No.545192

真・金姫†無双 #27

一郎太さん

前回のあらすじ。

華琳たんが珍しく論破される。

今回のオマケ。

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2013-02-16 23:04:31 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:9694   閲覧ユーザー数:6878

 

 

#27

 

曹操たんや春秋姉妹以外にも、訪れてくれる娘はいる。楽進ちゃんに李典ちゃん、そんで于禁ちゃんの3人組や、昼間には雛里と年の頃の変わらない許緒ちゃんが。猫耳フードはいまだ来てないけど、罵詈雑言を聞くくらいなら来なくていいや。お客様は神様だけど、店の雰囲気を悪くする奴は貧乏神だ。売り上げが下がる。

 

「さぁさぁ、いらっしゃい!とっても美味しい焼鳥だよー!10本買うごとに1本無料提供(サービス)!さー、まずはひと口!」

 

今日も今日とて、昼間の営業。売れ行きは上々だ。まだまだ材料はあるし、出来るだけ捌いてしまおうと声を張り上げていれば、じっとこちらを見つめる視線に気づく。

 

「おぅ、どうした、お嬢ちゃん?」

 

視線の主は、緑髪をショートカットにしたお嬢さん。許緒ちゃんと同い年くらいか。スパッツのような下衣がいかがわしい。俺が声をかければ、恥ずかしそうにしながらも、とてとてと焼き台の方に寄ってくる。

 

「あの、訊きたいんですけど……」

「おう」

「このタレ…どうやって作ってるんですか?」

「ん?」

 

お嬢ちゃんが指差すのは、焼き台の梁に引っかけた、タレの入った壺。

 

「匂いでなんとなくの材料はわかるんですが、何か引っかかって……」

「ほぅ、匂いだけで?そいつは凄いな。だが、百聞は一見に如かず。百匂は一口に如かず。まずは食べてみな」

「えっと、そうしたいのですが……」

 

誘ってみれば、途端に口籠る嬢ちゃん。おいおい、まさか。

 

「お金が…ないんです……」

「マジか」

 

乞食には見えない。お小遣いも貰えないのか?いや、この世界にお小遣いなんて文化は多分ない。仕方のない事だ。

 

「じゃぁ食べさせる事は出来ないな」

「そうですよね……」

 

※※※

 

ここで、少々補足しておく。一刀は商売人であり、金を持たない人間を相手する事はしない。例えば黄巾党討伐時の天和達は、金こそなかったがその後の旨味を考え、その確実性に目をつけたからこそ救出した。また、徐州での趙雲のように、無銭飲食にはめっぽう厳しい。だが、彼は商売人である前に、1人の人間である。感情だって持っているのだ。そして彼には、雛里という、いま目の前にいる少女と同年代の妹がいる。この少女の悲しげな表情を目にし、そこに妹の面影を見てしまうのも、無理からぬ話だろう。要するに。

 

※※※

 

「じゃぁ、食べていいよ」

「えっ!?」

 

俺は、少女に向けて焼き上がったばかりのムネ串を差し出す。

 

「……あの、いいんですか?」

「その代わり、客引きを手伝ってもらっていいか?これはその前払いって事で。気に入ったら他にも焼いてあげるよ。どうだい?」

「えと……ありがとうございますっ!」

 

少女は破顔し、一刀から串を受け取った。

 

 

 

 

 

 

「ちなみに、匂いでどのくらい分かる?」

「そうですね……」

 

立ち寄る客に串を差し出しながら、俺は少女に問うた。鼻を近づけてくんくんと鳴らし、少女は答える。

 

「お酒と味醂、それから醤がたぶん2種類か3種類、それに砂糖、あと黒胡椒に大蒜……でも、他にもあるはずです」

「おっ、そこまではだいたい合ってる。じゃ、実際に味わってごらん」

「はい、いただきます」

 

そして、少女は串を口に含んだ。一切れ串から引き抜いて咀嚼。

 

「…………」

「その時、少女に電流走る」

 

いや、違くて。

 

「えっ、なにこのタレ……醤も普通のものじゃない……それに、ちょっとだけ酸味があって、もっと食べたくなる……」

「そこまで分かるか。お嬢ちゃん、もしかして料理が得意なのか?」

「はいっ!あの、あとでもっと貰ってもいいですか?たくさん働きますから!」

 

こんな可愛いお嬢ちゃんの頼み、断れる筈がないんだぜ。

 

「おぅ、任せたぜ、嬢ちゃん」

「ありがとうございます!あと、私の名前は典韋っていいます」

「俺は北郷だ。兄様と呼びな」

「はいっ、兄様!」

 

……えっ?

 

 

典韋ちゃんの呼び込みは素晴らしかった。タレの美味さを事細かに、それでいて分かりやすく説明し、肉との相性を褒め称える。その可愛さも相まって、いつの間にか売り切れとなっていた。

 

「おぉぅ……」

「お疲れ様でした、兄様!」

 

晴れやかな笑顔で、典韋ちゃんが(ねぎら)ってくれる。可愛いなぁ、もぅ。

 

「じゃぁ、俺たちも昼飯にするか。と言いたいところだが、典韋ちゃんはコレが食べたいんだよな?」

 

言いながらタレの壺を指差せば、力いっぱい頷く。

 

「じゃ、悪いけど鶏肉を買ってきてもらってもいいか?」

「えっと、あの……いいんですか?」

 

お金を幾許か渡せば、典韋ちゃんは戸惑う。どういう事だ?

 

「その…私がこのお金を持って逃げるとか、思わないんですか?」

「逃げるの?」

「い、いえっ!そんなつもりは!」

「じゃ、お願い。料理が得意なら、目利きも凄そうだ」

「それほどじゃ……でも、頑張ります!」

「おー」

 

駆けていく典韋ちゃん。ぷりぷりとしたお尻がそそる。

 

そんじゃ、俺は米でも炊きながら待つとしようかね。

 

 

 

 

 

 

しばらく経って、典韋ちゃんは戻って来た。その手には、鶏肉が入っているであろう包み。

 

「買って来ました、兄様!それと、こっちはお金の残りです」

「おぉ、偉いぞ、典韋」

「ひゃっ!あのっ、その……」

 

よくやったと頭を撫でれば、顔を真っ赤にする。可愛いなぁ、もぅ。

 

「じゃ、米が炊けるまで少し時間があるし、早速焼くとしよう」

 

典韋ちゃんから肉を受け取って、まな板に乗せ、包丁で切っていく。

 

「串の種類はわかってると思うけど、鶏は丸々使える。だから、部位ごとに切り分けて、それぞれを使うんだ。一緒に使ったらいけない。何故だかわかるか?」

「味が混ざってしまうからですね?」

「半分正解」

「半分?」

「あぁ。種類を分けるからこそ、別の味も試そうと買ってくれる訳だ」

「なるほど」

 

料理は得意だからといって、そっち系で商売をしている訳ではなさそうだ。俺は商売に必要な知識も、ついでに教えていく。

 

「で、均等の大きさに切っていく。これは基本だ」

「はい。火の通りを均一にする為です」

「流石だな。で、あとはこのタレを塗って焼いていくだけ」

 

壺に挿した木べらで、串に刺した肉にタレを塗っていく。典韋ちゃんが身を乗り出して、タレを観察していた。

 

「あとは、さっきも言ってくれたように、均一に焼いていく」

「いい匂いです……」

「あぁ、食欲をそそるだろう?」

 

そうして幾本か串を焼いていき、米も炊き上がった頃。

 

「このタレを気に入ってくれたようだし、折角なのでふんだんに使おうと思います」

「わー」

 

パチパチと拍手を受けながら、俺は丼に米を盛る。その上表面にタレを塗っていき、焼き上がった串からモモ肉を乗せていく。最後に、今度は匙でタレを全体に垂らし、最後に刻んだネギと唐辛子。妹たちも大好きな、焼鳥丼だ。

 

「美味しそうです、兄様!」

「おうっ、たんと食いな!」

「はいっ!」

 

そんな訳で、お昼ご飯です。

 

 

 

 

 

 

食事をしながら、典韋ちゃんの話を聞く。どうやら、友達が陳留の街で働いているらしく、その友達から手紙が来たとの事だ。

 

「季衣から手紙が届いたんですけど、字が下手で……」

「どれどれ?……うわ、確かにまったく読めないな」

「なんとか解読できたのが、陳留に住んでいる事と、仕事を貰った事、あと一緒に働こうって誘いだけなんです」

「なるほどね」

「季衣の事だから、きっとどこかの食事処か、大工さんのところくらいしか働くところはないと思うんですけど……でも折角誘ってくれたので邑を出て、それで、今朝この街に着いたんです」

 

おやおや、こんな幼い娘が1人旅ですか。元気なものだ。

 

「でも、陳留も広いぜ?それに人だって多い」

「はい。だから、まずは寝床を見つけて、それから季衣を探そうかと」

「そうか」

 

なんというフラグ!一級建築士()の力は伊達じゃないな。我ながら恐ろしい。

 

「じゃ、俺のところに来るか?」

「……え?」

「こうして知り合ったのも何かの縁だし、最初はタレの秘密が知りたかったんだろ?店を手伝ってくれるなら、俺は寝床を提供するよ。仕事代だって払うぜ?」

「いいんですか!?」

「あぁ。それに、俺としても可愛い女の子と過ごせるのは嬉しいしな」

「……えっと、それじゃぁ」

「ん。これからよろしくな」

「はぃっ!では、これからは、私の事は流琉と呼んでください!」

「ありがと。じゃぁ、今日から流琉は俺の義妹だな。俺の真名は一刀。ま、好きに呼んでくれ」

「ありがとうございます、兄様!」

 

6人目、ゲットヽ(゚ω゚)ノ

 

 

 

 

 

 

という訳で、流琉という新しい妹をゲットした俺は、楽しく過ごしている。

 

「――これが、流琉が不思議に思っていた醤……醤油だ」

「凄い滑らかですね……それに2種類ある」

「ちょいと特殊な造り方でな。広く使われている醤とは一線を画すのさ」

 

で、いまは流琉にタレの作り方を教えている最中。もちろん門外不出という条件はつけて。

 

「兄様…あの……」

「知りたいか?」

「はい!」

「じゃ、こっちも同じだ。他の奴に教えたらダメだぞ?」

「はい、もちろんです」

「よし、いい子だ」

「あぁぅ…」

 

頭撫で撫で。顔を赤くしちゃって、もぅ。

 

「それと、使う酒も2種類だ。こっちはまぁ、普通の料理酒なんだが、もうひとつの方が特殊でな」

「これって……葡萄、ですか?」

「お、わかるか!」

 

こっちは、南の方で見つけた葡萄を発酵させて造った酒。ワインのようなもの。え、葡萄なんてあるのか、って?ほら、江東の方って暑いし、出来るんじゃね?

 

「こないだ流琉が気づいた酸味の正体が、コレな訳だ。ちょっと舐めてみるか?」

「……はい、じゃぁ、ちょっとだけ」

 

匙ですくい、口に運ぶ。

 

「んんっ、すっぱぃでしゅ……」

 

可愛いリアクションだなぁ。

 

「だろ?葡萄の味はするが、如何せん酸味が強すぎる。上手く出来ればそのまま飲むことも出来るが……俺の腕だと難しそうだ」

 

そっちに関しては、ちょっと残念。ワインが出来れば、料理のバリエーションも増えるのだが。

 

「そいじゃ、流琉にはこの醤油2種と、ぶどう酒の造り方を覚えてもらうぜ?」

「任せてください!」

 

フンスと鼻息を荒くし、流琉が平らな胸を叩く。よーしよしよし、お兄ちゃん、甘やかしちゃうぞー。

 

 

 

 

 

 

流琉が俺の下に来てから数日。今日も今日とて開店の準備。焼き台に火を入れて加熱していると、久しぶりのお客さんがやって来た。

 

「北郷の兄ちゃん、久しぶりー!」

「お、きょっちーじゃん。最近来てなかったけど、なんかあったのか?」

 

桃髪サボテン少女・許緒ちゃんだ。

 

「うん、賊の討伐に行ってたんだ。兄ちゃんの焼鳥が食べたくて仕方がなかったよー」

「そうか。そいつは嬉しい事を言ってくれるね」

「へへー。じゃ、全部10本ずつくださいな!」

「おぅ、任せとけ!」

 

注文通り、各種10本を皿に乗せる。

 

「どれからいく?」

「ん…じゃぁ、今日はモモから!」

「あいよっ!」

 

許緒ちゃんの言葉に従い、モモ串を焼き台に乗せた、その時だった。

 

「兄様、もう開店するんですか?今日はいつもより早い――」

 

流琉が家の中から出てくる。そして、固まった。

 

「季衣っ!?」

「あーっ、流琉だー!」

「ん、知り合い?」

 

待て待て。そういや、許緒ちゃんの真名が『きい』だったな。……なんで気づかなかった、俺。

 

「こんなところで何してるの!?」

「それはこっちの台詞だよ!なんでお城に来てくれなかったの!?」

「あんな字が汚い手紙で分かる訳ないでしょ、季衣の馬鹿!」

「馬鹿って言ったな!馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞ、馬鹿ぁ!」

 

そして飛び交う怒声だが、可愛らしい事この上ない。そう思っていたら。

 

「だいたい、いつもいつも季衣は勝手過ぎるのよ!いきなり邑を出て行ったと思ったら、今度はこっちに来いとか!」

「だって、お仕事をもらったんだから仕方ないだろー!」

 

許緒ちゃんはどこからともなくトゲ付き鎖鉄球を取り出し、

 

「……え?」

 

流琉はバカデカイヨーヨーを取り出し、

 

「……えっ?」

 

「やぁああああああああああっ!」

「てぇぇええええええええいっ!」

「ぎゃぁあああああああああっ!?」

 

互いに向けて、投げ始めた。

 

 

 

 

 

 

「――――で、何か言う事は?」

「ごめん、兄ちゃん……」

「ごめんなさい、兄様……」

 

屋台が壊され、家もボロボロになり、今日はもう閉店だ。というか、しばらく休業だ。つーか、住むとこねーよ。

 

「きょっちーの気持ちはわかるよ?お城で仕事をもらえて、曹操さんにも気に入ってもらえて、一緒に働きたかったんだよな?」

「うん…」

「流琉は、苦労して陳留まできて、しかもきょっちーに会えなかったのに、あんな事言われてカチンと来ちゃったんだよな?」

「はぃ…」

 

命懸けで2人を止めた俺は、説教中。2人は正座中。

 

「でも、だからっていきなり攻撃するのはよくない」

「「ごめんなさぃ……」」

「という事で、喧嘩両成敗」

「いったぁ!」

「うぅぅ…」

 

2人の頭に、拳骨を落とす。許緒ちゃんは声を上げ、流琉は頭を抑える。

 

「よし、そんじゃ2人共」

「「っ!」」

 

声をかければ、ビクリと身体を震わす。もう怒ってないよ。

 

「これから曹操さんのトコに行くぞ」

「華琳様の?」

「誰ですか?」

「この街を治めている人で、きょっちーの主だ」

「もう季衣でいいよ、兄ちゃん。なかなか言い出せなかったけど、もっと早く預けたかったんだ」

「あ、そう?じゃぁ、これからはそっちの方向で」

 

真名ゲットヽ(゚ω゚)ノ

 

「曹操さんのところで働ける実力があると思って、季衣は流琉を誘ったんだろ?」

「うん」

「で、流琉も、仕事の内容は知らなかったけど、季衣と一緒に働きたかった」

「はい」

「んで、俺のところに居たはいいが、こうして寝床もなくなっちまった」

「「ごめんなさい……」」

「厭味じゃないから。いい機会だ。このまま謁見して、流琉も季衣と同じ親衛隊に入れて貰おう」

「そんな事できるんですか?」

 

今度は流琉が手を挙げる。

 

「見たところ、2人は実力も同じ位だしな。それに季衣の親友なら、曹操さんだって認めてくれるだろ」

「うん、そうだよ、流琉!華琳様はすっごく優しいんだから!」

「そうなんだ」

 

いや、それはねーよ。あるとしても、季衣の将来性を見て破瓜を奪う為だろ。

 

「それじゃ、流琉。荷物をまとめてきな」

「はいっ!」

 

ということで、お城へゴー。

 

 

 

 

 

 

――お城。

 

「お邪魔しまーす!」

「失礼しまーす!」

「いきなりいいんですか!?……あの、失礼します」

 

季衣がいるので、メンドクサイ手続きはすべてカット。季衣の案内に従い、俺たちは曹操たんの仕事部屋を訪れた。

 

「ああぁ…ダメです、華琳様ぁ……」

「ふふっ、いい子ね、桂花」

「お邪魔しました」

「……」

「桂花ちゃん何やってるのー?」

 

扉を開ければ、椅子に座った曹操たんと、そのおみ足をペロペロ(^ω^)する荀彧。俺は2匹の生娘を引き摺り、部屋の扉を閉める。季衣はよくわかっていないようだが、流琉は顔を赤くしている。あぁ、雛里と同じか。

 

「という訳で、もう1刻したら来ようかと思います」

「なんでー?」

「季衣!いいから、別の場所に行くよ!」

「うわぁっ!引っ張らないでよ、流琉ー!」

 

やっぱ百合だったか。

 

 

「む、一刀か。そんな幼気な少女2人を連れて、何をしているのだ?」

 

廊下を歩いていれば、秋蘭ちゃんに出会った。

 

「というか、そちらの娘は?」

「ボクの友達の典韋です、秋蘭様!」

 

秋蘭ちゃんの問いに、季衣が元気よく答える。

 

「友達?」

「はいっ、流琉も一緒に働かせてもらいたくて、華琳様のところにお願いにきたんです」

「なるほど。それで、何故一刀もいるのだ?」

「いやな、流琉は季衣に誘われてこの街に来たらしいんだが、何処にいるのかわからなかったんだ。で、俺のところで働いてて、そこに季衣と遭遇。いまに至ると」

「だいぶ簡略化されている気がするが、季衣の事だ。会えなかった原因は、なんとなく想像がつく」

「?」

「あぁ…恥ずかしいよぅ……」

「季衣はそのままでいいんだぞ」

「うん!」

 

秋蘭ちゃんも流石だな。首を傾げる季衣の頭を撫でれば、元気よく頷いていた。

 

「では、もう許可を申請はしてきたのか?華琳様の執務室の方から歩いて来たと思うが」

「んにゃ。お取込み中だったから、時間をおいて、また来るよ」

「取り込み中?誰か上奏にでも行っていたのか」

「いやいや、猫耳ちゃんとよろしくやってて、季衣の教育に悪いから逃げてきた」

「兄様、私は!?」

「だって、流琉は意味が分かってんだろ?」

「あうぅ……」

 

 

 

 

 

 

という訳で、1刻後。

 

「終わった?」

 

扉をノックして、少しだけ開いて問う。次の瞬間。

 

「どぅわっ!?」

 

服の胸元を掴まれ、そのまま部屋の中に引き摺り込まれた。そして、パタンと閉まる扉の音。

 

「貴方、なんて事をしてくれたのよっ!」

「はぁ?」

「なんで季衣をここに連れてきたの、って訊いてるの!」

 

なんで怒られてんの、俺?

 

「いや、季衣の友達が来て、親衛隊に入れて欲しいんだってさ。言い出したのは季衣だぜ?」

 

間違ってはないけど、城に来ようと言い出した方は俺だ。

 

「私はね、あの娘を純粋なまま育てたかったのよ!」

「そうなの?」

 

どうせ、くだらない理由だろうけど。

 

「そうよ!そして蝶よ花よと育て上げ、熟し始めようとしたまさにその瞬間、無垢な少女のその破瓜を奪うつもりだったのに!さっきのアレで、季衣が性に目覚めたらどうするつもりだったの!?」

「いや、知らねぇよ」

「終わった…きっと誰も教えないだろうから、あの娘は自分で調べていくのね……そして自慰による快感も知らないまま知識だけが増えていき、さっきの私たちの姿がある意味異常(アブノーマル)である事を理解してしまうんだわ……」

「『ある意味』じゃねーよ。完全にアブノーマルだよ。SMだよ」

「そして、その行為自体に嫌悪感を持ち、私に仕えながらも、心の中では軽蔑していくのよ……」

「いや、大丈夫だろ。理解してなかったし」

「嗚呼!あの娘を失った悲しみを、私はどう癒せばよいのだろう!春蘭や秋蘭、桂花に凪たちはいるけれども、季衣の穴を埋める事は出来ないの!……あ、この穴は女の穴でもあり心の穴でもあるのよ。上手いでしょう?」

「うるせぇよ!!」

 

 

 

 

 

 

「――大丈夫だって。ホントに意味はわかってなかったし、すぐに忘れてくだろ」

「本当に?」

「あぁ。なんなら俺が、あの齢でも十分にこなせる()()教えてやろうか?そしたら、知識を得るより先に快楽を覚えるだろ」

 

なんつってな。そんな冗談を言おうとすれば、

 

「マジ?」

 

曹操たんが血走った目で俺に詰め寄る。いや、マジで怖い。

 

「季衣が気にしてたらな」

「くっ……」

 

流石にそれはひくので、条件をつけておく。という事で。

 

「入っていいぞー」

「失礼しまーす」

「あの、失礼します……」

 

2人の幼女を招き入れる。

 

「あら、どうしたの、季衣?」

「!?」

 

いつの間にか曹操たんは椅子に座っており、いつもの不敵な顔で2人を出迎えていた。女って怖いね。

 

「はい、この子は、ボクの親友の典韋です!一緒に親衛隊に入れて欲しくて、お願いしに来ました!」

「あら、そうなの?」

 

季衣の言葉に、曹操たんは流琉をじっと見つめる。

 

「あの、はじめまして、典韋です。季衣に呼ばれて、邑からこの街にやって来ました」

 

流琉たんは緊張しているようです。

 

「親衛隊に入れて欲しいとの事だったけど、武の方は?」

「ボクと同じ強いです!」

「それは凄いわね」

 

頷き、チラッと俺に視線を向けるので、補足しておく。

 

「あぁ。流琉の武は、俺も保障するよ。ついさっき、季衣と互角の勝負を繰り広げていたからな」

「あら、頼もしい」

「お願いします、華琳様!」

「あの、お願いします!私、季衣と一緒に働きたいんです!」

 

季衣と一緒に、流琉もペコリと頭を下げる。可愛いなぁ、もぅ。

そんな俺の感想と同じ気持ちを抱いているようで、2人が頭を下げて見えていないからか、曹操たんは顔を緩ませている。鼻血でも出るんじゃねーの。

 

「いいわ、許可をしましょう」

「ホントですか!?ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

 

そして許可。

 

「季衣と同等の実力という事だし、貴女にも親衛隊長をしてもらうわ」

「えっ、いきなりいいんですか!?」

「もちろん、親衛隊員の前でその実力を示してからね。季衣と模擬試合でもすれば、みな理解するでしょう。どうかしら、北郷?」

「なんで、俺に訊くの?ま、そうだな。流琉、心配しなくても、流琉ならきっと大丈夫だ。自身を持て」

「はいっ、兄様!」

 

俺も、肩の荷が下りたというものだ。

 

 

 

 

 

 

「そうだ、華琳様」

「なにかしら?」

 

嘆願も終え、季衣が手を挙げた。

 

「さっき、桂花ちゃんと何してたんですか?」

「っ!」

 

こらこら、あからさまにビクつくんじゃありません。

 

「ボク、よく見えない内に兄ちゃんたちに引っ張り出されちゃって……」

「あぁ、聞いたら、荀彧ちゃんが墨を零しちまったらしいんだ。で、掃除をさせてたんだてさ」

「そうなんだ!でも、桂花ちゃんもお掃除が上手なんだね。どこも汚れてないや!」

「いや、それはさっき俺が手伝ったからだよ。先に俺だけ中に入っただろ?汚れた部屋に、季衣の友達を招き入れる訳にはいかないって、曹操さんがな」

「っ!」

 

こらこら、あからさまに眼をキラキラさせるんじゃありません。

 

「ま、俺は掃除の専門家(プロ)でもあるからな。ささっと終わらせちまった訳だ」

 

言いながら、俺はポケットから手拭いを取り出す。真っ黒に汚れていた。

 

「はー、兄ちゃん、何でも出来るんだね」

「まぁな」

「そ、そういう訳よ。待たせて悪かったわね。それじゃ、季衣。典韋に城を案内してあげなさい。典韋の部屋はまた決めておくから」

「はいっ!失礼します!行こっ、流琉」

「きゃっ、ちょっと!あの、失礼しますっ!」

 

曹操たんの命令に、季衣は流琉の手を引いて部屋を出て行った。いや、俺も帰りたいんだけど、タイミングを逃してしまった。

 

「その手拭い、いつの間に墨をつけたの?」

「2人と曹操さんが話している隙にちょろっと硯にな。これなら説得力があるだろ?」

「北郷…」

 

簡単に説明を終える。さて、そろそろ帰らせてくれ。ぶっちゃけ居心地が悪い。

 

「感謝するわ、北郷。これからは、私の真名を呼ぶ事を許す」

「えっと、ありがと?」

「華琳よ。これからはそのように」

 

こんな事で預けちまうのか。

 

「じゃ、俺も一刀で」

 

美少女には苗字よりも名前で呼ばれた方が嬉しいしな。

 

「さて、城主の部屋に一般人が長居するのもよろしくないな」

「そう?貴方だったら私は気にしないけれど?」

「まわりが気にするのさ……俺はそろそろ『出ていく』よ」

「そう。またね、一刀」

「ん、またな、華琳ちゃん」

 

軽く挨拶をして、俺は部屋を出る。

 

『――華琳ちゃん!?』

 

驚愕の叫びが扉の向こう側から聞こえてきたが、気にしないでおこう。

 

 

 

 

 

 

という訳で、ボロボロに崩れた家から荷物を運び出し、荷車に積んでいく。華琳ちゃんにも『出ていく』って伝えたし、義理は果たしただろ。

 

「――兄様、何してるんですか?」

「流琉?」

 

屋台も解体して荷車に積み直し、さぁ出発だという頃、妹がやって来た。

 

「その荷物って……」

「あぁ、流琉の新しい働き口も見つかったし、俺もそろそろ向こうに帰らないとな」

「向こう?」

「俺は、長沙の街の出なんだ。こっちに来たのも、商売用の品物を探しに来たのが目的でな」

 

目的のひとつでな!

 

「じゃぁ…一緒には暮らせないんですか?」

「……そうなるな」

 

俺の言葉に、流琉の瞳に涙が溢れる。

 

「嫌です!兄様のおかげで楽しく過ごせて、季衣とも再会できたのに……まだその恩を返してません!」

「気にしなくていいんだぞ?」

「嫌です嫌です!せっかく本当の兄のように思ってたのに……」

「なに馬鹿な事言ってるんだ」

「えっ……」

「兄の『ように』じゃなくて、俺は流琉の兄貴だろ」

「兄様…」

「違うのか?」

 

笑顔で問えば、流琉は涙を拭い、飛びついてきた。

 

「……違いません。兄様は、私の兄様です」

「ん、それでいい」

「でも…離れたくないです……」

 

抱き着く流琉を抱き締め返しながら、俺はゆっくりと言葉をかける。

 

「大丈夫だよ、流琉。離れていても、俺はお前の兄貴だ。流琉なら頑張れると信じてる。これからは、この街で働くんだろ?」

「……はぃ」

「だったら、またどこかで出会うかもしれないな」

「本当、ですか?」

「あぁ。俺は商売人だぜ?金のあるところなら、ムー大陸だろうがアトランティスだろうが、何処だって行ってやるさ」

「あの、ちょっとよく分からないです」

 

せめて羅馬(ローマ)にしておくべきだったか。

 

「それに、流琉にも時間が出来たら、長沙に遊びにくるといい。歓迎するぞ?」

「いいんですか?」

「もちろんだ。流琉は俺の妹だからな」

「……はいっ!」

 

元気よく頷く流琉は、とびきりの笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「――今日は一刀の店に行くわよ」

「「はっ」」

「「……えっ?」」

 

主の声に、夏候姉妹は即座に頷き、親衛隊長たちは思わず軽驚の声を上げる。

 

「どうかしたの、季衣、流琉?」

 

問われ、答えたのは新参の親衛隊長。

 

「あの…兄様なら、街を出ていかれましたけど……」

「うん、ボク達が兄ちゃんのお店を壊しちゃったし……」

「「「……」」」

 

そんなとある日の仕事上がり。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

ようやく、魏partが終わりました。

 

 

さて、次回はオリキャラが出るよ!

 

 

次のページにオマケ絵をつけたので、よかったら見てね!

 

 

ではまた次回。

 

 

バイバイ。

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

金姫編の一刀くんを描いてみた!

 

 

あれ?この絵なら、イラストでランクインできんじゃね?

 

 

こいつぁ、流行るぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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