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真・恋姫†無双~赤龍伝~第112話「数え役満☆姉妹」

さん

以前に投稿した数え役満姉妹編を1話にまとめました。

2013-03-02 23:44:45 投稿 / 全32ページ    総閲覧数:2388   閲覧ユーザー数:2129

真・恋姫†無双~赤龍伝~第112話「数え役満☆姉妹」

 

―――建業―――

 

藍里「付き合わせてしまって、申し訳ありません」

 

赤斗「いや、これぐらいなら何時だって手伝うよ」

赤斗と藍里の二人は、大量の酒瓶を持って街中を歩いていた。

 

これと言うのも、火蓮の屋敷に行ったら、ベロベロに酔っ払った火蓮と祭に捕まったのが原因だった。

 

そして、酒を買ってくるように命じられてしまったのだ。

 

赤斗「それにしても、火蓮さんも祭さんも本っ当によく呑むよね。これでよく身体を壊さないなと思うよ」

 

藍里「確かにお二人には、お体の為にも自重して頂く必要があるかもしれませんね」

 

赤斗「あの二人がお酒を控える姿は想像できないな」

 

藍里「そうですね。…あっ!」

 

赤斗「どうしたの?」

 

藍里「さっきのお店でお酒の肴を買うの忘れていました」

 

赤斗「違う店じゃダメなの?」

 

藍里「はい。このお酒には、この肴じゃないとダメだと火蓮様が仰っていました」

 

赤斗「こだわりって奴ね。なら僕が買ってくるよ」

 

藍里「いいえ。赤斗様が行かれてもわからないと思いますから、私が買ってきます」

 

赤斗「わかった。なら僕はここら辺で待ってるよ」

 

そう言うと赤斗は藍里が持っていた酒瓶を受け取る。

 

藍里「はい。わかりました。では、行って参ります」

 

 

酒屋の主「毎度、ありがとございやしたーー!!」

 

藍里(これでよし♪)

 

目的のものを買った藍里はすぐに店を出た。

 

藍里(思っていた以上に時間がかかってしまいましたね。早く戻らないと…)

 

赤斗のもとへと急いで戻ろうと藍里は駆け足になった。

 

そして、角を曲がろうとした時、反対側からやって来た男に藍里はぶつかってしまった。

 

藍里「あっ、すみませ…」

 

チンピラの男①「痛えーーっ!」

 

藍里とぶつかった男がわざとらしい悲鳴を上げる。

 

チンピラの男②「おいおい、どうしたんだ?」

 

チンピラの男③「何だ? 何だ?」

 

仲間らしき男たちも集まってきた。

 

チンピラの男①「この女がいきなりぶつかってきたんだよ! 痛えぇよーー! 骨が折れてるよーー!」

 

左肩を抑えながら、大げさに痛がる。

 

藍里「えっ?」

 

チンピラの男②「そりゃ大変だ!」

 

チンピラの男③「おネエちゃん、いったいどうしてくれるんだよ?」

 

藍里「えぇっ!?」

 

確かに急いでいた藍里は、男にぶつかってしまった。

 

だが、骨が折れるほどの力はなかったはず。

チンピラの男②「こりゃぁ治療費をたっぷり貰わねえといけねえなぁ」

 

藍里「ぶつかってしまったのは謝ります。ですが、骨が折れたとは大げさではありませんか?」

 

チンピラの男③「何だぁ? 人にケガさせておいて、その態度は!?」

 

藍里「うぅ…」

 

男たちは藍里に詰め寄る。

 

チンピラの男②「まあ待てよ。いい事を思いついたぜ」

 

下品な笑みを浮かべながら、男は藍里を見た。

 

チンピラの男③「いい事って何だよ?」

 

チンピラの男②「治療費を払わねえと言うなら、身体で払って貰おうじゃねえか!!」

 

藍里「ええーー! な、何を言っているんですか!?」

 

チンピラの男③「そりゃあ、いいぜ。お前もそれでいいよな」

 

チンピラの男①「ああ、そのネエちゃんに看病して貰えれば、このケガも早く治りそうだぜ」

 

先ほどまで痛がっていた男は、今は痛がる素振すら見せていない。

 

チンピラの男③「そういうわけだし、行こうぜおネエちゃん」

 

そう言って男は藍里の腕を掴んで無理矢理に連れて行こうとした。

 

藍里「や、止めて下さい! 離してっ!」

 

藍里は男の手を振り解こうとするも、男の手は全然外れない。

 

チンピラの男①「大人しくついてきな。可愛がってや…ふぎゃっ!!」

 

突然、男が奇声を上げて倒れた。

 

チンピラの男②「なっ何だぁ!? さ、酒瓶?」

 

どうやら、酒瓶が男の頭に投げつけられたようだ。

 

酒瓶は割れて辺りに酒の匂いが立ち込める。

 

チンピラの男③「誰だぁ! こんなもん投げたのは!?」

 

赤斗「お前たち、一体何をしてるんだ…」

 

静かに尋ねる赤斗だったが、身体からは怒りが立ち込めていた。

 

藍里「赤斗様っ!」

 

チンピラの男②「お前か! こんな事しやがったのは!?」

 

チンピラの男③「ぶっ殺してやるっ!」

 

男たちは携帯していた武器を抜いて、赤斗に襲い掛かった。

 

赤斗「…遅い」

 

チンピラの男②「ぐっ!?」

 

チンピラの男③「ぎゃっ!」

 

藍里「あ…」

 

藍里には何が起きたか分からなかった。気がつけば、男たちは気を失い地面に倒れていた。

 

赤斗「藍里、大丈夫? 中々戻ってこないから心配で来ちゃったよ」

 

藍里「…はい。大丈夫です。ありがとうございます」

 

赤斗「でも、来て良かったよ。こんな奴に絡まれてるから、びっくりしちゃったよ」

 

藍里「赤斗様が来て下さって本当に助かりました」

 

赤斗「それにしても…どこの世界にも、こういうロクでもない連中はいるんだね」

 

藍里「近頃の異常気象もあって、民の心は不安でいっぱいになっています。その為、治安を乱す輩も増えてしまっているのでしょう」

 

赤斗「……不安か。これって何か対策を早急に考えないといけないよね?」

 

藍里「それならご安心ください。実はすでに冥琳様と対策を立ててあります」

 

赤斗「へぇ~、それはスゴい。それで一体どんな内容なの?」

 

藍里「それは、その時までのお楽しみです♪」

 

 

一週間後……。

 

街中の人たちに活気が出ていた。

 

赤斗「今日は何だか賑やかだな。あっ、ちょっといい?」

 

赤斗は見回りをしていた兵士に声をかけた。

 

兵士「風見様、如何なさいました?」

 

赤斗「何だか賑やかだけど、何かお祭りでもあるの?」

 

兵士「数え役満姉妹が来るんですよ!!」

 

赤斗「……数え…役満?」

 

兵士「知らないんですか?」

 

赤斗「……うん」

 

兵士「いいですか! 数え役満姉妹は人和ちゃん、地和ちゃん、そして天和ちゃんの三姉妹です! 今や大陸の誰もが知る人気者なんですよ!」

 

赤斗「へ、へぇー、そうなんだ……」

 

兵士は数え役満☆姉妹について赤斗に熱く語りだした。

 

 

三十分後……。

 

兵士「わかって頂けましたか!」

 

赤斗「……うん。よくわかったよ」

 

兵士「それは良かった」

 

赤斗「つまりアイドルみたいなものか」

 

兵士「あいどる?」

 

赤斗「ごめん。こっちの話。ありがとうね。見守りを続けて」

 

兵士「はっ。失礼します」

 

赤斗「数え役満姉妹…か」

 

季衣「あっ、居た!」

 

赤斗「え?」

 

季衣「流琉ー。こっちに居たよーー!」

 

流琉「赤斗さーん! 探していたんですよ」

 

赤斗「流琉に季衣。どうして建業に?」

 

流琉「華琳様と一緒に来たんです。すぐにお城に戻って下さい。華琳様や雪蓮様たちがお待ちです」

 

赤斗「華琳が来てるの?」

 

 

城に戻ると玉座の間には、雪蓮たち呉の人間の他に、華琳が待っていた。

 

雪蓮「遅ーい。やっと来たわね。何処行ってたのよ?」

 

赤斗「華琳が来るなら、前もって教えておいてくれたら良かったのに……そうしたら、流琉たちに苦労掛けなかったと思うよ」

 

雪蓮「あら、教えてなかったっけ?」

 

赤斗「なかったね」

 

蓮華「姉様。確か赤斗に伝えておくと仰っていましたよね?」

 

雪蓮「え? そ、そうだったかしらね……」

 

蓮華から雪蓮は目を逸らす。

 

冥琳「雪蓮に任せたの間違いでしたね」

 

華琳「ひさしぶりね」

 

赤斗「そうだね。ひさしぶり。でも、いきなり華琳が来るなんて…もしかして、司馬懿の手掛かりが!?」

 

華琳「残念だけど違うわ。いまだ仲達の手掛かりは掴めてないわ」

 

赤斗「じゃあ…どうして、華琳がわざわざ建業に?」

 

華琳「なぁに? 用がなければ、あなたに会いに来ちゃいけないのかしら?」

 

華琳が赤斗に詰め寄る。

 

蓮華「なっ!」

 

赤斗「ちょ、ちょっと…華琳?」

 

華琳「ひさしぶりに会ったのだから、少しぐらい良いじゃないの」

 

華琳の顔が赤斗に近づく。

 

赤斗「///////」

 

蓮華「か、華琳っ!!」

 

華琳「ふっ……冗談よ」

 

そう言って華琳は赤斗から離れた。

 

赤斗「はい?」

 

華琳「二人の反応が楽しいから、からかいたくなったのよ」

 

赤斗「変な冗談は止めてくれるかな。あー、びっくりした」

 

華琳「全てが冗談ではないのだけどね」

 

華琳は小声でつぶやいた。

 

赤斗「うん? 何か言った?」

 

華琳「何でもないわ」

 

華琳は元いた場所に戻った。

 

 

赤斗「それで華琳は何で建業に来たの?」

 

華琳「本当に何も聞かされてないのね」

 

雪蓮「赤斗を驚かそうと思ってね」

 

赤斗「ただ忘れてたんじゃないの?」

 

雪蓮「うぅ…赤斗の意地悪……」

 

藍里「実は民の不安解消の為、華琳様が来て下さったのです」

 

赤斗「それって、以前に冥琳と考えたって言ってたやつの事?」

 

藍里「はい」

 

華琳「今、街の様子を見てきたのでしょう。何か聞かなかったかしら?」

 

赤斗「いつもより賑やかだったね。あっ! もしかして、数えなんとかってのが来るって言ってたけど」

 

華琳「そうよ。数え役満姉妹には魏で働いてもらっているのよ」

 

赤斗「ふぅ~~ん。大層な人気みたいだね。みんなの顔から活気が溢れていたよ。なるほど、その子たちの人気を使って、魏は民の士気や国への忠誠心を高めていたんだな」

 

華琳「その通り。数え役満姉妹の影響力はいやおうにも目につくわ。それを利用しない手はないもの」

 

雪蓮「それでその影響力を呉でも発揮して貰おうと思って、わざわざ来て貰ったのよ。天界でもアイドルがコンサートを開いて盛り上がってたじゃない。あれと同じよ♪ 天界での経験を活かさないとね」

 

冥琳「お前は天界でテレビとゲーム三昧だったな……」

 

赤斗「で、公演はいつ?」

 

華琳「三日後よ。すでに凪たちが舞台設営を開始しているわ」

 

赤斗「わかったよ」

 

蓮華「だが疑うわけではないが、その数え役満姉妹とやらは本当にそれだけの力があるのか?」

 

華琳「大丈夫よ。なんたって黄巾の乱を巻き起こすだけの力があるのだから。彼女たちの力は保障するわ」

 

赤斗「え?」

 

雪蓮「私も聞いた時とは驚いたけど。その数え役満姉妹って黄巾党の首謀者なんだって♪」

 

赤斗「…………」

 

雪蓮「それで赤斗に数え役満姉妹の…」

 

赤斗「嫌だ」

 

蓮華「赤斗?」

 

雪蓮「ちょっと、まだ私、何も言ってないんだけど」

 

赤斗「何でもいいよ。誰か他の人に頼んでくれ」

 

そう言うと赤斗は玉座の間から出ていってしまった。

 

蓮華「ちょっと待ちなさい!」

 

蓮華も赤斗を追って玉座の間から出ていった。

 

藍里「赤斗様?」

 

華琳「どうしたのいきなり?」

 

雪蓮「華琳、悪かったわね」

 

華琳「気にしてないわ。それにしても、赤斗どうしたのかしら?」

 

冥琳「風見らしくなかったな」

 

雪蓮「もしかしたら、まずったかも……」

 

華琳「何か心当たりがあるの?」

 

雪蓮「ちょっと、ね」

 

 

蓮華「赤斗、待って!」

 

廊下で蓮華が赤斗を呼び止めた。

 

蓮華「一体どうしたの?」

 

赤斗「……別に」

 

蓮華「はぁー。……本当にどうしたの? あんなの赤斗らしくないわよ。あれじゃ、わざわざ来てくれた華琳に申し訳ないわ」

 

赤斗「そうだね……」

 

蓮華「話してくれるでしょう?」

 

赤斗「…………初陣の時の事、憶えてる?」

 

蓮華「初陣? …黄巾党の討伐?」

 

赤斗「うん。あれから黄巾党の事は苦手なんだ。だから、出来る限り黄巾党とは関わりたくないんだ」

 

蓮華「苦手? どうして?」

 

赤斗「僕は…あの時、初めて人を殺したから……」

 

蓮華「…あ」

 

赤斗「華琳には悪いけど、僕は今回の件には関わらないから」

 

蓮華「どこに行く気?」

 

赤斗「街の見守りの続きに行ってくるよ」

 

蓮華はそのまま赤斗を見送った。

 

 

街は相変わらず賑やかだった。

 

街中に数え役満姉妹のポスターが貼られ、誰もが数え役満姉妹の公演を楽しみにしていた。

 

赤斗「はあー」

 

貼られているポスターを見て赤斗は溜息をつく。

 

赤斗(何で黄巾党の首魁がこんなに人気があるんだろ……)

 

赤斗「はあー。……でも、街に活気が出る良い事かな」

 

恋「赤斗」

 

突然、背後から声をかけられた。

 

赤斗「恋っ! いつの間に」

 

恋「赤斗、元気ない?」

 

恋は心配そうに赤斗の顔を覗き込む。

 

赤斗「僕なら…大丈夫だよ」

 

恋「本当?」

 

赤斗「うん。本当だよ。心配してくれて、ありがとう。そうだ。何か食べていかない?」

 

恋「食べる。恋、お腹…空いた」

 

赤斗「よし。じゃあ、そこの店に行こう」

 

恋「うん」

 

 

店に入った赤斗と恋は席に座りメニューを見た。

 

赤斗「さあて、何にしようか」

 

恋「ここにあるの全部」

 

赤斗「メニューにある料理全部とは大胆だな」

 

恋「火蓮にお小遣い貰ったから、お金なら大丈夫。……ダメ?」

 

赤斗「OK。いいよ」

 

赤斗(っていうか。恋って火蓮さんからお小遣いを貰ってたのか)

 

赤斗「すみませーん」

 

注文をしようと店の人間を呼んだ。

 

赤斗「おじさーん!……あれ?」

 

だが、いつまで経っても誰もこない。

 

赤斗「さっきまで居たのに……どうしたんだろ?」

 

恋「…赤斗」

 

赤斗「何?」

 

恋「外が騒がしいよ」

 

赤斗「本当だ。何かあったのかな?」

 

店の外がいつの間にか騒がしい事に気がつく。

 

赤斗「店の人も外かな?」

 

恋「……赤斗、どうするの?」

 

赤斗「ちょっと様子を見に行ってくるから、恋は待ってて」

 

恋「わかった」

 

赤斗は店の外に出た。

 

 

赤斗「うわー」

 

店の外には人だかりができていた。

 

赤斗「いったい何なんだ?」

 

楽進「道を、道を開けてください!」

 

人だかりをかき分けて楽進が姿を現した。

 

赤斗「あっ、楽進」

 

楽進「これは風見殿。ちょうど良かった」

 

赤斗「楽進。こんな所で何やってるの?」

 

楽進「はい。今、ある人物たちの護衛をしているのですが、この人だかりに巻き込まれてしまって」

 

赤斗「それなら一旦、そこの店に入って、落ち着くまで待てばいいんじゃない」

 

楽進「わかりました。それでは、三人ともこの店に入りますよ」

 

?「は~い」

 

?「ちょっと待ってよ」

 

?「ちぃ姉さん早く」

 

赤斗「あ……」

 

楽進の後から現れたのは、街中に貼られているポスターと同じ顔の三人。

 

黄巾の乱の首謀者である張三姉妹だった。

 

 

 

ファンたちが入って来れないように兵士に店の外を見張らせて、張三姉妹たちは店の中に避難した。

 

天和「ふう~すごい人だったね~」

 

地和「せっかく変装して建業の街を見て回ろうと思ったのに、お姉ちゃんのせいで皆にばれちゃったじゃない!」

 

天和「だって~帽子が取れちゃったんだもん」

 

赤斗「楽進。いったいどういう事なのか説明してくれると助かるんだけど」

 

数え役満姉妹から少し離れた場所で、赤斗が楽進に小声で尋ねた。

 

楽進「実は三人がどうしても建業の街を見学したいと言うので、支持者にバレないよう変装して街に出たのですが…」

 

赤斗「結局、変装がバレて街の人たちに気が付かれてしまったと」

 

楽進「はい。それで人が集まってしまい、あの騒ぎになってしまいました」

 

赤斗「……無用な混乱を作ったってわけか」

 

天和「それにしても助かったよー」

 

天和が赤斗と楽進の方に近づいてきた。

 

赤斗「…何が?」

 

気付かれないように一歩後ろに下がりながら、赤斗は聞き返した。

 

天和「あのままだったら、どうなっていたか分からなかったもの。あなたが来てくれて本当に助かったよー」

 

無邪気な笑顔で天和は赤斗に話しかける。

 

赤斗「別に…君達を助けようと思ってやった事じゃないし…」

 

聞こえないぐらい小さな声で赤斗は呟いた。

 

天和「え? 今、何て言ったの?」

 

赤斗「何でもないよ」

 

地和「よし。それじゃお礼として、ちぃ達の直筆の色紙をあんたにあげるわ」

 

赤斗「いらない」

 

地和「何速攻で断ってるのよ!ちぃが直々に色紙を書いてあげるって言ってるのに! 普通なら感謝感激で涙を流して喜ぶものよ!」

 

赤斗「みんなが自分の支持者だと思うのは大きな勘違いだよ」

 

地和「何ですってー!」

 

赤斗「じゃあね楽進。僕達はこれから食事だから」

 

楽進「え? あ、あの…」

 

赤斗「おじさん、早く注文を取りにきてね」

 

店主「は、はい!」

 

赤斗は詰め寄った地和を無視して、恋のいる奥のテーブルに戻っていった。

 

地和「こら、無視すんなー!」

 

天和「う~ん。どうしたのかな?」

 

地和「いったい何なのよ!あいつ」

 

人和「凪さん。あの人はどのような人なんですか? 孫家の関係者ですか?」

 

楽進「あの方は…」

 

 

赤斗「お待たせ」

 

恋「赤斗、おかえり」

 

赤斗「今、店の人が注文を取りに来てくれるよ」

 

恋「うん。恋、もうお腹ぺこぺこ」

 

赤斗「そうだね。余計な時間をくっちゃったしね」

 

地和「余計な時間って、ちぃ達の事?」

 

地和一人だけが赤斗を追ってやってきた。

 

赤斗「はぁー。まだ何か用があるの?」

 

うんざりとした気持ちを隠さず赤斗は尋ねる。

 

地和「聞いたわよ。あんたが天の御使い・江東の赤龍だってね」

 

赤斗「…それで?」

 

地和「あんた、ちぃ達の凄さを知らないんでしょう?」

 

赤斗「凄さ?」

 

地和「そうよ。ちぃ達の実力を知らないから、さっきのような態度を取ったんでしょう! そうでしょう!」

 

赤斗「……実力とは黄巾の乱を引き起こして、世の中を滅茶苦茶にした事か?」

 

暗い声で赤斗は聞き返す。

 

地和「あ、あれは…」

 

恋「…赤斗?」

 

気がつくと赤斗からは明確な敵意が地和に向かって放たれていた。

 

地和「ぁ、ぅ」

 

楽進「どうしましたか!?」

 

赤斗の敵意を感じ取った楽進たちがやってくる。

 

楽進「風見殿、どうしたんですか?」

 

赤斗「……別に」

 

楽進がやってきたと同時に赤斗から放たれていた敵意は消えた。

 

天和「地和ちゃんどうしたの?」

 

すっかり地和は腰が抜けてしまっていた。

 

赤斗「はぁー」

 

赤斗(僕はいったい何をやってるんだ…)

 

心底自分のとった行動に赤斗は嫌気を感じていた。

 

赤斗「その…あの………悪かったな」

 

まだ腰の抜けている地和に赤斗は手を貸して、地和の身体を起こした。

 

地和「ふんっ。……あっ」

 

起き上がった地和はある事に気がついた。

 

人和「ちぃ姉さん? どうしたの?」

 

地和「……あ…れ」

 

人和「あれ? あっ!!」

 

人和もその何かに気がついた。

 

天和「二人とも、どうしたのー? …あっ!!」

 

張三姉妹の様子が明らかにおかしい。

 

赤斗は張三姉妹の視線の先を辿った。

 

赤斗「…恋?」

 

視線の先にいるのは、恋こと呂奉先ただ一人。

 

恋「うん?」

 

張三姉妹「ひぃっ!!」

 

恋が振り向くと、三姉妹から小さな悲鳴が上がる。

 

赤斗「恋。もしかして、この三人と知り合い?」

 

恋「?」

 

恋は首を傾げながら、三姉妹に近づく。

 

張三姉妹「ひいぃぃっ!!」

 

赤斗(恋は忘れていても、三人は知っているみたいだな。でも、この怯えようは何だ?)

 

赤斗「ねえ…」

 

天和「そ、そうだ! お姉ちゃん急用思い出しちゃった! それじゃあね!」

 

地和「ちょっとお姉ちゃん! 一人だけずるい」

 

人和「そ、それじゃあ。姉さんたち待って」

 

張三姉妹はそそくさと店を出て行く。

 

楽進「え、三人とも? それじゃあ、また後ほど」

 

楽進も張三姉妹を追いかけていった。

 

恋「?」

 

赤斗「どうしたんだろ?」

 

赤斗たちはただ見送っていた。

 

 

赤斗は城壁の上から街を眺めていた。

 

街は二日後に迫った数え役満姉妹のコンサートを楽しみにしている人たちで賑わっていた。

 

赤斗「はあーー」

 

赤斗は昨日の街での出来事を思い出して、大きな溜息をついた。

 

華琳「なに溜息なんかついているの?」

 

華琳が後ろから赤斗に話しかけてきた。

 

赤斗「華琳」

 

華琳「凪から聞いたわよ。張三姉妹と揉めたそうね」

 

赤斗「……」

 

華琳「あの娘たちの事が嫌い?」

 

赤斗「嫌いというか……苦手」

 

華琳「それは黄巾の乱で人を殺めたから?」

 

赤斗「…知ってたんだ」

 

華琳「昨日、雪蓮から少し聞いたわ」

 

赤斗「そう…」

 

華琳「それでケンカを売ったと…」

 

赤斗「……ただ、少しムカッとしたから、ちょっと…」

 

華琳「ケンカを売ったのね?」

 

赤斗「………はい」

 

華琳「それで、あなたはどうするつもりなの?」

 

赤斗「どうするって?」

 

華琳「このままでいいの?」

 

赤斗「別にいいよ。もう僕は彼女たちに関わらないから」

 

華琳「はぁー。これは思っていた以上に重傷のようね」

 

赤斗「もういい?」

 

赤斗は堪らずにこの場から離れようとした。

 

華琳「待ちなさい。まだ本題に入ってないわ」

 

赤斗「本題?」

 

華琳「そう。数え役満姉妹の公演まで後二日。それまで赤斗。あなたに彼女たちの護衛をやってほしいのよ」

 

赤斗「はいー?」

 

 

赤斗「何を言ってるんだ!? 今、僕は彼女達に関わらないって言ったばかりじゃないか! 聞いてなかったのか!?」

 

華琳「聞いていたわよ」

 

赤斗「それじゃ何で!?」

 

華琳「少し落ち着きなさい。実はね。黄巾党を復活させようとする動きがあるのよ」

 

赤斗「え? まさか、張三姉妹が!?」

 

華琳「だから落ち着きなさい。企てているのは彼女たちじゃないわ。彼女たちの狂信的な信奉者たちよ」

 

赤斗「……」

 

華琳「だけど、黄巾党を復活させるには、それに見合うだけの御輿が必要になるわ」

 

赤斗「それで御輿である彼女たちを奪回しにくると?」

 

華琳「えぇ」

 

赤斗「本当にくるの? 建業に攻めてくるなんて、命知らずもいいとこだよ」

 

華琳「別に集団になって攻めてくるとは限らないでしょう。数え役満姉妹の支持者として建業に潜入して、隙をみて彼女たちを奪い返すって事も考えられるわ」

 

赤斗「……」

 

華琳「再び黄巾の乱を引き起こされたら、どうなるか。それぐらい分かるわよね?」

 

赤斗「ただでさえ、異常気象で人心が動揺している今、そんな事が起これば大陸は前以上の混乱に陥るのは必至…」

 

華琳「その通りよ。分かっているじゃない」

 

赤斗「なら、その狂信的な信奉者とやらを捜して捕まえるのを手伝うよ」

 

華琳「ダメよ。あなたの役目は数え役満姉妹の護衛。これは決定事項よ」

 

赤斗「な、何を勝手な事を!?」

 

華琳「勝手な事を言っているのはあなたでしょう!!」

 

華琳は赤斗に向かって怒鳴った。

 

赤斗「な…!?」

 

華琳「今の状況を理解しているの? ひとり我侭を言っていられる状況かよく考えなさい!!」

 

そう言うと華琳は城壁を降りていった。

 

赤斗「……」

 

 

雪蓮「嫌な役をやらせて悪かったわね」

 

華琳が城壁を降りると雪蓮が待っていた。

 

華琳「別に嫌な役目だなんて思っていないわ。それにしても、人を殺した事を随分と引きずっているのね。赤斗は」

 

雪蓮「争いのない天の国から来た赤斗にとって、人を殺めるという意味は私たちとは違うのよ。誰であろうと死ねば悲しむし、戦の時はいつも震えてたし、赤斗は優しすぎるのよ」

 

華琳「そうね」

 

雪蓮「黄巾の乱の時だって、相手は人を止めた獣なんだから気にする事ないのに、赤斗の心は傷ついたのは確か…。母様も赤斗の心が壊れないか心配してたもの」

 

華琳「そんな赤斗に、自分の心を大きく傷つけた原因でもある張三姉妹の護衛をさせて大丈夫なのかしら?」

 

雪蓮「赤斗なら大丈夫よ。きっとね♪」

 

華琳「それは、あなたの勘?」

 

雪蓮「当然じゃない♪」

 

 

赤斗「ここか……」

 

数え役満姉妹が滞在しているという宿屋まで赤斗はやってきた。

 

赤斗「はぁーー」

 

華琳に怒られて来たものの、赤斗は未だに決心がついていなかった。

 

赤斗(何で僕が護衛なんて…雪蓮みたいにサボっちゃおうかな……)

 

楽進「風見殿、お待ちしておりました」

 

赤斗「うっ…楽進」

 

サボりに行こうとしていると、楽進に見つかってしまった。

 

楽進「どうかしましたか?」

 

赤斗「別に…何でもないよ」

 

楽進「風見殿が増援に来てくださって助かります。では、さっそくですがご案内します」

 

赤斗「はは…ありがとう。よろしくね楽進」

 

楽進「はい」

 

赤斗の心の中は、決心がついたというよりも、諦めに近い感情が支配していた。

 

 

赤斗「ねえ、楽進」

 

楽進「はい。何でしょうか?」

 

赤斗「張三姉妹は、自分たちが狙われている事は知っているの?」

 

楽進「今度の公演に集中してもらう為、三人には伝えていません」

 

赤斗「そうなんだ」

 

楽進「それなので、三人には内緒にしておいて下さい」

 

赤斗「わかったよ」

 

楽進「この部屋です」

 

この宿で一番豪華な部屋の前で楽進は止まった。

 

赤斗「……」

 

楽進「私です。入りますよ」

 

天和「は~い。どうぞ~♪」

 

中からの声に促されて、赤斗と楽進は部屋の中へと入った。

 

天和「あら♪」

 

地和「あーっ! あんたが何でここにいるのよ!!」

 

人和「……」

 

現れた赤斗を見て三者三様の反応を見せる張三姉妹。

 

楽進「風見殿には、今日から公演が終わるまでの間、お三方の護衛をして頂く事になりましたので、よろしくお願いします」

 

赤斗「…よろしく」

 

楽進に紹介されたので、赤斗は一応挨拶をした。

 

地和「えぇーーーっ!! 何でこんな奴が!?」

 

天和「地和ちゃん? どうしたの?」

 

地和「だって、こいつ! 昨日私にケンカ売ってきたのよ!」

 

赤斗「そっちも突っ掛かってきたんじゃないか」

 

地和「何よ! また、ちぃたちにケンカ売る気なの!?」

 

赤斗「今日、売ってきているのは君だけどね」

 

一気に赤斗と地和の間が険悪なものへと変わった。

 

人和「ちぃ姉さん落ち着いて。凪さん。これは曹操様の命令なの?」

 

楽進「はい」

 

地和「そんなの関係ないわよ!」

 

人和「関係大ありでしょう。曹操様は私たちの雇用主でもあるのだから。その雇用主の曹操様が決めた事なら、私たちがどうこう言う事なんて出来ないわよ。出来る限り仲良くしないと」

 

地和「た、確かに…そうかもしんないけどさ。それでも、いや! いやいやいやいや! 絶対にイヤ!」

 

人和「じゃあ、コレだけど?」

 

人和は親指を立てて、首を横にかき切るポーズを取ってみせる。

 

地和「うー……それもやだ」

 

人和「なら我慢してよね」

 

地和「ぐぬぬー……」

 

天和「別にー良いんじゃないのー?」

 

地和「お姉ちゃんまで!?」

 

人和「ちぃ姉さん、これ以上言っても無駄よ。あきらめて」

 

地和「うぅ…」

 

赤斗が護衛役になる事を地和が渋々ながら認めると、今度は人和が赤斗の方へと振り向いた。

 

人和「一つ聞いておきたい事があるんだけど」

 

赤斗「僕に?」

 

人和「えぇ、そうよ」

 

赤斗「…何かな?」

 

人和「あなたは……その……呂布さんとは親しいの?」

 

赤斗「え? …呂布?」

 

天和・地和「………」

 

人和「昨日、一緒に食事していたわよね?」

 

張三姉妹の視線が全て赤斗へと向けられる。

 

赤斗「え、あぁ…」

 

赤斗にとっては予想外の質問だった。

 

てっきり、どうして自分たちを毛嫌いしているのか?等と訊いてくるのではないかと思っていたからだ。

 

人和「やっぱり…」

 

赤斗(そういえば、昨日も恋を見た時の反応がおかしかったよな。やっぱり知り合いなのかな?)

 

昨日の飲食店での出来事を思い出す。

 

赤斗「それがどうかしたの?」

 

人和「それは…っ!!」

 

天和「人和ちゃん? どうし…!!」

 

地和「……」

 

張三姉妹の動きが止まった。

 

赤斗「うん?」

 

恋「……赤斗」

 

赤斗「恋?」

 

気がつくと部屋の扉の前に恋がやってきていた。

 

赤斗「恋も来たんだ」

 

恋「うん。火蓮が赤斗を手伝いに行けって…」

 

赤斗「そうか。ありがとう恋」

 

恋「うん」

 

赤斗「そうだ。恋、昨日も聞いたけど、この三人の事を知ってる?」

 

恋「……知ってる。…張角と張宝、それに張梁」

 

張三姉妹「ひっ…!!」

 

自分たちの名前を呼ばれた三人は小さく悲鳴をあげる。

 

赤斗(……怯えている?)

 

張三姉妹は部屋の隅に移動して、赤斗と恋の様子を伺っている。

 

赤斗「楽進。これはどういう事?」

 

楽進「さあ、私にも何が何だか…」

 

赤斗「そう。…じゃあ、とりあえず警備体制なんかを教えてくれるかな?」

 

楽進「わかりました。では宿や会場、その周辺を一通りご案内しながらご説明します」

 

赤斗「あぁ頼むよ」

 

そう言うと赤斗と楽進は部屋を出て行った。

 

赤斗「恋も行くよ」

 

恋「うん。わかった……」

 

赤斗に呼ばれて、恋も部屋を出て行くと、部屋からは大きく息をつく音が聞こえたのだった。

 

 

楽進「ここが会場です」

 

楽進に案内されて当日、公演が行われる会場にやってきた。

 

赤斗「いつの間にこんなものを。けっこう大きな会場なんだね。これは警備も大変だ。警備の指揮は誰がするの? 楽進?」

 

楽進「いえ。警備の責任者は霞様です」

 

赤斗「へぇー」

 

楽進「ほら、あちらにいらっしゃいます」

 

赤斗「あ、本当だ。おーい、張遼!」

 

赤斗が張遼に向かって叫ぶと、張遼もこちらに気がついて、赤斗の方へとやってきた。

 

張遼「赤斗と恋やないの。ひさしぶりやね♪」

 

恋「霞…ひさしぶり…」

 

赤斗「張遼も建業に来てたんだね」

 

張遼「まあね。それよりも赤斗」

 

赤斗「何?」

 

張遼「霞や。ウチの事は真名で呼んでええで」

 

赤斗「ありがとう。張遼の真名、預からせてもらうよ」

 

霞は赤斗の言葉を聞くと満足そうに頷いた。

 

霞「赤斗…さっそくやけど……今夜一緒に飲まへん?」

 

赤斗「今夜? でも、張三姉妹の護衛があるからな……」

 

霞「別にええやないの。あの三人が泊っている宿で飲めば問題ないやろ♪」

 

赤斗「それでいいのか?」

 

霞「細かい事は気にすんなや。恋と凪も来るんやで」

 

楽進「は、はい」

 

恋「(コクン)……わかった」

 

 

霞「赤斗ー、来たでー♪」

 

その晩、張三姉妹がいる宿に酒瓶を持って霞がやってきた。

 

霞「あれ? 天和たちはどないしたん?」

 

赤斗「あの三人なら、隣の部屋でもう寝てるよ」

 

霞「寝てる? あの三人も誘っとくよう言うたやないの」

 

楽進「申し訳ありません。誘ったのですが、三人とも今日は疲れたと言って」

 

霞「仕方あらへんな。なら、四人で飲もか」

 

赤斗「うん。そうだね」

 

赤斗(あの三人がいなくて良かったなんて言えないな)

 

霞「ほら赤斗、飲も飲も」

 

霞が赤斗に酒を手渡して、酒宴は始まった。

 

その頃、隣の部屋では……。

 

天和「楽しそうだね。私も一緒に騒ぎたいな~」

 

地和「お姉ちゃん、何言ってるの。呂布も居るのよ!」

 

天和「うぅ…」

 

人和「悪い人じゃないと思うんだけどね」

 

天和「呂布さんの前にいると、昔の記憶が蘇ってくるんだもんね……」

 

人和「あの地獄のような記憶……忘れたくても忘れられないわ……」

 

 

霞「赤斗、どないしたん? 全然飲んでないやないの」

 

赤斗「これでも護衛中なんだから、酒は控えないと……」

 

霞「そんな硬い事言ってないで、もっと飲もうや♪」

 

赤斗「……霞なら知ってるかな」

 

霞「ん? 何をや?」

 

赤斗「……恋とさ、張三姉妹の関係というか何というか……」

 

霞「何かあったん?」

 

赤斗「昨日今日とちょっとね……」

 

赤斗は張三姉妹が恋と会った時に妙に緊張して怯えていた事を霞に話した。

 

霞「あー、きっとそれはあれやな」

 

赤斗「あれ?」

 

霞「噂で聞いてへん? 恋一人に黄巾党の一師団が壊滅させられたって話」

 

赤斗「ん~~。そういえば、そんな噂聞いた事があったような……確か三万の軍勢を一人で壊滅させられたって」

 

霞「その三万の軍勢を率いていたのが天和たちだって事は知ってたん?」

 

赤斗「…………」

 

霞「黄巾党が各地で連戦連勝していた頃、天和たちは南方から奇襲して洛陽に侵入しようとしてたんや」

 

赤斗「洛陽に? でも、その頃の洛陽には……」

 

霞「そうや。ウチら董卓軍も洛陽の近くにいた。そんで恋が迎撃に向かって、天和たちを後一歩のとこまで追い詰めたんや」

 

赤斗「それが……張三姉妹が恋に怯える理由?」

 

霞「多分な…」

 

赤斗「ふ~ん」

 

天和「きゃああぁぁーーーっ!!」

 

隣の部屋から天和の悲鳴が聞こえてきた。

 

霞「何や!」

 

赤斗「隣の部屋だ!!」

 

 

霞「どないしたんや!!」

 

赤斗たちは張三姉妹の部屋に入った。

 

人和「し、霞さん。天和…姉さんが……」

 

霞「お前誰や!?」

 

人和が指さした方を見ると、そこには黄巾を頭に被った男が、気を失った天和を肩に抱えて立っていた。

 

赤斗「……黄巾党?」

 

黄巾の男「…………」

 

黄巾の男は赤斗たちを一瞥すると天和を抱えたまま窓から逃走した。

 

赤斗「あっ、待て!」

 

霞「凪! 地和たちの事は任せたで!」

 

赤斗たちも黄巾の男を追って窓から飛び出した。

 

霞「逃げ足の速いやっちゃな」

 

赤斗「人を抱えているのにこの速さ。只者じゃないな」

 

赤斗は前を走る黄巾の男の後を追うが、中々追いつけないでいた。

 

恋「赤斗、霞…このままじゃ……」

 

赤斗「そうだね。このままじゃ見失うね。スピードを上げよう」

 

霞「すぴぃど…?」

 

赤斗「追う速さを上げようって事さ。行くよ!」

 

霞「ちょい待ち。悔しいけどウチはこれ以上は無理みたいや」

 

霞が少し遅れ始めていた。

 

霞「ウチの事はおいて先に行ってえな。ウチは増援を呼んでくるから頼んだで」

 

赤斗「了解。恋は?」

 

恋「恋なら…まだ大丈夫」

 

赤斗「よし。なら行くよ」

 

そう言うと赤斗は追うスピードを上げた。

 

 

黄巾の男は天和を抱えたまま、街の外の森へと逃げ込んだ。

 

だが、森に入っても黄巾の男のスピードは変わらない。

 

赤斗「このままじゃ、本当に逃げられるな」

 

恋「どうするの?」

 

赤斗「……仕掛けよう。張角がいるから手を出せないでいたけど、このままじゃ埒があかないしね」

 

恋「わかった」

 

赤斗「僕が一気に奴の前に出る。それで後から来た恋と挟み撃ちにしよう」

 

恋「わかった。…赤斗。気をつけてね」

 

赤斗「ありがとう。それじゃあ……疾風っ!!」

 

赤斗は奥義疾風を発動させて、一気に黄巾の男を追い抜いた。

 

黄巾の男「なっ!」

 

突然、赤斗が目の前に現れて、黄巾の男は一瞬怯む。

 

その一瞬の怯みを赤斗は見逃さなかった。

 

赤斗「はっ!」

 

赤斗の掌底が黄巾の男の腹にめり込んだ。

 

黄巾の男「がはっ…」

 

続いて赤斗の掌底が黄巾の男の顎を打ち上げた。

 

黄巾の男「ぐっ!」

 

黄巾の男の肩に抱えられていた天和の身体が宙を舞う。

 

天和「んん…?」

 

空中で天和は意識を取り戻した。

 

天和「え? ええええぇぇぇぇぇーーーーっ!?」

 

今、自分が置かれている状況が分からずに天和が絶叫した。

 

天和「だ、誰か助けてーー!」

 

ドサっ

 

恋「…大丈夫?」

 

地面に激突する前に、恋が天和を受け止めた。

 

天和「え、…うん。ありがとう」

 

黄巾の男「ぐぅ…よくも大賢良師様を!」

 

ヨロヨロと身体をふらつかせながら、黄巾の男は赤斗を睨みつけた。

 

赤斗「これまでだね。観念しなよ」

 

黄巾の男「まだだ。まだ、こんな所では終わらん。黄天の世を作る為に……俺は」

 

赤斗「それで……また黄巾の乱を引き起こす気か?」

 

黄巾の男「ふん。そうだ! 必ずや今度の戦いで、この腐った世を浄化する!」

 

赤斗「……」

 

黄巾の男「その為にも大賢良師様には戻ってきて頂かねばならないのだ!」

 

赤斗「……そんな事はさせない。…!!」

 

恋「赤斗!」

 

赤斗が黄巾の男を捕らえようとした時だった。

 

一本の矢が赤斗に向かって飛んできた。

 

赤斗「く…」

 

赤斗はとっさに矢は避けた。

 

矢を避けた赤斗は、すぐに矢が飛んできた方を確認したが、すでに誰もいなかった。

 

赤斗「しまった…」

 

そして黄巾の男の姿も消えていた。

 

 

 

数え役満姉妹の公演当日。

 

公演開始一時間前。

 

赤斗「……」

 

開場前の舞台で赤斗は警備の最終確認を黙々とこなしていた。

 

会場の外には、公演を待ち望む人でごった返していた。

 

赤斗(何だか緊張してきたな)

 

赤斗「ふぅー」

 

大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

赤斗「ここまで来たなら、例えあの三人の護衛でもしっかりしなきゃね。また華琳に怒られたくないし……」

 

そう言うと赤斗は昨日の事を思い出した。

 

 

華琳「あなたたちは一体何をしてたの!!」

 

玉座の間に華琳の怒鳴り声が響いた。

 

華琳「天和が無事に戻ったから良かったものの。もし何かあったらどうするつもりだったの!!」

 

赤斗「……」

 

霞「赤斗は悪うないんや。ウチが誘ったのが悪かったんや」

 

赤斗「…いや、ちゃんと断らなかった僕の方が悪かったんだよ。罰なら僕が受けるよ」

 

霞「何を言っとるんや。罰を受けるんはウチや!」

 

雪蓮「華琳。二人とも反省してるみたいだから、それぐらいで許してあげたら」

 

華琳「……そうね。赤斗、霞!」

 

赤斗・霞「は、はい!」

 

華琳「引き続き、数え役満姉妹の護衛を命じるわ! 今後、このような事がないようにしなさい!」

 

赤斗・霞「はい」

 

雪蓮「張角を攫った男は、また張角を狙ってやってくると思うけど、どうする?」

 

冥琳「再び黄巾党を復活させられては厄介だ。ただでさえ異常気象で人心が乱れているんだ。今、黄巾の乱が起きれば前以上の混乱は必至だな」

 

雪蓮「なら、早く黄巾の残党を捕まえて、打ち首にでもしちゃいましょう♪」

 

藍里「警備の数を増やしますか?」

 

冥琳「そうだな。公演は明日。呉からの警備の数を倍に増やそう。お前と嶺上の部隊も警備に回ってくれ」

 

藍里「はい。わかりました」

 

亞莎「公演の客に紛れて侵入したらどうしますか?」

 

冥琳「会場内には武器などを持ち込ませないよう、会場に入る際は客全員の荷物を調べるようにする。それでも賊が行動を起こしたら…頼んだぞ風見」

 

赤斗「はーい」

 

 

赤斗「はは…本当に華琳怖かったな…」

 

霞「赤斗ーー!」

 

赤斗「ん…どうしたの?」

 

霞「もうすぐ開場するで。準備はええか?」

 

赤斗「まあね」

 

霞「ほんなら、そろそろ赤斗は天和たちのとこに行っといてや」

 

赤斗「……了解。霞も警備頑張ってね」

 

霞「任せとき♪ 赤斗も気いつけてな」

 

赤斗「あぁ。ありがとう」

 

赤斗は霞に礼を言うと数え役満姉妹のいる楽屋へと向かった。

 

 

赤斗「よし! 行くぞ!」

 

数え役満姉妹の楽屋の前で、自分に気合を入れてから楽屋のドアを開けた。

 

赤斗「おーい。そろそろ開場するってさ。準備はいいかい?」

 

天和「あー赤斗ぉー。やっと来た~♪」

 

赤斗が楽屋に入てきた事に気がつくと天和は、すぐに赤斗のもとに駆け寄ってきた。

 

赤斗「うぅ…」

 

赤斗を戸惑いながら後ずさる。

 

地和「ちょっと天和姉さん!何やってるのよ!」

 

天和の行動を見て地和が叫ぶ。

 

天和「何って?」

 

天和は赤斗の腕に抱きつきながら聞き返す。

 

地和「何でそんな奴と仲良くしてるかって事よ!?」

 

天和「え~だって~~。赤斗は~命の恩人だし~♪」

 

天和は誘拐未遂事件以来、すっかり赤斗に懐いていたのである。

 

だが、当の本人である赤斗は少し迷惑そうだった。

 

赤斗「ほら、本番前にケンカしない。さっきも言ったけど、三人とも準備できてるの?」

 

人和「私たちなら、いつでもいけるわ」

 

赤斗「それは良かった。…………」

 

そう言い終えると赤斗は黙り込んでしまった。

 

人和「…赤斗さん?」

 

天和「赤斗ぉ? どうかしたのー?」

 

地和「ちょっと、何黙ってんのよ?」

 

赤斗「…言うかどうか悩んだけど…」

 

ようやく赤斗が口を開いた。

 

赤斗「僕は黄巾の乱の事もあって、君たちの事が少し…いや、すっごく苦手だ。正直言って、今回の護衛役もやりたくなかったぐらいだ」

 

地和「なっ!あんた、またちぃ達にケンカ売る気!?」

 

赤斗「別にそんなつもりはないよ。だけど……」

 

地和「だけど?」

 

赤斗「……ただ、お、お、お礼は言っときたかった。その…呉の為に来てくれて……あ、あ、ありがとう」

 

恥かしさを隠せずに赤斗の顔は真っ赤になっていた。

 

地和「へ?」

 

急に礼を言われて地和は呆気にとられる。

 

天和「何だ~そんな事~♪ それなら気にしなくても良かったのに~♪」

 

人和「私たちが建業に来たのは、華琳様の命令だったから。それに今回の公演が成功すれば、私たちの知名度は更に上がるわ。私たちに損はないから断る理由もないしね」

 

赤斗「…それでもお礼は言っておきたかったのさ。公演中は僕が君たちを守る。だから、呉の為に力を貸して欲しい」

 

赤斗は数え役満姉妹に向かって頭を下げた。

 

地和「よ、ようやく、ちぃ達の有り難みが分かったようね。任せなさい!絶対にこの公演は成功させてあげるから♪ だから、あんたもしっかり警護しなさいよね!」

 

赤斗「あぁ、わかった」

 

兵士「失礼します。まもなく開演時間です。よろしくお願いします」

 

楽屋に開演時間を知らせに兵士が入ってきた。

 

地和「よーし。それじゃあ行こう♪」

 

天和「あっ、ずるーい」

 

人和「姉さんたち待って」

 

真っ先に地和が舞台へと向かっていった。

 

それを天和と人和が駆け足で追っていく。

 

ついに数え役満姉妹の公演が始まろうとしていた。

 

 

 

天和「みんなー、盛り上がってる~?」

 

観客「「おーーーーーーっ!」」

 

地和「まだまだ盛り上がっていくからねー!」

 

観客「「おーーーーーーっ!」」

 

天和と地和の二人の二人の声に合わせて、観客が一斉に声を上げる。

 

天和「みんな大好きーー!」

 

観客「「「「「てんほーーちゃーーーーん!」」」」」

 

地和「みんなの妹ぉーっ?」

 

観客「「「「「ちーほーーちゃーーーーん!」」」」」

 

人和「とっても可愛い」

 

観客「「「「「れんほーーちゃーーーーん!」」」」」

 

 

数え役満姉妹の声に呼応して観客が声を上げる。

 

赤斗「す……すごい…な。むこうの世界でも、こんなに盛り上がるアイドルはいないかも……」

 

舞台の側で天和たちを見守っている赤斗は圧倒された。

 

赤斗(これだけ熱気や歓声があると、例え敵が殺気や敵意を発しても、観客の中にいたら察知するのは難しいな)

 

観客「「「「ほわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」」

 

赤斗「ぅっ」

 

一段と大きな歓声に赤斗は怯んだ。

 

赤斗「とにかく、三人のいる舞台を中心にやってみるか。……月空」

 

舞台上が赤斗の奥義“月空”で覆われた。

 

月空で気を張り巡らせた事により、不審者が舞台に入ればすぐに対応できる。

 

赤斗「これで良し。さあ来るなら来い。……それにしても」

 

会場内を見て赤斗は呟いた。

 

観客「「「ほわーっ! ほわーっ!」」」

 

赤斗「ついて行けないな。このノリには…」

 

観客「「「「「ほわぁぁぁぁぁぁあああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」」」

 

会場内の熱気はますます上昇していくのであった。

 

 

公演が始まってから、まもなく二時間は経過しようとしていた。

 

天和「みんなーー次の曲行くよーーー!」

 

観客「「「「ほわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」」

 

赤斗「まだ続くのか…いったい、あと何曲歌う気なんだ?」

 

楽進「あと四曲ほどで終わりになる予定ですよ」

 

横で待機していた楽進が赤斗の独り言に答えてくれた。

 

赤斗「じゃあ、もう少し終わりだね」

 

楽進「はい。それよりも大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが…」

 

赤斗「はは…。ちょっと疲れただけ」

 

公演が始まってから、ずっと周囲を月空で覆っていたから、さすがに疲れてきた。

 

だが、周囲の警戒を怠るわけにはいかなかった。

 

赤斗「さて、このまま終わるとは思えないけど……」

 

楽進「必ずあの時の賊はやってくるはず。今度こそひっ捕らえましょう」

 

赤斗「そうだね…ん!?」

 

その時、天和たち以外に舞台に入った人間の気配を赤斗は感じ取った。

 

楽進「あっ!!」

 

楽進が声を上げる。

 

一人の男が警備を振り切って、舞台に乱入しようとしていた。

 

楽進「このぉ!」

 

楽進や他の警備の兵が、男に向かって行った。

 

楽進「おとなしくしなさい!」

 

すぐ様、男は楽進たちの手によって取り押さえられた。

 

舞台に乱入する前に取り押さえる事ができたので、天和たちは中断する事なく公演を続けていた。

 

観客たちも天和たちに夢中で気が付いていない。

 

楽進「これで一安心ですね風見殿」

 

楽進が話しかけるが赤斗の返事は聞こえてこない。

 

楽進「……風見殿?」

 

今までいたはずの場所から赤斗の姿は消えていた。

 

 

赤斗「ここまで来れば公演の邪魔にもならないかな」

 

会場から少し離れた場所に赤斗の姿はあった。

 

舞台へ乱入しようとしたのは一人だけではなかった。

 

楽進が取り押さえた男以外にも、舞台に乱入しようとしていた男がいた。

 

その男こそ、以前天和を誘拐しようとした黄巾の男であった。

 

月空のお蔭でいち早く黄巾の男の乱入を察知した赤斗は、すぐに奥義“疾風”で黄巾の男の元に飛び、抵抗する暇を与えぬまま男を連れ去ったのである。

 

黄巾の男「またしても貴様か!」

 

男は鬼のような形相で赤斗を睨みつける。

 

赤斗「別にあの場で取り押さえても良かったけど、せっかく建業の皆が楽しんでいる公演を中断させるわけにいかなかったしね」

 

黄巾の男「黙れ! 偉大なる大賢良師様を誑かした曹操や孫権に付き従えている分際で俺を邪魔をするな!」

 

赤斗「分際って…僕には風見赤斗って名前があるんだ。君も名ぐらい名乗ったらどう?」

 

管亥「ふん。まあいいだろう。名ぐらい教えてやろう。俺の名は管亥!」

 

赤斗「かんがい?」

 

赤斗(管亥って、誰だっけかな? 確か何となく三国志で読んだような。………忘れちゃったな)

 

管亥「黄天の世を作り、この腐った世を大賢良師様と共に浄化する事こそが我が使命!」

 

赤斗「前にも言ってたけど、腐った世を浄化するってどういう事さ?」

 

管亥「わからぬか? 今、この大陸を襲う異常気象。これこそが愚かな権力者によって齎されたもの!」

 

赤斗「……」

 

管亥「愚かな権力者どもが国を腐敗させ、それが天の怒りを買ったのだ!」

 

赤斗(この異常気象は司馬懿の仕業だといっても信じないだろうな)

 

管亥「“蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし。歳は甲子に在りて、天下大吉”今こそ大賢良師様を曹操の元からお救いして、再び黄巾党の頂点に立って頂くのだ! 邪魔をするなら殺す!」

 

言い終えると同時に管亥は剣を抜いて、赤斗に向かって斬りかかった。

 

 

 

管亥の剣が赤斗に振り下ろされる。

 

だが、振り下ろされた剣が斬ったのは、赤斗の残像だった。

 

管亥「何ぃ!? がぁ!!」

 

管亥から驚きの声を上げる。それと同時に管亥の身体は、背面にまわった赤斗によって取り押さえられた。

 

管亥「こ、この、放せ!」

 

暴れる管亥だが、赤斗によって取り押さえられた身体は全く動かない。

 

赤斗「………きっと、張角たちはそんな事は望んでいない」

 

管亥「何だと?」

 

管亥の動きが止まる。

 

赤斗「張角たちはそんな事は望んでいないって言ったんだ」

 

管亥「貴様なんかに何がわかるというのだ!」

 

赤斗「さあね? 僕がわかっている事なんて、ほんの少しさ。だけど、お前こそ張角たちを全く理解していない事ならわかる!」

 

管亥「何を言っている。俺こそが大賢良師様の一番の理解者。俺にわからない事などないわぁ!」

 

赤斗「彼女たちはただの歌が好きな女の子だ」

 

管亥「はぁ?」

 

赤斗「やっぱりな。お前はそんな大前提さえも知らない。まだ出会って間もない僕にすらわかる事を、お前は知らない」

 

管亥「……」

 

赤斗「恐らく彼女たちが再び黄巾の乱を起こそうと思えば、きっと出来るんだと思う。それは今日の公演を見ただけで充分にわかった」

 

管亥「そうだ! 大賢良師様のお力さえあれば、黄巾党復活は容易なのだ!」

 

赤斗「だけど、黄巾の乱を引き起こしたって、大陸は浄化される事などない。今以上に混沌へ進んでいくだけだろう。自分たちの歌で、大陸がそんな風になるのを彼女たちが望むとでも思っているのか!?」

 

管亥「……それは」

 

赤斗「お前は何で張角を慕う!? 彼女の歌う歌にお前も魅かれたからじゃないのか!?」

 

管亥「俺は…」

 

赤斗「お前がやろうとしている事は、救済でもなんでもない。張角の歌を利用して、ただ大陸に混乱を招こうしているだけだ!」

 

管亥「そんな…俺は、ただ…」

 

赤斗「思い直せ。今ならまだ間に合うよ」

 

管亥「俺は…」

 

その瞬間、管亥の額に向かって矢が放たれた。

 

管亥「がっ!」

 

赤斗「なっ、管亥っ!」

 

管亥の額に矢が深々と刺さり、管亥は絶命した。

 

赤斗「誰だ!?」

 

赤斗が辺りを見回しても矢を放ったであろう人間の姿はなかった。

 

その後、暫くのあいだ赤斗は悔しそうにその場で佇んでいた。

 

 

天和「みんなーーまだまだ行けるかな~?」

 

観客「「いぇーーぃっ!!」」

 

地和「でも、そろそろおしまいの時間だよ~」

 

観客「「ええーーーーっ!!」」

 

人和「大丈夫、また会えるから」

 

観客「「おおーーーーっ!!」」

 

天和「それじゃあ最後の一曲、聞いてくださいね!」

 

三人は満面の笑みで、大きく手をふりながら舞台の上を立っている。

 

見ている観客も目を逸らしてる人は一人もいなかった。

 

天和「最後まで聞いてくれてありがとう!」

 

地和「次回もまた見に来てねー!」

 

人和「さようなら」

 

最後の曲を歌い終わり、手を振って舞台から下りる間、観客の歓声と喝采は途切れる事はなかった。

 

興奮冷めやらぬ様子で、しばらくの間はその熱気が会場中に充満していた。

 

雪蓮「すごいわね、あの三人の力。こんなにもみんなを熱狂させる事ができるなんて」

 

冥琳「ああ、たいしたものだな」

 

雪蓮たちは特別席から公演を見ていた。

 

蓮華「華琳、本当に感謝するわ、これで呉にも活気が戻ってくるわ」

 

華琳「どういたしまして」

 

流琉「華琳様」

 

特別席に流琉がやってきた。

 

華琳「どうかしたの?」

 

流琉「実は……」

 

流琉は華琳に耳打ちする。

 

華琳「何ですって」

 

雪蓮「どうしたの?」

 

華琳「赤斗が公演中に居なくなったそうよ」

 

蓮華「何だと!!」

 

雪蓮「あらー、護衛が嫌になって、どっか行っちゃったのかしら」

 

冥琳「お前じゃあるまいし、それはないだろう。公演中に何かあったのか?」

 

流琉「はい。凪さんの話では、舞台に上がろうとした観客を取り押さえた時にはもう赤斗さんの姿はなかったそうです」

 

蓮華「赤斗……一体、何処に」

 

 

天和「はぁ~~~っ、疲れたけど、楽しかったぁ!」

 

地和「やっぱりいいわね、大舞台って。気分がすっきりするわ!」

 

人和「……今まで一番楽しかったかも」

 

藍里「ご苦労さまでした。どうぞ」

 

楽屋に戻ってきた三人に、藍里が冷たい水の入った水筒を手渡していく。

 

天和「ありがとう♪ ぷはーっ! やっぱりー仕事終えた後のお水は美味しいね~~~~!……あれ、赤斗は?」

 

藍里「えっとそのぉ……今はちょっと……」

 

地和「何よアイツ、ちぃ達を守るって言っときながら、公演中に居なくなったの!?」

 

藍里「……はい。でも、きっと何か理由があったんだと思います」

 

天和「赤斗~、何処に行っちゃったのかな~?」

 

人和「私、見ました」

 

藍里「え?」

 

人和「公演中に姉さんを攫おうとした人を見ました」

 

雪蓮「それって本当なの?」

 

藍里「雪蓮様!」

 

人和「華琳様も!」

 

楽屋に雪蓮たちが姿を現した。

 

華琳「人和。今の話を詳しく聞かせてちょうだい」

 

人和「は、はい。ちょうど私の居た場所から見えたんですが、凪さんたちが舞台に上がろうとした人を取り押さえていた時、もう一人舞台に上がろうとしていたんです。でも、次の瞬間には赤い影と一緒にその人は会場から消えていました」

 

華琳「赤い影とは…赤斗ね」

 

雪蓮「きっとそうね」

 

冥琳「賊を会場から引き離したか」

 

雪蓮「赤斗が逃げ出したんじゃなくて良かったわね、蓮華」

 

蓮華「わ、私は始めから赤斗の事を信じていました! それよりも姉様、すぐに赤斗を捜しましょう!」

 

雪蓮「そうね」

 

赤斗「その必要はないよ」

 

静かに赤斗が楽屋に入ってきた。

 

蓮華「赤斗っ!?」

 

赤斗が楽屋にいきなり入ってきて、その場にいた全員が驚く。

 

天和「赤斗ぉどうしたの~? 身体中、泥だらけだよ~」

 

赤斗「ちょっとね……」

 

赤斗の服は天和の言う通り泥で汚れている。

 

そして、赤斗の目元は腫れていた。

 

華琳「……赤斗。説明してくれるわよね」

 

赤斗「ああ、勿論」

 

赤斗はその場で何があったのか説明した。

 

 

赤斗「残念だけど管亥を殺した犯人は分からなかったよ……」

 

雪蓮「それで、何で赤斗はそんなに泥だらけなの?」

 

赤斗「それは……管亥を遺体を弔ってたらこうなった」

 

蓮華「なっ、赤斗あなた、賊を弔ったの!?」

 

赤斗「あぁ……」

 

雪蓮「赤斗らしいといえばらしいけど、赤斗って黄巾党嫌いじゃなかったの?」

 

赤斗「嫌いだよ。だけど……死んだら誰であっても悲しいよ」

 

雪蓮「それで賊の為に涙まで流したってわけね」

 

赤斗「涙?」

 

雪蓮「気がついてないの? 目元が泣き腫れてるわよ」

 

赤斗「………いつの間に」

 

華琳「事情は分かったわ。赤斗は天和たちの護衛を放棄したわけではなかった。そして、今回の一件は管亥一人の仕業ではないという事もね」

 

雪蓮「それにしても、今日は本当に呉の為によくやってくれたわ。三人とも礼を言うわ」

 

天和「私たちも楽しかったし~」

 

地和「それにみんなかなり乗ってくれてたよね! これも、ちぃ達の魅力ってやつ?」

 

天和と地和は公演が大盛況に終わった事に満足の様子だった。

 

天和「ねえねえ、今回かなり売り上げ出たんでしょ? じゃあ、美味しい物食べられるね!」

 

地和「ちぃ、満漢全席がいい!」

 

天和「あ、わたしも~!」

 

赤斗(満漢全席は無理だろう……)

 

地和「満漢全席の後は、やっぱし新しい服かな。この前、すっごい可愛い服を見つけたの!」

 

天和「あ~いいな~。私も新しい服が欲しい~」

 

天和たちの会話で少しずつ楽屋内の雰囲気が明るくなっていく。

 

二人はただ好き勝手に言っているだけだろうが、赤斗にとってそれはとても助けになっていた。

 

あんなに苦手だと思っていた張三姉妹だったのに不思議な気持ちになっていた。

 

赤斗(これも彼女たちの歌の影響かな……?)

 

 

―――泰山―――

 

鴉「仲達にも黙って何をしているかと思えば、黄巾党を復活させようとしていたとはね~」

 

玄武「もう少し役に立つかと思いきや、とんだ役立たずだった。再び黄巾の乱を起こしてくれれば、仲達様のお役に立てたのにな。張角への思いとやらも大した事なかったようだ」

 

鴉「さんざん利用しておいて、その言い方とは……ひどい奴だな」

 

 

つづく


 
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