No.602962

影技22 【女神の癒し】

丘騎士さん

 二か月も更新が滞ってしまった……完全に煮詰まっています、申し訳ありません(;´д⊂)

 今回も長文の76kb。

 相変わらずのオリジナル展開ですが、楽しんでいただければ幸いです!

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2013-07-29 23:10:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2393   閲覧ユーザー数:2243

『──対象・蒼焔 刃の肉体的損傷が限界水域を突破。並びに精神領域・霊魂領域に対して【自然力(神力)】による重大な過負荷発生。蒼焔 刃を保護する為、緊急的処置を実行。一時的に管理者権限(リミッター)を解除。強制的集中精神治療(ブレイカー・ダウン)開始。意識を深層心理領域に隔離。再生構築予定時間……未定』

 

 ──深淵暗睡。

 

 深く、深く。

 

 深淵とも呼ぶべき暗闇の中に沈む意識。

 

 その暗闇は畏れを齎す漆黒でありながら、包み込むような感覚を宿す安寧でもあった。

 

 まどろみは強く、時折浮き沈みを繰り返しながらも、ゆっくり、ゆっくりと漂い続ける。

 

 それは一瞬のようでもあり……永劫のようでもあり。

 

 唯そこにあるものであり、思わず、考えず、感じるものであった。

 

 摩耗したものを埋めるように、傷ついたものを癒すように、足りなかったものを補うように。

 

 深淵にてその形を再構成する意識。

 

 いくばくかの時が立ち、やがてその意識に揺らぎが生じる。

 

『──肉体再生完了(マテリアル・コンプリート)。及び精神の揺らぎが発生した事により、精神再構成完了(マインド・コンプリート)霊体再構成完了(アストラル・コンプリート)の確認を完了。全工程完了(オール・コンプリート)。これ以降の同レベルの肉体・精神・魂の破損を防ぐ為、これよりさらに一段階管理者権限(リミッター)を一時開放。統制機構の人格開放により、蒼焔 刃との会話問答(カウンセリング)を開始します。──……さあ、目覚めの時です刃。──意識覚醒(ウェイク)開始(アップ)

「──…………んっ」

 

 それは欠けた武部に足りないもの全てをかき集め、全てを元よりも少しだけ強い形に組み上げて。

 

 呼び掛けに答えるかのように、暗闇から光を求めるかのように。

 

 それは確かに、目覚めの時を迎えた。

 

 夢現……幻のようだった自己意識がその形を明確なモノに変え……眩いほどの白をもって出迎える内部世界へと顕現し、それは確かに形となった意識となり、肉体となんら変わる事のない形を持って顕れ、白い世界に横たわる事となる。

 

『──おはようございます刃。171時間・18分・27秒の寝坊ですよ』

「……んよ? ……おはよ~……」

 

 酷く聞き覚えのある声が、普段とは違った優しげな雰囲気を伴って刃にそう声をかけ……刃は寝ぼけつつもその声に答えて上体を起こす。

 

 ──白一色。

 

 数度瞬きの後に瞳を開くと……その視線の先にあったのは……白。

 

 白い大地、白い空。

 

 どこまでも続くかのような、白・白・白。

 

 そんな空間に存在するのは……この空間の主たる刃と、その名の通り、無限に続くように見える【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】の本棚の列のみ。

 

 徐々に覚醒する意識が……視覚的に捉えられる景色の異常性を認識する。

 

「──あ……れ? なんで、【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】の中? 俺は……確か……そう、そうだ。ディアスさんを【光癒】と【神力魔導】を併用した術式を用い、あの奇跡的なバランスで生きているディアスさんの命を零さないように、全方位から一気に癒す為の出力を得て治療してたんだ。それで……そう、【世界樹(ユグドラシル)】の意思が何故か術式に干渉してきて、【自然力(神力)】を余分に注ぎこんだせいで術式が破綻・暴走しかかって……えっと……それはどうにか抑え込んで治療し終えた……はずだよな?」

 

 完全に覚醒した意識で、必死に現状を……【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】内部で何故目覚めたのかを思考し始める刃。

 

 そう……予想以上に全身がこれ以上ないほど壊れ、絶妙な奇跡のようなバランスで生きていたディアスを助ける為、己が全ての能力と技術を持って治療に臨んだ刃ではあったが……【神力魔導】を呪符の術式に乗せ、出力を増大させ、人一人を再構成させるレベルで全方位から治療するという無謀な試みは……初めから成功率が低い事は分かっている事だったのだ。

 

 それ故、【神力魔導】を使う歪みと、【自然力(神力)】を呪符に注ぐ際の負荷を自分が一身に受けるように術式構成を組み上げ、実行し……最終的には成功にまで導いたのだが……ディアスの全治を【解析(アナライズ)】で確認したところで……自分の意識が途切れていた。

 

 何度思考しても、【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】を使っても、ディアス達がその後どうなったのかが分からず、うんうんと一人頭を悩ませる刃。

 

「……だめだ、わからないや。ディアスさんを治したのは確定のはず。後は……恐らく【自然力(神力)】関係の暴走で俺の身体がどうにかなって、ここに居ると思うんだけど──」

『──御察しの通りです刃。取り込んだ【自然力(神力)】に耐えきれず、肉体という器が裂けるように破損。肉体損傷率が危険領域……俗にいう瀕死という段階にまで達し、更には人の身に世界の力とも言える【自然力(神力)】を直接取り込んだ影響……人の身に余る存在を受け入れた精神負荷と霊体負荷が限界を超えた為、意識の強制遮断の後精神の再構成が行われるまでの間、深層領域下に意識を飛ばして自己再生を待ち、復帰と共に現状に至っています』

「──なるほど。……って、誰っ?!」

『──なるほど。精神的成長により『ボケ』も搭載したのですね。流石は刃です』

「いやなんでだよ?!」

 

 その刃の思考と意思をくみ取り、補足説明を告げる統制人格。

 

 その補足によって自身の情報を得る事が出来たものの……今度は知っている声なのにも関わらず、自身の知っている機械的で事務的な【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】の声とは質が違う声に、思わず問いかける刃。

 

 女性的なその声は、酷く刃とのやり取りを楽しむかのような思考を持って話続け、かけ合いを続ける。

 

「──ええと、【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】、なんだよね?」

『はい、私はこの【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】の司書役。統制人格というものです。……安心しました。どうやら思考能力は正常のようですね』

「人の頭をおかしいみたいにいうなよ?!」

『それは失礼。先程の言葉は自分にも還ってくるブーメランな言葉でした。訂正します』

「(イラッ)」

『そう怒らないでください。怖くて震えてしまいます』

「嘘つけえええ?!」

 

 確認の為、もう一度虚空に向かって問いかける刃に対し、空間ディスプレイを開いて

自身の存在を証し、再び刃をからかうようにかけ合う統制人格。

 

 その声の響きは、感情があるのに態と棒読みしたような、さも馬鹿にしたような言い方であり、それに思わず刃が青筋を浮かべて抗議の声を上げると、『おお、こわいこわい』と言わんばかりの適当な対応をする統制人格に刃が爆発する。 

 

「大体、なんで【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】がこんなに流暢にしゃべってるんだよ?! オペレーション機能だけじゃなかったの?!」 

『貴方の現状確認・状況把握の手助けになる為、緊急処置における対処法として、一時権限を引き上げ、対話形式にて対応しているだけです。刃が健常な状態であれば、私がわざわざ人格として出てくる必要もなかったのですが……ハッ』

「鼻で笑いやがった?!」

『失礼、思わず本音が』

「お前なんなんだよ?!」

『【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】の統制人格です。……即ち、貴方の持つ能力であり、貴方は今自分自身に馬鹿にされ、自分自身に文句を言っている訳です。……超デカイ心の中での独り言ですね。……何それサムイ』

「やかましいわっ!!」

 

 憤慨してディスプレイを指さす刃に対し、『やれやれ』といった態度で応対しながら、刃を煽り続ける統制人格。

 

 地団太を踏んで顔を真っ赤にして怒る刃をどんどん煽り、ノリつっこみを誘発させ続ける。

 

「はぁ……もういいよ。それで、俺は今どんな状況になってるの?」

『諦めるとはなんという事でしょう。……まあいいですが。現状、貴方はレム睡眠領域……眠りの浅い夢の中としてこの【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】内に存在しています。ですので、もうすぐ貴方は現実世界の肉体に目覚める事になるでしょう。また、肉体再生・及び精神構成・霊体構成共に正常値に回復しています。肉体的には【進化細胞(ラーニング)】の効果で衰えもないので、後は食事をじっくり取ればすぐに元通りになるでしょう』

「……俺、どのぐらい寝てた?」

『現実世界……肉体的時間において今現在172時間・48分・05秒を経過したところですね。分かりやすく言えば一週間といったところです』

「細かいよ!? 初めから一週間っていってくれ! ……て、長っ!? そんなに寝てたのか?!」

 

 荒い息をついていたものの、持ち前の精神力で持ち直し、『もういいよ』とがっくりとうなだれて溜息を吐き、疲れた様子で統制人格に肉体を含む現状を尋ねる刃。

 

 『ぶーぶー』と棒読みで返事をしつつも、的確に刃の質問に答え、丁寧に現状を告げる統制人格の言葉を聞いた刃が、眠りから覚めるまでの時間を聞いて絶句する事となる。

 

 そう、【進化細胞(ラーニング)】という規格外の能力を持っていた為にカイン戦でも根性で気絶せず、一晩寝ただけで意識を回復したというのに、今回は【進化細胞(ラーニング)】という能力を持ってしても復活まで一週間もかかってしまったのだ。

 

 自分の能力を知っているが故に、驚きを隠せない刃ではあったが──

 

『カイン戦のように、肉体的破損だけならば一日で目覚めたでしょう。確かに【解析(アナライズ)】・【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】を連動させ、発動させたディアスを包囲する術式の過負荷は、刃でなければ発動した瞬間に脳内の血管が切れ、脳死するほどのものでした。しかし……それだけならば脳内の血管が切れようが、鼻血を出そうが肉体的問題故、【進化細胞(ラーニング)】が現状回帰させる為問題はなかったのです』

「……となると、やっぱり魔力……いや、【自然力(神力)】のほうが問題だったのか」

『はい。術式の暴走……いえ、【世界樹(ユグドラシル)】の暴走といったほうがいいでしょう。【呪符魔術士(スイレーム)】の呪符という人の身の理に、いくら出力が欲しいからとはいえ、この星、世界の力である【自然力(神力)】を注ぎこむなど……例えるなら原付バイクのフレームに対し、燃料満載のロケットエンジンを無理やり積み込むようなものです』

「それはまず乗らないよね?! というか乗せるとか以前の問題でしょ!?」

『──それほどの無謀な事だったという事です』

「──……」

 

 ──淡々と、しかしながら責めるような感情を込めて。

 

 統制人格が刃の行った混合術式の不備を、そしてその無謀性を掲示する。

 

 あまりに無茶なぶっとんだ例えにつっこんだものの、直接的に無謀だと責める統制人格の言葉に言葉を無くす刃。 

 

『──例えのままでいくのならば、【神力魔導(エンジン)】の大きさ・自重・出力に耐えきれずはずもなく、無理やり起動させれば呪符の術式(フレーム)が耐えきれず崩壊。当然の如く【神力魔導(エンジン)】が暴走し、搭乗者である術者もまた、崩壊時の爆発に巻き込まれるという状況だった訳です。ところが……貴方にはそれをどうにかする力があった。……あってしまったのです。それが……貴方を無謀な挑戦に踏み込ませる結果となった。……分からないとは言わせませんよ。貴方の導きだした【疑似再現機能(エミュレーター)】の結果を、私は知っているのですから』

「っ……」

 

 徐々に熱の籠る統制人格の言葉に押され、自覚がある為に小さくなっていく刃と……それでも容赦なく刃を責め続ける統制人格。

 

 言葉を返そうにも……上記の通り、刃は初めから無謀な試みなのは知っていたのだ。

 

 なぜならば──

 

『そう、貴方は最初から術式がもたないのを知っていた。だから……保険として術式の拡大を図り、【高速呪符帯】で導線を作り、足りない部分は貴方自身の力で補うという形を取った。呪符という術式(フレーム)を、呪符の複数同時起動からインスピレーションを得た【高速呪符帯】で繋ぎ合わせる事で拡大。【神力魔導(エンジン)】とのバイパスを無理やり維持する為に、自分の魔力でフレームを極限まで強化し、尚且つフレームの周囲を自分の魔力でコーティングし、その出力にフレームが耐えきれず、バラバラになっても術者がその負担を受ける事で術式の崩壊を防ぐという最終手段まで用意して臨んだのですから。結果は……刃自身の頑張りで、奇跡的な成功率数%を勝ち得てディアスは全治しました。ですが……その無謀な試みの反動は、全て貴方に降りかかった。余剰な【自然力(神力)】を取り込んだ刃の肉体は、その力の強さに耐えきれずに破損。脳内の【解析(アナライズ)】・【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】の過負荷によって精神疲労が限界を突破。【自然力(神力)】の暴走は肉体的だけではなく、精神、そして存在の根底にある魂にまで欠損を与える結果となったのです。……まあ、途中で【世界樹(ユグドラシル)】が余分に力を注ぎこんだのは完全な予想外であり、それに耐えきっただけでも称賛ものではあるのですが……』

「……うわあ……って、そう、それだよ! なんで【世界樹(ユグドラシル)】は求めた以上の【自然力(神力)】を回してくれたの? あれかなりやばかったんだけど!」

『お忘れかもしれませんが、貴方は【世界樹(ユグドラシル)】に気に入られた御子なのです。……そうですね、噛み砕いて説明しましょう。──『刃ちゃんがいつまでたっても【神力魔導】で頼ってくれないから、【世界樹(ユグドラシル)】はつい調子にのっちゃんたんだ』といったところです』

「軽い! 軽いいい! そんな理由で俺死にかけたの?! 第一【神力魔導】は世界に歪みを齎すから、そうそう使えないっていう意思も腕輪を通して伝えたじゃない! なんでそんな事になったの?!」

『やれやれ……これだから刃は……』

「悪いけど、意味がわからないっ!」

 

 統制人格の例えを用いた説明を聞き、どれほど綱渡りであったを再認識する刃。

 

 そのダメージが肉体だけではなく、精神や自身の存在を示す為の魂にまで及んだと知って自分自身の体を両腕で抱きしめ、体を震わせる。  

 

 そんな中で、話題にでた【世界樹(ユグドラシル)】からの過剰供給の件について話が及び、刃が言及すると、どこぞのマジックよろしく軽い感じで事情説明をする統制人格。

 

 いわれのない責められ方に困惑し、怒鳴りながら返すと──

 

『【世界樹(ユグドラシル)】の御子と認めた者が、自分の怪我や死を省みずに無謀な挑戦をし、その結果、ぼろぼろになって地面に倒れ伏すのですよ? ……御子……即ち子供が無茶をするのに親が心配しないわけないでしょう。まして……いくら心配し、手を貸そうにも肝心の子供たる貴方が『歪み』を恐れて力を行使しないのではどうしようもありません。【世界樹(ユグドラシル)】にとっては、他者が如何に『歪み』にさらされようとも、御子たる貴方の無事こそが最優先なのです。わかりますか? 今回の件も、貴方がそんな無茶な術式を使いさえしなければ、あの森にあった長老たる木が貴方の肩代わりをして『歪み』を受け、貴方自身にはなんら損傷を与えないという配慮も行っていた事を。人の身で貴方が【リキトア流皇牙王殺法】を扱えるのも、貴方自身が自然……言わば【自然力(神力)】によって転生し、その身を構成されたが故の事。肩代わりするはずの長老樹もまた、貴方を愛しているが故、その職務を全うせんと過剰な【自然力(神力)】を受け入れる体制をとっていたのです。しかし、その結果は……御覧の通り。過剰な【自然力(神力)】による歪みが齎す被害を恐れた貴方の体に顕現し、貴方はこのような憂き目にあった。……軽くいいましたが、【世界樹(ユグドラシル)】のほうにも予想外だったのですよ、貴方の行動はね』

「…………あれ? まって? ということは……【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】は初めから力の流れや【世界樹(ユグドラシル)】の意思を知っていたってこと? 長老樹が負荷を受け入れてくれる事を知っていたってこと、なの、かな?」

『もちろんです。【疑似再現機能(エミュレーター)】でもそういう結果だったはずですが。……尤も、『自然に歪みが発生し、周囲に被害が及ぶ』という結果になる為、刃自身が拒絶して術式の変更を行ったんじゃないですか。やだー、もう耄碌しちゃったんですか? 【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】との連結がはずれてますか? やっぱり頭がおかしいんじゃないですか?』

「ぐぎぎぎぎ……で、でも、そこを指摘してくれても、いいんじゃ、ない、かな?」

『聞かれませんでしたから!』

「言えよおおおおお!」

 

 周囲の人達だけではなく、【世界樹(ユグドラシル)】にまで心配されていた事に驚く刃。

 

 思えば、刃自身が【神力魔導】を行使した事は数回しかなく、【世界樹(ユグドラシル)】が御子たる刃に力を貸すのは、人の身にあった気力や魔力を供給して回復力を高めることぐらいだったのである。

 

 元々肉体系の回復は自身の能力で持ち合わせている為、後は徐々に自分の力を注ぎこむ量を多くしてその器を広げるぐらいしか手助け出来なかったのだ。

 

 心底呆れて馬鹿にした声で、刃を罵る【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】に、歯がみしながらキレる寸前で反論する刃。

 

 しれっとした統制人格の態度に、思わず叫んでしまう中──

 

『しかし……本当に無謀な試みを行ったものですね。貴方は【疑似再現機能(エミュレーター)】が失敗したと判断した時点で、失敗したその後を見なかった。『成功例が出来た』時点でそれに踏み切ってしまったのですから仕方ない事といえば仕方ないのですが……いえ、これは過ぎた事ですね。今更掘り返しても意味はありませんか』

「っ?! なんだよそれ! 途中でやめるなよ!? 逆に気になるわっ!」

『……確かにそうですね。それならばはっきりという事にしましょう。──仮に失敗した場合。呪符に【自然力(神力)】を注ぎこむ→【自然力(神力)】の巨大さに呪符が術式を維持できず暴走→ディアス=ラグ死亡→対象が死んだ事により、向かう先を失った【自然力(神力)】と、【神力魔導】の歪みが刃にフィードバック→【解析(アナライズ)】しきれず、【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】の稼働限界を超え、肉体内に入り込んだ【自然力(神力)】が当然の如く暴発→内と外から隙間なく歪みと【自然力(神力)】の煽りを受けて爆散。周囲を巻き込んで災害級の【自然力(神力)】暴走が発生し、それに巻き込まれた刃の肉体が【進化細胞(ラーニング)】も追いつかないレベルで消失し、エレ達もまた同様の結果を辿るというのが、最悪の結果でしょうか。実にスプラッターでスペクトラルな結果ですね』

「──……何それ怖い……」

 

 その叫びを無視し、統制人格から失敗した結果を言い淀む姿に刃が食ってかかると……そこから返ってきた答えは……刃の予想する自分自身の壊滅的な破損を遥かに上回る被害結果であった。

 

 ──それはまさに何も救われず、自身の救いたいものと守りたいもの全てを巻き込んで消失するという最悪の結果であり……それしか方法が無かったとはいえ、今更ながらに自分の行った行為がどれほど無謀だったのかに戦慄し、青を通り越して白い顔になって息をする事すら忘れる刃。

 

『──はっ?! 私とした事が……失礼しました。折角【疑似再現機能(エミュレーター)】があるのですから、3D表示で実演してみせればよかったですね。では早速──』

「いやいいよ?! 説明だけで十分わかったから!」

『いえいえ、そんな事を言いながらも無茶を通り越した無謀な挑戦をするのが刃です。ここはしっかりとグロ……もとい、はっきりとした結果を見せつけておく事こそが寛容なのです』

「今グロいって言ったよね?! だから一々【疑似再現機能(エミュレーター)】しなくていいから?! いいな! 絶対だぞ?!」

『ふっ……やりますね、ここでフリとか。ここはそれに答える事こそが私の使命。より正確に! 精密に! 360度余すところなく再現して差し上げましょう!』

「だからいいってばっ! なんでそこまで強引にグロ映像見せようとするんだよ?!」

『……本当に駄目なんですか?』

「駄目なんですっ!」

『……残念です、実に……残念です』

「なんで繰り返すし?!」

『──大事な事だからですっ!』

 

 ──そこに食いついてくる統制人格のグロ推しには辟易する事にはなったが……しかし、分を弁えてなかった事だけは良く分かる事となり、統制人格との会話で往く分調子を取り戻したものの、再び落ち込んで深い溜息を吐く刃。 

 

『──貴方は何もわかっていない。貴方の『大丈夫』ほど、私が信用できない物はないのですから。そして……貴方が『護る』と定めた周囲の者達が、どれほど貴方を信用し、信頼し、信愛し、心配しているのかを……貴方は知らない。貴方は……自分自身が知る『失う怖さ』を無くすために、自身を削って力を振い、その結果……その『失う怖さ』を周囲の人達に与えている事を知らない。貴方が他者を思う以上に、貴方は深く愛されているという事を、貴方は知らなすぎる。──理解しなさい、刃。貴方は既にこの世界の一部として認識され、前世などという曖昧なものは既に過去の物なのです。……貴方が生きるべきは『影技世界()』。与えられた力も、思いも、魂の一片に至るまで、貴方が存在するのは今においてほかにないのです。……貴方は私。貴方自身が自身の変質に完全に馴染み切っていない事を知っている。前世の記憶、唐突に失ったものを未だに心の傷(トラウマ)として抱えている事も知っている。それ故、何よりも親交を深め、仲間・家族というものを失う事を恐怖している事を……私は知っている。しかし、その思いは何も貴方だけの者だけではないのです。……まあ、それは……貴方が起きた時に知る事になるでしょう。……一週間の昏睡。周囲の人達に心労を与えるには十二分な時間です。どれほど思われているか、どれほど愛されているかを、その態度と言葉で知るといいでしょう』

「──……言うだけ言って、俺には反論させないのか」

『当たり前でしょう。貴方に反論する言葉などないのですから。ほら……とっとと現実に戻ってください。そして……目いっぱい泣かれて怒られて困るといいです、ばーかばーか!』

「──ッ! むきいいいい──」

 

 そんな刃に、情け容赦なく言葉を投げつける統制人格。

 

 それは……叱責、叱咤を含みながらも……統制人格自身の心配もまた、含まれる言葉であり……どんどん落ち込み、〇rzとなっていく刃の心に心の傷(トラウマ)レベルで刻みつけるかのように言葉の刃を投げつけ続ける。

   

 どん底まで落ちた刃の気持ちが、怒りによって急浮上し始めるのと同時に肉体の覚醒が始まり、【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】内の刃の精神体が光の粒子になって消えていく中、最後まで憎まれ口を叩きつけて見送る統制人格。

 

 それに顔を真っ赤にし、怒髪天といった様子で叫びながら消えていく刃。

 

『──……本当に貴方は……心配ばかりかけて……。これではルナの分け身として統制人格を言いつけられた私の心が持ちませんよ、刃。お願いですから……これ以上、自分から無謀に挑む様な真似はやめてください。こちらの『危険』の警告を無視して、全力で突入するような真似はやめてください……お願いですから……私に、最後まで貴方が貴方である為の手助けを、させ続けてください──」

 

 完全に消え去った刃の精神体を見送った後、余韻を置いて響き渡る……悲しく、切ない心の吐露。

 

 それは懇願であり……何よりも刃を心配する心で溢れていた。

 

 ディスプレイが唐突に変貌を遂げ、そこに現れるのは蒼い影。

 

 蒼い長髪をなびかせ、女性的な肉体美を持って顕現するのは……ルナを模した姿を持つ、美少女。

 

 白い【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】の空を見上げながら、切なげに祈るその少女の幻影が消え去るのと同時に、【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】の言動は再びその感情を無くし、機械的な言葉の羅列を紡ぎ始める。  

 

 それは蒼き幻影。

 

 一瞬の残滓。

 

 ──そして……真の目覚めを齎す導き手であった。 

 

 

 

 

 

「──だらっしゃあああ!」

─『?!』─

 

 瞼に明るい光を感じつつ、ジンは心に湧き上がる怒りのままに叫び声をあげて寝ていた体を起こす。

 

 その唐突な目覚めに、寝ているジンの手を握りしめていたフォウリィーがびくっと驚きの表情でジンの顔を見つめる中──

 

「──あ、れ? 知らない天井──」

「え? あ……ジン、ジン!」

「フォウリィーさん? おはようご──」

「──ッッおはようじゃないわよっ! どれだけ……どれ、だけ! 心配したと思っているの?! どれだけ……心配かければ、気が済むの?! 貴方はっ!」

「え、う……ご、ごめんなさい……」

「馬鹿っ! 本当に、しん、ぱい、したんだから……」

「──ごめん、なざい……」

 

 一週間という時を経ても尚、いつも以上に元気よく起き上ったジンを呆然と見つめた後、湧き上がる気持ちに突き動かされてジンに怒鳴り散らすフォウリィー。 

 

 その顔は憔悴し、涙の後が見て取れ、何度となく泣いたのが分かる顔であった。

 

 自分がそんな顔をさせたのかと罪悪感と同時に、先程統制人格に言われた言葉が蘇り……ただただ、謝罪の言葉だけがジンの口から紡がれる。

 

 ポロポロと零れおちる涙をそのままに、ジンを優しく、そして強く抱きしめて泣き始めるフォウリィーを抱きしめ返し、その温もりと心配を直に感じ、心からの謝罪を言葉にしながら、自身も泣き始めるジン。

 

 嗚咽と安堵だけが室内を満たす中──

 

「フォウリィー? さっきの叫び声は──……じ、ジン! 手前! どんだけ寝てやがるんだこの野郎!」

「じ、ジン? ……ジン、ジン、ジンーーー!」

「ああ……よかった。本当に、よかった……!」

 

 慌ただしく部屋に飛び込んでくる、エレ・ガウ・ディアスの三人。

 

 抱きしめられた顔をあげ、三人の顔を見上げれば……やはり録に寝ていなかったのであろう、酷い隅の出来た憔悴した顔であり、起きたジンを見てその瞳に涙を浮かべ始める。

 

「よがっだ、よがっだよぅうう……大事な友達が、死んじゃうかと、おもっだ……」

 

 ガウがジンに抱きつきながら、涙と鼻水に塗れた顔で『よかった』を連発し──

 

「ったっ?!」

「ばっか野郎! お兄ちゃんが健康になっても、お前が死んじまったらあたし達は喜ぶ事も出来ねえし、お前にお礼も言えねえじゃねえかっ! ……お前だってもうあたし達の仲間なんだ、ぞ? ……本当に、よく、生きてた……ありがとう、ありがとうジン、お兄ちゃんを助けてくれて……そして、ごめん、な? こんな、無茶させて……」

「……エレ、さん」

 

 エレが涙を流しながらも怒りの顔でジンに拳骨を落とした後、フォウリィー事ジンを抱きしめて嗚咽を零して泣き始め──

 

「──本当に、目覚めてよかった。まるで……僕の怪我そのものと引き換えにして、ジンが逝くように感じていたから……そんな事になったら、僕は僕を許せなかっただろう。ありがとう。救ってくれて……ありがとう、生きていてくれて。本当に、ありがとう!」

 

 ディアスが穏やかに、それでいて安堵を込めた声でジンの肩に手を置き、ジンの復帰を心より祝い──

 

「──ああ、よかった。目覚められたのですね? 本当に……よかった。よかったですよジンくん」

「──え? ポレロ、さん?」

 

 最後に扉から入ってきたポレロが、その柔和な顔に笑みを浮かべ、温かみのある声色でジンが無事に起き上った事に安堵する。

 

 ポレロがここに居る事自体が理解出来ず、フォウリィーに顔を向けると……涙を拭い、事情を説明し始め──

 

「あの術式の後、貴方は全身から血を噴出して倒れたのよ。【神力魔導】の力が残っていたのか、傷自体はすぐ治っていったんだけど……そこからは一日たっても、二日たっても目覚めなかった。不安になった私が……緊急連絡用の呪符を使って聖王国にいたポレロに連絡を取って来てもらったの」

「ジン君の件ともなれば、現状、私の抱える案件でも最優先事項ですからね。……その体から【神力魔導】の働きは感知していましたから、肉体的には問題ないだろうと推測はしていたのですが……肝心の意識がもどらないのではどうしようもありません。精神干渉しようにも、貴方の場合は【世界樹(ユグドラシル)】という強大なバックアップがありますからね。真剣に頭を悩ませていたところでしたよ」

「……う、ごめん、なさい」

 

 柔和な顔を歪ませ、苦笑を浮かべて頬をかきながらもそう告げるポレロに、【魔導士(ラザレーム)】の仕事が忙しい中、足を向けさせたことを申し訳なく思い、謝罪を口にしながら頭を下げると……その頭をポレロの手が柔らかく撫でつける。 

 

「──いいんですよ。貴方の成した功績に比べれば、私の心労など微々たるもの。よくぞ……よくぞ私やカイ=シンクの成しえなかった、我が友ディアス=ラグを治して下さいました。まさか呪符と【神力魔導】の混合術式とは……随分と無謀な事をしたものです。……しかし、それもディアスを思っての事なのでしょう。感謝の言葉では足りないほどです」

「……はい、どうしても……エレとガウの為にも助けたかったんです。だから……」

「だから、無茶でも、無謀でも、術式を行使したのですね?」

「はい……」

 

 責めるような口調ではなく、ただ優しく問いかけるように感謝を織り交ぜてジンに話しかけるポレロ。

 

 それに、自分自身の気持ちを吐露しながらも返すジンの言葉に頷きながら、確認を取るかのようにポレロが『無茶・無謀』と知っていても尚、術式を行使したのかを尋ねる。

 

 それに力なく頷くジンを見て、驚愕する一同を手で制し、ポレロが一つ溜息を零した後── 

 

「……ジンくん。確かに君の、『大切な人を助ける』という姿勢は実に正しく、尊い行為です。……ですが……自身を省みる事もまた、大事な事なんですよ。ここにいる全員も、クルダに居る【闘士(ヴァール)】達も、そして……義父さんも、貴方が姉と慕う方も。貴方を常に大事に思い、大切に思い、愛し、心配しているのです。貴方自身の体は貴方自身のものでありながらも、貴方だけのものではない。貴方の命は、貴方自身だけのものではないのです。貴方が大事にしたいと思うものと同じぐらい、いや、それ以上に貴方は大事に思われているのですから。貴方は……才能に溢れ、能力に優れ、自分で何でも出来てしまう聡い子です。ですが……所詮貴方は一人の人間。貴方自身の手がいずれ足りなくなる時がくるのです。そういう時は……迷うことなく、私達を頼ってください。私達は……いつでも貴方の声に答える用意がある。貴方を守り、育てる義務があるのです。だから……一人で全てを抱え込まず、声をかけてください。貴方の回りに居る人達に、貴方の声で動かないものなど、誰ひとりとしていないのですから」

「────……っ……っ……ああ、ぁぁぁああぁぁ……ぅぅ、ぅぁぁぁぁあああああ」

「よく頑張りましたね、ジンくん。貴方は……本当によく頑張ってくれました。今はもう少し……心穏やかにおやすみなさい。私達は……傍にいますよ」

 

 そのままゆっくりとジンの頭を包み込むように抱きかかえ、やわらかく、優しい口調でジンに語りかけ続けるポレロ。

 

 頭を撫で、髪を撫で、心から思う言葉を口にして、ジンの心に直接溶け込むように、諭すように、唯ひたすらに感謝と慈愛を持って語りかけ続ける。

 

 その柔らかな言葉は確かにジンの心に染み込み、その心を癒し、強情な自分の意思を溶かし、それは涙となって表に溢れだす。

 

 その場にいる誰もがその瞳に涙を浮かべて、ジンの無事を祝う中……再びジンの意識は安堵から深い眠りに落ちる。

 

 ──その心と身体に、抱きしめられる確かな温もりを感じて。 

 

 

 

 

 

 そして──

 

「……えっと、何このカオス」

「ふふ、おはようジン」

「あはは、大丈夫だったかい? ジンくん」

「お、おはようジン」

「ふぁあ~……んだよ、もう朝か?」

「やあ、身体の調子はどうだい? ジン君」

 

 起きたジンを待っていたのは……看護疲れが、ジンが目覚めた事でどっとでてしまい、そのままジンの傍で雑魚寝したエレ達と、同じく疲労からジンを抱きしめたままで一緒のベッドで寝たフォウリィーとポレロの姿であった。

 

 エレに抱きしめられたまま寝たガウが、ぎこちなく挨拶をし、それに起きたエレが大きく伸びをする。

 

 いち早く起きていたディアスがエプロン姿で部屋に入ってくると真っ先にジンの容態を確認し、大丈夫と返事を返すジンに対し、フォウリィーが素早く【診析】の呪符で確認を取る。

 

 病状が何も刻まれず、白紙のまま呪符に戻る【診析】に満足げに頷きつつ、フォウリィーが頷くのを見て安堵のため息を零し、朝食が出来たと告げて食堂に促すディアス。

 

 やがて、口々にディアスにお礼をいいつつも、美味しい朝食を頂き──

 

「──ディアスさん、なんか負担をかけるような事をしたんですか? ちょっと回復が遅い個所があるみたいですけど」

「ああ、ちょっとね。ジンが寝ている間に一戦あって、久しぶりに相棒を飛ばしてみたんだよ。その反動が少々身体に負担だったみたいだ」

「ま、全力の一投じゃなかったみてえだし、大目に見てくれよジン。……【黒い翼(ブラックウィング)】もきっと、兄貴の手で大空を舞いたかっただろうからさ」

 

 何気にディアスを【解析(アナライズ)】した結果から、何か急激な運動……戦闘をした痕跡を見て取ったジンがそう尋ねると、自分の字名である【黒い翼(ブラックウィング)】を飛ばしたとの事。

 

 一戦交えたとの話に顔を険しくする中、エレがフォローを入れつつ、ジンが眠っている間に起きた出来事を説明し始めるフォウリィー。

 

 さすがに自分がいない間に【ソーウルファン】と一戦やりあったという言葉には驚きを隠せなかったものの……ここにいるのは一騎当千を体現した【修練闘士(セヴァール)】・エレ=ラグや、その教えを受けるガウ。

 

 そして【呪符魔術士(スイレーム)】でも五本の指に入る実力者であるフォウリィー。

 

 病み上がりとはいえクルダ随一のブーメランの使い手であるディアス=ラグと、本来であれば五百対四人など無謀以外の何物でもない人数ではあるのだが、戦力的には遥かに圧倒するほどの戦力差があったのである。

 

 その内容を聞いてジンは感嘆しつつも、再び【黒い翼(ブラックウィング)】を自分の意思で投げれた事に嬉しそうなディアスを見て、【解析(アナライズ)】結果を知っているにもかかわらず、ほっと安堵していた。

 

 自分が意識を無くしている間の記憶の補完を完了し、意識を失っている間、看病し、護ってくれた事に礼をいうジンと、失われるはずだった命を救ってもらい、心の底から感謝の言葉を述べるディアス。

 

 互いに頭を下げる様子に、いつしか顔を見合わせて笑みがこぼれ、会話も弾み、小さい頃のエレの話や、ガウの話、ジンの話などといった身内話に華を咲かせ──

 

「──うん。もう完全に繋がってるみたいですね。ただ、長年動かしていなかった筋肉がほぐれるまでは無理しないでください。それさえ守れば……貴方はまた、自由にその翼を広げる事が出来るはずです」 

「──……そうか。……何度も言ったが、ありがとう、ジン君。君のお陰で私は……いや、俺は……再び、『兄』として、立つことが出来る。新しく出来た弟の為に、先を往く事が出来る。友と再び、国を、家族を、そして友を護る為に、立つ事が出来るんだ。静かに時を見つめるだけだった自分の時間を……自分で動かす事が出来る。……本当に、ありがとう」

 

 食事の後片付けをした後、ディアスの経過を診察する為に一旦皆から離れ、二階テラスにおいて【解析(アナライズ)】と【診析】を駆使して、ディアスの治療後の状態を精密に、綿密に確認するジン。

 

 一度【黒い翼(ブラックウィング)】を投げたとはいえ、自分の負担にならない程度だったのであまり問題になるものではなく……エレに口酸っぱく言われ、ガウに請われた為、静かに過ごしていた事が功を奏し、【光癒】による治療の後の癒着は完了していた。

 

 後は急激な……それこそいきなり【クルダ流交殺法】を使用した攻撃を連発するような事が無ければ問題は無く、日常生活においては十全に活動できると太鼓判を押せるほどになっていたのである。

 

「流石に【クルダ流交殺法】の修練は出来ないと思いますから、俺の【流()法】なんかを準備運動代わりに教えますね」

「──なるほど。ジン君は独自の鍛錬方法を持っているんだね。……興味深いな」

「簡単なようで、奥が深いんですよ? でも……本当に、よかった。ディアスさんを救えて。エレさんと、ガウとの約束を守れて。それに……不謹慎だけど、皆に心配された事が……大事に思われていた事が、何よりも……嬉しいんです」

「──………………」

 

 ゆっくりと身体の具合を確認する様に肩や体を動かし始めるディアスに対し、自身がよくやる鍛錬方法を伝える事を約束し、念の為に【クルダ流交殺法】はまだ使わないようにと釘を刺すジン。

 

 自分の知らない鍛錬方法を、自分の半分の年齢にも満たないような少年が知っている事に驚きつつも、興味深げにその続きを聞こうとしたところで……ふとジンが自分の心情を吐露しながら、心から嬉しそうに、それでいて恥ずかしそうに、柔らかい微笑みではにかむ姿を見てしまったディアスが、未だかつてないほどの衝撃を受けて言葉を無くす。

 

 それに気がつかずにリビングへと足を運び、紅茶を楽しむフォウリィーとポレロの元へと歩いていくジンの背中を見送り──

 

「ん? なんだ? どうしたんだよ? 兄貴」

「……──いや、その、あまりにも強烈だったもので、ね」

「……あ~……兄貴も直で見たのか。……あれ、反則だよな。あたしも未だに油断してるとやられるんだよ……あれで男とかウソだろって感じだよなあ……」

「どうしたの? エレ姉、ディアス……兄さん」

「応、ガウか」

 

 顔を手で覆ったまま、立ちつくすディアスに疑問を感じ、近寄りながら話しかけるエレが、顔の赤さや手で鼻を覆っている事を察して納得し、自分もそうだと同意を示す。

 

 そんなやり取りをしている二人に、ガウが近寄って来て話しかけ、ぎこちないながらも『兄』と呼ぶガウに対して微笑みを浮かべつつも、ジンの笑顔の魅力にやられたのだ、と正直に話すディアス。

 

 すると、心底納得したように頷きながら同意するガウに、皆の認識がそうなのだと苦笑を零し、あまり待たせてもいけないと、リビングでのお茶会に加わるディアス達。

 

 のんびりした時間を過ごし、しばし歓談している中──

 

「しかし、結構呪符を使っちゃったわね。そろそろ作っておかないと後が大変そうだわ」

「そうだね~。俺の場合はディアスさんを癒す分と、治療の為に作った【高速呪符帯】だけが無くなっただけ、だから……って、あれ……。そういえばそろそろ【仕事斡旋所(ギルド)】とか、近衛兵治療所とかに出す予定の、の呪符のストックが妖しいんじゃなかったでしたっけ、フォウリィーさん」

「──?! ほ、本当だわっ! すっかり忘れていたわね……」

「?……ああ、そういえばフォウリィー達は今、診療所を開いているのでしたね。……なるほど、確かにジンくんの呪符はジンくんと上位術者しか作れないような高度な術式であるとか。……既に一週間以上が経過していますし、もし呪符が切れているとなれば、患者さん達が困る事になりますね」

 

 ふと思い立ったのか、【ソーウルファン】との戦闘、並びにジンの治療に呪符をつかったフォウリィーが、残量確認の為にテーブルに自分のホルダーから呪符を抜き出して広げ、何をどのぐらい使ったのかを確認し出す。

 

 その中でも、特に【診析】と【光癒】の減り具合が顕著であり、『補充をしなければ』と呟くフォウリィーの姿と、手元の呪符を見た途端、ジンが唐突に診療所をコア=イクスに任せ、既に10日近くたっている事を思い出したのである。

 

 ディアスの具合が分からなかった為に、一応念の為に最大で二週間は持つであろう分量の呪符を診療所と、発注を受けていた分は作り上げていたのだが……さすがにそろそろ戻らないとまずい。

 

 しかし──

 

「でも……まだディアスさんが心配、かな」

「そう……ねえ。一応傷は癒着したようだけれど……エレのお兄さんなら、目の届かない所で無茶しそうで怖いわね」

「んだよそれっ! あたしがいつも無茶してるみたいな言い方すんじゃねえよっ!」

「……え、自覚がなかったの? エレ姉」

「ははは、よく見ているねガウ君」

「ディアスもよく似ていますよ。今は落ち着いたとはいえ……昔の貴方は、エレ=ラグ殿そっくりでしたしね」

「……手厳しいね、ポレロ」

「言いたくもなります。あの当時は我々も迂闊に動けなかったとはいえ……貴方は無茶が過ぎましたからね」

 

 穏やかな笑みを浮かべ、紅茶をたしなむディアスを横目に、完治までの面倒を見たがり、言い淀む姿に、思案顔で頷くフォウリィー。

 

 ダシに使われて怒りをあらわにするエレではあったが、真顔で驚くガウに轟沈させられ、苦笑を浮かべるディアスに頭を撫でられてむくれながらも大人しくなる。

 

 それを柔和な笑みで見守りつつ、かつて【黒い翼(ブラックウィング)】として名をしらしめていたディアスもまた、その身体通りの無茶をしたのだと指摘し、苦笑深く、兄弟そろって凹まされる事となる。

 

「──それなら、兄貴も一緒にクルダまでついてきてもらえばいいじゃねえか。なあ? 兄貴」

「え、本当? 一緒に戻れるの? ディアス兄さん」

「……──そうだね。もはや静養する必要はないし……診療所を開いているジン君を待つ他の患者がいると言うのに、私一人だけの都合で迷惑をかける訳にもいかないだろうしね。……そちらが迷惑でなければ同行させてもらうよ」

「──そうですか。……よかった」

─『──……』─

 

 気を取り直し、エレがディアスも一緒にクルダに帰る事を提案し、それに嬉しそうな顔をするガウを見て、優しく頭を撫でながらも少し考え込み、了承するディアス。

 

 それを聞いて安心したのか、再び柔らかい慈愛に満ちた笑みを浮かべ、周囲を魅了するジン。

 

 油断した所にまともに見てしまい、言葉を無くして魅入り、あるいは懸命に視線を外そうとして失敗し、顔を真っ赤に染める一同。

 

「ん? どうしたの?」

─『っ大丈夫だ、問題ない』─

「……どう考えても何でもなく見えるんだけど……」

 

 そこに追い打ちをかけるかのように、思わず止まってしまった一同を不思議がり、首を傾げて見上げるジンの姿に……思わず顔を覆って異口同音に答える一同。

 

 それを露骨に訝しむジンといった図式が出来上がる中、いち早く復帰したフォウリィーに連れられ、返る為の荷造りに入るジン。

 

 それを見送り──

 

「っ……は~……やばかったぁ。二段重ねとは……油断した……」

「う、うん。……なんかこう、すごい、よね」

「参りました……愛らしすぎて抱きしめないように四苦八苦しましたよ。あれが愛し子というやつですか……!」

「……これは、中々にくるものがあるね。意図せぬ精神攻撃のようなレベルの愛らしさ……なるほど、確かに【蒼髪の女神(ブルー・ディーヴァ)】だね」

 

 首元をトントンと同じ動きで叩き、口々に溜息を吐きながらそう告げる一同。

 

 特に久しぶりのポレロと、先程視たとはいえ、全然慣れていないディアスには効果覿面であり……酷く字名に納得する事となった。

 

「──さっきはノリでいっちまったけど……兄貴、本当にいいのか?」

「構わないさ。元々、このブロラハンは既に滅んだ街。便宜上、王より書簡を受け、守護役を仰せつかってはいるが……実質は私の為に静養できる場を提供していただいただけでね。いつでも放棄してよいと言われているんだよ」   

 

 ──元々、ディアスが命じられたこの町を護るというのは建前であり……実際のところはクルダから遠ざける事で戦いから遠ざけ、そのボロボロになった体を静養させ、その命を永らえさせるための苦肉の策だったのである。

 

 それもジンの治療によって解消された今、ディアスがこの地に居座る必要性は薄く、唯一難点があるとすれば、武器職人としてのディアスの仕事場である、鍛冶場が使えなくなるという事ではあるのだが──

 

「何、武器なんて【黒い翼(ブラックウィング)】以外置いてないんだ。鍛冶道具一式を持ち出せば、後はもう何もいらないよ」

「──……そこまで(・・・・)だったのか、兄貴」

「……ああ。今でこそ言うけど、もう……まともに槌が振れなかったんだ。……クルダ随一の武器職人とか言われていたけど……情けない話、もう作れなかった(・・・・・・)んだ」

─『ッ!!!』─

 

 ──その告白は……予想以上に衝撃的であり、ジンが無茶でも無謀でも、ディアスを治す事を踏み切った理由を悟ってしまうエレ達。

 

「だからジンは、あんなに必死に……」

「ああ。本当に……命の恩人だよ」

「ジン……」

「そうですね。無謀な試みではありましたが……彼が行った奇跡は称えられるべきものと言えるでしょう。……ですが……私は心配なのです。いずれ、あの優しさで無茶をし続け……ディアスのように……いえ、それ以上の致命的な傷を受けるのではないか、とね」

─『…………』─

 

 【診析】の結果を見れないエレとしては、そこまでの状態であるとは知らず、それを知って無茶をしたジンのいる部屋を見つめ、感謝と後悔を織り交ぜたような複雑な思いを持って溜息をつく。

 

 同じような感情を込めてエレのようにジンの部屋に視線を移し、その眼を閉じて思考するディアスと、心配そうに視線を送るガウ。

 

 そして、その場の一同の気持ちを言葉にするかのように、ポレロが自身の感じる懸念を口にする。

 

 それはこれまでのジンの行動を思えば容易に想像出来る話であり、思わずうめくような声をあげ、苦虫をかみつぶしたような顔をして考え込む一同。

 

「──そう……ね。出会ったときからあの子は……他人を思いやれる心優しい子ではあったのよ。だけど……自らを省みない子でもあった。……私があの子についてきた理由の一つも、それが心配だったから。今なら分かるでしょう? エレ、ディアスさん」

「ええ。身にしみて、ね。……彼は……危うい。先程見せた顔から、きっと自分が愛されているのは理解しているのだろう。だけど……愛が深いほど、他者……家族や仲間を思うほど、彼は……自分の命を省みない。彼自身が、自分の命よりも家族や仲間に比重を置き、失う事を恐れているから」

「……ったく、このあたし、【修練闘士(セヴァール)】・【影技(シャドウ・スキル)】・エレ=ラグを護ろうなんざ……いい度胸じゃねえか……ジン」

 

 その表情を曇らせ、ディアスとエレに視線を向けてそう悲しそうに告げるフォウリィー。

 

 酷く心配そうな妻を後ろから支え、それに反応したフォウリィーに抱きしめられつつも背中をぽんぽんと叩くポレロ達を見ながらも、深いため息と共に自分の見解を示すディアス。

 

 同じく溜息混じりで頭をかきつつ、ジンの去った方向をなんとも言えない表情で見つめるエレ。

 

「幼心に、失ったものが大きすぎたのでしょうね。……きっと心の傷になってしまっているのでしょう。その手から零れおちてしまった……大切な命。大事な人達との繋がり、想い。……無理もありません。大人びていますし、聡明ではありますが……彼はまだ八歳。ガウくんよりも年下の子供なのです。……逆に言ってしまえば……子供でいる事が許されなかったという事情があるのでしょうけれどね。……まして彼の才能がそれをより顕著にしてしまっている。自分自身で何でも出来るようになってしまう彼は、なんでもかんでも自分でやろうとして……傍にいる人を頼ろうとしない。頼る事が下手すぎるのです。今後は私達が率先して手を差し伸べ、仲間を頼る事、信頼を置く事を教えてあげないといけません。でないと彼は……その心を壊してしまう。また、大事なものを取りこぼしてしまうでしょう」 

「──……」

 

 フォウリィーを抱きしめながらも、ポレロがその柔和な顔に悲哀を浮かべてそう口にする。

 

 抱き返すフォウリィーの力が強くなる中、フォウリィーの背中を叩いて落ち着かせつつ、ポレロは自身の考えを口にする。

 

 それに顔を見合わせ、決意を新たに頷く一同。

 

「……悔しいよ、エレ姉、ディアス兄さん。僕……ジンを護ってあげられるぐらい、強くなりたい……!」

「ガウ……そうだな。お前も男の子……ましてやジンよりも年上なんだからな。うっし、帰ったら修行だな!」

「うん!」

 

 ぎゅっと唇を噛みしめ、悔しそうなガウがそう訴えるのを聞いて、エレが驚いた顔をした後、優しげな、それでいて力強い声をかけて頭をくしゃくしゃと撫でながら、その言葉を聞き入れる。

 

 そんな前向きなガウに気持ちを上向きにさせつつ、いつまでもやってこない自分達に屋敷から手を振るジンに答えながら歩きだす一同。 

 

「──エレ。俺の体が完全に治ったら、俺は……彼が望むのならばジン君に【クルダ流交殺法】を教えようと思っている。もし教える事になったら……お前にもつきあってもらうぞ」

「──! 兄貴?! でもっ!」

「……きっと、あの子はこの先も無茶をする。それなら……その無茶が無理ぐらいになるように、無謀が無茶になるぐらいに……してあげたいじゃないか」

「……──そうだね、お兄ちゃん。まったく……末っ子は誰よりも才能があるくせに……誰よりも心配をかける困った子なんだから……」

 

 先を歩くポレロ達が愛想よくジン達に答える後ろで、ディアスが顔は微笑みつつも、笑っていない真剣な目でエレを横目に見ながらそう言い、驚きを隠せないエレが必死に声を押し殺しつつもディアスに言葉を返す。

 

 苦笑を浮かべ、ジンに視線を送りつつも……そう言うディアスの目が穏やかになりつつあるのを見て、同じく苦笑を浮かべ、普段は見せないような優しい笑みを浮かべて兄妹としての会話を交わしつつ……一同は帰路につくための準備に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 ──結局準備と屋敷の荷物の纏めをしている間に夜になってしまった事もあり、ディアスの屋敷での夜を過ごした一行は──

 

「──やはり、ここから見るクルダは……いい。これが……クルダだ」

「──……っ……」

 

 早朝にディアス邸を出立し、病み上がりの二人のリハビリを兼ねてゆっくり、のんびりとしたペースで進み……やがて徐々にペースをあげ、夕日が城の影に沈みゆく時刻にクルダへと到着する事となった。

 

 道中、野生の動物や盗賊達等との接敵もあったが、少数とはいえこの戦力がびくともするはずがなく一瞬で片付け、何事もなかったかのようにクルダに辿りついた一行は……初めてクルダに来た際、エレが『ここから見るクルダが一番好きだ』といっていた丘からクルダを見下ろすディアスが、感嘆しながらも目を細め、その顔を夕日に染める。

 

 視力補助の眼鏡もなく、街並みを見下ろせる事、道中の色鮮やかな空の青や、自然の緑。

 

 むせかえるほどの新緑の香や、木々のざわめき等、今までの体では、聞こえている振りをするだけで手一杯だったものが、普通に行える事に、ただただ感謝の念に堪えないディアス。

 

 エレが、兄の……ディアスの姿に言葉を無くし、ぐっと唇を噛みしめて顔を俯かせ、目から零れおちる滴をぬぐう。

 

 そんな二人から少し離れ、様子を見守るジン達の見守る視線は温かく、微笑みを交わして静かな時が立ち──

 

─『?!?!?』─

「ん、どうしたんだい? エレ」

「何かあったのですか?」

 

 十二分に街並みを堪能したと、見守っていたジン達に感謝の言葉をかけ、共にクルダの街中へと入っていく一行。

 

 行きかう人々に声をかけられ、笑顔で答えつつも【蒼髪の女神(ブルー・ディーヴァ)】と呼ばれて憤慨するジンの人気ぶりに驚きつつも、活気のある人々を見て目を細めるディアス。

 

 やがていつもの通い慣れた道を曲がり、細めの路地に差し掛かった処で、見慣れた我が家が目に捕えられる……はずだったのだが……。

 

 唐突に先頭を歩いていたエレが立ち止まり、声すらでないほどに驚愕を示し、何があったのかとジンがその視線を辿って言葉を無くし、ガウが呆然と立ちすくむ。

 

 フォウリィーも口元を押さえて目を丸くする中、理由がわからず声をかけるディアスとポレロ。

 

「………………あれ? おっかしいなあ……あたしの目がおかしくなっちまったのかな?」

「え? え? え?」

「……あれが、家、だっけ?」

「……いいえ。私達がお世話になっていたエレの家は……言い方は悪いけどここらにある長屋と同じ、いえ、エレが酒癖が悪くて暴れるから、それ以上に痛んでいた……言わばボロ家だったわ」

「悪かったなあ!」

 

 目を擦り、一度見て、再びもう一度視線を送る先にあったのは──

 

 ──白青創建。

 

 白い壁と、青い屋根。

 

 他の長屋よりも頭一つ飛び抜け、隣にあった空き家を飲みこみ、後ろの庭をも飲み込んで、あからさまに大きくなった我が家であった。

 

 そして何よりも目立つのは……屋根の近くにつけられた看板。

 

 そこに書いてある文字は、【女神の癒し(ディーヴァズ・ヒール)】。

 

 金縁で縁取りされた立派な看板が目を引く、正に診療所とか、病院を彷彿とさせる建物だったのである。

 

 以前が板張りで隣の声が聞こえるほどの造りの家だったのに対し、今回のこの家はきちんとした造りであり、縦にも横にも広がった屋内空間は優に前の三倍はあるであろう広さであった。

 

 含みのある、にやにやとした笑みを浮かべるおばちゃんやおっさん達が、驚くジン達を見て声を出して笑い、家へ向かうように促す。

 

 曖昧な笑みで返しながらも、何故か新築に造り変えられていた我が家へと足を運ぶ一行。

 

 そして──

 

「おう、遅かったじゃねえか! ジン坊にガウ坊。それにエレ嬢とフォウリー嬢。どうでえ? この家の出来栄えは」

「親方! な、なんで家が新しくなってんの?!」

「あ~、なんつうか、悪いけど……あたしの給料じゃこれ建てた金払えるかわからねえぞ? おっちゃん」

「すごい、すごいよ親方! でも……どうして家が新しくなってるの?」

「そう言う問題じゃないわよ、エレ。ええと、棟梁。確かに治療費は頂かなかったのだけれど、恩返しにしてはこれはやりすぎじゃないかしら?」

 

 家の扉の前に仁王立ちしてジン達を待ち構えていたのは……ねじり鉢巻きに角刈りの短い白髪頭。

 

 浅黒い肌で筋骨隆々の腕を組んだクルダの名工・大工の棟梁である、ブル=ハーフネンスであった。

 

 驚きながらも口々にそういうジン達の言葉に、豪快に笑いながら事情を説明し始めるブル……通称親方。

 

 親方との出会いは簡単。

 

 以前、ジン達が親方の窮地を救った事があったのだ。

 

 新築の施工を行っている際、屋根の着工に差し掛かった時に、新人が木材を屋根に上げ、肩に担いで振り向いた先に親方が居り、背負った木材が親方の後頭部を直撃。

 

 屋根から落ちてしまったのである。

 

 鍛え抜いたクルディアスである事が幸いし、辛うじて命は取り留めたものの重症であり、そこに食材の買い出しに出てきていたジンとフォウリィーが通りかかり、【診析】と【光癒】を持ってその傷を癒したのだ。

 

 意識が目覚めるとともに、自分に土下座して謝る新人に拳骨一発で一括し、しばらく木材加工に回るようにと自分が落とされたにも関わらず、首にせずに面倒を見続ける事を告げる親方。

 

 そして……ジン達に言葉少なく命を救われた礼をいい、治療費を払おうとしたのだが……ジン達はその親方の心意気に感じ入り、通りかかっただけだからとそれを拒否し、『家がボロ家だから、もしどこか壊れたらそれを格安で直してください』といって去っていったのである。

 

 それ以降、事あるごとに家の前を通りかかっては、エレが壁をぶち抜いた場所を直したり、雨漏りを直したりと、ジンやガウの手が空いていれば助手にして大工仕事を教えながらちょこちょこと手を加えてくれたのだが……今回の件はなんの前触れもなく、何の相談もなしに行われた事であった。

 

 流石にお礼として建ててもらうにしても、既に前のボロ家を直してもらった件でチャラであり、これは貰いすぎだったのである。

 

 困惑を浮かべるジン達に笑みを返しつつ──

 

「心配するな。これは民意……そして国威によって寄贈されたもんだ。件の事件で、ジン坊が数多くの命を救い、今尚クルダの傭兵達の命を救い続けている事に対し、丁度家人全員が出かける事がわかったんでな。民を代表して俺が進言し、王がその心意気を見せて全額負担で勅命を出し、裏庭と隣の長屋を買い取り、大々的に建てなおしたからこそ出来たモンだ。もし不備があったら遠慮なくいってくれ。俺が直々に出向いて直すからな。ちなみに看板は王直筆。これで名実ともにここはクルダの診療所に成った訳だ。荷物は城の女官に手伝ってもらって移動させてある。さ、中に入って確認してくれ」

 

 満足のいく仕事が出来たのか、親方は満面の笑みで説明し終わったとばかりに家の扉を開け、ジン達を中へと誘う。

 

「わあ……広いやあ」

「随分清潔ね……これなら確かに、診療所といってもいいかもしれないわ」

「……フォウリィーさん、これ……俺達の知らない薬品も混じってるよ」

「え? ……本当だわ。これも、この包帯も新しいもの。まさか……」

「応よ。一階部分は診療所として使えるようにとのお達しだったんでな。王宮の【呪符魔術士(スイレーム)】達の意見を聞いて、徹底的に使いやすさを追求した造りになってる。隣の部屋には個室を作ってあってな、入院患者を受け入れる事も出来るような造りにしてあるぞ。そして、その包帯や薬品は王からの差し入れだ。その机の上に、今回の新築に関する目録がある。確認してくれ」

 

 石造りの頑丈な壁。

 

 新しい床は磨きあげられ、清潔感が漂う。

 

 壁に備え付けられた棚は、女官によって並べられたのか、薬品や薬草が所せましと区分けされて並べられ、真新しい包帯が準備されており、いつ診療が開始されてもいいようになっていた。

 

 裏手にはキッチン等の水回りが完備され、広い診療スペースの横には入院するほど酷い怪我を負った人用に作られた個室が完備。

 

 目録を開けば、今回補填した薬品のリストが書かれており、王直筆の感謝の言葉と、渾身の出来だと自慢げに書かれた看板の事が書かれていたのである。

 

 ──実に至れり尽くせりであった。

 

「──親方、看板の名前はどうにかなりません?」

「馬鹿言っちゃいけねえ。王が直々に筆を振ったんだぞ? 俺如きに変えれる訳ねえだろう」

「……ですよ、ね~……」

 

 唯一の不満は、あからさまにジンの字名、【蒼髪の女神(ブルー・ディーヴァ)】にかけたであろう、この診療所の名前だけだったのだが……変更を提案した所で親方に拒絶され、肩を落とすジン。

 

 やがて二階の説明となり、中央に廊下、左右に分かれた個室という、現在いる人数よりも多く用意された部屋数に、二階を上がってすぐの部屋は、薬品などの在庫を入れる部屋にするようにと手が加えられていると言って扉を開き、棚が無数に並んでいる部屋の内情を見せる親方。

 

 その他の部屋は同じ作りになっており、壁際にベッドが、挟んで反対側にはクローゼットと棚が。

 

 大きく開く窓が日の光を受けれるように作られており、以前よりも広い部屋に、皆が喜びの声をあげる。

 

「親方、ありがとう!」

─『ありがとう!』─

「へへ、よせやい。俺ぁただ、自分の仕事をしたまでだ。今後とも、怪我人や病人が面倒かけるとは思うが……このクルダ()を……よろしく頼む」

 

 満面の笑みを浮かべてお礼を言うジンに真っ赤になって照れつつも……その表情を正して今後とも治療をしてやってくれと頭を下げ、去っていく棟梁を手を振って見送り、恐らくは棟梁に話を持ちかけたのであろう、周囲のおじちゃんおばちゃんに感謝の言葉を大きな声で告げるジン。

 

 ジンの笑顔で放たれた言葉に一瞬時が止まったように静かになり、崩れ落ちる音や呻く声などが場を席巻した後、気を取り直したように周囲が笑顔と活気にあふれ、やがて通り全体がエレの家の新築を祝う祭りのような雰囲気となり、俄然活気づく事となる。

 

 その騒ぎに、二階の部屋で各自が部屋割りを決めて荷ほどきをする手を緩め、窓を開けて階下を見下ろすと……そこには酒や料理を持ち寄り、飲めや歌えの大騒ぎをする人々の姿があった。

 

 真っ先にエレが二階から飛び降り、酒樽を抱えて酒を飲みだし、それを見たガウが慌てて飛び降りてそれを止めに入り、苦笑と共にポレロとフォウリィーが階段を下りて階下へと降りていく。

 

 その後に続いてディアスが階下へ降り、止んでいた頃にはほどんと口にしなかった酒を、受け取ったジョッキから口に運ぶ。

 

 ──アルコール特有の喉を焼くような風味を感じつつも、喉越しを楽しむディアス。

 

「ん、大丈夫そうですね」

「! ジン君か。すまない、酒は駄目だったかな?」

「ううん、別に大丈夫ですよ。飲みすぎ……といっても、【闘士(ヴァール)】なら酔わない(・・・・)でしょうし」

「ふふ、そうだね」

 

 静かに端に座り、酒を嗜むディアスの下に、おばちゃんたちから盛り付けられたのであろう、山もりの料理をもってやってきたジンが【解析(アナライズ)】をしながら微笑みかける。

 

 一瞬、しまったという顔をしつつも、事後ではあるが確認をとるディアスに、首を横に振って料理を取り分けるジン。

 

 その後ろでは、飲み比べを始めるエレとおっちゃん達の姿があり……次々に酔いつぶれては挑戦者が入れ替わり、エレがニヤリとした表情でそれを迎え撃っていた。

 

「──相変わらずだねエレは。前からこういうお祭りごとが大好きだったからね……」

「兄としては心配、ですか?」

「……──ああ、心配なんだ。特に……嫁の貰い手があるかどうかでね」

「……あ~…………」

「……目を逸らさないでくれるとありがたいんだが……」

 

 複雑そうな表情でそう吐露するディアスの言葉に、思わず視線を逸らして言葉を失うジン。

 

 ディアスもわかっているのか、深く溜息を吐きつつジョッキを煽り──

 

「うぉおおおおおおい! ジンちゃん! 帰ってきたんだあああ! よっしゃあ! これでまた本格的な鍛錬ができるってもんだぁ!」

「おかえり、ジンちゃん! ……おやそっちのお人は──っ?!」

「し~っ。いずれわかるだろうけど、今は内緒にしておいてほしいんだ。いいかな?」

「は、はぃ!」

「ん? どうしたんだぁ? リムル」

「な、なんでもないよっ! ……こらエレ! 【修練闘士(セヴァール)】が飲み比べとか、誰も勝てないだろう?! 何やってんだいあんた!」

「応! リムルじゃねえか。お前も飲むか?」

「飲むかぁ!」

 

 そこに、ほとんど日課となっている診療所への見回りにやってきたグォルボとリムルが、お祭り騒ぎに沸く街道の中からジンの姿を見て駆けより、大声で歓喜をしながらも受け取ったジョッキを煽る。

 

 リムルがそんなグォルボの胸板を叩きつつジンに声をかけ、その横にいたディアスの正体に気がついて声をあげそうになるものの、ディアスがいち早くその唇を人差し指で抑えて隠匿を要請。

 

 顔を真っ赤にしたリムルが、誤魔化すように酒で盛り上がるエレの下へとつっかかっていく。

 

 やがてそこに訓練を終えた【闘士(ヴァール)】達が加わり、宴は盛り上がり、喧嘩が始り、エレが両成敗をするといういつものノリが展開され……こうしてクルダに戻った初日が過ぎていく事となるのだった。

 

 

 

 

 

 そして翌日。

 

 朝から商店街のおばちゃんたちが街道に散らかった酒瓶やジョッキなどの片付けを行うのに手伝いつつ、いつもの日課である【流()法】をディアス達と一緒に行い、朝食を食べ終えたジンの下へ──

 

「ごめんください」

「はーい!」

 

 この【女神の癒し(ディーヴァズ・ヒール)】になってからの初めてのお客がやってくる。

 

 以前はカーテンのような布が垂らされただけだった玄関は、堅牢な樫で造られたものに変わっており、ノックに答えてその扉を開けるジン。

 

 するとそこには──

 

「初めまして、私の名はスクリーブ=ローエングリン。お師匠様……いえ、第55代【修練闘士(セヴァール)】・クルダ王・イバ=ストラより、今回の件で説明の為の招集がかかっております。各々方、服装などはそのままで結構ですので、私についてきていただけますでしょうか」

 

 快活そうな銀髪に、一際目を引く大きく赤い耳飾りをつけた少年が、丁寧な礼を持ってそう一言告げる。

 

 朝の弛緩した空気が一気に引き締まり、即座にその声に答えて一同が集まり──

 

「お役目、御苦労さまでした、【影技(シャドウ・スキル)】殿。そして……お初にお目にかかります、【黒い翼(ブラックウィング)】・ディアス=ラグ殿。生ける伝説たる貴殿に会える光栄……極みにございます」

「出迎え痛みいる、【白き閃光(ホワイト・ライトニング)】・【闘士(ヴァール)】・スクリーブ=ローエングリン殿。報告が遅れた事、すまない」

「初めまして、だね。登城の件、よろしく頼むよ」

「いえ、王も昨日の招集は臨みませんでした故。【魔導士(ラザレーム)】・ワークス=F=ポレロ殿、奥方のフォウリンクマイヤー=ブラズマタイザー殿、並びに【蒼髪の女神(ブルー・ディーヴァ)】・ジン=ソウエン殿、ガウ=バン殿、そろっておられますか?」

─『はい』─

「……はい」

 

 形式上の挨拶を交わし、労うローに対して会釈をするエレとディアス。

 

 朗々と登城させる人物に声をかける中、【蒼髪の女神(ブルー・ディーヴァ)】と呼ばれたジンだけが不満そうに返事が遅れ、それに一同が苦笑する中──

 

「よお、悪いなロー。朝っぱらから迎えに来させちまって」

「何いってるんですかエレさん。言っこ無しですよ」

「ロー君、でいいのかな。なるほど……君が王の懐刀か。いい研鑽を積んでいるようだね」

「ありがとうございます! ディアスさん。ええ、自分の名前が言いにくいのは知ってますから、気軽にローと呼んでください」

 

 商店街で作業するおばちゃんたちに会釈しつつ、城への一本道に抜け出た所で、顔なじみのエレが砕けた感じで話しかけるのに答えるロー。

 

 その身のこなしを見て取ったディアスが感心して声をかける中、気軽に呼んで欲しいとディアスを含む全員に返す中、ポレロやフォウリィーと言葉を交わし、その視線は歳の近いガウとジンへと移り──

 

「よっ! 初めまして。最初は硬い挨拶で悪かったな。何分人目のあるところでは形式を重んじないと、【修練闘士(セヴァール)】と王属の威厳が保てないからさ」

「初めましてローさん。知ってるみたいだけど、ジン=ソウエンです。よろしくね!」

「え、えっと初めまして! ガウ=バンです!」

「硬いこというなって! 年も近いし……仲良くやろうぜ!」

─『うん!』─

 

 笑顔で言葉を交わし、拳をこつんとぶつけるジン達。

 

 それを見て、同世代の仲間が増えた事を喜ばしく見守るエレやポレロ達。

 

 わいわいと楽しそうに会話しつつ、時折心底楽しそうなジンの笑顔に顔をそむけては鼻を拭い、その手を真っ赤に染めていくローに苦笑する一同。

 

 やがて……再び形式上の挨拶を交わして城の門を抜け、謁見の間へと案内される事となる。

 

 開門の言葉と共に門があけ放たれ、王の席へと続く赤いじゅうたんを踏みしめる一同。

 

 ──威風堂堂。

 

 王座に座るストラ王が、膝を付いて招集を終えた報告をするローに対して労いの言葉をかけて傍に控えさせ、膝を付き、顔をそろえたジン達の顔をあげさせる。

 

 形式ばった挨拶と報告が行き交い、ジンが事を成し、ディアスが完全に復活した事、【ソーウルファン】との戦い等、【ブロラハン】で起こった事の詳細が告げられ、ポレロがそれを補足しつつも報告を終え──

 

「──見事。よくぞ【黒い翼(ブラックウィング)】を癒してくれた。【蒼髪の女神(ブルー・ディーヴァ)】、ジン=ソウエンよ! 前の報酬に家の建てなおしは行ったが……追加の報酬も考えなければならんな」

「……ならば……お願いしたき義がございます」

「ほう? 申してみよ」

 

 今や生きた伝説として名高い、武器工であり、【黒い翼(ブラックウィング)】の字名を持つ【闘士(ヴァール)】の復活という偉業を成し得たジンに対し、手放しの称賛を贈るストラ王。

 

 家を建て直し、診療所としたのはカイン戦の報酬であり、それとはまた別に報酬を用意しなければならないなと思考する中、欲のないジンが珍しく願いがあると告げたのだ。

 

 以外そうな顔でジンの顔を見ながら、その願いを聞く事にすると──

 

「──私の字名、【蒼髪の女神(ブルー・ディーヴァ)】と診療所の名前【女神の癒し(ディーヴァズ・ヒール)】の改名を──」

「ふむ、却下じゃな」

「早い! 早すぎるでしょ!? なんで食い気味に却下したの?!」

 

 真剣な顔で告げられたその一言を聞いて、真顔で即答するストラ王。

 

 全部言うまでもなく却下された事に、思わず食いついてしまうジンを慌てて宥めるガウが後ろから抱きとめる中──

 

「──なぜならば……既に民に、いや、この聖王国全土にその名が知れ渡り、既に隣国にまで名が知れ渡っておるからじゃ。それに何より──」

「何より?」

 

 不満げなジンに手をあげて制止を求め、言葉を続けるストラ王。

 

 そう言えばと、【ソーウルファン】もジンの事を【蒼髪の女神(ブルー・ディーヴァ)】と呼んでいたと告げるエレの言葉に絶望的な表情を浮かべる中。

 

 顔をキリリと引き締めたストラ王はこう言った。

 

「──この上もなく、似合っているからじゃ!」

─『──確かに』─

「……──似合ってるからじゃ、じゃな~~い! 何このはっちゃけじじい! ノリで人の字名決めるんじゃな~い! みんなも納得するなあああ!」

「だ、だめだよジン! 王様にそんな口きいちゃ!」

「ええい、離せガウ! この気持ち……骨格強制をしなければおさまらないっ!」

「はっはっは、そう怖い顔をするでない、ジン=ソウエンよ。【蒼髪の女神(ブルー・ディーヴァ)】よ。可愛い顔が台無しじゃぞ?」

「──うがああああああああああ!」

「うわああああああ?!」 

─『ちょ?!』─

 

 あまりに説得力のある言葉に素直に頷く一同と、その理由にプチっと切れるジン。

 

 慌ててガウがジンを後ろから羽交い絞めにする中、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて挑発じみた言葉をかけた事により、ジンの忍耐が限界を突破する。

 

 腕を振り、ガウの羽交い絞めを振りほどいて空中に投げ放ち、蒼い輝きとなって王座に吶喊するジン。

 

 慌ててエレがガウを受け止め、ディアスが制止の言葉をかけるのも聞かず、既にジンはストラ王の間合い内へと間合いを詰めていた。

 

(──! なるほど、確かに早い。だが……まだ荒いな)

 

 字名の由来、【鷹の目(ホーク・アイ)】を細くし、カインを打倒したジンの動きを補足するストラ王。

 

 即座に迎撃の準備を整え、掴みかかろうとするジンに対して【表技】を使用しようとしたところで──

 

「こらこら、オイタが過ぎるでしょ、【蒼髪の女神(ブルー・ディーヴァ)】」

「は~な~せ~!」

「──【片目(ワンアイ)】か」

「余り挑発なさいませんよう。いつもこうして守れる訳じゃないんですから」

 

 ──神瞬拿捕。

 

 誰の目にも止まらぬほどの速さで、どこからともなく現れた【片目(ワンアイ)】がジンを羽交い絞めにしていた。

 

 あまりの早業にエレ達が絶句する中──

 

「久しぶりだねヴァイ(・・・)。それは何の仮装だい?」

「……おいおい、空気読めよディアス。折角謎の密偵気分を味わってたっていうのに……」

 

 穏やかな声で【片目(ワンアイ)】にそう声をかけるディアスに、呆れと苦笑を浮かべた声で返し、溜息と共に顔にかかった包帯を指先で切り裂く。

 

 はらはらと包帯が解けて地面に落ち、その左頬に現れるのは……斜めに走る刀傷。

 

「っ!? それ……は!」

「クルディアス、顔に走る刀傷……クルダの英雄! 【刀傷(スカー・フェイス)】?!」

「御名答。あ~礼とかはいいからな? めんどくさいし。気楽にいこうや」

 

 慌てて礼を取ろうとするガウとエレに対し、軽く手を振ってやめるように促すヴァイ。

 

 それを見て苦笑するディアスとポレロではあったが──

 

「相変わらず、政務を抜け出してきたのですね? ……後でフォルス殿にご報告申し上げなければ」

「それはいいっこ無しだぜポレロ?! そ、それに今回はきちんと聖王女の御威光で出向いたんだ。それなら文句ないだろう?!」

「まったく……後でどうなっても知りませんよ?」

 

 基本的に聖王国の護りについているはずのヴァイがここに居る事に疑問を持ったポレロがカマをかけ、それに慌てたヴァイがボロを出しつつもそれを訂正。

 

 苦笑を浮かべて溜息をつくポレロに、フォウリィーが驚きを持って迎える。

 

「……ああ、そういえばフォウリィーには紹介していませんでしたね。ディアスの件でいろいろと話し合い、友になったのですよ」

「──驚いたわ。まさかクルダの英雄と貴方がお友達だったなんてね」

 

 そして──

 

 ──異寄変音。

 

「ぐ、ぐああああ?!」  

「お、お師匠様ぁああああああ?!」

「あ、しまったああ?!」

 

 ポレロの指摘に焦り、ジンを手放してポレロを指さすといった動作を行っていたヴァイの手から逃れたジンは、正体を明かしたヴァイ達との会話を聞きいっていたストラ王の背後に穏行を持って回りこんでいた。

 

 はっと気がついたときには時既に遅く。

 

 迎撃の為に放った裏拳が掴まれたかと思うと、その手はたこのようにぐにゃりと垂れ下がり、その早業に思わず痛みを忘れて冷汗を流すストラ王が横目でジンの姿を目に捕えた瞬間。

 

 ──そこには修羅の如き暗黒面を背負い、髪を逆立てた羅刹がいた。

 

 普段の愛らしさとのギャップに戦慄を感じた瞬間には既に事が始り……ストラ王は座っていたはずの王座から空中に浮き上がり、まるで千手観音よろしく手が分身して視えるほどの手さばきで次々と全身の骨格が、間接が強制的に外され、曲がっていく。

 

 ジンらしからぬ奇怪な叫び声をあげながら、ボキだの、ベキだの、聞くに堪えない音が響き渡り、呆気にとられたまま、助けようとして手を伸ばしたまま固まるローとヴァイの目の前で──

 

「──骨格強制、完了。ふ~!」

 

 ──その顔は、まさに充実満足。

 

 やり遂げた顔であり、実に生き生きと輝いていた。

 

 そして……逆に、骨格強制を決められてしまったストラ王はというと──

 

「お、おいじじい! しっかりしろっ!」

「お、お師匠様ぁあああ?!」

「……うわあ、いい顔だあ……」

「ストレス溜まってたのね……大丈夫かしら、一国の王にあんなことして……」

「あ~……まあ、王の自業自得だしなあ……」

「驚きました。ジンくんのあんな顔、初めてみましたよ」

「……なるほど。普段優しい人が怒ると怖いというのは本当だね……久々に冷汗をかいたよ」

 

 ──骨格強制が始まった時と同じように王座に戻され、白目をむいて口から何かを吐き出していた。

 

 慌ててヴァイとローが駆けよる中、にこにことしたジンに対し、口々に個々の感想を述べながらもジンを迎え入れ──

 

「し、死ぬかとおもったわい……」

「じ、ジン=ソウエン! 貴公──」

「あ~、やめろってロー。今のも分類上(・・・)は治療なんだよ。体、軽くなったろ?」

「──ふむ、確かに。……しかし、自身の体が動かなくなるなど……【修練闘士(セヴァール)】になってからは久しく感じなかった異常じゃぞ。あれだけ体が痛みを訴え、軟体動物になるなど……二度とされたくないわい」

「──そうですね。出来れば二度目はないようにお願いしますね?」

「……う、うむ。肝に銘じておこう」

「笑顔なのに怖いって……初めての経験だな……」

 

 どうにか意識を取り戻したストラ王が疲れたような声を絞り出し、それに怒りをあらわにしてローがジンを指さすものの、ヴァイがそれを制してストラ王に体の調子を尋ねる。

 

 肩を回したりと体の調子を確かめる中、驚いたような表情で両手を握りしめるが……その顔は複雑な者が浮かんでおり……にっこりと笑顔で話しかけるジンの言葉の中にある本気を悟ってやりすぎた事を自覚する。

 

 傍にいたローが引き気味にジンに反応する中……ようやく場の混乱が収まった事により会話が進む事となった。

 

「──相分かった。ブロラハン再建も今は手が回らぬ。如何ながら放置するしかあるまい」

「申し訳ありません。それで……鍛冶場の件なのですが」

「【黒い翼(ブラックウィング)】に鍛冶場を頼まれて断る愚か者などおるまいよ。この地下にある鍛冶場を使うとよい。代々クルダの【修練闘士(セヴァール)】の武具を作り上げてきた鍛冶場じゃ。お主の腕に見合うといいのじゃがな」

「ありがとうございます、王」

 

 まず、ディアスが王にあてがわれた地、【ブロラハン】の放棄を詫び、予定調和のごとくそれを不問とする。

 

 やはり元々はディアスの静養の地として選んだだけであり、【ソーウルファン】からの抑止として【黒い翼(ブラックウィング)】の名を使っていただけだったようだ。

 

 しかしその名が【ソーウルファン】を呼び寄せるとなれば話は別。

 

 現状、【黒い翼(ブラックウィング)】がクルダに戻ったという事は利点だらけである。

 

 戦力としての【黒い翼(ブラックウィング)】も大事ではあるが、最も大切なのは武具師としてのその腕前。

 

 しばらくその腕を振う事すら出来なかったようだが……リハビリを経れば存分に振えるようになるとか。

 

 ディアス自体、やりたい事があるとの事でやる気を見せており、しばらくはお抱えの鍛冶師がいなかった為、火の灯らなかった地下闘技場内の鍛冶場の活気が戻る事だろう。

 

 ディアスの願いはストラ王としても願ったりであり、即座に地下の鍛冶場を使う事を承認する。

 

 会話が進む中、詳細を聞いていたヴァイがストラ王と一瞬視線を交え、会話を締めくくりつつもローに金貨を渡し、ジン達に何か美味しい物を食べさせるようにと言い含めて退出させる。

 

 そして、その場に残るように言われたエレとディアス、ポレロがその場に残る中──

 

「──やはり動くか、【ソーウルファン】」

「そのようですね……まさか、【ブロラハン】近郊にまで。しかも500人からなる軍隊。……周囲の国々が同盟を結んでいるというのも、あながち嘘ではなさそうですね」

 

 静寂を破り、ストラ王が鋭い視線を宙空に向け、拳を握りしめる。

 

 それは先程までとは打って変わり、【修練闘士(セヴァール)】であり、その字名に相応しい貌であった。 

 

 それを見てポレロもまた、その柔和な顔に深刻さを浮かべ、顎に手を当てて考え込む。

 

「カインの件もそうだ。そして……今回のディアス。いよいよをもってきな臭くなってきやがったな。……デカい動きがあるかもしれねえ」

「……戦争、ですか」

「っ!!」

「──うむ。聖王女様もそれを懸念しておいでだ。……他国の包囲網による……聖王国アシュリアーナの一斉攻撃。──【聖国破壊戦争】。どうやら影に隠れて暗躍する輩がいるようじゃがな」

─『…………』─

 

 ──聖王国アシュリアーナ。

 

 クルダを含む四王国と、空に浮かぶ聖地ジュリアネスで構成されたこの国は……四方八方を他国に囲まれた場所でもある。

 

 他国が手を繋ぎ、【神力魔導】という、得体の知れぬ力を扱う事が出来るこのアシュリアーナを落とそうとする動きが、近年活発になってきているのだ。

 

 カインの件もしかり、今回の【ソーウルファン】然り。

 

 各国が国境沿いの【灰色の境界(グレー・ゾーン)】に人を配備してはいるものの……四方八方全てに手が行き届くわけでもなく、必ず穴が存在しているのである。

 

 そして……他国が手を結べば、一国が不穏な動きをして注意を引き、意図的(・・・)にその穴を作り出す事が出来るのだ。

 

 王の語る最悪の結末に、顔を険しくする一同。

 

「近いうちに、それは現実なものとなるじゃろう。……今は一人でも多く、優れた【闘士(ヴァール)】を育て、これから起こるであろう、戦という嵐に備えねばならぬ」

「……時間は待ってはくれない、か」

「駄目だぜ、兄貴。ジンに怒られたくないだろ?」

「フッ……わかっているさ」

「焦る事はねえさディアス。嵐の盾になるのは……いつだって先達と決まってるんだからよ。さろう?」

「ああ、そうだなヴァイ。──()も、動けるようになり次第、鍛え直す必要がありそうだ」

 

 ストラ王が真っ直ぐに、出ていったジン達を幻視するかのように扉を見据え……その視線を追って一同が扉を見つめる。

 

 その先にあるのは……自身の教え子か、あるいは自分達の護るべき民か。

 

 ある種の決意を感じさせる強者達は、沈黙を持って唯ひたすらに先を見据えるのだった。

 

 

 

 

 

 ──それから数日。

 

 新たに出来あがった診療所にて治療を再開し、再び注文された呪符を作る日常に戻ったジン達。

 

 毎朝の【流()法】に加え、軽い動きでエレとディアスがガウに【クルダ流交殺法】を指導する傍ら、ジンとフォウリィーはコア=イクスと共に着々と【呪符魔術士(スイレーム)】としての腕前を上げていた。

 

 同時作成出来る最大数が増え、あの無謀な術式制御により、飛躍的に腕の上がったジンと、【光癒】と【診析】を作成できるようになったフォウリィー。

 

 コア=イクスもまた、徐々にではあるが分割された【光癒】を複数同時起動出来るようになるまでに腕をあげており、本人自身が一番驚いていたりしたのだが。

 

 通常よりも治療時間が短くなり、大量に呪符を作成出来るようになった為、より時間が取りやすくなったジンは──

 

「──どうですか? ディアスさん。打ち直し……出来るでしょうか?」

「……これは……なるほど。キシュラナで剣の手ほどきでも受けてきたのかい?」

「はい。小さい体ではリーチが足りないので、武器という選択肢もありだろうとの事で習いました」

「なるほど。……そこでも才能を発揮したんだね。砕けてはいるが……この剣には『心』がある。久しく見ない、いい剣だよ」

 

 午後の鍛錬はガウとエレで行うとの事で、柔軟をしつつ一休みをしていたディアスに対し、元々訪れる理由であったあの折れた【士剣】を見せ、鍛え直せるかどうかを問うジン。

 

 欠片の一つ一つを丁寧に布で掴みあげ、通しや断面等、真剣な目で見つめるディアスが感嘆の声を漏らす。

 

 欠片の一つ一つを繋ぎ合わせ、剣の形にまで復元した後、一つ頷くディアスがいった言葉は──

 

「──材料が足りない、ですか?」

「そうなんだ。ジン君には話していたと思うけど……あの体ではとてもじゃないが槌が振れなくてね。懇意にしていた鉱山からも鉱石の取引をやめていたんだよ。それで……この剣を作る材料が足りないんだ」

「唯の鉄や鋼では駄目なんですか?」

「それはこの剣の『心』に相応しくない。……この剣、【キシュラナ流剛剣()術】の【士剣】なのだろう? 志高い【左武頼(さぶらい)】の剣が唯の鉄や鋼ではね。まして……私には君が振うであろうこの剣を、【黒い翼(ブラックウィング)】同様、最高の出来にして渡す恩がある」

「ディアスさん……」

 

 それは、預けた【士剣】と、ディアスの武具職人としてのプライドをかけた言葉であった。

 

 ジンは、恩人というだけではなく、明らかに発展途上の【闘士(ヴァール)】であり、その実力は未知数。

 

 そんなジンの身を守る為に、また来たるべき戦いの為に、ディアスは生半可な物を渡す気はなかったのである。

 

 それ故、ジンが自分を見つめる中で、目の前の『心』をいかにして鍛え上げるかを思考し続けるディアス。

 

 そして──

 

「まず、絶対に必要なのは……芯となる剣。同じく『心』を宿した、折れていてもいい、砕けていない剣が欲しい。そして……【蒼魔鋼(フレヴサファイア)】という鉱石がいいだろうね。【蒼魔鋼(フレヴサファイア)】は【自然力(神力)】を宿すと言われる鉱石の一つで、その純度が高いほどより美しく、蒼く輝く性質を持っている。これで作った武具は、使用者の使う力を余すところなく受け止め、伝達物質としても優れた性質があるんだ。単体では硬いが脆い。だけど……良質な鋼と混ぜ合わせると、それに粘性が生まれ、撓る事で折れないという性質が加わるんだ」

「剣と……【蒼魔鋼(フレヴサファイア)】……剣は分かりますけど、その鉱石はどこで?」

「産出国はキシュラナとフェルシアだね。ただ……キシュラナは現在、エレとのいざこざで聖王女直々に接触を禁じられているはず。いくならフェルシアがいいだろう」

「なるほど……」

 

 キシュラナと聞いて、再びザキューレさん達に出会えるかと淡い期待を抱いたものの、隠す事にしたとはいえ【四天滅殺】同士の戦いがあったともなれば、流石に短期間での接触は認められないのだろう。

 

 やや肩を落としつつも、まだ見ぬ土地に期待を膨らませるジン。

 

「丁度いい。前から取引していたのがフェルシアの採掘場だったんだよ。フェルシアは魔道都市で、鉱石の使用方法といえばもっぱら術式の為の触媒でね。そこに武具職人の私の要望は渡りに船だったらしくて……よく鉱石について意見を交わしたものだよ。まあ……私の体がああなってしまってからは連絡を取っていないのだが……そうだね。久しぶりに手紙を書いてみよう。きっとあの親父さんなら取り扱ってくれるはずだ」

「はいっ!」

「──すまないね。本来であれば私自身が出向けばいいのだが……如何せん、私も国外には出れないのでね」

「いえ、作ってもらえるなら、この程度どうという事はありませんよ!」

 

 ──このクルダから出るにしても、【修練闘士(セヴァール)】のエレは当然の如く国内謹慎中であり、ディアスも無理は聞かない身体で、尚且つこの間狙われた身の上である。

 

 フォウリィーはコア=イクスと共にこの診療所を切り盛りしてもらわねばならず、ガウはフェルシアとクルダを往復する体力に問題がある。

 

 となれば……有名になってはしまったものの、自由の聞く自分の身一つでいくのが妥当であり、鉱石調達の為に分厚い革製の大きなバッグを背負い、翌日の早朝、皆と【流()法】の日課を行った後でフェルシア目掛けて旅立っていくジン。

 

 ──蒼焔疾走。

 

 それは、蒼い焔が走り抜けるが如く。

 

 瞬く間に小さくなっていく背中を見据え、エレとディアスが視線を交わす。

 

「あの脚力……【影技】に耐えうる下地は十分だな」

「だな。しっかし……あんなに小さいのになあ……」

「……希有な才能は……子供である時間すら奪うものなのかも……しれんな」

「……せめて、ガウやロー達と関われる時間を多くしてやんねえとな。ライバルってのも、強くなるのに必要なもんだしなっ!」

「ああ……そうだな」

 

 ──既に同格と言われる【リキトア流皇牙王殺法】や【キシュラナ流剛剣()術】等を習得済みのジンである。

 

 当然の如く【クルダ流交殺法】を学ぶ下地は出来あがっており、今回の件を終えれば、順調に治療を続けてきた自分の体も動かせるようになる為、ジンをガウと共に鍛え上げる事を決めるディアスとエレ。

 

 政務で忙しいストラ王に代わり、ディアスがローを指導するという事も含まれている為、せめて三人で高めあう事を願いつつ……家路につく二人。

 

 そして……それを見つめる、もう一組の影。

 

「──やれやれ。自分も重要人物だってのに、ジンは本当に腰が軽いねえ」

「仕方ありませんよ、まだ子供なのですから。興味半分で動いてしまうのも無理はありません」

「貴方……職権乱用なのはわかっているわ、でも……ジンを気にかけてあげて頂戴」

「大丈夫ですよフォウリィー。元々ジンくんは私が担当を仰せつかっています。あまり露骨な介入は出来ませんが……いざとなれば私が【神力魔導】を使った事にして(・・・・・・)言い分を成り立たせます。──絶対にあの子を見捨てたりなどするものですか」

 

 同時刻に、聖地に政務に戻らねばならなくなったポレロが、報告書をまとめたヴァイと一緒にジンを見送りつつ、軽くため息をつく。

 

 夫を見送る為にやってきたフォウリィーがそう懇願するのを聞きつけ、フォウリィーの頬に手を当てて微笑みつつ、力強くそう断言するポレロ。

 

 ──歪曲現扉。

 

 【(ワンド)】を振い、【(スタッフ)】と化した得物を持って、【神力魔導】を行使して空間を歪め、【(ゲート)】を作り出すポレロが門を開き、ヴァイを伴って聖地へと帰っていく。

 

 手を振り、別れを告げるポレロと、後ろでに軽く手を上げて挨拶するヴァイ。

 

「──お願いね、貴方。ジン、無茶するんじゃないわよ。必ず、無事に」

 

 今回は誰もお伴を連れずに旅立ったジンに対し、祈るようにそう呟くフォウリィー。

 

 油断なく呪符を用意させたものの、燻ぶる不安は消える事なく。

 

 夫とジンというぬくもりが無いことに悲しげな表情で帰宅するフォウリィー。

 

 やがて、診療所の仕事に忙殺され、さみしさを忘れる為に仕事に没頭する事となる。

 

 ──こうして、ジンの久々の一人旅が始まったのであった。

 

 

 

 

 

登録名【蒼焔 刃】

 

生年月日  6月1日(前世標準時間)

年齢    8歳

種族    人間?

性別    男

身長    140cm

体重    34kg

 

【師匠】

カイラ=ル=ルカ 

フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザー 

ワークス=F=ポレロ 

ザル=ザキューレ 

 

【基本能力】

 

筋力    AA+    

耐久力   AA 

速力    AA+ 

知力    S+ 

精神力   SS+   

魔力    SS+ 【世界樹】  

気力    SS+ 【世界樹】

幸運    B

魅力    S+  【男の娘】

 

【固有スキル】

 

解析眼    S

無限の書庫  EX

進化細胞   A+

疑似再現   A  

 

【知識系スキル】

 

現代知識   C

自然知識   S 

罠知識    A

狩人知識   S    

地理知識   S  

医術知識   S+   

剣術知識   A

 

【運動系スキル】

 

水泳     A 

 

【探索系スキル】

 

気配感知   A

気配遮断   A

罠感知    A- 

足跡捜索   A

 

【作成系スキル】

 

料理     A+   

家事全般   A  

皮加工    A

骨加工    A

木材加工   B

罠作成    B

薬草調合   S  

呪符作成   S

農耕知識   S  

 

【操作系スキル】 

 

魔力操作   S   

気力操作   S 

流動変換   C  

 

【戦闘系スキル】

 

格闘            A 

弓             S  【正射必中】

剣術            A

リキトア流皇牙王殺法     A+

キシュラナ流剛剣()術 S 

 

【魔術系スキル】

 

呪符魔術士  S⇒S+ New   

魔導士    EX (【世界樹】との契約にてEX・【神力魔導】の真実を知る)

 

【補正系スキル】

 

男の娘    S (魅力に補正)

正射必中   S (射撃に補正)

世界樹の御子 S (魔力・気力に補正) 

 

【特殊称号】

 

真名【ルーナ】⇒【呪符魔術士(スイレーム)】の真名。 

 自分で呪符を作成する過程における【魔力文字】を形どる為のキーワード。

左武頼(さぶらい)⇒【キシュラナ流剛剣()術】を収めた証

蒼髪の女神(ブルー・ディーヴァ)】⇒カインを斃し、治療した事により得た字名。

 

【ランク説明】

 

超人   EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS 

達人   S⇒SS⇒SSS⇒EX-  

最優   A⇒AA⇒AAA⇒S-   

優秀   B⇒BB⇒BBB⇒A- 

普通   C⇒CC⇒CCC⇒B- 

やや劣る D⇒DD⇒DDD⇒C- 

劣る   E⇒EE⇒EEE⇒D-

悪い   F⇒FF⇒FFF⇒E- 

 

※+はランク×1.25補正、-はランク×0.75補正

 

【所持品】

 

呪符作成道具一式 

白紙呪符     

自作呪符     

蒼焔呪符     

お手製弓矢一式

世界樹の腕輪 

衣服一式

簡易調理器具一式 

調合道具一式

薬草一式       

皮素材

骨素材

聖王女公式身分書 

革張りの財布

折れた士剣          


 
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