#17
亞莎と共に部隊を引き連れ、煌々と燃え盛る砦の前まで敵を斬り捨てて来た。数えきれない程の剣戟を躱し、攻撃を与え、そうして到着した。だが。
「――――なぁ、亞莎?」
「はい、おそらく一刀さんの考えている通りかと」
そうか。俺と亞莎の絆は、言葉すら必要ない段階にまで来ていたんだな。
「流石だな。俺も、今夜の夕飯は温かいものにしようかと思ってたんだ」
「ですね。ここまで来て、追加の敵がいないという点に違和感が……って、えっ?」
「えっ?」
なんだよ、全然阿吽じゃないじゃん。
「す、すみませ…ん……?」
「で、夕飯なんだが、戦も終わりだろうし、戦勝記念って事で可能な限り串でも焼こうかと――」
「あぅ、そっちじゃないです……」
「じゃぁ、どっちだよ。前か後ろか、右か左か、当たりか外れか、男か女か。いや、男か女だったら、断然女の方がいいんだけど、でもそしたら雛里や亞莎がヤキモチ妬きそうで困る。いやいや、ここは漢らしくハーレムENDを目指すのも悪く……あれ?亞莎と雛里がいる時点で、もうハーレムじゃね?だったらこのままのルートでいくか。選択肢さえ間違えなければ、いつか3Pとかも出来るだろうし……あー、でも雪蓮や冥琳ちゃん達も捨て難いな。いっそのこと、この大陸を俺が獲っちまって、後宮に侍らせてもいいんじゃね?あー、だったらその方向でべぶらっ!?」
「いい加減にしなさい」
「……はぃ」
初めて亞莎に命令された。頬が痛い。
「それで、違和感というか……なぁ?」
「はい。ここまで来ても敵が出てこないという事は、おそらくすべての敵が出払っているものかと。向こうには軍師のような人はいないと聞きますし、それも仕方がないのかもしれません」
なるほど。いやいや、って事はだ。
「張角も出てっちまったんじゃね?」
「……かもしれませんね」
どうしよう?
「どうしましょう……」
「とりあえず、一応中を確認してくる。亞莎は部隊を率いて、雪蓮の下に向かいつつ、敵を倒してってくれ」
「あの、燃えてますけど……」
「だから1人で行くんだよ。人が多すぎても動きが鈍くなるしな」
「……はぁ。一刀さんも言い出したら聞かないですしね。いいです。それじゃぁ、私は雪蓮様に報告してきますね」
「おう、任せたぞー」
「一刀さんも、お気を付けて」
「うぃー」
さて、ゴロンの服とか落ちてないかな。
「……熱い」
燃え盛る炎の中を、ひたすら駆ける。時に扉を蹴破り、時に落ちてくる梁を弾き飛ばしながら駆けていくと、女の子の声が聞こえてきた。
「あっつーい!なんで砦が燃えてるのよ!?」
「お姉ちゃんもう歩けないよー」
「ほら、天和姉さんもちぃ姉さんも、早く逃げないと」
3人ほどいるようだ。独特の澄んだ声。声優にでもなれそうな感じ。それはいいとして、なんでこんな所にいるんだか。色々と考えるとも、理由は浮かばない。というか、訊ねた方が早い。という訳で。
「おっと待ちなぁ!」
「「「!?」」」
俺は、その3人の前に飛び出した。
「ちょっと聞きたい事があるんだが、いいか?」
「アンタ誰よ!いきなり飛び出してきて、危ないじゃないっ!」
何処となく似た顔立ちの3人。姉妹だろうか。桃髪巨乳に青髪お転婆娘、それから眼鏡っ娘。
「いや、俺は張角の居場所を知りたいんだが、嬢ちゃん達は知らねーか?」
「え?私の事を探し――――」
「「わー!わーーーーーーー!!!!」」
俺の問いに桃髪おっぱいが何事か言おうとした時、残りの2匹がいきなり叫び出した。
「ちょっと、姉さん!何言おうとしたの!?」
「え?だって、お姉ちゃんの事探してるって……」
「だからって馬鹿正直に言ってどうするの?私達、お尋ね者なんだよ!」
「あうぅ、ごめん……」
と思えば、2匹は巨乳ちゃんに何やらコソコソと伝えている。
「あの、えっと、ごめんなさい。貴方はどなたですか?」
内緒話も終わったのか、3人は俺に向き直り、そして眼鏡っ娘が問い返してきた。
「あぁ、俺は孫策軍の北郷ってんだ」
「北郷さん、その、私達は張角にずっと捕まってて……」
「え、そうなの?」
3人共美少女だしな。張角も似顔絵から判断するに男らしいし、こいつらを侍らしてあんな事やこんな事をしていたに違いない。あぁ、羨ましい。そして羨ましい。じゃなくて。
「そうそう、そうなのっ!張角が何処かに出て行って、ちぃ達もようやく逃げられそうなんだから!」
「そうか、大変だったんだな。じゃぁ、俺は張角を探しに行くから、君らはさっさと逃げるといい」
「はい、頑張ってください」
「気をつけてねー」
美少女3人の声援を受けて、俺は砦の奥へと向けて駆け出す――
「えっ?」
――駆け出すが、すれ違ったその直後、桃髪のおっぱいちゃんの肩を背後から掴む。
「あ、あの…なにか……?」
「ちょいと聞きたいんだが…お嬢ちゃんたちって、姉妹?」
「そうです、けど……」
巨乳ちゃんに問うたつもりが、答えたのは眼鏡ちゃん。
「あ、やっぱり?似てるもんな。ちなみに名前は?」
「えっと……」
そして口籠る。ここでようやく、巨乳ちゃんが答えた。
「お姉ちゃんが天和で、こっちが地和ちゃん、こっちの子が人和ちゃんだよ」
「それって真名じゃね?」
「うん、私達、自分の名前を知らないの。だから、真名しかないんだ」
「そうかそうか。それじゃぁ、俺が名前をつけてあげようか」
「はぁ!?いきなり何言ってんのよ!というか、さっさと逃げたいんだから、離しなさいよ!」
ちっぱいの娘は元気だ。うちの妹たちとはジャンルが違うらしい。
「いやいや、それを聞いたらもう離してあげるからさ」
「じゃあさっさと名づけの親にでもなりなさいよ!それを名乗るかどうかはわからないけど」
「じゃぁ、決めるぜ?」
さて、予想が正しければ。
「姉ちゃんが張角、そっちの元気な娘が張宝、そんで眼鏡ちゃんが張梁」
「「「っ!?」」」
「どうだ、しっくりくるだろ?まるで、ずっとそう名乗っているように」
「どう、して……?」
「ん?」
「どうして、分かったの……?」
そりゃ簡単だ。
「だって、さっきの内緒話、聞こえてたし」
「「「 」」」
商売人は情報収集が得意なのさ。
「そんじゃ、ちょいと捕まえさせてもらおうかにゃー」
「待って待って!なんでちぃ達が捕まらないといけないのよ!?」
手をワキワキさせながら近づけば、張宝ちゃんが食って掛かる。
「お前ら、お尋ね者。俺、捕まえる。金、貰う。妹、喜ぶ」
「なんで片言なのよ!?」
「ま、仕事だし。それに、お前らがこの一連の乱を主導してたんだろ?」
太平なんとかだっけ?変な宗教みたいな。
「そんな事してないわよ!あれは、周りが勝手にやっただけで!!」
「そうだよー。お姉ちゃんたちは、ただ歌を皆に聴いて欲しかっただけなんだから」
「姉さんの言う通りよ!私達は何もやましい事なんてしてないんだから!」
「はいはい、言い訳は署で聞くから。大人しくついてこようねー」
メンドクサイなぁ。力ずくで連れてってもいいけど、あんま乱暴な事はしたくないんだよね。ほら、俺って紳士だし?
「お願いです!私達は本当に歌を歌ってただけなんです!」
「しつこいなぁ。じゃ、訊くが、なんでこんなに大軍となって邑や街を荒らしてたんだ?」
「それは、隠れ蓑に集まってきた乱暴者の人たちが勝手にやってただけで、私達は本当に歌いたかっただけなんです。聴いてくれる人が増えるにつれて、賊とかも混ざってきちゃって…次第に私達でも制御できなくなっていって……」
「人和の言う通りよ!私たちは別に、漢王朝を潰そうなんて思ってない!ただ、歌いたかっただけなんだもん!」
「もう1つ質問だけど、君たちの言う通りなら、なんでみんながみんな、同じように黄色い布を身に着けてるんだ?徒党を組むための目印とか、そういう類のものじゃないのか?」
「私達の服が黄色を基調としてるので、取り巻きの人たちが始めたんです。それが何時の間にか広まって、私達を応援してくれる人たちの共通意識になったというか……」
「……」
言っている事の辻褄が合わないという事はない。張梁ちゃんは知的な雰囲気だけど、姉2人はそうとも思えない。だというに、3人がバラバラに答えて、それでいて筋は通っている。
迷いが生じる。こういう時は、頭がいい人の意見を聞くに限る。限るが、ここにはいない。
という訳で、俺が採る選択肢は。
「いま出てっても、どこかの軍に捕まるのがオチだぞ?」
「じゃぁ、どうしろって言うのよ!ここは燃えちゃってるし、逃げ場なんてないじゃない!」
「その通りだ。という訳で、提案があるんだが――」
その時だった。
「おい、そこのお前!」
「んぁ?」
背後から声がかけられる。誰だよ、こんな時に。
「曹操軍の夏候元譲だ!訊きたい事があるのだが」
振り返れば、黒髪赤チャイナの嬢ちゃん。バカデカイ剣を抱えている。ってか夏候惇か。かっけーな。あれだろ?魏武のなんちゃら、って奴だろ?
「そうかい。俺は孫策軍の北郷だ。で、訊ねたい事ってのは?」
「あぁ!張角の居場所を探している!何処にいるか知らないか?」
「っ!?」
「……」
後ろの3人はあからさまに身体を震わせるが、俺は若干呆れていた。張角の首は1個しかないだろ。各軍でそれを取り合おうってのに、わざわざ教えると思ってんのか?馬鹿か、コイツ?
「聞いてどうするんだ?」
「もちろん捕らえるに決まっているだろう!」
ま、そうだよな。そして確信した。やっぱ馬鹿だコイツ。
「ん?というか、お前の後ろにいるのは誰だ!?まさか張角か!」
「おいおい、いきなり人に向けて剣を構えるなよ。怖いじゃねーか」
「質問に答えろ!お前が先に張角を捕まえたのか!?」
だから怖いって。
そんな彼女は一旦無視して、俺は小声で後ろの3人に問いかける。
「なぁ、歌手って話だが、演技も出来んの?」
「はぁ?こんな時になに言ってるのよ!?」
「出来るよ?舞台の上では、歌姫の仮面を被らないとね」
「姉さん!?」
「なるほどな。じゃぁ、その演技次第で、君らの今後が決まるんで、頑張ってくれ」
「「「……へっ?」」」
短い遣り取りを終え、俺は夏候惇に向かって口を開いた。
「こいつらは、俺の妹だ」
「なっ!そうなのか!?」
「あぁ。1年前に張角たちに捕らえられてな。こいつらを助ける為に、俺は孫策様の軍に入ったんだよ。アンタ、夏候惇さんだろ?聞いた話だと、弟か妹がいるんじゃないのか?」
「あぁ、秋蘭が……夏侯淵は私の妹だ」
「だったら分かるだろ?大事な妹たちが賊に捕まったんだ。どんな事をしてでも取り返そうとする筈だ」
「当然だ!愛する妹だからな!!」
何度目になるか分からない確信。やっぱ馬鹿だコイツ。
「ほら、3人共。この御方は、その武で有名な夏候惇様だ。挨拶しな」
言いながら振り返り、俺は絶句した。3人が涙を流しながら、俺に寄り添っていたからだ。
「夏候惇様、どうか……どうか張角を討ち取ってください!アイツ、私だけでなく、姉さんや妹に酷い事を……」
「お願いします、夏候惇将軍!ちぃちゃんと人和ちゃんの恨みを晴らしてくださいっ!」
「お兄ちゃんなら勝てなくても、夏候惇将軍だったら、必ずや……」
確かに演技上手いな。あとアドリブも。張宝なんか、キャラがさっきまでと全然違うし、張梁なんかお兄ちゃんって言ってきたし。
「私にも妹がいるからな。……あぁ、任せろ!いま行くぞ、張角っ!首を洗って待っていろ!うぉぉおおおおおおおお――――」
そして夏候惇は、スイッチが入ったらしく、砦の奥へと駆けて行った。
「お姉ちゃん、首洗った方がいいのかなー?」
そんな時間はありません。
「――いい演技だったよ」
「ふっふーん!ちぃ達にかかれば、あんな脳筋っぽい奴なんて、簡単に騙せるんだから!」
張宝は薄い胸を張る。ぺったんこ。
そしていつの間にか乾いている涙。女はずるい。
「ま、確かにアイツは馬鹿だな。適当に捕まえた奴を『張角だー』とか言って殺すだろ」
「あ、あの……」
「どうした、張梁ちゃん」
「なぜ、あのような事を……?」
不安気な瞳で見上げてくる。可愛いなぁ、もう。
「さっき言った通りだ。お前らは、俺の妹。だから俺が助けに来た」
「じゃ、じゃぁ……」
「あぁ、おそらくこれが、一番成功率が高い。変に逃げても怪しまれるだけだしな」
「……わかりました。姉さん達も、それでいい?」
末妹の問いに、2人は頷く。
「お姉ちゃんはいいよ。妹っていうのもなってみたかったし」
「ちぃもそれでいいわ。その代わり、最後まで守りなさいよ、兄貴!」
「よし。じゃ、改めて。俺は北郷。真名は一刀だ。知っとかないと拙いしな。こっちも真名で呼ばせてもらうぞ」
「「「はーい」」」
そういう事となる。
「じゃ、そろそろここを出よう。いい加減、限界だろ。天和、背中に乗れ」
「はいはーい」
「「きゃっ!?」」
天和を背中に乗せて、地和と人和を両手にそれぞれ抱える。ちょっと身体を揺らすと、背中の柔らかい感触が動いた。……素晴らしい。
「じゃ、逃げるぜ」
「「「おーっ!」」」
妹、3人追加。
あとがき
そんなこんなで#17でした。
ま、こっちの一刀くんならこうなるわな。
そして夏候惇さん、バカッコイイです。
そろそろ黄巾編も終わると思うけど、前回みたいに10話でキリ良く終わりたい。
ではまた次回。
バイバイ。
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そんなこんなで、17話。
確かに読み易い展開だけど、※に書かれると悔しいぜ。
どぞ。