No.551930

真・恋姫無双呉ルート(無印関羽エンド後)第59話

海皇さん

 どうも久しぶりです!!
 もう三ヶ月間ほったらかしにしてしまいました!
 もうだいぶ忘れてしまった方もいらっしゃるかもしれませんね・・・。
 私生活が忙しく中々更新する暇がなくて・・・。
 なんとか本日完成しましたので投稿させていただきました。

続きを表示

2013-03-06 16:15:50 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4371   閲覧ユーザー数:3649

 

劉繇との戦いが始まって一時間ほど経過した。

 相変わらず戦況はこちらが有利、焙烙玉も今の所余裕もある。

 一方の劉繇軍は終始こちらに押されている。反撃はしているものの、こちらに大きな被害が及んでいる様子も無い。

 

 このまま決まってしまうのか、と不謹慎ながら考えてしまう。

 

 「冥琳、どう思う?この戦の状況」

 

 「思ったよりも歯応えがない、いや、なさすぎる・・・。此処まで来ると不自然だな・・・」

 

 俺の問い掛けに、冥琳は厳しい表情のまま、俺の考えている事と同じことを呟いた。

 確かに、此処は劉繇軍にとって最後の防衛線ともいうべき場所のはずだ。もう少し必死で防衛してもいいはずである。

 それにも関わらず、連中はこちらの攻撃を防いではいるものの、積極的に反撃に出てくる事がない。まるで何か時間稼ぎをしているかのように・・・。

 

 「単に兵力が足りなくなったとか、そう言うのじゃないのか?」

 

 「いや、劉繇は狡猾な男だ、北郷殿もこの戦で思い知っただろう?奇襲、兵糧攻め、焦土作戦・・・、それこそ勝つためには手段を選ばない。まあ先程舌戦で劉繇が言った通り、戦場で卑怯云々言ってられないんだが、な・・・」

 

 冥琳はそう言って苦笑した。自身も軍師である以上劉繇と同じような策を弄した事があるんだろう。

 確かに一対一の決闘ならともかくとして、国と国の存亡が関わっている戦場では、たとえ卑怯な手段を用いても勝たなければ意味が無い。それも自軍の損害を出来る限り少なくして、だ。

 戦国時代の日本もそうだが、大抵の兵士は自国の民から徴兵して集めることがほとんどだ。武士のような専門職の人間のみの戦いはあまりない。

 それはこの三国時代でも同様だ。民百姓を徴兵している以上、たとえ勝利しても大量の犠牲を出してしまっては、それこそ負けに等しい。この時代の主要産業である農業は大打撃をうけ、国は疲弊する。

 だから戦場では出来る限り犠牲が出ないように策を練り、早期決着を目指す。これは戦場ではごく当たり前の事なのだ。それを卑怯とか言うのは、劉繇の言うとおり負け犬の遠吠えとしか言いようがない。まあやられる方にとっては堪ったものではないが・・・。

 どうも雪蓮はそう言う策を練る奴というのが苦手・・・、というより嫌いらしく、真っ向から敵将と一騎打ちをするのが好きというタイプだから、劉繇のような「勝てば官軍」な性格とは相性が悪いようだ。

 それを補うのが冥琳達軍師なのだが、雪蓮はたまに軍師達の助言も聞かずに勝手に突っ走るところがある。現に・・・、

 

 「雪蓮は勝手に軍連れて突撃してったし・・・。関平達が居るから大丈夫だと思うけどさ」

 

 「・・・すまない、北郷殿と関平には何時も迷惑をかける・・・」

 

 冥琳はいかにも済まなさそうに俺に頭を下げる。

 舌戦の後、雪蓮は自分で軍の一部隊を率いて勝手に劉繇軍の陣地目がけて突撃していってしまった。どうやら舌戦でボロクソ言われたのが癪に障ったらしい。遠くから見た顔は相当キレているようだった。

 まあ怒るのは良いけどそれで大将が戦死してしまっては元も子もない。仕方がないから愛紗の部隊と祭さん、六花さんの部隊が後に着いて行っているけど・・・。

 

 (今のところは、大丈夫、かな・・・?)

 

 戦場の状況を見た限り、今のところは心配はなさそうだ。

 冥琳は油断大敵と言ってはいたが、今のところ自軍の有利は間違いないし・・・。

 しばらくは援軍の必要もないかな、とも考えていた。

 

 「冥琳、やっぱりしばらく援軍は・・・「申し上げますっ!!」・・・ん?伝令?」

 

 俺が冥琳に話しかけようとすると、突然伝令の兵士の声が俺達の耳に飛び込んできた。

 俺と冥琳が声のした方向に視線を向けると、そこには伝令の兵士が肩で息をしながら片膝をついていた。見るからに急いできた感じだけど・・・。

 

 「どうした?一体何事だ?」

 

 「はっ!突如敵軍が煙幕を放って自軍が混乱しております!!孫策様関平様両軍奮戦しておりますものの、視界が取れず敵軍の攻撃が激しいため防戦に必死!!援軍を要請しております!!」

 

 「煙幕だと!?」

 

 兵士の言葉に俺達はとっさに戦場に目を向ける。

 確かに今まで両軍の兵士達が争っていた戦場には、真っ白な煙が立ち込め、兵士達の姿は見えなくなってしまっている。

 俺達自身何時も戦場を見ていたわけではない。だが、こんな短時間であっというまにあそこまで大量の煙幕を焚けるとは思わなかった。

 

 「ふむ、承知したと雪蓮達に伝えてくれ。こちらも焙烙玉で援護する」

 

 「はっ!!ではっ!!」

 

 俺達の言葉を聞いた兵士は一度頭を下げると直ぐに白い煙の中に向かって走っていった。

 兵士が去ったのを確認した俺と冥琳は、再び会話を再開した。

 

 「やっぱり罠を張ってきたね、冥琳」

 

 「ああ、まあ流石に煙幕は予想できなかったが、何かしてくるとは思っていた。まあこの程度ならば何とかなるはずだ・・・・、ん?」

 

 と、話をしていた冥琳が突然あらぬ方向に視線を向ける。

 

 「どうしたの、冥琳」

 

 「いや、なにやら後方が騒がしいと思ってな」

 

 「へ?俺には何も聞こえないけど・・・

 

『ドォォォォォォン!!』

 

・・・ってうお!?」

 

 突然後方から響いた爆発音に、俺は思わず飛び上がった。

 何か爆弾か何かが爆発するような音、それも一つや二つではない。

十、いやそれ以上の数の爆弾が一斉に爆発したような・・・。

 

 ・・・まさか!?

 

 「冥琳!これって・・・」「も、申し上げます!!」

 

 俺の言葉を遮るように、突然伝令の兵士が飛び込んでくる。

 よく見るとその兵士は焙烙玉の運用と管理を任されている兵士だ。

 その兵士の表情は焦りに歪んでおり、鎧はあちこちが煤や焦げ目で真っ黒に染まっていた。

 

 「どうした!?一体何があった!!」

 

 「はっ!管理してあった焙烙玉に火を付けられて、我が軍の陣内にばら撒かれております!!我が軍の兵士達は恐慌をきたしており、現在原因を探っているところであります!!」

 

 「な、なんだと!?」

 

 兵士の言葉に冥琳は絶句している。かく言う俺自身も驚愕していた。

 

ありえない。焙烙玉を管理している場所は敵には漏らしていないはずだ。

 

それに、たとえたまたま見つけ出したとしても、焙烙玉は導火線に火をつけない限り爆発することはない。

 

それ以前にまだ俺達の陣に敵が攻めてきたという報告すらない。

 

一体何故、焙烙玉に火をつけられてばら撒かれるなんて事が・・・・。

 

・・・まさか・・・、

 

「っち!仕方がない。直ぐに兵達の混乱を収めろ!!そして下手人を探し出せ!!急がねば取り返しのつかない事になるぞ!!」

 

「は、はっ!!」

 

冥琳の命令に兵士は急いでその場を後にした。

兵士が走っていくのを見届けた俺は、冥琳に視線を向ける。

 

「冥琳、これってまさか・・・」

 

「ああ、我が軍に内通者が、いや、既に敵兵が紛れ込んでいる」

 

冥琳は苦々しげにそう呟いた。やっぱり、俺の思った通りか・・・。

敵軍が攻めてきたという情報が無い以上、焙烙玉をばら撒いたのは外部からの敵ではなく、内部からの敵で間違いないだろう。

おそらく反孫呉連合軍は、あらかじめ孫呉軍に自軍の兵士達を紛れ込ませ、俺達の軍の情報を劉繇達に流していたんだろう。

外部からなら難しくても、内部で情報を調べ、綿密に計画を練って行動したのならば十分可能だ。しかも今は自軍のほとんどが目の前の戦場に目が向いている状況、かなり隙が大きい・・・。行動を起こすのなら今がチャンスだろう。

 

「チッ!劉繇め・・・まさか我が軍に自軍の兵士を間諜で紛れ込ませるとは・・・。

もう少し徴兵の基準を厳しくやるよう指示すべきだったか!祭殿達によく言っておかねば・・・」

 

 「め、冥琳!そんなことは今はどうでもいい!!雪蓮達の援軍は!?」

 

 「今の状況では少し無理だ!!せめて騒ぎが鎮静化しなくては・・・」

 

 冥琳は苦々しげに怒鳴ると一度白い煙で覆われた戦場に目を向けると混乱する孫呉軍を睨んで歯を食いしばっていた。

 俺はそんな冥琳を横目に見ながら戦場を、そして混乱する陣地を眺めるしかなかった。

 俺達の有利で進んでいた戦は、思わぬ方向に傾こうとしていた。

 

 

劉繇side

 

 「さて、と・・・。そろそろだな、束紗」

 

 「・・・・(コクリ)」

 

 劉繇の言葉を聞いた王朗は黙って頷くと、軽く右手を上げる。

 その合図を見た兵士の一人が、手に持っていた棒で銅鑼を思いっきり叩く。銅鑼の音が劉繇軍全体に響き渡り、その音を聞いた兵士達は、次々と行動を開始した。

 と、突然前線で真っ白な煙が大量に巻き起こり、煙は瞬時に孫呉の軍勢を覆い尽くし、その姿を隠してしまった。

 煙を利用した煙幕。本来は敵軍から逃れるのに使う手段である。

 しかしもはや劉繇軍に撤退は許されない、本来なら使用する場面ではないはずである。

 が、劉繇達はそれを黙って見守っていた。まるでこれで良いと言わんばかりに・・・。

 劉繇の軍勢は煙幕が広がったのを確認すると、直ぐに弓矢を構える。

 

 そして、しばらく待機した後、矢を放った。

 

 と、煙幕から兵士達の悲鳴や怒号が響き渡る。

 

 間違いなく敵兵に命中した。

 

 「さて、んじゃ作戦通りに・・・」

 

 「分かってる・・・。煙幕は絶やさない様に、煙はとにかく多めに。矢は一部毒矢を混ぜておくように」

 

 「はっ!!」

 

 王朗の指示を受けて兵士は伝令に走る。その後ろ姿を見ながら劉繇は満足そうに頷いた。

 

 「けっ、これでもはや詰んだ、か・・・」

 

 「・・・多分。敵はもう何もできない。援軍も、呼べる状況じゃない、はず・・・」

 

 王朗が言葉を止めると、兵士が一人目の前に現れた。

 

 「申し上げます!孫呉軍の内通者からの伝言です!無事に任務に成功、敵陣は混乱状態とのことです!!」

 

 「お、成功か。よし、適当に荒らしたら早々に撤退するよう伝えとけ!あの厄介な爆発する玉さえ無くなりゃ何とかなる!」

 

 「御意!」

 

 劉繇の命を聞いた兵士は劉繇の前から姿を消す。それを見て劉繇と王朗は視線を交わして笑みを浮かべる。

 

 「ハッ、どうやら向こうに潜入している連中も仕事をきっちりしているようだな?」

 

 「・・・どんなに強力な軍でも、内側からの攻撃には弱い。もう常識」

 

 劉繇は得意げな表情で、王朗は傍目からは分かりづらいものの微かな笑みを浮かべて口々にそう言う。

 劉繇達反孫呉連合は、いずれ孫呉が自分達の領内に潜入してくる事を予測し、そうなった場合の撃退、殲滅の為の戦術、戦略を幾つも練っていた。

 その中の一つが、孫呉の内部に自軍の兵を忍び込ませる事、すなわち間諜、スパイであった。

 自軍の兵士を潜入させ、敵軍の内情を探らせ、敵軍を内部崩壊させる布石とする・・・。

 言うは易しだが、実際に行うのは相当困難である。

 敵軍にばれる危険性もあるが、それ以上に大変なのは潜入する兵士の選別である。

 先程も言ったように、敵軍に間諜として潜入する事は多大なリスクを伴う。

 敵軍にばれればまず間違いなく処刑される。それだけなら兎も角最悪の場合処刑から逃れるために自軍の情報を売る可能性まであるのだ。

 そうならないために、兵士達の選別は慎重に行った。自軍の為なら命を投げうつほどの忠誠心の持ち主、心身ともに頑強な人物・・・。それらを優先的に選び抜き、孫呉へと送り込んだのだ。

 結果は上々。兵士達はほぼ完璧に孫呉軍に溶け込み、こちらに多大な情報をもたらしてくれた。あの黒い爆発する玉の情報もある程度入ってきたことからこちらでも対処法を練る事が出来た。

 本当ならばここに来る前に孫呉は壊滅していたはずだった。だがあの黒装束の連中の邪魔があり結局ここまで来てしまった。

 こうなった以上もはや手段は選んではいられない。劉繇は間諜達に命じて自軍が煙幕を展開するのを確認したら直ぐにあの黒い玉を奪い取り、それを全て爆発させて敵陣を荒らすよう命を下した。

 こうすれば敵陣は混乱し、しばらくは援軍は送れなくなる、たとえそうならなくてもあの黒い玉を使えなくすれば儲け物だ。

 とは言ってもいつまでも自軍の兵士達が暴れられるわけではない。今は孫呉の兵士と同じ格好で見分けがつかなくとも、いずれはばれて物量差に押しつぶされて殲滅されるだろう。

 流石に劉繇でも自軍の兵士達がなぶり殺しにされるのは気分が悪い。故に適当に敵陣を荒らしつくしたら早々に撤退するように命令を下してある。

 既に敵の攻撃部隊は自軍の策に嵌めている。後厄介なのはあの黒い爆発玉と援軍のみ。

 これさえ何とかなれば反孫呉連合軍はもはや勝ったも同然と言えよう。

 

 「さて、それじゃあ先ずは煙幕ン中の敵軍を嬲り殺しにしてやっかね、束紗ちゃんよ」

 

 「・・・承知、すでに睦月と厳白虎がやっている」

 

 劉繇の言葉に、王朗は背筋が寒くなるような笑みを浮かべてそう答えた。

 

 

 雪蓮side

 

 「くっ!どうなってんのよ一体!!」

 

 「策殿!!文句を言ってる暇があったら矢を避けられよ!!そら!!また来たぞ!!」

 

 「分かってるわよ!!でも可笑しいわよ!!こんな煙幕の中でどうやって私達の場所が分かるっていうの!?」

 

 雪蓮は悪態をつきながら一寸先も見えない煙幕の中で矢を叩き落とし、避け続けていた。

 劉繇軍の放った煙幕で視界を奪われた雪蓮達は、何も見えない中で劉繇軍からの矢の雨の洗礼を受けていた。

 雪蓮達歴戦の猛将ならば多少の矢の雨なら無傷で避けることも可能である。しかし、問題は兵士達の方であった。

 本格的な訓練を受けて戦場を潜り抜けられるレベルになっている兵士は精々一握り程度、大半は百姓や町人から徴兵し、熟練の兵士達よりも短期間の戦闘訓練で済ませた兵士達である。実力的には長年鍛え上げた兵に比べれば雲泥の差がある。

その上統制に関する問題も存在する。本職の兵士に比べると劣るものの、徴兵した兵士達にも確かに忠誠心はある。しかしながら、もしも本格的に死に直面したのならば、怯えて士気が下がる事も充分考えられる。最悪脱走兵も出る可能性もあるのだ。

 その為にも様々な軍規を定めているものの、人の行動はある程度制御出来ても恐怖等の感情ばかりはどうしようもないのだ。

 現に今も、どこから来るか分からない矢の攻撃に、兵士達は怯え、陣形は乱れ始めている。祭と六花、そして愛紗の鍛え上げた熟練の兵達が何とか統制を整えようとしているものの、それもいつまでもつかは分からない。

 そして、煙幕の中から再び矢の雨が頭上から降り注いでくる。

 

 「グギャアッ!?」「ゥグア!!」「し、死にたく・・・」

 

 矢は次々と兵士達に突き刺さり、ある者は即死し、ある者は致命傷を負い、またある者は命に別条はないものの重傷を負い、中には武器を握る事が出来なくなった者もいる。

 

 「クッ!このままじゃまずいわ!はやくこの煙幕の中を突破しないと!!」

 

 「ですが下手に動いたら私達は敵に狙い撃ちにされます!!どうやっているかは知りませんが敵は私達の位置を知っている。動くよりも固まって攻撃に備えた方がいいと思います!!」

 

 「でもこのままじゃ嬲り殺しよ!!全く!どうやって私達の位置を確認してるのよ!!敵には千里眼の持ち主か何かでも居るっていうの!?」

 

 愛紗の言葉に雪蓮は悪態を吐いて苦々しげに表情を歪める。

 現在見ての通り雪蓮達の軍勢は煙幕に包まれ、一寸先も見えない状態だ。

 だがそれは敵も同じ、敵もこちらの正確な位置は確認する事はできないはずだ。

 そんな狙いも定まらない中で矢を放ったのなら、確かに大量に放てば数撃てば当たる理論で幾人かの兵士を倒せるかもしれないが、はっきり言って愚行としか言いようがない。

 だが、劉繇軍はまるで煙幕などないかのようにこちらに向かって正確に矢の雨を降らせてくる。まるでこちらが何処にいるか見えているかのように・・・。

 一度や二度なら偶然と言えるかもしれないが、こう何度も狙撃されたのならもはや必然、相手方に此方の居場所がばれているとしか思えない。

 だがこの煙幕は文字通り一寸先が見えないほど濃い。敵軍も自軍を視認することはまず不可能といっていい。それをまるで見えているかのように狙撃してくる等、一体どういう方法を取っているのか・・・。

 軍師である冥琳や亜莎なら分かるのかもしれないが、今この場に居る将達には見当もつかない。

 

 「策殿!こうなってはもはや出来る限り動き回って敵軍にこちらの居場所を攪乱させる以外あるまい!どう考えてもこちらの位置が敵に見えている可能性は無い!ならば移動して位置を変動させればまだ活路はあるはずじゃ!」

 

 祭の必死な言葉を聞いて、雪蓮も厳しい表情で頷いた。

 

 「そうね・・・、連中も千里眼を持っているわけじゃないんだし、もしかしたら攪乱出来るかもしれないからね。すぐに全軍陣形変更と移動の指令を出して!!」

 

 「はっ!」「承知した!!」「御意、ですわ」

 

 雪蓮の命令に彼女を守る将達は自分の軍に号令を出した。彼女達の命令に従い、軍勢はまるで一匹の生物のようにその陣形を変え、今居る場所から移動し始める。

 

 (とりあえずこれで何とかなる・・・、と良いんだけど・・・。早く冥琳達からの援軍が来れば・・・)

 

 雪蓮は厳しい表情で自軍の陣地があるであろう方角に視線を向けていた。

 

 

 

太史慈side

 

 

 「ん~・・・、何だか退屈ねぇ。睦月ちゃん?」

 

 「仕方がありますまい。これも我が主劉繇様のご命令なのですから。我が軍ももうあとがありません。形振り構っている余裕は無いのです」

 

 「そりゃそうよね~・・・」

 

 太史慈の言葉に厳白虎は取りあえず納得はしたものの、何とも暇そうな表情で欠伸をした。

 それを太史慈は、横目で見ながら溜息を吐いた。

 

 「厳白虎殿、私もまた退屈なのです。本当ならこんな所で兵達に敵を射殺させているよりも、戦場で金鞭を振るっているのが性にあっております。ですが、わが国存亡の時ゆえ、好き嫌いなど言ってはおれぬのです」

 

 「ん~・・・そうなのよね~。ま、許可が下りるまで暴れるのはガ・マ・ン・ね♪」

 

 「然り・・・、と、どうやら敵軍に動きがあったようですね・・・」

 

 太史慈はふと戦場に目を向ける。

 戦場は白い煙幕に覆われており、敵軍の姿を確認することは出来ない。

 だが、太史慈と厳白虎には分かっていた、敵軍が煙幕の中で、どのような動きをしているのかを、敵軍が今何処に居るのかを。

 

 「あーあ、必死に軍を動かしちゃって。無駄だって分かんないのかしら」

 

 「まあ確かにこのような濃い煙幕では我々には中の状況が分からない、と思ってしまっても仕方がないでしょうが、ね・・・」

 

 厳白虎と太史慈は余裕な表情を浮かべてのんびりと戦場を見ていた。

 と、彼女達の目の前に並ぶ弓兵達が突如弓を一斉に別方向に向けた。

 そして一斉にその方向目掛けて矢を放った。

 このような一寸先も見えない煙幕の中で矢を放つなど、一見すると当てずっぽうに矢を射ているようにしか見えないだろう。

 

・・・だが、矢が降り注いだ地点からは、兵士の悲鳴、怒号が次々と響き渡った。

疑いようもなく、敵軍に命中した証だ。だが、視界がゼロに等しい中、一体どうやって・・・。

 

「さて、あと少し敵軍を減らせば、我々の出陣指令も出ることでしょう。それまでのんびり観戦と行きましょうか」

 

「そうね~、でも私達が行くころにはもう敵軍いなくなってるかもしれないわね~。いや~ん不安だわ~♪」

 

「確かに。まあ、そうなることは無いでしょうが」

 

くねくねと気味の悪い踊りを踊る厳白虎に、太史慈は苦笑いをしながら眺めていた。

 

 

 六花side

 

「まずいですわね・・・、このままでは・・・」

 

 六花は自軍の兵士を見回して苦しげな表情で呟いた。

 周囲は白い煙幕に覆われよく見えないものの、鳴り響く金属音や怒号、悲鳴などで大体の予想はつく。

 状況はあまり良くない。

 この煙幕のせいで兵達も混乱をきたしている上に、的確な矢の攻撃の影響で同士討ちまで始まっている。

 死者も多いが負傷兵はそれ以上だ。

 このままでは全滅するより前に戦闘そのものが続行不能になりかねない。

 冥琳達からの援軍も来るようすが無い以上、なんとかこの中から脱出して活路を見出さなければ・・・。

 六花は兵に指示を出しつつ考える。

 そもそもなぜ敵軍は自分達の軍の正確な位置を掴めるのだろうか。

 これだけ濃い煙幕の中ではとてもではないが中に居る自分達の位置など到底分かるはずが無い。

 それなのに何故、こちらに向かって正確に矢を射かける事が出来るのだろうか・・・。

 間諜、それは無い。たとえ我が軍に間諜が居ても、伝える手段が無い。

 高台から見ている、それも無い。劉繇軍には上から我が軍を見下ろす高台らしきものは無かった。たとえあったとしても、この煙幕では碌に人の姿を見る事は出来ないだろう。

 

 「・・・ですが、今は取りあえず兵の移動と陣形の変更を急がなくては・・・」

 

 六花はすぐさま自軍の兵士達に号令を出す。

 兵士達はすぐさま行動を開始するものの、やはり動作が普段より鈍い。

 この視界を遮る煙幕と、いつ自分達が狙われるか分からないという恐怖が原因であろう。

 いかに叱咤激励しようとも、厳しい軍規で律しようとも、人間の『恐怖』という本能を抑えるのは並の事ではない。ましてやこのような状況ではなおさらだ。

 

 (・・・何か突破口は・・・・・・・・!?)

 

 兵の指揮をしながら思考を巡らしていた時、六花の耳に何やら妙な音が響いてきた。

 その音は金属と金属がぶつかり合う音のようであったが、鎧と鎧がこすれ合う音や兵士達の武具がぶつかり合う音とは違い、規則正しく鳴っているように聞こえた。

 

 「この音は・・・、まさか・・・・」

 

 六花の表情が変わる。彼女はゆっくりと目を閉じると、耳を澄ませて音を聞き取り始める。

 兵士の怒号、こすれ合う武器や鎧の金属音、それに混ざって、確かに規則正しい音が、何か金属製の物を叩く音が聞こえる。

 そして音の出所は・・・・。

 

 (・・・そこですか!!)

 

 六花は瞬時に腰に巻いた帯から短刀を抜き放ち、音の聞こえた方向に向かって投げつける。投げた短刀は煙幕に消えて見えなくなるが、次の瞬間、誰かの悲鳴と何かが倒れる音が響いた。

 六花はそれを聞くや否や、短刀を投げつけた方向に向かってゆっくり歩いていく。

 やがて、首に短刀が刺さって死んでいる敵兵の死体を見つけた六花は、すう、と目を細めた。

 

 「・・・なるほど、そう言うカラクリでしたか」

 

 六花は何の感情も込めず、そう呟いた。

 

 

 

 雪蓮side

 

「くっ!まだ敵の攻撃は収まらないの!?」

 

 「ぎょ、御意・・・、もはや敵軍は、此方の位置が確認できて、いるとしか・・・」

 

 全身血塗れの兵士は、そこまで呟いて事切れた。それを見ながら雪蓮は歯痒そうに唇を噛み締めた。

 軍の陣形も変えた、別の場所にも移動した。だが、どれも全く効果を見出せなかった。

 いかに軍勢を動かしても、確実にその場所目掛けて矢が飛んでくる。

 何度動かしても、何度陣形を変えてもその繰り返しだ。

 

 「雪蓮、このままでは確実に嬲り殺しです。ここはもはや撤退するしか・・・」

 

 「駄目よ!!まだ戦が始まって間もないのに、そう簡単に撤退なんてできないわ!!こんな状況で撤退でもしたら、それこそ兵の士気は落ちて戦どころではなくなるわ!!」

 

 愛紗の諫言に雪蓮は反発する。

 確かにこの状況で撤退したならば、兵達の士気も大幅に下がるだろう。

 いくら兵力や兵糧を補充したとはいっても、此処までの戦で兵達の疲労も限界に近づいている。この最後の正念場とも言うべき戦で撤退しようものなら、兵達の士気は落ちてもはや戦どころではなくなるだろう。

 

 「確かに策殿の言う通りじゃ。じゃがこのままこんな所で立ち往生しておっても敵の矢を受け続けて嬲り殺しの目に合うだけじゃ。何とか突破口を見つけねばの」

 

 「ええ、取りあえずまた軍を移動させるしかなさそうだけど・・・」

 

 「そんな事をしても無駄ですわ、策様」

 

 雪蓮が再び軍を移動させるように指示を出そうとした瞬間、その言葉に割り込むようによく通る声が辺りに響いた。

 その声の聞こえた方向に雪蓮達が顔を向けると、そこに居たのは祭、愛紗と同じく独自に軍を率いていた程普、六花の姿があった。

 

 「六花!何でこんな所に居るのよ!!貴女自分の軍はどうしたって言うの!?」

 

 「軍の指揮は副官に任せました、ご安心ください。伝えるべき事を伝えれば直ぐに役目に戻りますわ」

 

 「伝えるべき事を伝える、じゃと?」

 

 祭の言葉に六花は黙って頷いた。

 

 「策様、恐らく敵軍は、音を使って我が軍の位置を探っておりますわ」

 

 「なっ!?音、ですって!?」

 

 六花の言葉に雪蓮は驚愕の声を上げる。愛紗と祭も驚愕の表情を浮かべている。

 六花は黙って頷いた。

 

 「そうですわ。恐らくあらかじめこの煙幕の中に自軍の兵を仕込ませて、我が軍が居る地点の近くで音を鳴らし、その音が聞こえた場所に向かって矢を放っているのでしょう。鳴らしているのはこの銅製の鐘ですが、鎧の音や兵士の声に混じって誰も気にとめません。ですから今まで気が付かなかったんでしょうね」

 

 そう言って六花は手に持っていた銅製の鐘とそれを叩くためと思われる小型の槌を放り投げた。

 六花の説明を聞いた雪蓮達は、納得はしたものの以前厳しい表情のままであった。

 

 「・・・なるほど、カラクリは分かった。でも問題はそれをどう突破するか、よね」

 

 「音を鳴らしている敵兵を2、3人斬り殺した所で恐らく代わりの兵が何人もおるであろうからのう。この煙幕の中じゃ。探すのも一苦労であろうな」

 

 「・・・無難に敵の鳴らしていた音と似たような音を出して攪乱させるしかないでしょうね。最もそれも気休めにしかならないでしょうが・・・」

 

 敵の策が分かった雪蓮達は対策について考える。が、どれもあまり有効とは思えなかった。まず、陣形の変更や位置の移動に関しては場所を知られてしまうため意味が無い。開き直って突撃するのも損害が大きく博打要素が強い。なら音を鳴らしている敵兵を片っ端から探し出して潰していく手もあるが、このような濃い煙幕では敵兵を探すのも困難極まりない。それに、敵兵は恐らく10人20人程度の数ではないだろう。とてもではないが全て探し出すのは不可能に近い。

 残る策は愛紗の提案した音で敵を攪乱する戦法だが、これも正直気休め程度にしかならないだろう。恐らく敵もこの対策への対策も考えてあるはずだ。だが、それでもやらないよりはマシのはずだ。

 

 「・・・それにしても、冥琳達の援軍が遅いわね・・・。そろそろ来ても良い頃だと思うんだけど・・・」

 

 雪蓮は不審そうに孫呉の陣地のある方角に視線を向ける。もう援軍要請を送って3時間以上は経過している。なのに一向に援軍がくる気配は無い。援軍要請の使者も戻ってくる様子が無い。使者はこの煙幕の中で迷っている事で説明はつくが、孫呉最高峰の軍師である冥琳、そして、天の知識を持ち、そこそこ頭の回転の速い一刀ならば1時間もあれば援軍を送れるよう準備できるはずである。

 それが来ない等、幾らなんでも何か起きているのではないかと心配になってしまう。

 

 「致し方ありません。こうなれば自力で何とかする以外、なさそうですわね。祭」

 

 「うむ、もはや冥琳達の援軍など待っておれんわい。のう、関平?」

 

 「本当は待っていたいのですが、その前に全滅してしまっては話にもなりませんからね」

 

 孫呉の将達は、じっと先の見えない白い煙を、その先に居るであろう劉繇軍本隊を睨みつけていた。

 

 

 劉繇side

 

 「申し上げますっ!!何やら孫呉軍がやかましく鎧やら武器やらを叩きだしたとのこと!!我が軍の作戦が露呈した模様です!!」

 

 「あっそ、ま、いいぜ。でも問題なく連中の場所が分かるんだろ?」

 

 「はっ!!問題ありません!!」

 

 「ならばよし、下がんな」

 

 劉繇の言葉を聞いて兵士は劉繇の前から下がっていく。その後ろ姿を見ながら、劉繇は隣の王朗に話しかける。

 

 「どうやら結局、ばれちまったみたいだな。まあ思ったより気付くの遅かったが」

 

 「・・・遅すぎるくらい。でも、たとえばれても対処できない。問題は、無い・・・」

 

 王朗は自身の策がばれても平然としている。

 彼女にとって、策がばれることなど初めから想定内。たとえばれたとしても対策などそうそう有りはしない。精々音を鳴らして攪乱するなり、隠れている兵士を探し出すしかないだろう。開き直って突撃してくる可能性もあるが、そうなったなら仕掛けた罠と矢の雨で迎撃するまでだ。

 

 「おまけに援軍には期待できねえ・・・。これで詰みだな」

 

 「・・・あとは余計な邪魔が入らない事を祈るばかり」

 

 「・・・あいつらか。ま、確かに連中が邪魔してきたらちとヤバいが・・・。だからこそ早々に決着付けねえと、な・・・」

 

 劉繇は苦々しい表情で戦場を睨みつける。

 あの黒装束に再び邪魔でもされたら、ここまで上手くいっていた策が全て水泡に帰する可能性がある。そうならないためにも早々に決着をつけなければならない。

 今のところあの黒装束を見たという報告は無いものの、いつまた出てくるか分からないのだ。

 

 「あーあ・・・、いっそのこと突っ込んでくりゃ楽出来たって言うのによ」

 

 「敵も馬鹿じゃない・・・。それはまずありえない。撤退はあるかもしれないけど・・・」

 

 「ま、その帰る場所も思う存分台無しにしてやってるんだが、な・・・」

 

 劉繇はそう呟いてにやりと笑みを浮かべた。

 今現在、状況は劉繇の手の中で動いていた。

 

 

 あとがき

 

 どうもすいません!!中々書く時間がなくてここまで間が開いてしまいました。

 

 本当にどうしたものでしょう。いつになったら揚州攻略戦を終わらせられることやら。本当は次で終わらせたいのですが・・・。

 

 今回の王朗の策は、漫画「キングダム」に出ていたものを参考にしました、っていうかそのまま・・・。

 

 まあさすがに大量の煙幕ばら撒いてそれを維持して戦うのは少々現実味がないかもしれませんが・・・。そこはどうか突っ込まないでいただきたいです。

 

 

 
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