No.54205

遼来来!―後編―

本史における張遼の無敵さ加減を恋姫で表せないかと書いてみたのが この作品
でもなんで こんなバカ話になったんだろう?

多少キャラ壊れの感もあるので注意
もう少し恋姫祭り続けば蓮華萌え萌え話を書いてバランス取りたかったです

2009-01-25 19:47:26 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:11542   閲覧ユーザー数:8579

 

 

 ―――遼来来!の前編のあらすじ

 

 酔って痴漢行為を働こうとする霞に逃げ惑う蓮華。

 三国志史上、呂布・関羽の次くらいに最強な張遼=霞の前に次々と倒れて行く仲間たち。亞莎が、思春が、明命が、変態の餌食となっていく中、蓮華を助けるために、ついに あの人が動き出した。

 

 

 

「雪蓮姉様!」

 

 新たに霞を止めんと立ちはだかったのは、呉の主・孫策伯符こと雪蓮だった。

 しかし雪蓮は、妹危機の報を受け取った時、あたかも千尋の谷に突き落とすように不干渉を決め込んだはずだ。それが何故、今になって急遽 参戦に変心したのか。

 

「だってぇ、魏の方から凪・真桜をかかずらわせておいて、当事者の主である私が のほほんとしているわけにはいかないじゃなーい?」

 

 彼女は みずから荒ぶる覇気を押しとどめるように、真珠色に輝く長髪を 獰猛に梳る。

 

「……スゴイ、なんて威圧感だ……!」

「やっぱウチの大将と肩並べるだけあるで……!」

 

 ゆえあって蓮華の護衛についている魏将、凪&真桜が息を呑む。

 

「それにね、やっぱり興味があるじゃない?ウチの精鋭である亞莎・思春・明命を容易くあしらう張遼の武、私も一武人として血が沸き立っちゃってるのよね、これを鎮めるには、やっぱ直接刃を合わせるしかないかなーって……」

 

「それで、ここまで降りてきたと、姉様…」

 

「ふがいないアンタや思春たちは呉に戻ってからみっちり鍛え直すとして。……どう霞?次の相手はこの私、けっして退屈はさせないわよ?」

 

 雪蓮が愛剣・南海覇王を引き抜き、その切っ先を霞に突きつける。

 ギラリと光るその刀身。

 霞は、警戒する虎のような目付きで注意深く雪蓮を観察する。雪蓮の両腕、雪蓮の両脚、雪蓮の眼光、そして雪蓮の―――。

 霞は、フッと肩から力を抜いて、言った。

 

 

「―――爆乳はいらん、帰れ」

 

 

 ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!???

 

 あまりに意外な一言に一同騒然。

 

「しっ、霞様!呉王であらせられる雪蓮様に その口の利き方はどうかと……ッ!」

 

「そや姐さん!大体アンタさっき『巨乳も貧乳も関係ない!』みたいなこと仰っとったやん!アレ嘘なんッ?」

 

 凪・真桜からの矢の抗議、しかし霞はそれに怯む様子はまったくなく。

 

「…たしかにウチは、大っきい おっぱいにも小っちゃい おっぱいにも それぞれの めで方があると言うた。それがウチの信条や。…でもなあ、大きいにも限度があるっちゅうねんッ!」

 

 なんやてェーーーーーーーーーー!

 

「大きすぎる おっぱいは怖いっちゅうねんッ!」

 

 なんやてェーーーーーーーーーーーーー!

 あまりの急展開に皆 関西弁でリアクション。

 

「ちょっと どういうことよ!怖いって何よ!ホラ私の おっぱい蓮華より大きいでしょ?柔らかいでしょ?揉みたくなってくるんじゃないッ?」

 

「姉様…、一体何を言ってるんですか?」

 

「もしかして この人…、妹が おっぱい おっぱい騒がれとるの見て対抗意識わいたんちゃう?」

 

「それが、参戦の理由?」

 

 ……………。

 皆の雪蓮への信頼度が10下がった。

 そして霞は、あたかも辛口な おっぱい評論家のごとき口振りで、

 

「ええか雪蓮さん、おっぱいは、ただ大きければいいわけやない。むしろ大きすぎる乳は相手に威圧感を与えてしまうんや。そやから おっぱいの大きさにも適量が求められる。…服の上からじゃ そうでもないけど、脱いでみたらスゴかった、いうのが理想やな。その点 蓮華や凪の おっぱいは まさにソレや!」

「……凪、アナタも何気にいい評価受けてるわよ?」

 

「……蓮華様、ですが身の危険しか感じません」

 

 憂いを含んだ蓮華と凪の視線が交わる。

 

「それと比べて……、雪蓮さん、アンタの おっぱいはちょっと主張強すぎやなあ。そんだけ大きいと慣れん子は おっぱい恐怖症になりかねん。アクが強すぎんねん」

 

「何 勝手に、私の胸を寸評してんのよッ?」

 

「それにな、もう一つ問題あんねん。……大きすぎる乳は、垂れる!」

 

「たれっ……ッ?」

 

 雪蓮の顔が青ざめた。

 

「たれっ、れれれ、垂れないわよ!何言ってるの?私 鍛えてるもん、筋肉ちゃんと付いてるもん!」

 

「わかっとらんなあ、雪蓮さん。この際ハッキリ言わしてもらうケド、乳垂れんのと筋肉は関係ないで」

 

「ええっ?」

 

「それから、運動すると、返って乳垂れんのを促進するんや」

 

 雪蓮の中で信じていたものがガラガラと崩れていく。

 

「一番イカンのは、胸当て(ブラジャー)付けんまま動き回ることや。胸当て(ブラ)せずに、固定せんまま運動すると乳 上下に揺れるやろ?その度に おっぱい支える靭帯が伸び縮みするわけや。…それを何度も繰り返すと、靭帯が伸びたまま戻らんようなってまう、それが、乳が垂れるゆうこっちゃ」

 

「…………ッ!」

 

 雪蓮は自分の胸を押さえた。

 

「モチロン大っきい おっぱいの方が よく跳ねるわなあ。そして雪蓮さん、そんな格好やから普段から胸当て(ブラ)してへんやろ?」

 

「………………」

 

 図星らしかった。

 

「ででで、でもっ、おっぱいが垂れるかどうかは それだけじゃ決まらないでしょ!日頃の、美容が、何よりも大切なのよ!」

 

「雪蓮さんは、なんか美容にいことしよるのん?」

 

「……ッ!」

 

 そこで何も答えが返ってこないのは なぜか。

 

「食いもんは?屋台で脂っこいチャーシューメンばっかり食べとりゃせん?」

 

「………」

 

「夜更かしなんか しとらんよね?」

 

「………」

 

「…………垂れるな」

 

 霞が、犯人を特定する金田一少年のような断定的な口調で言った。

 ズサッ、と力尽きるように大地を叩く膝の音。

 

 

「………うえ~ん、たれないもん たれないもん たれないも~ん!」

 

 

 あ、泣いたッ。

 天下の小覇王を泣かせた。

 

「霞様…、仮にも同盟国の王様になんてことを……」

 

「姐さん、面と向かってハッキリ言っていいことと悪いことがあるで!」

 

「ええっ、悪いのウチかいなッ?…んと、しゃあないなあ………」

 

 霞はトコトコと雪蓮に歩み寄り、そっと肩に手を置く。

 

「雪蓮さん……、大丈夫や。今からシッカリ気ィ付けとったら爆乳かて おいそれとは垂りひん。ちゃあんと胸当て(ブラ)着けて、これ以上おっぱい揺れひんようにすれば いいんや」

 

「………今まで着けててなかった分も大丈夫?」

 

「その分は取り返しつかへん」

 

「うえ~~~んッ!!」

 

「霞様ーーーーーッ!」

「姐さーーーーーーんッ!」

 

「ええっ、参ったなあ。じゃあ、こうしよか」

 

 霞は頬をポリポリ掻きながら言った。

 

「雪蓮さんを泣かした分は、蓮華を気持ちよぅさせることで責任取ると!」

 

「ひぃ!」

 

 今まで呆然とことの成り行きを見守っていた蓮華がビクリと飛び上がった。

 

「それ、何の責任取りにもなってない!責任取るって言うなら私への痴漢行為を即刻やめてよ!」

 

「なぁに言うてんねん!ウチの愛の蓮華への一本道、今さら止まるなんてありえへん!もっかい始めよか、ウチと蓮華の愛の逃避行!」

 

「逃げてるの私だけだしーーーーーッ!!」

 

 こうして再び蓮華と霞の、貞操を賭けた追いかけっこが始まった!

 蓮華、逃げる逃げる。

 霞、追う追う。

 今度は蓮華の両脇には凪と真桜がサポートに控え、先に倒れていった呉の重臣たちの代わりを務めるが、無敵超人・霞を相手にどれだけの助力となるかはわからない。

 

「ねえアナタたち!霞はアナタたちの仲間なんでしょ?何とか説得できないのッ?」

 

 蓮華が同行する凪や真桜に尋ねるが、

 

「ムリやぁ!ああなった姐さん止められるんは華琳様ぐらいのもんやぁ!」

 

「私などもよく酔っ払った霞様に捕まっては被害を受けていますから。もし対処法があるのなら私も随分被害を減らせるんですが……ッ!」

 

「ああもうっ、使えないわねッ!」

 

「折角助けに来たのに そりゃないで姫さん!……ってアレ?」

 

 真桜がひそかに眉をひそめる。

 

「どうしたの…、真桜?」

 

「姫さん、なんか走るの遅くなってひん?」

 

 真桜の指摘どおり、蓮華の走るペースが段々と勢いを失っていた。左右を走る凪・真桜の列から頭一つ遅れて、しかもその遅れはどんどん大きくなっていく。

 

「どうしたんや姫さん!疲れたんかッ?でも急がんとバケモノの姐さんにすぐ追いつかれてまうで!」

 

「ウソッ、私だって必死よ!自己新よ!それなのに……ッ!」

 

「…ッ!蓮華様、腰ッ、腰をッ!」

 

 凪に指摘されて、蓮華は自分の腰部に目を落とす。そこには、

 泣きベソ顔でしがみついている姉がいた。

 

「雪蓮姉様ーーーーーッ!?何やってるんですかアナタッ!?」

 

「蓮華ぁー、垂れないよね?私のおっぱい垂れないよねー?」

 

 姉は完全に使い物にならなくなっていた。妹の腰にしがみつき、ただの重りと化している。これでは走るのも遅くなるはずだ。

 蓮華も普段であれば優しく礼儀にのっとって姉を諭すところだが、さすがに今はそんな余裕はない。

 

「姉様 手を放してください!このままでは霞に追いつかれてしまいますから、これでは走りにくくて速さが出ません!」

 

「重いからッ?重いから走りにくいって言うの蓮華?そりゃあねえ!こんな大きな おっぱい垂らしてる私ですから さぞ重いでしょうよ!申し訳ありませんねえ!ああもう!こうなったら霞に捕まるまで子泣き爺のように張り付いてやるーッ!」

 

「なんですか その逆ギレはーーーッ!」

 

 ろくでもない姉妹ゲンカを見かねて真桜が紛争介入。

「姫さん!もーしゃーないから、その王様 蹴落としたり!実力行使や!」

 

「ええっ?」

 

「そしたら重りが取れて、走るの早よなって、霞姐さんも振り切れるかも わからんで!」

 

「で、でも、一応この人 姉だし、王様だし……」

 

「ああもう、そんなこと言ってる場合かいな、…しゃーない、凪!」

 

「な、なんだ真桜?」

 

「さらば!そして ありがとう!」

 

「ぬああッ!?」

 

 真桜は併走する凪を、後方の霞 目掛けて投げつけた!

 

「真桜ーッ!アナタ一体何やってるのよーッ!」

 

「今のうちや、霞姐さんが凪を喰ろうてるうちに、少しでも前へ急ぐんやッ!」

 

 蓮華の後方から、声が聞こえる。

 

 ―――なんや凪?自分から飛びついてきて、…そっかぁ、ウチが蓮華にばっか構うて寂しかったんやな。えろう すまんかったなぁ。お詫びに ここで、可愛がったるさかいなあ!

 

 ―――やめてー!違うんです霞様、やめてー!

 

「真桜アナタッ、凪を犠牲にして その隙に逃げようと…ッ?」

 

「察しが良いやないか姫さん、これで充分時間は稼げるはずや、王様 腰に着けたままでも逃げられるで!」

 

「アナタそれでも あの子の友だちッ?」

 

「…そして蓮華は季節が巡るごとに思い出すのであった、あの時 姉を蹴落としていれば、凪は犠牲にならずに済んだ、と………」

 

「やめてーッ、私を共犯にまきこまないでーッ!」

 

「……彼女の戦いは、皆誰もが忘れぬであろう。楽進文謙、合肥にて絶息!」

 

「絶息してなーい!私の心に罪悪感を刻み付けないでーッ!」

 

「…アナタたち、仲いいわねえ………」

 

 腰にしがみついていた雪蓮がグスリと言った。

 

 しかし結果的に凪の尊い犠牲で時間が稼げたことに変わりなく。蓮華と真桜と しがみついてるオマケは何とか追っ手を引き離し、大分 先行することができた。

 

「でも油断はアカン、霞姐さんならこれぐらいの差、すぐ詰めてくるで」

 

 真桜の言うことももっともである。

 が、逃亡する二人の前に絶望的なるものが立ちはだかった。

 

「河ッ?」

 

 蓮華がやむをえず立ち止まる。

 二人…、と おまけ1の眼前にあるのは、合肥の城内に流れる太い支流だった。篭城に備え、水の手を確保するために城内に引かれたものだろう。

 しかしこれがあるせいで、蓮華たちは向こう岸へ渡ることができない!

 

「河ッ?河なんて、どうするのよ。迂回なんてしてたら一気に霞が追いついてくるわよ!」

 

「う~ん、近くに橋もなさそうやしなあ。……待って姫さん、あの人だかりはなんや?」

 

 真桜が指差す方を見ると、彼女らから見て上流に、大きな人だかりができている。

 それが何の集まりだか察し難いが、それでも蓮華たちはワラにも縋りたい気持ちだった。

 

「とにかく行ってみるわよ、真桜!」

「よしきた!……でも、よく考えたらウチと姫さんのコンビって偉い斬新な組み合わせやなあ……」

 KOFのチームエディットを思い出す。そして、

 

「蓮華ぁ…、私 垂れないわよねェ…?」

「姉様まだいたんですかッ?」

 

 

 

 そして、蓮華たちが雪蓮を引きずったまま人だかりの只中へ到着すると、そこには蓮華たちが見たこともないような珍妙なもので ごった返していた。

 

「何コレ……?」

 

 蓮華を呆然とさせる、それらの物体は。

 

1.雲梯を一生懸命渡って行く一般兵士。

2.木造の坂道を全速力で駆け上がって行く一般兵士。

3.左右から発射されるボールを巧みに避けながら平均台を駆け抜ける一般兵士。

4.それらを観客席から応援する一般兵士。

 

 すべてが一般兵士、しかもそれらは三国会合の会場名だけに、魏・呉・蜀 分け隔てない入り乱れだ。

 

「あれー?蓮華じゃないか どうしたの?」

 

「か、一刀?」

 

 急に蓮華のことを呼び止めたのは、蜀の地に降り立ったという天の御遣い北郷一刀。天界の事物を再現したという『ご主人様本舗』を出展し、蓮華を窮地に追い込んだ張本人だ。

 

「ドコ行ってたんだよ蓮華?随分走り回ってたんだなあ、いくらブルマが体操用の服だっても、城内一周するほど気に入ってくれたなんて嬉しいよ」

 

 はっはっはー、と笑う一刀。

 蓮華はコイツを本気でブン殴りたかった。

 

「……それより、アナタがここにいるってことは、これも『ご主人様本舗』なの?」

 

 と蓮華は兵士たちが次々挑戦している障害物を指差した。

 

「そうだよ、俺の世界にあった遊戯をこっちで再現してみてね、まあ障害物レースって奴かな?」

 

「しょうがいぶつ れーす?」

 

「じゃあ、ここからはボクが説明するよーんッ!」

 

「うわっ、季衣ッ?」

 

 イキナリ現れたのは魏のチビッ子 季衣。

 

「この遊戯は、今回の『ご主人様本舗』の目玉で、数ある障害物を乗り越えて、どれだけ短い時間で出口へ到着するかを競う競技なんだよ!」

 

「ははは…、名前はKAZUTOにするか風雲かずと城にするか迷ったんだがな」

 

 ………コイツは本当に何を言っているんだろう?

 

「というわけで、参加資格なんか ないから魏・呉・蜀の兵士たちがこぞって参加してるところなんだ、ちなみに、現時点での一番はボクー!」

 

「違うのだー!ついさっきまでは鈴々が一番だったのだー!」

 

「へへーん、記録は常に塗り替えられるものなんだよー」

 

 と、蜀のチビッ子まで現れて喧々囂々の大騒ぎ。

 …自分が乳魔に追われて生死の境をさまよっていた隣で、なんと和やかなることか。蓮華はどっと疲れが増した。

 

「しかし……、見れば見るほど大掛かりな設備ね、こんなものを作れるなんて蜀の技術力は侮れないわ」

 

「いやぁー、そんな言われるとテレるわぁ」

 

「アナタが作ったのッ?」

 

 蓮華は隣にいる真桜に絶叫した。

 そして追加説明するように一刀が言う。

 

「えーと、やっぱり ここまで大きな工事だと蜀の力だけじゃ どうにもなんなくてさ……」

 

「そこで、一刀の隊長から依頼を受けたウチが一肌脱いだったいうわけや。イヤでも隊長の構想力には驚かされたで、お陰でウチ工事完成まで興奮が止まらんかったわー」

 

「いやいや、よしてくれよ真桜、隊長なんてガラじゃないってー」

 

「いやいや、是非とも隊長と呼ばせてー、こんな発想できる人は そうそうおらんてー」

 

 一刀と真桜は肩を組んで わっはっはと笑う。

 蓮華は その様子を酸っぱい顔で見詰めた。

 

「でなでな、中でもウチの自信作は、あの河に掛けられた浮橋やねん」

 

「浮橋?」

 

 蓮華が指差された方角を見る、そこには先ほど問題となった河の上に、戸板を何枚も並べたような浮橋が向こう岸まで続いている。

 

「その戸板がクセモノやってん、あの板には人間一人乗せられる程度の浮力はあるんやけど、うまーく足乗せんと均衡を失ってすぐひっくり返るように できとんのや。…その調節がえろう難しくてな、軽すぎたら人乗せただけで沈んでまうし、安定しすぎたら簡単に渡れてしまうやろ、そうならんで絶妙の難しさになるように板の厚さを調節するんがまた苦労で……」

 

「それよ真桜!」

 

 蓮華が悦び勇んで叫んだ。

 技術者特有の語りモードに入っていた真桜は、ビクリと長口上を止めて蓮華を見返す。

 

「な、なんやイキナリ?」

 

「その浮橋を渡って向こう岸へ行くのよ!そして渡り終えたら橋を落とす、そうすれば霞だって もう追って来れないわ!」

 

「え?蓮華、落とすって、アレは一応 競技の一コース……」

 

 と一刀が やんわり抗議する間も与えず。

 

「なるほど、そんならやってみよか、えーい!」

 

 穿つ真桜の螺旋槍、ギュイーン、バコォン!

 

「あーーーーーーーーーッ!」

「あーーーーーーーーーッ!」

「あ゛ーーーーーーーーーッ!」

 

 一つ目の悲鳴は蓮華、二つ目の悲鳴は主催者の一刀。そして三つ目の悲鳴は そこまで いいタイムで上がってきた一般兵士の悲鳴だった。

 

 真桜の攻撃によって、浮かぶ戸板の数枚は見事に割れて轟沈、河の藻屑と消えてしまう。

 

「何やってんの?何やってんの真桜ッ?橋を落とすったって、私が渡り終える前じゃ意味ないじゃない!」

 

 責められる真桜、しかし彼女は あんまり反省する風もなく。

 

「あー、まあ姫さんの言うとおりなんやがなー。聞いてくれる?今ウチにな、笑いの神様が降りてきてん」

 

「笑いの神様ッ?」

 

「神様が言うには、ここでこーすれば、もっと面白うなるってー」

 

「捨ててしまいなさい そんな神様!」

 

 これで逆に追い詰められる形となってしまった蓮華。

 河を渡る浮橋は壊され、彼女はもうどこにも行き場がない。

 さらに後ろから砂塵。『おぉーい、蓮華!どこやーッ!!』とこだまする声。

 

「霞ッ?もう来たのッ?」

 

「凪しゃぶりつくすんの早いなあ!」

 

 もはや迷っている暇はない。

 蓮華は意を決した。

 大きく後方へ下がり、両断された橋を睨みつける。

 

「蓮華、どうするつもりなんだ?」

 

 恐る恐る一刀が尋ねる。

 

「あの橋を、飛び越えるわ」

 

「「「飛び越えるッ?」」」

 

 一刀と真桜と、真桜に橋を落とされて泣く泣くリタイヤになった一般兵が驚いた。

 

「真桜が破壊した橋の長さは、全速力で飛び越せば何とか届くだけの距離。それを越えれば さすがに霞も追ってこれないでしょう」

 

「無茶だ!もし失敗したら河にドボンだぞ蓮華、ブルマと体操服がビショ濡れになって肌に張り付いて、下着が透けて見えてしまうぞ!」

 

「いいえ やってみせる、私は小覇王の妹よ。それに一刀が着せてくれた この服“ぶるまぁ”なら、私の運動能力をまったく阻害せず全力を出し切ることができる!」

 

 蓮華は助走をつけるために後ろに下がり、指でお尻のブルマの食い込みを直す、外出ししていた体操服の裾を、ブルマの中に押し込んだ。

 

「隊長、姫さんがやる気やあ……!」

 

「ああ、もう俺たちには見守ることしかできない……!」

 

 蓮華はゆっくりと深呼吸。

 

「……一刀、姉様をお願い」

 

「私 垂れないも~ん」

 

「え?雪蓮いたの?」

 

 一層身軽になった蓮華は精神を統一し、自分の可能性に語りかける。

 できる。

 できる。

 私なら飛べる。

 私のすべてを出し切れば、私の本気を見せれば。

 

「そうだわ、こんなときこそ さっき明命たちが言ってたアレだわ。…ええと、トランザッ…!」

 

 ……………。

 

「イヤ、やっぱ やめた」

 

 蓮華は思い切りが足らなかった。

 

 

 とにかく進軍!

 

 

 蓮華は大地を蹴って駆け出す。その目標は河の対岸、トップスピードを保ちながら跳躍のタイミングを窺う。

 

「蓮華ッ!歩調に気を配るんだッ!走り幅跳びはいかに助走の速度を保ちつつ、絶妙のジャンプポイントに足が着くかが勝負の別れ目、それを制するためにはギリギリの地点で最後の一歩が踏めるよう、歩調の計算をしておくのが重要なんだ!」

 

「おおっ、隊長詳しいなあ」

 

 わかってる、歩調の配分は完璧、これなら絶妙の跳躍点に足を踏むことができる。

 後ろから霞の気配が伝わってくる。

 跳躍点まで、あと5m、2m、1m。

 蓮華は今、風となった。

 彼女が河上へ向かって飛び出そうとした、その時、

 

「蓮華ぁ~、私 垂れないよねぇ~?」

 

「ええッ?」

 

 いつの間にか一刀の手から擦り抜けていた雪蓮が、蓮華の足に縋りついた。

 速度、体勢、気力、すべてが絶妙に噛み合っていた蓮華はそれで一気にバランスを崩し、飛び越えるべきだった水面目掛けて真っ逆さま。

 それを見て一刀絶叫。

 

「いかぁーん!アレでは蓮華は河に落ちて全身ビショ濡れになり、体操服やブルマが肌に張り付いて下着が透けて見えてしまう!」

 

「そんなことはさせへん、今こそウチの出番や!」

 

「えっ?真桜?」

 

 真桜はいきなり自分の得物、螺旋槍を、さながら迫撃砲でも撃つような体勢で構え、蓮華へ向けて狙いを定めた。

 螺旋槍のドリルの切っ先が、あやまたず蓮華を捉える。

 

「よう見とき、これが今まで秘密にされた、ウチの螺旋槍 最後の力や!行くでダチ公!ギガ螺旋ブレーィイクッッ!」

 

 真桜が雄叫びを上げると、それに呼応したように螺旋槍の穂先、要するにドリルの部分が火を噴いて、柄の部分から分離して飛び出した!

 急変、弾丸と化したドリルは、バランスを崩して河へ落ちようとする寸前の蓮華の背中へ命中し、信じがたい推進力で蓮華を空へ持ち上げる。

 

「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

 蓮華の悲鳴がドップラー効果。

 ドリルは蓮華の背中で猛回転し、爆炎をあげて、彼女を天へ、天へと押し上げる。

 

「おいおいおい真桜!あれじゃあ蓮華の背中に穴が開くんじゃないかッ?」

 

「ウチがそんな手落ちをするもんかいなッ!螺旋には安全装置が付いとる!人の肌にはカスリ傷一つつけんで!」

 

「そ、そうなんだ…!」

 

 真桜の凄いテンションに一刀は黙り込んだ。

 そして蓮華は……!

 

「あつあつあつ!熱い熱い熱い!背中が熱いィィィィィィィ!!」

 

 安全装置があっても やっぱり猛回転するドリルの摩擦熱は相当らしい。

 蓮華は上昇する、ドリルの噴射力に押され山を越え、雲を越え、太陽へ向かって。

 もう渡河の目的とかどうでもいいぐらいに上昇する彼女を止められるものは、何もない。

 

「言ったやろ!姫さんの、いいや蓮華のおっぱいは、天を突く おっぱいやッ!」

 

 もう言ったモン勝ちだ!

 

 天まで届くかと思われたドリルはしかし燃料を出し尽くしたのか、ゆっくりと勢いをなくし、蓮華を乗せたまま降下。

 

「………………………………ふぎゅっ」

 

 凄まじい空中遊泳の挙句 蓮華が着地したのは、彼女が全身全霊を掛けて至ろうとした河の対岸だった。

 障害物レースを観戦していた一般兵のすべてが、その奇跡を目の当たりにした。

 パトパチと、

 観戦席のあちこちからまばらに、そしてやがては万雷の拍手となって蓮華を押し包む。

 

 おおおおおおおおおおおおおおおッ!!

 

 感動の歓声が会場を駆け回る。

 魏・呉・蜀、三国の兵士が分け隔てなく蓮華に賞賛を送る。

 

「あは、あははは……」

 

 河を無事渡り、安心した蓮華はそれに応えるために手を振ろうとした。

 しかし、安全装置で人体に傷をつけなくても猛回転するドリルの摩擦は その上の衣服に深刻なダメージを与えていた。摩擦熱によってボロボロになった体操服は、蓮華がちょっと動いただけでブラジャーもろとも崩れ落ち………。

 

蓮華「へっ」

一刀「あっ」

雪蓮「ん?」

真桜「笑いの神様が降りてきたッ!」

 

 

 いーーーーーーーーーーーーやーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!

 

 

 合肥の空に響き渡る蓮華の悲鳴。

 その時、魏・呉・蜀の三国は、本当の意味で一つとなった。

 

 

 

 そして――――――。

 

 

 

霞「……華琳様、華琳様~」

 

華琳「ん?どうしたの霞?」

 

霞「途中で蓮華見失ってん、華琳様知らへん?」

 

華琳「ああそう、とりあえず、説 教 す る か ら 座 り な さ い !」

 

 

終劇


 
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