No.57775

魏after 一刀伝05

三国堂さん

Q.魏で女の子とラブラブするんじゃ?
A.そこまで辿り着きませんでした。

Q.何でですか?
A.日本刀(ついに無機物)大活躍\(^o^)/

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2009-02-13 09:11:32 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:18797   閲覧ユーザー数:12424

道場内で正座した俺を、静寂と暗闇が包んでいる。

卒業式から二日。

身の回りの整理などとうに済ませていたにもかかわらず、すぐにあの世界に行けなかったのは、俺に僅かに残っていたこの世界への未練、というべきだろう。

別れの挨拶自体はあっさりとしたものだった。

夕飯の席で一言、「今日、行くよ」と告げたのみだ。

反応は父さんの「そうか……」という一言のみ。

爺ちゃんは無言。

母さんは……泣いていたかもしれない。

その後は会話も無いまま食事を終え、リビングを出るときに一度振り返り、頭を下げた。

その後部屋で制服に着替え、纏めてあった荷物を持ち道場に来て、今に至る。

「……ふぅ」

溜息と共に目を開けた俺の傍らには、ボストンバッグとその上に乗せた竹刀袋、靴、そして銅鏡。

バッグには、あちらの世界で役に立ちそうな物や、役立つ知識の詰まった本やレポート。

竹刀袋には、素振り用と普通の木刀二本に日本刀が一振り。

日本刀は昔爺ちゃんに貰った物で、稽古でも巻藁を切るなどして時々使用しているものだ。

特に高価なものではないが、真剣には違いない、あの世界の量産品よりは、よっぽど役に立つだろう。

「そろそろ、行くか」

言って立ち上がった時、ふと、入り口の方に気配を感じた。

「ふん、まだおったか」

「爺ちゃん?」

そこにいたのは袴姿でピシリと背の伸びた……、まあ、いつも通りの爺ちゃんだ。

「餞別だ、持っていけ」

影になって見えなかった左手から、細長い物が投げ渡される。

受け取ると、ズシリとした重み。

長さ1m強の長さに僅かに反り返った形状……、日本刀だ。

「これは……」

「紛争などがある場所に行くなら、持っていて損はなかろう。まあ、銃のゴロゴロしておるこのご時世、どこまで役立つかは知らんがな」

言われて、手の中の刀にもう一度視線を落とす。

掴んだ鞘は黒塗り。

柄を覆う柄糸は鉄色(てついろ)と呼ばれる黒に近い緑。

全体的にシンプルに纏められ、柄頭や鞘にも装飾は見当たらない。

例外は、金属製の鍔(つば)に、一匹の龍が描かれている位だろうか。

どうにも、高級感というか、普通じゃない空気を持つ一振りだ。

「相州水心子兼定(あいしゅうすいしんしかねさだ)、江戸時代に打たれた大業物よ」

「大業物って……、そんな物貰うわけには」

道理で雰囲気から違うはずだ。

もし本物だとしたら、最低でも一千万は下らない逸品である。

そこそこ裕福、程度のウチが買える物ではないし、ということは先祖代々伝わっている物ではないだろうか。

「元々、お主が師範になったらくれてやろうと思っておったもんじゃ。それが少々早くなったというだけの事よ」

「これってもしかしなくても家宝だろ? もう帰ってこない俺なんかに渡していい物じゃないんじゃ」

「お主が帰ってこないなら、流派もわしで終わりじゃろうが。実力的には問題は無い、気にせずに持っていけ」

爺ちゃんは俺と口論するつもりは無いらしい。

言うだけ言うと、さっさと背を向けて母屋の方へと戻ってしまった。

「爺ちゃん……」

呟いて、改めて兼定に目をやる。

「大業物か」

シャラリ

ほぼ無意識に引き抜かれた刀身が、暗闇の中でなお、白々とした輝きを放っていた。

刃渡りは昔の刀にしてはやや長く、二尺七寸(80cm強)といったところか、

ゆらゆらと揺らめく様な刃文に、優美な曲線を描く切先。

透き通るような白さの刃先が、峰に向かうにつれて艶やかな黒い輝きに変わっていく。

俺の持っている数打ちの品とは比べるまでも無く、まさに武器を越えた芸術というに相応しい造形だ。

 

 

ゴクリ、と自分の喉が鳴る音で意識が戻る。

おそらく10秒に満たないだろうが、自失するほどに刀身を見つめていたらしい。

慌てて頭を振り、これ以上見ないようにしながら慎重に鞘へと戻す。

最後の最後に、とんでもない物を貰ってしまった。

正直喜びよりも、俺程度の腕で振るっていいのか、という戸惑いの方を強く感じる。

「でも、全てを捨てていなくなる俺に出来るのは、たぶん……ひとつだけだ」

そうだ、俺は、この刀に見合うだけの男にならなければいけない。

爺ちゃんが何故、この刀を俺に渡したのかは分からない。

意味など無かったのかもしれない。

餞別というだけだったのかもしれない。

言葉通り、流派が終わるからなのかもしれない。

だが、託された以上、俺にその価値があったのだと証明してみせよう。

この刀は俺の腰にこそ相応しい、そう言われるような男になろう。

「さて、餞別も貰った。目標も定まった。行くべき場所と、そこへ至るべき道も見つけた」

ならば、行こう。

ゆっくりと息を吸い込み、母屋のある方向に向かい、深く深く頭を下げる。

「18年間、ありがとうございました!」

母屋どころか近所にまで響いたかもしれないが、気にしない。

1分ほどそうしただろうか、勢いよく頭を上げ、母屋に背を向けて呟いた。

「行くか……」

その行動を取ったのは、たぶん見せたかったからだ。

家族とも、友達とも別れを済ませた。

だから最後に、十数年間俺を見守ってくれた道場に、俺が何処まで成長できているのか、それを見せたいと思った。

もちろん、相州水心子兼定、その切れ味を試してみたいと思った事も否定はしないが。

 

バッグの横に置いてある靴を履き、靴紐をキチンと縛る。

土足で道場に上がるというのはあまり褒められたものではないが、この際それは勘弁して貰おう。

そしてひとつ深呼吸。

銅鏡を高く放り投げると同時、腰を落として相州水心子兼定の柄に手を掛ける。

「……」

息を吸い、止める。

一拍。

「……シッ!」

キン……

鋭い呼気と共に抜き放たれた兼定が、僅かな音と、更に僅かな手応えを残し、銅鏡を真っ二つに切り分けた。

今の俺なら、斬鉄にまで届くかもしれないな。

頭の片隅で考えながら、くるり、円を描くように刀身を滑らせ、納刀。

パチリ、と鯉口が音を鳴らした瞬間、銅鏡の断面から真っ白な光が迸る。

「これが!」

外史への門が開いたという事か!

視界が純白に包まれる寸前、俺は足元のバッグと竹刀袋を引っ掴み、ひたすらあの世界のことを考えながら目を閉じる。

瞼を通してなお、白い光は視界を灼いて。

視界が真っ白に染まった瞬間、俺の意識も白い光に飲み込まれ、消えた。

 


 
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