No.505985

STAY HEROES! 第八話 前

かなり遅れた色々ごちゃ混ぜSF小説第八話です。
一話→http://www.tinami.com/view/441158
挿絵は銃器を描くのが楽しかっただけ。SAA,MP7,9MM機関拳銃の大きさやら細部やらが違うのは気にしない
前後篇分けての投稿となります。ガルダの傷は前の闘いでついたもの。

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2012-11-09 05:53:30 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:552   閲覧ユーザー数:552

 

 

橋上さんと潜り込んだスラム街で、僕はソレと出会った。

最初、ジャンクに埋もれている彼を、死体かと勘違いした。だが、目の前にいる片腕のサイボーグは確かに生きているらしい。軍用コートを羽織った彼の胸甲は、呼吸に合わせてかすかに蠢いている。

 

 

「あの、もしもし?」

 

サイボーグはスリープモードから目覚めると、呼びかけてきた僕を殺気立った目で睨みつけてきた。

 

 

「はん、隣のヒーロー様がこんなスラムまで何の用だ。ヒーローなんぞ鉄騎軍のクソガキ共だけで十分……おう? 彩ちゃんじゃないかい」

 

 

豊田市のヒーローまでくさす彼だったが、橋上さんを見止めるや人工筋肉の瞼の目じりを下げて態度をがらりと変える。

臆することなく橋上さんはそのサイボーグへと話しかけた。

 

 

「こんにちわ! ロンサムジョージさん! この方は有翼機兵のゆにっとぱっけーじだっけ? を探してるらしいんです。ジョージさんのお店に置いてありませんかね?」

 

 

ここが店とは到底思えなかった。

隻腕のサイボーグの周りには、パワードスーツやロボットの部品が積みあげられている。

店の備品と呼べるものは、ロンサムジョージ氏の足元に転がっている真空管計算機ぐらいだ。

ああ、ダメっぽいな。これ。元々期待はしてなかったのだけれど。

 

 

「そっちのヒーロー様が サイボット(son of a bitch)ゴミクズ(Fuckin'shit) どもに手痛くやられたのは知ってんぜ。パッケージよかイイ物をワシは持ってる」

 

 

と、僕の表情を知らずにロンサムジョージ氏はのたまう。

全てのサイボーグがサイボットのような過激派なのではない。

むしろ、ジョージのような古いサイボーグはサイボットを嫌っているのだった。

ロンサムジョージは掛け声とともにすっくと立ち上がり、ジャンクの山を漁りだした。

見た目に反するきびきびとした動きに僕は面喰った。

 

 

「Fuck! 我慢のねえ『子猫ちゃん』(pussy)だ」

 

 

異国のスラングを吐きながら、彼は雪崩を起こすジャンクの山からオリーブドラブの箱を引っこ抜いた。

ロンサムジョージは掘り出した傷だらけのコンテナを開く。

保存用ガスがスラム街の路地裏に溢れ出した。

そうして、靄の中から商品が顔をのぞかせた時、僕の失望は気化する窒素と共に吹き飛んだ。

まっさらな翼とエンジンユニットがそこにあった。……新品だと!?

 

僕は興奮に突き動かされるがままに、翼の疑似神経の配線や外部エンジンの燃料パイプ、人工筋肉のテンションまでくまなく調べてみた。

メチャクチャ古い骨董品だが、問題はなさそうだ。ガルダの神経接続電流とは合致しているし、保存状態がよい。正真正銘の未使用品だ。

僕は唾を呑みこみながらコンテナを閉じた。

この素材を活かせるかどうかは不安だが、120点の掘り出し物だ。

 

 

「気に入りました。これを貰います」

 

「半世紀もジャンクの山に埋もれてた金にならねえ代もん(holyshit)だ、お代は負けてやらあ」

 

 

ロンサムジョージがキーを弾くと、軽快なベルを鳴らして、古ぼけた計算機はニキシー管に破格のお値段を叩きだした。

僕は思わず聞き返した。

 

 

「え、こんなに安くていいんですか?」

 

 

そう言うと、老人サイボーグは不機嫌そうに腕の無いほうの袖を振りまわしてみせる。

 

 

「あぁ? 文句でもあんのか? そこの彩ちゃんがくれたラシャのコートのお蔭で、ワシは冬を越せたんだ。こんぐらい色つけても構わねえだろクソガキャ」

 

「い、いえありがたく頂戴いたします」

 

「はん。聖母彩ちゃんと、びち糞たれのマリアに感謝しな。で、他に欲しいものはないのかい彩ちゃん」

 

「そうですね! チビ太くんのタイヤがすり減ってきたので二つ包んでくださいな!」

 

ガードロボのチビ太くんは嬉しそうに身体を左右に揺らせる。

 

「ええともええとも、タダで新品を用意してやろう。あ。デカイの。もう用無いんだったらけえれ」

 

 

 

 

追い出されるように路地裏から出てきた僕の荷物を見て、馬の番をしていたガルダは目を丸くする。

 

 

「うわ、どしたのさそれ」

 

「僕も驚いた。いやあ、橋上さんの人脈には恐れ入ったよ。ジャンク屋の老サイボーグとも仲がいいとはね」

 

「でもあたしあの人苦手」

 

 

……だろうな。

そこから会話は続かなかった。

表通りで僕らはお互いヘルメットを被ったまま、廃屋に背持たれて橋上さんを待った。

竜巻丸が首を上げ下げして蹄を掻く音だけが、雑踏のにぎやかさから切り離された二人の間に響く。

こういう時に限って、スカウトたちはどこかへ消えてしまっている。

呼べば戻ってくるのだろうけどそんな気になれない。

 

この気不味さの原因は嫌でも分かる。橋上さんの冷やかしのせいだ。

しかしだな、将来が消えるかもしれない瀬戸際にいて、悠長に恋だの愛だのいってられるか。第一、僕は会って二週間のチームメイトに手を出す軽い男じゃあないのだ。

よし、この話終わり!

僕は、敢えて話しかけようとガルダのほうへと振り向いた。

……ガルダもこちらへ振りむいた瞬間にだ。最悪や。

二人の目線がかち合い、僕らは両目を見開いたまま固まる。

と同時に、ガルダからのロックオンを知らせる警告がヘルメットから流れ出した。

なんでロックオンすんねや!

その時だった。

 

 

「おまたせしましたー! いやー久々の再会で話しこんでしまってごめんなさい!」

 

橋上さんとロンサムジョージが揃って路地裏から出てきた。

ガルダがそっぽを向き、竜巻丸の手綱を解き始める。

ジョージが二人から離れた所で僕を手招きした。

彼は近づいた僕をかがませると、杖代わりの鉄パイプでイヅラボシの兜をこんこん叩いてきた。

あのー、怪我してるんですが。

 

 

「おい、デカい青いの。彩ちゃんに手出ししたらワシがブチ殺してやるからな」

 

 

と老人は杖からの骨伝導で物騒な言葉を吐いてくる。

が、僕は怖気ない。

崖っぷちのヒーローに色恋を意識する余裕なんてないのだ。

 

 

「大日如来様に誓ってありませんよ、おじいさん」

 

と言って胸を逸らせたイヅラホシを、老人は見上げながら見下すという器用な真似をする。

 

「はん、赤いのにも色目使っとる癖によくそんな上辺事が吐けるなあ? Fuckin'buddhaへの信仰心がいつまで持つか見ものだぜ。『常に忠誠を』(Semper Fi)

 

 

僕の内心は完全に見透かされていた。

亀の甲より年の功ってやつだろか。

 

 


 
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