No.493401

楓と櫻子

初音軍さん

ブログに何気なく書いた片想いSS。
妄想の産物なので、この組み合わせに興味がある方だけ
見ていただければw
プラス楽しんでもらえれば幸いです

2012-10-07 21:13:51 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:483   閲覧ユーザー数:477

【楓】

 

 ある日、玄関から大きな音が聞こえてきた。そうしたらお姉ちゃんが慌てて

音がした方に小走りで向かっていった。

 

 少しの間、静かな時間が流れた後、騒々しくケンカをする声が聞こえてきた。

櫻子お姉ちゃんだ。そのことに気付くと私は胸の中がうずうずして

同時に気持ちがフワッとしてきた。なんだかそわそわしてる。

 

 でも、いきなり出てきても変かもしれないし。こっそり様子を見ながら出て行こうかな。

そういう風に頭の中で考えを巡らせて櫻子お姉ちゃんの前に出ていった。

だけど、さっきと何かが違う。

 

「あれ、おねえちゃんは?」

「え、向日葵? 何か怒りながら買い物に出かけた」

 

 まるで、夫婦ケンカの後に行き先のない怒りを抱いたまま出かけた主婦みたいな

ことをおねえちゃんはしていたみたい。ちょっと可哀想と思いつつも、

隣に勝ち誇ったような櫻子おねえちゃんがいることに、ちょっと嬉しさを感じていた。

 

 何でだろう。嬉しいんだけど、ちょっとだけ胸の辺りがチクチクする。

 

 二人きりになって、何をしゃべっていいかわからないときに、

櫻子おねえちゃんは私にゲームをやろうと言ってきた。

 

 本当は櫻子おねえちゃんと二人だったら何でもよかったけど、

私はその言葉に嬉しいっていう気持ちを込めてコクコクうなづいた。

 

 それなのに、櫻子おねえちゃんは楽しそうにしながらも、

いつもの元気さがないように見えた。

 

 私じゃダメなのかなぁ。

 

 その時、胸にチクチクとまた痛くなってきた。

 

 そういえば、と。私は前にあったことを思い出した。

 

 櫻子おねえちゃんにだけ牛乳を持ってきた時、おねえちゃんに

元気になってもらいたいのと、私を見てもらいたいという

気持ちがあった。

だけど、いつも櫻子おねえちゃんが生き生きしている目の先には

おねえちゃんがいた。

 

 そうだ、おねえちゃんと仲良くしてるのを見てると痛く感じたんだ。

おねえちゃんも、櫻子おねえちゃんも大好きなのに、私はザワザワした

気持ちが抑えられなくて、目から温かい水があふれてきた。

 

 そうか。私は櫻子おねえちゃんのことは別の「好き」だったんだ。

そう、何となく感じることができた。

 

「楓!?」

 

 ぼんやりと映る櫻子おねえちゃん。驚いた声を出してはいたけど

私からは、はっきりと見ることができなかった。

 

「なに泣いてるの!?」

「私悪い子・・・」

 

「え、楓はいい子だよ」

「うん・・・でも・・・」

 

 何て言えばいいのかわからない、この変な気持ち。

ぐにょぐにょした感覚が気持ち悪くて、吐きそうになる。

私がどうにもできなくて、うんうん唸っているのを見た

櫻子おねえちゃんは急に立ち上がった。

 

「きっと楓はお腹空いてるんだろう。けっこういい時間だし。

それにしても、向日葵のやつ遅いなぁ」

「・・・」

 

 

「今からおにぎり作ってくるから、ちょっと待ってろ」

「うん・・・」

 

 気持ち悪いのに食べられるかな。っていう心配を

していたりもしたけど、何も言えずにただうなづくだけ。

 

 どのくらい時間が経ったのかわからないけど、

少しだけ待っていると、櫻子おねえちゃんが

自信たっぷりに、ラップに包まれた、まん丸なおにぎりを

片手に持って、私のそばにしゃがみこんだ。

 

「握ってきたよ」

「ありがと、櫻子おねえちゃん」

 

ラップを外して中のほかほかなおにぎりを一口かじると

ちょっと塩がつよくて思わず変な声を出しちゃうと。

 

「あれ、何か変なとこあった!?」

「ううん、おいしいよ」

 

「ほんとに? こういう時の向日葵は。櫻子のは塩ききすぎ

ですわ! とか文句いってくるのに。本当に楓はいい子だよ」

「えへへ、ありがとう・・・」

 

あぁ、やっぱりダメだ。私じゃあ櫻子おねえちゃんの隣に

いられない。いつも、おねえちゃんがいるから。

しおからいけど、もっとからく感じたのはまた出てきた涙のせい。

指に力がはいって、おにぎりの形がちょっとくずれちゃう。

 

かなしくて、かなしいけれど。納得してしまうほど、

おねえちゃんたちはお似合いだと思えてしまった。

この涙は櫻子おねえちゃんに見せないようにちょっと顔を下げて。

 

「本当に・・・ありがとう」

 

そう言うのと同時に玄関から音がしたとき、櫻子おねえちゃんは

すぐに立ち上がって音がした方へ走っていった。

たぶん、おねえちゃんだろうけど。この泣いてるのを

櫻子おねえちゃんに見られなくてよかったと。

少しホッとしたのだ。

 

すぐに私は近くにあったティッシュを使って涙を拭いて

いつものように笑っているような顔を作った。

もうおねえちゃんたちには心配させたくなかったから。

 

「おねえちゃん、おかえり~」

「あら、楓。ただいま」

 

いつものように私を見ると嬉しそうに笑うおねえちゃん。

代わりに今度は櫻子おねえちゃんが見えなくて不思議そうに

周りを見ていると、それに気付いたおねえちゃんが。

 

「あぁ、櫻子は帰ってしまいましたわ」

「そう・・・」

 

「楓は櫻子が大好きですのね」

「うん!」

 

 まだ少しの間はこのチクチクがあるかもしれないけど

私はガマンする。おねえちゃんと、櫻子おねえちゃんのために。

ガマンして、いつもニコニコしていれば、おねえちゃんたちは

喜ぶから。

 

「今から御飯つくりますわ。あら、ごはんが減ってますわね・・・」

「あ、それは・・・」

「また櫻子ですわね。もう、あの子ったら・・・」

 

 困った顔をしていても、何とも思ってないように振舞うおねえちゃん。

それは本当に自然に感じて・・・。やっぱり、間に私が入る所はない、

と思えた。

 

「私も手伝う」

「ありがとう、楓」

 

 ずっと、ずーっと。お似合いの二人でいてね。おねえちゃん。

そういう気持ちを込めながら、おねえちゃんのお手伝いをする。

そして、櫻子おねえちゃんのおにぎりの味をずっと忘れない

だろうなって思った。あの、特別な塩からいおにぎりを。

 

お終い


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
1
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択