No.505986

STAY HEROES! 第八話後

第八話前の続きですー
一話→http://www.tinami.com/view/441158
イケメン登場回(ただし中身ポンコツな上、顔は見えない)
意味ねーじゃねーか!

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2012-11-09 05:59:56 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:533   閲覧ユーザー数:533

 

 

幾らかの備品と塗料を買い込んだ後、僕らは橋上さんが紹介する喫茶店へ寄った。

『モダーン』な店内には、爆弾酒を呷るパワードスーツの男達に、新聞の先物取引欄に一喜一憂する行商隊、独特のポンチョをはおり、水煙草をふかすジャンク屋の集まりなどなど、無頼者の客が陣取っていた。

アコーディオンが大陸民謡『カチューシャ』を奏でる喫茶店で、僕は勧められるままに頼んだコーヒーをすする。

コーヒーは苦手なのだが、ウェイトレスロボにゴリ押しされて注文してしまったのだった。

隣に目線を移す。

三月にかき氷を置いているこの店もおかしいが、そのかき氷を躊躇なく頼む鳴浜もどこかズレている。しかも宇治金時ときた。

 

 

「渋い注文だな」

 

「機兵学校にいた時は食べたくても食べれなかったもん」

 

普段のようにふざけず、何故か拗ねる鳴浜にかける言葉が見つからず僕はひるむ。

 

「そ、そっか」

 

「うん」

 

 

鳴浜はぽやんとしたまま、口にくわえた長いスプーンをひょこひょこ動かす。

ボタンを掛け違えたような二人のやり取りをまるきり無視して、橋上さんは元気な声を張り上げた。

 

 

「今後とも行商組合優良店! マルハシ屋号の橋上商店をどうかよろしく! といってもウチは織物商なんですけどねっ」

 

橋上彩さんは僕らのサインを持ってホクホク顔だった。

価値があるのかは知らん。が、この人のお蔭で翼丸ごとを激安で買えたのだ。何も言えん。

僕は話し相手を橋上さんに切り替えた。

 

「それはもう感謝しきりですよ。しかし織物商の橋上さんがなんで豊田市にいたんです?」

 

「豊田市では織物も作ってるんですよ。ここの企業も時代を経るにつれて機織り機、自動車、パワードスーツと工場ラインを変えてるんです」

 

「はー、商売上手ですね。ウチの両親にも見習ってもらいたいもんですホントに」

 

「商売のコツは景気根気元気です! って今考えたんですけど当たってないですかこれっ! すごい!」

 

「はは、そっすねー」

 

「ところでそちらのガ……ガンダムなんたらさんは」

 

「おい、聞かれてるぞ」

 

ぽけーとしている鳴浜の脇を肘で小突くと、耳元で鳴浜がいきなり叫ぶ。

 

「だっ、ばっ、いきなり触るな馬鹿野郎!」

 

塞がりかけの鼓膜が容赦なく揺さぶられ、僕は悶え苦しむ羽目になる。

 

「あ! ああ、ゴメン!? 怒らないでくれっ!」

 

 

ごっつ痛い。

しおらしくなるのはいいが、そういう台詞はナパーム落とした時に言ってくれよ。

痛手からなんとか立ち直ったあたりで、僕は異変に気付いた。

外が何やら騒がしい。アコーディオンの演奏も鳴りやんでしまっていた。

 

「なんでしょ? 乱闘ですかね?」

 

と橋上さんが言った後すぐ、客たちが騒ぎ始める。

僕と鳴浜が腰を椅子から浮かしたと共に来客がやってくる。

血みどろの男が窓ガラスをぶち破って喫茶店へ入店してきた。

鳴浜が僕に向かって再び叫ぶ。

 

「ガタユキ! ヘルメット被れ!」

 

ヘルメットの留め金を止めたと同じくして、ネズミ顔の男は机や椅子をぶつかりながらこちらへ迫る。額から噴き出る血のせいで目が見えていないらしい。店の行きどまりにブチ当たって進退窮まった男は、客の一人に拳銃を突き付けておらぶ。

 

 

「オラア! てめえら動くな! こいつがどうなってもいいのか!」

 

「うれしげな所で悪いんやけど、あんさん運ないな」

 

「ああん!? 俺に向かって何言ってんだよぉおめえ! ぶっ殺してや、ぇぇぇぇぇ?」

 

 

顔の血をぬぐった小悪党は、照星の先にいるイヅラボシに気付くと急に威勢を無くす。

拳銃で戦車級重機装がどうなるってんだ。

僕は左手でピストルの銃身を握りつぶし、右手で男の頬をはたく。

手加減は加えたのだが、生身の男は店の入口まで吹き飛んでいった。

へしゃげた拳銃から弾を抜き、なんとなしに眺めてみる。旧共産ブロックの粗悪品だな。

この時、僕は間違いなく油断していた。

ふと顔をあげると、鬼のような形相で男が懐から手榴弾を取り出していた。

血の気が引いた。ここで自爆されれば客を巻きこんでしまう!

だが、ひるんだ僕の両肩を踏み台にして、赤い機体は迷いなく男へと飛びかかっていった。

 

 

「だりゃー!」

 

 

ガルダの回し蹴りを顎に喰らった男は、割れたガラス窓を再びくぐって出店していった。

客たちの拍手喝采の中、ガルダは転げ落ちている手榴弾に安全ピンを嵌めた。

 

 

「丁度良いサンドバックが来てよかった、清々したぜ」

 

生き生きしさを取り戻したガルダを見て僕はほっとする。

やっと調子が戻ってきたようだ。

 

「ほらあいつを縄にかけるぞ! 一目でティンと来た! ありゃ悪党だ!」

 

「おうよっ」

 

 

短機関銃に弾を込めて、店を飛び出すガルダの後を追う。

 

 

 

 

が、わざわざ僕らが縄を掛ける必要はなかった。

埃っぽい十字路の真ん中で、金色と白で彩られた騎士、いや西洋甲冑を模した機装が男の背中を踏みにじっていた。

 

「たった10圓の賞金首が、鉄騎遊撃軍の根拠地で強盗とは見上げた根性だな」

 

あれは豊田教育隊・鉄騎遊撃軍の一番機、レクスアルスルだ。

まさか対面するとは思いもよらなかった。

 

一目見ただけで整備が行き届いていることが分かる。磨き上げられたボディ、ラグの無い神経接続が生み出す滑らかな動き、そして、着装者へ負担の掛らないよう調節された人工筋肉のテンション。

惚れ惚れするな。よっぽどか腕のいい整備班があるのだろう。流石は鉄騎軍といった所だ。

機装そのものも一級品だ。

彼のロングソードは僕の斬馬刀より薄く、軽そうだ。単分子ブレードじゃないか。めずらしい。

外装もセオリー通りの電磁装甲とは違う。分厚い装甲の割に動きがあれほどまでに洗練されている理由はそこか? 

バラしたい。バラして装甲の素材から人工筋肉の組成まで調べつくし、有機電池のコンデンサから補助モーターまでのメーカー名を記録して……

 

「おーいガタユキ。こっちに帰ってこい」

 

ガルダの呼びかけで僕の意識が戻ってきた時、鉄騎軍の機装はこちらに気付いた。

 

 

「むっ、何奴! さてはお前らもこいつの仲間! って痛ってえ!」

 

「遠州教育隊のマークが見えねえのかこのクソポンコツ」

 

 

レクスの頭が、新たに現れた機装に張り倒される。

灰色のインバネスコートに洒落たハット。ベルトのバックルには3の数字。コールサインはロディ3……通称リボルバーロディだ。

そのガンマン風の機装は、僕らに話しかけてきた。

 

 

 

 

「リーグもまだなのに天来さんと顔合わせたあ驚いたな。偵察かい?」

 

「い、いえ。機装の部品を探してただけっす! 怪しくないです!」

 

 

ガルダは怪しい奴の台詞を吐きながら敬礼した。

ロディはさほど気に留めることなく、自分のマスクを大事そうに撫でながら感心する。

 

 

「流石に今年は真面目そうじゃないか。紹介するぜ。この脳筋は新入りのレクス・アルスル。んで、俺がリボルバーロディ。君らの一つ上だ。そっちは天来さんのガルダアルカイドと……誰だおめえさん?」

 

「イヅラホシです。格闘部門の機装、らしいです」

 

「ふうん? だったらリーグ戦ではレクスと当たることになる訳だ」

 

 

ロディが親指で差したレクスは、ロングソードの切っ先を僕に向けてきた。

 

 

「貴様は持ち合わせているか? 英雄の覚悟をな」

 

「あーあ、カッコイイ事言おうとして意味分かんなくなってら」

 

 

ガルダにキメ台詞を茶化されて、レクスは肩をいからせ激昂する。

 

 

「う、五月蠅いっ! リーグ戦でまた相見え様!」

 

 

捨て台詞を吐くと、犯人の足を引き摺ってレクスは駆けだした。

犯人の悲痛な叫び声が遠ざかってゆく。

拳銃をホルスターに仕舞い込んでから、ロディは片手でヘルメットに被せてあるハットを傾けた。

 

 

「天来さんの事情は知っちゃいるが、こっちにだって面子がある。敵として会った時は手加減一切無しだぜ。……では、良い旅を。アディオス!」

 

格好付けてウインクまでしてみせる彼は、二本指の敬礼を放ちながらマントを翻し、窓ガラスを割られて涙目な店主の元へ足を向けた。

キザったらしい彼が由常の対戦相手なんだろう。色々相性が悪そうではある。

 

 

いつのまにか橋上さんが僕らのそばにいた。

 

 

「お疲れさまでした! いやーっ流石! 格好いいですね! そういえば安形さん、宿はお決まりですか?」

 

「いや、今すぐにでも竜巻丸で帰りますよ。お世話になり「えーあっちにつく頃には真夜中じゃないですかっ。だったらー、私の馴染みの宿屋に泊っていきませんか! 行商組合公認で安心! 立地は警察署前でガードロボも常駐! 朝ごはんも絶品! あと私が肩代わりした御代金ちゃんと払ってくださいね! まあ宿は相部屋なんですけどなんなら同衾「分かりました分かりました泊ります泊ります泊る言うとるわいや」

 

「どっ、どう? ……え?」

 

元気の押し売りと言う奴だ。

結局、行商人の機関銃話術に翻弄された高校生は上手い事カモにされた。

色んな知り合いに客を斡旋して、コネを増やしてゆくんだろうな。この人は。

 

 

「橋上殿 ノ 話術 ハ スバラシイデゴザル」「サッソク 真似スル ヨロシ」「コレデ ワレワレ ノ 諜報技術 モ 益々向上 スルトイフモノ」

 

「やめろや」

 

 


 
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