No.612989

県令一刀と猫耳軍師 第7話

黒天さん

今回は虎牢関攻めです。

今回も霞さんの出番が多め、かな?

2013-08-27 07:19:16 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:10838   閲覧ユーザー数:8152

これでできることはすべてやった。忍者隊の者には、ずっと虎牢関に向けてモールス信号を送り続けてもらっている。

 

そろそろ夜の3時も過ぎたころか、不安からか眠りが浅く、起きだしてきてしまった。

 

夜明けとともに突撃をかけるなら、もう起きてもいい頃か。

 

「ほ、報告します!!」

 

俺の寝ている天幕の前から、慌てふためいた声が飛び込んでくる。

 

「どうした?」

 

えらく慌てた様子に気づいて飛び出すと、そこには息を切らしてぼろぼろの、董卓軍の軍装の男……。

 

こいつ、忍者隊の男だ。自分で育てたのだ、ちゃんと顔は覚えている。

 

「こ、これを!」

 

渡されたのは一枚の紙切れ、それには董卓軍の陣形、将の配置まで細かく書き込まれている。

 

裏にも何か、走り書きで書かれているのが見て取れる。

 

「これは……。おい」

 

近くにいる兵に頼み、荀彧と朱里、それに華雄を起こしてきてもらう。

 

「どうしたのよこんな夜中に。出陣にはまだ早すぎるわよ……?」

 

「あぅ……、眠いです……」

 

軍師2人は目をこすりながら現れる。

 

「これを見てくれ」

 

荀彧と朱里にそれを見せれば目を見開き、どこからこんな、とでも言いたそうな視線を投げかけてくる。

 

裏の文字は……

 

『事実の証明としてうちの真名を北郷に預ける。張遼文遠/霞』

 

「間違いない、張遼の字だ。霞はあいつの真名だ」

 

「虎牢関から走ってきて疲れてる所すまない、張遼と話した事を教えてもらえる?」

 

忍者隊の男の話す事を、頭に叩き込むように荀彧と朱里が聞き入る、もう眠気などどこかに吹き飛んでしまったかのようだ。

 

「これが事実であれば、この戦力差でも策が立てられます」

「相手が鋒矢の陣を用いてくるなら、横に回り込めば勝ちが見えるわ。もしくは、厚い陣をひいて後方を遊兵にしてしまうか。それで張遼の位置がここで、呂布の位置がここなら……」

 

荀彧はその図を見ながら、地面にさらさらと図形を書いていく。それを見ていれば、虎牢関から出てくる敵軍の動きが描き出されてくる。

 

「鋒矢の陣は包囲されるととてももろいですけど、こちらの兵は15000、

 

対して相手は25000と呂布さんと張遼さん……。包囲するには不安が残りますねー……。

 

包囲を狙うのであれば鶴翼の陣が一番適していますけど……」

 

「張遼には私が当たる、呂布には、関羽と張飛の二人がかりで当たればいい」

 

「ちょっと! 投降してきた将をいきなり戦場に出すなんてありえないわよ!」

 

「いや、俺は華雄を信用する。俺の責任で華雄にも兵を任せるよ。それに、適役が居ないんだ、曹操や孫権のところから将を借りてくるわけにはいかないだろ?

 

さすがに、呂布相手に単独で向かうのは自殺行為だとおもうしね」

 

「愛紗さんにまた怒られますよぅ……?」

 

朱里の言葉に苦笑する。それでも俺は華雄を信用したかった。

 

「おそらく、だが……」

 

華雄が、荀彧の描いた図に線を書き加える。

 

「呂布と張遼のクセからいって、おそらくこういう動き方をするはずだ。

 

この先で待ち構えていれば一騎打ちに持ち込めるだろう。

 

将を捕らえれば、あとはどうにでもなるはずだろう?」

 

「では、方形陣を敷いて突撃を耐えながら、一騎打ちで張遼さんと呂布さんをおさえた後に、鶴翼の陣に切り替えて、一気に包囲殲滅を狙う、という流れで良いでしょうか?」

 

「そうね、おそらくそれが一番打倒な線だわ。華雄は張遼を相手に一騎打ちでの勝算はあるのかしら?」

 

「ある」

 

きっぱりとそう言い切る。その目には自信が見て取れた。

 

「じゃあ、任せるわ。任せる兵は……供出してもらった兵を任せるわけにはいかないから、華雄が率いていた隊の投降者と、こちらの軍からも一部まかせましょう。

 

夜明けまでもうすぐね、そろそろ関羽達も起きだしてくるでしょうし、準備を始めましょう」

 

 

そして夜が開け、空が白み始めた頃、俺たちは行動を開始する。

 

「むー、卑怯な奴らなのだ。ほら見てー。袁紹の兵隊が鈴々達に向かって弓を構えているのだ」

 

「情けない。武人の風上にもおけん奴らだ」

 

「……今は我慢です。けどご主人様がもっともっと大きくなって強くなったときは、あんな人達なんてケチョンケチョンにしてあげます」

 

「良く言った、朱里! まさにそうだ。その時は遠慮などせず、蹴散らしてやろう!」

 

それぞれに袁紹の恨み事をいいながらも、足早に軍をすすめていく。虎牢関がかなり近くに見え始めたころ、城門が開き、敵軍が討って出てくる。

 

陣形は、昨夜の紙にかかれていたとおり、鋒矢の陣のように見える。

 

「全軍、迎撃用意!」

 

よく通る愛紗の声が前方から聞こえてくる。呂布とは絶対に1人であたらず、鈴々とペアで戦えとしっかり言い含めてある。

 

正面で軍が激突し、その一部が陣形の隙から後方に流れて、駆け抜けてくる。早い!

 

それは一気に本陣まで駆け抜けてきた。その部隊を、横合いから華雄の隊が邪魔をするように立ちふさがるのが見える。

 

「ちっ、もうちょいでええとこまでいけたのになぁ、あんたが相手か、華雄!」

 

声が聞こえるほどの目前。将と思しき女性の姿が見える。

 

「ふん、一度貴様とは本気で戦ってみたかったところだ」

 

「そっちの兄ちゃんが大将で両側の可愛い子が軍師かいな、戦場に出てきとるんや、あんたもこっちきてウチと勝負せんかい! 華雄と2人まとめて相手したる。

 

あんたら、ウチの楽しみ邪魔しよったら殺すで。さぁ、勝負と行こうやないか」

 

張遼は自身の隊の兵を片手で制止しながら俺と華雄に向き直る。

 

張遼の言葉に華雄が頷く、どうも何か考えがあるらしい。ゆっくりと、剣を抜いて華雄に並ぶ。

「ふん、……ちゃうな、北郷、あんたのエモノはそれやないやろ?」

 

張遼が偃月刀を一振りすると、俺の持っていた剣が弾き飛ばされる。

 

「その気配のせん足運び、それから下手くそな剣の構え、あんた暗器使いやな? それも投げ物が得意やろ。かまへん、あんたのやり方で勝負せえ。さあ、纏めてかかってこいや!」

 

「イヤアアア!!」

 

華雄が怒号とともに、足元から切り上げるような一撃を放つ、張遼はそれを受け流し、上段からの切り降ろしを華雄に見まう。

 

俺は気配を殺し、ゆっくりと2人の周囲を回るように、張遼の死角へと移動しようとする。

 

張遼の真横に回った所で一度立ち止まり……。

 

華雄が続いて横薙ぎに斧を振り回し、それを受け止める瞬間を狙って張遼の左腕を狙って羅漢銭を投擲する。

 

羅漢銭は狙い通りの場所に当たりこそしなかったものの、張遼の右腕に小さな切り傷を作り、受け流す力を甘くする。

 

「っ! 投げ銭かいな! また粋なシロモノ使うやないか。しかも気配の消し方、めっちゃうまいな……。こっちは華雄から目ぇ離されへん言うのに」

 

「無駄口を叩いている暇はないぞ! 張遼!」

 

華雄が再度、横薙ぎに戦斧を振り回す。それを受け流し、後方にとんだ張遼の片手が俺の襟首に伸びてくる。そして思い切り引っ張られ。

 

「はは、取ったでぇ? さぁ、どないする、華雄! あんたの新しい主はウチの手の中や」

 

「ふん、それで勝った気か? 張遼!」

 

片手で俺の首を抱えながら、偃月刀を突きつけてくる。荀彧と朱里が真っ青な顔をしてこちらを見ているのが見える……。

 

どうやら華雄と張遼はにらみ合いの様相で、動きがない。

「ええか、いっぺんしか言わんからよぉ聞き」

 

張遼が耳元で小声で話しはじめる。

 

「虎牢関の正門の、向かって左側はウチが細工しとる。丸太で小突いたったらすぐに壊れよるで。残念ながらウチの隊にも宦官の息のかかった奴がおってな、大きい声では喋られへん。

 

華雄があんたの味方しとるっちゅうことは、昨日アイツが言うたんはほんまなんやろ?」

 

「ああ、董卓は助けるよ。霞」

 

こちらも張遼にならい、小声で返事を返す。

 

「ちゃんと手紙は届いとったみたいやな。董卓ちゃんがおる場所はあとで教える、

 

今から一芝居打つで。多分華雄にもわかっとる。あんた暗器使いやったら小刀ぐらい持っとるやろ、それでウチを刺すんや。ええな?

 

あと、これはウチのわがままやけど、投降した兵は殺さんといたって」

 

そこまでいうと、華雄の方をキッと睨みつけ、張遼が声を張り上げる。

 

「はん、華雄、あんたもこーんな男に寝返るなんてな? しょうもない、ええわ、今からこの首はねたる。あんたはそこの特等席で眺めとり!」

 

張遼の手が動く、それを見てからその青竜刀を持つ右手に向かって、小刀を振り上げる。

 

「っ!? あぶなぁ!?」

 

それを慌てた様子で避ける張遼、その腕からは血が流れる。手応えからして深くは入っていないハズだが……。

 

「どこを見ている! 張遼───!!!」

 

「やば……!」

 

華雄が叫びとともに、その青竜刀に斧の一撃を食らわせようとおどりかかる。

 

張遼は俺を突き飛ばし、戦斧を受けようとするが受けきれずに弾き飛ばされ、その弾き飛ばされた青竜刀は少し離れた地面へと突き刺さった。

 

「しもた……。油断したで……」

 

「勝負あったな、張遼」

 

「降参や。しゃーない、煮るなり焼くなり好きにせぇ!」

 

諦めた、とでもいうようにどっかりと地面にあぐらをかいて座り、腕を組む。

 

「貴様らはどうする、まだやるか?」

 

こちらの陣地深くに切り込み、張遼を失って孤立した兵達に華雄がすごむと、兵達は慌てて武器を捨てて投降を宣言した。

 

「呂布だ! 呂布が出たぞー!」

 

「……つまらない」

 

呂布がエモノの方天画戟を一振りするたびに、兵士が吹き飛び、その意識を刈り取られていく。

 

「貴様が呂布か!」

 

「……誰だ?」

 

「我が名は関羽! 幽州の大徳が一の家臣! 悪を砕く青龍偃月刀とは私のことだ!」

 

「……おまえが関羽」

 

「鈴々は張飛なのだ!」

 

戦闘が始まってしばらく、呂布と愛紗、鈴々の2人が衝突する。

 

「これ以上、兵を傷つけさせるワケにはいかん。私と尋常に立ち会え!」

 

「……分かった。まとめて来い」

 

「舐めるなあああ!」

 

愛紗が流れるような動きで続けて2撃。

 

「……ふんっ」

 

呂布はそれをいとも簡単に受け流し、押し返す。

 

「とりゃ───っ!!」

 

続く鈴々の一撃を受け止め、すぐさま反撃の一撃を繰り出す。

 

(スキ……? あの噂に聞く呂布に限ってこの程度で? まさか……)

 

「うりゃああああ──!!」

 

続けて強烈な突きの一撃を放つが、呂布が振り回す方天画戟に簡単に迎撃される。

 

「うりゃりゃりゃりゃ──っ!!」

 

「……うるさい」

 

続けて鈴々が2撃、打ち込んだその攻撃を返したところでやはり愛紗にはスキが見えた。

 

「そこ!」

 

思い切りよくそこに突きを放てば、その一撃は呂布の腕にかすり、小さな手傷を負わせる。

 

「っ……。それでいい、続けろ」

 

(やはり芝居、というわけか……! 手心を加えてこれか!)

 

愛紗も鈴々も、呂布に張遼が話を通したという事は知っている。だからこそ罠にも見えるその小さなスキをついてみようと思ったのだ。

 

「ちっ……。鈴々、動きを合わせろ!」

 

「おうなのだ!」

 

2人が続け様に攻撃を放ち、最初に攻撃したほうが呂布のスキをつき、呂布の体に傷を作る。

 

手傷は1つ、2つと増え、徐々に呂布の動きが鈍くなっていく。これさえ演技だとすれば、本当に恐ろしい。

 

「……次で決める」

 

次で決めろ、ということなのだろうか。愛紗に向けて呂布が強烈な一撃を見舞う。それをどうにかうけとめれば、呂布に大きなスキができる。

 

鈴々がそれを逃すハズもなく……。

 

「うりゃりゃりゃりゃ──!!」

 

その首に蛇矛の石突きによる一撃を食らわせ、その意識を刈り取った。

 

「全く、ご主人様も呂布を相手に殺すななどと、無茶を言う」

 

「敵将呂布、鈴々が討ち取ったり~~! なのだ!」

 

呂布と張遼の2人が戦えなくなればあとは早い、手はず通りに鶴翼の陣を取り、一気に包囲しにかかる。

 

敵が後退を始め、虎牢関へと戻った後は、張遼から受け取った情報通りに丸太を使って虎牢関の左の扉を数回突けば、その扉はいとも簡単に壊れ、道を開く。

 

虎牢関が制圧されるのも時間の問題だ。

 

孫権にしても曹操にしても、まさか本当に呂布と張遼を俺たちが打ち取ると思っていなかったようで、敵陣が崩れた後に大慌てで前進してきている。

 

 

「ご主人様!」

 

制圧作業がようやく落ち着いた頃、朱里が俺に思い切り抱きついてきた。

 

「お、おい!?」

 

「本当に、本当に殺されちゃうかとおもって心配したんですからね!? もうあんな無茶しないでください!」

 

張遼と華雄の一騎打ちに参加した時の事を言っているんだろう。ここまで軍の指揮があるために、ずっと抑えていたのだろう。ぼろぼろと涙がこぼれている。

 

「ふん、あそこで死んでればよかったのに」

 

「荀彧ちゃん! うぅ、荀彧ちゃんだって真っ青になって、どうしよう、どうしようって私より慌ててたじゃないですかぁ……」

 

「そ、そそ、そんなことないわよ! デタラメ言わないでくれる!?」

 

荀彧が必死に否定するが、思い切り態度に出ちゃってるし。

 

「二人共ありがと。ごめんな、心配かけて」

 

朱里の頭を撫でながら、荀彧の頭もなでたかったが、微妙に距離を取られていて手が届かず、それはかなわなかった。

 

虎牢関を出発して2日ほど経過し、ようやく落ち着きを取り戻した連合軍は、決戦前の大休止を取ることとなった。

 

「はぁ、やーっと落ち着けるわ」

 

張遼が、俺たちの前で大きく伸びをする。

 

「それで、張遼、落ち着いた所でさ、洛陽のことを聞きたいんだけど」

 

「ん、んん……。霞ってよんでもええんやで?」

 

「いや、いいのか?」

 

「かまへんかまへん、あの手紙で書いた通り、あんたに預ける」

 

「じゃあ霞、頼むよ」

 

俺が真名で呼ぶと満足そうに笑ったあとに、地面に絵を書き始める。大雑把な洛陽の地図だろうか

 

「まず、洛陽にはもうほとんど軍はおらん、おるんは宦官共の私兵ばっかりや。あとよーわからん白いんがおるけど、そないよーけはおらん。物見は出したんか?」

 

「はい。でもまだ帰ってきてないんです……」

 

「せやろな、賈詡っちはその手のことは得意やし、宦官共の兵か、白いんをつこーて全部遮断してしもとるんやろ。でまぁ、これが大雑把な地図やねんけど。

 

多分董卓ちゃんの両親はもう洛陽にはおらへん」

 

張遼が大きくため息をつく。

 

「そうでしょうね、もし洛陽にいたなら、その賈詡さんが探しだして、張遼さんや華雄さんが助けに向かうことも出来たでしょうし……」

 

「で、助けるんは董卓ちゃんと賈詡っちに絞る。それも急がなあかん」

 

「どうしてなのだ?」

 

「ん、多分だけど、宦官達は董卓の首を差し出して、保身に走ろうとすると思う、それでだよな?」

 

「そや、そうしてくる可能性が高い。せやから急いで助けにいかなあかんとおもうねん。多分董卓ちゃんと賈詡っちがおるのはこのへん。

 

助けたら取り敢えず隠す場所はここがええやろ。このへんに呂布の家があるねん、案内してもらい。呂布ちんも手伝いしてくれるはずや」

 

「ということは、突入前に潜入した方がいいのかな?」

 

「そやな、あんたが脚を刺さへんかったお陰でウチも動けるし、ウチと……。あんたが来てくれたら心強いんやけどな?」

 

霞が俺の方を見る。

 

「華雄も呂布ちんも潜入には向かん、関羽も張飛もそうやろ? そうかいうて、軍師の2人にまかすわけにもいかんし……。あんたが一番適任なんや」

 

「なっ」

 

「あんたのご主人様はウチがしっかり守る。宦官の私兵共にも白いおかしい奴らにも指一本触れさせん、せやからたのむわ。ちょっとの間、貸してくれへんか?」

 

何か言いたげだった愛紗も、張遼が深々と頭を下げてそう頼むと、もごもごと言いよどんでしまう。

 

「わかった、行くよ」

 

それから数時間後……。大休止を終えた連合軍は、洛陽に向けて進軍を開始した。

 

 

あとがき

 

虎牢関での戦いも終わり、次回いよいよ洛陽で董卓さんと賈詡さんが登場予定です。

 

張遼さんが北郷軍にはいってしまったので華琳さんのところがさらにかわいそうな事に……?

 

そういえば、司馬懿って無印以外の他の作品でも出てないみたいですね。

 

司馬懿さん、もしかしたらオリジナルで出すかもしれません。

 

史実ではさんざんやりあってるし、朱里とは仲の悪いキャラになるかなぁ……?

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。


 
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