No.541515

真・恋姫†無双~薫る空~覚醒編:第70話『チカラとの決別』

まさかの9か月ぶりの更新。誰が覚えている&誰得感満載のお話ですが、暇つぶしにでもなれば幸いです(・ω・)

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2013-02-08 13:25:35 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4626   閲覧ユーザー数:4045

 

「……本気で言っているの、秋蘭?」

 

 怪訝な顔を浮かべながら、そう華琳が問いかける。

 

 秋蘭はわずかに息をためて答えた。

 

「まず間違いないかと」

 

 華琳の私室で、秋蘭はさっきの軍議では伏せていた話をした。

 

 その内容は、華琳ですらなかなかに動揺してしまうものだった。

 

「薫が、荊州に……」

 

「敵軍が敗走する中、こちらも撤退してしまったので、はっきり顔を見たわけではありませんが」

 

「薫でないと考えるほうが不自然ということね。前後の行動を見ても、あの子ならやりそうなことだわ」

 

 華琳の言葉に秋蘭もそう考えるのか、一度頷いて、口を閉じた。

 

「でも、これは好機でもあるわね」

 

「え?」

 

「秋蘭、今回の件、他には誰が?」

 

「季衣が同じく目撃しています。それ以外にも、兵の中に数名。そちらは一応口止めしておきましたが、効果があるかどうかは」

 

「ま、ほとんど無意味でしょうね」

 

 はぁ、と華琳はため息をついた。

 

 人の口に戸は立てられないというが、今回にいたってはまさにそうだろう。

 

「で、今回の件、天の御使いとしては、どうお考えかしら」

 

 何故か急にかしこまったように言う華琳の目は、その口元とは正反対にまったく笑っていなかった。

 

「どうって、俺の答えなんてわかってるんじゃないのか?」

 

「さて、人の心がわかる方法があるなら、教えてもらいたいものだけれど」

 

 そういう顔は、俺の考えが自分に追いついているのか確かめたい様子だった。

 

 しかも、どうしても俺の口から言わせたいらしい。

 

「追うしかないんじゃないか。……司馬懿を」

 

 遅かれ早かれ、薫が生きていることは民衆に伝わってしまうだろう。

 

 そうなったら司馬懿によって多くの犠牲を出した曹操としては、放置なんてできない。

 

 ましてや、再び家臣として迎え入れるなんてこと、現状ではもっと無理だ。

 

「えぇ。 ただそれだとまだ足りないわね」

 

 俺の答えに不満があったのか、少しだけ考えて、華琳はそういった。

 

「足りない?」

 

 これから薫をどうするかという話じゃなかったのか?

 

 そんな疑問はどうやら顔に出てしまっていたらしい。

 

 俺の顔を見た華琳は、してやったりというような顔をした。

 

「風たちが追うのは、”李儒軍の司馬懿”ですよ。お兄さん」

 

 いつの間にいたのか、そういったのは、華琳でも秋蘭でもなく、俺の後ろにいた風だった。

 

「李儒軍の?」

 

「司馬懿さんが李儒に対して敵対しているなんて情報は、秋蘭ちゃん以外は知りえない事ですから、この事実を知っているのは、この場にいる者達だけということなのですよ」

 

「あ、あぁ(風、いつの間に部屋にいたんだ……?)」

 

「つまり、民衆は司馬懿さんが生きていたという情報を知ったとしても、それは以前出回った噂を帳消しにしてしまうだけな訳でですねぇ」

 

 俺たちの認識は、薫は生きているが、李儒とは敵対していて、今は孤立無援の状態。

 

 それに対して、世の認識は李儒が動かしていたと思われた涼州の軍は、やはり司馬懿が動かしていたという状態。

 

「これで、こちらから西涼へ侵攻する大義ができたわ」

 

「薫自身のほうはどうするんだ?」

 

「もちろん、そちらも追跡させるわよ。 秋蘭、あなたに任せるわ。すぐに隊の編成をしなさい」

 

「はい、華琳さま」

 

「西涼への行軍は風、あなたに命じるわ。稟と共に李儒へ書状をだしてもらえるかしら」

 

「わかりました~」

 

「一刀、あなたにもやってもらうことがあるわ」

 

「え、俺も?」

 

「えぇ。 一番重要なことよ。楽しみにしていなさい」

 

「え、えぇ……?」

 

 一番重要なこと、一体何なんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 冬の早朝よりもさらに気分の悪い目覚めを感じながら、私は目を開いた。

 朦朧とした意識が少しずつはっきりとしていって、目の前に誰かが立っている事に気が付いたところで、私は霧にのまれ、気を失っていたことを思い出した。

 目を完全に開くと、私は石壁で囲まれた部屋にいた。

 いや、そこは部屋というよりは”牢”だった。

 

「ようやく目覚めたか、司馬懿」

 

「あ……あんた……」

 

 白髪で、今すぐ切ってやりたくなるほどにまで伸びた前髪。あのチカラの継承を確認させられる金色の双眸と、きらびやかな装飾を施した黒衣。

 男の顔はよく知っているものだった。

 

「あれだけの死体の中から貴様を探すのには苦労したぞ、司馬懿。もう少し逃げ回ってくれた方が楽だったのだが」

 

「誰がお前なんかから逃げるもんか……!」

 

「師には逃げろと言われたのだろう?」

 

「お前が師匠の名前を口にするな!」

 

 精一杯の力を込めて、私は目の前の男―李儒に向かって拳を放った。

 だが、その拳は目に見えない何かに阻まれた。

 

「ぐっ……!」

 

「まぁ、そう怒るな。あれを殺したのは成り行きだったのだ。まさかあんな女のところに貴様が逃げ込んでいるなど思いもよらなかったからな」

 

「”眼”を持ってるお前が”想像できなかった?”笑わせないでよ」

 

「いやはや、これは実に扱いが難しいものでな。そういう意味では貴様のことは認め……いや、尊敬すらしていたよ」

 

「…………」

 

「これだけの力だ。刻一刻とヒトから離れていく貴様をみていて、私は実にうらやましかった。同じチカラを持ってみて初めて分かったのだ。貴様の覚悟、精神力、あの力を操れるだけの才と能力!」

 

 演劇にでも出ているかのような大げさな身振りで、李儒は玩具を与えられた子供が自慢するように語る。

 

「……だが、こうして力を使えるようになった今、私にとって最も障害となる存在は誰かと考えた。呂布か?――違う。曹操か?――違う。劉備?孫策?いやいや、違うのだよ。私にとって最大の壁はやはりお前なんだ、司馬仲達」

 

「ずいぶん買い被ってくれるわね」

 

「謙遜するな。世界は広い。だがこの眼を扱えるのは私とお前だけなのだ」

 

「えらく饒舌じゃない。おしゃべりがしたいだけならさっさと解放してほしいんだけど」

 

「解放……?解放か、そうか」

 

 何か納得したように、李儒は二、三度頷いた。

 

 そして、「ならこれで――」そう呟いたとき、ずぶり、肉の潰れる音と感触、激痛と共に私の視界の右半分が黒く消えた。

 

「っっっぅうぁああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

「何の為に貴様をここへ連れてきたと思っている。解放?子供でももう少しましな冗談を言うぞ。こんなチカラを私以外に使えるものが存在するのは困るのだよ」

 

 血があふれて止まらない右目を抑えながら、倒れこむのを必死で耐えた。そして、残る左目で私は李儒をにらみつけた。

 痛みでそれ以外のことが出来ず、ただ私は李儒が好き放題話すのを聞きながら、痛みに耐えるしかできなかった。

 

「万が一私に与えたチカラがほんの一部分で、また私がお前の手のひらで踊らされているということもあるかもしれん。私はそういった誰かに操られるというのが一番大嫌いなんだよ。その逆は大好きなんだがね」

 

「……なら、他国の兵士を操って……同士討ちさせてたのは……」

 

「ああ、実に効率的だろう。さらに痛みを消してやれば、死ぬまでどんなに傷つけられても戦い続ける兵士となるのだよ。どうせ壊れたところで敵国の兵だ。こちらに損失はない」

 

「……屑」

 

「何か言ったか?」

 

「お前は屑だと言った!!」

 

「あっはっはっはっはっは!!!!!屑か!!私が屑なら貴様はなんだ!主君を裏切り、仲間を裏切った貴様は蟲か!?ゴミか!?どちらにせよそんな言葉は望むところだ。屑?大いに結構。愉快じゃないか。屑に世界が蹂躙される。これこそ乱世の醍醐味だろう」

 

「あんたには無理だよ。あんたに王は倒せない」

 

「――……貴様と一緒にするな」

 

 李儒はそういうと、牢の格子を開け、外へと出た。

 

「――私を殺さないの?」

 

「曹操が宣戦布告をかけてきたのでな。あまり貴様にも構ってられんのだよ」

 

「私の存在は困るんでしょう?」

 

「そう死に急ぐな。貴様の死に場所はきちんと用意してある。それまで過去にしてきたことの後悔でもしておくんだな」

 

 かつ、かつ、と硬い足音が徐々に遠くなっていって、完全に聞こえなくなったところで、

 

「…っぐ…、痛い……痛いよ……」

 

 張りつめた気が途切れたせいか。痛みはそれまでの何倍にも感じられて、私はその場にうずくまった。

 

 

 

 

 

 

 痛みで気を失ってどれほど経ったのだろうか。

 血がまだ完全に乾いていいないところを見ると、あまり長くは経っていないようだった。

 どこからか、「おる……薫」と、小さな声が聞こえてきた。

 

「……誰」

 

「音々音なのです」

 

「っ!?」

 

 ずいぶん久しぶり聞いた声だった。前の戦からどうしていたのか、連絡は一切なく、死んでしまったのかと覚悟もしていた。

 

「ねね、生きて……!」

 

「しっ!兵に聞かれると少し面倒なのです」

 

「あ、うん」

 

「とりあえず、これで右目は押さえておくのです」

 

「これは……?」

 

 渡されたのは、温かく湿った布だった。

 

「熱湯につけた布です。押さえたら早くこっちへ」

 

 言いながら、音々音は格子の扉の部分を静かに開き、私を牢の外へと連れ出した。

 

「ねね、どうして」

 

「今は話している暇はないのです。何も言わずについてきてほしいのです」

 

「う、うん。わかった」

 

 音々音についていくと、おそらくは地下にあるはずの牢から、さらに地下へと降りていき、一番下の階層にある部屋へとたどり着いた。

 

 そこには木の机は一つだけ置かれているだけの、何もない場所だった。

 

「ここに何があるの?」

 

「ここに……!ある、蓋をあければ……!」

 

 音々音は力を込めて、床にある何かをつかんでいるようだった。近づいてみると、そこには小さく穿たれた穴と穴にはめ込むように棒が横向きに刺されていた。

 

「手伝う。……っ!!」

 

 床に備え付けられた扉は重く、二人がかりでようやく少し浮いた程度だった。

 

 だが、一度隙間ができてしまえば、その隙間に足を入れ、強引に押し開くことが出来た。

 

「ここから地下の川をたどっていけば、外に出られるのです」

 

「ほんとに!?」

 

「ねねはここから入ったので間違いないのです」

 

「そっか」

 

「とにかく、今は急ぐのです!」

 

 私たちはその地下空洞から、牢の外へと抜け出した。しかし、星詠を持っている李儒がこのことに気づいていないだろうか、私は内心不安でいっぱいだった。

 でも、たとえ気づかれていても、私はここから逃げ出すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「でも、ねね。どうして私がつかまってるって知ってたの?」

 

「偶然なのです。ねねは恋殿を探しているところだったのですが、その途中で李儒と薫のやりとりを見てしまって……、ねねは止めることが出来なかったのです。その……」

 

「私のことは大丈夫だよ。それで、恋は見つかったの?」

 

 その質問に、音々音は首を横にふるだけだった。

 

「そっか。まぁ、恋なら大丈夫でしょ」

 

「もちろんなのです」

 

「ところでさ、今どこにむかってるの?」

 

「漢中なのです」

 

「漢中って、おもいっきり蜀の領地なんですけど!?」

 

「仕方がなかったのです!本当なら洛陽の方に行きたかったのですが、今の薫がほいほい曹操軍の領地に行ってしまえば処刑されるのです!」

 

「あぁ……たしかに……」

 

 李儒につかまる前は正体を隠して、洛陽に忍び込もうか考えていたが、以前洛陽にいた陳宮が一緒にいてはそれも不可能だろう。

 音々音は最悪でも投降すればなんとかなるかもしれないが、私の場合はそうはいかない。

 

「はぁ……状況はどんどんひどくなる……」

 

「いっそ隠れて乱世から身を引くというのは」

 

「それはもう挑戦した。その結果が今なんだよネネネ君」

 

「むぅ……」

 

 もう戦いから逃げるなんて選択肢はありえない。あの男は私を逃がしてなんてくれない。

 ならば全力で戦うしかないんだ。

 

「……」

 

 少しの間、二人して黙って歩いていると、音々音は私の顔をじっと見つめていた。

 

「ん?どうかした?」

 

「右眼。ねねは見てるだけで止められなかったのです」

 

「あぁ……ううん、大丈夫だよ」

 

「でも」

 

「ほんとは、少し安心しちゃったんだ」

 

「え?」

 

「私は、あの右目から全部はじまったんだよ。今ここでこうしてるのも、今までしてきたことも」 

 

 だから、あいつにチカラを移したとはいえ、ずっと不安だった。

 私の全部を狂わせた、こんな眼なんて潰れてしまえばいい。そう思ったこともあった。

 まさかそれを李儒にやられるなんて思わなかったし、すっごく悔しいけど――

 

「ようやく私は、司馬懿に……”薫”にもどれたんだと思う」

 

「――……ねねは薫の昔は知らないので、よくはわからないのですが」

 

「あはは」

 

「でも、薫をそんな風にしたやつがまだあそこにいるのなら、放っては置けないのです」

 

「――だね」

 

 もちろん、放っておく気なんてない。

 あいつとあの力は私が倒さなきゃいけないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 許昌――。

 

 

「……なぁ、衛兵の兄ちゃん。なんだか外が騒がしいんだけど。何かあったのか?」

 

 個室の中から、外にいる見張りの兵に言葉を投げかけた女性、馬騰は元は西涼の領主だった。

 亜麻色の髪を豪快に束ね、すらりと伸びた足を組みながら椅子に座る態度は、性別を違えれば間違いなく賊のそれだった。

 だが、それでもどこか気品を残しているわけは、彼女が持つ生まれながらの王としての資質なのだろう。

 

「うるさい。お前には関係のないことだ」

 

「ふ~ん……曹操が李儒に宣戦布告でもしたか?」

 

「なっ!?」

 

 衛兵がしまったと口をふさいだときには、馬騰の口元はすでに釣り上り、実にうれしそうな表情だった。

 

「気にすることはないよ。オレが戦にちょいと敏感なだけだ。しかし、なんで今しかけんだろうな……。――なんかおいしい”餌”でも見つけたかね」

 

「知らん!」

 

「あっはっは!そう拗ねんなよ。――……そうだな。これはこっちにもいい流れか?」

 

「お、おい、変な気はおこすんじゃないぞ!?」

 

「ん?変な気ってのは、どんな気のことだい、兄さん」

 

「ふざけているのか!」

 

「戦で気が高ぶるのはわかるが、そうかっかするな。……じゃないと、せっかく眠ってた獣が起きちまうかもしれないだろう?」

 

「――……っ!?」

 

 衛兵はそれ以上の言葉を口にしなかった。いや、出せなかった。

 扉越しに伝わる得体のしれない何かが、まるで衛兵の喉をつかんでいるような錯覚を覚えた。

 何かを口にすれば、ここから動けば、即座にソレにかみ殺される。そんな錯覚だ。

 彼にはどちらが監視されているのか、まったくわからなかった。

 

 

 

 

 

■あとがき

 

SSとしてはお久しぶりです。

年に数度書きなくなる衝動が、今更やってきました。

正直キャラがうろ覚え状態でどうしようかと思いましたが、手探り状態で書きました。

わりとオリキャラのセリフが多いので、初見バイバイにもほどがありますが、いつものことですので、誰こいつって思われた方はスルーしていただけると幸いです。

 

今回はちょっと表現がきついところもあり、苦手な方もいたかもしれませんが、薫の今後の移り行きを考えるとどうしても外せないところでした。

 

キャラ的に春蘭と被る!とも思いましたが、まぁ、52人もヒロインが居て、今更被ったところで何が怖いかと思い、薫の隻眼化へと移りました。

 

単に和兎が眼帯っ娘が好きという理由もありますが(

 

さて、ぶっちゃけ二次創作のあとがきほどどうでもいいものは無いかと思いますので、

今回もこの辺で失礼させていただきます。

 

次は半年後か一年後かわかりませんが、ストーリー的には詰んだわけではないので、

気が向いたら更新しようとおもいます。

 

ではでは、ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


 
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