No.599819

天馬†行空 三十四話目 誓いの灯火

赤糸さん

 真・恋姫†無双の二次創作小説で、処女作です。
 のんびりなペースで投稿しています。

 一話目からこちら、閲覧頂き有り難う御座います。 
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2013-07-21 00:16:32 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6153   閲覧ユーザー数:4390

 

 

 雲南と江州の境に張られた陣。

 太陽が中天に燦然と輝く時刻、陣中央に張られた天幕内にはだらけた様子の男が居た。

 

「あ~…………暇なもんだ」

 

 男の名は鄧賢(とうけん)と言い、東州兵の一人である。

 彼は今、荊州から進攻して来た董卓軍……ではなく、雲南の雍闓が董卓の動きに呼応するのでは? と考えた王累の命によって兵一万五千を率いてここに駐屯していた。

 東州兵の例に漏れず、彼もまた傲岸不遜で特権意識を持つ人物である。

 

「ったくよぉ……南の蛮人どもなんざ放って置けばいいじゃねえか。こっちから攻めて一年以上経ってんのにやり返してこないんだぜ? なら向こうから来る訳ねえじゃねえかよ……ふわああああああああ~っ、とくらぁ」

 

 大口を開けて欠伸をし、鄧賢はぼりぼりと尻を掻く。

 実際、ここに陣を張ってから十日経つが雲南の兵は動く気配をまったく見せず、初めの三日くらいは多少の緊張感を持っていた鄧賢とその兵だったが、五日、七日と過ぎると完全にだらけきってしまっていた。

 つい先程も放っていた斥候からの報告で異常が無いのを確認していた鄧賢は、貧乏くじを引かされたと悟り、退屈な時間を持て余している。

 

「ちっ――あー、くそ! 王累の野郎もこんな辺境の守りなんざ他の奴にやらせりゃ良かったんだよ!」

 

 他の同僚たち――冷苞や李異(りい)ら――が対董卓戦に備える為、涪城に出撃していることを知らされていた鄧賢は手柄を立てる機会を失われた、と嘆いていた。

 イラつきを紛らわせる為に用意した酒も無くなり、鄧賢は空になった器を苛立たしげに放り投げる。

 酒杯は天幕にぶつかり、地面に落ちて音を立て――

 

 ――うわあああああああああああああああああああっ!!!??

 

「な!!? なな、何事だっ!?」

 

 天幕の外から兵士達の動揺の叫びが聞こえてきたのが同時。

 酔いが回っていた鄧賢がふらつきながらも天幕の外に出ると、そこには信じがたい光景が広がっていた。

 

「うらァ!! どけどけぇ!!!」

 

「はっ! 雑魚共が群れるんじゃねえ!!」

 

 ――いつの間に現れたのか。

 

 謎の軍団に自軍が蹂躙されている。

 先頭に立つのは、燃えるような赤い髪を振り乱し戟片手に所狭しと駆け回る少女と、風車の如く鉄槌を振り回す巨漢。

 

「――斃れろ」

 

「そらっ! ――って、随分弱いね。やる気あるの君達?」

 

「竜胆ちゃんと蓬命ちゃんを援護します! 歩兵隊、突撃っ!」

 

 左翼と右翼からそれぞれ将と思しき少女達に率いられた部隊が混乱する自軍を切り裂いていく。

 

「私の舞の相手をするには些か品に欠けるな。……せめて散り際ぐらいは潔くあってくれよ?」

 

 そして中央からの隊を率いる雪のように白い肌の女性。

 彼女の白に映える朱色の扇が群れなす兵士達を地に沈めていく。

 

 ――何故だ。

 

(こいつらは何だ!? いや、それよりどこから現れた!? 何で俺達が襲われている!?)

 

 酒の回りきった頭で鄧賢は必死に思考をめぐらせる。

 

 ――何故だ?

 

「はっ! 話にならねえなぁ、劉璋の犬共!!」

 

「オウ、さっさと片すぜ。次だ、次!」

 

(物見は何をしていた!? 斥候は何を見ていた!? どうして敵がここにいる? 空から現れたとでも言うのか!?)

 

 今しも倒れゆく自軍の兵士達をよそに、鄧賢は埒のない自問自答を繰り返していた。

 

 ――何故だ!?

 

(く、くそ! 何をしている! さっさと迎撃態勢を取らないか! この屑共が!)

 

「げ、迎撃だ! お前達、迎撃態勢を取れ! 敵を打ち払うんだ!!」

 

 ふらつく頭と足に力を入れて、号令を発する鄧賢。

 

 

 

 

 

 戦場より少し離れた丘。

 そこには『雍』の旗を掲げた百名程度の小規模な部隊が待機していた。

 

「上手く事が運んでいますね……さて、予測の通りならばそろそろ――」

 

「――ご注進!」

 

 丘から戦場を見下ろしていた朱色の髪の少女が呟くと同時、伝令が駆け込んで来る。

 それを見て、法考直は口元に笑みを浮かべて一つ頷いた。

 

「来ましたか」

 

「はっ! 北側に潜伏していた五千の敵軍が動き出しました! 鄧賢の部隊と合流する様子を見せております!」

 

 すでに予想済みと言った風に尋ねる夕の前に、片膝を着いた伝令が素早く報告する。

 

「解りました。――では合図を」

 

「了解しましたっ!」

 

 夕の命を受け、戦況を動かすべく兵士が走り始めた。

 

 

 

 

 

「やはり雲南の軍は動いたか。王累殿の予想通りだな」

 

 混乱する鄧賢の陣の後方から救援せんと急ぐ軍がある。

 成都の王累から念の為、と後詰めを命じられた五千の軍。

 率いるのは鄭度(ていど)と言い、文官ではあるが前線にも赴ける気概のある人物である。

 

「鄧賢殿の軍に助勢する! 皆の者、行く――」

 

 今にも潰走しそうな鄧賢の軍を見据えたまま、鄭度は号令を発しようとした。

 

 ――にゃああああああああああああああああああああっ!!!!!!

 

「南蛮大王孟獲、ただ今さんじょーにゃー!!」

 

「――な、にぃッ!!? が、は……っ!」

 

「鄭度様っ!?」

 

 横合いからの衝撃を受け、鄭度は落馬する。

 鄭度の不幸は二つあった。

 一つは、鄧賢の陣にのみ注意を払っていた事。

 そして二つ目は、自軍の後方から敵が来るなどとは想像もしていなかった事だ。

 号令を発した瞬間、雄叫びと共に獣のような姿をした奇妙な軍が現れた。

 そして、その軍の先頭に立っていた孟獲と名乗る白い毛皮を纏った少女が振るった杵が鄭度の横っ面を張り飛ばす。

 馬から叩き落され、地面を二度跳ねた鄭度はそれっきり動かなくなった。

 

 

 

 

 

 そして、主戦場へと話を戻す。

 

「ちっ――! くそ、どきやがれっ!」

 

 鄧賢の軍の混乱は、最早収拾がつかない状況となっていた。

 殆ど何も出来ないまま討ち取られていく兵卒達を尻目に、鄧賢は僅かな取り巻きをつれて戦場からの逃走を図るべく行動している。

 

「邪魔だっつってんだよ! さっさと道を開けやがれ! 俺はこんなつまらん戦いで死んで良い器じゃねえんだ!!」

 

「自分の器を自分で語るか……さて、汝はそこまでの将器を持つ者かな?」

 

 行く手を遮る南中の兵を斬り倒しながら進む鄧賢の先には、朱色の扇子で口元を隠す白い佳人の姿があった。

 舌打ちする鄧賢だが、相手が一人なのと自分の取り巻きが全員着いて来ているのを確認し、余裕の笑みを浮かべる。

 率いる取り巻き共々、舐めるような視線が佳人の豊満な肢体を這っていた。

 

「ああそうさ……俺はこんなところで腐ってる将軍じゃねえ。冷苞の糞アマや腰抜けの龐義よりも上にいるべき人間なんだよ!!」

 

 同僚を口汚く罵りながら、鄧賢は腰の刀を抜き放つ。

 

「女、選ばせてやる。今すぐ降伏して俺の物になるか、それともここで屍を晒すか……さあ、選ぶが良い!」

 

 下卑た笑みを浮かべながら剣を突きつけて宣言する鄧賢の姿に、佳人――建寧太守、朱褒――は頭痛を堪えるように頭を振った。

 

「…………これでは山賊と変わらんな。上に立つ劉焉、劉璋の器が知れる」

 

 そのまま、深い溜息と共に朱褒は扇子を閉じる。

 身に纏う白い着物の長い袖が風にふわりと舞い上がり、袖口に縫い取られた赤い線が鮮やかな稜線を空に描く。

 まるで動じない朱褒を見て、畜生達は怒りを露にした。

 

「舐めやがって……構いやしねえ! 野郎共、やっちまうぞ!!」

 

『おおっ!!!』

 

 欲望に飢えた十匹の野獣が白い花に飛び掛らんとしたその時、

 

「――散れ」

 

 ――どかっ!!

 

「があああっ!?」

「げえっ!!?」

「――ぎひぃっ!?」

 

 飾りの無い、無骨な眉尖刀が三人を断ち斬り、

 

「せぇ~~のっ!!」

 

 ――ごっ! がっ! どっ!

 

「ぎゃがっ!?」

「うごっ!!?」

「ひいいっ!?」

 

 肘打ちから裏拳、正拳突きと繰り出された連撃が三人を吹き飛ばし、

 

「おーじょーせいやー!!」

 

 ――斬っ!

 

「のごぉっ!!?」

「ぎゃっ!? ひいっ、腕がっ! 俺の腕があっ!!?」

「嫌じゃあああっ!!?」

 

 素早い身のこなしで飛び込んで来た小柄な影が三人を斬り倒す!

 

「な……んだと……っ」

 

 瞬く間に地に伏せた九人の部下達と、現れた三人の少女を見て畜生たちの頭目は狼狽した。

 

 眉尖刀を振るい、刃に着いた血を払う少女――張嶷こと竜胆。

 

 奇妙なほどに低い体勢でこちらを睨む少女――馬忠こと蓬命。

 

 子供のような背丈ではあるが、酷薄な視線を突き刺してくる少女――李恢こと輝森。

 

 三者三様に威圧してくる少女達を見て、鄧賢はただ圧倒される。

 

「余所見をしている余裕があるのか?」

 

「…………な、なにっ!? ぶ――っ!?」

 

 硬直する鄧賢は懐に潜り込んで来ていた朱褒に気付けず、鉄扇の一撃で頚椎を砕かれた。

 

 

 

 

 

 ――この後、指揮系統を失った劉璋軍は一時辰(約二時間)と経たずに制圧されることとなる。

 全ては、劉璋軍の動きを読み切っていた法正の軍略と、獅炎や墨水、竜胆たち武官の活躍の賜物だった。

 鄧賢の陣を取り、一日休養して英気を養った獅炎達南中連合軍は行軍を開始する。

 董卓軍を援護する為、何より盟友である一刀と星の力となる為に――。

 

「よっしゃ行くぞ野郎共っ!! オレ達で北郷と子龍を助けるんだ!!」

 

 ――雄オオオオオオオオオオオオオ大オオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!

 

 まるで獅子の鬣のように、紅の髪を風に靡かせる獅炎に激されて集う将兵は皆雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 巴郡の城、玉座の間にて。

 

「では、雲南で鷹を退けた”好敵”とはお館様たちであったか!」

 

「あの鷹将軍を……。確かに本人からは雲南で負けたと聞いていたが…………未だに信じられない」

 

 車座になって軍議をしている最中、劉璋配下の将軍について桔梗達に尋ねると真っ先に出てきた名前が張任さんだった。

 この益州では、劉焉が太守となる以前から侠客として名を馳せていた人物とか。

 桔梗と紫苑にとっては友人。焔耶にとっては桔梗同様、師にあたる人らしい。

 

「兵を率いる才――特に森や山での戦いで鷹の右に出る者はいません。此度の戦いは涪城が主となるでしょう……城へと通じる道には該当する箇所が幾つも在ります」

 

 たおやかな仕草で口元に手を当て、紫苑が発言する。

 

「まず間違いなく伏兵がありますねー」

 

「とは言え、迂回していては時間が掛かりすぎます。ならばここは複数の道から同時に行軍すべきでしょう」

 

「兵糧もそこまで余裕がある訳じゃないからなあ」

 

 俺達が荊南に着いてからあまり期間が経ってないので、兵糧の蓄えはそんなに多くはないのだ。

 ひと月で内務が進んだとは言え、お金やお米がすぐに蔵一杯になる訳もない。

 今回の戦の後、巴郡に住む人達から兵糧を供出するとの申し出が有り、提示された量の半分を貰った。

 残り半分は街や農村部の人達に返したらどうかな? と言うと、稟や風、桔梗たちからも賛成されたのでそうしている。

 この戦いでは劉璋軍に勝つ事も大事だが、それ以上に益州の人達に董卓軍は劉焉や劉璋とは違うことを知ってもらう方が大事だ。

 その為には多少の我慢や無理を強いられることくらいは、全員覚悟して来ている。

 ……半分ほど兵糧を貰ったのは、彼等の厚意を断りきれなかったからだ。

 それでも、兵糧に余裕があるわけじゃない――出来うる限り、早めに決着を付けないと。

 

「では、手筈通りに私と桔梗、焔耶ちゃんが先行します」

 

「いや、紫苑はここに残――」「――お断りしますご主人様」

 

 そして、なんでか頑固に俺達に着いて来ると言い張る紫苑――そうそう、あの後すぐに彼女からも真名を預かっている。

 しかも、なんでかご主人様とか呼ばれてるし――、

 

「それとも、ご主人様はわたくしがご一緒するのはお嫌ですか?」

 

 って紫苑さん近い近い! む、胸、むむ胸が腕に当たってるから!?

 うひっ!? い、息がみみ耳にっ!?

 

「――随分と嬉しそうだなぁ、かぁずとぉ?」

 

「お兄さんは節操なしなのです」

 

「――ぶはっ!!」

 

「ぬぅ!? 紫苑、抜け駆けするか!」

 

「何故鼻血!? ってうわあああ! どう見ても死ぬ量だぞこれは!!?」

 

 ひぃっ!? 星と風が怖い!?

 

 稟はいつも通りだし――き、桔梗さん? 何故ににじり寄ってくるのですか!?

 

 焔耶さーん! 知り合い二人を止めて下さ――稟の方に行っちゃってるし!?

 

「かぁずとぉぉぉ? 覚悟は良いかぁぁあ?」

 

 ――う、うわあああああああああああああっ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その後、軍議は一時中断。

 

 星と風にこってり絞られました。

 

 ――あれ? 俺、被害者だよね?

 

 

 

 

 

 ――涪城。

 

 城の広間に集まる人影、その数は八人。

 

 十人中十人が嫌悪するであろう、締まりの無い薄笑いを面に貼り付けて玉座に座る男が劉璋の嫡男である劉循(りゅうじゅん)

 その傍ら、目を閉じて佇んでいる実直そうな三十絡みの男性が呉懿(ごい)、字を子遠(しえん)と言う。

 呉懿の正面、二人並んで直立している真面目そうな二十代とおぼしき男性――口髭を蓄えている方が呉蘭(ごらん)、強面の男が雷銅(らいどう)

 無言で腕組みをし、瞑目している筋骨隆々の三十代の男性が劉璝。貫頭衣から覗く腕や首筋には多くの傷痕が刻まれている。

 にこやかな笑みを浮かべ、場を眺めている少女が冷苞。

 呉懿を挟んで左側、無表情に何も無い中空を見つめる陰気な男が李異。

 そして一番下座、一切の感情を殺したような鉄面皮で佇む張任こと鷹。

 

 以上の八名、それが近々到来するであろう董卓軍との戦に備える為に召集された将軍達であった。

 誰もが無言でいる中、勿体をつけたように劉循が口を開く。

 

「皆の者ご苦労。此度は、我等が地を穢す愚物共の狩りに良く集まってくれた」

 

 口中に唾が溜まっているのか、頻りにくちゃくちゃと水音を立てながら劉循は喋る。

 

「既に巴郡は敵の手に落ちたと聞く……だが、ここより先が落ちる事はあるまい」

 

「そうですな。巴郡は所詮弱卒の集まり、精強なる我等が軍とは比べ物にはなりませぬ」

 

 劉循の言葉に、劉璝が追従すると李異や冷苞ら東州兵の面々は当然と言った風に頷く。

 

「劉璝殿の言う通りです! 劉循様、私達東州兵が付いておりますのでご安心を!」

 

 冷苞が冷ややかな視線を劉璝に送りつつも、貼り付けた笑みを崩す事無く主君の息子におべっかを遣う。

 

「しかし、油断は禁物です。敵軍の中には張遼や華雄といった武に秀でる将が多く――」

 

「――地の利ではこちらが勝っています、呉懿殿」

 

 あまりにも楽観的な空気を危惧した呉懿が発言するが、その忠告は途中で李異に阻まれた。

 呉懿が口を閉じると、東州兵出の将軍達が嘲る様な笑みを浮かべているのが見える。

 雷銅、呉蘭は呉懿に同情の視線を送るが、自分達からは一言も口を利こうとはしなかった。

 

「ははは、頼もしい言葉よ。では皆の者、戦果を期待しておるぞ」

 

 異を唱える者が沈黙したのを見て取ると、劉循は薄ら笑いを浮かべたままで玉座にふんぞり返る。

 

「巴郡の愚か者達とは違い、ここに集う者達からは裏切り者など出ないのだからなぁ」

 

 嫌らしい声色で宣言する劉循。その声に合わせて東州兵がある一点を見る。

 

(――――――ッ!!!!!!)

 

 そこには、無表情ながらも拳を握り締めている鷹の姿があった。

 

 

 

 

 

 成都の城にて。

 

(いよいよ始まったね。さて、折を見て私も夕達に合流しないと――ん?)

 

 孟達が城の廊下を歩きながら今後の行動について思いを巡らせていると、廊下の角にある柱の陰から何者かがひそひそと話し合う小さな声が聞こえた。

 不審に思った孟達は、足音を殺してそっと柱に近付く。

 

「――張翼(ちょうよく)は、江州に――ら――――な」

 

 殆ど囁きに近い、小さな声がした。

 

「ああ、龐義さ―――殺せと命令が――」

 

「これで裏切り――――始末」

 

 物騒な単語が聞こえ、孟達は眉を顰める。

 

「侠客上がり――――――俺達東州――――いい気味」

 

 そこで密談は終わり、男達が動く気配を見せたので孟達は柱の陰に身を潜めた。

 しばらく身を潜めていた孟達は、気配が遠くに去るとほっと胸を撫で下ろす。

 先程の会話、大半が聞き取れなかったものの、孟達は男達が発した言葉の端々から密談の内容を推測し始めた。

 

(ちょうよく? 張よく? 張翼、か? ……どこかで聞き覚えがあるような…………そうだ! 確か張任の元で副長をしていた少女の名だ!)

 

 まず一つ、事柄を確認した孟達は思考を次に進める。

 

(龐義が殺害命令を出した? 裏切り者、侠客上がり……江州、張翼…………もしや――!)

 

 一つ、また一つと浮かんだ単語が繋がっていくのを、孟達は戦慄と共に感じていた。

 

 

 

 

 

 一方、洛陽では。

 その日、玉座の間には恐ろしいほどに緊迫した空気が漂っていた。

 何も事情を知らされていない一般の武官、文官がおどおどしながら佇んでいる中、司馬懿や董昭らのごく一部の者達だけが泰然としている。

 微笑を浮かべ、玉座に座る劉協の前に董承が進み出て頭を垂れた。

 

「陛下、支度が整いまして御座います」

 

「そうか。董承、ご苦労」

 

「はっ! ありがたきお言葉!」

 

 董承に頷くと劉協はゆったりとした動作で玉座を立ち、傍らに司馬懿らを連れて広間を出て行く。

 その姿が広間から消えると、部屋に漂っていた空気が弛緩し、誰もが安堵の吐息を漏らした。

 

「ふぅ……。はぁ、緊張した」

 

「ああ、えらく肩が凝ったな。しかし、今日は何かあったか?」

 

「いや、私は何も聞いてないな」

 

 広間を退出しながら、疑問を口にする面々。

 

「あ、そう言えば……」

 

「お、何か心当たりがあるのか?」

 

「いや、小耳に挟んだ程度なんだがな……確か――」

 

 

 

 

 

 劉協の執務室、華美な装飾など存在しないその部屋で九人の女性が向かい合っている。

 部屋の主である劉協は当然として、その傍らに控えるのが董承と司馬懿、董昭に鍾会。

 

 そして――

 

「前置きは要らぬ。では始めるぞ――――曹孟徳」

 

「――――はっ」

 

 対面に座するは夏侯惇こと春蘭、夏侯淵こと秋蘭、荀彧こと桂花。

 彼女達を従えるは、乱世の奸雄とも評された少女。

 

 曹操こと華琳が劉協の言葉に頷き、厳かに会談が始まった。

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 お待たせしました。天馬†行空 三十四話を更新します。

 今回は雲南からの進攻と、一刀達の状況、対する劉璋軍の面々の様子などをお送りしました。

 次回からは涪城の戦闘に移行するかと思います。

 

 

 さて、色々と事態が動き始めましたよ?

 

 

 では、次回三十五話でお会いしましょう。

 それでは、また。

 

 

 

 

 

 蓬命「肘打ちぃ!裏拳正拳!とおぉりゃあぁぁーーー!」

 輝森「(タマ)とったらあーーー!」

 竜胆「蓬命がどう見ても正拳しか打っていない件」

 

 

 

 

 

 2013/7/21 一話目からレスポンスを設定しました。作品を読まれる際の手助けとなれば幸いです。

 

 

 

 

 


 
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