No.486966

【ガンダム00】kick-ass(コラカティ/二期)

りくさん

リク:りらまりさん(コラカティ)■ツイのフォロワーさん向けリク募集でのリクエストです。 文章の練習のために、そのうち、また募集するので、気が向いた方はどうぞ(フォロワーさん限定です)。多分1000~5000字程度のもの。■表紙はこちら(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=29752636 )からお借りしました。

2012-09-21 23:40:12 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1419   閲覧ユーザー数:1395

 上司に呼び出しをくらって身だしなみに気をつける兵士は、全軍探しても、おそらく彼くらいだろう。それも今や珍しい光景ではない。志願してアロウズにやってきた彼は赴任前からある意味有名人だったし、彼を知らない者も数日でその知名度に納得した。

 せいぜい頑張れよ、と半分呆れて声を掛ける同輩に、「おう!」と明るい返事をして彼はいそいそとパイロット用のロッカールームから出て行った。一体何を頑張るんだろうな、と残ったパイロットたちは目配せして、肩を竦め合う。

 赤い髪のフランス人、パトリック・コーラサワー少尉が上司のカティ・マネキン大佐に熱を上げていることは連邦軍でも有名な話―― 全軍開放の回線でキスをねだったというまことしやかな噂は、実のところ半分は本当である―― だったが、肝心の相手は彼の秋波を見事なまでに無視し続けているということも同時によく知られていた。彼が彼女に呼び出されるときは、大体が何かしらの問題を起こしたときであり、要は叱られに行くわけなのだが、そんなことを気にする彼ではない。

 デートにでも向かうようにウキウキと、大佐の部屋に入っていった。

「お呼びですか、大佐!」

 びしっと敬礼はするけれども、その表情は帰宅した飼い主を出迎える子犬のように破顔している。いつものこととはいえ、彼女は小さくため息をつく。しかし、そんなことを気にしていては彼の上司は勤まらない。

「パトリック…… 何故呼び出されたのか、理解しているだろうな?」

 自覚を促すために尋ねると、彼は待っていましたとばかり勢いよく答える。

「さきほどの作戦で、おれが見事伏兵を撃破したからでありますか!」

 はあ。

 彼女は額を抑えた。

 そう。そうとも言える。間違いではない……が。

「それは結果論だ。貴官は、作戦の指揮を採るリント少佐の指示を無視した。問題はそこにある」

 パトリックは、本来、彼女直属の部下だ。リントが命令を下すことは、基本的にはないのだが、そこは烏合の衆として出身国の色合いが強いアロウズといえども、状況によっては合同で作戦を実行せざるを得ないときもある。今回は、特殊な任務に必要な技能を持ったパイロットが少なかったせいで、リントに“貸し出す”形になってしまったのだ。

 はあ、と腑に落ちない顔で彼は頷いた。

 戦術予報士にも質がある。彼らの作戦が毎回正解とは限らないし、現場の判断でアレンジを加えることはこれまでにもあった。というか、彼にはそれがずっと許されていた。それは動物的な直観ともいえる天性のもので、他人に適用できる例外ではなかったのだが、彼にはその認識はない。

 勝てるやり方で勝つ。

 それだけだ。

「けど、ああして正解だったと……」

「口答えはよせ」

 ぴしり、とカティは彼を制する。

 彼の言い分はわかっている。リントの戦術予報は甘く、さらにパイロットの特性を頭に入れていなかった。自分が予報をしたのなら、パトリックの方法を採っただろう。けれども、部下の命令違反を見逃すわけにはいかない。

 そこには、彼女の置かれた微妙な立場があった。

 カティが独立治安維持部隊といういかがわしい名前の組織に疑念と危機感を持っていることを、リント少佐やグッドマン准将はよく把握している。そしてグッドマンはカタギリ司令の盟友だ。天才の呼び声高い彼女を重用しながらも、頭は抑えておきたい彼らにとってパトリックはちょうどいい標的なのだ。

 だから、ついて来るなと言ったのに……。

 彼女は、常日頃被った鉄の仮面から少しだけ素顔を覗かせて彼を見やった。不服そうな細身のエースパイロットは、言い訳を封じられて唇を尖らせている。

「すいません……」

 反省などしていないだろう…… が、とりあえず、表面上でも謝罪しただけマシだ。

「以後気をつけるように」

 彼女は、下がっていい、と彼に伝える。誰が見てもわかるほどガックリと肩を落として、彼は、失礼します、と出て行こうとした。

「ああ、ちょっと待て。忘れていた」

 そう引き止められ、すでに背中を向けかけていた彼は彼女に振り返る。ところが、彼女は彼のすぐ間近までやってきていて、すっと手をあげた。

 わ、久しぶりに来る……!

 出会いからして二発の平手打ちだったのだ。衝撃を覚悟して目をつぶった彼は、しかし、予想外の感触を受けて、切れ長の目を丸くする。

 彼女の細い指はそっと彼の頬に当てられ、その形の良い唇は彼のもとに運ばれていた。触れるか触れないか、微かなキス。

「へ……」

 呆気にとられ、次に胸に溢れる想いのままに抱きしめようとしたとき、彼女はふいっと身を引いた。

 ええ!

 もう終わり?

 お預けを食らった犬のような表情をしている彼に、彼女はふっと笑って見せた。

「あまり、心配をさせるな」

「り、了解……!」

 と彼は答えたものの、物足りなくてぐずぐしていたせいで、「用が済んだら、さっさと退室しろ」とどやされるハメになった。

 まったく…… すぐ調子に乗る。

 パトリックを追い出した後、椅子に深く腰掛けたカティは思案を巡らす。ひとまず、当事者への叱責という建前は済ませておいた。あとは彼らを守るために……。

「一言、釘は刺しておかなければな」

 リントの無策のせいで、こちらの手駒を浪費されては敵わない。彼女はデスクのコンソールを操ってリントを呼び出すと、報告という名目の異なる戦いに出向いた。

 一方、パトリックは一般兵用の休憩室へと歩きながら、ひとり神妙に考え込む。今、呼び出されたのは…… つまり?

「おい、さすがに絞られたか?」

「大佐にケツでも蹴られたんじゃないか」

 真顔で現れたりしたものだから、先にくつろいでいたパイロットたちがおもしろがって彼をかららう。

 いや、違う。彼はぱっと顔を上げて、同輩たちに言い放つ。

「心配だから危険なマネは控えろってさ」

 あーあ。

 仲間たちは一斉に両手を上げて、降参のポーズを取った。パトリックのポジティブ・シンキングはさんざん聞かされている。懲りないからこそ、鉄の女ことカティ・マネキンを何年も追いかけられるのだろうが。

「わかったわかった」

「結婚式には呼んでくれ」

 勝ち目もないのに、よく頑張るよ、と彼らは笑った。

 なんだよ、わかってねえな。

 信じていない様子を見て彼は憮然とし…… ま、でも、どうでもいいや。そんなこと。

 彼はすぐにさきほどの瞬間に心を戻して、そっと唇に親指を当てる。

 白い肌、艶やかな黒い髪、思慮深げな淡い紫の瞳、可憐な唇…… そのすべてが目前にあった。彼の愛する戦術予報士。

 任務を終えて、再び彼女をその胸にかき抱く瞬間のことを想像し、彼はにやにやと幸せな笑いを零した。


 
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