟知した戦いにより多くの被害を出し自身も苦渋を舐めた事

その後一刀の機転でようやく敵陣地を切り崩して蜀軍を撤退せしめた事

魏軍は敵に苦戦しながらも戦い勝利し、敵の陣地も奪う事にも成功している

だが何故か”有利”とは考えられないでいた、それがずっと引っかかってはいた

 

考えれば考えるほど稟の脳裏にある疑問が大きくなっていく

 

 

(上手くいきすぎている、まるで、こちらを操作しているかのような…)

 

 

その言葉、”操作”という言葉が出た時、稟の頭の中でもやもやしていたものの影が一瞬にして消え

戦場での全ての流れが繋がり始めていく、そして驚愕の表情で周りを見回す

今まで見た事もないような稟の挙動不審というくらいの狼狽ぶりに桂花が疑問を投げかける

 

「稟、どうしたのよ?」

 

桂花にかけられた声に稟は悔しそうに歯軋りをし、そして答える

 

「桂花、どうやら私達は完全に敵の術中に嵌ってしまったようです」

 

そして一呼吸置き

 

「それはおそらくこの戦場に着いた時から…」

 

「どういう事?」

 

稟が今まで見た事もないような表情で悔しがっている姿を見て尋常ならざる事が行われたと推測した桂花は稟に

問いかける、稟は深呼吸を何度かし、少し乱れた眼鏡を直した後蜀軍の策を自分なりに説明する

 

「おそらくですが蜀軍は最初から我らを、いえ、一刀殿をこの地に閉じ込めるために戦っていたのです」

 

「北郷を閉じ込める?」

 

稟の言葉に桂花は一瞬意味がわからなかった

だが稟の続く説明にようやく稟の言わんとする事の趣旨がわかってくる

 

「私達はこの陣地を見た瞬間に”ここは尋常ではない陣地”と認識してしまいました

そしてその後の蜀軍との戦い、圧倒するこちらの軍勢を蜀軍は寡兵で守りきりました

それはこの鉄壁の陣地のなせる業だと、ですがそれこそが孔明の罠だったのですよ

我らにこの陣地を使わせる事が蜀の、いえ孔明の策だったのです」

 

桂花は息を呑む

 

「この陣地は鉄壁すぎるのです、攻めるに難しい地であると中に入って見れば間違いなく思うでしょう

ならば当然私達は考えてしまう、最も安全だと思われるここに…」

 

 

「一刀殿を置くべきだ、と」

 

 

稟の推測に桂花は言葉を失ってしまう

 

「こちらが一刀殿を守る事を逆手に取られました、敵が戦線を後退させたなら追撃をしない訳にはいかない

兵の分断を誘いこちらの兵が最も少なくなった時に突撃を敢行するのが目的

成るほど、兵数の圧倒的な差など向こうは最初から考えてなかったという事ですね、最初から3対1

いえ、もし一刀殿によって敵の一翼を壊滅させていなければ2対1の兵力差での戦いを仕掛けるつもりだった」

 

ここを守る兵は七万、対する蜀軍の残存兵はおよそ二万、視界の見えない中での乱戦となれば

さらに唯一人北郷一刀を狙う為だけならば十分勝負になる戦力差

 

「この地を選ばせたのはここが敵にとって最小の兵力差で戦うのに尤も戦いやすい地であるっていう訳ね

そうか、この陣は大軍を着陣させるには狭すぎる、多くて三万が限界、それ以上は陣外で待機せざるをえない

陣に取り付かれれば…」

 

ちっと舌打ちをし、敵の意図が稟の言うものであるに違いないと桂花も同意する

だとすればすでに手遅れかもしれないと、しかし考えてても時間の無駄、桂花はすぐさま兵に命令をする

 

「すぐに全方位警戒を!北郷の周りに護衛の兵の増員を…」

 

桂花からの命令

 

 

「敵襲ーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

だがそれは敵襲を報を告げる兵士の報告によってかき消される

 

 

 

 

 

ジャーン ジャーン ジャーン

 

 

深い霧の中突如打ち鳴らされる銅鑼の音、そして攻撃を仕掛ける蜀軍の兵達の喊声が響きわたる

 

「きましたか!」

 

稟の言葉に桂花がすばやく反応する

 

「詳細を!敵はどこから?数は!すぐにそこの守りを固めて…」

 

しかしここで桂花の軍師としての勘が働く、”喊声の声が少ない”と

敵は残った全軍により一転突破?いや違う、この陣地が一転突破に向いていないというのは敵が一番わかっているはず

だとすればこの状況で尤も効果的な戦術は…、瞬間、桂花は敵の策を看破する

 

 

「いえ、兵は全方位警戒のままよ!敵はおそらく寡兵!冷静に対応して確実に仕留める様!」

 

 

声を張り上げ命令を下す桂花に兵達は将を中心に混乱を抑え対応していく

視界の悪い霧の中戦いによる喊声と悲鳴、剣戟による金属音が鳴り響く、

しかし将達は命令によって懸命に自分の持ち場を離れないように我慢していた

そしてしばらくの時間の後敵の詳細が報告される

 

「敵は右からですっ!将は顔良!兵はおよそ千!」

 

その報告に桂花は控えていた将達を見て

 

「沙和!すぐに向かって!いい、絶対に敵を防いで!他の皆はまだ待機よっ!」

 

「え?さ、沙和だけなの?」

 

「そうよ!いいから早く行きなさいっ!!」

 

「は、はいなのー!!」

 

ただ一人命令された沙和は慌てながらもすぐに顔良の下に向かう、桂花による命令はただそれだけだった

残された将達は自分達には命が下されなかった事を不思議に思い困惑する

そんな中春蘭は怒りを露にし、ツカツカと桂花に詰め寄り

 

「おい!敵が来ているのであろう!何故沙和だけを行かせるのだっ!

敵を殲滅するのであれば我々も行くべきであろう!」

 

その言葉に桂花は春蘭を制し冷静に答える

 

「心配しないで、春蘭達にも出番はすぐ来るから、いい、敵の作戦はおそらく残った兵力での

一転突破じゃない」

 

その言葉に春蘭達は怪訝な表情をする、一方桂花、稟は敵の策を看破し秋蘭も敵の策に気付き始める

しかしまだ理解できず不満な顔を露にしている将達に桂花は敵の意図を説明する

 

「敵はおそらく…」

 

 

「おそらくは少数による波状攻撃」

 

 

その言葉に春蘭達はようやく意味を察する

 

「少数による波状攻撃は視界の悪いこの状況においてはどこから敵がくるかという混乱も相まって

尤も有効な戦術であるともいえるのよ、だからこの後敵は主だった将を随時投入してくるはず

あんた達はそれに備えて待機しておいて!」

 

「敵はどこから来るかはわかりません、兵に警戒はさせますが全方位からくるとなると春蘭殿達には

この中央にて即座に対応できるように待機しておいていただきたいのです」

 

桂花、稟の言葉に春蘭達は今すぐ出撃したい衝動を抑え自分達が戦うべき相手が来るのを待つ事を決める

どのくらいの時間か、未だに敵を殲滅したという報告や顔良を討ったとの報告はない

春蘭達はもう敵はこないのではないのかとさえ思い始めたその絶妙な瞬間

 

ジャーン ジャーン ジャーン

 

新たな銅鑼の音が響き渡る、それは先ほど顔良が現れた方向とは違う場所、さらに蜀軍の新たな喊声が響き渡る

情報を集め敵が今度は左側より文醜が兵千で攻めかかってきてるとわかると桂花はすぐさま真桜を指名し

 

「真桜!すぐに向かって!」

 

「はいなー!」

 

残った面々に元気にいってくるの挨拶をした真桜は自分の武器を持って霧の中消えていく

 

その後は先ほどよりは短い間隔で次々と左右後方より響き渡る銅鑼の音と兵の喊声が聞こえてくる

混乱する魏の兵達を必死で規律を取り戻させ軍師と将達は冷静に対応し的確に兵と将を派遣し対応していく

 

「袁紹です!数はおよそ千!」

 

「公孫賛頼んだわよ!」

 

「任せておけ!麗羽、今日こそ決着をつけるぞ!」

 

普通っぽい言葉と共に白蓮が出撃する、さらに

 

「厳顔です!数は同じくおよそ千!」

 

「華雄!」

 

「任せておけ!」

 

勇ましく出撃していく漢らしい華雄さん

 

その後も次々と桂花の言ってた様に蜀軍の主だった将達が陣地に波状攻撃を仕掛けてくる

魏延には流琉、馬岱には凪、張飛には季衣、馬超には霞が向かう

兵数は各々千から千五百、ある隊は歩兵中心、ある隊は弓兵中心、そしてある隊は騎馬中心と役割分担が違い

対応する魏兵はまずそれに崩され敵を用意に陣に取り付かせてしまう、そうなるとあとは乱戦

魏軍は数が多く無闇に矢を放てば味方を殺してしまう可能性があったため射る訳にもいかず

ある場所では眼前にまで迫ってからようやく敵が判別でき取っ組み合いで殴りあって戦うという始末だった

 

「蜀の残存兵力のほぼ全軍がここに投入されてるという感じですね

ここまでこれたという事は第一陣、第二陣をすりぬけこの霧の中進軍してきたという事

まったく凄まじいものですね、ここまで周到に計画しているとは」

 

どれだけの練兵をしてきたのだと感嘆の声を上げる稟に桂花は

 

「そうね、これだけの兵力差なのにこちらが不利な状況に追い込まれている、けど敵の意図がわかった今

こちらに負ける要素はないわ!」

 

自信満々に答える桂花に稟は微笑む、守りに関しては魏で桂花に勝る者はいない

稟も敵の意図はわかっていた、蜀で残る名のある将は三人、黄忠、趙雲、関羽

そしておそらくこの中に劉備もいると

 

各地で戦いが行われる中新たな報告がなされる

 

「後方右側より敵襲です!敵は黄忠!兵数はおおよそ二千!」

 

兵の報告に桂花に指名される前に秋蘭が黄忠への対応の為準備をする

向かう途中秋蘭は桂花と稟に向かい

 

「桂花、稟、北郷の事を頼むぞ」

 

その言葉に二人は小さく頷く、それを確認した秋蘭は小さく微笑むと兵を率い黄忠を討つべく向かう

それからしばらくして新たな兵の報告により後方左側より趙雲が二千の兵を率い現れたの報告を受ける

 

武者震いと一人残された寂しさ(?)で幕舎の周りを何十周もしていた春蘭はようやく自分の番が来たと歓喜する

 

「よしよしよしよしっ!!やっときたか趙雲!待ちわびたぞ!

今度こそその首あげてくれるわ!おい桂花、稟!お前達は北郷が無茶をしないように見張ってるんだぞ!」

 

 

「「(春蘭がそれを言うか!!)」」

 

 

桂花と稟はつい口に出してしまいそうになるのを喉の所で必死に止める、言ってしまうと

春蘭とここで無駄に長々と言い合いになりそうなるからだ

そんな二人の苦悩を知る由もない春蘭は全力全開で趙雲の下へと向かって走りだだす

 

「これで十人、残るは…」

 

桂花の呟きに稟も頷く、おそらくはこの攻撃、蜀軍は関羽が本命

万人の敵【一人で一万人と戦えるほどの猛者】と呼ばれる関雲長

桃園の三姉妹劉備玄徳の妹にして天下無双の恋と唯一互角に戦える事のできる武人

もしも恋がいなかったら、そう考えると冷や汗のようなものが流れてくる

 

各方面で乱戦が続く中、ようやくにして霧が薄くなっていく

空の青さが見え始め兵士達にも安堵の想いが大きくなりつつあった、これで戦況もこちらに有利になる

 

そう思い始めた桂花、稟の下に兵が慌てた様子で駆けて来て報告をする

 

 

「後方より関の旗!関羽です!!数はおよそ三千!!!」

 

 

その報告についに来たかと手を強く握りしめる桂花と稟

最後にちょこんと傍に控えていた恋を見ると

 

「恋、関羽をお願い!あいつを止めれば私達の勝ち、でももし関羽を止められなかったらあいつは…

北郷はおしまいよ」

 

その言葉にピクンと反応する恋、手に力が入り方天画戟を握り締め威圧感のようなものを出し

まるで獣のような目で敵のいるであろう場所を確認する

 

「恋はご主人様を守る、誰にも殺させはしない!」

 

固い決意をした恋は関羽を討つべく霧の中へと消えていく

これで十一人、全て対応した、もはや蜀軍には戦力はあるまいと

後は敵の討ち漏れに気をつけつつ攻撃をしかけてきた蜀の兵士を殲滅すればこの戦いは終わる

長きに渡って繰り広げられてきた大陸の覇権をかけた戦いは終結し大陸制覇、魏王朝が新しく生まれるのだと

 

「勝ったわ…」

 

万感の思いでそう語る桂花、稟も敵の策を全て読みきったと考えてはいた

しかし何故か腑に落ちないでいた

 

 

(どう考えても一手足りない)

 

 

稟は一刀の命がけの戦いを見てから二度と一刀を戦場に立たせまいと誓い軍師として高みを目指すと決意していた

今までの稟であったなら桂花と同じくこの戦いは終わったものと考えていたかもしれない

だが、今までの敵とは違う戦い、そしてこの陣地へ自分達を着陣させ攻勢をかけてくる蜀軍をみて

諸葛亮孔明の策略はこんなものではないはずだと思うようになっていた

まだ何かあるのではないか?必死で考える稟、だがこれ以上の策が何も思い浮かばないでいた

 

 

その時二人に近づく人影、その人物が発した言葉は

 

 

「くあ~、なんか騒がしいな」

 

 

 

 

 

 

聞き覚えのある、しかし何かゆるい声がした方向に振り向く桂花と稟、

そこにいたのは魏国の王北郷一刀が欠伸をしながらきょろきょろと周りを見回してボケーっとしている姿だった

あまりにも緊張感のない自分達の王に一瞬呆然としたもののすぐに事態を把握した二人の軍師は慌てて

 

「な、ななななな何してるのよあんたわっ!」

「か、かかかかか一刀殿何をしておられるのですかっ!」

 

「え?いや何か寝てたら外が騒がしいから起きちゃって、ってか何だか霧が凄いな、どうしたのこれ?」

 

あまりにもとぼけた返答に桂花はもう呆れるやら怒るやらどうしていいかわからず頭を抱えてのた打ち回る

一方稟も突如の一刀の登場に混乱したもののすぐに気を落ち着かせ

 

「か、一刀殿、今ここは敵の最後の攻撃を受け危険な状況にあります、今は皆が敵の将を抑えてはいますが

いつ突破してここにくる者がいるやもしれません

一刀殿には戦いが終わるまで安全な所にいて頂けませんでしょうか?」

 

「何言ってんだよ、皆が戦っているのに俺だけが安全な所でのうのうとしてる訳にはいかないだろ

ここで桂花と稟と一緒に戦況を見守っているよ」

 

「一刀殿!」

 

「稟、心配してくれてありがと、でも大丈夫だよ、皆が戦ってくれているなら絶対に大丈夫だから」

 

自信満々に言う一刀に稟と桂花は言葉を失う、一刀は自分達を含め皆の事を心から信じているのだ

そんな一刀にはもう何を言っても無駄だと諦める稟、しかし一刀が悩まされ続けている頭痛の事を思い出し

 

「頭痛や痛みはもうないのですか?

もし無理をしているのであればすぐに戻って安静にしいていただきたいのですが」

 

うっすらと涙を溜め一刀を気遣う稟に一刀は微笑み

 

「大丈夫だよ稟、もう頭痛はないから、言っただろ、もう無茶はしない、皆を頼るって

だから嘘は言ってないよ、頭痛はもうないし、それに…」

 

 

「痛みはもう何も感じなくなってるから」

 

 

その言葉に稟は何か違和感のようなものを感じたものの優しく微笑む一刀、

顔色は良く晴れやかで少なくとも無理をしている感じを見出せなかった稟はその言葉を信じ安堵する

しかし各地で沸きおごる戦いの喧騒が聞こえてくると緊張感を取り戻し

再び軍師として勝利の為の方策を考える、そして先ほど感じた違和感を思い出し考え込む

 

「稟、何か考え事?」

 

一刀の問いについ戸惑ってしまったものの一刀に心配をかけまいとすぐに何もなかったように装い否定するものの

不審に思った一刀が稟をじっと見つめ続けると観念してさきほどから始まった蜀軍の波状攻撃を説明し

そして蜀軍の目的が一刀であった場合おそらくこれでは届かないといった自分の見解を話す

そして多分これは杞憂だと言おうとした時

 

「つまり稟は敵にはまだ何かしらの策があるんじゃないかと思ってるわけだね?」

 

「は…はい」

 

「桂花はどう思う?」

 

「あり得ないわね、稟は考えすぎなのよ、敵にはもう余剰戦力はないはずよ

仮にあったとしてもここでできる事はもうないはず

後は関羽と一緒にきているであろう劉備を討ち取れば戦いは終わりよ」

 

その言葉に一刀は首を傾げ、稟の感じていた疑問の意味も把握し

ポンと手を叩くと

 

「ああ、そういう事か」

 

何か納得したように笑みを浮かべる一刀、そして稟と桂花に

 

「二人とも劉備を甘く見すぎているよ、彼女はそんな生易しい王じゃないから」

 

相も変わらず劉備を高く評価している一刀に異議を唱えようとした桂花を稟が制止し

一刀の続く言葉を待つ

 

「稟が違和感を感じているのは蜀軍の攻撃がこのままじゃ俺まで届かないって疑問だったよね

多分それは正解だ、蜀の…、いや孔明の策がこれで終わるはずがない、そして劉備もね」

 

そして一呼吸置き

 

「深く考える必要はないんだよ」

 

二人を納得させるように言葉を続ける、じっと一刀を見つめ次の言葉を待っている桂花と稟

そして一刀は右手を上げまっすぐ蜀軍の陣地がある方向、つまり真正面を指差し

 

 

「王と王との戦いは真正面だ」

 

 

桂花と稟は一刀の指差した方向を見る、今だ霧がかかっているその方向に何があるのかと見る二人

しかし当然そこには霧とかすかに見える魏の兵士以外見えない

確かに蜀軍の波状攻撃は全て左右、そして後方からの攻撃だ、だがそれは正面には詠の第一陣、風の第二陣がいて

さらに桂花が編成した一万の魏兵が縦深陣を敷いて正面からの敵を防ぐ為に待機しており普通に考えて

蜀軍が正面から攻撃する事など不可能に近いと判断しているからである

 

もし敵が来るようであれば当然伝令がくるもののそれも未だにない

さらに蜀の主だった将は全て把握しておりもはや戦力となりえる将はいないとの分析であった

だが一刀が言うのであれば何かあるのではないかと思い問うてみる

 

「何か新兵器とか、呉の呂蒙のような隠れた人材が蜀にまだあるっていうの?」

 

「違うよ、言っただろ、王と王の戦いは真正面だって」

 

その言葉に桂花は一瞬考えるものの一刀の言わんとしている事に気付き

 

「まさかっ!劉備が真正面からくるって言うの!?」

 

「ああ」

 

「ありえないわよ!正面にどれだけの味方が布陣してると思っているのよ!詠の一陣風の二陣合わせて十万

それにこの第三陣の前方に布陣させてる一万の縦深陣はこの霧の中でも万の兵だって完璧に抑えきる自信はあるんだから!

それに敵兵が攻撃を仕掛けてきたら報告が来てすぐにわかるはずでしょっ!」

 

「軍勢はいらないんだよ、多分ね、だからこそ皆気付かないんじゃないかな」

 

一刀は何を言っているのだと怪訝に思う桂花、しかし稟はその言葉の意味を吟味する、そして

 

「!、まさかっ!」

 

稟が一刀の言わんとしている事に気付きすぐに兵に命令を下す

 

「すぐにこちらへ向かってくる全ての者を止めるよう指示を!伝令であろうと将であろうと全てです!

もし命令に反して止まらぬものがいれば誰であろうと殺してもかまいません!徹底させて下さい!」

 

稟の焦りにも似た命令にようやくにして桂花も気付く

 

霧がさらに晴れ始める、いつの間にか日は高く各地で戦っている将兵達の姿もはっきりと見え始めてくる

そんな中一刀達がみつめる前方で異変のようなものがあった

 

兵が混乱しているように見える、普段ならどんな事にも対応でき整然とした魏の精鋭が混乱しているのだ

兵士が何かを叫ぶ、その声は微かで一刀達には聞こえない、桂花が近くにいる兵に詳細を伝えるよう命令する

 

前方にいる魏兵の言葉を聴いたその兵はすぐさま一刀達の下に駆け寄ってくる

だが明らかに動揺の色を隠せないその兵士、息を切らせ身体を震わせながらも精一杯の大声で一刀達に伝える

 

 

 

 

「て、敵襲ですっ!」

 

 

 

 

さらに

 

 

 

 

「て、敵は桃色の髪!蜀の王劉備玄徳!」

 

 

 

 

続くその言葉に一刀に笑みがこぼれる

 

 

 

 

「敵は…、ただ一騎のみ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「劉備玄徳の一騎駆けですっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間霧に隠れた魏軍縦深陣から甲高い馬の嘶きが響き渡り兵の中を掻き分け

一騎の騎馬が現れる

 

その馬は美しい毛並みをし額に白い模様を有する馬、的盧と呼ばれ凶馬とも称される種類の馬である

だがその足は速く並の馬では追いつけぬ電光の速度を出せる名馬でもあった

その的盧を駆るのは桃色の髪をした美しい少女

文字通り雲霞の如き中を蜀の王と呼ばれたその少女はただ一騎のみで騒然としている魏兵達の中をすり抜け

ただひたすらまっすぐに魏の本陣、一刀の下へと向かってくる

 

愛馬的盧を翔ける蜀の王劉備玄徳こと桃香の目にはただ一人の人物しか映ってはいなかった

魏の覇王北郷一刀、ずっとずっと大切に想い続けていた人

 

 

「一刀さんっ!!!」

 

 

その誰もが現実離れした姿に言葉を失う

万の敵陣の中を切り裂きただ一騎で突破した人物、武に秀でた人物ではない

もしかしたら自らの手で人など殺した事のないかもしれない

武人ともいえないその人物、美しい桃色の髪をなびかせ、王者の風を吹かすその人物

魏の兵士達はまるで夢物語を見るかのように、仙女の如き美しさの桃香に目を奪われ立ちすくしてしまっていた

 

 

ただ一人を除いて

 

 

「ははははははははは♪」

 

 

まるで時間が止まったと思われる魏軍の本陣で大きな笑い声が突然沸き起こる

声を発したのは一刀、楽しげに大笑いする一刀は

 

「やっぱ凄いな劉備は、うん、流石だよ、あははははは♪」

 

さらに楽しそうに大笑いし劉備を語る一刀に桂花がようやく正気を取り戻し

 

「な、なに呑気に笑ってるのよあんたわっ!て、敵なのよ!」

 

「あはは、ご、ごめん、わかってるよ、でもあまりにも可笑しくてさ、いや~ほんと無茶苦茶だな劉備は♪」

 

涙を流しながら笑っていた一刀は息を整え

 

「で、どうするんだい?このまま劉備を好きにさせておくのかい軍師様達?」

 

一刀の言葉にはたと気付く桂花と稟はすぐさま兵達に命令をする

 

「な、何をしているのっ!早く劉備を討ち取りなさいっ!」

 

桂花の言葉にようやく我を取り戻す魏の兵士達、すぐさま弓兵を中心として劉備を討つべく動き出す

一方の桃香はまっすぐ、ただひたすらに一刀の元へと騎馬を翔ける、本陣に近づくにつれ劉備のその姿が

わかり始めてくる、そして成る程と理解した稟

 

「なるほど、魏の甲冑を着て霧の中を進んできたという訳ですか

確かに霧で視界の悪い中魏の甲冑を着てただ一騎となれば細作と勘違いし敵とは思いますまい、しかし…」

 

稟の推測は当たっていた、桃香は魏兵の格好をし霧の中敵陣をただ一騎で進んできた

どこから一騎できたのかはわからない、もしかしたらすでにこの近辺に隠れ続けていて機を見て突破してきたのかもしれない

だが確かにわかる事がある、劉備玄徳は確かにただ一騎のみで前方にいる万の魏兵を越えてきたのだ

 

 

桃香は的盧を操りながら朱里に言われた事を思い出していた

あまりにも無謀で無茶な作戦だと皆が非難する中桃香は朱里のこの策を良しとして採用した

朱里から桃香に与えた策はただ一つ

 

”魏兵の格好をしまっすぐ敵本陣に向かってください、もし敵兵が見えたら本陣へ急報とだけ発してください

桃香様が接敵した時にはすでに敵は勝ったと油断していると思います”

 

桃香は朱里の言葉を信じそして実行しここまで来る事ができた

本来なら魏兵の格好のまま本陣にまで近づくはずだった、しかし霧が晴れ始め、一刀の気配を感じた時

桃香は無意識のうちに魏の兜を脱ぎ捨てていた、まるで全てを曝け出す事が当然かのように

 

 

朱里の言った通りここの魏軍はすでに戦いは終わったものと油断していた

普段なら自軍とはいえ細作を調べるのが当然、さらに霧が深く視界の悪い中蜀軍による波状攻撃が続く中となると

緊張感を増しより一層防備と警戒も固まるものである

 

だが蜀の主だった武将、そして敵の本命とも言える関羽が攻撃してきた事に兵の中に緩みが生じてしまう

本命と目される関羽の攻撃を知りこの前方に守る魏の兵士達はこれでこちらにはもう

敵の戦力が投入されないと安心してしまう、そしてもう細作を止める必要はないと判断してしまった

桃香はその一瞬の隙を、万の敵の中をただ一人で突破してきたのだ

 

「ただ一騎の戦力が本命だったと言う事ですか、波状攻撃は全て囮、関羽でさえも…」

 

言うは優しい、しかし実際視界も碌に見えずその中を万の敵中をただ一騎で進む事など

まともな人間に出来る訳がない、それを武などとは程遠い華奢な少女がやってのけるなどあまりにも無謀

敵は今まで軍略と策を駆使し我が方を苦しませ戦ってきた

にも関わらず最後の最後で自分達の王劉備玄徳にまるで博打のような一騎駆け

正直このようなものは運まかせで策とは言えるような代物ではない

 

「敵はもし劉備が止められて討たれたらどうするとか考えなかったのでしょうか、

少しでも兵が疑念を抱いて劉備を止めていればその時点で蜀は終わりだというのに、何故こんな無謀な真似を…」

 

あまりにも判断ができない現実につい声高に出てしまった稟の言葉に

 

「劉備はそんな事考えてないよ、きっとな、きっと上手くいくって信じてやった事なんだよ

そして蜀の将達もまた劉備ならきっとやれるって心から信じて今も劉備の為に戦っていると思う」

 

「何故、わかるのですか?」

 

「劉備と俺は同じような人間だから…かな、そして蜀の将達も魏の皆と同じようだとね

劉備は仲間を信じてるんだよ、皆が自分の為に戦ってくれている

ならば自分は皆を守る為に戦わないといけないってね

もし俺が劉備の立場だったとしてもやっぱり同じような事をすると思うよ」

 

 

「だって、多分これだけが俺に届かせる事のできる唯一無二の一本の矢だからね」

 

 

その言葉に稟は言葉を失う、そして桃香を見つめる一刀の顔が大切な人を待ち望むかのような優しい顔に

なっている事に胸が締め付けられる想いになる

 

桂花の指揮の下魏の兵士達は桃香を討つべく包囲網を構築すべく動き出す

 

一方の桃香は息を切らし必死で振り落とされないように愛馬的盧の手綱を握り締める

見つめるはただ一人北郷一刀

 

 

「絶対に…、絶対に一刀さんをっ!…」

 

 

一方桃香のその姿を見つめる一刀、大陸を制覇する為の最大の障害、一刀はずっとそれを感じていた

もし自分を止められるものがいるとしたらそれは劉備玄徳しかいないと

 

 

 

 

”桃香、もっと急いだ方がいいぞ…”

 

 

 

 

一刀は慈愛に満ちた眼差しで桃香を見る

 

 

 

 

”でないと…”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

” 間に合わなくなるからな ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがきのようなもの

 

 

 

えーっと、お久しぶりです

 

なんというか相変わらずの駄文です

 

仕事やらリアルやら体を色々やっちゃったりとかでグダグダで・・・

何度も書こうとは思ったのですが

 

 

色々あって書けない→書こうとするも上手く書けない→諦める→もっかい書こうと思う→上手く書けない→諦める

 

 

なんかこんなのの繰り返しで正直書くのを諦めてたんですが、やっぱ完結はさせたいなと、

仕事もちょい落ち着いたので久々に書いた次第です

 

 

ほんとまさか前の話から一年以上もかかるとは自分でも思ってなかったです(汗

 

 

残り二話、なんとか完結目指します

 

また時間はかかるかもしれませんが・・・

 

 

kaz

 


 
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